第40話 オークション開催
四月十五日、待ちに待ったオークションが今日から三日掛けて開催される。
「楽しみだな、ノア殿」
「そりゃそうだが……何で俺より楽しそうなんだよ?」
「グローリア殿が精霊の鏡があると言ってたのだ!」
それでか。
そういや、グラットポートに来るための船で、エルフ二人から競り落とす品を聞いたのを思い出した。
一つは精霊の秘宝を、もう一つは同胞のエルフを、競り落とすのだと言ってたな。
(精霊の渡り鏡か……再度確認したが、そんなの無かったぞ?)
まさか魔法鏡がそうだというのかと考えるが、実物を見ない事には分からない。
精霊の渡り鏡は異次元を超える鏡であり、魔法鏡は自身の心を映し出すもの、二つの性質はかなり異なっているために、カタログに無かった物が出品されるという情報がそもそもの間違いだと思う。
ま、俺は買う気無い。
買うのはただ一つ、三日目のオークションに出される品だ。
そこで売られる事となってる奴隷の一人を買う、それがオークションでの俺の目的だ。
「そう言えば、ダイト殿はいないのか?」
「あのおっさんはキースの護衛だろ、きっと。俺が調べた情報をキースに渡したからな」
ナトラ商会の闇、影鼠で調べた事についてを赤裸々にキースへと伝えたからな、ホルマリン漬けの人間瓶がある事も教えた。
もし全て知ってるのだとナトラ商会に悟られれば、キースが標的となってしまう。
今でさえモンスターに狙われてるのに、これ以上、火に油注ぐ行為は余計だろう。
「それにキースは招待されてる立場だ。俺達よりも高い場所にいるさ」
来賓室に案内されて、豪華な飯でも食いながら商品を競り落とすのだろう。
このグラットポートの競売に関しては、王族や大貴族とかがお忍びで来る事もあるため、毎回大盛り上がりなのだそうだ。
そして来賓室は幾つもあり、その部屋の位置によって位が決まったりする。
高い位置の部屋なのが、王族や皇族、公爵、侯爵くらいの地位にいる者であり、グレードはロイヤルスイート並らしい。
そんでもって、俺達は下のシート席だ。
「我としては何も買うつもりは無いのだが、ノア殿は奴隷以外で何か買ったりしないのか?」
「う〜ん……今んとこ欲しいのは無いかな。武器は錬成できるし、薬品の類いは自分で調合すれば良いだけだし、大抵は魔法や能力で解決できるから、買わないだろうな」
今日と明日は基本的には冷やかしみたいなものだな。
誰がどの品を買って、どれだけの金を積んだのか、どれだけの経済力があるのか、そういった諸々を確かめるための偵察だ。
たまに金を掛けたりするかもしれないが、買ったりはしない。
もしも間違って買ったとしても、金は無限にある。
いざとなったら錬成して金貨や白金貨を生み出せば良いだけなのだが、誰がどの品を買うかによって状況が変わってくる。
(いらない品に金を掛けるのもリスキーだな)
だが、そのリスクを減らすために、リノの未来予知能力がある。
施術によって広がった魔力回路には膨大な魔力が流れ込んでおり、彼女の予知性能がグンと上がっていたため、それを俺と他の連中に使ってもらう。
自分の未来も少しずつ見えるようになっているそうなのだが、練習が必要らしく、まだ少し曖昧らしい。
ただし、他人の予知が更にハッキリと分かるようになったのは嬉しい誤算だ。
「ノア殿! 早く行こう!」
「ちょっ――引っ張らないでくれ……」
グイグイと引っ張られてしまうため、抵抗できずに彼女に付いていく。
強引だが、楽しみなのは伝わってきた。
楽しい事自体構わないが、予知だけはしっかりしてくれよと思いながら会場前にやってきた。
「おぉ、やはり賑わっているな!」
「スゲェ、屋台メッチャ並んでんじゃん」
会場の入り口付近に多くの屋台が立ち並んでおり、そこで買い物する客も大勢いたため、もうお祭り騒ぎだなと思い、会場入りする。
エントランスは広く造られている。
冒険者には身分違いも甚だしいと思わせるくらいの豪華絢爛さが目に映るが、流石にエントリーする時も来たので目にするのは二度目だ。
しかし、非常にキラキラしてるため、どれだけ金掛けたのかと余計な事に気が向いてしまう。
「楽しみだな!」
「それはさっき聞いた」
エントリーは前日に済ませてあったので、パンフレットと番号の刻まれた機械的なバッジを貰い、武器を預けてから会場のホールへと入る。
多くの座席があるのだが、エントリー順となっている訳ではなく、来た順に好きな場所へと座る事ができるようになっている。
なので適当に座ろうとしたところで、後ろから誰かに背中を押される。
「やっほ〜、ノア」
「グローリアか……おい待て、何処に連れてく気だよ?」
「ん〜? 一緒に座ろうかと思ってね。リノちゃんも」
「うむ」
この二週間でよく仲良くなったものだ。
ちょくちょく会っては市場に遊びに行ったりしてたのを知ってるが、その間に俺はナトラ商会を調べてたので、邪魔されなくて良かったと思っている。
が、しかし二人が仲良くなった事で、予知能力に関する事もバレたらしい。
能力は彼女のものなので、リノ自身が誰かのために使うのなら止めはしない。
「吾輩、待ちくたびれたのであるぞ!」
「よう」
「オズウェルにおチビまで」
「何で俺っちだけ呼び方変なんだよ!?」
「冗談だ」
二人分の席が空けられており、そこに腰を下ろした。
位置的に真ん中くらいではあるのだが、俺の席は通路の真横であり、反対側はリノ、それから挟んでグローリアが座っている。
前にはアトルディア、それからオズウェルが座っているのだが、意外な組み合わせだ。
野郎二人で仲良くしてるとこを見ても誰の得にもなりはしないが、閉鎖的なエルフ達が他の種族と仲良くしているのは不思議なものだ。
「グローリア、一つ聞きたいんだが……」
「うん、何かな?」
「精霊の渡り鏡なんて商品、カタログには無かったが、良いのか?」
「うん、大丈夫」
自信満々な笑みを浮かべていたので、実物を知ってるのか、それか見分ける方法とかがあるのだろう。
「ノアこそ大丈夫なの?」
そう切り返されたのだが、大丈夫とは何の事なんだろうかと疑問に思っていると、ほぼ動かない表情から察したらしい彼女が補足してくる。
「情報を集めたんだけど、その魔狼族の子、入札開始価格が十億なんだって」
「……そんなにすんのか?」
初期価格が十億とは思っておらず、精々、四億くらいかなぁって思ったのだが、その二倍以上もするとはビックリさせられた。
いや、もしくは俺の認識が甘かっただけなのかもしれない。
だがしかし十億スタートという理由は何だろうか?
白い魔狼族だからと言って、彼女は目を失っているらしいのと、希少価値が高くとも十億スタートというのは少し妙だと思ってしまった。
「何で十億もすんだよ?」
「その子、幸運を呼ぶって言われてるの」
「幸運?」
つまり彼女を所有すると運気が上昇すると?
何だか不思議な話だが、グローリアに嘘が一ミリも感じられなかったため、運気上昇というのが本当か、或いは彼女がそう信じ込んでいるだけなのか……
いや、幸運を呼ぶんなら何で彼女は失明したのかと疑問がある。
そもそも幸運能力なんてものが存在するとしたら、彼女は『神子』というものだろう。
何故奴隷に?
(俺とは真逆だな)
神子は幸運能力みたいな凄まじい力を持つ者の事を指しており、逆に呪子は呪詛的なものを身体に宿す者を指す言葉だ。
つまり白い魔狼族として生まれてきた彼女は、神子としての価値や希少性、それから幸運能力を兼ね備えた子である訳で、それで十億スタートという値段が付けられた。
しかも競りに掛けられるという事は、更に値段が跳ね上がる。
俺は、神子でも呪子でもなかった。
彼女が神子ならば、大金叩いてまでして買いたい者は多いだろう。
「幸運って異能の類いなのか?」
「そうらしいね。奴隷商人の人に聞いたの」
マジか、やっぱ彼女は性格からして行動派だったらしい。
現にリノともすぐに意気投合してたし、こういった能力は人の個性によるもので、こうした才能が発揮される分には問題あるまい。
コミュニケーション能力が極めて高いというのは、世渡りが上手いって事だからだ。
が、それは時として危ういもので、それで足を掬われた人間を何人も見てきた。
「奴隷商人って……」
「そ、今回は四人の奴隷商人が出品してるんだけど、そのうちの一人が偶然にも奴隷堕ちした獣人の子を拾って、ここに出す事にしたんだって」
「詳しいな、お前」
「直接聞きに行ったからね」
「オズウェルとか?」
「ううん、一人で、だよ」
奴隷エルフの情報を手に入れるために自らが行動したというところか。
しかしオズウェルがいるから、そんな事をする必要が無いと思うのだが、どうしてそんな無駄な事をしたのかと考えた。
情報屋であるオズウェルならば脳裏に必要な情報が入るはずで、即座にエルフの情報だって手に入れられるはずなのだ。
しかしグローリアは単独行動していたらしい。
「便利な情報屋が近くにいんのに、何でそんな無駄な事したんだよ?」
「う〜ん、私がそうしたかったから、かなぁ?」
彼女は終始笑顔だった。
その思考回路をもう理解できなくなっている。
前ならば理解できたはずなのに、どうして仲間のために無駄な事をするのか、それを理解するという感情を歪に思ってしまう。
いや、感情面を無視するならば理解できよう。
オズウェルの能力を過信せず、話半分に聞いて、その情報が正しいのかを確認するために更に情報を集め続ける。
感情度外視、客観的判断というものだ。
「エルフは仲間意識が強いから、何か行動しなきゃ気が済まなかったんだよね」
「ふ〜ん」
感情で行動するのは結構だが、それだけでエルフが手に入るなら苦労なんざしない。
情報屋の『情報』は、未来には適応されない。
つまり、現在の更新され続けている事柄にしか対応できないという事であり、それは未来予知の劣化版という事と同義だ。
エルフがどれだけの金額で買えるか、という情報はオークションが始まって、その時が来るまでは不明だ。
「買えると良いな、仲間」
「……うん」
誰が何を買うのか、買った後でどうなるのか、それが分かるのは未来のみ。
リノでさえ、無数の未来を選び取る力はあれども、行動次第でどのようにも変化するからこそ、予測するのは難しいだろう。
未来というのは変革し続けるものだ、その変革を与えるためのピースはここに揃っている。
(大分人が集まってきたか……)
グローリアとの会話を終えて、しばらく一人であれこれと考え事をしていると、気付けば多くの人が座席を埋めていた。
視覚や聴覚が強化されているため、周囲の音を敏感に聞き分ける事ができる上、来賓室のガラス越しに見える顔には幾つか見覚えがあった。
何処かの国の貴族、王族、そういった者達が集まっている。
会場が暗くなり、舞台の幕が上がっていく。
三月十五日午前十時、ついに待ちに待った、欲に塗れたオークションが始まる。
「レディースエーンドジェントルメーン!! さぁて! 今回もオークションが始まりましたぁぁ!!」
暗くなった会場を隔てるような明るい舞台、そこに一人の陽気な男がマイク片手に司会を始める。
司会進行役か、あれ?
リノ達よりもテンションが高いな。
サングラス掛けて、タキシード着て、特徴的な金色の蝶ネクタイ……むっちゃダッセぇ。
「まずは、グラットポートのオークションにお集まりいただき、誠に感謝致します」
急に慇懃な様子を見せる司会者、感情の起伏が激しすぎるだろ。
「ではでは! まずはルールの確認から参りましょう!」
また元に戻ったし……
オークションのルールを確認すると言った瞬間、後ろのスクリーンから可愛らしいイラストが映し出された。
基本的なルールが幾つか存在している。
まず一つ目、スクリーンに映し出されたのは、デフォルメされた人が大金を手渡したところであり、その背後からナイフを突き刺そうとしていた場面だった。
ってかナイフ持った奴の顔、メッチャ悪だな。
誰が書いたんだ、あれ?
「まず一つ! 競売に掛けられた品の最高金額を提示した者の闇討ちはご勘弁願います! 人の物を盗ったら犯罪ですからね! 良いですか!? それが発覚した場合は高貴なる身分であったとしても犯罪者となりますから!」
うざったい口調で話しているのだが、確かに人から物盗んだら犯罪だ。
パンフレットにも載っているように、発覚した時点で王族だろうが犯罪者へと成り下がり、冷たい鉄格子の部屋へとぶち込まれてしまう。
しかし、バレなきゃ犯罪じゃない、みたいな考え方をするのが人間だ。
「二つ目! 競売品の落札後はたとえ何があろうとも金は支払ってもらいます! 金が無かった、なんて事になった場合は落札者が奴隷となってしまいますのでご注意くださいね!」
今度は金が払えない場合の首輪を嵌められたイラストが映し出されたが、競売で落札した商品を払えなかった場合は、その人が奴隷堕ちさせられる。
ギルドでは違約金なる制度があり猶予もあったのだが、違約金制度派オークションでは適応されてないため、気を付けねばなるまい。
基本、受け渡し期間は一日から二日となっている。
金を集められなかった時点で終了だ。
ただし、金の貸し借りはOKとなっているそうで、その場合は証明書、つまり契約書を書かなくてはならないのだとか。
要するに手続きは意外と面倒なのだ。
「それに競売品がどんな状態にあろうとも返品はできませんので! そこんとこ注意してくださいね!」
返品ありきだったら、いつまでも売れない物が出てきてしまうだろうし、文句や苦情も絶えない。
そういった責任は自己で背負えと、そう言いたいのだろう。
傷物でも返品できませんよ、と。
「三つ目! 出品者の方々は落札価格に不満があろうと落札された以上、商品を落札者にお渡し願います! 商品の掏り替えや持ち逃げ、そういった事をされた場合は、我々が商品の没収を行い、堕としますので、そうならないようにしてください!」
おっかない言葉が聞こえた気がしたんだが……
それに後ろのスクリーンに映ってるイラスト、掏り替えや持ち逃げを可愛らしく描いて、その上から赤くバッテン印がされている。
粛清するって事だろうが、堕とすって何だよ。
地獄に堕とすって意味か?
「逆に、落札者は競売品を落札した後の受け渡し期間で、落札価格に相当する物々交換は禁じられています! 適当に金の延べ棒とかを渡したりしないでくださいよ!」
過去にそんな奴がいたらしく、それ以来追加された項目なのだとか。
現に、イラストの絵が金の延べ棒渡そうとしているところで、その上から赤くバッテンされてる。
ああいったのも駄目らしく、通貨のみの交換となっているのだそうだ。
「四つ目! この場で暴れた場合、即退場とさせていただきます! 落札できなかったからと言って、周囲に迷惑を掛けた場合はオークションの害と判断します! それは落札者であっても同じです! 加えて落札者の場合は次からの入場を制限した上で、それまでに落札した物も没収させていただきます!」
暴れた瞬間から、落札の所有権を失うといった内容が四つ目に挙げられた。
まぁ、そりゃ当然のルールだ。
映画館内で暴れた奴が追い出されるのと同じ、他人に迷惑を掛けちゃいけません。
「また、恐喝や権力乱用、人質等、そういった事に関しましても同様の対応をさせていただきます。バレないと思ったら大間違いですからね?」
途端に、恐ろしい狂気的な笑みを浮かべたため、迫力満点だった。
何等かの職業を持っている、という事だろう。
「五つ目! 受付で貰ったバッジは胸元にしっかりと付けておいてください! それが無い場合、幾ら賭け金を吊り上げたところで意味を成しません! 勿論、それを奪う事も禁止します!」
このバッジは、賭け金の声に合わせて音声情報が向こうへと届き、スクリーンに番号と金額が提示されるという、優れ物らしい。
しかも胸に付けた事で魔法が発動して所有者の生体情報をスキャンするため、他人が声を上げても反応しないらしいのだ。
このバッジは小さなマイクなのだとか。
(こんな便利な魔導具があるんだな……)
それに監視魔導カメラが何台も設置してあるところを見るに、俺達が変な事をしないかと見張っている。
声に合わせて番号と賭け金がスクリーンに映し出されるのは客にも分かりやすいだろうし、来賓室に案内された者達も大声を張り上げなくとも良いのだ。
こんな魔法的なオークションとは、面白いな。
「六つ目! 以上五つの項目を守れない、もしくは気に食わない、なんて思った方はご自由にご退場くださいませ! 我々は決して止めはしません! ですが一度退場した方は再度入場はできませんので、悪しからず!」
確かに、こんなオークションやってられるか! なんて考えている奴がこんなとこにいつまでもいる方が不自然だろう。
そのためにも、ここから出て行った方が良い。
そして自らの足で出て行ったのに、あ、やっぱ戻ろう、なんて都合の良い話は存在しない。
しかしながら、これは一般客に限った話だ。
出品者、そして落札成功者に関しては、出て行ったらオークションの制度によって処罰が適応されてしまい、無論奴隷堕ちとなる。
逃げたと判断されるからだとか。
「さて最後に一つ、我々オークションの運営に携わる者達は、お客様方の情報を特殊な事情を除いては一切公開しない事をお約束します」
特殊な事情というのは、警邏隊に情報公開を命じられた場合とかだろう。
捜査協力とか以外では情報を公開しないようにする、日常的に誰が○○競り落としたんだ〜、なんて他人に話すボケをしないという事だ。
そんな事されたら、闇討ちされかねない。
それも金額が高かった物程、そういった危険性が増すというものである。
「何がご不明な点がございましたら、パンフレットないし、近くにいるスタッフ達にご質問下さいませ!」
通路に何人かのスタッフが立っていた。
パンフにも簡単にルール説明されてるので、不明なら近くの奴に聞いて自分で対処しろと言ってる。
「では……この三日間、存分に楽しんでいってください! これより、オークション一日目を……開始しまあぁぁぁぁす!!」
元気一杯だな。
基本的ルールの説明は終わったが、細分化すれば、まだ幾つものルールが設定されている。
それは説明しなくても分かるだろ? という意味合いを持っているため、パンフレットに簡単に纏められているのである。
まず大前提として、このオークションは正当なものだ、違法物の売買は禁じられている。
それにオークションそっちのけで何等かの怪しい動きをしていた者、武器の所持が発覚したりした者、そういった者達も即座に退場となる。
『始まったね〜』
「あぁ、そうだな」
ステラが嬉しそうにしながら、精霊紋から出て頭の上に腰を下ろした。
ルールとして、職業の力を使ってはならない、それは暴力に繋がるからだ。
しかしステラが勝手に外へと出てきたのだが、これって大丈夫だよな?
精霊使いだと思われてないよな?
いや、武器を預かってもらったのだ、大丈夫だと信じるとしよう。
「まず第一品目! 霊峰より伝わりし万年雪の秘宝! 『氷雪の大宝珠』です! 入札開始価格は五十万ノルドです!」
綺麗な雪結晶の形をした大きなブローチのように見える。
美しいものだが、カタログには装備した者に耐寒を付与する魔法のアイテムだと書かれていたな。
まぁ、全然いらないものなので、他の様子を窺う。
「六十万!」
「六十五万だ!」
「七十万!」
「八十万ノルド!」
「八十五万!」
どんどんと金額が吊り上げられていくが、あの宝珠にはそれだけの価値しか無いらしい。
どれだけの価値があるのかは知らない。
魔眼を通して見たが、残念ながらそこまでの能力は持ち合わせていないようだった。
「八十五万ノルド! 百九十番! 落札です!」
その金額で落札されたが、吊り上げられた金額は三十五万ノルドだ。
出品者からしたら大した儲けにはならないんじゃ無かろうか?
「続いて第二品目です! 今度は、砂漠のとある遺跡で見つかった『ザインの黄金杯』! 入札開始価格は七百万ノルドとなります!」
入札価格は出品者が決めているが、それは何も適当ではない。
ちゃんとした鑑定士の元で査定を受けてから、品が売られてくるため、あれが妥当な値段を少し下回る金額なのだろう。
オークションでより高く売るためのコツは、相場より少し低い値段にしてから競売に掛ける事らしい。
人が買いたくなるようなギリギリの金額を提示して、その上で競争させるというのが、オークションのコツだと誰かから聞いた記憶がある。
「千二百万ノルド! 二十六番! 落札です!」
落札の声が聞こえてくる。
次々と商品が競売に掛けられ、大小あれども盛り上がりは凄まじい。
人の声が響く、人の感情が言葉に現れる。
その熱狂渦巻く会場で、俺はただ一人、冷めた目で競売を眺めていった。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
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