第53話 燃え上がる都市 南の戦い
北、東、西で各々の戦いを繰り広げている間、南でも炎が人々を追い込んでいく。
宿屋から飛び出した案内人、リィズノインは火の海となった都市を目の当たりにした。
「うっ」
人の焼けた悪臭が漂い、不快感を催した。
近くでは倒壊した建物の下敷きになった死体が一つ、動かない骸と化した人間が無惨に捨てられている。
(この状況は一体どういう事だ?)
自分が部屋に閉じ籠っている間に、何故か都市が炎に包まれている。
茹だるような熱さが肌をチリチリと焼いていく。
燃えた都市、人々の悲鳴、何処かから聞こえてくる戦いの音、今は落ち込んでいる場合ではないと分かったため、街の状況を知るために一度部屋へと戻っていく。
「母上、我に力を貸してくれ」
部屋に置かれていた精霊剣を手に取って、それを腰に装備する。
案内人である彼女の戦闘スタイルは、剣を媒体とした精霊術の行使だったが、その精霊剣の寿命によって今は精霊術を上手く扱えない。
その精霊剣は彼女の母が命を懸けて変身した姿、今は鞘に収まり、輝きも失われている。
「……これも、持っておかなくてはな」
部屋に置かれていたもう一本の直剣を背負う。
武器屋で購入した物ではなく、ノアが錬金術で形成した彼女専用の武器である。
宿屋にはすでに彼女以外の人間がいなかった。
全員避難したか、或いは怪物の餌となったか、彼女には知る由も無い。
とにかく移動だ。
彼女は何処へ移動すれば良いだろうか周囲を見渡していると、南側から蒼白い戦火が上がっているのが見え、ノアの精霊術なのかと思って走り出す。
(ノア殿)
自然と足が動いていた。
その蒼炎は以前に一度見た事があったからこそ、何かを考える前に炎の中を駆け抜ける。
「ハッ……ハッ……」
息を切らしながら彼女が向かった先では、口だけが付いている異形の化け物が人を喰らっていた。
「助け――」
人質となった年端も行かぬ少女がリィズノインへと手を伸ばして、助けを乞うた。
しかし、その先の言葉が紡がれる事は無く、少女の胴体から上が食い千切られ、残された身体は必要が無くなったのか道路へと無造作に捨てられた。
「ぁ……」
伸ばした手は空を掴み、心にポッカリ穴が開き、消えてしまいそうな声が漏れた。
その声が自分の声だと気付くのに然程時間を要しはしなかった。
少女の下半身が捨てられ、血が垂れていく。
彼女の履いているブーツのところまで血が広がり、少女が死んだ事をようやく理解したが、それによって目に焼き付いて不快感が吐き出される。
「うぷっ……」
吐瀉物を地面へと撒き散らし、彼女は少女を助けられなかったという後悔と、自分が生き残ってしまった事に対する罪悪感に苛まれる。
それにより足が止まり、恰好の餌食となる。
数本の手が伸びてきて、彼女を捕まえようとしている。
「クソッ!!」
背負っていた直剣を抜き放ち、魔力を纏わせて縦一閃、ノアが彼女に教えた魔力操作を用いた攻撃によって、普段以上の斬撃を与えられた。
その剣の重さは彼女用に調節されており、更に魔法が一つ組み込まれていた。
「『インパクト』!!」
瞬間的な重量が数百倍にも上昇し、ただ振り下ろすだけで周囲全てを吹き飛ばす事ができた。
剣の鍔辺りに魔石が入っており、魔法スクロールを魔石へと転写させて融合させたために、魔導具として魔法を使えるようになっている。
謂わば、魔法剣の類いだ。
しかし、その反動によって彼女の腕に過負荷が掛かってしまう。
「痛っ!?」
握っていた手に痺れがあった。
魔力によって筋力が増強されているのだが、それを上回る重量となってしまうため、このように筋肉に疲労が蓄積されていく。
それも事前に説明されていた彼女だったが、それでも使わずにはいられなかった。
自分が生き残るため、そして痛みによって自分が助けられなかった少女への贖罪のつもりだったのだ。
しかし動きが鈍ってしまい、それを好機と見たのか、化け物が腕を伸ばして彼女を捕らえようとする。
「この――」
間髪入れずに来る攻撃に対処しようとした時、蒼白い炎が彼女を優しく包み込んだ。
「『守護の蒼翼』」
その蒼色の炎が彼女を守り、化け物の手が溶けた。
しかしながら、全く熱くない不思議な炎を見た彼女だったが、その炎の持ち主が空から降ってきた。
「大丈夫なのです?」
「き、貴殿……オークションの時の霊鳥族か」
突如として現れたのは、オークション最後から二つ目の品だった一人の少女、背中からは蒼白い大きな翼を生やしている炎操りし鳳凰の末裔、リィズノインは先程の炎の正体を理解した。
ノアではなく、彼女が蒼白い炎を使っていたのだと。
何故こんな戦場にいるのかと思ったが、数刻先の未来が見えた彼女は少女を抱き抱えて真横へと跳躍した。
「ありがと、なのです……」
「お互い様だ」
口だけの悪魔が、手を溶かした霊鳥族の少女を殺すために大口を開けて息吹を放ったが、ギリギリ躱す事ができた。
炎のブレスによって建物が溶解し、地面が爆ぜ、真っ赤な炎がパチパチと火の粉を生んでいく。
焼けるような熱量が押し寄せてくる。
その温度はまるで、真昼の砂漠にいるような暑さとなっており、彼女は喉の渇きを感じ取っていた。
(熱いな)
今なら卵焼きがすぐにできそうだ、と暑いせいか下らない事を考えてしまう。
灼熱地獄にいる中で、頭がどうにかなりそうだった。
しかし戦いは待ってくれない上に、化け物には熱耐性でもあるのか、平常時と変わらない動きをして獲物を捕らえては喰らい、また捕らえては喰らう、を繰り返していた。
まさに悪魔、食い残された肉は道端に捨てられ、人という形が存在しない。
「うっ……」
「大丈夫か?」
「も、問題無いのです……」
近くに投げ捨てられた人の身体の断面が見え、二人は咄嗟に目を閉じる。
他にも脳味噌が飛び出していたり、内臓が出てきていたり、その者が誰なのかがもう誰にも分からないくらい、食い散らかされていた。
言うなれば、腹の空かせた子供が一心不乱に飯に有り付いているような状況で、まるで食事のマナーを知らないかのよう。
「あれは何なのだ?」
「さぁ、宿屋で寝ていたら雄叫びが聞こえてきて、それで外に出たらこんな状況となってたのです」
要するに二人共、何も知らなかった。
「最初は手掴みだったのです。けど、大きくなって身体から沢山の手が出てきて、それでボクと主様が逃げてる人達を守ってたのです」
「そ、そうか……」
自分よりも小さな子供が戦っている中で、自分だけ何もしていない、何もできていない事に罪悪感が更に心の中に募っていく。
自分も何かしなければならない。
だが、それだけの力を持ち合わせていない。
「ん? 主様?」
「ボクを買って下さった方なのです。ほら、あそこにいるですよ」
霊鳥族の少女が指差した先には、逃げ遅れてしまった者達を守るために怪物と戦っている一人の青年だった。
フードを被っており、体格からして男、という事しか分からない。
持っていたのは長く毒々しい紫色の槍、それを上手く使って遠距離から攻撃したり、刃に近い部分を持ってリーチを短くしたり、攻撃の手を止めずに戦い続けていた。
「主様は魔槍の使い手なのです」
「魔槍の?」
「主様の事はあまり知らないのです。けど、その槍の能力を使ってると、そう聞いてるですよ」
その男は敵へと紫色の刃となった長槍を投擲して、更に自身も跳躍して槍を悠々と飛び越える。
「来い! 毒魔槍ニーヴラル!」
その叫びによって、その魔槍は誰の手も触れる事無く勝手に抜けて、その男の手に戻っていった。
そして空中で槍を腰溜めに構えて、その化け物へと一撃をお見舞いした。
「『毒蛇ノ一太刀』!!」
紫紺の刃が肉を斬り裂き、その残痕から侵入した猛毒が肉の塊を侵す。
そして静かに崩れ落ちる肉塊を見ながら、男は安堵の息を零した。
「はぁ……何とか倒せたかな……」
毒の魔槍を背中に装備し直し、男は二人の前にやってきた。
「やぁ」
「ぇ、あ、どうも……」
気さくに話し掛けられると思ってなかったため、気の抜けた返事しかできなかったリィズノインだが、その男から発せられる魔力量は雰囲気と合わない。
鋭い魔力と柔らかな話し声がミスマッチしている。
魔槍の使い手である以上、自分よりも圧倒的な強さを持っていると彼女は理解していたが、気が抜けてしまう。
「えっと、早く避難した方が良いんだけど、逃げ場なんて無いよね」
「そ、そうだな……」
「僕は……シグマ、そう呼んでくれ」
フードを脱ぎ、現れたのは誰から見ても美男子だと分かるくらいの顔を持った柔和な青年だった。
茶色い髪に栗色の瞳、優しい表情をしているため、より異彩を放っている。
魔力が表情と合っていない。
「この子はレイカ、名目上は奴隷だね」
「よろしくなのです」
戦場に似つかわしくない二人の態度に、リィズノインは呆気に取られていた。
「わ、我はリィズノイン、案内人だ」
「案内人? あぁ、確か未来予知が使えるんだっけ?」
「そうだ」
未来予知を使える彼女に利用価値がある、普通の人ならそう思うだろう。
が、シグマは未来予知に使い道が少ないと思った。
未来予知は戦闘に役に立つが、それは使い道次第、案内人である彼女は武技も持っておらず、非戦闘職に値する。
だから、彼はこう口にする。
「君は逃げるべきだ」
「だが……」
生まれたくてそう生まれた訳でもない。
職業はなりたくてなれるものでもない。
だからこそ、彼女は自分が戦闘職だったらよかったのにと心の底から思っていた。
「さっきボクを助けてくれたのです」
「そうなのかい? レイカが迷惑を掛けたようだね。ありがとう。けど、非戦闘職がここにいるのは危険だ」
戦える者、戦えない者、それぞれの思惑は違う。
世界には魔力のみでのし上がった者がいる、世界には非戦闘職ながらものし上がる者がいる、それを彼女は知っている。
だから、彼女は手にしていた剣を強く握った。
奮い立たせんとする闘志が、拳に現れる。
自分の職業が非戦闘職であっても、結局は他で補う事ができるのだと仲間が証明している。
外れだと揶揄されている錬金術師の彼のように……
「我も戦える! 見くびるな!」
非戦闘職であるノアのように、諦めずに戦闘に身を投げる彼のように、彼女も与えられた職業に誇りを持って戦場へと足を運んだ。
今度は自分が導く番だと、そう心に刻んで。
「……分かった。なら、一緒に――」
言葉が途切れた瞬間、彼女は、シグマの目の前で自分達が後ろから殺されるという未来を予知したため、レイカと一緒にしゃがんだ。
それを見たシグマも、未来予知と即座に理解して背中の魔槍を横薙ぎに振るった。
「な、何なのです?」
「……死体だ」
それは各地区で起こっていた歩く屍だった。
持っていた錆びた剣や槍で二人を殺そうとしたため、シグマが守るために斬り伏せたのだ。
見た目としては一般市民らしい装いだが、半分骨だけの者だったりが動いている様は気味が悪く、更に斬り伏せても起き上がろうとしてくるため、レイカは蒼炎で燃やし尽くした。
「何を――」
「レイカの炎は聖なる炎、仕掛けられた魔法や呪術、そういった類いを浄化してくれるんだよ」
それが霊鳥族の特徴の一つであると、そうシグマが説明した。
異常なまでの不死鳥の再生力、極めて高い戦闘力、そして空を飛べる機動力もあり、彼女の炎は仲間の傷さえも癒してくれる。
だからシグマは霊鳥族である彼女を三十九億ノルドで競り落とした。
「死体が……消えていく?」
浄化によって、腐敗した肉体が形状を保てずに灰となって消えていった。
浄化能力は聖女をも凌ぐ力を有していた。
しかし回復魔法とは違うため、治せるのは傷のみであり、他人の病気や精神的な問題は治す事ができない。
その死骸達から蒼白い何かが出てきて、天へと昇っていった。
「あれは……」
「多分、魂じゃないかな」
同じように、蒼白い炎が灰となった化け物も燃やして、大量の蒼白い霊魂が空へと消えていった。
魂が何処へ行くのか、それは神のみぞ知る事である。
リィズノインとシグマの二人は冥福を祈り、そして次々と浄化されていく光景を見守る。
「それにしても、こんなテロみたいな事するなんて、どんな奴だろうね」
「……」
彼女には心当たりがあった。
ノアがナトラ商会を調べている事も、予知で五匹の奴隷を買おうとしていた事も、全ては今の状況に繋がっているのだと、そう思った。
彼等が何をしたのかは知らない。
それでも、許す事はできない。
無関係な人達にまで危害を加えようとする敵、そう認識していた。
「『聖炎の蒼翼』」
レイカの放った蒼炎は、まるでユラユラと揺らめいている魂のように見えた。
風に流されて蒼白い火の粉が散っていく。
儚い命のような煌めきが、そこにはあった。
「これで終わりなのです」
「うん。お疲れ様」
レイカを労わるように優しく頭を撫でて、シグマは次の行動へと移った。
「さて、それじゃあ元凶のとこまで案内よろしく、案内人さん」
「へ?」
「だって、知ってるんだろ? 顔に書いてある」
いきなりの事に、無意識のうちに顔を触ってしまったリィズノイン、しかし触ったという事は知っているも同然の行為だと気付いた。
シグマを見るが、彼は終始笑顔を繕っている。
しかし、今は悪魔の笑みに見えてしまったため、彼女は正直に経緯を説明した。
「成る程、そのノアって人が……」
「あぁ、それでノア殿の使う蒼白い炎が建物の向こう側で上がっていたと思ったのでな、ここに来たのだ」
「けど、それはレイカの炎だった訳だ」
これで全て分かった。
そしてノアなる人物がナトラ商会に目を付けていた事実を話すと、シグマは何かを考えるような仕草を取り、そして確かめるべくナトラ商会の方へと向かおうとする。
しかし、向かおうと考えたところで立ち止まった。
「どうしたのだ?」
「えっと、非常にお恥ずかしい話なんだけど……ナトラ商会って何処?」
リィズノインは、この男を連れて行っても大丈夫なのかと思ってしまった。
先程のような戦闘時の鋭い雰囲気は何処へやら、普通に話していると戦えるかが分からないような、そんな威圧の無さが目立った。
「君の話からすると、ナトラ商会が全て悪いように思えるね。今考えると、二十六番が多くの奴隷を買った理由もそこだろうね」
「ん? どういう事だ?」
「分からないかい? あれだけの人を喰らうモンスターを召喚するのに、媒体が魔力のみってのも可笑しな話じゃないか」
召喚魔法についてだが、これは魔力を用いてモンスターを召喚する方法が一般的であるため、霊魂と血を媒体にする召喚形式は殆ど知られていない。
しかし、よくよく考えてみるとシグマの言う通り、媒体が魔力のみだとしたら簡単に倒せるし、そこまで人を喰らうような危険なモンスターを使役できるはずもない。
それが世界の常識だと言って、シグマは歩き出した。
「良いかい? 召喚魔法には基本二つの方法がある。一つは魔力のみの一般召喚術、そして今回用いられたであろう方法が媒体召喚、今回は奴隷達だろうね」
「そ、その根拠は何だ?」
「オークションの奴隷を五体も買おうとするなら大金が嵩むけど、それなら普通に奴隷市場とかで買えば良い。けれども、ナトラ商会はそうしなかった」
実際にナトラ商会が競り落とせたのは五匹ではなく、魔狼族のユーステティアを除く四体。
なら、何故ワザワザ奴隷市場ではなく、目立つオークションで競り落とす方法を選んだのか。
「答えは多分、ダークエルフと龍神族だろうね」
「すでに話に付いていけないのだが……」
「なのです……」
いきなりのキーワードが、答えと繋がらない。
何故ダークエルフと龍神族という言葉が出てきたのか、それが二人には分からなかった。
「あれ、可笑しいなぁ。この世界の人なら、これくらい簡単だって思ったんだけど……」
小さく呟いた言葉は、彼女達の耳には届かなかった。
「まぁ良いや。ダークエルフと龍神族は希少な種族だ。奴隷市場にはまずお目に掛かれない。だとするなら、大金が動くオークションが目に付くはずだ」
「ふむ?」
まだ少し理解できていないリィズノインに、より分かりやすく教えていく。
「召喚魔法に、そのダークエルフと龍神族の魂、或いは肉体か、血か、それとも魔力か、ともかく何かしらの素材が必要だったって事だよ」
その召喚儀式を行うために、奴隷市場を虱潰しに見て回るのではなく、一回で手に入るかもしれない博打を選んだという事。
そして、そのために必要なのが大金だった。
だとするなら、後は金を稼げば目標金額に届くかもしれない。
しかし、事態はそう上手く運ばなかった。
「それが、ノアって人が大金払って買った魔狼族の子、だろうね」
「では、召喚儀式で生まれたアレは何なのだ?」
「さぁね。けど、完全体じゃないから人を喰らって力を付けていた、なら説明が付くんじゃない?」
人を喰らう理由、それが完全体になるための本能だと、そうシグマは推測する。
人の多い場所へと向かっていくのも、力を付けるため。
東西南北それぞれに現れた化け物達だが、それは人々がグラットポートから逃げようとして逃げられなかったために多く密集していたからだ。
南に現れた化け物は毒によって灰となり、更に聖炎によって大量の霊魂を失ってしまったため、もう生き返る事は無いだろう。
「海人族とエルフは希少ではあるけど、さっき述べた二つの種族と比べたら普通だね」
結果、四体を儀式に簡単に使えて、尚且つ目的の種族が揃っているオークションで、四体もの奴隷を競り落とす事ができたのだ。
逆に言えば、ノアがいなければ完全体を召喚されて、更に多くの犠牲者が出たかもしれない。
(いや、それは誤差かな……)
結局、大勢の人の命が奪われたため、完全体だとしても変わらなかっただろう。
犠牲者が、完全体の時よりも多いかもしれないし、もしかしたら少ないかもしれない。
だが、それを確かめる術は彼等には無い。
「結局、大勢の人が死んでしまった。それを許しちゃ駄目だからね、これを解決するのは僕の使命だ」
「使命?」
「それで、ナトラ商会は何処だい?」
「あ、あぁ、北東へと少し進んだところだ。案内する」
草根を掻き分けるように、炎の道を通っていく。
縦一列に並び、リィズノインを先頭にナトラ商会へと目指していく。
「……レイカ、念の為に空から異常が無いか見てくれないかい?」
「了解なのです」
そう言って、綺麗な青い炎を纏った赤色の翼を羽ばたかせて空へと飛び上がった。
空を飛べるからこそ、全体を俯瞰する事ができる。
それにより、北、東、そして西で何が起こってるのかを知る事ができた。
また、中央付近に位置する東側のナトラ商会も発見するに至った。
「見つけたのです。確かに北東にあったのです」
「我を疑ってたのか?」
「ご、ごめんなさいなのです……」
「あぁ、僕が教えたんだよ。知らない人には付いていっちゃ駄目だよってね」
まるで子供を諭すような発言に、二人が親子のように見えてしまった。
「それに、誰かが商会に向かっているのです」
「誰か? 特徴は分かるかな?」
「はいなのです。一人は黒い髪のおじさん、もう一人は白い狼さんなのです」
空から見て分かったのは、それだけ。
もう少し近付かなければ詳しい特徴は分からない。
「レイカ殿、前髪が白くて全身黒い男は見なかったか?」
「み、見てないのです」
「そ、そうか……」
ならばノアは何処で何をしているのか、まさか逃げたのだろうか、そんな風に思考が働いてしまう。
それはノアが普段から戦いたくない、そう言葉にしているからであり、彼の普段の考え方やヤル気の無さ、それが顕著に面に現れている。
「東と西は冒険者の人達が対処してるのです。北は……穴ボコだらけなのですよ」
「穴?」
「何かに潰されたような穴なのです。それが、ここからでも分かるくらいなのです」
大量の大きなクレーターが発生していると、レイカは言った。
しかし、今はナトラ商会に向かうのが先決であるため、リィズノインは思考をそちらへと回して、道案内を続けていく。
「ここだ」
そして辿り着いた場所には、大きな屋敷と、裏手に巨大は化け物が鎮座しているナトラ商会があった。
「リノさん!」
「ユスティ殿!」
丁度、通路の奥から二人の人物が見えて、駆け寄ってくる。
偶然にも東側で遭遇したダイガルトとユーステティアの二人だった。
出会えた幸運、これが引き寄せられたものなのかは不明だが、それは些細な問題だった。
「ノア殿は何処に?」
「北のところで魔族と戦ってます」
それでいなかったのかと納得した。
今までの経緯を説明しながら、ここに来た理由を会話する中で、ユーステティア達は後ろの二人の存在に気付く。
「君がさっきの話に出てた魔狼族の子か……できれば儀式のあるところに来てほしく無かったんだけどね」
「俺ちゃんに言われてもなぁ……」
シグマがダイガルトへと視線を向けるが、結局はこれは偶然そうなってしまっただけ、過去をどうこう言ったところで無意味だと全員分かっていた。
「ワザワザ餌が歩いて来てくれるとは、何たる僥倖」
全員の頭上、屋敷の近くの建物には一人の男が立っていた。
ナトラ商会会長ギーレッドメルト=ナトラ、に扮装した魔族のミルミトである。
餌、それはつまりユーステティアの事を指す。
上から見下ろす姿はまさに極悪人、隣には妖艶な美女が一人佇んでおり、二人は屋上から飛び降りて全員の目の前へと降り立った。
「誰だテメェ等!?」
お互いに距離を保ったまま、それぞれが警戒する。
「名前を聞くのならぁ、まずは自分から名乗るのが礼儀なんじゃなぁい?」
クスクスと妖艶に笑みを浮かべるリンドメークは、相手から名乗るべきだと言った。
魔族が強いという事を理解している者達と、理解していない者達がそれぞれいた。
警戒心を露わにしているのはダイガルト、そしてシグマの二人だけ、女性陣は相手の強さを見極める事がまだできていない。
「魔族に名乗る名前なんざ無ぇな」
「あらぁ、それは残念……さぁ、ここに餌が沢山あるわよぉ! これ等を喰らってしまいなさぁい!!」
その言葉が合図だったのか、商会の魔法陣を守るようにして鎮座していた星喰らう悪魔が重たい腰を上げた、ように見えた。
伸びる無数の手、そして魔族二人の板挟み状態、五人の人間達は急展開続きの中で、それぞれが得意な得物を持って戦いへと臨んだ。
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