第78話 迷宮へと挑む者達
フラバルドの名産と言えば、やっぱり迷宮、ダンジョンと言われている場所だ。
そこで獲れる素材は貴重であり、こういった迷宮の周囲に街や都市が出来上がっていき、これをこの世界では『迷宮産業』と言うらしい。
「スッゲェ……」
感嘆の声が漏れ出てくる。
昼食を済ませて、現在俺達は中央区画にあるダンジョンへとやって来ていた。
(これが迷宮……)
驚く程に大きく、驚く程に人の往来が激しい。
この都市には数百人もの冒険者がいるそうで、色んな人物がダンジョンに向かっている。
一振りの真っ赤な大剣を持った闘牛族の男や、全身に武器を仕込んでローブで隠している獣人族の女、ガスマスクを身に付けて腰には火炎放射器のようなものを背負った謎の人物、何の武器も持たない筋骨隆々な男と、その男の肩に座っている小柄な少女、大きな金属製の魔法杖を携えた長髪の美女、俺と同じような大きなリュックを背負って周囲を観察している商人の女……
多くの冒険者が集っているようだ。
(全員有名だな)
今、目に入った人物達は全員がBランク以上だ。
いや、一年前で情報がストップしてしまったので、今ではAやSとなっている可能性がある。
特に危険だと匂わせるのは、一振りの真っ赤な大剣を背負った闘牛族の男、それから全身に武器を仕込んでる兎人族の女の二人だ。
危険であり、同時に戦ってみたいという衝動が心の奥底で燻っていた。
(確か『血海のガルニ』、『月光ミューレス』だったか)
他にも伸び代ある者や、実力を巧みに隠している者も何人かいるようだが、居場所の特定は難しい。
人が多すぎるからだ。
バックパックに乗ってるセラは、この中の誰よりも強いのは確かだろうが、油断すると負ける。
それだけ猛者がゴロゴロ転がってるのだが、俺はモブを演じて能力を完璧に隠し通すために、魔力を完全に抑えている。
「良い加減降りろ」
「や!」
やはり降りてはくれず、このまま迷宮攻略が始まりそうだな。
病み上がり、ではないな。
もう完全回復してるし。
懸念事項として挙げられるのは、他の龍神族が掟破りをしたセラへと急襲する可能性があるという事だ。
(いや、死んだと思ってるのか?)
今はフラバルドが閉鎖されているため、正直どうなるのかは予測が付かない。
自由奔放な彼女の行動は計画性皆無であり、運任せなところも大きい。
これでよく生き残れたな。
「ねぇねぇ、あの金ピカの奴、何あれ?」
突然セラが指差したが、そこには金髪金眼金の鎧を身に纏っており、武器や装備が全て金ピカで揃えられている男がいた。
防御力はそこまで高くなさそうだし、歩きにくそうだ。
三人の女を連れているのだが、ハッキリ言ってユスティ達の方が圧倒的に綺麗だと思う。
「防御力低そうだし、何の役にも立たないじゃない」
「まぁ、確かにそうだが……」
人は時に自己顕示欲が外面に現れる場合がある。
ただ、あれは単なる変人だろう。
単なる目立ちたがりだから目を合わすな、と言っておいて俺達は新規登録するために列へと並んだ。
転移ポータルを使うにしろ、新規登録するにしろ、階段やポータルが建物の中にあるために、ダンジョン前でギルド職員の審査を受けるために並ぶ必要がある。
だからこそ、多くの人達が並んでいる。
「なぁ、そう言えば聞いてなかったけどさ、お前達の職業とポジションは何処なんだ?」
列に並び、暇を潰すための対話として今後の探索におけるポジションについて、ダイガルトから会話の種が一つ蒔かれた。
俺は戦わないので、中衛か後衛の位置だな。
「俺ちゃんは特攻探索師だから前衛になる」
ダイガルトの仕事は先行して仲間の安全に差を確認したりする斥候的役割を担っている。
ある程度の攻撃能力や探知能力があるため、俺の予想ではあるが、ソロでもボス部屋を除いて四十階層くらいは楽々行けるだろう。
「リノの嬢ちゃんは?」
「我は案内人だから、ポジションは……何処なのだ?」
「リノは精霊術と未来予知があるから、前衛でも中衛でも通用するだろうな」
抜刀術を見て確信したが、精霊術での攻撃はかなり役に立つだろう。
「私は狩猟神ですので、中衛に就きます」
「神の職業か……エレンと一緒だな」
彼女には臨機応変な対応力を中心に鍛えさせたいので、中衛に位置してもらおうか。
「セラの嬢ちゃんは?」
「アタシは魔法付与師、自分にも他人にも色々と付与できるから、ポジションは何処でも大丈夫よ! できれば後衛が良いわね。権能で後ろの対策もできるし」
確かに彼女の権能があれば、後ろからの不意打ち対策には打って付けであろう。
全員の話を統合して考えてみる。
決まっているのはダイガルトとユスティの二人だけ、余ってる俺を含めた残りの三人はそれぞれ一人ずつ配置するのが良いだろう。
そう思って、俺は提案を口にする。
「なら、一列に並ぶとしてダイガルトを先頭に、リノ、ユスティ、俺、セラの順番で進むのはどうだ?」
「確かに、それなら理に適ってるか……」
もしもエレン隊と合流できたら、新しい戦陣を組めるのだが、今のところはダイガルトとリノの索敵能力を頼りに進んでいき、セラの魔法支援や反魔法支援で強化弱体化を図り、遠距離からはユスティの弓矢で狙い撃ちすれば倒せるだろう。
後は念の為のハンドサインや、状況毎の対処マニュアルを頭に叩き入れれば完璧だろう。
「レイも戦えよ」
「俺は荷物持ちだぜ? 戦える訳無ぇだろ」
「ったく……」
事情を察してくれているようだが、俺にも戦って欲しいらしい。
別に俺が戦わなくても最強の龍神族と幸運の魔狼族、未来を見る半人半霊魔がいる。
人族二人がいなくとも問題あるまい。
基本、少数パーティーでのダンジョン探索では一列編成か、或いは二列編成が最も効率が良いとされている。
前衛、中衛、そして後衛それぞれに役割があり、縦編成での探索によって即座に行動が可能となり、俺達は五人パーティーとなっているために探索に向いている。
(偶然か必然か、俺達はバランス良いパーティーとなってるしな)
前衛二人、中衛一人、後衛二人って感じか。
俺のポジションが不安定なので、後衛扱いになっているのだが、武器によっては前衛になったりするし、精霊術で後衛を務められる。
予備戦力として自らが後衛に配置しているのだ。
これで、ある程度は対処できる。
「あの、何だか周囲から見られてませんか?」
ユスティの発言に、俺達は気付く。
並んでいるだけなのに、確かに周囲からの視線が沢山突き刺さっている。
主にセラと、彼女を背負ってる俺なんだが……
あぁ、二本の角のセラが悪目立ちしているという事なのだろう。
(馬鹿馬鹿しい)
犯人が誰であれ、情報が少なすぎるために今の段階で疑いの目を向けるのは筋違いだ。
と言ったところで、何かが変わる訳ではない。
陰口を叩いてる奴等も、結局は怖いから手を出してこないだけ。
殆どが臆病者達の集まりだな。
「ちょっと! あんた達順番抜かしてんじゃないわよ!」
聞き覚えのある声が聞こえてきて、そちらへと目を向けてみる。
「騒がしいが、何かあったのだろうか?」
「どうやら、列に割り込んだ奴がいたらしい。列の割り込みとかはよくある事なんだぜ、リノの嬢ちゃん」
二人の会話を聞き流しながら、俺は騒ぎの中心へと目を向ける。
そこでは順番を抜かしたであろうガラの悪そうな冒険者三名が、律儀に順番を守っていた冒険者の前へと割り込んでいるところだった。
冒険者達は男二人、女一人のパーティーであり、手慣れているようで、一切悪びれてない。
「あれは……『ダスト』って連中だな」
「『ダスト』?」
ごみ、って意味だよな?
いや、埃だったか。
どっちにしろ、汚い連中には違いない。
「最近Bランクになったばっかの奴等だが、他人からモンスターを横取りしたり、強いモンスターを他人に押し付けたり、罠を張って冒険者を嵌めたり、何でもするんだ。半年前からダンジョンに潜ってる」
「へぇ……」
もしかしたら、冒険者失踪事件の裏には彼等が糸を引いてる可能性がある訳だ。
「『ダスト』の相手は――」
「『黄昏の光』だろ?」
「おぉ、よく知ってんな。Cランクながら、Bに違い実力を持ってるって話だ」
それは知らなかった。
ライオット自身、まだまだと言っていたのを覚えているので、Bランク間近だとは知らなかったな。
俺達が観察している間にも、その二つの間に火花が散っているように見える。
しかし順番を抜かすという行為に対し、『黄昏の光』より後ろに並んでいた冒険者達が怒りを心の内に内包したかのような表情となっている。
少しの起爆剤で一気に爆破するだろうな。
その起爆剤を提供してやろうではないか。
「もしかしてー、冒険者失踪事件の犯人ってー、『ダスト』なんじゃないのかー?」
俺の言葉に周囲の冒険者達が注目する。
「罠張って冒険者捕まえてー、一体何しようってんだよー? それともー、ルールを理解できないお馬鹿さんなのかなー?」
良い噂を聞かない連中へと矛先を向ける。
そして、今まで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように周囲から怒りの声が投げられた。
「帰れ『ダスト』!」
「順番抜かしてんじゃねぇよ!」
「恥を知れ!」
「やっぱテメェ等が犯人だったか!」
「サッサと都市から出てけ!」
罵声に罵声が重なっていく。
僅か十数秒でこんなにも多くの人が、不平不満を口にして暴言を吐くようになるとは、やはり人間というものは扱いやすくて助かる。
勝手に想像を膨らませて、勝手に人を傷付ける。
俺の嫌いな人間の醜い部分である。
二本の角のシルエットという情報も、結局は情報でしかないため、たとえ角が無かったとしても彼等が噂を流した可能性もある、と勝手に曲解される。
(まぁ、恐らくコイツ等じゃ、Sランク冒険者一人攫うのも無理だろうし……)
身に覚えのない容疑に掛けられた彼等のうち一人が、考え込んでる俺の目の前にまでやってくる。
「おいテメェ、巫山戯んのも大概にしやがれ!」
「うわー!! さーらーわーれーるー!!」
ゴツい顔の男が胸倉を掴んできたので、ワザと大声を上げて騒ぎを起こし、ジタバタする。
喧嘩はご法度、しかし俺からは手を出していない。
『ダスト』の連中が勝手に俺へと危害を加えようとしているだけなのだ。
まぁ、全部棒読みであり、無表情であるためなのか、ダイガルト達は苦笑いしていたのだが、手助けしようとはせずに観戦している。
セラもいつの間にかバックパックから降りて、避難してたし。
「何事だ!?」
衛兵も兼ねたギルド職員が騒ぎを聞きつけて、俺達のところへ。
そして現場を目撃する。
「助けてくれ! 列の割り込みを注意しただけなのに暴力振るってくるんだ!」
「なっ、テメ――」
注意はしていないし暴力も別に振るわれてはいない、これは謂わば完全なる冤罪である。
戦いは何も暴力だけで決まる訳ではなく、情報戦や印象操作、話術も十二分に関係してくるので、今回は荷物持ちとしての体裁を繕うために敢えて弱者のフリをしている。
人をおちょくるのも楽しいものだが、流石にいつまでも胸倉を掴まれたままでいられない。
ユスティもキレそうだ、いつの間にかショーテルを手にしてるし。
(多少目立っても仕方ないか)
俺は掴まれてる手首へと狙いを定める。
そして神速の一撃を以ってして、誰にも悟られずに手首を突いて壊した。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
手首を突いて折ったが、これにより男は右手を抑えて地面をのたうち回った。
動体視力の高い奴でも気付ける奴は極一部だろうが、背に腹は変えられないだろう、ユスティに暴れられる方が面倒だ。
それに、周囲の反応からして殆どの者が笑っている。
「き、急にどうしたんだ?」
ギルド職員が、蹲る男に対して何が起こったのかを理解できていなかった。
だからこそ、俺も見ぬフリをして列に並び直す。
「知らん。『ダスト』の連中だったか……とっとと帰れ、列の邪魔だ」
二人だけに分かるように威圧を込める。
圧倒的な強者が弱者へと放つ威圧は、意識をも刈り取ってしまう。
Bランクと言えど所詮この程度か、つまらんな。
魔天楼のような危険な連中がここにいると思ったが、期待外れだったか……
「スゲェぜ兄ちゃん!」
「あの『ダスト』相手に引かねぇとは!」
「やるじゃねぇか!」
多くの冒険者が俺を称賛する。
冒険者は基本的に戦闘と娯楽を愛するため、こういった諍いも観戦するだけの者が多い。
今回の場合は恐らくだが、Bランク冒険者相手に怖気付いたってところか。
「騒がせて悪かった」
それだけを吐き捨てて、俺は再び列へと並び直す。
今ここで『黄昏の光』と会う事はせず、俺はフードを引っ張って顔を隠す。
これ以上、面倒事を起こさないようにして俺は順番を待つ。
(これで借りは返したぜ、ライオット)
冒険者失踪事件なんてものが発生しているからこそ、冒険者達はピリピリしている。
それに連続的に巻き込まれるとは運が無いが、それでも旅の始めに色々と教えてもらった礼を返せていなかったからこそ、一つの仁義は通せた。
ただの自己満足だ。
「あ、あの……」
魔術師の女、『黄昏の光』の一員であるホルンが俺の隣にまで来た。
何処か戸惑いを感じられる。
見知らぬ奴に助けられたと思っているのだろうな。
服装も前とは違うので、俺の事が分からない……いや、俺のバックパックを見て気付いたらしい。
「の、ノア?」
まぁ、これは思い入れのある、愛着のあるボロボロなバックパックなので、ある意味特徴的だ。
バレてしまうのも仕方ない。
だが、今の俺はノアという名前ではなくレイグルスという名前であるため、知らないフリをする。
「レイ、知り合い?」
「いや、初対面だ」
これ以上、話す事は無いと遠回しな表現で答える。
セラがいてくれて良かった。
そして列は進んでいき、俺とホルンの距離は次第に離れていく。
これで良い……それが俺のためになるのだから。
ギルド職員によってダンジョン探索の登録がされ、俺達は中へと入る事ができた。
ここは一階層の上。
大広間から続く階段へと降りていく者、或いは大広間にある真っ白に輝く巨大な水晶玉へと手を触れて消えていく者、作戦を仲間と話し合っている者、装備を確認している者、色々いた。
「やっぱ無理だったかぁ……」
転移ポータルである水晶玉の列に並んでいたダイガルトが戻ってきた。
やはり二ヶ月の月日によって消されたのだろう。
これは死んだ者の情報を自動消去する、謂わばダンジョンの機能の一つだ。
「素直に一階層から潜るべきだな」
話していると、『黄昏の光』の連中全員がこちらへと来た。
干渉してきて欲しくないのだが、律儀なライオットらしいとも思える。
「さっきは助かったぜ。俺はライオット、『黄昏の光』のリーダーしてんだ、よろしくな!」
白い歯を見せて笑う男は相変わらず、二ヶ月前と同じく元気そうだった。
ギルマスに聞いた話では、三十階層付近を探索しているそうなのだが、どうやら未だにしぶとく生き残ってきたらしい。
神官の方はミゼルカ、だったか。
二ヶ月振りだが、全員無事なようだ。
「こっちはクルト、それにホルンとミゼルカだ」
知ってる。
「ん? さっきの絡まれてた奴等じゃねぇか。レイの知り合いか?」
「知らん。俺の記憶にコイツ等の情報は無い。それに助けたのは気紛れだ、礼は必要無い。運が良かったな」
そう、全て気紛れ、全て運だ。
「サッサと行くぞ、ダイトのおっさん」
「あ、おい――」
これ以上、彼等に関わるのは止そう。
どういう訳か、俺は巻き込まれやすい体質らしいし、彼等と関わる事で不幸が降り掛かるかもしれないからな。
それに俺は弱い奴と組む気は無い。
優しいだけでは、この世界を生き残れないからこそ、余計な面倒事を増やしたくない。
「良いの?」
セラの感知能力、いや第六感か、何にでも勘付くのは素晴らしい能力ではあるが、時には余計だな。
素知らぬフリをしてもらいたい。
「どうせ攻略に加えて犯人を探す事になるだろうし、エレン達と合流する訳だからな、足手纏いは邪魔だ」
「そっか」
彼等も、俺が会話する気は無いと分かったようだ。
ダイガルトとリノも付いてくるが、ユスティだけが付いてこずに何かを話している。
「ご主人様をどうか責めないでください。あの方は、貴方達の身を案じただけですので」
別に俺のフォローしなくて良いんだが、彼女らしいと言えば彼女らしい。
まぁ、彼女の好きにさせておこう。
「いや、まぁ……そうか。なら、感謝の気持ちだけ伝えといてくれ。助かった」
「はい。畏まりました」
彼等は転移ポータルで下層へと向かえるからこそ、ここでお別れとなってしまう。
後腐れ無いようにしてくれたって訳か、ユスティも本当に甘い人間だな。
しかし、時には甘さが心を癒してくれる。
「なぁ、一階層からスタートするのは別に良いんだが、大丈夫なのか?」
「大丈夫って何だよ?」
「いや、地図とか買ってないが良いのか?」
階段を降りる者達に続いて、俺達も並んで下へと降りていく。
一度潜った事のあるダイガルトに『地図なんざいらねぇだろ』なんて言われたので、買ってない。
「地図無い方が面白ぇじゃねぇか」
「馬鹿か、アンタ……」
「馬鹿とは何だ馬鹿とは。それに、上層はマップがそこまで広くないし入り組んでもないからな。すぐ階段が見つかるんだよ」
ならば良いのか?
「アタシ達の実力ならどれくらい潜れるのかしら?」
「お前達なら……多分、百階層を踏破できるだろうな」
「百階層ってどれくらい?」
「さぁ、異次元の強さってとこじゃねぇか?」
知らないのに踏破可能だと言ったようだが、本当かどうかは不明だな。
フラバルドのダンジョン、その最高到達階層は八十八階層だそうなので、百階層がどうなってるのか知りたい気持ちもある。
だから、この力がどれだけ通用するのかを、このダンジョンで確かめ――
「着いた、ここがフラバルドの第一階層だ」
視界一面に広がるは緑色の絨毯、天井は青空色をしていて綺麗だった。
風が吹き抜け、冒険心を擽ってきた。
「おぉ……」
風がここまで気持ち良いものだとは思ってもいなかったのだが、これがダンジョン、洞窟のようなものを想像していたのだが、全然違った。
風によって多くの花弁が舞っているようで、幻想的な景色が目の前にある。
「凄いな、これがダンジョンなのか……我も初めて入ったのだが、こんなにも明るいものなのか?」
「現実世界と切り離されてはいるが、ちゃんと昼夜存在してるぜ」
「す、凄いです……」
ここで、ユスティも俺達に追い付いてきた。
初心者が訪れる最初の階層、ここから俺達は下へ下へと降りていく事になる。
しかし、些か人の数が少ないように思えるが、何故だ?
「そりゃ、ここは初心者が慣れるための場所だ。稼ぐには下に潜ってく必要があるのさ」
「流石、迷宮王だな」
「お前達なら、すぐに下へと行けるだろうぜ。ま、取り敢えずは連携の確認のために進もうぜ。な、隊長」
そうだな、先に……隊長?
「待て、誰が隊長?」
「レイ、お前だろ? なぁ」
周囲へと視線を向けると、全員が頷いていた。
ここは年功序列、更にはダンジョンの経験者であるダイガルトがリーダーを務めるべきだろうが、何で俺が隊長を任されてるのだろうか。
文句を言おうとしたところで、先手を打たれた。
「俺ちゃんは斥候メインだから、隊から離れる機会が多いんだ。それにリノの嬢ちゃんは未来予知に専念、ユスティの嬢ちゃんはお前さんの奴隷、セラの嬢ちゃんは後ろの警戒、何もしてないお前さんが適任だろ」
「俺は荷物持ちなんだが?」
「ブレーン的役割を担うのに、知識もある。俺ちゃんはお前さんを推薦する。他の皆も一緒だ。ギルドでお前さんがギルマスと会話が終わるまでに決めた事だ」
戦わないのならば構わない、と言いたいところだが、俺は俺で自由に動きたいし、チームを纏めたりするガラでもないので、パーティーリーダーを務める気は無い。
しかし、このまま駄々を捏ねても結局は変わらないだろうし、ならば諦めて任に就こうではないか。
「分かった。なら、ダイトのおっさんとリノの探知能力を頼りに進もう。何かあったら俺に報告、セラは背後の警戒を頼む」
「「「了解」」」
「ユスティはいつでも戦闘できるように準備しておいてくれ」
「はい、分かりました」
リーダーは、パーティーの命を預かる責任重大な役割を持っていると俺は思う。
勇者パーティーに所属していたからこそ、アルバート達を見ていたからこそ、パーティーについては理解しているつもりだ。
だからパーティーの命を背負う覚悟を持って、俺は、俺達はダンジョンの奥深くへと突き進んでいった。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
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