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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
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第89話 会敵

 四十八階層へとやってきた。

 ここでダイガルトの話に出てきた相手、つまり階層喰い(フロアイーター)が封印された場所があると俺達は知っている。

 四十八階層も穴が空いているため、四十九階層の街が小さくだが見える。


(結構な高さだな)


 魔力を練って身体強化しても、この高さだと骨を折ってしまうだろうな。

 落ちたら大怪我では済まない。

 それにこの階層、他とは違って穴が幾つも空いており、何だか嫌な予感がする。

 他とは違う何かがあるような気がしてならないのと、セラが珍しく周囲をキョロキョロしながら真剣な表情で警戒心を露わにしているため、俺も辺りの警戒を怠らずに探知を続けている。


「そんで、どうすんの?」

「どうするって……」

階層喰い(フロアイーター)が封印されたとこに行くのか、それとも行かないのかって事だ」


 トラウマがあるのか、ダイガルトは足が竦んでおり、動けずにいた。

 余程、怖い思いをしたのだろう。

 目の前で仲間が食われたのか、それとも自らの手で殺してしまったのか、或いは……


「とにかく俺は一人でも行かせてもらう。ここまで謎だらけってのも何だかスッキリしないし、どうせ調べる事になるんだろうしな」


 フランシスからの命令でもあるため、この階層で何かしらの手掛かりを得たいと思っていたところだ。

 冒険者の大量失踪事件、少なくともギルドは階層喰い(フロアイーター)の暴走が原因なのだと結論付いているようで、何故そんな結論になったかは知らないが可能性が他にもある以上、ギルドの判断ミスも検討に入れる必要があると思った。

 フランシスも少し疑問に思ってたらしいし。

 だからこそ、俺は疑問の種がどんどんと増えていく気分になった。


「た、助けてくれぇぇぇぇぇ!!」

「「「ッ!?」」」


 誰かの大声が聞こえてきて、全員の意識がそちらへと向いた。

 遠くから逃げるように近付いてくる男が一人、血を流して覚束無い足取りで必死に走っていた。


「た、助けなきゃ!!」


 最初に突っ込んでいこうとしたのは、やはりユスティだった。

 心優しき彼女の行動には目を見張るものがあるが、残念ながら今回は止めなければならない。


「待てユスティ」

「ですが――」

「あの男もモンスターだ」


 その発言に全員が俺とモンスターである男を交互に見ていたが、外見からは分からないだろう。

 俺だって霊王眼が無ければ、モンスターが寄生している事に気付かなかったのだから。

 無意識のうちに脳を侵蝕されていたようで、もう助からないために俺は掌を冒険者らしきモンスターへと向けて、精霊術を行使する。

 あれは彼等には手に負えない相手だ。


「『嵐穿槍(スパイラリア)』」


 腕を中心に渦を巻くような槍が発生し、それが冒険者の胸に向かって射出された。

 風色の渦巻く槍は、冒険者の胸に吸い込まれるよう心臓を穿ち、その勢いが止まる事無く背後に迫っていたモンスターの核を貫いた。

 その二つのモンスターの身体が灰となって、同時にドロップアイテムも落とした。


(つまり冒険者がモンスターにされたって訳、か……後味悪りぃな)


 生命反応が停止したが、冒険者の身体が死滅した事で寄生していた小さなモンスターだけが取り残された。


「キモッ……レイ、これ何よ?」

「脳に寄生して操る、ミステルって名前の寄生型昆虫モンスターだ」


 小さな蟻のような虫であり、翅が付いていて、しかしながら飛ぼうとしても飛べずに藻掻いている。

 だがしかし、ダンジョンのような場所にこんな虫モンスターがいるのかと驚いてしまう。

 生態系が全く異なるからだ。


「ダイトのおっさん、これ、何階層に出るか分かる?」

「いや……こんなモンスター、初めて見た」


 つまり、ダンジョン的にも異常事態(イレギュラー)の連続という訳だ。

 群れる事は無いし、卵を産む時期も決まっているし、それに一匹から出てくる卵の数は一つなので、増える事は無いだろう。

 その虫を潰して、滅殺しておいた。


「……だが、良いのか?」

「何が?」

「冒険者を殺しちまってよぉ。何も殺す事は無かったんじゃないか?」


 ダイガルトの意見は正論に聞こえるだろうけど、この寄生虫を舐めてはいけない。

 コイツは脳を喰い続け、人としての人格をも消し、身体の構造をモンスターと同じにしてしまう大変危険なモンスターである。

 これによって被害を受けた村を、教会連中が隔離して焼き払った、なんて実例もあるくらいだ。


「それだけ危険なんだよ」


 しかもタチの悪い事に、寄生していた人間体が死ぬと身体を放っぽり出して、新しい宿主を探すのだ。

 まさに『見捨てる(ミステル)』である。

 寄生体は何も人間のみならず、モンスターや植物も有り得る。


「コイツに寄生されたら死んだも同然……ってか、もうすでに死んでたよ、この冒険者は」


 生命反応が無かったのだから、もう死んでたし別に俺が殺した訳ではないだろう。

 逆にあのままの方が辛い。

 まぁ、生きてたところで、やる事は変わらなかっただろうが。


「そんな事よりもだ。早く案内してくれよ」

「お、おぉ……」


 階層喰い(フロアイーター)が何処で封印されていたのか、封印が解けた理由は何なのか、そこに答えがある気がする。

 だから案内してもらおうかと思ったのだが、その前にジェイドが話に割り込んできた。


「ちょっと良いか?」

「何だよ」

「すでにそこに行く事が決定、みたいな流れになってるようだが、俺は先に四十九階層に向かうべきだと思う。そこは安全地帯だし、必要な荷物だけ持ってこれば良いだろ?」


 一理ある発言だが、却下だな。

 リノの予知があるため、ここで戦いが起こる可能性も考慮に入れて早めに見ておきたい。

 往復するのは二度手間だからな。


「俺は行く。お前等パーティーがどうするのかは各自で判断しろ」


 パーティーを率いる立場にいるジェイドは、俺達に付いてくるか、それか先に下の階層に向かうのか、どっちにするべきなのか迷っていた。

 これはパーティーメンバー全員の命を危険に晒す行為に等しいからこそ慎重にならざるを得ない。


「まぁ、好きにしろよ。後でダイトのおっさんから情報を聞くって手もあるしな」

「そ、そうだな」


 ジェイドの心は固まったようだ。

 全員に訊ねると、それぞれ答えは決まっていたようで、ここから別行動に移る。

 ジェイド達パーティーは四十九階層へ、俺達はダイガルトの案内に従って封印場所に向かう事になった。


「じゃ、また後で。気を付けてな」

「そっちもな」


 ダイガルトとジェイドが握手していた。

 今生の別れを惜しむようにして抱擁を交わしていたが、絵面的に気持ち悪い……

 ただむさ苦しいだけの光景に吐きそうだ。

 そして彼等の熱い抱擁が終わり、それぞれがそれぞれの道へと歩き出した。





 四十八階層にはモンスターがいないのかなと思ったが、結構な数のモンスターがいて、封印場所に到着するのに二時間も時間を浪費してしまった。

 この階層に密集していたため、それらを倒すのに時間を掛けすぎたようだ。


(この四十階層域でモンスターが発生したのは、四十二階層のフレアレオ、それからこの階層のみ、か……)


 四十一階層にも魚とかのモンスターはいたのだが、凶暴性は無かった。

 しかし、この階層は他とは違う。

 瘴気に満ち溢れたモンスターばかりが棲息しているようなので、それ等を一気に殲滅していった結果、背後を振り返ると赤黒い魔石が大量に転がっていた。


「どの魔石も瘴気塗れね」


 しゃがんで魔石を拾っていたセラがボヤいた。

 俺も拾って確かめるが、何かを埋め込まれたかのように呪詛の塊、瘴気が蠢いている。

 禍々しい瘴気を手に持つが、この魔石に細工されている事は見れば分かる。


「問題なのは、何で魔石に瘴気が詰め込まれてるのかって事だ」

「どういう事?」

「言い換えれば、これは自然には起こり得ないって事さ」


 要するに人為的に引き起こされた事件という訳であり、ギルドの結論とは食い違う部分が存在するのだ。


「呪術師の仕業だろうな。だが……」


 今までは死霊術師だと思っていた犯人が、今度は呪術師だった?

 フレアレオも同じように何かの実験(・・・・・)で偶発的にできたものだったとしたら、何故四十二階層にいたのかという疑問点に打ち当たる。

 他にも謎が多い事件だ。

 ここには幾つもの謎が鏤められているような気がするからこそ、俺は先へと進む。


「リノ、何してんだ?」


 リノへと視線を向けると、彼女はジッと魔石を見つめていた。


「いや……この魔石、何だか変だ」

「あ? 瘴気を放ってるからだろ?」


 何を当たり前な事を。


「そうではない、我が気になってる事は別だ」

「別?」

「うむ。この魔石……よく見ると文字が刻まれているようなのだ」


 即座に魔石を見ると、呪詛で文字が刻まれていた。

 それが魔法陣の役割を果たしているようで、円形に渦巻いている。

 だが、これが何を意味しているのかはさっぱり。

 俺は専門職ではないので、こうした時に魔法職がいれば良かったが、高望みだな。


「これ、全ての魔石に同じ配列で文字が並んでますね」


 三つ手に取って見比べていたユスティが、俺へと魔石を持ってくる。

 俺の手にしているのと比べても、全て同じ記号で配列されてるようだった。


(注意深く見ないと分からんな)


 何せどれも暗い階層で見つかったものであり、赤黒い色合いをしているのだから。

 気付かないのが普通だが、やはり獣人族は夜目も利くらしい。

 全ての魔石を回収し、俺はさっきから黙っていたダイガルトへと話し掛ける。


「大丈夫か、アンタ?」

「あ、あぁ……」


 心的外傷(トラウマ)による痙攣が見られ、冷や汗が止まらないらしい。

 当時、彼の仲間が大勢喰われたらしく、その時の記憶が脳裏に焼き付いてしまったという事だろうが、それでも俺達は進まねばならない。

 いつまでも怯えてはいられないのだ。


「なぁ、聞かせてほしいんだが……階層喰い(フロアイーター)の擬態した未開拓領域に入ったんだろ? 前も聞いたが、もう少し詳しく教えてくれ」


 そこに事件の謎の一部が隠されているように思える。

 しかしながら、怯えたように何かを噤むように口を閉ざしていた。

 心的外傷(トラウマ)は簡単には取り除けないからこそ、俺が何かを口にしたところで、そもそも言葉に心が籠ってないし効果は薄いだろう。

 人の心は移ろいやすい。

 人の心は傷付きやすい。

 人の心は染まりやすい。

 恐怖の色に染まった感情が、ダイガルト=コナーという男を苦しめる。


「あ、あの日……俺達はダンジョンを攻略していたんだ」

「あの日というのは、半年前の出来事だよな。確か左腕を喰われたっていう」

「そうだ」


 左腕を喰われたのは知っている。

 しかし、階層喰い(フロアイーター)というモンスターは人を何十人と飲み込めるだけの大きさを持っている。

 腕だけで済んだという事に疑問、違和感を感じていた。


「腕を喰われたって表現は少し違うんだ」

「は? 一体どういう事だ?」


 唐突に話し始めたのは、腕を喰われた表現について。

 だからこそ面食らって立ち止まってしまった。

 腕を喰われたという表現からは、モンスターがダイガルトの腕を持っていったと連想できるのだが、しかしながら話を聞く限りでは違うらしい。


階層喰い(フロアイーター)に誘われた俺達は未開拓領域に擬態したモンスターの腹の中に入った。そこには大量の小型モンスターが巣を作ってたのさ」

「それで、戦ったんだろ?」

「あぁ、物凄く強かったし足場や地形的な不利から、十数人いたパーティーも全員が溶けちまって、俺とエレンだけが助かったんだ」


 溶けた?


「腐蝕液ってやつだ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に浮かんだのは幾つかのモンスターだった。

 毒液を持つモンスターは結構いるが、腐蝕液なんて特殊な液体を撒き散らすモンスターはそうそういない。

 だからこそ、ダンジョンという環境や地理的な要素、幾つもの情報を合わせて、聞いてみた。


「もしかして、イワキリトカゲ、か?」

「……流石だな」


 イワキリトカゲ、これは岩の中に巣穴を作って生活する小さなトカゲの事だ。

 ヤモリが一番近いだろうか。

 縄張りに入られると周囲に腐蝕液を撒き散らして敵対するモンスターなのだが、岩切り(イワキリ)というのは、腐蝕液を光線のように飛ばして岩を切ってしまった、という説から付けられたのだそうだ。

 実際には液体を散布するので、切ったりはできない。


(確か仮説のイワキリトカゲは亜種だったような……)


 灰色の表皮を持ち、湿った環境に適応して岩に張り付いている事が多い不思議なモンスターの一種だ。

 こういったモンスターの中にモンスターが巣食っている状態を、片利共生と言う。

 この場合、イワキリトカゲが階層喰い(フロアイーター)を棲み処としているため、片利共生の中の『巣穴共生』というタイプなのだろう。

 さっき見かけたミステルというモンスターは、寄生という共生現象の一種で生きている。

 環境に適応するため、生きるため、そうやってモンスターは共存、共生のサイクルを生み出して今日までに生き延びてきた。


「岩に張り付いてたのに俺達は気付かなかった。だから不意打ちで腐蝕液を喰らっちまって、エレンは片目を失ったのさ」

「成る程。だが、腕は?」

「腕は死骸に喰われたんだ。俺ちゃん達が乱戦状態となってる時に不意を突かれたんだよ……あの時、死骸だったとしても人に刃を突き立てる勇気が無かった。だから躊躇して腕を食い千切られて持ってかれたのさ」


 人は常識を持つ生き物であるが故に、『殺す』という行為に少なからず抵抗を覚える。

 俺のような場合は例外としても、急展開の最中に他人を殺さなければならない状況が来てしまったら、誰だって躊躇してしまうだろう。

 その一瞬の隙を突かれて、怪物のような死骸に腕を噛まれて、食い千切られた。

 表現にそこまで違いは無いようだ。

 喰われたか、千切られたか、それだけだ。


万能薬エリクサーとかは持ってなかったのか?」

「今や創れる奴なんて殆どいないからな、数が出回らないんだよ」


 グラットポートでは、勇者の国の奴等が四十三億もの大金で落札した。

 四十三億もの大金をドブに捨てたようなものだ。

 俺なら材料さえあれば即座に創れるし、錬金術なんて能力があるので本当は必要すら無い。


「死骸全部、モンスターみたいな四足歩行で攻撃してきて流石にビックリしたぜ」

「へぇ」

「それに……出口を閉じられて逃げ場は無かった」


 袋小路に誘い込まれて、そして彼等は出口さえも見失ってしまった。

 その結果が大量の死、それから腕と目の損失、彼としてはやりきれない思いだろう。


「心中察するよ」


 詳しい話を聞きたかったのは、コイツ等から何か情報を得られるかと思ったのだが、残念ながら大した情報は得られなかったようだ。

 しかし、もしもイワキリトカゲがいれば、そこは階層喰い(フロアイーター)の腹の中だという情報は有益だ。

 一つの指標となるのだから、もしも迷った時に見つけたら俺の錬成で……


(そう言えば魔石が無いんだっけか)


 果たして俺の錬成が通用するのだろうかと一瞬不安が芽生えるが、それでも強力な能力であるのは間違いないし、大丈夫か。


「な、何で……」

「ん?」


 歩いていると目的地が見えてきたようだ。

 誰にも入れないよう地面に魔法陣が刻まれているのだが、その魔法陣が欠けており、効力が完全に失われているようだった。

 それに護符が壁に貼られているのだが、その壁の隣が崩れて空洞ができており、その護符は破られてる。

 更に加えて、モンスターが一定範囲から近寄ってこないため、薬品か何かを撒かれてるようだった。


「待って」


 と、セラに頬を抓られて立ち止まる。

 権能が反応でもしたのか、バックパックから降りて警戒心を露わにする。


「ダイト!! そっち行ったら死ぬわよ!!」

「ど、どういう――」


 その時、迷宮の壁に亀裂が入った。

 亀裂が天井まで伝わっていき、壁がどんどんと崩れていった。

 そして、その奥から巨大な何かが出現した。


『あぁぁ……ぁああぁぁあぁぁぁああぁ』


 フォルムは……何だろう、形容し難いものだ。

 元となってるのは恐らくドラゴンで、そのドラゴンの身体には多くの人間の顔が浮かび上がっている。

 あ〜あ〜言う唸り声は重複しており、その浮かんでる顔達が発していた。

 目や鼻といった器官は沢山あって、本体の顔は龍のようで、重たい尻尾や翼は非常に大きい。

 翼は人間の骨が集約したような歪な形となっているため、一瞬で目の前のモンスターが今回の冒険者失踪事件の元凶だと分かった。

 二本の角も、人間の骨が歪に繋がったような形をして、冒険者を取り込んで無理矢理繋げたらしい。

 色は灰色、ワイバーンのような翼竜タイプで、俺達を狙っている。


「な、何だこ――うおっ!?」


 ダイガルトの反応は尤もだが、俺は魔力糸を結び付けた針を飛ばしてダイガルトの服へと引っ掛け、一気に後ろへと引っ張った。

 そのお陰で、モンスターの身体から伸びる触手から逃れられた。

 しかし逃れられたは良いが、攻撃回避に対して敵が取った行動は、俺達を翻弄するものだった。


『あぁああぁ……』

「き、消えただと!?」

「落ち着け、ただの透明化(ステルス)だ。これで、どうやって攫ってるのかは分かったな」

「んな事言ってる場合かよ!!」


 確かに、普通ならば何もできずに攫われてしまうところだが、未来予知に感知系権能、幸運の異能を持った彼女達なら狙われても問題は無い。

 避けられるだろうしな。

 それよりも問題なのはダイガルトだ。

 俺は霊王眼が使えるために今も普通に見えてるが、あれにも瘴気が纏わり付いている。


(いや……あれが瘴気の元、だな)


 天井に引っ付いたり、壁を歩いたりしている。

 そして透明化能力、捕食、穴を掘るような能力も持っているだろう。


「右に避けろダイガルト!!」

「ッ!!」


 俺の指示に直感的に従ったのだろうダイガルトは、右方向へと転がって間一髪避けた。

 一瞬前までいた場所が抉れ、迷宮の地面を噛み砕いたのを見た。

 そして透明化のまま腕をグニャグニャと触手のようにして伸ばし、今度は俺目掛けて飛んできたため、地面を瞬間錬成してガードする。


「何なんだ、あれ?」

「おいどうする!?」

「だから落ち着けって。情報的にあれが今回の元凶だろうしな、ここで倒せるなら倒しておこう」


 その方が俺としても都合が良い。


「『錬成アルター』」


 二刀を形成し、突っ込む。


「フッ!!」


 魔力を纏わせて上から巨体を斬り裂いたのだが、二つに割れた個体がそれぞれ独立し、二体となった。

 分裂した?

 そう思った時、スライムのようにウネウネと動いて二体が一体へと混ざり合った。


「斬撃は無理か……」


 ならば魔法でと思ったんだが、俺は魔法が使えないので精霊術で代用する。

 体内に蓄電していたエネルギーも使って大きな一撃を浴びせる。


「『霹光靂(ヘッコウレキ)』」


 白金の雷撃が刹那の時間を縫って、化け物の身体を大きく貫いた。

 光が辺りに広がり、視界が真っ白となった。


『ぁぁああぁぁぁあぁ!!?』


 痛そうにしていた身体は焼け焦げて再生が遅れているようだった。

 しかし反動によって右腕の神経回路が千切れた。

 激痛が走るが、今現在、魔神との戦闘に感じた時のように第六感が危険だと伝えてくる。

 どうやら俺の雷は効いているようだ。

 超回復で神経回路が繋がり、腕の機能も正常に戻った。

 因果錬成と磁力操作も加えた特別な雷なので、そうそう防いだりはできない。


(消えてるのに何で攻撃できるのか、ってところか)


 慌ててるように見えるのだ。

 まるで感情があるような……


「ノア殿!!」

『あぁあぁぁあ!!』


 魔力を帯びた咆哮を直に浴びてしまった。

 魔力咆哮(ハウリング)という能力は、魔力操作に長けたモンスターでなければ使えないはずだ。


(まさか使えるとは……『錬成アルター』)


 地面を錬成して、大量の棘を生み出した。

 右目の開眼によって錬成速度も上昇していたため、モンスターの下から棘で突き刺した。

 悲鳴を上げるように慟哭し、身体がドロドロとなって逃げる体勢に入っていた。


「セラ!!」

「任せなさい!!」


 彼女が上空へと飛び上がったところで、大きく息を吸い始める。

 肺に溜めた空気を燃やして、彼女はエネルギーの砲弾を放つ。


「『竜火砲(ドラグカノン)』」


 口元に強大なエネルギーが渦巻いて、超火力な一撃を発射した。

 凄まじいエネルギーの熱波がモンスターに直撃する。

 しかし、それでも逃げようとしていたために殺そうと迫るのだが、幸か不幸か、俺達の攻撃に耐え切れなかった四十八階層が、亀裂を更に広げていき、地面も大きく罅割れていく。


「テメェ等!! ここから逃げ――」


 足場が崩れてしまい、全員が四十九階層へと落ちる。

 分厚い階層が大きな穴を開け、瓦礫の山と共に俺達は不本意な形で下の世界へと落下していく。

 そして不気味なモンスターは何処かへと逃げていった。

 空を飛ぼうにも多くの瓦礫が降り注いでおり、更に魔力が不安定なせいで影が動かせない。


(クソッ……)


 元凶が見れたが、倒しきれなかった。

 再生持ちとは、何処までも魔神を彷彿とさせてしまう。

 分裂や再生能力、他にも色々と能力も持っていそうだ。

 このままでは俺達まで喰われてしまいそうだと、そう思いながら俺達五人は四十九階層へと突入した。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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