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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第二章【財宝都市編】
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第44話 奴隷契約

「自己紹介が遅れました。わたくし、奴隷商人のバッハと申します。以後、お見知り置きを」

「リィズノインだ。親しい者はリノと呼ぶ」

「……」


 何で奴隷を購入した俺にではなく、隣に立っていたリノにだけ紳士的な挨拶してるんだよ。

 可笑しくない?

 仮にも八十三億ノルド払いに来た人だよ、俺。


「おい、自己紹介なんてどうでも良い。それより金額の確認しろ」


 腰のポーチに手を突っ込んで、その影から小さな財布を取り出し、それを投げ渡す。


「おっと……ふむ、確かに八十三億ノルド、丁度頂きましたね」


 聖紋貨八枚、王金貨三枚、合計八十三億ノルドだ。

 本物かを確認してもらったところで、早速しなければならない事が一つある。

 それは、奴隷引き渡しによる契約の更新だ。

 現在の彼女の主人は目の前にいる奴隷商人であるため、そこから俺へと主人の引き継ぎを行わなければならず、その手順を詳しくは知らない。


「サッサと奴隷手続きを終わらせようぜ。契約書も必要無いだろ」


 この場で奴隷契約を済ませれば良いだけなので、裏切ったり下手な事をすれば殺すだけ、状況的に俺の方が圧倒的有利という事だ。

 しかし、この部屋にも監視カメラの魔導具が仕掛けられてるので、こっちも下手は打てない。

 バッハがユーステティアを外へと出し、彼女を椅子へと座らせた。


(すでに器材は用意してあったのか……)


 テーブルには幾つかの器具がある。

 蝋燭に筆、何かの液体に魔法スクロール、他にも液体を作るための素材数種、乳鉢や薬研、試験管とかもあって、小さな実験場のようだ。

 奴隷を躾けるための首輪や、他にも何かの道具とかもあり、更には短剣が置かれている。


「では、これより主従契約をさせていただきます。手順は簡単、わたくしが主人解除を行いますので、お客様は自分の血を使い奴隷紋の上に丸を描いて、そこへと魔力を注いでください」

「分かった」


 奴隷紋は丹田辺りに刻まれているもので、何かの液体を染み込ませた筆を使い、魔法文字を刻んでいく。

 奴隷紋へと魔法文字を刻み終わったところで、何かがパキッと罅割れるような音が聞こえたが、主人解除の時間は限られているため、俺は錬成した短剣で右手親指を斬り裂いた。

 血が垂れる。

 この血と魔法文字を掛け合わせて連動させるようだ。


「その力は――」

「丸を描けば良いんだな?」

「え、えぇ、そうです」


 奴隷紋に刻まれた魔法文字ごと丸を描いて、そこへと魔力を流していく。


「がっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 途端に眩ゆい閃光、それから熱量によって彼女の身体に激痛が走る。

 雷も大気を迸り、ユーステティアが悲鳴を上げた。

 本当に大丈夫なんだろうな?

 何だか心配になってきたんだが……


「いやはや、驚きましたな」

「驚いた? 何に?」


 急にバッハに手首を取られたかと思うと、勝手に袖を捲られてしまった。


「この腕輪が急に変化するとは、貴方の職業は一体何なのですかな? まさか有名な魔法使い様で? それに親指の傷も治っていますし……」

「人の詮索は良くないぜ、奴隷商人。アンタは金を貰って奴隷を俺に渡す事だけ、そうだろ?」


 詮索されるのは面倒だ。

 魔法使いでなく錬金術師だと知ったらどんな顔をするのかと気になって、言ってしまおうかとも思ったが、無駄な情報漏洩は後の弱点にも繋がる。

 今は何も起こってないが、これから先に何が起こるかを考えた時、冒険者として生きていくなら手札は無闇に晒さない。

 とは言っても、錬成での戦闘を見られ続ければ、いずれ誰かに気付かれてしまう。

 リノとダイガルトでもう充分だ。

 他に気付かれないように、詮索を禁じた。


「仰る通りですな。ともかく、これで奴隷契約は終わりましたが、奴隷購入は初めてですかな?」

「まぁ、そうだな」


 こうなるまでは金も殆ど持ってなかったし、奴隷なんて買ったところで勇者パーティーには必要無いと判断された事だろうから、奴隷についての勉学なんてあまりしてこなかったな。

 改めて勉強してみるのも良い機会だ。

 奴隷のイメージって言ったら、奴隷の首輪をしているものだと思ったんだが、彼女は首輪をしていない。


「では、奴隷について色々とお教えしましょう」


 と、言う事で急に奴隷講座が始まった。


「まず、奴隷に命令できるのは主人のみ、これは奴隷紋が身体に刻まれているからです。主人となる方の血が奴隷紋と呼応して、命令を下せる訳です」


 つまり俺の血液が奴隷紋を発動させるための媒体、命令が実行された時に俺の血液が魔法と反応し、それによって命令が実行されれば奴隷紋は反応せず、実行を無視したりすれば奴隷紋が発動して激痛を与える。

 仕組みとしてはある程度理解したが、それには複雑な魔法陣が必要となる。

 魔法や奴隷に関する知識学習を途中で止めたせいで、そこら辺の理解が少し曖昧だ。


「次に、奴隷紋には予め、幾つかの命令が組み込まれています。主人を殺す事を禁じる、主人に口答えする事を禁じる、主人から逃げ出す事を禁じる……まぁ簡単に言えば、主人に逆らわないようペットの首輪を嵌めて鎖で繋ぐものですな、ヌォホホ」

「あ、そう……」


 身も蓋も無い言い方だな。

 つまり、犬に対して色々とルールを設定しているという事だな。

 奴隷紋に組み込まれた命令については、主人への攻撃や言動の注意のため、と捉えておこう。

 まるで見えない首輪をして、俺が鎖を握ってるようだ。

 俺の命令一つで彼女は死ぬ、俺の機嫌一つで彼女は命を散らす、社会的に見たら理不尽だと思うが、この奴隷社会は異世界では普通であるため、幾ら主人の立場であったとしても文句は言えない。


「では、次に奴隷との契約破棄に関して、奴隷商会へと赴いて手続きを行えば、その時点で奴隷との関係は無くなります。また、奴隷からの解放についてなのですが、奴隷紋を消すための特殊な薬品が必要となります。それ以外では消えません」

「その特殊な薬品ってのは?」

「奴隷商人が作れる薬です。普通には取り扱っておりませんので、その時は依頼となりますね」


 そのような仕組みがあったのだと初めて知った。

 錬金術師の知識内には、奴隷解放の薬品もあるため、作る事自体は可能だが、彼女を見す見す手放したりなんかはしない。

 八十三億ノルドも払っておいて、解放します、だなんて事をすれば、単に金を無駄遣いした事になってしまう。

 もし彼女を解放するんなら、彼女が八十三億稼いだ時だろう。


「因みにですが、奴隷に無理な命令を加える事は禁じられています。法律でも決まってる事ですので」

「無理な命令って?」

「例えば自殺しろ、とかですかな。彼女は戦闘奴隷に位置しますので、性的な命令をしたり……後はまぁ、彼女のスペックに合わない事を命令したり、ですかな」


 使えない魔法を放て、なんて言ったところでできないのは目に見えているため、それだと永続的に奴隷紋が激痛を放ち続ける事になる、みたいなもんか?

 そんな命令とかは適応されないと思うんだが……

 改めて考えてみると、奴隷というのは色々と制約が多いものだな。


「それから奴隷の生殺与奪を握ってるのは主人です。奴隷の衣食住の保証がされてないと判断されましたら、即刻違法と見なされて警邏隊にしょっ引かれますので、どうかご注意を」

「物騒だな。まぁ、当たり前か」

「えぇ、当たり前の措置です」


 そもそも戦闘奴隷ってカタログに書いてあったし、彼女を買った時点で俺が面倒を見なければならないのは必然というものだ。

 衣食住をしっかりと与えなければ、俺の護衛ってか、俺の代わりに戦ってくれる戦闘要員が駄目になる。

 俺が錬金術師である以上、戦えないから誰かに守ってもらっている、という構図が必要なのだ。


「基本は以上です。オークションでの奴隷購入は普通のとは少々異なりますが、基礎的な事は奴隷に全て教え込んでありますので、大丈夫かと」

「そうか」


 俺が覚えときゃ良いのは、奴隷に無理な命令を下せないって事と、衣食住を与えろって事だな。

 奴隷破棄に関しては商会に聞きに行けば良いので、今は頭の片隅にでも置いておこうか。


「何となく奴隷について理解はした。だが……幾つか質問良いか?」

「えぇ、勿論」

「なら一つ目、首輪とかはしないのか?」


 ファンタジー漫画や小説とかでは、首輪をしている奴隷達が結構いたのだが、ここの世界観が今一分かってない。

 奴隷紋が首輪の代わりとなる、と言った認識で良いのだろうか?


「首輪は必要ありませんよ。ただ、この首輪を装着させて無理やり奴隷にしたりする商人もおりまして、困っているのですよ」

「それって違法奴隷の事だよな?」

「えぇ」


 闇市とかで稀に見る奴隷達は皆付けてたが、今思うと奴隷じゃなかった子達を奴隷に陥れた、って背景があるのだと理解した。

 だが、違法奴隷には奴隷紋が付いてないって事で、判別対象となるようだ。

 そんな使い方もあるのかと、少し感心した。


「二つ目だが、彼女が職業選別の儀式を受けてない理由は何だ?」


 彼女は無職、つまりまだ選別を受けてないという事だ。

 数千年の歴史の中で、選別を受けたにも関わらず無職、だなんて事例は一切無かった。

 そして二つ以上の職業を授かった者もいない。

 だからこそ有り得ない事象を除いていくと、彼女が選別を受けてないという結果が出る。


「彼女の故郷には教会とかが無かったそうです。そして十五歳となった彼女は奴隷として売られ、オークションへとやってきた、という訳なのですよ」

「ふ〜ん」


 詳しい経緯は知らないのだが、魔狼族は雪国出身のはずで、こんな南の大陸にいるような種族ではないのは俺にも分かる。

 しかし、こんなところにまで来たという事は、結構な日数を奴隷として生活してきたはず。

 俺の予想が外れてる可能性もあるが、彼女が奴隷となってオークションで売られて、今ここにいる、そこまでに何があったのかは聞くべきでもない事だ。


「里を追い出され、持ち前の狩猟技術で食い繋いでたりしたそうですが、途中で行き倒れているところを、わたくしが保護したのです」

「奴隷にした、の間違いだろ?」

「ヌォホホ、それは違いますぞ。出会った時にはすでに首輪をしておりました。彼女には不思議な力があると分かりましたから、こうして連れてきたのですよ」


 幸運を呼ぶ、だっけ?

 司会の人も幸運を呼ぶって声に出してたし、彼女のその不思議な力を欲する人が実際に多かった。


「しかし、わたくしの鑑定によりますと、それとは少し違うようなのです」

「少し違う?」

「はい。彼女の能力、幸運ではなく、運命そのものを引き寄せると言いますか……」


 今一よく分からない。

 とにかく幸運も、凶運も、全て引き寄せてくる、みたいな能力なのかもしれない。

 確かに、それは幸運ではないな。

 災いすらも引き寄せてしまうかもしれないなんて、とんだ爆弾だな。

 まぁ、別に運命の引き寄せには興味無いし、向かってくるなら悉くを潰すだけ、俺を飲み込もうとするなら逆に喰らってやる。


「ユーステティア……いや、長いからユスティって呼ぼう。ユスティ、お前は自分の能力がどのようなものか理解してるか?」

「いえ、詳しい事は初めて知りました」

「つまり、最初は幸運能力だって思ってた訳か」

「はい」


 必ずしも神子の能力が完璧に操れる訳ではないし、認識できてない事だってあるため、彼女も誤認してしまうのも無理は無い。

 だが、目の前に奴隷商人の鑑定能力……


「ちょっと待て、アンタ鑑定士か?」

「はい。ですので、この『鑑定眼』によって異能を見極めました」


 鑑定眼は、その人の持つ異能や魔法適性といったものを見極める能力だが、その眼は人の運命さえも見通すと言われている。

 だが、それは確実ではない。

 見える者もいれば見えない者もいる、それに加えて鑑定士は鑑定魔法を使うが、その目を持っていた事も反映されて選別で鑑定士を贈られた、可能性も否定できない。

 神様という存在は本当にいるのだろうか?

 いたとしたら、職業を与える理由は何だろうか、その人その人に職業を選んでいるのだろうか、聞きたい事は幾つもある。


「『福音の月聖堂ルンブラン・ディア・フラーム』、それが私の神子としての能力名です」


 運命を司る女神アルテシアを信仰する、アルテシア教にでも知れたら彼女が女神の使徒として崇められる可能性が高いだろう。

 あんまり吹聴しない方が身のためだな。

 しかし、こういった名前って誰が決めてるのだろう、不思議なものだ。


「神子、か……」


 運命を引き寄せるにしても、幸運にしても、彼女はまだ恵まれた方だ。

 全てを持って生まれてきたからこそ、彼女はこうして奴隷として今を生きている。

 何も持たずに生まれてきたからこそ、ウォルニスはこうして奴隷を買うにまで至った。

 真逆の状況のはずが、ある意味似通っている。

 俺と彼女は似ているのだ。

 彼女は神子として羨ましがられる以上に嫉妬の感情を強く受け、同じように忌み子として俺は憎悪の感情を強く受けてきたからこそ、俺達は通ずるものがある。


「その目はどうした? その力があるなら、火傷を負う事も無かったはずだ」

「……分かりません」


 彼女に幸運能力があるのならば、火傷を負う事も、ましてや彼女が奴隷堕ちする事も無かったはずだ。

 しかし、現状では異能とは真逆の道を歩んでいるようにも思える。

 ならばさっき言った運命を引き寄せる能力だとしたら?

 この道が正解なのだと、彼女を導いているのだとしたらどうだろうか?

 目を焼かれる事も奴隷堕ちする事も、俺と会う事が運命の終着点だとしたら、そう考えたのだが流石に被害妄想が入ってしまってる。


「彼女は能力によって家族を失ったそうです。狩猟の最中、火を操るモンスターが出現し、森が焼け、その時に家族を失ったと同時に目をやられた、と」


 魔狼族は確か、氷結能力や氷の類いの魔法を持っていたはずだ。

 鎮火できただろうに、どうしてだ?


「そのモンスター、何か分かるか?」

「えっと……全身火を纏ってました。大きな蜥蜴のようなモンスターで、その……四足歩行してました……」


 考えられる可能性が幾つかあったのだが、まだ絞り込めていない。

 もう少し情報が欲しい。

 できれば、もっと具体的な情報、或いは他に目にしたものとかだ。


「火の色は?」

「赤、いえ、橙色でした……」


 オレンジの炎という事は、不完全燃焼のままであり、蒼炎や他の色をした炎ではないという情報の絞り込みができていく。

 蜥蜴のようなモンスターで、オレンジの炎を纏っているモンスター……いや、本当にモンスターなのか?


「その蜥蜴の近くに誰かいなかったか?」

「ご、ごめんなさい、分かりません……あ、でも、一つだけ変な事が……」

「変な事?」

「はい。何本かの木々が腐ってました」

「燃えたんじゃなく、か?」

「はい」


 燃えるのではなく腐る、それが意味するのは、俺の脳内辞書に該当する類いのモンスターがいないという事だ。

 腐蝕性がある大きな蜥蜴モンスターなんて、あまり聞かないために、考えられる事を述べた。


「多分、サラマンダー……精霊の類いだろう」

「ですが、それだと精霊使いが――」

「確証は無い」


 四大精霊の一体であるサラマンダー、それは小さな蜥蜴やドラゴンのような容姿を持っており、前世での伝承ではサラマンダーは猛毒を持っていたと言うが、この世界でのサラマンダーはデカい上に腐蝕の毒を持つ。

 しかし、サラマンダーが雪国にいるという事実は本来考えられない。

 そもそも生息地が大きく異なっているからだ。

 雪国には雪の精霊が、砂漠には土の精霊が、自然には自然の精霊がいる。

 それと同じで、サラマンダーは火山地帯にいたりするものだ。


(誰かが里を襲った? 何のために……)


 チラッと椅子に座る少女へと目を向ける。

 彼女の持つ能力を狙ったのか、だとするならサラマンダーとの契約者を探せば何か分かるかもしれない。


「ちょっと良いか?」

「うおっ!? い、いたのかリノ……忘れてた……」

「我の扱い酷くないか!?」


 ビックリした。

 忘れてたのだが……ちょ、痛い痛い!!

 首掴んで締め付けるの止めろ!!

 い、息が……で、出来――


「ゲホッゴホッ……はぁ、んで、何だよ?」

「サラマンダーを使役するのは不可能なのではないか?」

「四大精霊、シルフィード、ウンディーネ、ノーム、そしてサラマンダー、ソイツ等を使役できる奴なんて殆どいないが、できない訳じゃない」


 精霊契約での使役方法は幾つかあるが、無理やり従わされているのか、それとも薬品による投与か、方法なんざ幾らでも考えられるか。

 問題はそこじゃない。

 何故ユスティの里を襲ったのか、という事だ。


「いつ襲われた?」

「十五歳になってすぐ……一年と少し前です」


 俺が魔境へと飛ばされたのと同じ時期くらいに彼女は目を失った、と。

 偶然にしては何だか不思議なものだが、それも運命を引き寄せる『福音の月聖堂ルンブラン・ディア・フラーム』という力によるものなのか。

 暗黒龍ゼアンが一年前の別れ際に言ってた事を、不意に思い出した。


『ククク……果たして、これは何処までが仕組まれたものなのだろうな』


 それが暗黒龍の言葉だった。

 今思えば、本当に誰かに仕組まれていたのかもしれないと感じさせる言動だ。

 神に創られし九神龍、そのうちの一体である暗黒龍には神の道楽でも見えていたか。


『精々我等を楽しませろよ、小僧』


 何を楽しませろって言うのだ、あの龍め。

 今頃、戸惑ってる俺の顔を見て笑っているのだろう。

 ホント、一年前に消えてから姿を一度も見てないし、何処に旅立っていったのだろうか。


「彼女が狙われた、という事なのか?」

「さっきも言ったが確証は無い。サラマンダーっていうのも予想でしかないからな」


 サラマンダーである可能性、サラマンダーではない可能性、どっちにせよ関わるものでもない。

 復讐なんて以ての外だが、それを考える性格には見えない。

 彼女は優しすぎる。

 俺の魔眼は人の性質を見る、よって彼女は優しい白い光に包まれているように見えた。


「とにかくだ。ユスティ、お前は俺の護衛として戦ってもらうが、できるか?」

「……はい」

「分かった。なら、よろしく頼む」


 彼女へと手を差し出す。

 その手を掴んだ彼女を軽く引っ張り上げて、立たせる。


「ユスティ、ここで幾つかの命令を下しておく」

「はい」

「まず、言いたい事があれば言え。口答えを禁止する項目もあるそうだが、それは破棄する。意思疎通ができないのは問題だしな」


 彼女が驚いたように、耳をピクピクと動かしている。

 尻尾も少し揺れている事から、感情表現が面に出るのだろう。

 何か、前世で飼ってた子犬みたいだ。

 後でモフモフさせてもらおう。


「最低限の事はやってもらうが、嫌なら嫌だと言え。良いな?」

「……分かりました」

「よし、なら次だ。俺の護衛として前に出て戦ってもらう訳だが、他人が襲ってきた場合、或いは襲われると判断した場合は反撃を許可する。殺さなければそれで良い」

「……はい」


 これで基本的な意思疎通ができ、俺の護衛として戦ってくれる俺の欲しかった戦闘奴隷ができあがったため、俺の望む形へと成長させていく事もできる。

 まるで育成型RPGみたいだな。

 職業によっては前衛、中衛、そして後衛にも変わるし、更に手を加えれば方向性も次第に定まる。

 他人を殺してはならない、それは彼女を汚すのは何だか忍びないから。

 それに人を生き返らせる行為が正しいのか、それとも間違ってるのか、迷いが生じている。

 だから育成は慎重に行う。


「それと、俺の過去については詮索するな」

「……?」

「聞いても面白くないからな」

「わ、分かりました……」


 聞かれても面倒なだけだからな。

 孤児院の過去について、スラムで生きた事について、勇者パーティーの事について、そして……


(俺が転生者という事についても、か)


 これで、ある程度の事は何とかなる。

 しかし不足の事態が起こらないとも限らないし、帰ったらより詳しく命令の確認をするとしよう。


「バッハの爺さん、良い買い物だったよ」

「ヌォホホ、それは良かった。もし再び奴隷を購入したい時は、ここに来てくださいね」


 名刺らしきものを手渡されて、それを受け取った。

 そこには冒険者の総本山である星都ミルシュヴァーナと書かれていた。

 コイツ、そんなところから来たのか、意外と遠いぞ、ここ……


「それでは失礼致します」

「あぁ」


 そう言や俺、名乗ってなかったが良いのだろうか?

 いや、まぁ聞かなくとも二度と会わないかもしれないという事で、聞かなかったのかもしれない。

 別に良っか。


「さて、じゃあ俺達も――」

「あの」


 言葉を遮られたと思ったら、ユスティが出て行こうとする俺を呼び止める。


「何だ?」

「あの、貴方の……名前を」


 そっか、彼女にすら自己紹介してなかった。

 簡単に自己紹介すれば良いかと思ったので、必要な情報だけ教えておく。


「俺はノア、冒険者をしている錬金術師だ」

「れ、錬金術師、ですか……」


 やはり錬金術師は戦えないと思われているようだ。

 明らかに声のトーンが落ちているが、何だか申し訳無いな。


「んで、こっちは精霊契約したステラだ」

『よろしく〜。え〜っと、貴方は誰?』

「わ、私は……ユーステティアと申します」


 不思議な子だと思ったが、どうやら五感のうちの視覚が奪われた事で他が発達しているようだ。

 位置把握、動作、向き、そういったものに迷いが無い。


「我はリィズノイン、案内人だ。リノ、と呼んでくれ」

「よ、よろしくお願いします、リノ様」

「様は不要だ」

「り、リノ……さん……」


 ふむ、女子三に――三人? まぁ女子三人集まると姦しいというものだが、キラキラとした空間が眼前に広がっている。

 どうやら、これからの冒険に支障は無さそうだ。

 さて、次は彼女の衣食住だな。






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