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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
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第90話 再会

 瓦礫を押し上げて、俺は外へと出た。

 まさか階層全体が抜けるとは思わなかったが、幾つもの穴が空いていたために、抜けやすかったのだろう。


(さっきの怪物……)


 取り逃した獲物は大きすぎたのだが、幾つかの謎が解明された気がする。

 まず、行方不明になってた冒険者達は全員がさっきのモンスターに取り込まれて、霊魂が大量に内包されている状態だった。

 それも呪詛で無理矢理くっ付けてあるような、そんな感じがした。


(霊王眼で見た限りじゃあ、あれはもう助からんな)


 攫われた奴等に関しては諦めるしかない。

 あれが何なのかは分からないが、冒険者を取り込んだ事で厄介な能力を身に付けたのを確認した。

 職業は霊魂に刻まれているため、魔神も、それから今回の元凶も、霊魂を取り込んだ事で職業の能力や異能の類いを幾つか使えるようになっていた。

 透明化もそのうちの一つなのだろう。


「ケホッケホッ……ご、ご主人様、ご無事でしたか」

「あぁ、そっちも無事で何よりだ。それよりリノ達は何処だ?」

「我はここだ」

「アタシも」


 噂をすれば何とやら、近くの瓦礫から二人が土塗れとなって出てきた。

 後はダイガルト一人なのだが……


「ダイトのおっさん、無事か?」

「な、何とかな」


 足だけ出てたので、それを引っ張り上げるとダイガルトが発掘された。

 どうやら腰を痛めてしまったらしく、腰を摩って苦渋を舐めたような顔をしていた。


「まさか階層が抜けるとは思わなかった」

「そりゃ、お前さん等があんな攻撃するからだろうが」


 それだけ俺達の攻撃が迷宮という異物に影響を与えてしまったという事だ。

 しかし、あの時攻撃していなければ俺達は全滅も有り得たのだ。

 だから後悔はしていない。


「さて、これからどうするよ?」

「お前……計画性って言葉、知ってっか?」


 何故かダイガルトに呆れられてしまうのだが、俺だってそれくらい知っている。

 行き当たりばったりってのは否定しないが、リノの予知が先に当たってしまったのだから、それは仕方ないのだと割り切って欲しいものだ。


「まぁお前さんに常識を説いても意味なんざねぇわな」

「おい、それどういう意味だよ?」

「そのまんまだよ。そんな事より、まずはエレンと合流するとして……この状況をどうするか、だな」


 周囲を見渡してみると、階層が抜けた事によってモンスターも落ちてきたようで、そのモンスター共に囲まれてしまっていた。

 どうするか、なんて決まってる。

 戦うに限るだろう。


「『錬成アルター』」


 戦闘欲が再び込み上げてきて、自分でも抑えきれないくらいに武器を構える。

 全員が今の状況に戸惑いを見せていたので、俺は三人へと魔法の言葉を掛ける。


「リノ、ユスティ、セラ、お前等も戦え。報酬はそれぞれ倒した量と質から考えて、俺から与えるとしよう。そこは要相談だ」

「「ホント(ですか)!?」」


 反応を示したのはユスティとセラ、俺から与えるという部分に魅力を感じたようだ。

 二人共、ヤル気を出していた。

 武器を構え、拳を鳴らし、二人は俺よりも先に勇敢にモンスターへと立ち向かっていったのだが、リノだけが呆然と突っ立っていた。


「リノも戦え」

「あ、いや、その……」


 何かを言い出そうとして、そして何故か言い淀んでいる。

 何かを伝えたそうにしているのは、まぁ見ていて分かるのだが、その伝えようとしている内容が分からない以上、どうしようもない。

 リノは口下手だからなぁ。

 今は戦いに臨むのを優先するとして、敵へと突っ込もうとする。


「そこの者達よ! 私も助太刀しよう!!」


 透き通るような声が聞こえてきたと思った瞬間、一陣の風が吹き荒れて、金の長髪を靡かせた美女が俺の横を通り抜けていく。

 右目に眼帯をしており、手には白い剣、軽装備らしい俊敏な動きでモンスターを翻弄する。

 余計なお世話だと思いながらも、俺もその美女剣士と並ぶように二刀を振るって、美女の背後から迫っていたモンスターを斬り裂いた。


「ほぅ、その剣捌き、中々やるようではないか、少年」


 この女との共闘は御免被りたいところなのだが、選り好みしている場合ではないのは目の前の惨状を見れば分かるものだ。

 だからこそ辛酸を舐める思いを胸に仕舞い、俺はその女との共闘のために背中を合わせる。


「誰だ、アンタ?」


 彼女の事を知っているのだが、俺は敢えて彼女に名前を聞く。


「私はエレン=スプライト。君は?」


 他人に名前を聞いてくるとは、正直意外だった。

 勇者パーティー時代、勇者であるアルバートにすら名前に興味を抱いてなかった。

 だから名前を聞いてくる言葉に、俺は少し戸惑い、それから苛立ちを覚えた。

 どうせすぐ忘れる癖に名前を聞いてくるとは、失礼にも程がある、そう思った時にはすでに俺は口から冷たい言葉が飛び出ていた。


「アンタ、雑魚の名前なんざ一々覚えてねぇだろ。だからアンタに名乗る名は無い」

「……」


 前は彼女の方が背が高かったが、今では俺の方が背が高いとは、何とも不思議だな。

 こんな風に高飛車な女(エレン=スプライト)と共闘する事になろうとは予想外も良いところだ。


「足引っ張んじゃねぇぞ高飛車女」

「そっちもな」


 俺達は同時に前へと駆け出す。

 剣神と錬金術師では戦闘方法がかなり異なるのだが、俺は二刀で敵を連続で斬り伏せていく。

 魔力と風を纏わせて悉くを一撃で真っ二つにする俺に対して、エレンは俺と違って電撃のみを纏わせて一気に攻撃を繰り出していく。

 さながら『鳴雷』の異名の如く……


「『秘剣・万雷迅(ヨロズノカミ)』」


 幾つもの雷光が剣に纏わり付き、それを振るう。

 洗練とされた動きにはキレがあり、目でも追うのがやっとなくらいの素早さだ。

 纏わる電力はセラの『竜火砲(ドラグカノン)』と同等のエネルギーが備わっているため、それだけの力が全て敵へと発揮される。

 素晴らしい力、やはり神クラスの職業というのは凄まじいものだな。


「『水蛟龍(イズミオロチ)』」


 目の前から迫ってくる七体のモンスターに対して、足元から生み出した水が蛇龍の形を模して、大顎を開いた。

 そして鋭い高水圧の牙がモンスターの身体へと喰い込んで咀嚼し、どんどんと食い散らかしてモンスターを倒していった。


「そ、それは……何だ?」

「前見ろ高飛車女」


 俺の戦い方を見ながらエレンも剣を振るってモンスターを倒していた。

 器用な戦い方をしている。

 流石は剣神、しかし戦闘中に余所見とは何処までも舐めきっていて、戦闘の邪魔でしかない。

 そもそも、こんな奴等相手に剣神の手なんざ借りるつもりも無ければ助太刀してくれだなんて誰も言ってない、単なるお節介にはうんざりだ。


「『錬成アルター』」


 精霊術も無限に放てる訳ではないので、錬金術で鎖を形成して敵を殲滅する。

 有刺鉄線のように鎖に棘を付けて振り回しているため、途轍もない凶器となっている。

 人間に使えば身体に突き刺さる。

 イメージ次第でどんな風にも変わる万能な能力、それを巧みに利用して敵を全て叩く。


「くたばれ」


 目の前にいた最後のモンスターに向かって鎖を振るい、上半身と下半身がお別れする。

 鎖に血がこびり着いているが、それを水で洗い落として腕輪へと戻した。


(どうやらユスティ達も終わったらしいな)


 百匹以上いたモンスター達も、ユスティとセラの奮闘によって倒し切ったようだ。


「ご主人様! 沢山倒しましたよ!」

「レイ! ご褒美ちょうだい!」


 モンスターの魔石を持って俺のところへと持ってくるのだが、まるで二人が忠犬のように見えてしまった。

 耳と角が犬耳に見える。

 いや、ユスティは狼だから犬科の獣人か……


「ご褒美なら後で聞いてやるよ。それより鳴雷、アンタ何故こんなところにいる?」


 刃を向けて、警戒する。

 助けてくれた、普通はそう取れるのだが、残念ながら彼女は人助けなんて高尚な事はしない。

 その性格、つまり弱者に手を差し伸べるような聖人君子ではない。

 だから俺は刃を向けている。


「何が目的だ? 金か? 情報か?」

「お、おいレイ――」

「ダイガルトは少し黙ってろ。さぁ答えろ、テメェは何が目的でここにいる?」


 殺気を放ち、彼女の本音を聞く。

 しかし殺気を浴びた瞬間、彼女は俺の首を刎ねようと抜刀した。


「い、いつの間に……」

「テメェ程度の攻撃、防げない方が可笑しいだろ」


 師匠ラナに教えてもらった魔力制御術を駆使し、魔力糸で彼女の動きを雁字搦めに封じ込めた。

 震える剣が糸と擦れてギチギチと音を立てる。

 雷を身体に纏わせて無理矢理に逃げようと藻掻いたため、手元にあった糸のうちの一本を指で弾いて肌に食い込ませる。


「ガッ!?」

「彼女は仲間だ!! 離してやってく――」


 俺の目を見たダイガルトは、言葉を失くした。

 今の俺はただの冷徹な殺人鬼、弾いた弦の上にあるもう一本の糸を動かせば、エレンは比喩表現無しに首が宙を舞うだろう。

 いつでも殺す事ができる。

 抵抗は一切無い。

 殺しに対する感情は何も浮かばないからこそ、俺は化け物だなんて言われてしまうのだろう。

 自分でもそう思う。

 人間のつもりでいたところで、結局はこの有り様だ。


「ご、ご主人様……何だか…その……怖い、です……」


 昔の私怨も含まれているのかもしれないが、今となっては自分の感情が何処にあるのかすら見えないからこそ、こんなにも死んだ目をしているのだろう。

 ユスティの言葉が自身の心臓に突き刺さるも、何も感じられない。

 ただ、その事実が言葉として残るだけ。


「アタシの権能にも何も反応無いから、大丈夫よ」

「それでも、俺にはこの女が信用ならない」


 彼女が人助けをするという行為自体が不自然すぎたからこそ、こうして縛っている。

 腐ってもSランク、殺すつもりで臨まなければ俺が殺されてしまう。

 現に、縛られてる格好は剣を振り抜いた状態だ。


「ダイガルトにとって仲間だったところで、それは指標にはならない。俺にとっては敵か、或いは中立か、そのどっちかだ」

「だが――」

「少し黙ってろ」


 Sランクは誰しもが異常な奴等だ。

 そのため、絶対に油断しない。


「ど、何処かで会った事あるかな、少年?」

「そんな事はどうでも良い、死にたくなけりゃ早く質問に答えろ」


 彼女の身体、精神、魔力、全てを支配するために殺気をより強めていく。

 魔力による支配は、力量差がありすぎると脳に異常を来たして殺してしまいかねない。


「……異変を感じてね、それで宿で休んでいたところだったけど確かめに来たんだ」


 どうやら本当らしいな。

 しかし、確かめに来たという表現も何だか変だ。


「何を確かめに来た?」

「途轍もない気配を二つ感じたからね、それでここに来たって訳さ」

「二つ?」

「一つは失踪事件の犯人……いや、階層喰い(フロアイーター)の魔力を感じ取った」


 彼女は他人の魔力反応を記憶する技術を持っている。

 これは異能ではないのだが、魔力操作で人やモンスターの魔力反応を覚える事ができるそうなのだが、弱い者の魔力は覚える気が無いらしい。

 だから俺の事も知らないのだろう。

 覚える気が無いから。

 それよりも二つのうちの一つが階層喰い(フロアイーター)のものだと彼女が言ったという事は、さっき俺達が遭遇したモンスターは、封印されたやつという事だ。


「もう一つは?」

「少年、君のだ……何処かで感じた事のある魔力だけど、何処かで会ったかな?」


 やはり覚えてないとはな。

 昔のままらしいが、眼帯してるところや行動の不自然さが際立っている。


「さぁな。テメェが覚えてねぇんなら、俺達は会った事は一度も無いんだろうぜ」

「何処かで会った事があるような気もするけど……」


 俺の魔力には情報体とやらが刻まれてない、つまり自然の魔力と同じようなものなのだ。

 こんな特殊な魔力を覚えてないとは些か妙だが、こちとら都合が良い。

 思い出してほしくないが、この状態なら俺が手を加えずとも思い出さないだろう。


「まぁ良いか。それよりダイト、この子達が例の?」

「あぁ、そうだ。黒いのがレイ、青いのがリノの嬢ちゃん、白いのがユスティの嬢ちゃん、赤いのがセラの嬢ちゃんだ」


 色分けするなよと思った。

 とは言っても、髪と瞳の色はこの世界において意外にも重要である。

 例えば俺の場合、忌み子として黒目黒髪が象徴だった。

 ユスティの場合、白髪は幸福の証でもあっただろう。

 そしてセラの場合、焔龍族という炎の象徴が外見として現れているのだと思う。


「レイ? 君はそんな名前だったか?」


 俺の名前は一年前に捨てた。

 だから今はノア、フラバルドではレイグルスと名乗っている。

 しかし、彼女にそんな情報は不要だ。


「名前なんざ何でも良いだろうが。それより、これからどうするかだ。今までに掴んだ情報を洗いざらい教えてもらうぞ、剣神」

「あぁ、分かったよ」


 これ以上、ユスティ達に余計な事を教える訳には……

 元凶のモンスターと遭遇したが、逃げられてしまったから対策を立てる必要がある。

 意識を剣神の持つ情報へと向けて、この場を何とかやり過ごして、俺達は一先ず休息街(ユートピア)の宿へと向かう事にした。





 ダンジョンに潜ったのは初めてだった。

 だから、ダンジョンの中に休息のための街が存在している事に驚きを感じていた。

 が、それも少しの間だけだった。

 次第に驚きも無くなり、虚無感だけが心の中に残ってしまっていた。

 いや、虚無感は心が空っぽを意味する言葉なので、残ってしまった、は表現が変だ。


「ご主人様、だ、大丈夫ですか?」

「あぁ……」


 エレンという女の事を思い出すと、無性に苛立ちが燻りだす。

 心を沈め、俺達は宿を借りる事にしてエレンの泊まっているらしい宿へと入り、チェックインを済ませた。

 どうやら誘拐事件が多発してるため、宿も空いてるようだ。

 そして、宿と併設している飯屋の大テーブルへと移動して話し合いが始まった。


「まず、最初に伝えておきたい事が一つある」

「何だ?」

「ネロ少女を地上へと行かせるために一緒に五十階層へと向かったけど、残念ながら転移ポータルは使えなかった」


 何を伝えてくるのかと思えば……


「だから四十階層の転移ポータルを使わせようとしたって事だろ?」

「五十階層のが使えないと分かったから、一縷の希望に賭けて上へと向かわせたんだ。四十階層のポータルが使えるかは分からなかったけど、下へと向かうよりは生存率はグッと上がる」


 偶然か必然か、俺達との出会いによってエレンの目的の一つが達成された訳だ。


「それから、君達が出会ったであろうモンスターは階層喰い(フロアイーター)だ」

「……エレン、俺ちゃん達が封印したのはもっとデカかったはずだ。サイズも、形も、何もかもが違いすぎてる」


 唯一の目撃者は二人、エレン、それからダイガルトのみである。

 どうやらエレンは何故姿形が変わったのかを知ってるようだ。


「私は偶然にも目撃したんだよ、四十七階層の惨劇をね」

「それって『蒼月』が攫われた事についてだよな? 成る程、リューゼンのおっさんが言ってた『他の団員』ってのはアンタだったって訳だ」

「あぁ、そうだよ。そのモンスターの行動を見た時、私は蒼月誘拐事件の二ヶ月前の事を思い出して逃げてしまった……ずっと、心に残ってるのさ」


 ダイガルトと同じ心的外傷(トラウマ)を抱えているから逃げたとは、彼女にしては少し意外だ。

 その右目も原因の一端なのだろう。

 昔出会った孤高の剣神とは比べ物にならないくらい、彼女は本当に変わった。


(……弱くなったな(・・・・・・)


 俺にも心の傷はある。

 弱かった頃に受けた傷は、強くなった今となっても深く刻まれたままであり、その傷が今後も癒えるとは限らないのだ。

 けど、夢で見た燃える孤児院、あの忌々しい記憶は今後も閉ざしたままだ。


「仲間が溶けた記憶でも蘇ったか?」

「な、何故その事を……そうか、ダイト、君だね?」

「悪りぃな。俺ちゃんもトラウマを抱えちまってな、大の大人二人が情けねぇ話さ」


 確かに、ダイガルトの言う通り情けないかもしれない。

 だがしかし人は完璧にはなれない、だから人は学ぶし、時には傷付き、そして成長する。

 それが人の美しさだ。


「下らない話は置いとこう」

「下らないって……お前さんが先に――」

「それより、アンタはその現場で何を見たんだ?」


 俺から話を振っておきながら、聞いても無駄な話だったので、先に進む。


「『蒼月』が全員食われて、それで身体に顔が浮かび上がって、更に透明化の能力を得た。その上、身体のサイズも変わったのさ」


 辛そうな声を震わせて、彼女は語った。

 大量に浮かんでいた顔は、冒険者を食ったら出てくるらしいが……


「私は階層喰い(フロアイーター)の封印場所を一定期間見回りに来ていたんだ。けど、約五ヶ月前の事だ、何者かが封印の護符を破いて、モンスターを解き放ったんだよ。仲間の一人が死に際に封印する時、私に一つの魔法を固定付与したから、封印が解けたのも逃げたのも知覚できた」

追跡魔法(トレース)の類いか?」

「……君は何でもお見通しらしい。私には奴の居場所がある程度分かっていたのさ」


 だが、だとしたら一つ分からない事がある。

 何故『追跡者の瞳(トレース・アイ)』を持つネロがエレンとパーティーを組んでるのか、それが疑問なのだ。

 彼女が敵の居場所を知ってるなら、ネロは不必要だ。

 ワザワザそれをギルドの要請によって組まされたという事は、彼女は魔法の類いをギルドへは知らせてないという事になる。


(つまり、コイツは知っていながら失踪事件を放置してる事になるが……)


 それだと目的が分からない。

 エレンは何を目的としてダンジョンに潜って、この階層にいるのか、そういう疑問に行き着く。


「お前、何を知ってやがる?」

「……少年、君は本当に凄いな。何でも知っているみたいだね」


 別に何でも知ってる事もないが、彼女が他人を褒める事に驚きを感じてしまう。

 しかしながら、それよりももっと驚きな事や気になる事があるため、彼女の言葉を右耳から左耳へと聞き流して、三つの気になる事を考える。

 一つ、何故エレンは追跡魔法(トレース)の事をギルドに伝えなかったのか。

 一つ、何故彼女はモンスターを放置しているのか。

 一つ、何故彼女の仲間が食われて、ネロ達が食われなかったのか。


(ん? いや、ちょっと待てよ……)


 彼女の言葉を振り返ってみると、気になる事以前に解決しそうな事があった。


(コイツは、『奴の居場所がある程度(・・・・)分かっていた(・・・・・・)』って言ったな。要するに魔法の効力が切れたか、或いは魔法の反応定義が『生存者のみ』だった場合に限る、と)


 『分かる』、ではなく『分かっていた』という過去形で表されている。

 だから彼女は黙っていたという事か。

 伝えても意味が無かったから。

 それに、もしも後者ならば死霊術師が階層喰い(フロアイーター)を操っている可能性が高い。

 いや、十中八九そうだろう。

 仮に前者だとした場合、魔法について俺達に伝える理由も必要性も皆無、だが伝えたとなると後者の可能性が脳裏に浮かぶ。


「もしかして、階層喰い(フロアイーター)ってすでに死んでたりするか?」

「……何故そう思ったのかな?」

「簡単な推論だ。追跡魔法(トレース)は生存している人、或いはモンスターにしか適応されない。アンタの言葉に違和感を感じたんでな、そう思っただけさ」


 どうやら図星らしい。

 固定付与された場合、普通に魔法を解除する事はできないという制約がある。

 普通は約十分くらいしか魔法が持続しない。

 だから固定付与されたという事実が、魔法解除というものではなく、モンスターが死霊術師に操られたという真実を教えてくれた。

 魔法は解除されず、単に反応が無くなっただけ。

 要するに、これで死霊術師の職業を持つ黒幕が背景バックにいるという意味合いを持ち、話に信憑性が増した。

 だが、それでも疑問は幾つも残っている。


「どうやら、ダイトは優秀な助っ人を連れてきてくれたようだ」

「俺ちゃんも驚いてるところだよ」

「君は彼の実力を知らなかったのか?」

「だって、コイツ自分の事、何も話さないしなぁ」


 当たり前だ、他人に自分の事をバラして弱点に繋がったらどうすんだよ。

 それに話す機会なんて無いし、話したくないし。


「少年、君は本当に……何者だ?」

「アンタは俺なんかに眼中無いだろうし、俺が本名名乗ったとこで聞きやしなかったろ。それが答えだ、二度とテメェに名乗る名前なんざねぇよ」


 彼女が選んだ事だからこそ、俺はそれに従っているのである。

 謝ったとしても結局は過去の出来事であるが故、俺としては彼女に興味は無い。

 眼中に無いのだ。


「皮肉だな、昔とは今とでは丸っきり真逆なんだから」

「それは、どういう――」

「別に思い出さなくて良い。もうテメェに眼中なんて無いからな」


 昔のエレンと今の俺は、瞳の冷たさが似ている。

 彼女の冷酷な瞳よりも凍てついた青色の双眸は、彼女を見ない。


「そんな事はどうでも良い。それより、他に情報は無いのかよ?」

「ぇ、ぁ、ぁぁ……分かった、知ってる事は全て話そう」


 気の晴れないような表情で、エレンはポツポツと語り始めた。

 剣神と戦ってみたい気持ちも無くはないが、それでも弱くなった彼女に興味は失せてしまった。

 共闘したところで、彼女は俺にとって役には立たなそうだ。

 そう、冷静に判断を下す。

 そして彼女から詳しい話を聞きながら、俺は階層喰い(フロアイーター)の対策を脳裏に練り始めたのだった。






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