第76話 事件と冒険の序章
超巨大迷宮都市フラバルド、その大きさは大都市三つ分に相当する。
今目の前に見えている都市の外壁は途轍もない大きさであるため、まるで城塞都市だと思わせるくらいの迫力があった。
稀にモンスターが迷宮より地上へと侵攻するらしく、そのための外壁でもあるらしい。
(結界まで張られてるのか……)
しかし、触れずとも分かる。
この手ならば、簡単に全てを破壊できてしまうという事を。
「「止まれ!!」」
俺達五人、荷物を携えてここまで歩いてきたところで、ギルドの制服を着た男が二人、槍を手にした職員達が行手を阻む。
二人のうち、片方は金髪の大柄な男、もう片方は青髪の優しそうな青年だった。
「何者だ! フラバルドは今、厳戒態勢中だぞ!」
「都市に入れる事はできません! 今すぐ立ち去ってください!」
門前払いとは、まさにこの事だろう。
本当ならば、グラットポートで貰った封書を見せれば通してもらえるのだろうが、いざ見せようと思うと、自分の事をひけらかすような気がして、躊躇してしまう。
ここまで広まってないと願いたいが、ギルドで内外の情報は通信でやり取りできるからこそ、俺=ノアだとバレると嫌なのだ。
冒険者として沽券に関わる。
これは俺にとって死活問題だ。
「ふぅ、仕方ねぇなぁ。俺ちゃんSランク冒険者のダイガルト=コナーってんだ。『迷宮王』って言った方が分かりやすいか?」
ダイガルトはギルドカードを提示した。
金色に飾られているSランク冒険者の証を見た二人のギルド職員は阿鼻叫喚としていた。
「ま、まさかあの伝説の!?」
「ぼ、僕、ファンです! あ、握手してください!」
「良いぜ!」
俺は一体、何を見せられているのだろうか。
ギルド職員二人がダイガルトという男を知っていたらしく、ファンだと言って握手をしていた。
「あ、ありがとうございます!」
「おぅ。まぁ、フラバルドが厳戒態勢ってのは知ってるんだが、その上で俺達は来たんだ。入れてくれないか?」
「し、しかしですな……」
「迷宮王はともかく、後ろの四人は流石に……」
誰かも知らない人間四人を無闇に入れる訳にはいかないのは分かる。
それに、セラに関しては身分証すら持ってない。
流石にダイガルト一人入れて俺達だけ入れないというのは来た意味を失ってしまうため、腰のポーチへと手を突っ込んで封書を取り出した。
「グラットポートのギルドマスターからだ。フラバルドのギルドマスターに取り次いでくれ」
「え、あ、あぁ……少し待っていろ」
金髪ギルド職員が奥へと消えていった。
取り次いでもらえるかどうかは半信半疑だったのだが、やはりギルドの封蝋のお陰だな、信憑性はあるようだ。
二人のうち一人が関所の中へと入っていき、残された一人が俺達を見る。
残ったのは青髪の方か。
「貴方達はフラバルドに何しに来たんですか?」
「ダイトのおっさんに誘われてな、ダンジョン攻略に来たんだ。とは言っても俺は戦えないから、戦闘職である彼女が護衛として就いてる」
「よろしくお願いします」
「は、はい……よろしくお願いします」
ユスティが微笑みかけると、ギルド職員の男性も少し顔が緩んでいた。
やはり天使並みの破壊力を持っていたらしい。
少しの間、ギルドの職員を待っていると、慌てたように出てきて急に土下座し始めた。
「ぶ、無礼を働き、本当に済まなかった! ギルドマスターよりフラバルドへの通行許可が降りたが、先に関所内でフラバルドについて説明をさせていただく!」
俺は本当に何を見せられているのだろうか?
さっきはダイガルトの握手会を、そして今度は俺に対して土下座を、望んでないのだが何で土下座なんかしているのかは明白だ。
あの封書のせいに決まってる。
だとしたら、あの封書には何が書いてあったんだろうかと思うが、どうせ碌な事じゃないだろう。
(ま、フラバルドでの事を説明してくれるんなら、こっちとしても有り難いしな)
普通に迷宮攻略に来ただけのはずなんだが、どうもそうは言ってられなさそうだ。
最初のギルド職員の反応からすると、余所者が入るのは困るらしい。
それも当然、新たな犠牲者を増やす事になりかねない。
だが、それでも俺は俺でやるべき事がある。
俺達五人、関所の横に備えられていた扉へと案内され、全員が腰を下ろせるように配慮してくれたらしく、四角いテーブルの周りに椅子が並べられていた。
(座れ、って事だよな?)
すでにダイガルトが丸椅子に座っており、角を挟んでセラ、俺、ユスティの順番に座る。
リノはダイガルトの向かい側に座っていた。
荷物はその場に置き、門番をしていた人が改まって自己紹介から始めた。
「申し遅れた。私はギルド職員兼戦闘員のリューゼン、こっちが最近ここに来たばかりのギルド職員、ローランだ」
「ろ、ローランです、よ、よろしくお願いします!」
金髪の方がリューゼン、そして青髪の方がローランだそうだ。
ダイガルトと同じくらいの年齢で、派手なボッサボサの金髪に加えて碧眼のおっさん、堅物そうだったのだが話してみると意外と優しそうだ。
もう一人は俺と同じくらいの年齢で、深い色合いの癖っ毛青髪にパッチリとした水色の瞳、爽やかな好青年を想起させるような人物だった。
それが俺の抱いたリューゼンとローランに対する印象だ。
しかし疑って生きてきたせいで、胡散臭く見える。
(これからフラバルドに入るんだし、もっと注意深く観察するか)
悪意を感知する眼も持っている訳だし、街中でも油断はできない。
「なぁ、俺の渡した封書に何て書いてあったのか聞いても良いか?」
フラバルドについての説明の前に、それだけは確かめておかねばならなかった。
内容によっては、俺は今後動き辛くなるからな。
犯人には舐められたままでいた方が良い。
「本来、冒険者がそれを聞くのはご法度なんだが、敢えて教えておこう。グラットポートでの魔神騒動についてはすでに世界中に情報が回ってきているが、その仔細についての整合性を証明する言葉が綴られていた」
「仔細の整合性?」
「そうだ。君達が魔神を倒したという事が本当であるのは疑いようもない。そして魔神を倒したのが、ノア君、君であるという事もね」
つまりは俺達の事も知っている、いや先程知ってしまったという事か。
「安心したまえ。私とローラン、それからフラバルドのギルドマスター以外、この事を知る人間はいない」
「そうか……それは良かった。なら、フラバルドについて説明してもらう前に、二つだけ頼み事を聞き入れてはくれないか?」
「二つ?」
「あぁ、一つは俺のギルドに登録されてる名前を一時的に変えてほしい」
俺は、魔神騒動によって広まってしまった『ノア』という名前から、『レイグルス』という名前に一時的にギルドカードを変更して欲しいと頼み込んでみた。
ギルドカードの情報は冒険者ギルドが管理しており、依頼内容によっては超危険な組織への侵入だったりする事もあるため、このように偽名措置も可能となっている。
これには高度な隠蔽魔法が必要となるのだが、そこは問題無いだろう。
「なら、ギルドカードを貸してもらいたい」
「ん」
俺はFランクのギルドカードを手渡して、それがリューゼンからローランへと渡っていった。
その彼が何処かへと言ってしまったが、彼の事は放置しても構わんだろう。
「それで、もう一つの頼みというのは?」
このリューゼンにそこまでの権限があるかは分からないのだが、今日は五月一日、本来ならばギルドの試験が行われる日でもある。
しかし、これからダンジョンに潜ろうというのに時間なんて無い。
「ここにいる龍神族の、ギルドカードを作ってもらいたい」
「……済まない、それは私にはできないのだ。一度ギルドマスターと会ってもらわねばならないが、それでも構わないか? 私から口添えはしておくが」
「それで良い」
口添えしてもらえるだけでも、事がスムーズに進む。
それにセラも自分の食い扶持くらい自分で稼いでもらわねばならないしな。
「俺からの頼みは以上だ。話を遮って済まなかった」
「いや、封書には『できるだけ英雄の頼み事を聞いてやってほしい』とあったものだからな。フラバルドとグラットポートのギルドマスターは旧知の仲、ある程度は聞いてやれるだろう」
それは最高だな。
だが、ある程度という言葉の範囲がどの程度なのかは分からないので、期待薄かもしれない。
それでも、無いよりはマシか。
「もし、また何か頼みたい場合、この私リューゼンか、ギルドマスターの『フランシス』に頼んでくれ」
フランシス、何処かで聞いた事のあるような名前だったが、何処だったか……
「それより早く聞かせてくれよ。エレンが待ってんだ」
「す、すみませんでした、迷宮王。コホン、ではこれより説明を始めさせていただきます」
彼はタブレットのようなものをテーブルに置いて、そこに魔力を流していく。
すると、空中に何処かの地図が投影された。
「まさか……ダンジョンか?」
「そうだ。まず、これを見てもらいたい」
ダンジョンマップが外側から映されており、その真ん中辺りをリューゼンがタップし、ダンジョンが切り取られたように断面図が見えた。
これは何階層のマップだろうか?
「あの、このバツ印は何なんですか?」
「これは冒険者が失踪した場所、と捉えてくれたまえ」
数はザッと見て十人くらいか。
「何階層なんだ?」
「四十七階層だ。四ヶ月前、冒険者の中でも新精鋭だった『蒼月』と呼ばれるパーティーが姿を消した事が、後に起こる冒険者失踪事件の発端だった。そこでは激しい抗争があったのを他の団員が確認していてな、しかし誰一人としていなかったそうだ。荷物も置かれたままだったらしい」
蒼月、確かパーティー単位でAランク相当の実力を持っていたと噂の、あの蒼月か。
勇者パーティー時代、噂くらい聞いた事あった。
まぁ、主に悪い噂しか聞かなかったのだが……
「ダンジョンに入る前、必ず入り口でギルドカードの登録が行われる。それは冒険者が何処で行方不明になったのかとか、そういったのを把握するためでもある」
「死亡扱いにはならないのか?」
「死亡した場合、ギルドカードの効力は失われる。つまりギルドの情報名簿から名前が消えるのさ」
へぇ、そんなシステムになってたなんて、初めて聞かされたな。
確かに本人の血を媒体に、ギルドカードは戦闘記録とかも自動で記録していく。
つまり、命そのものが繋がっているのだろう。
「しかし行方不明になった奴等全員のギルドカードは回収され、フラバルド支部に置かれている。まだ効力を失ってないのだよ」
「じゃあ、生きてる可能性があるって事か?」
「……」
ダイガルトの問いに対し、何かを言おうとして言えずにいた。
恐らく、『生存』という定義が広すぎるせいだろう。
「だから失踪事件、行方不明になったまま帰ってこないって訳か」
「の……レイ君の言う通りだ。しかし保護した者は錯乱していた上、自害してしまったからこそ情報は碌に揃っていないのだよ」
失踪した事実だけが残されて、他の情報は殆ど得られていないという状況下にあるようだ。
「その自殺した冒険者について、もっと詳しく教えてもらえないか?」
「……良いだろう。お嬢ちゃん達は刺激が強すぎるから見ない方が良いと先に言っておく」
何処かからファイルを持ってきて、それをテーブルの上へと置いた。
写真を撮っていたようで、俺はファイルを開いて自殺した男の写真を見ていく。
「アンタ、よく平気で見れるわね」
「見たくなかったら目を瞑ってろ。結構詳しく載ってるようだが……」
男は何処かから持ってきたロープを首に巻き付けて自殺していた。
これを縊死と言ったんだったか。
「私達は交代制で、この都市の警備を任されたり、ギルド支部で仕事をしたりしている。その男とは面識もあり、話を聞こうともしたが、錯乱していて会話が成立しなかったのだよ」
錯乱してた割には随分と綺麗に死んだようで、争った形跡や服の乱れた形跡が一切無く、部屋には端っこにベッドがあるだけ、他の家具は倒れた椅子以外何も無かった。
「意外と広いんだな、この部屋」
「まぁ、元々は物置きに使ってたからな、空き部屋が無かったから、急遽拵えたせいでベッドを用意するだけで他は何も用意できなかったのだよ」
中央で綺麗に首吊って死んでいた。
入ってきた人はビックリした事だろうな。
地面から三十センチくらい浮いており、涙を拭ったような跡も目元に見られる。
装備はそのまま、ポーチや短剣が腰のベルトに装備されており、どうやら斥候のような職業に就いていたというのが特徴として映っている。
「何も用意できなかったって事は、このロープと椅子は何処かから持ってきたって事だよな?」
「ん? それ等は確か……物置きに仕舞われていたものだったはずだ」
「そうか」
物置きは、その部屋から少し離れていたらしく、冒険者が知る由も無いという事だ。
「これ、殺人じゃないのか?」
「なっ……いや、自殺だと断定されたはずだ。どうしてそう思うのかね?」
「不自然な点が幾つかあるからだ」
まず一つ、自殺を選ぶなら何故持っていた短剣で自害しなかったのだろうか?
錯乱していたのならば、それくらいしても可笑しくなかったと思う。
「た、確かに言われてみればそうだな……」
「二つ目、錯乱してたなら、何でワザワザ面倒な首吊り自殺を選んだんだよ?」
ロープを照明に結び付けて、椅子の上に立ち、そして首を吊る、この一連の動作には錯乱している男には不可能に近いだろう。
まぁ、錯乱が嘘だった場合は矛盾してしまうのだが、そうなると錯乱の演技をしていた理由が分からない。
「そして三つ目、これが最も不可解だ。何で二日も経過してから死んだんだ?」
「ん? それの何処が不自然なのかね?」
「だってそうだろ。錯乱していたとは言え、飯もちゃんと食ってるし……」
それに、涙を拭った痕跡がある。
後悔とかで泣き、それを拭った後に自殺、まるで覚悟を決めたみたいだ。
いや、だとしても錯乱してた奴が二日後に急に自殺を選ぶというようにも思えないし、コイツがシルエットを見てしまったから口封じに殺された、と取る方が自然だ。
だが、そうだとしても殺人の可能性でも不自然な点が残ってしまう。
(もし犯人がいたとして、何で殺されたんだ? そして何で冒険者の短剣で自害したように見せなかったんだ?)
不自然なのはそこ、自害に見せ掛けるなら手っ取り早い死に方を選ぶだろう。
争った形跡が無いという事は、冒険者が寝ている間に死んだという事で、もしかして血に対して恐怖心を抱いていたり、何かしらの弱点だったりするのだろうか?
(だとしたら殺害方法は何だ?)
自殺に見せ掛けるためだった場合、どうやって殺したのかが分からない。
外傷は見られず、毒物反応も無かったそうだ。
ただ、遅効性の睡眠薬だけが体内より検出されたと書いてある。
(考えてても仕方ないか)
職業なんてものがあるのだ、予想外の殺害方法があったとしても不思議じゃない。
それにミステリーは苦手だ。
ここはダンジョンに直接潜って捜査した方が良いだろうと考える。
「とにかく、今の話は後でギルマスに報告しておこう。それよりダンジョンでの事件の方も、もう少し説明を加えさせてもらおう」
あ〜あ〜唸ってたという証言と、それから二本の角というシルエットの事か?
「まず、失踪した階層は四十一階層から五十九階層の幅で発生している」
「ボス部屋を挟んでるって訳か」
「そして失踪した冒険者は、合計五十人を超えている」
そんなにもいるのか?
「あれ、なぁダイトのおっさん」
「何だ?」
「エレンのやつ、通信で四十人近く失踪してるって言ってなかったか?」
「そうだったな」
情報の食い違いが発生している。
どういう事だ?
「あぁ、それは、鳴雷達がダンジョンに潜り続けているからだ」
「どういう事だ?」
「あぁ、そういう事か。アイツ、四十九階層の休息街を中心に捜査してるんだな?」
「迷宮王の仰る通りです」
俺は首を傾げて不思議そうな表情をする。
それに気付いたユスティが、耳元で囁くように教えてくれた。
「ダンジョンに幾つか存在する、モンスターの現れない冒険者の楽園ですよ。それを休息街って言うんです」
「そ、そうなのか……」
それは知らなかった。
ダンジョンって、全部が冒険のための場所だとばかり思っていたため、そんな場所もあるのだなとビックリしてしまった。
そこを拠点としているようで、多くの冒険者がダンジョンから出ずに生活しているそうだ。
「あれ、でもエレンって確か六十階層を攻略しようとしてなかったか?」
「それがですね、半月前にギルドより依頼したんです。それを引き受けてくれたのが鳴雷だったんです」
二人の会話を聞きながら、俺は別の事へと思考を移していた。
今問題となっているのは失踪事件の犯人が特定されていないという事。
職業不明、二本の角以外の外見不明、性別や年齢、全ての情報が不詳なのだ、これでどうやって誘拐犯を探せって言うんだろうか?
「なぁ、エレンとパーティーを組んで探索に当たってる奴等がいるって聞いたんだが、本当なのか?」
「本当だ。実際に、実力派揃いだから誘拐されたりしてないのだがな……」
何か懸念事項でもあるのか、目を泳がせている。
しかし、本当にパーティーを組んでいたとは驚いてしまった。
あの孤高の女が、パーティーを……
(まさかエレンが偽物だった、なんて事もあるのか?)
魔神騒動の時に、ナトラ商会の会長に入り込んでいたらしい魔族もいると聞く。
その可能性も無い訳ではないが、あの女が殺される未来が想像できない。
「実りは無いそうだ」
収穫ゼロ、尻尾を見せれば今頃は捕まってるだろうし、犯人が狡猾であり、同時に慎重な性格をしている証拠だろうな。
しかし、謎の多い事件だな。
分かっている事を整理すると、誘拐犯は嘆くような声を多数上げていて、二本の角がシルエットとなっていたというらしい。
そして、保護された冒険者が殺された可能性を孕んでいるという事、それから行方不明事件が多発しているのは四十一階層から五十九階層まで、と。
(四ヶ月で行方不明者は五十人以上、冒険者のランクはSからFまでとバラバラ、全てダンジョンで発生している事だな)
迷宮攻略は外からの監視の目が無いせいで、こういった悪事の巣窟となる場合も多い。
前例としては、迷宮の中で麻薬を栽培して売り払って儲けてた奴がいたし、取引現場として利用されたりする場合もある。
犯人は迷宮攻略をしている冒険者なのはまず間違いないだろう。
しかしダンジョンを締め出した場合、不満の声が上がって閉鎖にできないのだろうと目に見えている。
「何か気になった事とかはあるか?」
「……いや、特に何も」
正直お手上げだな。
ダンジョンの下層へと向かう程に、知らない道や隠し部屋とかも多くなってくる。
全て捜索するのは、ハッキリ言って不可能に近い。
エレンとパーティーを組んでいるBランク冒険者か異能持ちだと聞いたが、それでも実りは無いと断言までされてしまった。
つまり、情報が漏れている可能性がある。
情報屋が犯人ならば簡単に逃げられるだろうし、国から出られなくともダンジョンで生きていける。
「誰が狙われるか分からない。狙われた冒険者に共通点は無かったからこそ、君達も気を付けてくれ」
「あの、一つ宜しいだろうか?」
ここでリノが手を挙げる。
未来予知がバグを起こして使えないからこそ、捜査は難航してしまう。
何か気になった事でもあったのだろうか?
「階層喰いが犯人ではないのか?」
犯人が階層喰いだとすると可笑しな点が出てくる。
そのモンスターは空間丸ごと擬態して、迷い込んだ冒険者を閉じ込めてしまう。
つまり装備品やギルドカードすら残るはずが無いのだ。
それなのに何故か現場に残っていたカードが、支部に置かれていると言う。
それに荷物も残っており、階層喰いは自分から攻めたりしない。
「犯人は別にいるんじゃないか? 或いは、何等かの職業で階層喰いを操ってるかもしれない。こればっかりは憶測の域を出ないから何とも言えんが」
「成る程……」
「アタシも一つ良い? 最初に蒼月ってのが集団失踪したんでしょ? 彼等が犯人とかの可能性は?」
蒼月は黒い噂が多いため、確かに集団失踪に見せかけて攫うって方法もある。
転移魔法を使えば、迷宮から出られるし。
「このフラバルドのダンジョンは特殊でね、外界と内界は切り離されているのさ。だから、飛ぼうとしても不可能なんだ」
「へぇ、そうなのね」
「でも、何でセラは蒼月が犯人だって思ったんだ?」
「勘よ!」
「勘かよ」
自身たっぷりに勘だと言い切ったが、本当に恐れ知らずだな、この女は。
いやしかし否定なり肯定なり、議論して情報を出し合って整理していく方が俺も分かりやすいため、そういう意味では彼女は有り難い存在だ。
「最初は四十七階層、次は五十六階層、そして次は四十二階層、四十五階層と、バラバラなのだよ」
そして次は四十一階層、モンスターの現れない四十九階層は被害ゼロだと知ったが、やはりモンスターの仕業なのか?
駄目だ、まだまだピースが欠けすぎている。
これはどうしようもないな。
でも、もしも階層喰いが犯人なら、死骸を操っていた事に対しても何かしら説明が付きそうではある。
しかし、ここは憶測でしか物事を測れないため、思い込みは控えよう。
「ユスティは何かあるか?」
「はい……えっとですね、一つ思ったんですけど、事件の発端が蒼月集団失踪ではないんじゃないかって」
その発想は無かった。
しかし蒼月が失踪する前は、目立った行方不明事件とかは無い。
何故そう思ったのか。
「私もセラさんと同じく単なる勘ですけど、いきなり一人の人間が大人数、それもAランク相当の相手を全員捕まえられるのでしょうか?」
「言われてみりゃ、そうだ。何で最初に蒼月を狙ったのかって話だ」
可能性の話、これは全てを予想の延長線上で行われているものだ。
しかし、その予想の中に意外な展開も見えてくる。
「……まさか、四ヶ月以上前からすでに失踪事件は起きていた?」
俺の漏れた言葉が場を静寂へと導いた。
狙われたのはF〜Sまでの冒険者全体、ならば上層でも行方不明だとか死亡扱いになっている事件も、今起こっている失踪事件に関わりがあるのかもしれない。
「冒険者が失踪したのは蒼月からかもしれないが、失踪区間で死亡した冒険者や、上層で死亡扱いになってる低ランク冒険者も、もしかしたら関わってる可能性もある。調べてくれないか?」
「少し時間が掛かるが、良いか?」
「構わない。もし分かったら、俺のギルドカードに連絡を入れて欲しい」
「了解した」
積極的に介入する事になっているが、ホント俺何でここに来たんだろう?
今更だが、事件に首を突っ込もうとしている。
ともかくフラバルドで何が起こっているのかは大体理解した。
「ダンジョンに入るためには冒険者資格が必要となる。そこの龍神族のお嬢ちゃんは一度ギルドに行ってギルドマスターに事情を説明してくれたまえ」
「えぇ、分かったわ」
お嬢ちゃんって……
「何よ?」
「いや、何でも」
セラに睨まれてしまったので、咄嗟に目を逸らしてしまった。
「あの、ノアさんのギルドカード、偽装措置が完了致しました」
「あぁ、助かった」
ローランからギルドカードを受け取って、一度それを起動させてみる。
空中に情報が投影される。
ちゃんと名前が『レイグルス』になっていたので、これで一先ずは俺がノアだとバレる事は無いだろう。
「一応、規則となってるからな、荷物検査してもらう」
「荷物検査?」
「安心しろ、嬢ちゃん達は女性のギルド職員にしてもらう事になっている。隣の部屋ですでに待機しているから、荷物持って向かってくれ」
そんで俺達はここで行う事になる、らしい。
ローランが俺とダイガルトの荷物を持って、近くに置かれていた台の上に乗せて、透過装置のようなもので確認していく。
「俺達は何をすれば良いんだ?」
「手を横に広げろ」
リューゼンに言われて、俺達は手を広げる。
そして、彼が手に持った魔導具を起動させて、俺達は光を浴びてスキャンされた。
「これで検査は終了だ。特に異常物の持ち運びは見られなかった」
結構ザルな警備だな。
俺の影には大量の荷物が入っており、それを調べられない限りは安心だ。
まぁ、空間魔法とかも持ってる人間はそんなにいないだろうし、それが妥当なのだろう。
ってか、それ一般人用じゃないのか?
「レイ君、後でギルドマスターに会うと良い。恐らく色々と便宜を図ってもらえるはずだ」
「そうか。色々ありがとな、リューゼンのおっさん」
最初は門前払いされるかと思ったが、意外にも封書の効果が絶大だったな。
これはアダマンドのおっさんと、メリッサに感謝だ。
そして俺とダイガルトは、検査を終えた荷物を返してもらい、ユスティ達三人を待った。
そして数分もしないうちに、三人が戻ってきた。
「お待たせ〜」
セラ達が戻ってきて、五人全員が揃う。
そしていよいよ、俺達はフラバルドの中へと進みゆく。
「超巨大迷宮都市フラバルドへ、ようこそ!」
この光溢れる先に何が待ち受けているのか、緊張と、そして期待、覚悟を背負って、迷宮都市へと足を踏み入れたのだった。
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