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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
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第73話 旅は海を超えて

 錬金術師という職業は、自分でも不遇職だとばかり思っていた。

 実際に、暗黒龍と魂の契約をしなければ、封印のようなものが解除される事も無かっただろうし、こうして人助けする事もできなかっただろう。

 今、目の前では可憐な龍神族が眠り姫のように、静かに眠っている。


(焔龍族、こりゃまた珍しい種族だな)


 龍神族自体、数が少ない。

 天使族が遠い歴史の彼方へ消えてからは、実際に龍神族が最強種族となった。

 龍神族というのは総称を表し、その中に幾つもの種類に分かれている。

 そのうちの一つが焔龍族、炎を操る種族である。

 実際には炎を操るというよりは、炎を吐いたりする事ができ、熱耐性が凄まじいのだ。


(角の再生が始まってるし……生命力半端無いな)


 強靭な肉体、無尽蔵な体力や魔力、不屈の精神、空の覇者という名前の通り、最強種族であるのは間違いない。

 真っ赤な髪は複雑そうな髪型となっている。

 何だっけ?

 シニヨンヘア、みたいな名前だったような気がする。

 団子の周りに三つ編みで纏められ、活発そうなイメージがある。

 綺麗な赤い髪、触れてみると乾いていて、結構サラサラとしていた。

 何歳なんだろうか?


(気になるな)


 女性に年齢を聞くな、とよく言うけど、この世界では年齢=失礼とは限らない。

 人族に限った話で言うと、年齢は命の刻限(タイムリミット)でもあるのだが、エルフや龍神族にとっては年齢というものを超越した存在である。

 実際に数千年生きても外見が二十代と変わらないとか、稀にいるしな。

 ハイエルフの歴史で、一万年生きた伝説のエルフがいるという噂もあるくらいだし、正直そこまで驚きは無い。


(確か名前は……『リーグルスタ』、だったか)


 伝説のエルフ、昔の大戦でも数々の武勲を挙げた男だったと聞いている。

 勇者パーティー時代に、とあるエルフから聞いた話にあったのを思い出していた。

 そのエルフは気さくで、陽気で、よく歌って踊ってた。

 エルシードの民だったはずだが、今も元気で過ごしてるだろうか。


(もう夜中の三時だし、俺もそろそろ寝るか……)


 この部屋は元々俺一人で借りていたのだが、龍神族を助けた事で更に一部屋貸してくれる事になった。

 別の部屋へと行こうとしたところで、呻き声のようなものが聞こえてきた。


「…ぅぁ……あれ、ここ……どこ?」


 閉じられていた瞼が持ち上げられ、綺麗なエメラルドグリーンの瞳は輝いて見える。

 ユスティの右目は黄緑のような明るい色に対し、こちらは深緑色をしていて落ち着きがある。


「気が付いたか」


 俺の声が聞こえて、ビクッと身体を震わせていた。

 驚く事も無いだろうに。


「アンタが……暗黒龍?」


 やはり、彼女は俺のところに会いに来たらしい。

 いきなり俺の事をそう呼ぶという事は、俺の力について知ってるのか、或いは感知したのか、それか単なる当てずっぽうか。

 ともかく俺は暗黒龍ではない。

 正確に言えば、使徒なのだろうが、俺自身力に振り回されてて使徒と呼べるのかは曖昧である。


「暗黒龍ではないが……奴と魂の契約をしたのは俺だな」

「契約……」


 そう、魂の契約。

 そのお陰で奴の力を使えるのだが、今は身体に呪詛が根を張っている状態なので、今後俺の身体がどうなるのかは分からない。

 しかし、今は広がっているようには見えず、大人しい。

 副作用も無く、別に痛みを感じたりはしていないので、不思議に思っている。


「俺は――」

「やっと会えたぁぁぁぁぁ!!」

「うおっ!?」


 急にベッドから飛び出して俺へと抱き着いてきた。

 スキンシップが激しく、胸元に柔らかい感触が二つ感じられる。


「ちょっ――離せ!!」

「や!! 絶対離さないもん! アタシのつがいになって!」


 いきなり来て、いきなり抱き着いて、そしていきなり宣言した。

 巫山戯るのも大概にしてほしいもんだ。

 しかし抱き着く力が物凄く強く、骨が軋んでいる。

 俺は今はまだ誰かと契りを結ぶ気は無いし、このまま冒険していたい。

 それに俺には目的ができた。

 自分が何者なのかを探す事、その一番の近道が星都ミルシュヴァーナである事がアダマンドの言葉から分かったのだが、今は向かう予定は無い。


「互いの自己紹介も無しに決めるな。ってか抱き着くな」

「ふぁ……良い匂い」

「匂いを嗅ぐな!」


 悍ましい何かだ、これは。

 俺の肩口へと顔を埋めて匂いを嗅いでいるのだが、こんなところを誰かに見られでもしたら――


「ご主人様? 何やら騒がしいようですけ、ど……」


 耳の良い獣人族のユスティが、ラフな格好で部屋へと入ってきた。

 お約束なのだろうか……

 そして俺達のこの光景を目の当たりにして、手を前へと翳す。


「『命を狩る者なりて この手に顕現するは湾刀 我が眼前にて実像を――」

「待て待て! 誤解だ!」


 コイツ、躊躇無く詠唱してやがる。

 禁止命令は、『〜を禁ずる』とかちゃんと言わなければならないのだが、その前に詠唱を終えてしまった。

 手に持ったショーテルを振り上げて、虚ろな目をして俺へと振り下ろしてきた。


「うわっ!?」


 抱き着かれていた状態から、俺を軽々とベッドへ投げた龍女がユスティの前へ出た。


「『魔法付与(エンチャント)・ガードスキン』」


 腕を前に出して、寸止めしようとしていたユスティの武器を粉々に砕いた。

 肌を硬化させる付与魔法か。

 人族が使ったところで武器が粉々にならないだろうが、そこは龍神族、大した防御力に脱帽してしまう。


「ちょっと、アンタいきなり武器取り出すなんて危ないじゃない。彼が怪我したらどうすんのよ?」

「なっ……」


 何という横暴、ってか俺ベッドから落ちたんだが?

 頭打ってしまったので普通ならコブ一つできてるところなのだが、超回復が作用して即座に治療される。


「怪我以前に人を投げんな」

「あ、ごめん」


 何という軽い謝罪だろうか。

 謝ってほしい訳ではないのだが、何だか彼女のペースに巻き込まれているようだ。

 調子が狂ってしまう。


「ユスティも、武器を仕舞え」

「す、すみません……」


 シュンとして武器を仕舞ったユスティを見て、俺は身体を起こして龍女へと視線を向けた。

 いきなり抱き着いてきたり、いきなり人をベッドへ投げ飛ばしたり、本当に何なんだろうかこの女は?


「ねぇ、アンタが彼の愛人一号なのかしら?」

「「は!?」」


 急に何地雷踏んでんだ、マジで!?

 そして何故かユスティが顔を真っ赤にして照れていて、俺自身反応し辛い。


「コイツは俺の戦闘奴隷だ。基本的に自由にさせてる」

「えっと、ユーステティアと申します。できれば、ユスティと……」


 互いに自己紹介してなかったので、これを機に名前くらいは交換した方が良いと判断した。


「アタシはセルヴィーネ=エルガー=ラスティヴェイド、長いからセラって呼んで」


 エルガーは確か、長い事生きた超強い炎龍の名前だったような、違ったような。


「それで、アンタは?」

「ん? あぁ、俺はノア、好きに呼んでくれ」

「……なら、旦那様!」

「「却下で」」


 何故かユスティとハモったが、旦那様と言われるのは流石に忍びない。

 そもそも契りすら結んでないし。

 俺は彼女と出会ったばかりであるので、旦那様と呼ばれるのは変だ。


「えぇ? じゃあ……ハニー!」

「何でだよ! そこは普通ダーリンじゃないのか?」

「ならダーリンで」

「やだよ! 認めねぇぞ俺は!」

「好きに呼んでくれって言ったのに。じゃあ、無難だけどノアで良っか」


 じゃあって何だよじゃあって?

 ってか、名前変えてなかったな。


(ノアって名前がフラバルドにも広がってるかもしれないし、新しい偽名考えなきゃな……)


 グラットポートの英雄、そう広まっているらしく、一週間以上が経過した今、噂がどんな風に旅をしているのか分かったもんじゃないので、しばらくは新しい偽名を名乗る必要がある。

 あれ、でも封鎖されてるんだよな?

 いや、ギルドなら情報を持ってても可笑しくないか。

 どうしようか。

 幾つか候補はあるのだが、それだとより面倒な事になるだろう。


(錬金術師だったレイデリック=S=パルマーの名前を適当に拝借するとしようか……いや、それだとバレた時に何て言われるか)


 そのまま使うのではなく、何か合わせて……


「あ」


 エルフの英雄の名前、少しだけ借りるとしよう。

 レイデリック+リーグルスタ=レイグルス、よし、これで行こう。

 『レイグルス』、そう名乗る事にしよう。

 ちょっと安直な気もするが、どうせ偽名なのだし、気にしたら負けだな。

 ヴァルシュナークという家名も使わずに、別の何かの家名を名乗った方が良いのかもしれない。


この世界(クラフティア)での俺の新しい家名……少し捩ってクラウディア、これで良っか)


 そこまで思い悩む必要性は無いので、これからフラバルドでは、レイグルス=クラウディア、そう名乗る事にしようと決めた。

 が、ここでその名前を名乗ると、余計にややこしくなるので、セラには今使ってる偽名を教えた。


「名前は分かった。それよりセラ、お前何でボロボロの状態で漂流してたんだ?」

「ホントは里を出ちゃ駄目だったんだけど、物凄い力を感じ取ったの。八日前……いや、もう九日前かしら、不思議な力がこっちの方から感じたの。それでね、同族に殺されそうになって逃げてたんだけど……途中で力尽きて海に落ちちゃったって訳」

「それで漂流してたってのか?」

「えぇ」


 満面の笑みで答えていた。

 死に掛けてたのに、呑気なものだ。

 しかし里抜けするだけの価値があったのかと疑問に思ってしまう。


「自由奔放だな」

「よく言われるわね。でも、後悔したくないから、アタシは自由のためにここまで来たの。そしてアンタが助けてくれた」

「まぁ、そうだな……」


 本当は助ける気は無かった、とは言わないでおこう。


「で、俺に何か用か?」

「用? そうね、考えてなかったわ」


 ボケ……てる訳でもなさそうだ。

 単に運命を感じたから行動しちゃえ、みたいなノリで飛び出したのだろうか。

 意外とお馬鹿さんなのかな?


「なぁ、どうやって俺を知ったんだ?」

「『蒼穹へ響く波動エターナル・エア・クロシェット』、アタシの権能の一つで感知したの。どう? 凄いでしょ」


 ここからの距離を考えると、物凄い感知能力を持っているようだ。

 そして、セラは権能の一つと言った、それはつまり彼女にはまだまだ未知なる力を秘めているという事、霊王眼で見た気配は正しかったようだ。


「他には何が使えるんだ?」

「えっと……実は使えないの」


 苦笑いしているが、持っていないとは言ってないため、恐らくは封印でもされたのだろう。

 それか身体に負荷が掛かったり、俺の右目のように自分の命を代償としたものなのか、考えるより先にセラが教えてくれた。


「一人で旅してた頃、とある遺跡で罠に掛かっちゃって、四つある権能のうち三つが使えなくなっちゃったの。どれも便利だったんだけど……」


 遺跡の罠が発動して、彼女の持つ潜在能力を封印したそうだが、そういった罠はあまり聞かない。

 それに彼女から嘘の気配があった。

 遺跡の罠という部分だけに嘘が見え、何か言いたくない事情でもあるらしいのだが、俺からは聞く必要性を感じられない。

 死ななかっただけマシと言えるが、それでも龍神族としては取り戻したいのだろう。


「封印されたなら、その感知能力とやらも使えないんじゃないのか?」

「いえ、それだけは何故か使えたのよ」


 理由は不明だが、過ぎた事を考えるよりも今どうするべきかを考える必要がある。

 助けたは良いが、この女を同行させるべきかどうか。

 正直、フラバルドへとダンジョン攻略に行くために、彼女を信用する時間が足りない。

 能力、装備、食糧、連携、色んなものも不足した状態だ。


「セラさんは、これからどうするのですか?」

「う〜ん、行く当ても帰る場所も無いし、しばらくはアンタ達に付いてっても良いかしら?」


 どれだけの強さを秘めてるかは霊王眼で見れば一目で分かるので連れてっても良いのだが、そこはダイガルト達と要相談……いや、相談は必要無いか。

 一先ずは眠たいので、寝るとしよう。


「まぁ、それは今日の朝に決断する。それまでは休め。隣の部屋にいるから、何かあれば呼んでくれ」

「アタシ眠くないんだけど……」


 そりゃ、昼からずっと眠り続けてたんだから、眠くないのは当然だろう。

 が、こっちとしてはずっと起きてたので、そろそろ寝ようかと思っていたところなのだ。

 もう三時過ぎ、良い子は寝る時間だ。


「俺は眠いんだ。ユスティも夜中に済まなかったな」

「いえ。では、お休みなさいませ」

「あぁ」


 先にユスティが戻っていった。

 彼女の寝室は俺の休んでる部屋の向かい側なので、俺達の喧騒のせいで起こしてしまった。

 さて、俺も就寝しよう。


「とにかく明日話そう。お休み」

「ぁ――」


 これ以上付き合ってられん。

 錬成すれば脳を誤魔化して睡眠を抑える事ができるが、脳に負担を掛けるのでそれはしない。

 どうせ明日死ぬ訳でもないので、俺は自分の部屋へと戻って寝た。





 焔龍族は肺付近に『火竜器官』と呼ばれる、高音を保つための特殊な器官が存在する。

 高エネルギー貯蓄によって、いつでもブレスを吐く事ができるそうなのだが、そのエネルギーによって高い温度を保っているために、現在物凄く暑かった。


「お前等……」


 朝起きると、ベッドには二人の少女が俺の腕を抱き枕にして眠っていた。

 片方は少女ではないが……

 ユスティが左腕に抱き着いてスヤスヤと、セラは右腕に絡み付いて逃さないぞと言わんばかりに離してくれず、未だ寝ている。


(何で俺が女と同衾しなきゃならんのだ)


 単に暑苦しいだけだ。

 しかし、何とは言わないが柔らかいな。

 発育が良い悪いのレベルを逸脱しており、セラの年齢は分からないが二十代の瑞々しい肉体を持っていて、本当に二十歳、いや十七、八歳でも通じそうだ。

 左腕にユスティが抱き着いてるが、こちらも柔らかな感触を腕に感じられる。


「気持ち良さそうに寝てんな、ホント」


 普通の男なら喜んだ事だろうが、その感情すら無くなってしまったようだ。

 ってか俺、鍵掛けたよな?

 そう思って扉を見たのだが、強引に引っ張ったのか壊されてた。


(セラか、昨日の今日で無茶苦茶しやがって)


 頬を指で突ついてみると、プニプニと張りのある柔らかな感触を楽しめた。

 艶のある柔肌、人間の女性からしたら羨ましがられるものだろう。

 永遠の美肌だろうし。

 本当に何歳だ、コイツ?


「…ぅ……」


 意識が目覚めようとしていたので、これ以上弄るのは止めておこう。

 すでに太陽が地平線より顔を出していたので、もう朝の九時前後くらい回っているだろう。

 夜中の三時まで起きてたので、大体六時間くらいは眠れたのか。

 妥当な時間帯だな。

 この船は確か十一時に着くはずなので、そろそろ下船の準備をしなければならないだろう、俺は二人を寝かせておいて先に準備を開始する。


「ふぁ……ここ、は……」


 欠伸を掻き、ボサボサな白髪を揺らす少女が、部屋を見回している。


「おはよう、ユスティ」

「おはよう……ございます……」


 まだ寝惚けてるのか、乱れた衣服も正さずにボケ〜ッとしている。

 何だか可愛らしいが、流石に凝視するのは失礼なので彼女に背を向けて荷物点検をサッと済ませた。

 荷物を殆ど取り出したりしてないので、別に点検する必要は皆無に等しいのだが、これは勇者パーティー時代からの名残り、こうする事で一日を始められる、謂わばルーティーンのようなものだ。

 昔はパーティー全員の荷物管理をしたりしてたので、とっくの昔に慣れてしまっている。


(忌々しいものだ)


 今まで一度たりとも、魔境に飛ばされた時について忘れた事は無い。

 アイツ等と二度と関わりたくないし、もう関わる事も無いだろうと思っていたのだが、まさか勇者パーティー時代の知り合いとフラバルドで再会する事になろうとは、神様も粋な事をしてくれる。

 エレン=スプライトという女は、Sランク冒険者の一人である。

 ソロ冒険者でもあるため、フラバルドのダンジョンで誘拐される可能性もあるが、奴の事だ、何かしらの対策をしているはず。


(そういやセラの看病に付きっきりだったせいで、フラバルドの事、一切聞けてねぇな……)


 巻き込まれたくないが、冒険者失踪事件なんていうのは少々胸騒ぎがしている。

 もし、何かしらの予兆があるなら、セラの持つ権能を利用させてもらおうか。


「ふぁ〜ぁ……ノア、ユスティ、おはよう!」

「あぁ」

「お、おはようございます、セラさん」


 伸びをしながら、ようやく起きたセラが朝から眩しいくらいの笑顔を見せてくる。


(まるで太陽だな)


 元気満々だな。

 ヤル気に満ちていると言うか、何だか燃えていると言うか、どうしてだろうか?


「ねぇ、ノアはこれから何処に行くの?」

「これから向かうのはフラバルド、友だ……いや、知り合いの頼みでな、二ヶ月くらいはダンジョンでパーティー組もうって決めたんだ」


 しかし現在は鎖国中らしい。

 フラバルドの内情が見えないので、どう展開されてくかは予想不可能であるが、それでも迷宮ダンジョンの魅惑には勝てないだろう。


「じゃあ、何のために旅とかしてるの? 武者修行とかかしら?」

「いや、俺は目的の無い旅をしてる。まぁ、敢えて言うんなら、自分探しが一番しっくりくる答えだろうな」


 本当は目的の無い、と言うよりは裏切られた事に対する慰安旅行的なのを考えてたのだが、今ではもうそんな事はどうでも良い。

 ただ世界を旅して、自分が何故この世界に生まれたのかを確かめたいのだ。

 それに自分の目で見て、耳で聞いて、そして体感する、これこそが旅の醍醐味でもあるからこそ、俺は放浪の旅をしている。

 聞こえは良いが、無職みたいだな……


「自分探し、か……ユスティは?」

「わ、私はご主人様に購入された戦闘奴隷ですので、行き先はご主人様がお決めになる事です。ご主人様をお守りするのが私の使命ですから」


 魔神騒動の際は俺を庇ったりするとかではなく、自らが行動しており、まだ連携とかを確認したりする事もできずにいたので、これから守ってもらう事になろう。

 しかしセラも気付いてるようで、俺は本来守られるような弱い人間ではない。


「アンタ、護衛とかいらないでしょ」

「まぁ、普通ならそう考えるだろうけど俺は錬金術師だからな、それに自分で戦うのは面倒だ」

「何それ」


 龍神族としては、強さが証、みたいなところがあるらしいので俺の考えとは丸っきり逆なのだ。


「錬金術師って……」


 俺が錬金術師だと知ると、必ずそういった気不味い表情になるが、世間での評価を知ってるからこそ追及したりはしない。

 もう慣れてるし。


「お前の傷を治したのも錬金術だ。低級ポーションしか作れないってのは嘘っぱちだぞ?」

「いえ、それは知ってるわよ」

「……は?」


 予想外の答えが出てきた。

 知ってるのに気不味い表情を晒すのは、どういう意味だろうか?


「いえ、強すぎるって思って……」

「ん? どういう事だ?」

「だって、アンタは暗黒龍と契約したんでしょ? 錬金術師って危険な職業に加えて、その能力も加算されてる訳だから……もう人類最強じゃないの」


 俺、いつの間にそんな危険人物に成り下がってたんだろうか。


「錬金術師ってね、世界すら書き換える能力がある、って伝わってるの。だから――」

「ちょちょちょ、待て待て待て!」

「何よ?」


 世界を書き換える力?

 そんなものがあるんなら、最初っから魔神に負けたりしてないし、竜煌眼を発動させる事も無かったではないか。

 いや待て、その前に書き換え能力は、錬金術師という職業の枠組みから外れているように聞こえる。


(いや、違う……因果律、概念にさえ干渉できたんだ。もっと知識を解放すれば、本当に使えるのか?)


 もしもそうならば、この錬金術師って能力、一体何なんだろうか。

 こんなのが職業にあって良いのだろうか?

 そう、存在の有無自体を疑ってしまった。

 危険すぎる能力、当然冒険者ギルドが知らないはずないだろう、教会にでも知られたら最悪死刑にまでなっちまうかもしれない。

 それだけ異端なのだ。


「ユスティ、セラ……この話、他の誰にもするな。分かったな?」

「はい、分かりました」

「それは良いけど……バレない?」

「俺は精霊術師の能力も有している。錬金術を過剰使用しなけりゃバレはしないだろう」


 そうありたいと願っている。

 だが、この力は人を生かすも殺すも自由自在、本当に何で神様は俺にこんな能力を与えたんだろうか?


「セラに先に言っとく。俺はフラバルドに行ってダンジョン攻略に参加するつもりだが、基本的に戦わない。もしも戦うんなら援護くらいだ。それから――」


 俺は、セラに今日まで起こった事を掻い摘んで説明しておいた。

 自分がグラットポートでユスティを競り落とした事、魔族が復讐の一環で都市を壊滅させた事、俺達が魔神と戦った事、グラットポートでの出来事を話した。


「成る程ね、それでアタシの権能に引っ掛かったって訳ね」

「多分な」

「分かった。なら、アタシも口を噤む事にするわ」


 嘘は……吐いてないな。

 いつ彼女が口を滑らすか気が気でないのだが、これから一緒に行動する事になるだろうし、彼女はワザワザ俺に会いに来た。

 追い返す権利は俺には無い。

 それに能力も便利そうだし、彼女の職業と能力を考えると充分な戦力になると判断した。


(このまま放置しとくと、何しでかすか分かんないしな)


 強い種族程、自分より強い人間に従属したり、生存本能が働いたりするようなので、俺が断ったところで勝手に付いてくるだろう。


「けど、アタシも旅に同行する、良いでしょ?」

「……分かった」


 ここで認めないと駄々を捏ねそうなので、それならばと考える。

 ただ、口が堅そうに見えない……

 不安だが、彼女を同行させるためには幾つもの必要物資を買い揃える必要がある。


「そういやセラ、金は持ってるのか?」

「いえ、路銀は全部無くしちゃったみたい。海に流されてる時に落としちゃったのかしら?」


 服にも血が滲みたり解れたりしてたので、何処かで新たに買い足す必要があるか。

 今の服装は、臍出しの薄手の服装で短パンに戦闘ブーツという、活発さをイメージした格好となってる。

 動きやすいが、血塗れだ。

 少しムチムチとした身体は、男を魅了する。

 しかし身体は引き締まっていて、身長も俺より少し低いくらいだし、昔ならコロッと騙されてただろう。


(龍神族って皆、ずぼらな性格なんだろうか?)


 龍神族という不思議な種族とは初めて会話した。

 滅多に現れない龍神族だからこそ、彼女を少し観察してみるとしよう。

 もしかすると、これも旅の醍醐味なのかもしれない。


「起きたんなら、下船の準備しとけ。後二時間もしないうちに港に着くからな」


 ラガロット湿地帯の前にある港は小さな町となっているので、そこで装備一式や服を買うとするか。

 面倒事が面倒を背負ってきたな。


(ま、助けちまったし、面倒見るか)


 窓を開けてみると、もうすでに目的地である港が見えていた。

 しかし、不安は募りに募っていく。

 これからフラバルドで何が起こるか、この目でじっくりと確かめるとしよう。






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