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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第二章【財宝都市編】
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第48話 悪に生きる者達

 薄暗い地下牢らしき場所に、数人の奴隷が収容されていた。

 その収容されたところの通路に、肥え太ったような体格を持つ下卑た笑みを浮かべる人族の商人が立っていた。


「やはり魔狼族の餓鬼だけは手に入らなかったか」


 ノアによって競り落とされてしまったために、ナトラ商会長であるギーレッドメルト=ナトラは考え始める。

 どうすれば手に入るのか。

 目の前で鎖に繋がれている奴隷達を見ながら、計画を練り始めた。


「ねぇ、ミルミト」


 そう言葉を発したのは、深緑色の髪を腰まで伸ばした怪しい瞳を持つ女性、魔法使いのような風貌に妖艶に微笑む姿はまさに魔女である。

 彼女はリンドメーク、ナトラ商会お抱えの特殊な魔導師である。


「リンドメーク、今の私はナトラ商会の会長なのだから、本名で呼ぶのはよせ。今の私はギーレッドメルトだぞ」

「長くて覚えられないわぁ」


 だからこそ呼びやすい方で呼んだのだと、クスクス笑いながら彼女が答える。


「それよりも何か用か?」

「後どれくらいで始められるのかしらぁ?」

「魔狼族の餓鬼が手に入らなかったからこそ、対策は必要なのだ。この女奴隷共を全員使ったところで、恐らく四体までが限度である」


 彼等の目の前には、オークションで競り落とした奴隷四人と、他にも三体の奴隷がいた。

 その三体の奴隷はオークション以外で手に入れた品々であり、火を操る妖狐族、風を生み出す天狗族、そして土の一族であるドワーフが同じ牢屋に入れられていた。


「火、水、土、風、光、闇、そして雷……氷以外の属性は集めたのだ。残りは僅かだ」

「後は白い子だけって事でしょう?」

「そうだ。儀式を行うには八つの種族、それも強力な種族の血肉が必要だ。そのため奴に未来予知を頼んだが……」


 海人族にライトエルフ、ダークエルフ、龍神族、その四体の奴隷も三体の奴隷の隣に閉じ込められており、鎖によって繋がれている。

 全員が憔悴し、まともに飯を与えられていないのが見て分かるように、ナトラ商会長である彼は奴隷達に餌を与えていなかった。


「この身体もそろそろ限界であるし、どうせ数日以内には全てが終わっている」

「でも、あの白い子を手に入れられなかったわよねぇ?」

「杯は手に入った。奴隷なら主人を殺してから奪ってしまえば良い」


 奴隷を手に入れるために主人を殺す事は外道、御法度である。

 普通は主人同士で取引を行ったり、或いは交換したり、というのが普通なのだが、主人殺しは違法中の違法、もしもバレた場合は即刻牢屋行きとなる。


「すでに手は打ってある」

「そう、良かったわぁ」


 安心したと言うように、リンドメークは嬉しそうに微笑んでいた。

 いや、それは他人から見れば微笑みと呼ぶには醜悪すぎる笑みだった。

 禍々しい気配を纏わせており、彼女の緑色の髪も彼女の笑みに反応するようにユラユラと揺れている、それはまるで喜んでいるかのようであり、風の無い中で長髪が揺れ動いていた。


「デルストリムの王族一家が滞在している今がチャンス、奴等だけは絶対に復讐しなければ気が済まない。全員同じ気持ちだ」

「えぇ、そうねぇ……」


 今代の勇者を保有している東大陸の一つ、デルストリム王国はオークション六番、家族でオークションへとやって来ていた。

 その彼等に恨みがある者達がここに集まっているのをギーレッドメルト、もといミルミトは知っていた。


「この身体は使い勝手が悪すぎる。まず太っていて素早く動けないのが難点だ」

「だから私達が補佐してあげてるんでしょう?」

「そうだったな」


 彼は身体の都合上、他よりも素早く動いたりする事ができないため、後方支援や他の仲間のサポートに徹しているのだ。

 それも彼の指揮能力があってこそ、ナトラ商会としての顔利きだったり、金銭面での仲間の支援だったり、この屋敷もこうして計画を実行するために拵えたものだ。


「それでぇ? 打ってある手っていうのは一体何なのかしらぁ?」

「簡単だ。商会長が持っていた暗殺部隊を送り込んだ、殺してこいと言ってな」

「それ、私が創ってあげた麻薬のお陰でしょう?」


 ナトラ商会は稼いだ金を使って至福を肥やしているだけでなく、自分を守るために暗殺部隊を雇うくらいできるようになっていた。

 それも彼等が秘密裏に麻薬を販売していた事も関係している。

 金があるからこそ、そういった事もできるのだ。


「本当に連れて来れるのかしらぁ?」


 実際にユグランド商会を襲った悪漢達がノアによって倒されたために、彼女は目の前の男の持つ戦力を信用しきれなくなっていた。

 自分が行った方が良いのではないか、と提案するも、弾かれてしまう。


「あの魔狼族の餓鬼一人に八十三億も出す馬鹿だからな、何者か分からんからこそ正確な事は言えない」

「まぁ、確かにそうよねぇ……」


 オークションが終了してまだ一日が経過しただけ、しかし一日で情報収集を可能にする仲間がいた。


「イグラが未来視であらゆる未来を見た結果、その男が錬金術師である事が分かった」

「成る程ねぇ。確かに厄介だわぁ」


 錬金術師という職業は、人間からしたら外れ扱いとなっているのだが、彼等は錬金術師が如何に危険で厄介な存在なのかを知っていた。

 だから確実に殺す事ができるか分からない、計画が成功するか不明であると知っていた。


「昨日、魔狼族の目を治したらしい」

「それも錬金術なのかしらぁ?」

「錬金術師になんて会った事無いからな、私達。唯一ウルックだけ会った事があるらしいが、歯応え無かったと言っていた」


 錬金術師という職業は彼等にとっても未知なる存在であるために、自分達の計画を邪魔される可能性も考慮に入れていた。

 しかしながら、それでもミルミトは計画を変更するかどうか脳内で描きつつ、経過報告を待つばかりだ。

 数時間前に送ったはずの暗殺部隊からの通信が一切来ていない。


「イグラとウルックはどうした?」

「さぁ。お昼寝でもしてるんじゃないかしらぁ?」


 未来視を持つイグラ、そして戦闘狂ウルック、彼等は自由奔放である故に、完全にコントロールできていない。

 実質のリーダーは指揮官でもあるミルミトなのだが、彼の言う事を聞く確率は半分にも満たず、それぞれが自由に好きな事をしている。


「イグラはともかく、ウルックに限って昼寝は無い。あの戦闘狂ならば裏庭に設置した訓練場を爆破させているのであろう」


 そう言った瞬間、地響きが発生してリンドメークは尻餅着き、ミルミトも地面へと転がった。


「クソッ、この身体に乗り移ったのは失敗だったか……」


 その肥え太った身体はまるで自分の物でないと言うような発言に、奴隷達は何を言ってるのだろうと考えるが、誰も聞く事はできない。

 聞いた場合、自分の命が無くなるかもしれない、そう考えたからだ。


「でも、結局は数日以内に終わるんでしょう?」

「そうだ」


 数日以内に全てが終わる、それが何を意味しているのかを奴隷であるコルメチアは冷静に観察していた。


「お、こんなとこにいやがったか、テメェ等」


 通路の奥から、一人の筋骨隆々な男が現れた。

 獅子を彷彿させるような髪と髭が生えており、犬歯が鋭く外へと出ている威厳ある大男、彼こそが戦闘狂と言われていたウルック本人だ。

 二メートルをも超える身長、ギラついた目、威圧的な笑みを浮かべている彼が、立ち上がったミルミト達へと近付いていく。


「ウルック、今まで何処にいた?」

「裏庭だが、やっぱ土人形じゃあ手応え無ぇな。動く人間共と戦いたくてウズウズしやがる」


 毛並みが逆立っており、身体から発せられる闘気が周囲を威圧する。

 鉄格子越しにいる彼女達は、何をさせられるのかと恐怖に支配されてしまった。


「どうせ頭蓋骨を割りたいだの、身体を引き千切りたいだの、そういった願望しか無いだろう貴様は」

「ガハハハハ! 流石分かってんじゃねぇか!!」


 雄叫びを上げるような声に、全員耳を塞ぐ。

 普段の声も大きいために、こうして大声で笑ったりするのは他の者からしたら迷惑でしかない。

 鬱陶しそうに睨みながら、ミルミトは溜め息を吐いた。


「脳筋め……貴様の身勝手な行動一つで如何様にも変化する事を忘れるな」

「分ぁってるって! だがよぉ、この都市に四人くらい強ぇ人間がいるんだぜ? ワクワクすっだろ?」


 戦闘の中でこそ輝く彼にとって、そこに感じる熱を早く味わいたかった。

 強者がいると分かった今、疼きが渇きへと変わり、水を欲するかのように身体が反応する。

 しかし、それが分かっているからこその忠告だったが、まるで聞いていないような生返事だったため、ミルミトは懸念の種が一つ増えたなと、心の中で愚痴る。


「野蛮ねぇ。私には理解不能だわぁ」

「ケッ、後ろでコソコソしてる魔導師なんざに理解できる訳ねぇだろ」

「魔導師を舐めてかかると痛い目見るわよぉ?」

「ハッ! 上等だ! 何なら今からでも――」


 ウルックが殴るために拳を握った。

 その動作の瞬間を突き、ミルミトはウルックの首を掴んで握力だけで制圧する。


「ここで暴れるな」

「わ……わ、りぃ……ゲホッゴホッ」


 息苦しくなったところでパッと手を離され、酸素が急激に肺へと入ってきて、咽せてしまった。

 膂力的にはウルックの方が上だが、魔力の繊細な扱いはミルミトの方が上だった。


「はぁ、悪かったよミルミト」

「だから私はギーレッドメルトだと……いや、もう良い。次からは気を付けろ」

「あぁ」


 統率するためには基本的に二種類の方法がある。

 一つは話術等での平和的統率、もう一つは暴力による支配的統率、つまりは恐怖政治である。

 細分化すると更に幾つかに分かれるが、彼等の場合は同じ目的を持った者達で結ばれた同盟統率、一人が頭目となり、そして他を率いていくというもので、ミルミトがその頭目となった。

 平和的統率に似ているが、違うところは恐怖政治が組み込まれているか否か、にある。


「私達は同じ目的を持った同士だ。人間共を殺す事に関しては何も言わんが、こんな下らない事で喧嘩などとは見苦しいぞ」

「ごめんなさぁい」


 恐怖政治は時として反乱を生む。

 だが、彼等としては争いは日常茶飯事だったため、反乱にはならずに今日まで生きてきた。

 単純にコントロールが利かないだけ。

 現にウルックの顔には反省の色が見えず、ニヤニヤと笑みを零しながらミルミトと戦ってみたいと考えて、仕掛ける隙を窺っている。


「ウルック」


 自分の名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。

 まさか気付かれたかと思ったウルックだったが、ミルミトは別の用件を問うた。


「イグラを知らないか?」


 未来が見えるイグラには現在の状況すら見えているはずであり、それでも来ないという事は、自分から来いと言っているようなものだとミルミトは考えていた。

 扱い辛い者が少なからず二人はいる。

 そのうちの一人は行動すら面倒だと考えている怠け者、探しに行かねばならなかった。


「はぁ? 何であんな野郎を探してんだ?」

「もうすぐで準備が整うからだ。後は儀式のために未来視で成り行きを見てもらう予定だったが……奴め、一体何処で何をしている?」


 呼び戻すにも通信魔導具を持ち合わせていないため、探しに行かねばならない。


「イグラなら、さっき屋敷を出てったぜ」

「何故だ?」

「んなの俺様が知るかよ。聞こうとしても無視すんだろ、どうせ」


 無口で殆ど何も話さない彼だからこそ、呼び掛けたりする事もウルックにはできなかった。

 呼び掛けたところで、結局は戦力差がありすぎて戦いにすらならないと思ったからだ。


「戦いの分野が違ぇからな。俺様は近接、あれは遠距離からの無音の矢、俺様アイツ嫌いなんだよ。戦い辛くて探すのにも一苦労だぜ」

「そんな事を一々報告する必要は無い。それより、先程言った四人の強い人物というのは誰の事だ?」


 今後のために知っておかなければならない人物が少なくとも四人いる。

 それは要するに、邪魔されてしまうかもしれないという事なのだ。


「お? ミルミト〜、おめぇも興味あったか!」

「私は貴様とは違って、支障を来す存在を危惧しているだけだ」


 戦闘狂の思考を理解できなかったミルミトは、苛立ちと共に視線で語り掛ける。

 早く、教えろ、と。


「四人のうち三人は一対一でなら俺様達と互角だろう」

「三人? 残りの一人は? 貴様からしたら弱すぎるとかか?」


 ウルックの実力についてはミルミトが一番良く分かっていたからこそ、人間が彼に敵わないという根底を覆すような発言は出てこない。

 だから四人のうちの一人が彼にとって弱いのかと考えたのだが、それを否定する。


「俺様達全員が不意打ち仕掛けても勝てるか分かんねぇ強さだ」

「なっ!?」

「それ、ホントなのかしらぁ?」


 ウルックの実力を以ってしても勝てない、そんな人間が存在するのだろうか、そう二人は信じきれなかった。


「仕掛けてみてぇな……もし戦う事になったら俺様に殺らせてくんねぇか?」

「駄目だ。戦っても勝てないのだろう、ならば無駄死にするだけだ。目的を履き違えるな」

「ケチケチ言うなよな〜」


 目的は戦う事ではなく、デルストリムの王族一家へと仲間の命を奪った敵討ちをするためである。


「まずは勇者の国の支柱を壊す。幸いな事に、この都市には他にも有力な貴族や王族が多くいるからな、すぐに混乱と恐怖と血で染まる」


 その言葉は奴隷達にも聞こえている。

 彼等が何をしようとしているのか、そして自分達が何に使われるのか、それが分かってしまった。

 自分達は、その儀式の生け贄として身を捧げなければならないのだと察してしまった。

 オークションで金を掛けてまでして買った奴隷達を殺すという、ドブに全財産捨てるかのような行為は、誰も理解する事ができなかった。


「イグラの未来視能力は無いが、仕方ない。魔狼族の餓鬼を連れてくるのを待つとしよう」

「魔狼族? あの化け物が競り落とした包帯のか」


 サラッと彼の口から出てきた『化け物』という言葉に再び反応して、ミルミトはまさかと思って念の為の確認を取った。


「ウルック、まさかさっき言ってた、勝てるか分からない敵の事なのか?」

「あぁ。普通なら俺様の方が上なんだろうが……」

「直感、か」


 戦闘狂だからこそ、相手の強さが自然と分かるようになっていった。

 その中でも、特異な感覚を持っていたのがノアだった。

 普通に戦えば勝てるかもしれないが、何故か異様な気配を感じたのだ。

 そうウルックは証言した。


「ならば、その錬金術師に関しては……ウルック、貴様に任せるとしよう」

「おっしゃ!!」

「ただし、それは儀式が始まってから奴が邪魔しに来た場合の話だ。儀式中はリンドメークの護衛が主な仕事になると思っておけ」

「……チッ」


 護衛よりも前に出て戦いたかった、と思ってしまったウルックだが、復讐するための儀式を行うために我慢する事に決めた。

 ただし、できるならば戦いに来て欲しいとウルックは僅かながらの期待をする。


「リンドメークは奴隷を使って儀式の準備を頼む」

「分かったわぁ」


 実質四人で決起する事になった作戦だが、事を上手く運べる確率はあまり高くない。

 作戦においてプランAが必ず成功する確率が低いのと同じ理由であり、何かしらの予想外な事が起これば、それは即座に瓦解してしまう。

 だからこそ予備案であるプランBプランCを設定しておかなければならず、そのためにも隊のリーダーであるミルミトは、ナトラ商会の会長として動く。


「私も幾つか行動を起こすとしよう。この鉄格子と鎖の鍵をリンドメークに預けておく」

「ようやくなのねぇ……ウフフフフ」


 鍵を受け取った彼女が奴隷達の方へと視線を向けた。

 それに何人かが怯え、何人かは必死の睨みを利かせ、そして残りの人は何をするでも無く目を閉じて事の成り行きに身を任せていた。

 一人ずつ奴隷達の繋がれていた鎖が外されていくが、全員が逃げ出そうとしない。

 いや、できない。

 彼女達が奴隷だからこそ、逃げ出せば激痛が待っていると肌で知っているからだ。


「さぁて、行きましょうねぇ?」


 その命令には誰も逆らう事ができない。

 逆らえば即座に激痛が身体を襲うから、恐怖に震え、足が竦んでしまいそうになる。

 しかし竦んでしまえば、主人に逆らうと認識されて激痛が走り、そうなりたくない彼女達奴隷は皆、リンドメークの後ろを付いていく。

 ゾロゾロと七匹の奴隷を引き連れて、リンドメークは牢屋の奥にある額縁へと足を運んだ。


「それで、残りの三人は?」

「は?」


 リンドメークを送ったミルミトとウルックも、空っぽとなった鉄格子を横目に、奴隷達の通っていった道を二人、歩き出す。

 時間を無駄にしないように、そして予備案のために動こうと考えていたミルミトは、ウルックが認識した四人の強者の情報を教えてもらうべく、彼へと聞いていく。


「さっき言ってた四人中の三人の話だ。一応、危険な事は全て耳に入れておきたいものでな」

「あぁ、四人中三人、確かに俺様達と互角くらいの実力だったぜ。一人は鬼人族の男、一人は霊鳥族を買った奴、一人はユグランド商会のとこにいた胡散臭いオールバックの黒髪の男だ」


 強い人間を察知する方法が『直感』であるため、正確ではない。

 間違っているかもしれないし、正しいのかもしれない。

 しかし戦闘狂の彼を信じているため、鬼人族の男、霊鳥族を買った男、そしてダイガルトに対して警戒心のレベルを引き上げる。

 今回の作戦は確実に成功させなければならない。

 失敗すれば次は無い、そういった心持ちで挑む。


「他の奴等も呼んだ方が良かったんじゃねぇか?」

「……私達だけで充分だ」

「ま、俺様は強ぇ奴と戦えるんなら別に構わねぇがな! ガハハハハハ!!」


 その大声が牢屋の中で反響して、隣にいた彼の耳へと直撃する。

 痛みによって、咄嗟に耳を手で塞いだ。

 強烈な音によって脳へと影響を与え、気分が悪くなる。


「こんなところで大声を出すな。耳に響く」

「へいへい」


 二人の男達は、そのまま魔導具の門を潜って、屋敷の中へと出てきた。


「やっぱ便利だよなぁ、この『リブロの隠し倉庫』って魔導具はよぉ」


 彼は、倉庫の門となっている額縁の絵を見ながら、そう言った。

 絵画の中に空間を形成して、そこに秘宝や財産を隠す事のできる魔法道具の一つであり、ナトラ商会は幾つもの倉庫を有していた。

 勿論、その中には危険薬品や禁忌とされている物とかも管理されている訳で……


「それで、私に何か用か?」

「あ?」


 ウルックの言葉を無視して、直接向き合う。


「私達を探していたであろう。話がすぐに逸れてしまったから、聞きそびれていた」

「あぁ、そう言やそうだったな。用件って程じゃねぇんだがよ、一瞬だけ胸騒ぎがしたもんでな、来たって訳よ」

「胸騒ぎ? 作戦が失敗でもすると?」

「そうは言ってねぇだろ。俺様の直感だ」


 ウルックは直感に生きる男であるため、そういった不可解な行動を取る事も何度かあった。

 並外れた第六感を有しているからこそ、胸騒ぎという言葉を頭の片隅に置いたミルミトは、自分の目的のために行動を開始する。


「分かった……なら、始めるとしよう」

「あぁ、そうだな」


 これは誰も報われない戦い、これは誰からも称賛される事の無い戦い、これは彼等の矜持を賭けた戦いである。


「「我等、魔族の盟友シドに誓って」」


 その言葉と共に、散っていった仲間の意思を背負い、彼等は戦いへと身を投じた。

 彼等の盟友、シドという男の仇のために。

 それが彼等の為すべき事だと、そう信じたから。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

『面白い!』『この小説良いな!』等と思って頂けましたら、下にある評価、ブックマーク、感想をよろしくお願い致します。


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