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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
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第82話 迷宮は揺れ動く

 霧の向こう側から見知った顔が現れた。

 探索に出てったっきり、数十分も戻ってくる事が無かったSランク冒険者である。


「お〜ここにいたか。少し先まで行ってきたんだが、特に何も……お前等何してんの?」


 この状況を見れば誰だって、そんな間抜けな質問をする事になろう。


「本当に……申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!」


 俺の前で完璧な土下座をしているのは、魔狼族のライザという女魔法剣士である。

 さっきまで俺を攻撃しようとしていたのだが、同胞であるユスティを奴隷にした経緯と今の生活についてをある程度聞いて、そして理解した。

 だからこうして、土下座しているのだ。

 土下座は絶対服従の意味も持ち合わせているので、本当に止めてほしい。


「別に俺は怒ってないが、ユスティはこれで良いか?」

「……ご主人様が許すのでしたら」


 物分かり良くて助かるのだが、許す気は無さそうである。

 どうすれば許してくれるのか、今度彼女の好物らしい鍋でも作ってやろうか。


「分かった。その謝罪を受け入れるから土下座は止めろ。鬱陶しい」


 怒ってるのは俺ではなくユスティなので、彼女に怒りの矛を収めてもらって、謝罪を仕方なく受け入れた。

 謝るのならば俺にではなくユスティにと思ったが、彼女にもしっかりと謝罪して、何とか許してもらっていた。


「さて、取り敢えず互いに自己紹介でもしないか?」


 一区切り着いたところで、ドワーフの鎧戦士が俺達へと話し掛けてくる。

 全員がすでに起きていたのだが、服とかボロボロだ。

 ある意味歴戦の戦士みたいだな。


「俺はBランクパーティー『風の軌跡』のリーダー、ジェイドってんだ。んで、死に掛けてた魔導師がペコラ、魔狼族の魔法剣士ライザに、猛虎族の獣闘士ガルティ、それから行商人ヨト、助けてもらってありがとな」

「荷物から素材は貰ったから、礼は要らん」


 こっちも自己紹介しなけりゃ駄目なのだろうか。

 そう思ったのだが、俺は偽名に偽名を重ねているので魔神殺しの張本人だと思う事も無いだろうし、俺の本名がバレる事も無い。


「俺はレイグルス=クラウディア、錬金術師だ。こっちは案内人リノ、狩猟師ユスティ、魔法付与師セラだ」

「「略すな!!」」


 リノとセラから怒りの一言が。


「我はリィズノイン、気軽にリノと呼んでくれ」

「アタシはセルヴィーネ、セラで良いわ。よろしく」


 俺達のパーティーは、女は全員人族ではない。

 リノは特殊な位置にいるのだが、半分は人族以外であるのを俺は知っている。

 ユスティとセラも人族ではなく、それぞれ獣人亜人と区別される。

 それとユスティの場合、狩猟『神』ではなく狩猟『師』と言った理由は、彼女の能力がライザにバレてる可能性があるため、これ以上目立っても得はしないだろうとの独断である。


「んで、そこに立ってるおっさんはダイガルト=コナー、Sランク冒険者だ」

「よろしくな!」


 屈託無い笑顔を見せるダイガルトに対し、風の軌跡メンバー全員が固まってしまった。

 Sランク冒険者だって言ったからか。

 Sランクとは言っても、攻撃専門ではなくて迷宮攻略の先駆者と言える探索能力が売りだ。


「だ、ダイガルトって……あの迷宮王か!?」

「ほ、本物?」


 嘘吐いてどうすんだと思ったのだが、実際に世界には有名人の名を騙って詐欺を働いたり、或いは自分の存在をアピールしたりする人もいるらしい。

 俺の名前を大々的に使ったところで、俺は自分の名前を変えているので、一々口出ししたりしない。

 風評被害があった場合は、その限りではないが。


「それで、何があったんだ?」

「あ、あぁ……俺達は現在起こってる冒険者行方不明事件の調査隊の一つだったんだ。元々は四十一階層の転移ポータルで転移して、そこから四十一階層より下を調査してたんだ。一ヶ月前からずっと、な」


 ほう、ギルマスが言ってた者達のうちの一つが彼等だったって訳か。

 しかし、ボロボロになってまでして俺達のいる二十四階層に避難してきた理由が分からず、彼等の話を遮る事なく聞き続ける。

 それは彼等が握っていると思ったからだ。

 リーダーのジェイドが事の仔細を話し続ける。


「一ヶ月前から俺達は四十二階層付近を探索していたんだ。前にそこで冒険者が行方不明になったからな」


 あぁ、リューゼンが言ってたな。

 最初が四十七階層、次が五十六階層、次は四十二階層、四十五階層、四十一階層……

 三番目に冒険者が失踪したと思われる場所、そこを彼等以外が調査していたそうだが、目ぼしい情報は得られなかったらしいのだ。

 もしかして、何かしらの手掛かりを掴んだ?


「探索していたのだが、そこでモンスターの異常発生が起こって、俺達は逃げるために四十一階層の転移部屋に逃げ込もうとした」

「ん? 逃げ込めたんじゃないのか?」

「逃げられてたら、こんなとこにはいないさ」


 まぁ、確かに。


「しかし、俺達が辿り着いた時には、すでに部屋が無くなってたよ」

「無くなってた、ってどういう意味だ!?」


 何処か焦ったかのようにダイガルトが深掘りする。

 本来、ダンジョンの要でもある転移部屋が無くなる事は無いそうで、無くなってたと聞かされて相当な焦燥に駆られている。

 コイツ、エレンとの会話で何か知ったのか?


部屋自体が消滅してた(・・・・・・・・・・)のさ」

「なっ――」


 部屋自体の消滅、それがどういう意味をしているのか、それが分からないが、少なくとも二十一階層の転移部屋は普通だった。

 つまり上層では何も変化してないが、下層では本来起こり得ない事が起こってしまう。

 これが何を意味するのか、それは冒険者達の逃げ道を塞ぐ行為に等しいだろう。


(もしも階層喰い(フロアイーター)が知恵を持ってしまったら、こんな行動に出るのは分かるが……)


 今のジェイドの話では、転移部屋以外の変化が無かった事を暗示している。

 階層喰い(フロアイーター)は基本知恵を持たないモンスターであるが、魔神のように進化を繰り返したり、知恵を付けたりする可能性もゼロではない。

 かなり不味い状況でもある。


「何か考えてるようだが、続きを話しても大丈夫か?」

「ん? あぁ、済まん。続けてくれ」


 俺が考え込んでいるために、待ってくれていたらしい。

 それでも考えざるを得ない。

 このダンジョンでの脱出方法が、かなり限られてしまっているからだ。


「モンスターの異常発生と言ったが、それは?」

「あぁ、四十二階層より下で、多くの冒険者がモンスターの大量発生について話してたんだ。ペコラは危機感知の魔法があったんでな、逃げるために上へと登ったって訳だ」


 急に矛先と視線を向けられた少女が、わたわたとして持っていた杖を落としていた。

 そこまで慌てられても困るが……


「は、はいぃぃ! えと、あのその……ご、ご紹介に預かりましたペコラと申しますぅぅ! あ、あの、あの――」

「分からん」

「あぅぅ……」


 このままでは会話が成立しないため、俺は落ち着かせるためにバックパックから茶色い粉の入った瓶を取り出し、それをコップへと何杯か入れ、精霊術で熱水を注ぎ込む。

 それを掻き混ぜてから、砂糖瓶と共に少女へと出した。


「飲むと良い。少しは落ち着くだろう。砂糖は好きに入れてくれ」

「あ、ありがとうございましゅ!?」


 舌を噛んだようで、物凄い痛そうにしていた。

 大丈夫かと思ったのだが、立ち込める湯気と濃厚な香りが鼻腔を突き抜ける。

 俺が作ったのはココア、グラットポートでオークションが開催されるまでにキースから手に入れた嗜好品の一つ、結構気に入ってる。

 良い匂いだと言わんばかりに、セラが服の裾を摘んで物欲しそうに引っ張ってくる。


「作ってやるから引っ張るな」

「やたっ! ありがとレイ!」


 抱き着いて頬擦りしてくるのだが、暑苦しい。

 柔らかい二つの双房を左腕に感じながら、ココアをもう一つ作って彼女へと渡してやる。


「ほれ、熱いから気を付けな」

「龍神族は熱さに耐性があるから大丈夫!」


 竜の息吹を撃てる彼女達には、確かに耐性があるのだろうが、そのまま飲んで火傷しないのだろうか?

 モンスターである龍の口内は火に弱い、みたいな弱点があったような無かったような……


「っと、どうだ、落ち着いたか?」

「あ、ありがとうございます……わ、私は感知系魔導師でですね、えっと……下の階層から危険を感じたので、全員の相談の上で逃げる事にしたのです」


 下の階層から危機を感じ取った、これだけでも充分彼女が利用価値のある人間であると分かる。

 階層を挟んで感じ取れるとは、凄まじい感知能力者だろうな。

 セラも同じだろうが、彼女は龍神族だ。

 感知能力は自分の価値基準が元となっているため、例えば人族が危険と感じても龍神族には危険に感じ取れなかったりする事もある。


(彼女は人族、危険度がどれ程なのかは自分の身体で体感した方が良さそうだな)

「それに」


 俺が一つの決意をすると共に、今度はライザから声が上がった。


「私とガルティの二人が先行して念の為に四十三階層へと入ったんだけど……無かったのよ」

「は?」


 まさか冒険者がいなかった、とかか?

 いや、だとしたら『無かった』とは言わないな。

 催促するために、彼女へと視線を向けると気不味そうに言葉を捻り出した。



階層そのものが消滅(・・・・・・・・・)してたの(・・・・)



 俺達は、その言葉を理解するのに数十秒もの時間を要してしまった。

 階層そのものが消えた、それが意味する事は、下へと入れないという事だ。

 しかしライザの言いたい事はそういう事では無かった。

 言いにくそうにしながら、正確に言葉を続けて放っていくが、どれも衝撃的だった。


「階層の中央部が、その……全て吹き抜け状態になって、えっと……だから、無くなってたのよ!」


 必死になって言葉を出してくれるが、それでも要領を掴みづらい。

 彼女達が言語化に苦しむ間に、セラがダイガルトへと質問を繰り出す。


「ねぇダイト、ダンジョンでそんな事って起こったりするのかしら?」

「いや……そんな事例、聞いた事――」


 そのダイガルトの言葉は途中で止まってしまった。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………




 急に大きな地震が発生したからだ。

 震度六か七くらいか、全てがひっくり返る。

 立っている者も、座っている者も、全員等しく地面へと身体を打ち付ける。

 痛みを感じるが、状況確認が先だ。

 何が起こってるのかを確かめなければ危険だろうが、セラの権能が反応していない様子だったので、今はまだ俺達の命は保証されている。


「イテテ……おい、大丈夫か?」


 周囲を確認する。

 どうやら全員無事だったようだが、腰や背中が地面に着いている。


「えぇ、大丈夫だけど……地震かしら?」

「ダンジョンで地震が発生するなんてな。ダイトのおっさんの顔からすると、本当は起こり得ない事らしいな」


 ダイガルトの顔は困惑、つまり今回の事件について何も知らないという事だろう。

 吹き抜けとなっていた影響で迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)でも発生したのだろうか?

 その現象は、地上にモンスターが溢れ出る現象の事を示すのだが、それは攻略者が出たりした場合や何等かの異常事態イレギュラーが発生した場合に限る。

 今回の場合は異常が発生したと見て良いだろう。

 地上も気になるな。


「少し疑問に思ったんだが、三十一階層の転移部屋はどうしたんだ?」

「いや……そこでは何故かポータルの機能が停止してたんだ。だからここまで登ってきた。途中でモンスターの群れに襲われちまってギリギリだったところ、アンタ等に助けられたって訳だ」


 転移部屋の装置が機能停止してる事も気に掛かるが、今は地震について何が起こってるのかを確かめるべきだ。


「おっさん」

「「ん?」」


 呼び掛けると、二人のおっさんが振り向いた。


「いや、ジェイドのおっさんじゃなくて、ダイトのおっさんの方だ」

「何だよ?」

「エレンと通信できないか? あの女なら四十九階層付近にいるはずだろ?」


 それに気付いたダイガルトが、慌ててギルドカードを取り出して通信を起動させる。

 しかし、無反応だった。

 何回かコールしてみるのだが、一切出てくる気配が無いのだ。


「駄目だ、繋がらねぇ」

「あ、あのぅ……」


 ここで恐る恐る手を挙げたのは、ハチマキしてる行商人らしきイケメン青年、ヨトだった。

 金髪に赤目をした好青年っぽいが、彼が出した発案は意外なものだった。


「僕の持ってる魔導具なら下の階層を見られると思いますけど……」


 行商人、そのアイテムバッグには何でも入ってるらしいのだが、ここで商売でもするのだろうか。


「マジか、どんなのだ?」

「あ、はい、僕がご紹介するのは……これです」


 彼が取り出したのは一つの巻き物だった。

 何だろうかと思っていると、その巻き物を広げ始めてテーブルへと置いた。

 それを全員が囲うようにして巻き物へと視線を注ぐ。


「これは遠距離監視の魔法が組み込まれてる『自由監視モニター用巻き物(スクロール)』です。それを駆使すれば……出た」


 二枚の紙が重なっているようで、間に挟まってる魔法陣へと魔力を流すと四十二階層の光景がそのまま浮かび上がってきた。

 まさかテレビみたいなのがあるとは思わなかった。

 結構便利だな。

 自由に視点を切り替えたりできるらしいのだが、俺達の見ている小さな景色は一面が青黒い画面で埋まっていた。


「何だこれ?」

「う、動かしてみます」


 両手で景色を反転させる。

 百八十度、つまり視界の反対側を向けたのだが、そこにはライザの言った言葉の意味がよく分かった光景が映っていた。

 吹き抜け、その通りだ。

 ダンジョンが中央に巨大な穴を空けて、壁から水が染み出して滝を幾つも作り出している。

 洞窟っぽいマップだが、階層そのものが瓦解して、瓦礫が穴へと落ちていく。


「ここ、何階層だ?」

「よ、四十二階層のはずですけど……」


 ダイガルトが困惑を通り越した謎の形相を繕っており、これは物凄い不味い事態であるだろうと焦りがひしひしと伝わってくる。

 俺は二人の会話を右耳から左耳へと聞き流して、その視界を少し前へと進ませ、穴の上に立っている状態で上下へと動かしてみる。

 すると、上にも下にも巨大な空洞ができており、穴先が真っ暗となってしまっていた。


(四十二階層より上、それから下もかなり打ち抜いてるらしいな)


 見た限りでは上下三階層ずつは吹き抜けのようになっているようだ。

 ダンジョンの中には、こういった構造をしているものがあると聞いた事はあるのだが、今回のダンジョンは一階層ずつ区分けされているのは知ってる。

 更にモニターを弄っていると、不意に何かが穴を落ちていく影が見えた。

 瓦礫ではない、生きた何かだ。


(何だ今の!?)


 俺は即座にそれを追い掛けようとするが、視点の動きがかなり遅いために、すぐに暗闇の中へと消えていってしまった。

 見失ったか。


「今のは何だったんでしょうか?」

「ユスティも見えたか」

「影だけですが、チラッと見えました。角があったような気がします」


 それは、噂になってたシルエット。

 俺は影しか見えなかったのだが、ユスティは注視していたために見えたらしい。


「アンタ等パーティーは、これからどうするつもりだ?」

「……一回、地上で装備や回復薬、色々と揃えたら再び向かおうかと考えてる」


 コイツ等はユスティと同等の実力はあった。

 俺からしたらまだまだ弱いのだが、人数が多い方が俺としてもかなり楽ができるだろうし、魔法剣士と感知系魔導師はかなり役に立つ。

 ダイガルトも同じ意見なのか、率先して『風の軌跡』へと提案を口にしていた。


「なら、俺ちゃん達と一緒に行かねぇか?」

「良いのか?」

「俺ちゃんは問題無い。それに後でエレン、鳴雷ナルカミと合流するつもりでいる。お前達がいてくれるとかなり助かる」


 戦闘職が多いので武器の消耗品や人数的な食糧事情は倍増するのだが、それと引き換えても人数のメリットはかなりデカい。

 ただ、この十人でパーティーを組んだとして、問題点が幾つかあり、最も懸念とされるのが『回復職』がいないという点だ。

 ポーションの類いはあるが、必ずしも飲んだり使用したりできるとは限らない。

 俺が回復職を担っても良いんだが、この能力を無闇に広めたくないのも事実だ。


「回復魔法ならアタシ、使えるわよ?」

「そうなのか?」


 セラは魔法付与師なので、まさか回復魔法を使えるとは思ってなかった。

 けど、適性問題があるはずなのに、それを無視している。


「付与だから持続回復になっちゃうけど」


 それでも無いよりはマシ、だろう。

 光魔法を持っているユスティが回復魔法を覚えてくれれば助かるが、それを無理強いする事はできない。

 光・闇魔法はかなり希少であり、それをユスティとリノがそれぞれ持っているので、二人に魔法を覚えてもらいたいという気持ちはある。

 だが、俺は専門家ではないので、ペコラという魔法指導にお誂え向きな魔導師に魔法を教えてもらおうと思って声を掛ける。


「なぁ、ペコラとやら」

「は、はいぃぃ」


 何故かメチャクチャ怯えられている。

 ビクビクと震えているのだが、ジェイド曰く、物凄い人見知りだから勘弁してくれとの事だそうだ。


「回復魔法、使えるか?」

「い、いえ、使えないです……ご、ごめんなさい」

「いや、ユスティに教えてやって欲しかったんだが、やっぱそう上手くは行かないか」


 何もかもが上手く行く訳ではないのが世界だ。

 諦めずに、次の手を考える必要があると思っていたところでライザから提案が出された。


「光魔法は教えられないけど、魔法についてなら教えれるわよ」

「そうか……なら、頼む」

「我も教えてもらっても良いだろうか?」

「えぇ、助けてもらったお礼も兼ねて、二人に教えるわ」


 確かにライザは魔法剣士、ただの剣士という訳ではなく魔法が使える剣士である。

 ならば、二人に魔法の概念知識を教えてくれるだろう。

 三人が端っこの方へと行ってしまったので、俺は続きとばかりに巻き物の画面を動かしていく。


(冒険者も何人か見えるが……中には何かに巻き込まれて死んでる奴も見えるな)


 殆どの者が顔を顰めたりしているのだが、俺は気にせずじっくりと見ていく。

 穴がどうやって空いたのかは知らないが、穴の断面に人の身体が半分吸い込まれたような死骸があるし、他にも足を持ってかれた者や腕や頭を捥ぎ取られた者、色々と見えるのだ。

 かなりグロテスクな光景であるため、もう俺とダイガルト以外見てる者はいなかった。


「レイ、どう思う?」


 ダイガルトが巻き物から視線を外さず、俺へと声だけ向けてくる。

 それだけ逼迫しているのだ。

 その気持ちは正当なものだろう。


「俺はダンジョンに詳しくないから、あまり参考になる事は言えないんだが……」


 敢えて言うとしたら、誰にでも冒険者を連れ去る事ができる事実、それから大穴を空けるだけの力を有している事になる。

 だとすると、かなり不味い。

 相手の能力が不明、姿形も不明、行動予測も不明と来たのだ。


「エレンと通信できない理由もこれで分かった」


 ダンジョンでも通信できていたのはダンジョン内の魔力回路が正常だったからだ。

 しかし今は大穴が空いているせいで、通信回路がバグってる。

 通信接続が切れた状態だから、通信ができない。

 どうするべきかなんて、そんなの決まってる、下へと探索していけば良いのだ。


「皆、聞いてくれ! 二時間後にここを出発、それまでは各自休憩して英気を養ってくれ! ジェイド、即興パーティーでの連携について話がしたい。良いか?」

「問題無い。早速始めよう」


 話をするのは俺とダイガルト、それからジェイドの三人である。

 俺だけ場違いではないだろうかとは思うが、今はもうそんな事も言ってられない状況なので、早めに下へと降りて何があるのかを調べる必要がある。

 もしかすると、このダンジョンに閉じ込められるかもしれないからだ。


(まずは三十一階層を目指す必要があるな)


 機能停止してる訳も、ダンジョンを流れる魔力が途絶えたせいでもあるはずだ。

 つまり、上層でも機能停止してる可能性も有り得る。

 だからこそ一旦戻るのではなく、このまま降りていく方がデメリットよりもメリットの方が大きいと判断した。


「一つ確認させてくれ。そっちのパーティーリーダーは迷宮王だよな?」

「いんや、俺ちゃんはそんな柄じゃねぇよ、実際俺ちゃんは斥候職だし、仲間に指示なんざ出せねぇ。だから指揮系統は全部レイに任せてる」


 俺としては年功序列を採用したかったのだが、残念ながら事はそう上手くいかないものだ。

 チッ……


「不本意だがな」

「嫌そうな顔すんなって〜」

「アンタは良いよな、俺は全員の命を預かる身、命令一つで仲間を殺しちまう立場だぞ?」


 そう不平不満を述べてみるのだが、ダイガルトは呆気らかんとした表情で俺へと言葉を放った。


「お前、そもそも人の命なんて考えてねぇだろ?」


 それを聞いたジェイドは俺を怪訝な目で見てくるが、否定する事でもないな。

 実際、俺は他人の命なんて考えてない。

 人を駒のように見ているのは自分でも理解してるし、それが俺なのだ、考えは変えられない。


「……まぁ、死んだらそれまでだった、ってだけだしな」

「ハハッ、それでこそレイだよ」


 俺達の会話に理解を示せないドワーフの男は、俺達を異物として瞳に映していた。

 化け物、怪物、悪魔、死神、俺達の考えは人の命を蔑ろにするものであるが、理解されない事も俺達は知っているのだ。

 心は凍てついてる。

 だが、そうでなくては俺は生きていけなかったから、何と罵られようとも足を動かしていく。


「さて……それじゃあ、これからについて話し合おうか」


 俺は未だに今回の事件に対して答えを見出せていない。

 どうするべきなのか、迷っているところだ。

 事の成り行きを見守るつもりではいるが、それがどう転ぶのか、どう変化するのか、近いうちに答えを見つけるとしよう。

 そう心の内に仕舞い込み、俺とジェイド、ダイガルトの三人は、二時間たっぷり使ってダンジョンで手に入れた情報を共有し、下層に備えた。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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