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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第二章【財宝都市編】
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第63話 燃え尽きた都市 孤独を背負って

 晴れだった昨日とは違い、今日は曇天の空模様、どんよりとした気持ちを携えながら、俺は起床した。

 目覚めてから二日が経過して、魔神騒動から丁度一週間が経過した事となった。

 とは言っても、俺からしたら騒動終結からまだ二日しか経過してないように思えるのだが、俺が寝ている間に色々な事があったらしい。

 まず、グラットポートでの魔神騒動の報酬について、ギルドマスターのアダマンドが国へと報告したそうなのだが、それに対する答えとして俺達が王都へと招待される事となった。


「まぁしかし、それを即座に断るとはノア殿も肝が据わってるようだな」


 不敬罪だとか言われたところで、重傷引き摺って行くまでの価値も無いし、国に招待されても俺としてはちっとも嬉しくない。

 だから普通に断った。

 それから五日の間に、怪我人の治療や救助活動、それから消火作業に遺体の回収、そういった事は全て冒険者が仕事として請け負ったそうだ。

 だから目覚めてから街を歩いてても、腐敗臭がしなかったのだと分かった。


「俺が寝てる間に勝手に国に招待とか、何様のつもりだって話だ。それに魔族の遺体もまだ影の中に仕舞ったまんまだし、弔ってやりたい」

「それって、ご主人様が奇襲を仕掛けられた時の魔族ですよね?」

「あぁ」


 朝食を食べながら、俺はユスティとリノから色々と五日に起こった事を教えてもらっていた。

 今日はギルドに顔を出す予定だった。

 理由は二つ、一つはユスティのギルド登録のため、昨日はギルドも慌ただしかったので出直したのだ。

 もう一つはダイガルトと会う約束をしている。


「ウルックという男だ。ソイツの死骸は俺が回収した」

「それで、何処に埋葬するのだ?」

「……考えてなかった」


 そういやそうだ、魔族達は復讐の為とは言ってもグラットポートの人間からしたら敵なのだ。

 友人や知人の墓の近隣に敵の墓を建てるのは、流石に誰もが認めないだろう。

 それだけ人間の業は深い。

 何処かに埋葬するとしても、場所を選ばなければならないのは確かだろう。


「……まぁ、それは追々考えるとするか」

「ずっと遺体を持ち歩くつもりか?」

「それも嫌だな」


 ずっと死骸を持ち歩くのは流石に困ると思ったのだが、ずっとモンスターの死骸を持ち歩いてたし、今でもまだ売り払ってない魔境のモンスターの素材がゴロゴロある。

 そのため、大して気になったりはしなかった。

 だが、いつまでも入れておく訳にもいかないしな。


「で、他には何かあったか?」

「あ、そう言えば、儀式の媒体になった人達が全員国を出て行っちゃいました」


 確かギルドに保護されるはずだった奴等だよな。

 エルフは恐らくオズウェル達が連れていったのだろうと思ったが、他の六人に関しては知らない。

 空を飛べる種族もいる訳だし、夜のうちに逃げた可能性もある。

 妖狐族、海人族、ドワーフ、天狗族、ライトエルフ、ダークエルフ、電龍族、そして魔狼族、八つの属性を持つ彼女達八人の媒体が鍵となって魔神は召喚された。

 まぁそれは所謂、人身御供ってやつだ。


「八種族属性別儀式召喚、それで死んだ奴等全員をワザワザ生き返らせてやったってのに、感謝の言葉一つ無しとはねぇ……」

「貴殿は感謝の言葉なんて欲しがるとは思わないが?」

「まぁ、そうだな」


 単なる気紛れだし、別に感謝する必要は無い。


「でも、ご主人様が気絶してから少しして、ダークエルフの人が何処かに消えました」

「ダークエルフ?」


 あぁ、あの銀髪の子か。

 見た目通りの年齢でないだろうが、何処かに逃げたのだろうな。

 奴隷紋にも干渉して消しておいたし。

 そもそも主人がいなかったし、本当なら全員俺の奴隷となってしまうところだったのを、奴隷紋を解除して逃げれるようにした訳だし。

 別に後悔してないから、消えるならどうぞご勝手にってもんだ。


「他にも食糧の確保や、復興支援のための人員増援、街の再建、国が動いていたぞ。それからナトラ商会の品々はキース殿を介して全て消化されるそうだ」

「それは聞いたな……薬品、欲しかったのになぁ」


 リブロの隠し倉庫、それの第四番の中身が欲しかったのだが、断られてしまった手前、手に入らないのも仕方ないと割り切っている。

 それにしても、幾つもの視線が俺達に向けられている。


「何で俺達、見られてんだ?」

「それは当然、ノア殿は魔神と戦った英雄だからな、人目に付きすぎたのも原因だろうな」

「はぁ、鬱陶しい……あむっ」


 特製カツサンドを頬張って腹を満たしていく。

 宿屋が無くなってしまったので、朝食を取る場所は限られてくる訳だが、こうも人の視線を集める原因は恐らく俺だけではない。

 治療院の寝床の端っこで仲良く三人、横並びで座っているのも原因の一つだ。

 客観的に見てリノもユスティも見目麗しい美女、羨望と嫉妬の感情が俺へと突き刺さる。


「はぁ」


 腹は満たされど、心が満たされない。

 一昨日の記憶が頭から離れない。


(……君は誰だ?)


 常に笑顔を取り繕っている少女、彼女との思い出が殆ど欠けた状態で脳裏に残っているため、パズルのピースが手元に無い状態だ。

 それに、パズルの完成には程遠い状態なので、考えれば考える程に深みに嵌まってしまう。


「はぁ……」

「先程から何かお考えのようですが、よろしければ私に話してくださいませんか? お役に立てるかは……分かりませんが」


 苦笑いを浮かべながら、彼女は俺の目を見ていた。

 しかし、俺は彼女に詮索するなと言ったので、話すつもりは無い。


「あ、一つだけ気になる事がありました」

「何だ? 話してみろ」

「はい。ご主人様が寝てる間の事なのですが、アダマンドさんが訪ねてきたんです」


 何故ギルドマスターが寝てる俺なんかを尋ねてきたんだろうか。

 それに、いつ尋ねに来たんだ?


「ご主人様が目を覚ます一日前です。その時、何だか思い悩んでいるような顔をしてましたよ。確か冒険者ギルド総本山に行ってきた、と言ってましたが……」

「ミルシュヴァーナに、か」


 冒険者ギルドの中心地とされる星都に行く方法は幾つかあるが、普通に歩いて行ったり馬車や飛行船とかで行く方法でも、四日以内に往復は無理だ。

 恐らく、転移魔法陣のスクロールを駆使したのだろう。

 魔法スクロールを開いて魔力を流し、行きたい場所を思い浮かべれば一瞬で跳べる。


(ランダムジャンプみたいだな……)


 俺が魔境に跳ばされたのも転移魔法だった。

 いや、今はそんな事より、思い悩んでいたという事柄についてだ。


(俺の事についても話した、か?)


 俺はノアとして冒険者登録している。

 ウォルニスとしては冒険者登録はしておらず、勇者パーティーにいたから、俺がウォルニスだと知る手立ては無いはずだ。

 いや、方法ならあったか。

 それを可能にするのが厄介な事に『職業』だ。


(確か……占術師、解析者、多分だが情報屋もそうだ。本名が分かってればオズウェルも俺の情報を見れたはず)


 他にも俺の知らない未知なる職業があるかもしれないので、俺が偽名を使っている事がバレないようにしなければならない。

 しかしながら、見ただけで嘘を吐いてると知られる可能性もあるのだ。

 現に俺が使ってる霊王眼という能力もそう。

 俺の魔眼と似た能力を持つ者がいるという可能性も考えられるのだ、こればかりは防ぎようが無いのでどうする事もできない。


(もし俺がウォルニスだとバレても、それは名前だけ。問題なのは俺が勇者パーティーに入ってた事、忌み子だったという事、それから暗黒龍の使徒である事、そして俺が錬金術師を授かった事の四つ、そのうちどれか一つでもバレたら面倒な事になる)


 錬金術師だとバレたところで舐められるだけなので、そこまで重要視してないが、暗黒龍の使徒である事がバレたら黒龍協会に目を付けられ、勇者パーティーに入ってた事があるとバレたら勇者達に今度こそ殺されるかもな。

 俺が生きてる事はまだ露見させるべきではない。

 いや、今後一切、俺がウォルニスであると周囲に話すつもりも、その予定も無い。


(だが考えてもみろ。一昨日の夜、すでに噂が広まってるってミレットが言ってた。なら、ギルドマスター程の実力者が俺の力の一端が暗黒龍のもんだって気付いてたはず)


 ならば、冒険者ギルド総本山にいる重鎮達にも伝わってしまったはずだ。

 冒険者ギルドは、各支部では普通にギルドマスターとサブマスターの二人+職員達で構成されてるが、総本山では違う。

 情報課、財務課、法務課、防衛課、医療課、冒険課、開発課、計七つの分野に分かれており、国や周辺諸国の治安維持が行われている。

 その七つの『課』によって国が守られているのだ。

 そのトップクラスの猛者達は『七帝』と呼ばれており、彼等に情報が伝わってしまったと見て良いだろう。


「ご主人様?」

「おい、ノア殿?」


 まず、大前提として問題となるのは、俺が暗黒龍の力を持っているとアダマンドの野郎が話した場合だ。

 七帝の中でも特に頭のネジが外れてるのが、冒険課の『武神ロトリー』、それから医療課の『聖母メサイア』だ。

 武神にバレたら襲われそうだし、聖母にバレれば身体の解析と称されて実験に利用されそうだ。

 アイツ等にだけは会いたくない。

 頭のイかれた連中、全員がSランク並みの実力と統率するだけのカリスマ性があるため、アイツ等を敵に回すと厄介な事になる。


「あ、あの……」


 それに、他にも気掛かりな事が残っている。

 国に掛け合ったと言ってたな、アダマンドの奴。

 ならば、俺の事についても国が把握している可能性も有り得る訳で、他国へと渡るのを嫌がって俺に何かしらの干渉があるかもしれない。

 他にも考えられる事がある。

 周囲に俺の力の一端が広まってしまったものだから、それを利用しようとする輩も現れるだろう。


「おい、ノア殿」


 確か冒険者ギルド総本山には『課』の更に上、ギルドの統括がいたはずだ。

 会った事は無いが、その男は全てを統率する怪物中の怪物と言われている会長、彼の名はアレキサンドライト=ギルテバルドである。

 初代ギルドマスターの子孫であり、ギルドの頂点に立つグランドマスターだ。

 彼にバレた場合どうなるかは分からないが、少なくとも俺の思い通りに展開が運ぶ事は無いだろうと考え、これからどうするべきなのかを脳裏にリスト化していく。


「ご主人様!!」

「うおっ!? って、何だユスティか……」


 耳元で叫ばれるのは流石にキツい。

 耳が痛い。


「ずっと呼び掛けてましたのに……無視しないでくださいよぉ!」

「悪かったって、ちょっと考え事をしてたんだよ」

「考え事、ですか?」

「まぁな」


 考えるべき事は幾つも山積みとなって押し寄せてくるので、てんてこ舞いだ。

 頭が痛くなるが、今後を考えるならば無理をしよう。

 山積みとなった問題、それから手立てを脳裏で整理していき、これ以上目立たないようにするためにはどうすれば良いのかを本気で考えていく。

 簡単なのが冒険者稼業を引退する、だ。

 しかし、何で俺が他人に合わせねばならないのかと考えてしまうため、稼業引退は保留とする。


(他にもパターンはあるが……)


 とにかくグラットポートを早めに出るのが一番だ。

 それから名前を新しく作らねばならない、そう思って同時進行で考えていく。


「ご主人様、また考えてますよ?」

「……済まん、癖になっててな」


 魔境に飛ばされてから俺は色々と考えるようになった。

 何故飛ばされたのか、俺が何をしたのか、どうして俺がこんな目に遭ったのか、何処で選択を誤ったのか、何で俺を裏切ったのか……

 考え続けて、悩み続けて、それが切っ掛けなのか、それ以来考え始めると思考し続けてしまう。

 その思考の渦に自らを投げ入れて、そのままずっと考え続けなければ、自分がいつ危険に巻き込まれるかと気が気でないのだ。

 まぁ、自己コントロールできるため、いつも考え続けてる訳ではないのだが、今回は別だ。

 考えねば最悪死ぬため、もっと賢く動くべきだったなと少しばかり後悔した。


(まだ、俺は弱い。弱すぎる)


 そのためにも強くならなければならない、その回答へと行き着いた。

 結局、弱肉強食の世界である以上は、食うか食われるかの勝負なのだ。


「俺もまだまだだな」

「……ノア殿、大丈夫か?」

「何か悪い物でも食べましたか?」


 この二人は俺を何だと思ってるのだろうか。

 まぁ、仕方あるまい。

 外から見たら魔神を倒したのは俺だが、実際には倒したのは俺ではなく俺に憑依した暗黒龍ゼアンなのだから、俺としてはまだ成長不足だ。


(それに……)


 暗黒龍が精神世界で話した事が本当なら、俺は暗黒龍の力を半分も使い切れてないので、少なくとも半龍化や暗黒世界くらいは使えるようにしたい。

 特に俺としては魅力的なのが暗黒世界、咎人等を捕らえて閉じ込める能力、精神世界という事は肉体と精神を切り離して拷問に使える。

 ならばこそ、少なくとも暗黒龍ゼアンが言った能力のうちの一つくらいは使えるようにしたい。


「さて、そろそろギルドに行くか」

「はい」

「あぁ」


 ギルドにはまだ足を運んでなかったが、建物が崩れてなきゃ良いんだが……





 そして辿り着いた冒険者ギルドは、予想通りに半壊状態となっていた。

 が、すでに建て直されており、ほぼ完成に近付いていたので、かなり手際が良いと思って周囲を見てみるが、働いてるのは見知らぬ者ばかり。

 まぁ、そりゃ当然か。

 壊れてた場所が新しいので、何処まで壊れてたのかが一目で分かった。


「ん? おぉ、黒龍の小僧じゃねぇか!」

「爺さん、その呼び方は止めろ」


 ギルドホームの建て直しに尽力していたらしい、現在椅子に腰掛けてる爺さんが俺に気付いて手を振っている。

 手を振り返すのも面倒なので、そのまま彼のところへと歩いて行った。


「報酬貰いに来たぜ」

「あ? お前さんの報酬はまだ届いてねぇぞ?」

「ユスティの冒険者登録だよ。アンタ、昨日は忙しそうだったろ? だから出直してきたんだよ」


 そこまで忙しそうには見えないし、今日なら別に構わないだろう。

 ギルドホームも完成間近っぽいし。

 彼女は奴隷ではあるが、この国を救う切っ掛けとなった存在でもあるため、俺の実績をプラスすれば手順を踏まずとも彼女を冒険者にする事ができる。

 彼女の職業を明かせば、冒険者になってくれとギルド側から懇願してくる事も有り得るしな。

 それ程までに、彼女の潜在能力と職業は魅力的だ。

 単純に強い。


(狩人の神様……まさか、狩人の職を彼女が授かるとは、皮肉も良いところだ)


 勇者パーティーにいたレットという男も狩人だった。

 奴の場合は近接寄りの狩人だったが、ユスティは中距離主体であり、近接にも遠距離にもなれる、謂わば万能ポジションだ。

 しかも狩猟の『神』であるので、純然たる強さで言ったらユスティの方が圧倒的だ。


「紙は持ってきたか?」

「はい」

「うし、じゃあ付いてこい」


 ユスティから羊皮紙を受け取ったアダマンドは、そのまま俺達三人を連れて、ギルドの執務室へと入室した。

 相変わらずの瓦礫塗れとなった執務室には、破れた紙の束や壊れた作業机、ファイルや魔導具の類い、色んなものが散乱していた。


「ソファに座ってちょっと待ってろ、報酬持ってくっからよぉ」

「お、おぉ……」


 執務室へと通され、俺達はソファに座って待機する事となった。

 部屋には俺達以外誰もおらず、静かな時間が訪れる。

 こう座っていると、師匠とのお茶会からすでに一ヶ月以上経過したのだなと、感慨に耽る。

 目を閉じて、師匠とのお茶会の情景を思い浮かべると、そこに師匠の笑顔があるように思える。

 笑わなくなった弟子と朗らかに笑う師匠、そこにあるのは懐かしき思い出と、過去で繋がった記憶、そして戦いの日々だった。


(師匠に手紙でも書こうか……)


 手紙は魔導郵便局にでも出せば……と思ったのだが、ほぼ壊滅状態となった財宝都市のライフラインは大半が断たれてしまった。

 なので、今は出せない状態だ。

 いつか手紙を書きたいものだが、今まで人に手紙を書いた事なんて無かったしなぁ。

 拝啓、から始まって敬具、で終わるのは堅苦しすぎるかもしれないが、今の季節ならば四月の時候の挨拶を書くべきだろうが、届く頃の事を考えると五月の時候文句の方が良さそうだ。


(風薫る五月となり、師匠におかれましては、ますますご清祥のことと拝察致しております、的な感じか)


 それだと堅苦しすぎるかな。

 まぁ、師匠であり、頭の上がらない存在でもあるため、これくらいが良いのかもしれない。

 それに手紙で俺が書ける事と言えば、隣に座る二人と旅をしているというところか。

 まぁ、ユスティの場合は旅をしていると言うよりは旅のために出会った、と言い換えるべきであろう、書くのが楽しみだ。

 魔神との戦闘については書かない方が良いのか、それとも書くべきか悩ましいところでもある。


(心配させたくないしな……)


 ともかく、後で手紙のための便箋を買うか、自分で木を錬成して作るかしよう。


「おぅ、待たせたな〜餓鬼共。さてと、嬢ちゃんの分の報酬だ」

「あ、はい……」


 ソファに座って待たされる事数分、何処から持ってきたのか、アダマンドがユスティへと一つの小さな宝箱を手渡して、ドカッと対面のソファへと座った。

 ギルドカードなのかと思ったのだが、何かの宝か?

 いや違った、彼女のギルドカードが一枚入っていただけだった。

 紛らわしい……

 色は黒、Fランクスタートとなる訳で、裏に魔法陣が刻まれている。


「そこに自分の血を垂らせば、生体情報がカードに刻まれるようになってる」


 複雑な魔法陣が凝縮されている上に、俺は魔法は専門外なのでよく分からない。

 本当に謎のカードだ。

 俺達の場合は正式な手順を踏んでFランクとなったが、同じようにFランク用のギルドカードへと血を垂らしたために、記憶も新しい。


「お前さんも、魔神と戦った功績はデカい。一気にランクを上げる事もできるが、どうする?」

「つまりCランクにまで上げられるって事か……」

「そうだ。儂としては強い奴には上のランクになって欲しいもんだがな」


 そう言われても、そこまで急いでる訳でもないし、俺にとってメリットは少ないように思える。


「止めとく。地道に上げてくよ」

「……そうか、そりゃ残念だ」


 冒険者のランクが上がるとメリットも増えていくが、しがらみだったりデメリットだったりが多く、今はまだ必要無いと考えた。

 なので、コツコツじっくりランクを上げていく事に専念する。

 それに、これから行くフラバルドではダンジョンの入場に必要なランク制限が無いため、ランクを上げる必要性を感じられなかったのだ。


「それで、アンタに聞きたい事がある」

「あん? んだよ急に?」

「アンタ、ミルシュヴァーナに行ったんだろ?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、彼の顔が微妙に強張ったように見えた。


「ユスティから聞いた。俺が目覚める日の前日、俺のとこに来たって。何か用があったんじゃないのか?」

「い、いや……」


 歯切れ悪く、目を泳がせてアダマンドはしどろもどろとなっていた。

 明らかに何かあったなと分かるが、嫌な予感しかしない。

 コイツ、ギルド本部で何話しやがった?


「まさか七帝に話したのか!?」

「そ、それもそうなんだが……グランドマスターがな、お前さんを一度見てみたいっつってなぁ……ミルシュヴァーナに来いって言ってたんだ」


 何を話したら、そんな事になるのだろうか。


「お前、俺の事どう説明したんだよ?」

「あ〜えっと……国に現れた魔神を倒した暗黒龍の使徒がいるって話しちった、テヘッ」


 舌出してぶりっ子みたいなボケ方している。

 反省の色無しと俺は判断し、無言で両手首にある腕輪へと掌を添えて一言呟いた。


「『錬成アルター』」

「うおっ!? おいちょっ――待て! 仕方ねぇだろ! こっちだって説明しなきゃならんかっ――その短剣降ろしやが……ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


 俺の縦一閃を間一髪で避けたアダマンドだったが、このまま生かして逃す訳にもいかなくなった。

 口封じできなくなった時点で、こっちもかなり面倒な事になってしまった。

 その制裁を受けてもらおう。


「テメェ……よくも勝手にペラペラ喋りやがったなクソジジイ」

「わ、悪かったって!!」

「謝って済むんなら衛兵はいらねぇんだよ」


 ソファから飛び退いて命からがらと逃げたギルドマスターを殺すために、二刀を槍斧へと変形させて再び攻撃しようとしたところで、後ろから羽交い締めにされた。


「どんな事情かは話で大体分かるが、落ち着けノア殿!」

「クソッ、離しやがれ!!」


 腕の骨折が治ったリノに後ろから抑えられる。

 昨日骨をしっかり接合させて治してやったのに、こんな風に止められるとは思ってなかった。

 再び骨を折るのも忍びないので、溜め息と共に力を吐き出して錬成で腕輪へと戻した。


「じゃあ、やっぱりご主人様は暗黒龍様なのですか?」

「その呼び方で俺を呼ぶな、ユーステティア」

「す、すみません」


 つい殺気を彼女へと放ってしまったが、まさかこんなとこで露見するとはビックリだ。

 まぁ、影を大々的に使ってたんだ。

 バレるのも仕方ないし、ユスティは『やっぱり』と言ったので、元から確信していたのは確かだろう。

 俺を詮索するなと彼女に命令しているため、今まで聞こうとはしなかったのだろうと思う。

 ただ、暗黒龍の使徒がバレる事以上に、他の事がバレるのは流石に俺の立場が危ういので、彼女達からの質問に関しては一切受け付けない姿勢で行く。


「否定しないのだな、ノア殿……」

「今更取り繕ってもテメェ等は信じないだろ」


 記憶改竄でも行えば良いのだろうが、記憶改竄は俺にもリスクがあるのと、一時的な暗示でしかないため、切っ掛け次第で簡単に思い出す。

 記憶を封じてしまえば良いと考えるだろうが、それだと他の記憶にも影響を与える。

 蘇生は単に記憶を辿るだけだったが、記憶改竄は記憶そのものに干渉する行為に相当するため、彼女達に不具合が生じるのは俺も得策ではない。


「そうだ。俺はゼアンと魂の契約を交わした……奴の力を受け継いだ使徒だ」


 知られた事よりも、知られた事によって噂として広まる方が厄介だ。

 少数に知れ渡るのは嬉しくはないが、まぁ仕方ないと割り切るしかない。

 リノ達も俺の事を暗黒龍の使徒だと薄々気付いてたようだし。

 しかし、目の前の男は事もあろうか七帝とグランドマスターに話しやがったので、厄介な事になってしまったのは間違いない。

 利用されるのは嫌だが、それより更に厄介事に巻き込まれるのは御免だ。


「これ以上他言するな、ジジイ」

「わ、悪かったって……」

「悪いと思ってんなら、追加報酬を要求する。リブロの隠し倉庫にあった薬品だ」


 まぁ、ほぼ予測してた事だし、ウジウジ考えても仕方あるまい、気持ちを切り替えていこう。

 俺が要求するのはリブロの隠し倉庫の薬品だけ。


「……分ぁったよ畜生が! あぁクソッ、話すんじゃなかった〜!!」


 暗黒龍の使徒だと民衆にバレるのは流石に面倒が面倒を背負って来るようなものなのだが、まだリノとユスティの二人にバレたのは不幸中の幸いと言ったところか。

 徹底したところで何処からか情報仕入れてきそうだし、俺=暗黒龍という事だけしかバレなかったのは重ねて幸いだったと言えよう。

 この際、贅沢は言ってられない。

 それにミレットの言う通り、俺を暗黒龍の使徒だと思ってる人間も多そうだしな。


(本当は暗黒龍の力を持ってる事も言いたかなかったんだが……いずれバレるのも時間の問題だった、か)


 そう思う事としよう。

 過去については流石に話せないし、暗黒龍と契約するに至るまでの事も話す気は無い。

 奴の能力使うんじゃなかったな、マジで。


「もう一つ聞きたい」

「あぁ? んだよ?」


 逆ギレしてるが、元々悪いのそっちだよな?

 勝手に噂して、勝手に人の情報を流すというのは、やはり人間の嫌らしいところだと思ってしまった。


「元凶となった魔族達の死骸はどうした?」

「あぁ、そりゃ燃やして骨にしてやったぜ」


 まぁ、火葬か埋葬か、弔われたのならば何でも良い。

 それより聞きたいのは火葬後の骨の在り方だ。


「今、俺の影にはウルックっていう魔族の亡き骸が入ってるんだ。弔いたい」

「ほぉ、殊勝な心掛けだな。だが、魔族達の骨は海に捨てたぜ。海に還してやるのも良いだろう」

「……」


 そういうものか。

 少し雑な気もするが、犯罪者に温情なんざ不要だろう。

 それにウルックは俺との戦闘で満足して死んでいったのだし、この世界での命は軽い。

 普通は獣に喰われたり、身体が分離したまま腐敗したり、そういったものばかりだから、弔ってもらえるだけマシなもんだろ。


「な、なぁ黒り――」


 俺の事をそう呼ぶのは止めてもらいたい。

 なので、有りったけの殺気をぶつけて口止めする。


「俺は『ノア』、ゼアンじゃねぇ。次間違えたらテメェの口、二度と開けなくしてやる。分かったな?」

「わ、分かった……」


 部屋の魔力密度に殺気を混ぜ込んで、この部屋一帯を俺の支配空間にした。

 それにより、自在に操れる殺気を全部アダマンドに向けて放ってやるが、流石はドワーフ、胆力だけは光るものを持ってるようだ。

 しかし、怖いものは怖いらしい。

 やはり俺は化け物、どんなに俺が自分を人間だと思っていようとも、他人からしたら俺という存在は脅威でしかないのだろう。


「……の、ノアの小僧、いつ次の都市へ行くつもりだ?」


 どいつもこいつも、俺の行く先を知りたがるのは一体何なんだ?


「少なくとも三日以内には出て行く。この国は居心地悪いからな。それに何も無い」


 視線の数々が鬱陶しく、街を歩けば群がってくる。

 娯楽も無ければ、寝床も満足に得られないと来たもんだから、早めに街を出て行きたいのだ。

 しかし、ライフラインが断たれた今、船を使って国の外に出て行けるかは分からない。

 ユスティの報酬、それから情報を得られた、それだけで今は満足しておこう。


「おい、国からの報酬はどうすんだよ?」

「国の報酬だ? んなもんいらねぇよ」


 ギルドカードを手に入れられたので、アダマンドに対する用事はほぼ済んだ。

 後は俺の欲しかった薬品の数々を貰い、一階にいるであろうダイガルトと会う、二つの用事のみだ。

 俺は腰を上げて、出口へと向かう。


「行くぞ、テメェ等」

「あ、あぁ……」

「は、はい……」


 浮かない表情をしている二人には悪いが、これ以上自分の正体をペラペラと喋って正体晒す訳にはいかない。

 俺はノアとして生きると決めた時から、ウォルニスとしての過去を封じた。

 その足取りは重く、その道行く先は闇だ。

 彼女達まで、その道を強いる事はできない。

 照らしても見えぬ棘だらけの道だから、俺は傷だらけとなりながらも、この葛藤を抱え、背負い、歩み続ける。



 誰の力も借りず、誰の手も取らず、道も振り返らず、ただただ寂しく、一歩を踏み出した俺は……






 孤独という名の暗闇の底で、ただ一人、生きてゆく……






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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