表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第二章【財宝都市編】
68/275

第64話 燃え尽きた都市 戦闘の果てに得たもの

 アダマンドとの交渉によってリブロの隠し倉庫の第四番、薬品庫の薬品をゲットできる事となった。

 部屋を出ると、俺と同じように無愛想な表情を繕っている人族のメイドがいた。


「ご案内させて頂きます」

「ぇ……あぁ」


 二十代後半くらいの凛とした雰囲気に、俺と同じくらいの身長、大人の女性であるのだろうが、何故かジッと睨まれている。

 正直、俺も似たようなものなので人の事は言えない。

 メイドの案内に従って、俺達はリブロの隠し倉庫が置かれている解体所へと向かった。

 ギルドの解体場は倉庫の役割も担っているので、広めに造られており、そこはシェルターにだってなる。


(やっぱ壊れてなかったか……)


 ギルドの建物が半壊していたのに対し、こちらは全然壊れていなかった。

 壊れて火事場泥棒にでも入られたら損害は大きなものとなるだろうし、魔法設計において結界魔法を駆使した多重結界構造等を用いているため、簡単に防げている。

 それに広く造られているのと、食糧の管理等もできるようにと冷凍室まで設けられている。


「こちらです」


 そう言ったメイドは、壁に立て掛けてあるリブロの隠し倉庫のうちの一つへと入っていった。

 ここにあるリブロの隠し倉庫には、種類別にタグが貼られていた。

 武器庫、宝物庫、食糧庫、薬品庫、書庫、衣類保管庫、そして何も書かれてないタグが一つあった。


「これが……リブロの隠し倉庫ですか?」

「あぁ、その中の薬品庫だったとこだ」


 俺達も続いて中へと入っていく。

 額縁のゲートを超えて薬品庫へと入った先に、沢山の棚と棚に陳列している薬品の数々が見えた。

 だが、猛毒の類いが残っているし、違法薬物の類いも取り零しが二つくらい置かれていたので、物凄く不味いんじゃないかと思ってメイドの方を見た。

 しかし、彼女はただ俺達の成り行きを見守るだけように端っこの方でジッとしていた。


「な、なぁ……これって、持ってく数に制限とかってあるのか?」

「いえ、あの馬鹿――コホン、アダマンド様は物の価値を見極める能力はありませんでしたので、失礼ながら私めが勝手に中身の選定をしておきました。忙しそうでしたし、どうせ適当に売られてしまうのです。良ければ武器庫や他の倉庫のも全部持っていってください、片付けが楽になりますので」

「そ、そう、なのか……」


 確かに薬品棚の薬品の中で、危険薬品の幾つかは無くなっているし、人間の死骸も何処にも見当たらなかった。


「後はご自由に、お好きなだけお持ちくださいませ」

「良いのか?」

「はい、ギルドマスターの許可は必要ありませんので」


 本当に取ってって良いのだろうかと迷ってしまうが、メイドも言ってるのだ、勝手に見定めていこうと思った。

 前に見た時と大して変わらない倉庫を物色する。

 俺に付いてきた二人も、勝手に薬品棚の方へと興味を誘われるようにして向かっていってしまった。


「リノ、ユスティ、中には開けただけで毒が蔓延するものもあるから、気を付けろよ〜」

「はい」

「あぁ、承知した」


 彼女達は彼女達で欲しい物があったら勝手に持ってくだろうし、放置して俺は欲しい薬瓶を手に取って中身を見ていく。

 最初に手に取ったのは特殊な濃い青の液体、少し発光しているのだが、一口でも飲むと即死するという大変危険な薬品なのだ。

 霊王眼があるお陰で、薬品の違いも鮮明に見える。

 ポーション擬きだな、これ。

 俺が手に取った薬品は、『カプラ毒』と呼ばれるものであるが、これは元々のカプラ草という青色の鈴蘭みたいな花を乾燥させて潰し、粉状にしたものを水と混ぜ合わせる事で完成する。

 少しドロッとしてるのが証拠だ。


(これ、寒い地域にしか生えてなかったはずだよな?)


 強力な猛毒一種でありながら、本当は薬にもなる花を毒類として取り扱った一品だ。

 乾燥させる事で光合成による活性化が発生し、花に毒素が集まるために、紫色となった花弁を擦り潰して水と混ぜる事で毒が完成する。


(こっちは前にも見た『イーフィット神経薬』だな。打たれると数時間は首より下が一切動かなくなるやつか、医療に使えるから取っとこっと……)


 透明であるが、瓶を開けて臭いを嗅ぐと独特な薬品の臭いが漂ってきた。

 気化する薬品は、全て何処にあるのか覚えているので、躊躇せずに開けられた。

 そもそも棚のとこに名前書いてあるし。

 イーフィットという医療学者がいたのだが、その男が最初に作ったからそう呼ばれるようになった、って話だったような……


(お、『アルポネ草』、これ欲しかったんだよなぁ)


 コイツは砂漠地帯のような灼熱の下で育ち、しかも数に限りのある希少毒草だが、何故こんなところに……

 影鼠の時にも見たが、これをお目に掛かれるとは何という幸運だろう、錬金術師として戦う時に役立ちそうだし、これも持ってこうと思い、懐へ。

 前にもあった蟻炎酸やベルグリーン、その二つの入った薬瓶を手に取った。

『蟻炎酸』は、アルポネ草と同じく砂漠地帯で採取可能な超強力な酸だ。

 皮膚や筋肉、骨を溶かす硫酸より強い液体だ。


(確かデザートディガーアントの分泌液だったよな……)


 ここにある理由がよく分からないが、何かに使おうとしたのだろう。

 こっちは拷問に役に立つ素材だ。

 そして、次に『ベルグリーン』はエルフの国にしか生えてない特殊な毒キノコであり、鈴の形に似ている黄緑色のキノコなので、そう呼ばれている。

 これは目眩や下痢、嘔吐、身体に異変が起こる毒キノコだな。


(他にも大量に毒物があるな……何に使おうとしたんだろうか)


 もしかして何かしらの予備プランでも立てていたのかもしれない。

 魔神騒動に乗じて何かするつもりだった、とか?

 いや、そんな様子は見られなかったし、考えられる可能性は幾つもあるが、何というかここは趣味のような部屋に思えてならない。

 俺もオリジナルの毒物を何種類も持って、大きなショルダーバッグへと入れている。

 今も肩に掛けてバッグへと薬瓶を入れているのだが、多くの薬品を補充できて正直懐があったかい気分だ。


「ご主人様、これは何のお薬なのですか?」


 色々と薬を吟味していると、近くにいたユスティが一つの薬瓶を持ってきた。

 手にしていたのは淡く光る赤色の液体だった。

 中には真っ赤な花弁が幾つも浮かんでおり、そこから赤い液体が染み出しているように見える。


「あぁ、それは『ブラッディアフロール』って真っ赤な花から採取される超猛毒液だな。確か一滴使うだけでもドラゴンを倒せるって聞いた事がある。落とすなよ?」

「こ、こここれ……た、棚に、も、戻して……きます」


 プルプル震え出した彼女はぎこちない様子で、ロボットのような動きをしながら元の場所へと戻しに向かおうとしていたが、テンプレ展開の如く、お約束が見られた。

 手に持ってた瓶が宙へと投げ出される。

 彼女は床に転がってた別の薬瓶を踏ん付けて、尻餅を着いてしまっていた。


「うひゃぁ!?」

「ちょっ――」


 宙へと放り投げられた薬瓶をすんでのところでスライディングキャッチに成功したのだが、幸運能力を持ってるはずの彼女にしては珍しい。

 転んだ本人はあられもない姿となっていた。

 まさか精神の影響で能力が不安定になってしまうとか、『福音の月聖堂ルンブラン・ディア・フラーム』にそんな副作用的なのがあるのか?


「あっぶねぇ……」


 この薬品は空気に触れた瞬間、酸素と結合して大気中へとどんどんと広がっていき、その酸化毒素を吸い込んで俺達は死んでしまう。

 肺が猛毒に侵され、即死する。

 猛毒の一種なのだが、厄介なところは気化すると肉眼では捉えられなくなるところだ。


「怪我は無いか?」

「す、すみません……」


 怒られるとでも思ったのか、狼耳が垂れ下がっている。

 悲しそうな表情をしているが、そんな顔をされると怒れないな。


「まぁ気にするな。だが、次からは気を付けろよ」

「はい……」

 

 誰にでも失敗はある。

 それは人間として仕方のない事なので一々気にしたりしないのだが、流石に肝が冷えた。

 こんなところでゲームオーバーとか、笑えない冗談だ。


「ノア殿、これは何だ?」

「今度はリノか……」


 リノが見せてきたのは、ホルマリン漬けとなっている一匹の斑模様の蜥蜴だった。

 色は赤主体の青い斑点が一杯身体に浮かんでおり、気持ち悪い色をしている。


「マクロサスブルーリザードっていう蜥蜴だな。毒素が身体を巡ってるから、斑点として身体に浮かび上がってる小さなモンスターだ。ホルマリン漬けにしてるのは初めて見たけどな」

「お詳しいですね、ご主人様」

「こういったものは専門分野でな。俺は錬金術師だからこそ知識が必要だったんだよ」


 毒の種類は千差万別、今まで色んな知識を本から取り入れていた。

 それに加えて契約時に手に入れた錬金術の知識+毒類の知識、更に魔境に籠っていた時に実験を繰り返して手に入れた知識がある。

 何度も身体に毒を注入して、どれくらい自分が耐えられるかの実験をしたり、威力や効能を確かめるための実験も行ってきた。

 何度か、超回復を上回る猛毒効果を持つ毒ができたりもしたし、今もその毒類が俺の鞄に入っている。


「じゃあ、これは何だ?」

「それ……『ラグーンコブラの涙』だな」


 リノが見せてきたのは、二つの眼球が同じくホルマリン漬けとなったものだった。

 縦の線、オレンジと青の模様の瞳、それが浮いてるのではなく沈んでいるのを見て分かった。

 比重によっては浮かんでいたり、漂っていたりする。

 それも見比べる対象にもなるが、この液体の種類が違う可能性があるので、霊王眼が無ければ間違えていた可能性もある。


「では、これは何です?」

「それは『グラナスプラの心臓』、錬金素材にもなるもんだが……」


 グラナスプラというモンスターがいる。

 大きな蛙のような怪物であり、体内の毒袋から毒水を吹いたりする不思議な蛙だ。

 心臓というのは別称、毒袋をそう呼び、定着した。

 ってか、何故かクイズみたいになっているのだが、何でこうなった?


(まぁ、良っか。全部持ってくとしよう)


 影を広げていき、全てを取り込んでいった。

 幾つか役に立ちそうなものがあったので、入る分だけをショルダーバッグに入れていき、基本的に俺の報酬は全て手に入った。

 が、勝手にメイドが案内して、勝手に持ってって良いのだろうかと不安はある。


「お気になさらず。ギルドとして欲しいのは、リブロの隠し倉庫そのものですから。良ければ他の倉庫も見ていってください」

「勝手に良いのか?」

「はい。どうせ売るのですし、貴方様はグラットポートを救ってくださいました。これだけでは本来は足りませんので」


 どうせ裏商売とかで手に入った類いのものだろうし、報酬として貰えるのならば、こちらとしても遠慮しない。


「なら、次はリノの武器だな。お前、無くしたろ?」

「うっ……す、済まん」

「だから、丁度良い武器があるんなら、ここで貰っとこうと思う」


 俺が創った剣では、彼女の身体にはやはり合わなかったらしい。

 空っぽとなった薬品庫から一旦外へと出た。

 静まり返った解体所を横目に、俺は次の武器庫へと入っていく。


「おぉ、これは凄いな」

「確かに……それにしても、よくこんなに集めたな、魔族の奴等」


 武器庫はあまり大きくはなかったが、それなりに武器が揃っていた。

 剣や盾、防具類や暗器、特殊な形状の武器や魔法剣のような魔導具の類いなんかも置いてあった。


「突っ立ってどうしたんだよ」

「わ、我が選んで良いのか? 殆どがノア殿の功績だろうに……」

「別に構わん。メイドも持ってって良いって言ってるし、俺は錬成で創れるから武器は必要無いしな。ユスティも欲しい武器があったら持ってけ」

「わ、分かりました」


 リノとは違い、ユスティには狩猟魔法で武器を創る事ができるため、必要無いのは知っているが、念の為に持っておくべきだし、彼女は腰に短剣を装備している。

 他にも魔法衣を着込んでるので、防御性にも優れた一品となっている。

 リノの服は普通のだな。

 ここで新調しておくのも良いかもしれないが、それは衣類保管庫の方か。


「何だ、これ?」


 不思議な武器の類いもあったので、そっちへと目を向けて手に取ってみる。

 ブーメランのような形の刃に取っ手が付いてる。

 ショーテルに似てるが、刃の形状がかなり違っているので面白い武器だ。


(モーニングスターに鎖鎌、鞭とか鉄鐗まであるし……トンファーにヌンチャク、チャクラム、か。マニアックすぎる武器も結構あるな……)


 使う使わないはともかく、どれも品質は最高級のものであるのは一目で分かるくらいで、中には魔法の痕跡が見られる魔導武器もある。

 俺達三人、それぞれ武器を手に取って見てみる。

 中々に退屈させてくれない場所らしい。


(凄いな、斬れ味良さそうだ)


 今手にしているのは、柳葉刀という刀身が湾曲した片手刀の一種である。

 中国刀、だったかな。

 振りやすいが、いつも使ってる短剣二本と大して変わらないので、必要無いなと判断したために壁へと掛け戻しておいた。


「……の、ノア殿、我はこれにしようと思う」


 リノが手にしていたのは直剣、しかも彼女の精霊力に呼応するかのように淡く輝きを放っている。

 精霊剣を見つけてくるとは、流石は案内人。

 気になって霊王眼を駆使してみると、その精霊剣からは途轍もない力が秘められているように見え、膨大な力を手にしたのを理解した。


「良いんじゃないか?」

「そ、そうか? フフッ」


 嬉しそうだ。

 一方でユスティの方はと言うと、一つの武器の前で固まったまんまだった。


「お前、何見てんだ?」

「あ、はい、実はこれが気になってまして」


 彼女の視線の先にあったもの、それは一対の二本の短剣だったのだが、不思議な力を感じ取り、魔剣であるのは即座に分かった。

 だが、込められている能力が何なのか分からないため、霊王眼で見極める。


(成る程……片方の属性は風、風を纏わせて斬れ味を強化するものだな。んで、もう片方は雷、こっちは雷を纏わせるスタン効果か。かなり便利だな)


 二つの短剣の刀身は淡い緑、それから濃い黄色をしていた。

『我 風纏いて 両断す』

『我 雷纏いて 感電す』

 そう古代文字で書かれていた。

 片刃の短剣二本、俺を模してるのか?


「私、これにします」

「……分かった。メイドさん、取り敢えずは精霊剣と魔剣二本、貰ってくぜ」

「はい、畏まりました」


 多くの武器があるので、今後の錬成の参考になった。

 ここに来ただけでも収穫はあったなと思った。

 二人はそれぞれ腰に装備して、嬉しそうな表情をして飛び跳ねたりしていた。

 俺は錬金術師であり、影に一本の剣もあるため、基本的には魔剣の類いや精霊剣は持たない事にしている。

 邪魔なだけだし。

 それに膨大な魔力を持つ俺に見合う魔剣は恐らく殆ど存在しないだろうし、使えば壊れるのは必至だ。


「他も見ますか?」

「あぁ。書庫と衣類保管庫だ。俺は書庫を見るから、お前等は服でも見てきたらどうだ?」


 俺は衣類保管庫に興味は無いので、リノやユスティのような女性ならと思ったので提案してみた。

 服に頓着無いし。


「……なら、我は少し見てくるとしよう。ユスティ殿もどうだ?」

「いえ、私は本に興味がありますので、書庫に入ってみたいと思います」

「そうか。メイド殿、我の服を見繕ってはくれないか?」

「畏まりました」


 リノはメイドと共に衣類保管庫へと入っていった。

 リノも意外だが、ユスティが本好きとは……

 丸っ切り逆だと思ってたんだが、まぁどっちにしろ、俺は本の虫となるために書庫へと入っていった。


「い、意外だな……本が散乱してやがる」

「ホントですね……」


 これは本を読むのではなく、本の片付けから始めなければならなさそうだ。

 散らばってる本のせいで足場が殆ど無い。

 蹴っ飛ばしてしまった本の数々が、別に積み上がった本へとぶつかって倒れてきた。


「うおっ」

「ご主人様!?」


 大量の本が上から降ってきて、上半身全てが埋まってしまった。

 痛くはないが、本に猛襲を受けてしまった。

 辞書や薬学本、歴史書に医療書、教典、語学書、日記、地形図、占星術書、小説、冒険譚、そして、錬金術書があった。


(錬金術の書物? 何でこんなところに……)


 その場に腰を下ろして、錬金術の書物を開いた。

 そこには俺の知ってる全ての知識だけでなく、独自で考えられたであろう実験の詳細やら結果やらが書き記されていた。

 例えば、合成獣キメラ実験だ。

 人間をキメラの媒体にして、軍事利用するための実験だった。

 そこに書かれている内容は殆どが正確であるが、一つの手順ミスによって頓挫したと書かれている。


「ご主人様」

「どうした?」

「この日記、ご主人様の読んでる錬金術書を書いた著者の日記みたいです」


 近くに落ちてたため、見つけやすかったのだろう。

 それか幸運によって見つかったのか、彼女から受け取った日記と錬金術の書物の表紙に、名前が書かれていた。


「レイデリック=S=パルマー? 誰だコイツ?」

「前に聞いた事があります。確か数百年前に存在した大国の宮廷錬金術師だったはずです」


 思い出した。

 とある大国にいたらしい錬金術師で、今となっては教会の大犯罪者として歴史に名を刻まれた男だったはずだ。

 この男も原因の一端であり、俺達錬金術師が揶揄の対象となった事にも拍車を掛けた人物だ。

 錬金術師は危険である、その認識のせいで教会の人間達が情報操作して数百年経過した今、錬金術師は揶揄の対象となった。


「しかしコイツの書物は殆ど正確だ。これは役に立つだろうし、影にでも仕舞っとくか」


 レイデリック、一体何者なのだろうな。

 他の書物も幾つか流し読みして見ていくのだが、役立ちそうな書物は影に仕舞い、そして必要無いと判断した物については放置する事にした。

 小説に関しては彼女が興味を示していたので、それも仕舞う事になりそうだ。


(それにしても、何で八つもリブロの隠し倉庫がナトラ商会に集まってたんだろうか……)


 しかも種類別に区別されており、八つも持っているとは何だか妙だな。

 七番の隠し倉庫は空白となったタグ、何があるのか分からないので、後で調べて……いや、もう関わるのを止めた方が良いかもしれない。

 だが、八番目は何だ?


「ご主人様? どうされたのですか?」

「いや……駄目だな、また考えちまった。癖ってのは中々抜けねぇもんだな」


 つい気になって考えてしまった。


「何か欲しいの見つかったか?」

「いえ……特にありませんでした」

「そうか」


 多くの書物の中で必要なだけのものは手に入れたので、ここにも用事は無くなった。

 勝手に持ってって良いって言われたが、特に目ぼしいのは無かったらしい。

 しばらく調べ物をしていたが、そろそろ出よう。


「よっ、と」


 額縁へと飛び込んで、外へと出た。

 リノとメイドがすでに外へと出ていたのだが、八番倉庫の前にいた。


「何してんだ、お前等?」

「いや、このタグの付いてない額縁が何なのか気になってしまってな、メイド殿に聞いたのだ」

「それで? 結局何だったんだよ?」

「中を覗いてみたのだが、牢屋だったぞ」

「牢屋?」

「あぁ、多分だが奴隷達を収容しておくためのものだったのだろうな」


 成る程、八番は牢屋だったか。

 ならば七番は何だ?


「残念ながら、七番は何が入っているのか分かりませんでした。しかし腐敗臭が漂っていましたので、恐らくは死体安置所のような役割を持っていたのだと思われます」

「死体……そうか、魔神騒動で街を徘徊して冒険者を襲ってたっていうゾンビ共か」


 何処に大量に隠し持ってたのか気になっていたが、リブロの隠し倉庫を改造でもしたんだろう。

 これで残る謎は一つ、か。

 二人の冒険者の話からするに事件当時、召喚されたモンスターの分裂した数は六体、本当ならば召喚されるはずだったのは七体だったのだ。

 しかし悪魔一体分の身体が不足していた上に、魔神も不完全だったのだろう。


(それでも、あの強さだった訳か……完全体だったらどうなってたんだろ)


 ザインの黄金杯、ザインはヘブライ文字の七番目の文字を表す言葉だ。

 古代遺跡にあった黄金杯を使って、今回と同じような事が起こった事件があったが、その時は七匹の悪魔が召喚されて今回は六体、つまり何かしらの不備があった。

 ユスティが後に媒体となったからか、それとも……


「ご主人様、また考えてますよ」

「うっ」


 戦って、命を賭けて、そして考え続ける事に意味すら見出だせず、ただ脳裏を思考で埋め尽くす。

 何という蛮行だろうか。


「ってか、リノお前……全く変わってないが?」

「ぇ、あぁ、そうだな。何かあるかと思ったのだが、結局は今着ている服と大して変わらなかったのだ」


 本人が気に入らなかったからこそ、こうして同じ服装だった訳か。


「もうよろしいのですか?」

「あぁ、これ以上は必要無いしな」

「……無欲なのですね」


 無欲、と言うよりは無関心と言った方が近いのかもしれない。

 

「これだけ貰えたら充分だ。後はそっちで何とかしてくれよな」

「はい。今回は本当に、ありがとうございました」


 感謝するのは俺の方だ。

 こんなに報酬を貰えるとは思ってなかったしな。


「じゃ、次行くか」


 これで本当に襲撃事件の幕が降りたような気がしたが、謎だけが取り残されてしまった。

 そんな音が聞こえてきて、俺達は解体所から外へと出て行く。

 曇り空の間から光が漏れ、俺達を照らした。

 天気は人の心を表すもの、今の心情は晴れ……なのかもしれないな。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

『面白い!』『この小説良いな!』等と思って頂けましたら、下にある評価、ブックマーク、感想をよろしくお願い致します。


感想を下さった方、評価を下さった方、ブックマーク登録して下さった方、本当にありがとうございます、大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ