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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第二章【財宝都市編】
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第41話 約束と競売

 一日目のオークションは昼休憩を挟んだ後、夕方まで続いたが、無事に終わった。

 ナトラ商会の番号は、二品目の『ザインの黄金杯』とかを買っていった二十六番であると判明し、何度かリスク込みで競売品の金額を吊り上げてより多く買わせてみたが、中々に上手くいかなかった。

 と言うより、成果がそこまで見られなかった。

 慣れない事はするもんじゃないな。

 一方でユグランド商会は十二番、一桁や二桁の番号は一番から順に王族や貴族の位が決まっているため、十二番は結構影響力が強い事を意味している。


「ノア!」


 帰ろうとリノを待ってたところ、会場のロビーで金髪碧眼のクソ餓鬼とバッタリ出会した。

 名前何だっけ?

 あぁ、リヒトか。


「こらリヒト! 敬語使わなきゃ駄目だ! ノア『さん』だろ?」

「そうだよリヒト! ごめんなさいノアさん、リヒトはまだ敬語とか上手くできなくて……」


 そして当然のように現れたリヒトの兄妹、兄の名前がエリックで、妹の方が……ハンナか。

 ヤバいな、最近影鼠になって四六時中動いてたから、記憶力良いのに忘れかけてた。

 脳がバグってる。

 いや、矮小になってるのか?

 人間の尊厳を忘れそうになってるし、本当に長い間鼠の姿になってると気持ちまで鼠になってしまうようで、絶影魔法恐ろしや、だ。


「早速キースに仕込まれてるらしいな」

「はい。ノアさんのお陰で私達三人、ちゃんと働く事ができてます。だから……ありがとうございます!」


 末っ子のハンナが一番しっかりしてるとは、兄二人は肩身が狭いだろう。


「偉いな、ちゃんと敬語できてんじゃん」


 元から敬語使ってたし、ちゃんとした言葉遣いを覚えれば、彼女は立派な淑女へと成長するだろう。

 その成長を手助けするのは俺ではない。

 俺はキースと簡単な取り引きをしただけであり、そのための条件はすでに満たされている。

 この様子だと、しっかり育てられているようで安心したものだが、彼女達がいた孤児院の院長に関して、彼は不治の病によって病院にいるため、この事は餓鬼には伝えない方が賢明か。

 顔を歪ませるのが目に見えている。


「えへへ」


 こんな嬉しそうな顔を曇らせるような言葉は俺の口から言えない。


(まぁ、いずれ知るか)


 彼女達の孤児院の院長について考えてると、ハンナが片足を引いて軽く膝を曲げる動作を行なっていた。

 スカートを軽く持ち上げ、恭しくお辞儀するカーテシーだが、この作法とかは多分キースが教えたのだろう、様になってる。


「この度は、私達を助けていただき感謝致しますわ」


 たったの二週間でここまで成長しているとは、餓鬼の成長速度は侮れない。

 リヒトとエリックも彼女に倣ってお辞儀していた。

 カーテシーは女性がするもので男性はしないため、リヒト達は別のお辞儀をしていた。

 ボウ・アンド・スクレープという、カーテシーの男性版みたいなものであり、右足を引き、右手を身体に添えて、左手を横に水平に差し出す作法だ。

 これでタキシード着てたら完璧だな。


「エリックは良いとして……リヒト、お前少しフラついてるぞ。もう少し練習したらどうだ?」

「う、うるせぇ、俺は護衛として戦闘だけ磨いときゃ良いんだ!」

「ほぅ」


 もしも兄妹達の護衛をするんなら、商業的な作法とかも身に付けておいて損は無い。

 孤児院出身の餓鬼には少し難しかったか、いやエリックはキチンとできてる、単にこういった作法が苦手という事なのだろう。

 俺もお辞儀で返すとしよう。


「彼はこう言っておりますが、如何致しましょうか、お嬢様?」

「うわぁ! ノアさん、貴族様みたい……」


 勇者パーティー時代に覚えさせられたものだ。

 王城での謁見だったり、パーティーでの挨拶だったり、そういった事もさせられたので、身体に染み付いてしまっている。

 嫌な思い出だ。

 それに役に立つ時はもう来ないだろう、作り笑いとか今できないし。


「おや、ノアさんではありませんか」


 と、タイミングを見計らったかのように、餓鬼共の世話をしているキースが廊下の奥から姿を見せた。


「キースか。どうやらちゃんと餓鬼共の世話はできてるらしいな」

「えぇ、貴方様とのお約束ですからな。それに、彼等はノアさんの仰った通り、それぞれに才覚があるのが分かりましたから」


 今では良い買い物だった、と。

 三人の服装はこの場に相応しい礼服であり、如何にも貴族様とも思えるような格好をしていたので、甘やかされながらもしっかり鍛えられてるようだ。

 それなら紹介して良かった、俺が間違った選択をしてないと自分で思える。


「……先日は本当にありがとうございました」


 子供達には聞こえないよう小さな声で呟いたという事は、ナトラ商会関連についての話であるとピンと来た。

 こんなとこで話すような内容ではない。

 誰かに聞かれてたら俺まで巻き込まれてしまうので、もしも狙われたらキースを犠牲に……いや、餓鬼共を任せてるので、死なれたら今までの時間が全て水の泡、無駄となってしまう。


「はぁ……結局、今日は何も競り落とさなかったな、アンタ」


 無理にでも話題を変える。

 そのやり取りだけでキースも察してくれたようで、これ以上は依頼の件に触れなかった。


「えぇ、私が欲しいのは三日目の絵画ですから」


 真夏の夜って題名タイトルの絵画を欲しているらしいキースは、明日も何も買わなさそうだ。

 物欲が無いのだろう。

 金を無駄にしないのは美徳だが、折角のオークションで殆ど何も買わないのは勿体無い。

 俺が言えた義理ではないが……


「ノアさんこそ、奴隷の他に何か買わないのですか?」

「あぁ、俺も特に欲しいのは無かったしな」


 カタログを見ても、そこまで欲しいと思うような品は存在しなかったため、最後のページに書かれていた奴隷だけを買う事に決めている。

 それに俺の目的は旅であって、オークションで奴隷が手に入らずとも支障は無い。

 いや、彼女程、実験台として適切な人間は今後いるとも限らないし、錬成実験を行うため、失敗しても良いようにサンプルは欲しい。

 是が非でも手に入れたいものだ。

 そのためにはナトラ商会や豪商、王族が邪魔だな。


「ノア殿、こんなところで何してるのだ?」

「この前の餓鬼共と、お喋りだ」


 花を摘みに行ってたリノが、ようやく帰ってきて会話に加わった。


「掏りをしたはずが、まんまとノア殿に財布を掏られた挙げ句、盗んだ財布には小鼠一匹しか入ってなかった、単なる不憫な子供だったな、ハハハ」

「あ、あの、言い方……」


 事実なんだから仕方あるまいとも思ったが、笑顔ですんごい事言いやがったな、この女。

 もっとオブラートに包めよ、なんて事は言わなくても大丈夫だな。

 餓鬼の自業自得だし、捕まえなかっただけ有り難く思って欲しいものだ。


(それにしても……)


 たったの二週間足らずで三人の様相や言葉遣い、それから立ち振る舞いが板に付いてる。

 男子三日会わざれば刮目して見よ、なんて言葉がある通り、二週間も会ってなかったために見違えたように見えるのだ。

 錯覚じゃないよな、これ?


「おい餓鬼共、もう掏りや犯罪とかしてないよな?」

「「「してないです!!」」」


 三人と目を合わせる。

 魔眼を通して見るが、澱みは見られなかった。

 つまり全員が白、これで彼等の潔白が証明された事になるのだが、俺の魔眼については誰にも話してない。

 左目に関してリノには、内診のために使った、と伝えてある。

 魔眼を通して内臓とかの状態を見れる、とだけ伝えてあるので、この左目の心晶眼の本来の使い方とかは彼女は知らないはずだ。

 それに左目の魔眼がバレたところで、右目のカモフラージュになるので、左がバレても大差無い。


(右目さえバレなきゃ大丈夫だしな……)


 この右目は一度も使ってないが、暗黒龍を象徴とする魔眼だからなのか、何とも凄まじい力を宿してる。

 それが直感的に分かったので、まだ使ってない。

 使ってしまうと、超回復を持っていたとしても身体が滅びてしまうかもしれない、そう直感が脳裏へと訴え掛けてくるのだ。


「餓鬼共……その言葉、神と俺、それから己自身に誓えるか?」

「「「誓います!!」」」


 嘘は言ってないな。

 俺自身、神に誓ったりしてないし、これからも神には誓おうとしないだろう。

 だから俺が祈らない代わりに、彼等に祈ってもらうとしよう。


「なら、約束だ」


 しゃがみ込んで同じ目線で小指を掛ける。

 指切りゲンマンなんて前世でも殆どしてこなかったもんだから、物凄く懐かしい感じがする。

 前世で仲の良かった『彼女』と何かを約束したが、記憶が欠けているせいで思い出せず、少しばかり心苦しいのだが、今はそれを振り払う。

 この世界に指切りの概念があるのは、何代か前の異世界勇者が伝えた事で広まった一種の伝統だ。


「お前等が掏りをしないよう、この小指が誓いの証だ」

「「「うん!!」」」


 嬉しそうに小指を合わせて、誓いを立てる。

 指切りの歌みたいなものがあったが、この世界にはそれが伝わっておらず、互いの小指を引っ掛けて目を閉じ、数秒間無言を貫く。

 小指で繋がっている、この想いは絶対に切れない、そんな意味合いを持たせているそうだ。

 この誓いが切れた時は、その約束を忘れた時、つまり誓いを裏切った時という意味になっていった。


「微笑ましいものですな」

「まぁ、これで餓鬼共も変な事はしないだろう」


 念押しして誓いを立てさせた。

 その誓いは明らかに彼等の心の中に刻み込まれたものだろう。


「アイツ等は幸せ者だな」


 寂しくもない、苦しくもない、しかしそこには確かに彼等の苦労という軌跡があった。

 俺とは大違いだな。

 掏りは犯罪だが、それによって悲しむ人がいる裏では救われる人間もいる。

 この世界ではそれが顕著に現れている。

 掏りによって一日を生きられる人がいる、掏りによって命を救われる人がいる、しかし逆に掏りによって金を奪われた者がいる、その金がもしも他の命に繋がっているとしたらと考えた。

 そこで、疑念が発生する。


「なぁキース」

「はい」

「俺は本当に正しい事をしたと思うか?」


 掏りは『金』ではなく、『人の命』を盗っているのかもしれない。

 確かに犯罪だ、命を奪うのだから。

 そう考えると、きっと俺は間違いなく正しい事をしたのだろう。


「ふむ、正しい事が何を指すのかが些か疑問ですが、彼等の顔を見てください」


 俺はリノと戯れている子供達の顔を見た。

 三人共、嬉しそうに無邪気にはしゃいでおり、その笑顔を見る限りでは幸せそうに見える。


「掏りをしていた頃よりも、笑顔が増えたんじゃないでしょうか?」


 人から盗んだ金で生活するというのは、話からしても実体験からしても笑えないものだ。

 三人が掏りから足を洗わなかったら、一生笑顔を作れなかっただろう。


「三人共、大変貴方に感謝しておりましたよ。毎日夜遅くまで特訓して勉強して、早く一人前になって院長さんと貴方に恩返しするのだと、そう言ってましたねぇ、はい」

「そんな事言ってたのか、アイツ等」


 少し離れた場所から彼等を眺める。

 リヒトも、エリックも、そしてハンナも、誰もが屈託無い笑みを浮かべて走り回っている。


(恩返し、か……)


 もう少し俺を疑うべきだろうが、そんな事を気にしないと言わんばかりに笑っている。

 人の心は千差万別、内心どう思ってるのかは誰にも分からないが、それでも彼等の笑みだけは何故か、真実を物語ってるように見えた。


「俺に恩返しする暇があったら、もっと精進しやがれ、クソ餓鬼共」


 距離が離れてる故、この言葉は隣にいるキース以外には聞こえてなかった。

 俺は旅をする、何処に向かうのかも決めてない、だからもう会えないかもしれない。


「リノ、帰るぞ」

「ぇ、あ、あぁ……」


 恩返しなんてしなくても、もう充分貰った。

 これ以上はもう何もいらない。


「じゃあな餓鬼共。誓い、忘れんなよ〜」


 この世界では命は非常に軽い。

 油断一つで即死となる。

 次会えるか分からないので、俺は小指の誓いを立てて彼等に覚えていてもらう事にした。

 いつか大人になった時、彼等が道を踏み外さないようにするため、俺みたいにはならないようにするためだ。


「ノア! また明日!」


 きっとリヒト達は笑顔なのだろう。

 笑顔に対して笑顔、それができない俺は夕陽が沈みゆく茜色の空を見上げながら、片腕を上げて背中へと手を振り返した。





 オークションは買う商品が多い程、多くの金を必要とするものだ。

 金がある限り、どれだけ金を積んでも、そしてどの商品をどれだけ落札しても違反にはならない。

 今回のオークションでの敵、つまりリノに予知してもらった事で発覚した敵は四人もいた。


(やっぱ一番と六番、十五番に二十六番、か……)


 一番はどっかの王国の王様らしい。

 六番は勇者パーティーを保有する国の王族一家。

 十五番は知らないが、結構多くの品を競り落としていたため、要注意である。

 そして二十六番、ナトラ商会だ。


「さぁさぁ! 二日目最初の品は……かの有名なファルファン大皇帝が残したとされる『天空王国ノスティッドベルン』の宝の地図です!」


 二日目のオークションには一日目よりも多くの人が集まってきていた。

 そして最初の品、その地図の入札開始価格が一億となっていた。


「二億!」

「二億五千万!」

「二億七千万!」

「三億!」


 この調子でどんどんと値段が吊り上げられていく。

 かの昔、ファルファン大皇帝がクラフティアを統治していた時、天空王国との間にできた友好関係を記した交易ルートがあったらしい。

 その地図が宝の地図として誤認されて、こうして競りに掛けられている。

 ただ、宝の地図というのは本当だ。

 何故なら、ファルファン大皇帝の隠し財宝が全て天空王国にあるらしいからだ。


「おい情報屋、天空王国への行き方とかは情報に無いのかよ?」

「今は無い、と断言しておこう」


 つまり、そこにあるのは偽物の地図という事だ。

 或いは地図であっても現在はいけないか、それとも天空王国自体が無くなっているか、それかオズウェルが嘘吐いてるか、だな。


「だが、天空王国自体は存在している」

「そうなのか?」

「うむ、吾輩の脳内辞書に間違いは無いのである!」


 力説されても困る。

 嘘は吐いてないし本当の事だろうが、なら何故偽物がこんなところにあるのだろうか。


(いや、んな事はどうでも良いか……)


 どうせ入札者が知らずに本物と勘違いして競りに出したに違いない。

 今は自分のすべき事をするだけだ。

 そう思い、隣でキョロキョロとしているリノに協力を要請する。


「おいリノ、おま――何キョロキョロしてんだよ?」


 何だか忙しない様子を見せる彼女は、周囲を見回しながら不思議そうな表情を見せていた。


「いや、何故かこの場にナトラ商会の会長がいなくてな」

「そうなのか?」

「あぁ、二十六番の来賓室を見ても、未来予知に反応しないのだ」


 そんな使い方もあるのかと感心するが、今日は競り落としたい商品が無い、と言う事なのだろうか。

 それか厠に立ったか。

 別に不思議な事じゃない。


「それより予知を使ってもらいたいんだが……」

「あぁ、分かった。どうすれば良い?」

「まずは誰が最高落札するか見てくれ」


 オークションで未来予知を使うにあたり、幾つかの手順が必要となる。

 まずは最高価格で落札する人を見つける。

 次にその人がどれだけ金額を吊り上げるかを見る。

 そして吊り上げた金額をどれだけ上回れば相手が金額を更に吊り上げるかを見極める。

 見つけ、見て、見極めて、の順でリノが答えていく。


「やはり一番が最高金額を掛けるぞ。金額は十三億ノルドだな」


 そこまで掛けるとは思ってなかったが、大金をドブに捨てたようなものだ。


「ノア殿が金を掛けた時、十億まで上乗せしても問題無いと思う」

「そんなにか?」

「それだけ天空王国の財宝が利になると考えたのだろう」


 ならば遠慮なんてしない。

 王族がどれだけの金を持っているかは知らないが、こっちには情報屋と予知能力者がいるため、ある意味では無敵のコンビだな。

 二つの能力は強みが違うからこそ、こうして組むと不足を補える。


「一番さんが十三億ノルド提示しました! 他にはいませんか!?」


 つまり本当ならば、ここで落札できたという事だ。


「十四億」


 俺が声にすると、バッジが淡く輝きを放ち、そのまま音声がスクリーンへと映し出された。


「おっと! ここで二百五十三番さん! 十四億ノルドです!」


 一気に十億プラスすると怪しまれるだろうから、一億ずつプラスしていく。

 俺はどんどんと競売品の金額を上げていった。

 十五億、十六億、そして十七億……

 そうして上がっていった結果、リノの指示通りに二十三億にしたら、向こうが二十三億五千万ノルドと、ここが限界のようだと見た。

 やはり、三日目の品に温存しておきたいのだろう。


「一番さん! 二十三億五千万ノルドで落札決定です!」


 今日は昨日と違う人が司会進行している。

 今回は女の司会進行役がいるのだが、特徴的な金の蝶ネクタイをしていて、本当に格好がダサい。

 あんな格好で司会してる奴等の気心が知れないな。

 とは言っても、司会は勝手に進んでいく。

 鈴蘭の寄木細工、人魚族の骨、不死鳥フェニックスの羽根、クレスタの冒険日記、禁忌の魔導書、等々、幾つもの品が売れていく。


「お次は……かの秘薬! 部位の欠損や不治の病! どのような病気や怪我でさえ立ち所に治るとされる万能薬エリクサーです! 入札開始価格は二億です!」


 あれを手に入れるのは誰なのか、リノに予知をお願いしようとしたところで、スクリーンに一つの番号が現れていた。


「ここで初の番号! 十二番さん! 七億ノルドです!」


 ユグランド商会、つまりキースの番号だな。

 アイツ、三日目の品以外は何も買わないんじゃなかったのかよ。

 いや、もしかしたら餓鬼共に絆されでもしたのかもと思ったのだが、あのキースが子供に……考えにくいな。


「う〜ん……ノア殿、キース殿が薬を手に入れられる確率は低いぞ」

「そうなのか?」

「あぁ、六番が二十七億で落札するから、キース殿は二十億辺りで外される」


 まさかの宝の地図よりもお薬の方が高いとは思ってなかった。

 高が秘薬だが六番が手に入れるとなると、勇者に渡すのか、それか自国の宝物殿に仕舞っておくはずだ。

 どちらにせよ、宝の持ち腐れとなる未来しか見えない気がする。


「六番さん! 二十二億ノルド出ました! 他にいませんか!?」


 気付けば、キースの吊り上げた金額よりも高い値段となっていたので、このままでは六番が手に入れる事になるだろうが、それならできるだけ吊り上げてやろう。

 

「二十三億」

「ノア殿!?」

「リノ、予知してくれ」

「わ、分かった……」


 単なる嫌がらせに過ぎないが、明日の奴隷を買うためなら予知をフル活用してもらう。


「相手が四十三億まで金を掛ける」

「そうか」


 どれだけ金を掛けるつもりかは分かったが、万能薬一本に金を掛けすぎな気もする。

 ダイガルトなんて、二千万俺に渡して部位欠損を治したため、そこまでして金を掛ける理由には何か意味があるように思えた。

 しかし、そんな事はどうだって良い。

 勇者パーティーを保有している、というのが問題なのだ。

 金額は吊り上がる。

 三十億から、一気に三十三億、四億、そして六、七、八と上がって、四十億、四十一億、四十二億……


「四十二億五千万」


 俺がここまで上げて、そしてスクリーンには俺の番号の上に新しく、四十三億と六番が書かれていた。


「六番さん! 四十三億で落札となりました!!」


 結局は競り落とす事をしない。

 いや、そもそも万能薬なんて作れるし、そこまで需要も無いしな。

 錬金術師の能力があれば蘇生さえも可能なので、秘薬を買うだけの金は無駄なのだ。


「これで良かったのか?」

「……まぁな」


 一番も六番も、俺にとっては邪魔な存在だからな、金を減らせるだけ減らしてもらう。


「だが、あの子供達の……」

「仕方ないだろ。そこまでは面倒見きれん」


 出そうと思えばまだまだ金は出せた。

 しかし根本的な目的は奴隷を買うために、邪魔な相手を蹴落とすというものであって、万能薬エリクサーの購入ではない。

 だから、ギリギリで買うのを止めた。


「さぁ! まだまだ続きますよ!」


 この調子のまま、二日目のオークションも盛大に行われていく。


「はぁ」


 俺は小指を見た。

 餓鬼共とした約束、もう悪い道には走らないように縛りを掛けたが、どう転ぶかは謎だ。

 万能薬を買わない選択を俺は選んだ。

 その罪悪感に苛まれながら、次の品の声を聞き続けていった。






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