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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
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第88.5話 憩いの夜

 お風呂という文化が、東の国にあるとレイから聞いた。

 確か獣王国の文化だと言ってたような気がする。

 ともかく今、アタシ達の目の前にはレイが地面を錬成して創った人工的な温泉が広がっており、身体を洗い、髪を洗い、綺麗になったところで湯船へと浸かって、疲れを癒していく。


「っはぁ……染み渡るわぁ」


 肩までお湯に浸かる。

 温もりに包まれて一気に身体が癒されていき、疲れも吹き飛んでいくようだった。

 温かい、これが温泉……

 ダンジョンに入ってから創ってもらってたけど、これは病みつきになる心地良さであり、ダンジョン内でも清潔感を保てるとは正直嬉しかった。

 各地を旅してた時よりも快適に過ごせている。


「セラ殿、中年臭いぞ」


 隣で寛ぐのは、リノ。

 けど、普段ポニーテールにしてるためなのか、髪を下ろしてるから雰囲気が少し違う。

 綺麗な素肌をタオルで隠して、彼女も湯船に浸かる。


「あら、良いじゃない。だって気持ち良いんだもん」


 今は女子の時間帯となっているため、アタシはタオルを身体に巻いて風呂に入っていた。

 女性六人でも入れるよう結構な広さで作ってくれたし、お湯もレイの精霊術なので使いたい放題なのだとか。

 温かい証拠に、湯気で視界が物凄く悪い。


「流石はご主人様ですね……失礼します」


 後ろから髪をアップにしたユスティが湯船へと足を静かに入れる。

 何というか、この中で一番淑女に相応しい気がする。

 肌も白く、肩口や耳が赤くなっている。


(獣人って耳四つあるのよねぇ……初めて見た時はホントに驚いたし)


 髪を掻き上げて、人族と同じような耳へと引っ掛ける。

 獣人としての耳+人間の普通の耳、これはそれぞれ使い分けているそうで、普段は人族の耳を使っているそうなのだが、獣人耳は遠くの音を聞いたり、高い音を聞いたりできるらしい。

 レイ曰く、もすきーとーん、だったかしら?

 そういった高周波の音を聞き分けて認識したりするのだと言っていた。

 何にしても、色っぽい彼女へと近付いていく。


「やっぱり綺麗な肌ね」

「ふぇ!? せ、セラしゃん!?」


 頬擦りしてみると、顔を真っ赤にして照れていた。

 か、可愛い……

 綺麗な青と翡翠色の瞳が潤んでいて、女のアタシでもドキッとさせられてしまった。

 これが本物の女の子、なのかもしれない。


「ひゃぅ!?」


 指で背中をつつ〜っとなぞってみると、彼女が可愛らしい悲鳴を上げた。

 その声に悪戯心が疼いてきた。

 お姉さん、もっとユスティに悪戯したくなってきちゃったなぁ。


「うひゃ! しぇ、セラしゃん、そ、その、止め――ひゃん!?」

「嫌よ。弄り甲斐ある身体をもっとアタシに見せなさい!」


 うへへへ、なんて変態親父みたいな声が自分の口から出ているとは驚きである。

 しかし、目の前に綺麗な肌があるのに触らないのか、それは否である!

 女子だからこそ、ギリギリ許され――


「許されないわよ!」

「ゲフッ……」


 誰かに後ろからチョップされてしまい、水面に顔を沈ませてしまった。

 頭が少し痛かった。


「な、何すんのよ!?」

「いや、それはこっちの台詞よ。同胞に何してんのよ……ユスティ、大丈夫?」

「ら、ライザさん、ありがとうございます」


 ライザがアタシの頭を叩いたようで、そのチョップが何処か本気だったような気がする。

 冗談のつもりだったのに。


「龍神族ってもっとずっと清廉で高潔なんだって思ってたけど、貴方は真逆ね」

「確かにそうだな」

「リノまで酷いわね……」


 アタシの事、何だと思ってるのかしら?


「何してんだい?」

「し、しし失礼しますぅぅぅ……」


 ここでペコラとガルティの二人が湯船へと入ってきた。

 片方は大きな胸に肉付きの良い肢体を堂々と晒し、もう片方は怯えながら大きな身体の後ろに隠れるようにして入ってくるが、二人共肌が綺麗だった。

 潤ってる。

 しかし、ガルティの胸辺りから右脇腹まで剣で切り裂かれたような痕が見え、ペコラに至っては腕の傷が少し残っていた。

 どうやらレイは、完璧には治さなかったらしい。

 全員で入ったのは今日が初めてで、普通は交代で入ってるために、ガルティの傷は初めて見たのだ。


「ガルティ、その傷は?」


 好奇心に負けて、ついつい聞いてしまう。

 しかし嫌そうな顔をせず、彼女は教えてくれた。


「これかい? 昔、盗賊団との抗争中に受けた傷でね、血が止まんないもんだから、ライザが慌てふためいて面白かったって思い出があるねぇ」

「ちょっ――止めてよね……恥ずかしいじゃない」


 その盗賊団との抗争について詳しく話してくれた。

 数年前、ギルドの依頼で風の軌跡が森の盗賊団のアジトへと潜入して戦う事になったらしく、戦いの最中に敵の剣をモロに受けてしまったのだとか。

 その盗賊団が闇ギルドに加盟していたそうで、抗争によって多くの被害が出たのだとか。


「特殊依頼だったからねぇ。その時にライザと出会ったのさ」

「まぁ、あの時はソロで冒険してたし、気が合うのは貴方達だけだったから、心配もするわよ」


 頬が赤くなっているライザだが、それは照れているのか、はたまたお風呂に入っているからなのか、それは言うまでもない事だろう。

 二人の出会い、共闘、そして冒険、その話は女子がするようなものでもないけど、それでも聞いていて面白い。


「セラはどうなのさ?」

「アタシ?」

「あぁ、世界を回ったんだろう? だったらアタイ達にも聞かせてくれよ」


 酒の肴にしたいと言ってるように聞こえるが、アタシの旅は話せば物凄く長くなり、語り尽くすには一日二日では足りないだろう。

 だからこそ、どうしようかと迷ってしまう。

 全員上せてしまうだろうし、それでも聞きたそうにしている五人に、アタシは自分がどんな冒険をしてきたのかを話した。


「色んな場所を旅したわね。一言では絶対に語れないだけの経験があったわ」

「何処を旅したんですか?」

「そうねぇ……有名なところだと、オーラッド諸島[水都ウルグニア]とか、モルド遺跡、エルシード聖樹国、その周囲にあるリュグルシア神樹海、それから飛空城ヴィッツ・ロアナとかかしら」


 世界は広い。

 このジートレア大陸を含む東西南北の四大陸よりも向こう側に、まだまだ世界が広がっているからこそアタシは各地を旅してきた。

 謂わば世界一周旅行、みたいなのだろうか。

 しかし、全員が一番驚いていたのは、アタシが飛空城に行った事らしい。


「実在したのだな……」

「幻だとばかり思ってました」


 リノもユスティも半信半疑な様子だったけど、実際本当の事だ。

 飛空城ヴィッツ・ロアナ、大昔にいた魔導師の一人が創った反重力魔法(アンチ・グラビティ)によって、世界の何処かを充ても無く飛んでいる巨大な城の事だが、実際に見た者は殆どいない。

 理由としては主に三つ、一つは隠蔽魔法で隠されているという事。

 一つは風に乗って飛んでいるため、地図に載ってないという事。

 一つは遥か上空に位置しているという事だ。


「上空数千メートルもあるから、普通は見つからないわよ」

「ど、どどどうやって、そ、その、見つけたんです?」

「アタシの権能でね、直感的に見つけたの」


 アタシには『蒼穹へ響く波動エターナル・エア・クロシェット』という感知系権能があるから、こっちに行くと良い事があると、何となく分かるのだ。

 だから、他の人には参考にならない方法なのだ。

 この権能にはいつも助けられてきた。

 他の権能が封印されている今では、できる事が限られているのだが、それでも今までやってこれた。


「他にもドワーフのいる地下炭鉱都市カラッタイト、花の咲き乱れるレギウー高原、その先にある標高一万メートル近くあるカルナ霊氷山、面白い体験ばかりできたわ」

「カラッタイトって、あの有名なドワーフの故郷ですよね?」

「えぇ、友人の伝で入れたの」


 そう言えば彼女、元気にしてるかしら?

 もしも時間があれば行ってみたいものだけど、レイが何処に行くかで行き先も変わっちゃうし……


「カルナ霊氷山って確か、神獣が出るところじゃなかったかしら?」

「ライザの言う通り、神獣がいるわよ」


 神獣とは、神が創り出したとされる聖なる力を持った動物の化身らしい。

 色々いるけど、その霊氷山にいたのは鳥の神獣だった。

 北の氷山であり、標高が一万メートルにも達する世界最高峰を誇る巨大な連山となっており、道も険しくて、登山にはかなりの危険があるのだが、その頂上から見る朝日はとても綺麗だった。


「皆も今度行ってみたら?」

「行ける訳無いじゃないか。アタイ等には恐らく無理だね」


 アタシは空を飛んで頂上まで行ったので登山した訳ではないのだが、ガルティの言葉は概ね正しい。

 普通の人間には攻略は不可能である。

 途中には大きな穴が空いてたりするし、それを、くればす、って言うらしいのをレイが教えてくれた。

 そのくればすに落ちたら、助からない可能性もあって危険なのだと。


「ライザとかユスティなら行けるんじゃない?」

「まぁ、雪国育ちの私達なら寒さはどうとでもなるけど、流石に登山になると色々と危険もあるし、難しいんじゃないかしら」


 獣人の身体能力があれば行けるんじゃないかって思ったんだけど……


「色々と冒険してきたのだな」

「そうねぇ……本当に色々あったわね」


 全てが懐かしい記憶として刻まれており、出会い、別れを繰り返しながら、今も旅の延長線上にいる。

 旅をするならば、楽しまなきゃ損だ。

 そして、これはアタシの矜持でもある。


「何があっても楽しむ、そう……決めたからね」

「セラさん?」

「はぁ、大分あったまっちゃった。アタシはそろそろ出るわね」


 いつまでも入っていたいけど、明日からは危険地帯へと向かう事になるのだ。

 温まった身体を冷ますために湯船から出て、脱衣所へと向かう。

 そう、楽しむと決めたのだ。

 それがアタシの旅をする上での決まり事、この目で見て、この耳で聞いて、そしてこの身体で感じて、アタシは遠く果てなき旅をするのだ。


(フェルン、見てるかしら。アンタの言った通りになったわよ……やっと見つけたの、アタシを導いてくれる運命の人が)


 だから、もう少しだけ待っててね。

 どんなに苦しくても、どんなに辛くても、アタシは一人でも平気だから……





 風呂上がりに飲む牛乳は最高だと、レイに教えられてからは欠かせない。

 何処で採ったんだか、瓶詰めされたこーひー牛乳?をレイから貰って飲んでみると、濃厚な味が口の中で広がって身体を内側から冷やしていく。


「美味しいわね」

「だろ。知り合いの商会からカカオと牛乳を取り寄せて作ったんだ。砂糖とかで甘めに作ってある」


 焚き火のところで本を読んでたレイに手渡されて、皆で飲んだけど、やっぱりこういうのって良いものだ。

 でも、これって確か東大陸の文化だったような……


「レイさんはウォーレッド大陸出身かしら?」


 プライベートな事を聞こうとしていたところで、隣からライザがアタシの言いたかった事を代弁してくれた。

 ウォーレッド大陸は、約半数が人族の土地と言われているくらいの東大陸であり、レイもそこの出身なのかもしれないと思った。

 どうやら世界を旅してきた者達としては、レイがその大陸出身に見えるのだろう。


「俺が何処出身でもお前達には関係の無い話だ。それよりお湯を張り替えたから、先に入ってこいよ」

「そ、そうか……ならお言葉に甘えさせてもらおう」


 今サラッと凄い事言ったような気もするけど、ジェイド達がサッと風呂へと向かっていった。

 一人だけ残っているレイの隣に腰掛ける。


「何故隣に座る?」

「良いじゃない。それより教えてよ、ウォーレッド大陸で生まれたの?」

「あのなぁ……」


 溜め息と苛立ちが見受けられるけど、ここはぐいぐいと行った方がレイも答えてくれるはず。


「まぁ良い。その通りだ、東大陸で生まれた……はずだ」

「はず?」


 全員が興味を示したように、錬成してあった場所へと腰を下ろしていた。

 特にガルティが興味を示している。

 強い者としての憧れ、どうやって強くなったのかを聞き出そうにしているようだった。


「聞きたそうにしてるとこ悪いが、これ以上他人に話す気は無いぞ」

「えぇ〜良いじゃない少しくら〜い!!」

「どうやって強くなったかだけでも教えてくれ!!」


 ガルティの食いつきようは少し驚いてしまったのだけれども、職業の違いがあるからこそ教えられる事は少ないだろう。

 レイも困ったような顔をしていた。

 それも当然だろう、何せ職業の種類が丸っきり異なっているのだから。


「そもそも俺とお前では強さの種類が違う。獣闘士としての戦い方なら、獣人の身体能力、それから猛虎族なら『雷撃』が使えるだろ。それを組み合わせて戦えば良い」

「だが――」

「俺は雷の精霊術で電気信号を流して筋力や反射神経、その他諸々を底上げしている。無理すると失明するが、それでも獣人族なら磨けば更なる高みへ行けるだろう」


 レイの左目が淡く光を帯びているところを見るに、霊王眼を発動させているらしい。

 全てを見抜く瞳、その力は彼女の実力を的確に見極めてアドバイスを送る事ができている。


「ガルティさんはすでに電移閃(ボルテクシア)という雷の肉体強化ができますよ」

「そうだったのか……」


 ユスティの言葉を聞いたレイは、何かを考えるようにして腕を組んでいた。

 何か強くなる案でもあるのかしら?


「お前、『獣化』は使えるのか?」

「す、数分間だけだが使える」

「それを鍛えると良い。その身体能力と電気を操る力があるんなら、まだまだ上に行ける」


 獣化というのは、獣の血に目覚めた獣人が使える能力であり、獣人族の特徴でもあるものだ。

 身体能力が上がり、一時的に動物のような様相が身体に現れるものであるため、それを研究しているエルフもいるくらいの力だ。

 だから、それが使えるんならかなり強くなれる。

 しかし覚醒条件が分からないからこそ、使える獣人族は限られている。


「まぁでも、お前の魔力制御は下手すぎる。もっと上手く扱うべきだ」

「そ、そうなのかい?」

「自覚無し、か……魔力操作ができるだけでも、他より差を付けられるものだ。例えば、こんな事もできる」


 彼は周囲に魔力を放っていき、それ等全てを支配してみせた。

 その瞬間、アタシ達は濃密な魔力の奔流に身を任せ、凄まじい程の恐怖心に苛まれてしまった。


「魔力操作を極めると、こんな事もできるって訳だ。モンスターとの戦闘時とかに使うと、相手が動きを止めるから隙を作りやすい」

「な、成る程……流石はレイ殿」

「ど、どうすればアンタみたいな魔力操作ができるようになるんだい!?」

「練習法か、自分の掌に魔力を凝縮させるだけだ」


 それって、かなり難しいやつじゃん。

 魔力は凝縮しないために、自身で動かして掌に留めておかなければ即座に霧散してしまう。

 しかしレイが実践してみせた魔力操作技術には度肝を抜かれる思いだった。


(なっ……凄まじい熟練度ね)


 蒼白い魔力が一点に集約しているけど、それを真似しようとすると結構な労力となるだろう。

 ガルティもレイに倣って真似しようとするけど、そもそも魔力を操るという事すらできていなかった。


「暇潰しには丁度良い。まずは魔力を感じ取るところから始めるか。魔力袋は丹田付近に存在しているから、目を閉じて、意識を内側に集中して、魔力が丹田から全身へと流れているイメージを固めるんだ」


 成る程、アタシもやってみよう。

 実際に魔力操作は感覚でやってきたし、そこまで必要性を感じなかったからこそ、レイの凄さが際立って見えたためにアタシも感銘を受けた。

 人一倍不器用だからアタシにもできるかなと少し心配になった。


(目を閉じて、意識を内側に……魔力が身体に流れているイメージ……)


 ほぼ瞑想のようなものだ。

 頭を空っぽにして、魔力の流れを掴んでみせる。

 すると、お腹辺りが少し温かいような気がして、目を開けてみるとレイが少し驚いたような顔をしていた。


「最初はセラが成功するとはな。それが魔力袋、魔力の創られる根源だ」

「そ、それで……どうやって操れば良いの?」

「魔力が全身に流れてるのが分かるだろ。それを感じ取って自分の意思で操ってみるんだ。まずは掌に魔力を集めるイメージ、だな」


 再び目を閉じて魔力の流れを感じ取ってみる。

 魔力が全身に流れているイメージをすると、脳裏に身体の構造が浮かんできて、身体を流れる魔力回路図までもが見えた気がした。

 レイに言われた通り、その流れの一部を操って魔力を手に収束させてみる。

 しかしながら、練度が足りないのか手に持っていく事はできなかった。


「ご主人様、できました」

「ほぅ、流石だな」

「えへへ……」


 ユスティがアタシよりも先に、掌へと魔力を集める事に成功していた。

 正確には拳全体に、だけど。


「それができたら今度は足に、次は腕全体、足全体、筋肉のみ、と部位を変えながら魔力を集めてみろ。それができたら次のステップだ」

「はい」

「最後には魔力を体内で循環させれたら、一先ずは魔力操作ができたと言える。身体強化も魔力を体内循環させる事でできるからな」


 魔力の扱いが上手ならば魔法を使う時に、余分な魔力を消耗する事がなくなるのだそうで、絶対にものにしてやろうと思った。

 けど、それだけの魔力制御術、一体何処で身に付けたのだろうか?


(中々に難しいわね……)


 レイは、こういった魔力操作を毎日行えば、才能ある者なら数日で、才能が無くても一ヶ月くらいで魔力操作ができると言った。

 試しに彼に習得期間を聞いたら、半年掛かったと話してくれた。


「俺には魔力操作の才能が無かったもんでな、半年掛かっちまったのさ」

「へぇ、意外ね」

「意外? 何処が?」

「だって、そんなに強いのに魔力操作で半年も掛かったなんて嘘にしか聞こえないわよ。本当は嘘吐いてるんじゃないの〜?」

「別に嘘なんざ吐かねぇよ。才能無いなりに足掻いた結果だ」


 そう言って立ち上がったレイは、丁度風呂から出てきたジェイド達と交代するように浴場へと入っていった。

 才能が無かった、と言う割にはライザを捕らえた時の魔力糸は洗練とされた力を感じた。


「む、難しいわね……ユスティ、どうやってやるの? 教えてよ」

「はい、分かりました」


 ライザがユスティへと詰め寄っていた。

 才能のある者へとご教授願おうという魂胆、アタシも肖ろうと思ってユスティにお願いする。


「アタシにも教えて」

「はい、良いですよ」


 何処か曇っていたレイの顔がチラついて、少しだけ胸がズキッとした。

 彼はどうして技術を教えてくれる気になったんだろう。

 彼の行動は『気紛れ』、だけど何だか二つの人格を持ってるみたいに矛盾した言動をしている。


「……」


 彼は半年もの時間を掛けて魔力操作を覚えた。

 何故そうまでして覚えたのか、そしてどのような思いでアタシ達に教えたのか、無表情からは気持ちが読み取れない。

 明日から何が起こるか分からないから教えてくれたのだろうか?


「レイ……アンタ、何を考えてるのよ?」


 その言葉はパチパチと聞こえてくる焚き火の音が掻き消していった。

 寂しい背中が壁の向こう側へと消えた。

 常に一人でいるというのは、誰も信用できない証。

 風呂もそう、彼は誰も信じれないからこそ油断せずに一人で入ってるのだろう。


「セラさん、どうかされましたか?」

「いえ、何でもないわ」


 何を考えてるのか分からない。

 アタシ達の事をどう思っているのか、その後ろ姿は何も語らない。

 ウォーレッド大陸が出自だと言った。

 もしかしたら、そこに彼の秘密があるのかもしれない。

 けど、きっと彼は帰ろうとはしないだろう。

 冷たい目が何を映しているのか、彼は何を選び、何処に向かうのか……


「レイ、これから楽しみね」


 何が起こるのか、そして彼が何を得るのか。

 アタシは風呂の方からユスティの方へと視線を向けて、皆の会話へと混ざった。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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