第49話 祈り、唱え、そして私は天職を授かった
私は自分の能力が嫌いだった。
幸運能力なんて力を持っていたところで、結局は何もできない、何も為し得ない、何も与えられない、だからこそ私は能力を使うのが嫌だった。
いや、そうではない。
そう考えてしまう私自身を嫌っていたのだ。
『言ったでしょ、他人に分け与えるなんて事は傲慢なんだってね。だから自分の能力を使うのに躊躇なんてしちゃ駄目よ』
そう、同じ奴隷だったエルフのコルメチアさんに言われて、使ってみようと思った。
そして運命に引き寄せられてきた人は、鋭く冷たく、そして同時に優しい心音の持ち主だと思った。
五感のうちの目を失った事で残った感覚がより鋭くなった私は、相手の感情を心音とかで確認する術を身に付けていた。
だから、その人がどういう人なのかが大抵分かる。
「凄い……グラットポートって、こんなにも賑やかだったんですね、ご主人様」
ノア様に買われてから一日が経過した。
現在、隣を歩くご主人様と一緒に教会へと向かっているところだ。
「目に異常は無いか?」
「はい、前よりも遠くまで鮮明に見えます」
目を焼かれていたのに、ご主人様によって私の目全体の焼け爛れた皮膚が完全に治った。
同時に焼けた目や視神経、全てが治り、視界も良好だ。
治った以上に驚きなのが、私に与えられた二つの魔眼がしっかりと機能するという事であり、そのうちの翡翠色の右目は私の想像を遥かに超えるものだった。
「周囲からの視線も凄いな。やっぱ美人顔と綺麗な瞳が目立つからか?」
「そ、そんな美人だなんて……」
男の人達から何度か言われた事があったが、その時は何も感じなかった。
しかしながら、ご主人様に言われると何故か心音が高まっていく。
女の子は白馬に乗った王子に憧れるものだが、彼は黒狼に乗った孤高の狼のようであり、私と同じで孤独を生きてきたように見える。
「虹彩異色症が珍しいのかもしれんな。俺よりも明るい色だし」
「ご主人様の目も綺麗ですよ。魔眼なんですよね?」
「あぁ、左目の方がな」
人の嘘が分かるという、何とも悲しい魔眼だろうか。
覗けば人の嘘が分かる、目を凝らせば人の汚い部分を知ってしまう、それは彼を孤独としたのかもしれない。
過去を詮索するな、と言われたので何かがあったのだろうけど、聞く事はできない。
「右目は普通の目なんですか?」
「う〜ん……そうだな、確かに普通の目、かな?」
心音は普通、本心で言っているのが分かる。
つまり、ご主人様が一つ持っているのに対して、私は両眼共が魔眼となっている。
ご主人様のお役に立たなければ。
「なぁ、カタログに固有魔法が使えるってあったんだが、どんな固有魔法なんだ?」
「あの、そこまで大したものでは……」
私の持ってる魔法は狩猟魔法、魔法陣を仕掛けて罠を張ったり、辺りに仕掛けて地雷のように起動させたり、偽装や狩猟のための道具類を具現化したり、便利な魔法だ。
しかしながら幾つか欠点もあり、魔法陣を仕掛けた場合、場所が一切分からない。
他にも、実際に触った事のある道具しか具現化できず、偽装できる時間は数分間、魔法故に詠唱も必要、等々を簡単に説明すると、ご主人様の表情に少し変化が現れた。
笑顔とかではなかったが、驚いたような顔をして考える仕草をしていた。
「狩猟魔法か。聞く限りじゃ、かなり魅力的な魔法だ」
「ほ、ホントですか?」
「あぁ、使い方次第で戦況をかなり有利に運べる。左目の水晶眼を使えば、魔力や精霊力といったエネルギーの流れも視覚的に把握できるから、罠の位置も分かるぞ」
この青い瞳は魔力や精霊力とかを視覚的に見れるため、今でも周囲に漂っている魔力の流れが分かる。
そして誰が何処で魔法を発動させるのかも見れるようになったので、前よりも周囲の警戒も容易となっていた。
「狩猟魔法を覚えてんなら、狩人や斥候とかの職業を授かるんじゃないか?」
「ですが私、弓は下手ですよ?」
近接戦闘ならまだしも、遠距離から弓を使って的を射るのは私にはできない。
百回射れば一回当たる、そんなくらいの腕前しか無い。
だから弓を扱う狩人には、あまりなりたくない。
「俺が教えてやる」
「弓もできるんですか!?」
ご主人様は錬金術師のはずで、弓とかを装備しているようには見えない。
いや、腰の短剣以外に武器らしきものは見当たらない。
そんな装備で大丈夫なのかと不安になってしまうのだが、ご主人様を守るのは私の役目、私の糧になるのならばできる範囲でやるだけだ。
「武芸百般とまでは行かないが、武術や魔力制御術、弓術に槍術、短剣術……まぁ、色々だ」
戦う姿とかは見ていないけど、淡々と述べた言葉は全て事実のように聞こえ、実際に全て正しいのだろう。
しかし、そのためにどれだけの時間を費やしたのか、天才だとして何年も掛かるはずだし、それに博識だったというのも勉強のための時間が必要となる。
錬金術師という職業が外れであるのは誰もが知っている事だ。
それでも、自信に満ち溢れたような背中が大きい。
彼が何者なのか、詮索は禁じられているのだが、ついつい気になってしまう。
(貴方は何者なのですか?)
それを言葉にして発してはならない。
それをする事を禁じられているから。
気になる事は幾つもあるのに、聞く相手が隣にいるのに何もできないという歯痒さが、心の中で燻っている。
喉元まで出掛かった言葉を飲み込んで、私は主人である彼の隣を歩く。
(不思議な人……)
奴隷である私に対して奴隷扱いしない、人と同じ生活を送らせてくれる、それが不思議だった。
行動も、発言も、ある程度自由であるため、私はご主人様の隣を歩かせてもらっている。
「俺は基本的な魔法は使えないからなぁ」
「へ?」
「だから武芸を学んだんだ。ま、才能は無かったけどな」
ご主人様は自分を凡才だと卑下するけど、昨日の錬金術は凄まじかったし、組み込めば大抵の相手は瞬殺できるのではないかと思う。
それだけ、異質な力を彼は持っていた。
それにまだ何かを隠しているような、そんな気がするのだと第六感が告げている。
「だが、俺とは違ってお前には稀有な才能が眠ってる、俺はそう思う」
「稀有、ですか……」
私にどれくらいの価値があるのだろうか、運命を操る能力が無ければ価値が無いのではないか、そう卑屈に考えてしまう。
いや、コルメチアさんの言う通り、この力は私の力であって、これも含めて私の価値なんだ。
「言っとくが、お前の幸運能力には大して興味無い」
「……へ?」
「稀有な才能って言ったのは、お前の全体評価としての戦闘能力だ。今まで培ってきた事、これから培っていく事、それら全てを総合して俺は、お前に価値があると魔眼を通して分かった」
左目が淡く光を帯びたように見えた。
その海のような暗い輝きを持つ瞳は、私の全てを見透かしているようで、考えていた事を否定された。
「全てを持って生まれてきた神子、俺とは真逆だ」
「そ、そんな事は――」
ご主人様の顔を見た瞬間、私は言葉を失った。
その暗く、全てを諦めてしまったかのような、そんな表情をしていると感じた。
彼は笑顔を繕わない。
その上、他の表情もあまり見せようとしない。
まるで人形のように予め決まっているかのような、そんな無愛想な顔をしている。
今だって、表情を変える兆しが見えない。
「俺はユスティが羨ましい」
その言葉は私の過去を抉る。
友人だと思っていた子が言った言葉と重なって聞こえてしまった。
『私はルゥちゃんが羨ましいなぁ』
幻聴が聞こえた気がした。
私はもう、ルゥシェノーラではなく、ユーステティアである。
過去を切り捨てるために新たな名を与えてくださったのに、私はまだ過去に囚われている。
目も治してもらったのに、その瞳には当時の光景が甦るようだ。
「ユスティ?」
「な、何でもありません」
足が止まってたので、小走りで追いついた。
私の何処が羨ましいというのだろうか、全てを持っていたところで結局はこうして奴隷にまで堕ちた。
両親は私のせいで死んでしまったようなものだし、きっと恨んでいるに違いない。
「まぁけど、今となっては羨ましくても別に欲しいとは思わないがな」
自嘲じみた言葉が聞こえてきたが、そちらを向くと彼の表情は何処か哀愁を漂わせているように思えた。
そして言葉の意味を理解する事ができなかった。
今のはどういう意味なのか、そう聞きたかったが、それを聞く前に一つの大きな建物が見えてきた。
「あれが教会……」
白塗りの壁、上の方に見えるのはステンドグラスに大きな鐘、何だか神聖的なものを感じる。
「基本的には運命を司る女神アルテシアが創生神とも言われてるが、実際には数多くの神様がいる。豊穣と天恵を司る女神ルヴィス、とかな」
「加護、を貰える場合もあるんですよね?」
「あぁ、稀だけどな。俺は持ってない」
神の加護、それは職業にプラスされて力を扱える一種のステータスのようなものだ。
例えば、ルヴィス様の加護なら作物が他よりも育ちやすくなったりする。
戦闘の神様達の加護を手に入れられれば、より強い力が与えられるだろうが、加護持ちは稀にしか見ないため、私が能力を使ったとしても手に入るかは不明。
「クソッ……お高く留まりやがって!!」
私達が教会へと入ろうとした時、一人の男の人が怒った様子で出てきた。
服装からして平民の人だろう。
苛立ちを隠そうともせずに、そのまま何処かへと歩いていった。
「何かあったんでしょうか?」
「さぁな。ただ、教会での治療は高いからこそ、あんな台詞が出たんだろう」
お高く留まりやがって、そう言っていた。
治療の金額は貴族を中心としているようで、その金額を払えない平民には治癒魔法を使う価値も無い、と考えているのだとか。
こんな他人から摂取して、よく教会を名乗れるものだ。
「何も、教会だけが悪い訳じゃない」
「え、でも平民の人が払えない金額を提示する方が悪いのでは?」
「いや、元々貴族は貴族の、平民は平民の払う金額が提示されてたが、それに不満を持った貴族が捻じ曲げたのさ、平民への嫌がらせでな」
それが人間なのだと、ご主人様は言った。
貴族が提示する金額と平民が提示する金額が違うというのは、それはつまり余分な金を払わせているのだと、そう貴族が捉えた事が切っ掛けらしい。
そのため、貴族からの抗議によって金額を下げる事となったが、それでは貴族と平民が平等を意味する、という何とも馬鹿な事を言い始め、金額の吊り上げが行われた。
「さっきの男の言う事も一理あるが、金額を下げたら教会が取り潰される可能性がある。まぁ、単なる予想だから別の要因があるかもしれんが……」
「別の要因、ですか?」
「教会側が平民の足元を見てるってとかだろう」
それはそれで酷い話だ。
「儀式に関しては無料だ」
職業選別の儀式に金が必要なら、無職の人が大勢いると思う。
教会が才能ある人を見つけるために、たとえ奴隷だろうが下民だろうが受け入れる事にしているそうなので、奴隷である私でも無料で受けられる。
「その、儀式についてなんですけど、儀式途中に能力を使ったりしても良いんでしょうか?」
「幸運能力か。使わなくてもカウントされるだろうから、使ったとしても使わなかったとしても職業は変わらないはずだ」
ならば、使わなくも大丈夫そうだ。
職業、できれば戦闘職が欲しいのだが、それは神様次第となってしまう。
神子は神様から力を授かったとも言われており、私の場合は運命を操るから、アルテシア様から貰ったものなのかもしれないと、そう思った。
実際にご主人様から、ひけらかすと教会に目を付けられると言われた。
それは私も嫌だ。
「教会へようこそ、本日はどのような御用でしょうか?」
「職業選別の儀式を頼みたい」
教会の中へと入っていくと、ホールの受付でご主人様と神官服を着た女性が会話していた。
金色の髪に碧眼、大人びた雰囲気を持った人だ。
「お二人様ですか?」
「後ろの奴一人だけだ」
「畏まりました。ではまず、こちらの書類にお名前と必要事項をご記入くださいませ。代筆も可能ですが、どう致しますか?」
「俺が書く」
ご主人様が近くの席に座って、書類に私の情報を記入し始めたのだが、名前以外に何を書いているのかが気になって覗いてみた。
基本的には名前、年齢、種族、職業、魔法適性の五種目だったのだが、まだ選別を受けてないため職業は空欄。
そして下の項目には宗教関係の項目、奴隷か否か、魔眼の類い、異能といったものが二択、つまり『はい』『いいえ』とあって、そこに丸を付けている。
異能が『いいえ』となっていたのを見たが、嘘を吐いても良いのだろうか?
「はい、ありがとうございます。ユーステティアさんで宜しいですか?」
「はい」
「では、こちらへ」
受付の人が慈愛の笑みを浮かべながら、ホールの奥の通路を通って、私だけが突き当たりの部屋へと通され、ご主人様は部屋の外で待機する事となった。
そこには白い魔法陣のようなものが地面に描かれており、その魔法陣の中心には石碑が置かれている。
石碑には古代文字らしき文字が描かれていた。
天井は太陽光が入ってきて、白くて綺麗な部屋だと印象に残る。
ここが選別を受ける場所……
「これから職業選別の儀式を行います。石碑の前に立ち、石碑に触れながら詠唱を行ってください。詠唱文はこの紙に書かれているのを読めば大丈夫ですから」
「は、はい」
急に手渡された紙を受け取り、中央の石碑前に立った。
綺麗に磨かれている石碑に手を触れて、紙に書かれている文字の詠唱を行う。
「『我、選別を受ける者なり』」
この詠唱を始めた瞬間、私の触れている石碑が少しずつ光を持っていく。
心無しか、少し温かい気がする。
「『神より授かりし恩寵は我が天命と共に、この霊魂に刻まれる』」
職業は遺伝とかではなく、その霊魂の質によって決まると言う。
そして生涯、この授かる職業と向き合っていかなければならないと詠唱文に書いてあった。
「『精霊の祝福と九神龍の息吹をこの身に、創生の神々よ、我に天職を与えたまえ』」
夜明けを導く精霊達、そして神が創り出した九体の龍、そして神様に願いを込める。
どうか、ご主人様のお役に立てるような職業を、そう祈りを捧げる。
すると、地面に描かれている魔法陣が白い輝きを発し、その光が全身を包み込んだため、眩しくて目を閉じてしまった。
「うひゃぁぁぁぁぁ!!?」
後ろの方から悲鳴が聞こえてきたが、この光で目をやられたからだろう。
数秒の後、光が収まって瞼を開くと、身体に光の粒子が纏わっていた。
「あの……これ、どうなったんですか?」
「も、もう少し待って、目がちょっと……」
目を閉じている神官さんがオロオロしてる。
何か、すみません。
「ふぅ、貴方一体何者? こんな光なんて出ないはずなんだけど」
丁寧口調が消えて素が出ていた神官さんは、私に一枚の羊皮紙を手渡してきた。
今度は何を、と思う間も無く、そこには自分の授かった職業と職業のマークらしきもの、それからもう一つ、加護が描かれていた。
何処から羊皮紙出したんだろう?
「グラットポートに集まるのは大人達、職業選別の儀式を受けに来る人なんて滅多にいないのよねぇ。まぁ、稀にスラムの子供が成人して受けに来るけどね」
「はぁ、そうなんですね……」
「そ、こんなとこに配属されるなんて運が無いな〜って思ってたけど、まさか貴方みたいな子に会うなんてね」
嬉しそうに手を取って喜んでいるようだった。
「私はミレット、一応シスターやってるの」
「私は――」
「ユーステティア、でしょ?」
さっきご主人様が書いた用紙から知ったのだろう。
「奴隷、だったよね?」
「はい」
「もしかしてオークションで八十億くらいで買われた子かな? 目に包帯してた」
「オークションにいたんですか?」
「うん。万能薬があれば、孤児院の院長を助けられるって思ったんだけどね」
万能薬というのは、殆ど存在しない。
けど、私の目を治してくれたご主人様なら、その人の怪我や病気を治せるかもしれないと思った。
私が言って治してくれるかどうかは分からないけど。
「でも珍しいね。奴隷が名前を名乗れるなんて」
「ご主人様に頂いた名前なんです。ユスティ、そう呼んでください」
ご主人様から頂いた大切な名前、昨日の夜に聞いてみたのだが、どうやら彼の故郷の神様の名前だとか。
それに名前には、純白や正義、そういった意味合いも込められているらしい。
(でも、聞いた事の無い名前だったなぁ)
この世界の神様達の名前に、そのような名前は見た事は無かった。
しかし、ご主人様の言葉は嘘偽りが無かった。
「ねぇ、聞いてる?」
「えっと……何でしょうか?」
「聞いてなかったのね。だから、院長の代わりにここで働いてるの、私は」
全く話を聞いてなかったのだが、何か事情がありそうな様子だ。
「おい、もう儀式は終わったはずだろ、何してんだ?」
話し込んでいると、ドアが開け放たれる。
外でずっと待っていたのに、いつまでも外に出て来ないから開けた、というところか。
「ご主人様、すみません」
「何かトラブルでもあったか?」
「い、いえ、そうではなく――」
「貴方、ノアって名前でしょ?」
隣から、いきなり話に割り込んできたミレットさん、知り合いだろうか?
「何で俺の名前知ってんだよ?」
「子供達がお世話になったからね」
「子供? あぁ、リヒト達の事か」
リヒト?
一体誰の話をしているのか、間接的な繋がりでもあるのか、グラットポートでの彼の行動を知らないので、聞くに聞けないでいる。
「あぁ、俺に掏りを働こうとした餓鬼がいたんだ。今では知り合いの商会で働いてるんだ」
「その子が孤児院の子だったんだ」
それから、グラットポートで起こった事を簡単に教えてもらった。
やはり、何だかんだ言ってもご主人様は優しい。
善行を積んでいる、そう思う。
「俺の事はどうでも良いだろ。それより職業、手に入ったのか?」
「はい、狩猟魔法の影響なのでしょうか、ご主人様の言った通りになっちゃいました」
「へぇ、加護も貰ったのか……狩猟し、ん? 職業の中でも『神』クラスってお前、マジで?」
「えっと……はい、マジです」
私が手に入れたのは、狩人の最上級職とも言われている『狩猟神』という職業であり、弓が苦手なのに何でと思ったのだが、どうやら神様から加護を貰ってしまったらしいのだ。
弓や鉈、罠のエンブレム、それから下には加護を与えてくださった神様の名前が書かれていた。
「自然と狩猟を司る女神クォーリッツ? そんな女神いたっけ?」
「殆ど加護を貰えない女神様だから、知らない人も多いんだよね。とんでもないくらい運が良いらしいわね、ユスティって」
それは私の中に幸運の能力があるから、神様には全て見えているのかもしれない。
私は弓が苦手なのに、何で弓の神様が加護を与えてくるのかサッパリ分からなかった。
「近接や遠距離での攻防が得意な職業だね。それに罠感知とか潜伏、他にも遠視の魔法とかも使えるはずだよ」
「そうか……」
「ご主人様?」
「いや……何でもない」
何か考えるような仕草をしているように見えたが、何処か冷めたような目で羊皮紙を眺めていた。
そして私に羊皮紙を返し、そのまま外へと出て行ってしまった。
「ま、待ってください!」
私も彼の後を追い掛けようとする。
その時、後ろから声が聞こえた。
「シスターから一つアドバイス!」
「ふぇ?」
急に何を――
「貴方のご主人君に死相が出ています。逃げるなら東、助けたいなら塔を登ると良いかもね」
「塔?」
「そ、ここに塔なんて無いけど天啓ってやつ? 職業の影響なんだよね、ふっと聞こえてきたの」
そういった職業もあるのかもしれない。
私はご主人様のように詳しくないので、そういった職業もあるのかと思うだけにした。
それから、そのアドバイスも心に留めておく事にした。
「ユスティ! 行くぞ〜!」
遠くからご主人様の声が聞こえてきたので、私は走り出した。
「じゃあね、ユスティ」
「はい、ありがとうございました、ミレットさん」
彼と出会って、目を治してもらい、そして職業も恵まれたが、これから私はどう生きていけば良いのかは何も決まっていない。
奴隷だからと諦めていたのだが、探してみるのも良いかもしれない。
だから、ミレットさんに別れを告げた私は、彼の背中を追い掛けて教会を後にした。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
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