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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第二章【財宝都市編】
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第57話 燃え広がる都市 魔族vs錬金術師

 熱気が肌を焼いていき、喉が渇き、とても暑苦しいと感じていた。

 ウルックが死に、俺は北の様子を見渡した。


(流石にやりすぎたな)


 最早見る影も無い街並みだ。

 建物は崩壊どころか、塵一つ残さずに俺達の戦闘の余波で消え去ったらしい。

 人も東側にいた奴等は殆ど『星喰らう歪んだ悪魔エーヴェウグル・ディーヴァ・ジーレ』によって食い尽くされたようだ。

 北地区の西側も火の手が回っていた事で、死傷者をかなり出したのが分かる。


「お、おい青年」

「あ?」


 これからリノのところへと向かおうか、それとも気掛かりの元へと向かおうか考えていると、後ろから誰かに話し掛けられる。

 そこに立っていたのは二人の男達だった。

 装備を見る限り斥候、つまりレンジャーのお出ましって訳だが、コイツ等遠くから戦いを覗いてた奴等だな。


「今頃出てきて何の用だ?」

「うっ……いや、悪かった、君一人に戦わせて」


 何故か申し訳無さそうな顔をしているが、逆に途中で入ってこられたら殺してた。

 戦況を見極めて自分達の手に余ると判断しただけでも偉いものだ。

 邪魔されなくて良かったと思う。

 それより、リンスバンと王女様は何処行ったんだろう?


「王女様は我々冒険者が匿ったから安心してくれ」

「いや、別に王女が死のうが生きてようがどうでも良い。そもそも今回の計画は勇者が火種だしな」

「「え!?」」


 あ、言わない方が良かったか。

 まぁとにかく、これで一段落着いた。

 死傷者が多いらしいが、この北地区以外でも何かが起こっているのは明白だから、今は取り敢えず情報が欲しいと思った。


「なぁ、アンタ等は何でこんなとこにいんだ?」

「俺達は西に向かってったギルドマスターの命令で、この北地区に来たんだ」

「それで、我等冒険者は君の手助けをしようと考えていたのだが、流石に近付けなかった……申し訳が立たない」

「気にするな」


 斥候程度じゃ、ウルックに倒されて終いだった。

 ってか、アイツに『本気なんざ出すか』なんて言っといて、少し本気出しちまった。

 特に『月陰クロヅチ』は強力な雷ではあるのだが、扱うのに失敗してたら焦げてたのは俺の方だ。

 更に身体に溜め込んでいた雷も一気に使うため、また補充しなければならない。

 次の魔神戦では使えないかもしれないな。


「はぁ、俺もまだまだ弱いな」

「「いやいや、充分強いだろ」」


 ツッコミらしき言葉がハモった。

 充分強いと言われても、実感が湧かない。

 今でこそ暗黒龍の力+精霊術+錬金術という三大能力を上手く扱えているが、それでもまだ工夫次第でより強くなれるだろうし、油断大敵だ。

 ウルックには感謝だが、この右目を使えなくて済まないなと思った。


「悪いなウルック……俺の名前を教えるのは、もう少し先になりそうだ」


 もしも俺の名前を教えるのならば、地獄に行った時だろう。

 天寿を全うするのは流石にまだ早いため、俺はウルックの開いていた目をソッと閉じた。

 安らかに眠れ、勇猛果敢なる魔族よ。


「クソッ、魔族め。大量に人殺しやがって!」

「死んで当然だな、こんな奴」


 二人の斥候がそう死体へと罵倒を浴びせているが、逃げてた奴が何言ってるのだろうか。

 だから人間は嫌いなんだ。


「黙れ。ソイツに罵倒を浴びせて良いのは、直接手を下して命を奪った俺だけだ。尻尾巻いて逃げてた奴等がほざくんじゃねぇよ、不愉快だ」


 言葉に殺気を込めて、二人の斥候を黙らせた。

 確かに今回の事件の首謀者達ではあるが、それは彼等の信念によって起こった事、そもそもの発端が我等人間側にあるのだから、文句の言いようが無い。

 それに、コイツは復讐より戦闘に興じたのだ。

 王女をリンスバンと同様に殺さなかったのが何よりの証拠だろう。


「さてと――」


 瞬間、何が起こったのか、途轍もない悪意が侵食してきた気がしたため、俺は咄嗟に錬成して二刀の短剣を生み出していた。

 冷や汗が浮かんでいた。

 何が都市で生まれ落ちようとしているのか、危機感知が警鐘を鳴らす。



 キュォォォォォォォォォォ!!!



 悲鳴のような声が聞こえた。

 南の方からだと気付くのに数秒も掛らなかったのだが、その様子はここからでも見えた。

 星喰らう悪魔、それは星々を贄として人々の魂を喰らい続けていき、最終的には神をも喰らい尽くす悪喰を成すモンスター。

 魔界に封印されているという噂を何処かで耳にした事があるのだが、眉唾物だったか。


「ん?」


 南の空に浮かぶ真っ赤な魔法陣が、そこに浮かんだ化け物に吸収されていき、三つに分裂していた。


「おい、戦況はどうなってるか分かるか?」

「え? あ、あぁ、えっと……」


 斥候の一人が状況を説明していく。

 南では魔槍使いと霊鳥族が化け物を灰にして、西では鬼人族二人が冒険者達と一緒に化け物を倒した。

 東の空に化け物が浮かんでるので、ナトラ商会のとこは倒されてないそうなのだが、この北地区以外で謎のゾンビ兵が徘徊していると聞いた。

 ゾンビ兵、それが何なのかは分からないが、どうやら一般市民だそうで、武器を手に冒険者を襲ってるそうだ。

 ここに現れてない理由は俺達の戦いによるものだろう、氷漬けにされた可能性もある。


「死体が、ねぇ……死霊術師(ネクロマンサー)でもいんのか?」


 そういった職業があるのは知っているが、少なくともウルックは武闘派、いや完全に武闘士の類いだった。

 女魔族は召喚術師だろうし、後分かってないのは二人の魔族についてだ。

 片方は恐らく擬態族、ギーレッドメルト=ナトラに扮した魔族がいるだろう。


(確か奴等は死体に潜り込むって話だったな)


 ならばナトラの商会長はすでに臨終の後だろう。

 そして、もう一人は恐らく未来視を持ってる敵、予知能力者がいるのは分かっている。

 他にも敵がいるかもしれない。

 警戒するに越した事は無いだろうが、気を抜いたら隙を突かれる。



 キュォォォォォォォォォ!!!



 また同じような悲しそうな鳴き声だ。

 氷に包まれている星喰らう悪魔が眩く発光し始め、その光が空に浮かんでいた一つの光の球体へと吸い込まれていった。

 そのためなのか氷が砕け、そこには氷像と化していたはずの怪物が消えていた。


(……次の段階に進めやがったか)


 確かナトラ商会は初日の二番目の品『ザインの黄金杯』を購入していたはずだ。

 そして召喚魔法に必要な奴隷を四体購入していた。

 その上、ユスティを付け狙う奴等も現れた始末で、俺は途端に胸騒ぎがした。


(ユスティ)


 彼女の安否が心配だった。

 アイツにはリノと合流するよう伝えたはずだが、もしかして捕まっちまったのか?


「あれは……」


 生まれたのは魔神のような身体と手足を生やした正真正銘の化け物だった。

 あの化け物の名前が何なのか、それについては分からないが、流石に俺も本気を出さざるを得ない事くらい肌で感じられる。

 不味いな。

 そう思っていると、遠くで斬撃が何処かに伸びていた。


「何だありゃ、まるで世界の終わりみたいだ……」


 この都市はもう終わりだな。

 しばらくの間は国を再建できないだろう。

 飛んで行こうかと思ったところで、俺の視界に一体の死体が目に入った。


(……ウルック)


 戦いに快楽を感じ、人を殺す事に喜びを覚えていた。

 しかし強大な敵であるはずの俺に対して、自分の生命力全てを使ってまでして戦いに臨んだ。

 良い奴、とまでは行かなくとも戦う者としての、ある程度の礼儀は弁えていたように思える。

 逃げようとしていた俺より、マシだろう。


(『ブラックストレージ』)


 魔族の身体は後で埋葬するとして、もしかしたら何かに役立つかもしれないと思ったので、影へと仕舞っておく。

 これで北地区では、思い残すものは何も無い。


「さて、行くか」


 いつまでも北地区にいる訳にもいかないため、そろそろ胸騒ぎの元凶を見に行こうかと思う。

 あの魔神のような怪物を野放しにしておくと後々厄介な事になるだろうし、ユスティとリノの事も気掛かりだ。


「『堕天使の影翼(ゼアーラ)』」


 暗黒龍のような龍翼ではなく、ボロボロな漆黒の翼を顕現させて飛翔する。

 上空へと身体は翔けていき、大きな影翼を使ってスピードを上げていった。


「あれは何だ……」


 中央へと近付いてゆく度に逃げろ、お前では勝てないと脳が警鐘をガンガン鳴らしてくる。


『我に委ねよ』

「ッ――」


 その言葉が何処からとも無く聞こえてきた。

 一年振り、何処か懐かしく、そして俺に力と運命を押し付けて逃げやがった奴、暗黒龍ゼアンだ。

 しかし、念話のようにも思えない。

 更に近くに奴がいる訳でもないため、不思議だった。


「おい! テメェ何処にいやがる!?」


 しかし返事は無い。

 もしかすると俺の身体に巣食ってる暗黒龍の力が、何かの切っ掛けで目醒めようとしているのか、それとも強大な敵に向かっていくのを力が感じ取ったのか、何にせよ俺の身体がどうなるかは未知数だ。

 しかし一年以上の間こんな事は無かった。

 分からない事だらけだな。

 右目も使わざるを得ないだろうが、それは最終手段、使えば意識も消えてしまうかもしれないし、身体や霊魂が朽ち果てる可能性だってある。


(迷ってる時間は無い、か)


 自分でも、どうするのが最善なのかは未だ分からない。

 死を恐れているのではないが、俺にはまだ何も成し遂げられていない。

 こんなとこで死ぬのは御免だ。


(お前のように何かを成し遂げて死にたいよ。なぁ、ウルック)


 影に仕舞われている死骸に意識を向けながらも猛スピードで向かっていく俺は、次第に巨大な魔神と、その魔神を召喚したであろう術式が眼下に見えた。

 屋上には三人の魔族と二人の男女、そして中央には八種族の召喚儀式がある。

 八種族属性別儀式召喚、それぞれの自然的属性を持つ奴隷達の霊魂と血液を使った特殊な召喚術だ。


(ユスティ……)


 八つの属性は、火、水、土、風、雷、氷、光、そして闇の八つの魔法属性と合致する。

 火属性の妖狐族、水属性の海人族、土属性のドワーフ、風属性の天狗族、雷属性の龍神族、氷属性の魔狼族、光属性のライトエルフ、闇属性のダークエルフ。

 龍神族に関しては、その種族の中の電龍族という種族だろう。

 全員が目を閉じている。

 恐らくは死んでいるだろうが、あの化け物に霊魂を喰われたってところか。

 その化け物の状態を確認するために、俺は左目の心晶眼を使って確かめる。


(……やはりか)


 あの化け物、霊魂を喰らって糧にしてやがる。

 だが、まだ定着しきってないからこそ、その八人くらいなら助ける事ができそうだ。

 まぁ、そんな事してやる義理は無いんだが、状況次第だろうし、一つだけ気になる事があったからこそ、俺は屋上へと降りていく。

 俺の所有物(ユスティ)の命を勝手に奪って、更に召喚儀式に使うとは、対処が必要だ。


「何者だ、貴様?」


 話し掛けてきたのは、強靭な肉体を服装で隠している眼鏡の魔族だった。

 コイツが擬態族の男か。

 そして儀式召喚の中央にいるのはサキュバスの女、それと近くにいる妖怪みたいな髪の女……男?

 まぁ、とにかく未来視を持ってるだろう。


「魔狼族を買った男、そう言えば良いか? なぁ、ナトラ商会長さん」

「……そうか、貴様が錬金術師か」


 やはり俺の事を知っていたらしい。

 何故かと思ったが、この戦いが始まるまでは錬金術は一切使っていなかったはずで、手に入れる手段が無い。

 あるとするならば……


「そこの未来視か」

「……」

「この計画の未来を見た時、俺が錬金術を使うのを見たんだろ。違うか?」


 腕輪から一刀の短剣、そして鎖を創って構える。


「どうやら少しは頭もキレるようだな」


 そう言われたところで、俺はただ今の持ち得る情報を整理して、その中から手に入れられる可能性を示唆しただけに過ぎない。

 策士とかではないので、そこまで賢い人間でもない。

 ただ、分別を弁えているだけのクソ餓鬼だ。


「返してもらうぞ、俺の女を」


 剣の切っ先を向け、目の前の男を見据える。

 魔槍使いは俺の敵になるとは思えないし、霊鳥族の能力はユスティ同様に有用だ。



 キュォォォォォォォォォ!!!



 その怪物が俺を見ていた。

 視線が交わり、その化け物が霊魂で練り上げたような大剣を振り上げて、横一文字に斬り裂いた。

 当然、全員が跳躍して避けるのだが、その風圧によって吹き飛ばされる。


「チッ」


 やはり見境無しか。

 持っていた短剣を投擲して、近くの建物へと突き刺して身体を固定する。


「ねぇ、君がノアかい?」


 近くの建物へと攀じ登って、何とか屋上へと到達する事ができた。

 そこにいた魔槍使いが俺の名前を知っているとは、誰が俺について教えたんだろうか。


「誰から聞いた?」

「えっと、案内人さんからだね」


 ここにリノがいたのか。

 だが、アイツは宿にいるはずで、部屋に籠っていたとばかり思ってたんだが、何故ナトラ商会のとこまで来てるのかと疑問となった。

 いるんなら早速予知を使ってもらいたいものだが、ここにはいないらしい。


「リノからか……アイツはどうした?」

「言いにくいんだけど……彼女、眼鏡の人か魔術師の女の人に倒されてね。お腹に穴を開けて倒れてたよ」


 つまり、死んだって事か?


「あぁいや、レイカの……霊鳥族の彼女の『輪廻の蒼翼』で何とか生きてるってさ。男の人も斬られてたけど、彼も何とかね」

「男の人……ダイトのおっさんの事か」

「二人は一応教会員の医療班に運ばれてったよ。今もその辺で救助活動してるだろうね」


 どういった経緯でダイガルト、ユスティ、そしてリノの三人が合流したのかは知らないが、悉く倒されるとは厄介だな。

 魔槍使いの話によると、ユスティ達も奮闘したらしい。

 が、結局は倒されてしまった、と。

 魔槍使いの方も身体の傷は見当たらないが、服装はボロ雑巾のようであるため、手酷く倒されたように見える。


「次来るぞ!!」

「うわっ!?」


 俺を狙っている。

 俺の膨大な生命力に引き寄せられるのか、本能に付き従っているように思える。


「死ね、錬金術師」

「クソッ」

「危ない!」


 俺を守るようにして、魔槍使いが前に出て男の攻撃を槍で受け止めた。

 紫紺の槍、まるで毒のようだ。

 しかし受け止められたのは一瞬、蹴りに耐え切れず後ろへと飛ばされ、俺も巻き込まれる。


「ガッ――」

「ご、ごめん!?」


 コイツのせいで背中を強打した。

 回復するので問題無いが、少し油断していた。

 それも、空に浮かんで執拗に俺を攻撃してくる化け物のせいだ。


「おい、錬金術師」

「あ?」

「貴様、武闘士の魔族と戦ったな? 奴は何処だ?」


 武闘士の魔族というのは、恐らくウルックの事を指し示すだろう。


「殺した」

「ッ……やはり貴様を生かしておくのは危険だ。ウルックの仇を討たせてもらう!!」


 仇、仇討ちか……


「お前等の目的はデルストリム王国一家を殺す事だろ」

「……」

「安心しろ、ウルックの奴が国王の首をへし折って殺したよ」


 仇討ちに忠実なのはウルックではなく、この男達なのだろう。

 シドという男のために為そうとする復讐、それを本人が望んでいるのだろうか。


「シドは人族との和平を求めてたんだろ? だったら、こんな事しても無意味なんじゃないのか?」

「黙れ! 貴様に何が分かる!」


 復讐の後に残るのは達成による自己満足と愉悦感、それが過ぎ去ると訪れるのは虚無感のみだ。

 復讐なんて誰のためにもならない上、更に禍根を残す可能性があるからこそ危険であり、そのために俺を巻き込まないで欲しい。


「知るかよ、テメェ等の気持ちなんざ。興味無いね〜」

「癪に触る餓鬼だな、貴様は」


 飄々とした態度の俺が気に食わないのだろう。

 人には好き嫌いがあるし、俺も目の前の魔族のような生真面目なタイプは嫌いだ。


「ウルックに勝ったのが本当なら、私も本気を出さざるを得ないようだ」


 そう言って、レッグのベルトに装備していた注射器を取り出した男は、その針を自身の首筋へと突き刺した。

 注射器には赤紫色をした液体が装填されており、それが体内へと注入される。

 針の部分から脈打つ血管が浮き出ている。

 目も血走って身体の血管が青黒く浮かび上がり、俺が武器を構えた刹那、その場から消えるようにして移動した。


「気を付けて! 彼は薬剤師だ!!」

「成る程、それで異様に身体能力が高かった訳か」


 最初に身体を見た時から思ってたが、身体を弄りに弄りまくっていたからこそ、細胞自体が変化していた。

 それによって強靭な身体能力を誇っている。

 そして特殊な調合薬を身体に注入して、細胞変化に一役買ってるところだと、心晶眼で理解できた。


「ドーピングした私の身体に恐れを為すが良い!!」

「ハッ、テメェの専売特許だとでも思ってんのか?」


 まるでウルックと似た戦い方をする男に、俺は拳を振り抜いて相手の拳とぶつけた。

 右拳同士の勝負、俺は魔力+雷の精霊術によって筋力を強化して、相手を商会目掛けて吹き飛ばした。


「な、何てパワーだ……」

「テメェ、魔槍使いなら魔力強化と魔法による肉体強化くらいできんだろ」

「いやぁ、手に入れてから日が浅いからね、まだ追い付いてないんだよ」


 魔槍や魔剣、聖遺物等は所有者の肉体や魔力の強化がオマケとして付与される。

 それに魔力を循環させる事で、より強化もできる。

 俺の場合は、魔力循環と精霊術行使による肉体強化を行っているのだが、二つを同時に扱うのは非常に難しく、少しでも集中を乱すと反動を食らう。

 雷によって神経伝達を早め、肉体強化していた。

 俺は勝手に『纏威電(マトイヅチ)』と命名しているのだが、これの本来の使い方は帯電なので、肉体強化は副産物のようなものだ。


「貴様!!」


 商会から飛び出してきたのは、やはりと言うか予想通りと言うか、薬剤師だった。


「何だ、生きてたのか」

「あれくらいで死ぬ私ではないわ!!」


 俺達は所構わず組み手を行う。

 連続で放たれた攻撃を全て受け流して、右拳を躱して外回りに回転して横腹に裏拳をぶち込んだ。


「グフッ……クソッ、何故錬金術師が体術を使う?」

「そりゃテメェも一緒だ――」

「危ない!!」


 薬剤師の方に注視していた事で、死角から近付いてくる魔族に反応するのが遅れた。

 翼を出して空から急襲してきたのは未来視らしき不気味な女だったが、持っているのは剣、首を突こうと剣先を向けてきたため、俺は左腕を突き出した。


「ッ!?」

「捕まえた」


 左手を剣が貫いて、深々と突き刺さる。

 剣の鍔が掌に接したところで柄を握っていた未来視の手を剣ごと掴み、握力のみで逃がすまいとして、そのまま奴の顔面へと右ストレートを叩き付けた。

 未来視の女が、地面で力が抜けたようにグッタリとして動かなくなった。

 突き刺さった剣を引き抜いていくが、肉の斬れる痛みが脳を刺激する。


「イテッ」


 剣を抜いた時、血が噴き出してきた。


「い、イカれてる……」


 そうしなければ捕まえられなかったから捕まえただけである。

 イカれてると言われても、効率重視だ。

 どうせ身体なんて即座に回復してしまう。

 穴の空いた掌から流れていた血が止まり、煙を出しながら肉が再生していく。

 回復速度が異常に速いため数十秒で肉が穴を塞ぎ、傷も残らずに消えた。

 その剣を使って、手枷を創って女の腕を後ろに組ませて錬成した。



 キュォォォォォォォォォ!!!



 咆哮を上げて、霊魂の大槍が投擲される。

 それを避ける間も無かったため錬成した短剣で受け流そうとしたのだが、力が強すぎて一気に吹き飛ばされた。

 地面に足を着いても、衝撃のベクトルが強すぎるせいで止まれない。


「クソッ、『錬成アルター』!!」


 両手に持っていた短剣を鎖に変え、それを建物へと突き刺して自分の身体を止めた。

 もう少し遅れてたら、かなり遠くまで飛んでた。

 地面へと降りて鎖を引き寄せ、近くに漂ってる不気味な魔神を見据える。


(右目を……いや、まだ駄目だ)


 魔族を先に倒してからでないと安心して使えない。

 魔力探知で周囲を探り、残り二人の魔族を見つける。


「そっちから来てくれるとは、手間が省けた」


 コイツ等を殺すか生け捕りにするか、どっちでも構やしない。

 だがしかし、生け捕りの方が殺すよりも何倍も難しいからこそ、命を奪った方が速いだろうも判断して、二刀の短剣を生み出す。


「ウルックとイグラの仇だ!!」

「顔に似合わず感情的だねぇ。魔族は薄情な生き物だとばかり思ってたが?」

「貴様は自分の奴隷が殺されたのに無感情とは、魔族よりも冷徹だな」


 ウルックの方が拳が固かったために、流石に拳での戦い方とは少し異なる。

 俺の二刀の斬撃を受けないように躱し続ける。


「ウルックより素早いだけか、それで仇討ちとは呆れて声も出せねぇよ」

「何だと貴様ぁぁぁ!!」


 挑発に乗っていると思ったんだが、冷静に対処しているところを見ると怒ってなさそうだ。

 怒ってない、それはつまり薄情と一緒だ。

 建物の陰で戦っているため化け物に見つかってないのだが、見つかったら攻撃の的となるはずなので、早めに終わらせるとしよう。


(アレをやるか……)


 腕輪を元に戻して、俺は無防備となった。


「血迷ったか!! そのまま殺してやろう!!」


 身体を薬剤で変化させたのか、鋭く尖った右腕で俺の心臓に的を絞って貫こうとしてくる。

 トップスピードに達していた攻撃は、俺の心臓に吸い込まれるようにして背中までぶち抜いた。


「カハッ……」


 心臓が潰された。

 激痛を通り越すような地獄の痛みが脳を揺さぶって、一瞬意識が飛びかけた。

 大量に血が噴き出る。

 呼吸もできず、血が逆流し、吐血した。


「これで貴様も終わ――なっ!?」


 右腕が抜けずに慌てふためく薬剤師の男に、俺は左手で奴の腕をしっかりと掴んだ。

 目から眼光が消えていないのは自分でも分かる。

 俺の瞳に映したのは、一人の男の最後の顔だった。


「じ、人体の約六割……水で形成されてる、って知ってるかい?」

「な、何を――」

「見せてやるよ、錬金術の一端をな」


 俺の左手を起点に、魔族の身体が凍り付いていく。

 人体構造の約六割が水でできているため、その分子構造を組み換えてやれば凍らせる事が可能だ。

 パキパキと腕から次第に凍っていく姿に、魔族は焦りから暴れようとする。


「や、止めろ!!」

「じゃあな、薬剤師」

「止めろぉぉぉぉぉ!!!」


 逃げようとするのを身体の筋肉と腕で抑え、身体を凍らせていく。

 人間の身体も魔族の身体も基本構造が同じなので、火薬を体内錬成する事も可能だが、それをすれば俺も被害を免れない。

 だから、凍らせた。

 細胞を活性化されて逃げられたりするのを防ぐために、細胞の機能を停止させたのだ。


(変わり種の職業の方が強いのか?)


 錬金術師然り、奇術師然り、薬剤師然り、この世界には何か強大な秘密があるのかもしれない。

 何故、俺が錬金術師として揶揄されてきたのか、何故揶揄の対象となっているのか、謎が増えるばかりだ。

 凍らせた身体を俺の身体から引き抜いた。

 血が大量に失われていくが、その上で更に血が大量に形成されていく。


(倦怠感が凄まじいな……)


 身体が痛い。

 心臓にポッカリ穴が空いてるが、煙が発生して細胞が徐々に塞がっていく。


(やっぱ心臓が潰れたくらいで俺は死ねないのか)


 完全なる化け物になっちまったが、死なないというのは色んな意味で便利だ。

 自分の身体を囮に使える。

 塞がった心臓部には、怪我の跡が残された。

 大きすぎる傷は回復が追い付かないのか、傷跡が残ったりしてしまう。


「君は本当に何者なんだい?」

「またその質問か。俺はただの人げ――」

「ただの人間が心臓潰されて生きてるなんて可笑しいでしょ?」

「……」


 正論を魔槍使いに言われてしまう。

 まぁ、自分も人間なのか半信半疑なので、言い返す事ができなかった。


「ってか、お前誰だよ?」

「あぁ、自己紹介してなかったね。僕はシグマ、よろしくノア」


 気さくな男だ。

 シグマ、それにレイカという名前、何だか不思議と親近感を覚える。

 とにかく、残りは一人の魔族だ。

 女魔族は彼に任せるとして、俺は霊魂を取り戻しに行くとしよう。


「おいシグマ、お前は上の女魔族を任せる。俺は魔神を相手に戦う」

「……分かったよ、気を付けてね」

「あぁ……『堕天使の影翼(ゼアーラ)』」


 一対の黒翼を生やし、天空へと躍り出た。

 あの化け物がこれ以上進化したら、俺でも手を出せなくなるかもしれない。

 それを何とかするために、黒煙の噴き上がる都市を見下ろす、一体の怪物へと挑んでいく。


「さぁ、返してもらうぞ!! ユスティの魂を!!」


 俺の進む道を邪魔するのならば、たとえ神であろうと悪魔であろうと魔神であろうとも、殺して、奪って、そして糧として喰らってやる。

 喰らうのが、俺の……俺の中に眠っている暗黒龍の力なのだから。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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