第50話 奇襲
ユスティが最高級の職業を手に入れた。
嬉しいと思う反面、俺は本当に彼女と真逆なのだなと理解してしまった。
だからこそ、彼女に職業書類を返す時、何も言えなかった。
(昔だったら嫉妬してたかもしれないな)
暗黒龍と出会わなければ、俺は昔のようにウジウジしていただろう。
彼女に羨望と嫉妬の眼差しを向けていただろう。
今だって行き場を失ったモヤモヤを抱えながら、ユスティ分の日用品を買い揃えるために、現在職人街へと向かっていた。
可憐な彼女に多くの人の視線が集まるのは当然として、何人かは俺に殺意を向けてくる。
恐ろしいものだな、人間は。
「嬉しそうだな」
「そ、そうですか? エヘヘ」
狩猟神という職業を手に入れた事を喜んでいるようで、羊皮紙を何度も見ながらフニャァと気の抜けた笑みを浮かべている。
嬉しい気持ちが前面に出ている。
その笑顔を見て、嫉妬や羨望といった気持ちとかは失せていった。
「狩猟神って事は、あの神官に勧誘でもされたか?」
「え?」
「いや、基本的に協会側からしたら、『神』クラスの職業の持ち主は勧誘すべきだって考えるはずだ。勧誘されたりしたのかなって思ったんだが……」
さっきの神官は俺の事を知ってたし、勧誘し忘れてたってところか?
何かおっちょこちょいな性格そうだったし。
勧誘されたところで俺が認めないが、教会に入ったところで良い事はあまり無いと思う。
「結局リノさん、来ませんでしたね」
「ん? あぁ、そうだな」
昨日、途中でギルドで情報を集めに行くと言ってから帰ってきて、魂が抜けたような状態となっていた。
故郷が滅んだ事を知ってしまったために、恐らく内心では複雑な気持ちを抱えてるに違いない、そう考えたので連れて来なかったのだ。
ユスティがリノの部屋のドアをノックしてたのを今朝方見たので、まだ部屋で膝を抱えてるはずだ。
「まぁ、いずれ立ち直るだろう」
ユスティはリノの事情を知らないため、何故塞ぎ込んでいるのか分からずにいる。
俺も詳しいところまでは知らないので、首を突っ込んで良いものか悩んでいる。
「事情を聞きたいんなら聞いてみろ。教えてくれるかは分からんが」
首を突っ込もうがどうしようが彼女達の勝手なので、俺は傍観者として俯瞰する。
相談に乗る事もできるっちゃできるが、この問題について深く関わるのも得策とは言えない、そう思ったので俺は彼女の問題について聞いたりしない。
聞いたところで面倒事が待ってるだけだしな。
それにリノの問題について、故郷が無くなってしまったので最早解決する手段も見当たらない。
(そっとしとくべきか、助け船を出すべきか……)
助け船を出したとしてもどう助けるのが最適か、彼女の心の内が見れない俺では、余計な事をして傷口に塩を塗ってしまいかねない。
それは勘弁願いたいところだ。
いつまでもウジウジするような性格でもないのは、この一ヶ月半共に旅してきて知っている。
「少なくともユスティのせいじゃないから気にするな」
「……はい」
耳の動き、それから尻尾の揺れから彼女の表情が丸裸となっている。
耳が垂れて、尻尾も下がって小刻みに揺れている。
彼女はリノが落ち込んでいるのは、もしかしたら自分のせいかもしれないと考えており、何かしただろうかと不思議そうな表情、それから不安そうな表情をしている。
流石に見過ごせなかったため、俺に何ができるかを考えた時、一つしか思い浮かばなかった。
「ふぇ!?」
餓鬼を落ち着かせるには、頭を撫でるのが一番だ。
そう思って綺麗な雪色の髪へと手を乗せて優しく撫でていくと、効果が現れたかのように耳が可愛らしく震え、尻尾も上に上がっていた。
狼が感情豊かな動物であるのは知ってたが、獣人である彼女達の表情は獣化器官と顔に現れるため、より感情が分かりやすい。
「エヘヘ……」
温厚な性格が露わとなっているが、彼女の種族は狩猟においてはピカイチのはずで、戦闘に入れば天賦の才が発揮されるだろう。
弓の技術が無い、いや苦手というのは本当は可笑しい話なのだ。
まだ見てないのだが、弓が苦手というのは恐らく理由があるはずだ。
「日用品を買い終わったら、一度武器屋に寄る。本当に弓が苦手なのかを確かめる」
狩猟の種族として生まれてきた彼女には人族には無い圧倒的な潜在能力が秘められている。
弓術も戦闘センスがあればできるはずなのだが、彼女は十歳になる前から大人に混じって狩猟に参加していたと言う。
十歳前に狩猟を始めたからだろう。
弓を教えなかったか、或いは彼女の身体に合わなかったか。
「わ、分かりました」
苦手なものを克服するのは相当厳しいものだと、彼女はすでに理解しているようだ。
あまり気乗りしないらしい。
嫌そうな顔をしているが、主人である俺に逆らう事ができないため、こうして頷く他無い。
「安心しろ、弓術は得意中の得意だ」
「ですが、武器が見当たりませんけど……」
彼女は俺の錬金術師としての戦い方を知らない。
そのため武器を持ってないようだと認識しているのだが、腕輪を錬成して武器に変形させるという変則的な戦闘方法なので、腕輪が武器だと言える。
この戦い方は一例でしかないが、錬金術師の戦い方は他にも幾つかある。
例えば毒物の瞬間調合による毒物噴霧、錬金によって生まれる磁力の操作、金属や鉱石の人体融合による身体の武器化、土地錬成による地形変化戦術、使い方を変えれば幾重にも変化する。
「こんな往来で武器を出す訳にゃいかんだろ」
「そうでしょうか? あ、あそこにいる人は弓を担いでますよ」
彼女の指差した方には、弓を背負って矢筒を腰にぶら下げてる女性が誰かと歩いていた。
エルフだったが、グローリア達じゃなかった。
エルフは弓が得意だったりするので、狩猟神という職の彼女は羨ましがられるだろう。
「俺は腕輪を使って弓を作るんだ」
「腕輪を? 何かの魔導具なんですか?」
「いや、ただの合金腕輪だ」
魔力伝導率が極めて高い鉱物を使ったものだが、これで武器を作ったら意外と脆かったので、少しだけ超鋼鉄鉱物も混ぜてある。
なので、腕輪の状態でも防具として使えるし、即座に錬成して戦ったりできる。
それに超圧縮して腕輪を作ってるので、普通の攻撃では傷一つ付かない。
「俺は錬金術師だ。金属錬成は朝飯前って訳だ」
「そ、そうなんですね……」
普通の戦闘職ならば武技を使って強力な一撃を生み出したりできるが、俺は非戦闘職、戦いという場所から遠い位置に存在している。
彼女の脳内が疑問符で埋め尽くされている。
当然の話だ、常識破りな戦い方をしている奴が目の前にいるのだから。
(そもそも俺が戦えてるのは暗黒龍の力もあってこそだからな)
この超人的な身体能力と回復力が無ければ、俺はここまで戦えていたかどうか。
そう考えていると隣にいたはずのユスティがいなくなっており、辺りを見回してみると何かの屋台で何かを見ていたので、俺もその屋台に足を運んだ。
「いらっしゃい、このお嬢さんの連れかい?」
「まぁ、そうだな」
店主の老婆が売っているのは、髪飾りの類いだった。
リボンやシュシュ、カチューシャや髪留め、色んな髪飾りが売られてるが魔眼で性質を見極めてみると、そのどれもが魔法、或いは幾つかは呪いが掛けられていた。
そのうちの呪いへと手を伸ばしていたので、その手を掴んでユスティを止める。
「ご主人様?」
「左目を使ってみろ。真実を映し出す眼だ、見ればすぐ分かる」
「は、はい」
彼女は左目へと意識を向け、魔眼を発動させた。
そして彼女は驚いたような表情をしていたので、気付いたようだ。
「おい婆さん、アンタ人の連れに呪具を売りつけようとするとは、一体どういう了見だ?」
呪具というのは、呪いが付与されたアイテムの総称だ。
触れると瘴気が身体へと侵蝕して呪いが発動するため、触れるのは危ない。
中々に厄介なものを買わされるとこだった。
「おや、アンタ達、魔眼を持ってるのかい?」
「俺は持ってないがな。俺の場合は直感だ」
「そうかいそうかい……呪いも混ざっちまってたか」
何で店に並べてあるのかは知らんが、婆さんはグローブしてたために呪いが発動しなかったと見える。
呪いは素肌で触れるか、魔力を流し込めば発動する。
つまり、これまでに発動しなかったのは単に運が良かったと思われる。
「この指輪とか、何処で手に入れたんだ?」
「それかい? 知り合いの冒険者から買ったものでねぇ、売り物になるかと思ったもんだから、こうして店に出してるんだよ」
危ない事するな、この婆さん。
鑑定魔法とか覚えてないと、こういった弊害も起こってしまうために慎重な目利きが必要となるのだが、店を見る限りでは婆さん一人だけらしい。
「お兄さん、良かったらどれが呪いなのか、教えてくれないかい?」
「……」
「報酬は弾むよ」
「分かった」
店に並んでいる品々を一つずつ鑑定していこうかと思ったんだが、どうせなら丁度良い訓練にもなりそうだし、ユスティに鑑定を頼むとしよう。
「ユスティ、水晶眼を使って呪具なのか魔導具なのかを見分けてみろ」
「は、はい」
左の碧眼が淡光を宿し、ユスティの魔眼が発動された。
水晶眼、これは真実を映し出すという眼らしく、基本俺の心晶眼と似たような能力なのだが、魔力や精霊力といったエネルギー感知とかができる。
本来の能力としては偽装を見破ったり、罠を発見したりする、狩猟関係の能力だ。
彼女にピッタリだと思って創り出したのだが、上手く起動しているようだ。
「ご主人様、全部で三つあります。これとこれ、それからこれです」
「よし、正解だ」
一つは冒険者から買ったらしい小さな指輪、一つは組み紐が付いてる青色のネックレス、そして一つは何の変哲も無い髪留めだった。
呪いが混ざってるとは、やはりグラットポート、何でも揃う国だ。
「その三つは早めに処分する事をお勧めする」
「そうだったんだね……分かったよ、お礼に呪い以外の好きな物を一つずつ、持っていっておくれ」
報酬として貰える事になったのだが、俺に髪留めとかは必要無い。
そう思ったので、どうせならリノの分に一つ、貰っていくとしよう。
「ユスティはどれにするんだ?」
「……ご主人様にお任せします」
「俺が選んで良いんなら選ぶが……良いのか?」
「はい」
ならばリノとユスティの二人分、どれにしようか迷いながら心晶眼を発動して、二人に合う魔導具を選んだ。
ユスティには肩まで伸びた髪……横髪って単純な名前だったはずだが、まぁ伸びた髪を纏めるために青と緑の対になってる二つセットの星形髪留めを、リノには髪を結ぶための赤いリボンを貰った。
「ふぁ……ありがとうございます、ご主人様」
「似合ってるねぇ、お嬢ちゃん。教えてくれて、ありがとさん」
「はい!」
横髪を軽く纏めてやり、彼女は嬉しそうにクルクル回っていた。
その髪留めには体力と魔力の回復速度を高めてくれる回復魔法が付与されており、赤いリボンの方は魔力を高める効果の魔法が付与されている。
このリボンは、リノの未来予知に役立つかもしれない。
「さ、次行くぞ」
リボンをアイテムポーチに仕舞って、俺達は日用品を買い揃えに次の店へと向かっていった。
日用品を粗方買い揃えられた俺達は今、武器屋に寄ろうと思って歩いている最中だ。
ユスティは嬉しそうに荷物を持っていたのだが、急に辺りを見回し、俺へと視線を向けてくる。
「ご主人様……」
「あぁ、分かってるよ」
お互い分かっていたため、俺は彼女を抱き寄せて周囲を窺う。
こんな人前でできるような事でもないため、俺達は人気の無い裏通りを通っていく。
ユスティは黙って俺の後ろを付いてくる。
人前でしたら騒ぎとなってしまうからな、人のいない場所が最適であるだろうと考えて、ある程度奥まで進んだところで立ち止まった。
「ここまで来れば良いだろう」
「はい」
俺達は向かい合い、目を閉じる。
これで準備は整った。
互いに顔を近付けていき、そして……
「ひゃっ!?」
「少し我慢しろ」
俺はユスティを横抱きにして跳躍した。
やはり俺を狙っていてようで、俺の先程いた場所には無数の矢やナイフが突き刺さっていた。
矢は焦げており、先程の攻撃で火の魔法が使われたのだと分かるが、殺す気だったのか。
「よ、ようやく尻尾を現したようですね」
「まぁな、ずっと隙を見せてたのに襲ってこないから、釣れて良かった」
ゾロゾロと屋根の上から何人か人影が現れ、俺達を見下ろしていた。
弓やナイフが見え、ローブで顔全体を隠している。
それに太陽が上にあるので、逆光で全体のシルエットしか見えないため、何者なのかと警戒する。
「ずっと殺気を飛ばしてきてたから何だと思ってたが……どういうつもりだ!」
「……」
相手に問い掛けても誰もが無反応、返事すら返ってこないので、何だか不気味だ。
「その娘をこちらへ渡せ」
渋い男の声が聞こえたので、声のする方へと振り向いた時には、眼前に矢があった。
紙一重で身体を逸らして避けた。
しかし咄嗟の事だったので、避け切れずに頬一枚切れてしまった。
「ご主人様!?」
「大丈夫だ。ユスティも当たらないように気を付けろ」
「はい!」
身体に痺れが見られるところから考えて、麻痺毒でも塗ってあったのだろう。
驚異的な回復能力を有するこの身体に毒は効かない。
痺れも数秒程で取れ、傷口から小さな煙が出てくる。
「なぁ、アンタ等ってナトラ商会に雇われたのか?」
「……」
「チッ、無視かよ」
無視されるなんて心外だ。
「その娘を渡せ。断ればどうなるか分かるな?」
ユスティを渡せば俺は殺される。
断ったところで結局は殺される。
どっちに転んだとしても、俺は口封じのために殺されてしまうのは目に見えてるので、意地悪な質問をされてるようだな。
渡しても口約束なんてすぐに破られてしまう。
渡してくれたら助ける、なんてのは都合が良すぎる。
「『錬成』」
俺は右手で左手の腕輪を槍斧へと変形させる。
その槍斧に右手の腕輪から伸びる鎖を繋げて、そして構えた。
「ハッキリ言ってやるよ……やだね! コイツは俺の所有物だ! 誰にも渡さねぇ!!」
コイツを誰にも渡したりしない。
八十三億もの価値がある、いや、今ではそれ以上の価値があると俺は思っているからこそ、コイツの成長を見てみたいと考えている。
だからこそ、俺は武器を構えている。
だからこそ、俺は相手に力を示さなければならない。
「全員! 男を殺せ!!」
その男の合図によって、三、四階建ての屋根から何人もの顔を隠した部隊が飛び降りてくる。
全員殺し屋か?
暗器の類いも持ち合わせていると考えると、これだけの数を相手にするのは厳しいな。
少なくとも二十人近くいるため、骨が折れる。
「ユスティは逃げ――」
「私も戦います!」
そう言って彼女は、腰の短剣を鞘から引き抜いて飛び出していってしまった。
俺の護衛を全うしようとしているのか、壁を蹴って上空へと上がっていった。
捕獲対象って分かってんだろうか?
(凄まじい身体能力だな……っと)
こっちも余所見してる場合ではないので、投げられたナイフを指で挟んで止め、それを投擲した本人へと投げ返してやる。
「クッ!?」
投げ返されたナイフを避けた瞬間を突いて、俺は背後へと回っていた。
実力はそこまで大した事は無さそうだ。
これならユスティの方も何とかなりそうだが、念の為に速攻で終わらせる。
「おいおい、何処見てんだ?」
「いつの間――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
槍斧を振り下ろして背中をバッサリ斬り裂き、断末魔の叫びが周囲へと響き渡る。
ここには人気も無く建物の中にも誰もいない、要するに完全なる死角となっているため、こうしてワザと襲われるように誘ったのだが、こんなにも簡単に釣れるとは思ってなかった。
凄腕なのかもしれないが、俺からしたら赤子の手を捻るようなものだ。
(魔境のモンスターに比べたら大した事無いかもな)
強さ的には魔境にいたモンスターの方が何倍も上だが、人間は考えるからこそ油断してはならない。
時には相手を騙し、時には虚を突く攻撃をする。
「『命を狩る者なりて この手に顕現するは湾刀 我が眼前にて実像を示したまえ』」
上空にて、ユスティが短剣で防御しながら詠唱を始めていた。
魔法陣が現れて、魔力によって武器が形作られていく。
近接を得意とする彼女が選んだ武器は刀身が大きく湾曲したショーテル、前世だと確か何処かの国の伝統武器だったはず……エチオピアだったか。
「『マテリアライズ』」
そして、三日月のように刀身の反った湾刀、ショーテルが彼女の手に握られた。
魔力の武器化魔法、あれも狩猟魔法の一つらしい。
固有魔法は枠組みが決まってないため、例えば吸血鬼の使う血液魔法も固有魔法の一つに当て嵌り、その中にも血の武器化魔法がある。
だから、枠組みを設定してしまうと無数に分類できてしまうのだ。
そこら辺は俺もよく分かってない部分なので、彼女を観察をする分には良い機会だろう。
「フッ!!」
一瞬で空から地へと落ち、跳躍して捕らえようとしてた五名の敵をぶった斬った。
動体視力が上がってたお陰で見えたが、彼女は的確に相手の手元を狙って攻撃を繰り出していた。
並の神経じゃできない事だ。
殺さないとこを見ると、敵にも配慮している。
(優しさが仇となったか……)
それが悪いとは言わないが、戦いに情けは不要、いつか足元を掬われる。
ユスティの方を向いてた俺は、後ろから静かに忍び寄ってきた敵の袈裟斬りを槍斧で防いで、横薙ぎの一閃を食らわせる。
(チッ、すばしっこい奴等だ)
後ろへと下がったところで、今度は別の方向、別の角度から矢が連続して飛んでくる。
俺は地面に落ちていた最初の死体を掴んで盾にする。
矢が何本も死骸へと突き刺さっていたが、それを捨てて相手の攻撃を連続して躱し、近くにいた敵へと槍斧を投擲して心臓を貫いた。
「ガハッ!?」
そのまま繋がれた鎖を振り回して、死体を他の敵へと投げ落とす。
ユスティの相手をしていた事で、こっちにまで意識できなかった敵の一人も巻き添えを食らって、俺は二人の敵を倒した。
鎖を引っ張って槍斧を上空へと投げ、俺も跳躍して柄の部分を掴む。
(弓使いが邪魔だな)
コイツ等は常に数の優位、地形の優位を利用して俺達を逃すまいとしている。
「クソ餓鬼がぁぁぁぁぁ!!」
敵が叫びながら弓矢で攻撃してくる。
連続して射出される矢を身体に受けながらも、俺は刃を振り下ろした。
空中で避ける事はしなかった。
肩や腹、腕に矢が突き刺さり、苦痛が脳裏を支配する。
避けるという選択肢を最初っから排除してしまっていたため、精神的な問題として、より荒い戦い方になってきている。
このままだと身を滅ぼしかねない。
「ご主人様!?」
屋根へと跳躍してきた彼女が俺の近くに着地、近付いてきた。
「俺の事は良い、今は自分の戦いに専念しろ」
ユスティの背後から攻撃しようとしていた敵に、風で形成した弾丸を撃ち込んで吹き飛ばした。
護衛してもらいたいところだが、まだ連携だとか戦い方だとかを見てないせいで、俺自身も戦わなければならないため、このまま他の敵も倒していく。
この数はまだユスティ一人では対処できない。
「『錬成』」
屋根の上にも何人もの敵兵がおり、それら全てを倒すために、俺は刃を創り出す。
武器を二刀の短剣へと変化させた。
やはり、俺には短剣が一番性に合ってる気がする。
「手に馴染むもんな」
長剣や大剣は重たいし、俺には小回りの利く短剣二本がお似合いだろう。
四方八方から敵の攻撃が雨のように降り注ぎ、短剣を連続して振るって攻撃を逸らしたり弾いたりする。
火花が散る。
身体が火照る。
血の臭いが漂う。
あぁ、だからこそ戦いというのは止められないのだなと思っていた。
身体を捻って攻撃を躱し、出ていた腕へと短剣を突き刺して踵で上へと弾き上げる。
「ぎゃっ――」
「死ね」
相手の腕に突き刺さった俺の短剣は、魔力伝導率が高いと同時に電力も纏いやすい性質も持ち合わせているため、つまりは精霊術と組み合わせる事で、こんな事までできてしまう。
手に雷を纏わせて、一気に上空へと押し出す。
「『裏威鳴』」
磁力を発生させて短剣に適応させ、磁石のように反発させる。
一気に上空へと押し上げられた身体は、次第にスピードを落としていき、重力に従って天から降ってきた。
「いやだいやだいやだいやだぁぁぁぁぁ――」
グチャッと顔が歪んだような不快音が聞こえてきて、顔面から地面へと突っ込んだ敵は血溜まりを作って死んでしまった。
それを見た他の連中は、少しずつ後退している。
恐怖が身体に現れているようで、息遣いや震えも見て取れる。
「な、何なんだ……こんな化け物を相手にするなんて聞いてないぞ!」
「俺は降りさせてもらう!」
「お、俺もだ!」
次第に何人もの敵が脱兎の如く尻尾巻いて逃げ始めてしまった。
その行動に戸惑っているのは、リーダーらしき男だ。
「後でどうなるか分かっているのだろうな貴様等!?」
「うるせぇ! こんな化け物相手にしてたら命が幾つあっても足り――」
その男の言葉を、俺は斬り捨てた。
ボトリ、頭が地面へと落ちた音が静寂を生み出し、血飛沫が身体へと飛んでくる。
短剣に付いた血糊を払って、ついでに死体からも短剣を回収する。
「俺のもんに手ェ出しといて逃げられるとでも思ったか?」
甘い、甘すぎる。
弱い上に覚悟も無いとは、何と情けない事か。
「覚悟も無ぇ奴が、軽々しく命奪ってんじゃねぇよ!!」
相手は人を殺すという事に慣れてると動きから分かったのだが、覚悟も無しに命を奪うという事は、人の命を冒涜するという事だ。
俺は命のやり取りをする中で、自分が死ぬという覚悟を持って挑んでいる。
こんな奴等に負ける訳にはいかない。
俺はリーダーらしき男以外の敵を全て根絶やしにして、辺りには血の海が広がり、そして死骸を沢山創り出した。
さながら死神のように。
「おい」
「き、貴様……」
「アンタには三つの選択肢がある。一つ目は黙って殺されるか、二つ目は全て話して殺されるか、三つ目は地獄の苦痛を味わってからくたばるか、だ」
武器を拷問器具の針へと変形させて、俺は一歩ずつ近付いていく。
後ろではユスティが固唾を呑んでいるのを感じ取った。
こんな姿はあまり見せたくなかったのだが、今は情報を手に入れるのが先決、コイツ等のバックに誰がいるのかも確かめておきたいしな。
「さぁ、どうする?」
「ならば……四つ目だ!!」
ローブを脱ぎ去った姿を見て、俺は一瞬で全てを理解した。
身体に巻かれた筒状の何か、爆弾だ。
手には起爆装置がある。
ユスティだけでも逃がそうと後ろへと跳んだ瞬間、眩い光に包まれ、俺達は大爆発に巻き込まれてしまった。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
『面白い!』『この小説良いな!』等と思って頂けましたら、下にある評価、ブックマーク、感想をよろしくお願い致します。
感想を下さった方、評価を下さった方、ブックマーク登録して下さった方、本当にありがとうございます、大変励みになります!




