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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第二章【財宝都市編】
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第38話 魔力操作の基本と応用

 キースに、三人の子供を預けた。

 リヒト、エリック、そしてハンナ、彼等には明るい未来が待っている。

 しかし、その未来のためには俺がしっかりと依頼を受けなければならないので、四月三日〜十四日まではキースの依頼を受ける。


「『闇這う影鼠クリーピング・シャドウメルク』」


 大量の黒くて小さな鼠が影の中から溢れ出てくる。

 その影鼠の特徴は、感覚は自分と共有しており、窓や壁といった障害物さえも透過する便利な駒だ。

 その鼠の視覚、それから聴覚が俺とリンクしているために、諜報には便利であるが一匹では戦闘力は皆無に等しいので、使い方次第という訳だ。


「凄いな……影魔法、だったか?」

「その上位互換だ。絶影魔法って言うんだ」


 現在は、部屋でリノと魔力操作の訓練を開始しようと思ってたところだ。

 しかし、さっき鼠を見せた事で興味があったらしい彼女の要望に応えて、実演を交えて同時にナトラ商会へと放ったのだ。


「この魔法は鎖を錬成してる時に閃いた魔法だ。数多くの鎖が自由に動けばなぁって思って創った」

「そ、そうなのか……それにしても相変わらず人助けか、ノア殿」

「まぁ、な」


 全くの無関係なら良かったんだが、そうでもない。

 孤児院の子供だって言ってたし、嘘を吐いてないのも魔眼を通して知ったので、手を貸した。


「さて、それじゃあ、魔力操作の基礎訓練を始めるとしようか」

「よ、よろしく頼む!」


 リノは船酔いが酷かったせいで、船上での魔力操作訓練ができなかった。

 なので、到着した今日から始める事になった。

 そして彼女の魔力操作はハッキリ言って下手くそすぎるので、よく今まで生きてこられたなと驚いてるし、不思議でもある。


(やはり精霊剣か……)


 彼女の腰に帯剣している精霊剣により、精霊の血が呼応するように精霊術を使う事ができるようだったが、その彼女の母である精霊剣が光らなくなった。

 まだ生きてるが、その生命力がどんどんと微弱になってるのを魔力で感じ取れる。

 霊魂はそこに存在してるが、それに干渉する事ができないため、何もできない。


(せめてクローン体でも作れれば良いんだがなぁ)


 素材が手元に無い。

 彼女の細胞を培養しても良いんだが、それだと彼女と同じ身体ができあがってしまうので、瓜二つの双子みたいになってしまうので、彼女の母の細胞が無ければ作り出せない。

 どうしようも無い。


「さて、まず魔力についての簡単な説明から始めよう」


 魔力とは、人の丹田に存在する魔法の媒体であり、魔法実行の上での力の大きさを示す一種のエネルギーと定義付けられている。

 基本的には魔法のために使われる力ではあるのだが、魔力には色んな使い道が存在している。


「魔力の使い道としては、攻撃型、防御型、強化型、探知型、万象型、念力型、そして支配型の基本七種類ある」

「それぞれどう違うのだ?」

「最初の四つはそのまんまの意味だ。万象型は魔力の物質形成、念力型は魔力を念力体として使う物体浮遊や万有引力、支配型は魔力を放出して場を支配する」


 それぞれに使い方があるのだが、組み合わせる事でより強力な魔力操作が可能となる。


「魔力による遠隔攻撃とかはどの系統なのだ?」

「それは確か万象型と念力型の組み合わせのはずだ」


 俺も完璧に把握している訳ではないし、系統外の使い方もあるため、最初は簡単な制御だけを教えておく。


「最初は魔力を感じるところからだな。魔力は丹田辺りに『魔力袋』として存在し、そこから魔力が創られている。まずはそれを感じてみろ」

「う、うむ……」


 彼女は精神を集中させていき、体内の魔力袋を感知しようとする。

 しかし、最初に上手くできるかは本人の才能の有無に関わるので、五分間は何もしない。

 俺の時は始めてから二分近くで魔力を感じられたが、残念ながら保有魔力量があまりにも少なすぎたので普通の訓練はできなかった。

 普通の方法も習ってるのだが、俺には俺のやり方があるため、効率良く彼女へと教えていく。


(五分は流石に無理か……)


 だが、才能が無くとも一点を極めれば強くなれるのは確かだ。

 五分間、もしも何も感じなければ俺が補助する。

 その補助によってならば、幾ら下手くそでも魔力を感じ取れるし、俺の補助ありでならば操る事は可能だ。

 謂わば自転車の補助輪のようなもの、いずれは自分一人で漕げるようになり、そして立ち漕ぎへと成長していくだろう。


(こっちはこっちで感覚をリンクさせるか)


 偵察に向かわせた数十匹の影鼠と視覚を共有させて、俺は目を閉じた。


(ここがナトラ商会か)


 瞼の裏に見えるのは、大きな屋敷だった。

 成り上がりの商会としては、少々金を掛けすぎてるように思えるのだが、もしかしたら何か闇商売に手を染めているかもしれない。

 屋敷の窓や穴の空いた場所から侵入していき、内部の探索を開始する。


「……」


 座禅を組み、精神を遠くの影へと向け、視覚をよりクリアにしていく。

 リンクさせているとは言っても鼠を仲介して景色を見ているので、魔法による視覚的な洗脳とかは効かないので、たとえ記憶消去のモンスターがいても大丈夫なはずだ。

 それに影を遠隔操作しているため、いざとなったら解除してしまえば何の実害にもならない。


(絶影魔法、ホント便利だな)


 流石は暗黒龍ゼアンの固有魔法、一度奴と影魔法同士で戦ってみたいものだ。

 それだと勝敗が着かないか。

 そんな事を考えているうちに影鼠がどんどんと中へと入っていき、人を避ける形で天井に張り付いたり、物陰に隠れたり、ポジションを見つけてスタンバイしていた。


「ノア殿……できない、魔力を感じ取れないぞ」

「あ」


 彼女に揺さぶられた事で、意識が一瞬ブレてしまった。

 気が付けば五分が経過しており、タイムリミットまでに魔力を感じ取れなかったらしいリノへと意識を割く。


「なら今度は俺が干渉する。ちょっと腹出せ」

「なっ!? せ、セクハラか?」

「変な勘繰りしてんじゃねぇよ。俺が魔力使って、丹田にある魔力袋へと干渉するんだ」


 それに他人の腹になんて興味無いし、訓練のためにセクハラなんて馬鹿な事はしない。

 それに服脱げ、なんて言ってないしな。

 だから全部の服を脱ごうとすんな、マジで。


「臍出すだけで良い。素肌の上からの方が操作しやすいからな」


 魔力回路は繊細である。

 魔力回路を循環させたり、使われていない魔力門を開いたり、逆に魔力を閉じたり、服の上からだとブレたりして失敗する可能性がある。

 だから、念の為に丹田辺りへと直接肌で触れられるようにしてもらう。


「恥ずかしいだろうが我慢してくれ」

「う、うむ……」


 顔から火が出たかのような紅潮の仕方だが、女性にとっては恥ずかしいものだろう。

 男の俺からしたら腹を出したところで恥ずかしさの欠片も持たないだろうが、俺とリノでは考え方が違うので、彼女の意を汲んで早めに終わらせる。

 魔力を操って、リノの丹田へと流し込んでいく。

 魔力は情報体、普通の者同士なら少量の魔力だけで痛みを覚える。


(無属性で良かった)


 普通の方法ならば、魔力に干渉せずに自力で動かせるように言葉で説明するか、何かしらの魔導具を使ってでの訓練となる。

 しかし、俺ならば魔力を送っても痛みは発生しない。

 だから干渉による効率的指導ができる。

 言葉よりも身体で覚えさせた方が、より速く、そしてより強く魔力を操れるはずだ。


「んっ……ゃ…はぅ……」


 赤面してる上に、何故か色っぽい声を出している。

 多分擽ったいのだと思うが、表情も声も、何だか普段よりも大人びているように見える。

 だからと言って彼女に手を出すつもりも無い訳で、ただただ悶々とする。


「おい、意識を集中させろ」

「それは分かっているのだが……く、擽ったくて――ひゃん!?」


 普段クールっぽい感じのリノから、有り得ない程に可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。

 あ、今にも泣き出しそうだ。

 聞こえてないフリでもしておこう。


「で、感じ取れたか?」

「何だか腹の辺りが温かい。これが魔力、か……」

「あぁ、リノの魔力量はかなり大きいが、少しずつ操作できるように慣らしていこう」


 元の魔力量が多いと操作が難しくて、下手なまま成長してしまう事もある。

 本来ならば幼少期の頃から手解きを受けるべきだったのだが、父が死に、母が剣となってしまったのならば下手なのにも納得する。

 いや、ちょっと待て。

 コイツ……いつ一人になったんだ?


(聞くのは野暮、か……)


 止めておこう。

 それに、子供の頃に習えなかったから今後も魔力操作は下手なまま、とはならない。

 キチンと鍛錬を積めば、色んな事ができるだろう。

 そう思い、丹田から手を離してやり、指示を出す。


「感じ取れたな? なら、次はその魔力を動かしてみろ」

「コツとかは無いのか?」

「コツ……コツ、ねぇ。こればっかりは正直イメージ次第だからなぁ」


 魔力を塊として意識するか、魔力回路を流れる血としてイメージするか、そこは彼女の感覚と合致するようにイメージすべきだ。


「まずは指先に魔力を集めるところから、だな。よく見てろよ」

「……おぉ、指先に魔力が集まってるな」


 可視化できるくらい指先へと魔力を集めて、彼女へと手本として見せた。

 試してみたいと思ったようで、人差し指を立ててジッと見つめていた。


(流石にすぐには無理か……ん?)


 そう思って魔眼を通して見てみたが、意外な結果がそこには映し出されていた。

 彼女の身体を通う魔力は魔族由来のものであり、その密度の高い魔力が一気に動こうとしているため、魔力回路の所々で詰まっている。

 本来なら種族的な回路形成が為されるので、こういった弊害は起こらないはずが、目の前で起こっている。

 更に彼女の魔力回路は矯正されてる箇所が幾つも見受けられる。

 魔力を動かしてるからこそ気付けた。


「お、おいリノ……お前誰かに矯正されたり、或いは怪我した時に魔力回路が切れたりした事とかは?」

「む? そういえば、一度だけ父上とモンスター退治に出た時、魔法を使おうとして暴発した事があった。それ以来だったか、魔法が使えなくなったのは」


 つまり、魔族である父が魔力回路を捻じ曲げたという事なのだろう。

 魔力袋から出る魔力量と、指先に集まる魔力量、その二つに釣り合いが取れてない。

 微量ならば問題無かった。

 そうではなく、目を凝らしてよく見てみると、まるで計算されたかのように魔力門が塞がれてたり、彼女が魔法を使えないように工夫されて弄られている。


(子供の時にすでに、これだけの魔力があったって事だろう)


 身体の成長に合わせて、少しずつ門を開いていくつもりだったのだろうが、それができなくなってしまった事で、こうした弊害が生まれている。

 元々、彼女には魔力操作技術があったはずだ。

 しかし父親が、彼女の魔力量を危険だと判断して、封印した。

 それならば納得行くな。


「リノ、恐らくお前の父親は、お前を守るために魔力回路を弄った。そのせいで魔力を操作できなくしてる」

「それは……どうやら本当のようだな」


 魔力回路がキチンと作用していない。

 だから魔法が使えず、精霊術を使っていたのだろう。

 彼女が魔法を使うところは見ていないし、精霊術のみでやってきたとなると、もしも解放したらどうなるかは俺にも想像できない。

 彼女には未来予知能力があったが、自分の未来を見れない理由も多分そこにあるだろう。

 魔力を操れないせいで、こうした不具合を起こしているという事だ。


「訓練始める前に気付けば良かったんだが……とにかく、今からリノの体内の魔力を矯正し直す。魔力回路が正常に働かないと魔力操作もままならん」

「な、なら我はどうしたら?」


 自分の口からあまり言いたくはないのだが、それでも言うしかあるまい。

 咳払いしてから俺は恥ずかしさを堪えて言葉にした。


「丹田辺りが一番問題だから下着だけか、できれば全裸が最も良いんだが……」

「ふ、服を着ていては駄目、なのか?」

「布一枚隔てるだけで矯正点がズレる可能性が高い。最悪、二度と魔力を使えなくなるぞ」


 明らかな弱体化となってしまう。

 直接的な錬成ならば、と考えたが、人体にどのような影響を与えるのかは試した事が無いから予測不能だ。

 動物相手に何度も試したので成功させられるが、それでも絶対ではない。


「わ、分かった。む、向こう、向いててくれ」

「……悪いな、ホント」

「精霊界に行くためなら、構わない……」


 他人に自分の裸を見せるというのは、種族によっては婚礼を意味するものだったはずだが、少なくとも人、精霊、そして魔族にはそんな風習は無かった。

 そんな下らない事を考えていると、布が擦れる音が聞こえてきた。

 シチュエーション的にはドキドキするイベントなのだろうが、何故か心がときめかない。


(まぁ、シーラやケイティも普通に水浴びしてたし、孤児院じゃあ、緊張とか言ってられんしな)


 勇者パーティー時代、日帰りできないクエストとかでは水浴びしたりしてたのだが、よく勇者アルバートが覗きに行くのを捕まえて、連れ戻してたものだ。

 そしてラッキースケベのように、二人の裸体を見たりしたのだが、胸が無いために嬉しい気持ちはそこまで無かったな。

 それに環境からなのか、緊張とかはしていない。

 孤児院とかでは風呂なんて無かったし、厳しいとこでは鞭打ちとかもあったもんだから、身体を拭いたりする時も気にする余裕さえ無かったものだ。


「じ、準備……できた、ぞ?」


 振り返っても良いと判断して、俺は彼女の方を向いた。

 そこには衣を纏ってない、ほぼ生まれたままの彼女の姿があった。

 白磁色の素肌に、スラッとした体躯、括れた腰、大きく張りのある胸部、少し熱を帯びた頬、潤んだ瞳、彼女を構成するパーツ全てが美しい。

 ショーツだけは身に付けていたが、丹田辺りと心臓部の魔力回路が閉じてるから、まぁ大丈夫だろう。


(しかし……綺麗な身体だな)


 俺のような傷だらけの身体とは違い、傷らしき傷は全く無く、見惚れる程だ。

 普通の男ならば即座に狼となっていた事だろう。

 だが好きでもない相手の身体に対して、欲情は湧いてこない。


「さて、ベッドにうつ伏せになってくれ」


 そう指示を出したのだが、何故か固まったまま動こうとしない。

 何か気になる事でもあるようだ。


「どうした?」

「いや、ノア殿は、その……何とも思わない、のか?」


 急に何を言い出すのかと思えば、そんな事か。

 何を考えてるかは知らないが、速く移動してベッドに寝そべってもらいたいものだ。


「表情一つ変えてないし、少しは自信あったのだが……」

「自信?」

「な、何でもない!」


 取り敢えずはベッドに寝そべってくれた。


「今から閉じてる魔力門を開くと同時に、狭まってる箇所や途切れてる箇所の修復作業にあたる。お前は何もせず、寝てろ」

「わ、分かった」


 魔力矯正に関して、俺としても初めての行いだが、魔力が何処をどう流れていて、どうすれば魔力が行き渡るか、それを延々と師匠ラナに教えてもらったので、やり方は分かっている。

 まずは、彼女の首筋に電撃。

 神経を一時的に遮断しておくが、これは単純に刺激を誤認させただけなので、後で戻せる。


(やはり丹田辺りが集中してるな)


 弄られたところが何箇所もあるのに対して、これは魔眼無しだと気付かないだろうし、この魔眼でも目を凝らさないと見れない。

 目だけでは不安なので、同時に魔力探知を一点に集中させた。

 コイツの父親は何者だ?

 俺と同じ、或いは更に上の次元の魔力制御術だ。

 そう考え、俺は魔力の間接点、つまり魔力神経が集まる箇所へと錬成した超極細の針を突き刺していく。


(落ち着け、大丈夫だ……俺ならできる)


 突き刺した針を通し、魔力回路へと直接魔力で触って修復していく。

 そこに錬成を加えていき、少しずつ魔力回路を本来の位置に戻していくが、意識を集中させていく過程で、物凄い集中力と応用技術を要求される。

 繊細な魔力操作技術が無ければ為し得ないもので、魔力の探知で魔力回路をより正確に見つけ、それから念力と支配を同時に使っていき、魔力回路を矯正していく。

 一度頭を空っぽにして、息を整え、汗を拭って作業を続行する。


「……すぅ……」


 少しして、寝息が聞こえてきた。

 さっきまで恥じらってたのに、どうやら眠ってしまったらしい。

 肝が据わってる。

 将来大物になれるな、きっと。

 本当ならば仰向けになってもらいたいところだが、錬成して針を伸ばしていき、神経を傷付けないようにして対応していく。

 臨機応変に、形を変えて、より正確に……


「……よし、次だ」


 綺麗に魔力が流れ始めていた。

 しかし、一つ目の箇所を癒すのに気付けば十数分が経過していた。

 針が刺さってるのは全部で二十箇所以上、これを全て治すとなると骨が折れるが、彼女は恥じらいながらも覚悟を決めていた。

 俺も腹を括って作業にあたるとしよう。

 雑念を全て振り払い、錬金術師としての技量を彼女へと注ぎ込んだ。





 約四時間が経過し、リノの体内を流れる魔力に異常は見られなくなった。

 魔力袋から流れている魔力も多く、開いた魔力門に流れていく魔力によって、彼女の身体は現在活性化されている状態だ。

 しばらくすれば活性化も治まる。

 これで魔力操作はしやすくなったはずだ。


「ふぅ……やっと終わった」


 まるで何日も時が流れたかような感覚が手に残った。

 彼女に毛布を被せてやり、俺は近くの椅子に腰を下ろしていたが、流石に精神的に疲労している。

 かなりキツい作業だった。


『お疲れ、ノア』

「あぁ……」


 右手甲に刻まれた精霊紋から、淡い光を纏った精霊ステラが出てきた。


「何か用事か?」

『ステラ、市場見にいきたい!』

「いや、疲れてんのに無茶言うなよ」


 確かに俺も市場を見に行きたい気持ちはあるのだが、そんな事をする体力は持ち合わせていないし、ここでリノを放置していくのは何かと不味い気がする。

 しかしステラが駄々を捏ね始めると手が付けられないので、俺は体内に意識を回した。

 暗黒龍の超回復が発現し、徐々に体力が回復していくのを感じる。

 体内で莫大なエネルギーが生まれている。


「市場で何か欲しいのがあんのか?」

『う〜ん……分かんない』

「そ、そうか」


 やっぱステラが何考えてるのか俺にはサッパリ分からなかった。

 まぁ、ここに監視の目を置いておけば外へと出られるなと思ったが、自分が現在ナトラ商会を監視している事について頭から抜けていた。

 魔法の並列起動マルチキャストなんて高等技術、俺にはまだ無理。

 なので魔法に干渉して、更に一匹の小鼠を影から生み出して彼女の保護に回す。


(せめて二つか三つは同時発動させたいな……)


 もし魔天楼が襲ってきても良いように、もっと強くなりたいものだ。

 今のままでは負ける。

 そのならないために、更に魔法の知識を身に付ける必要がある。


「はぁ……」

『どうしたの?』

「いや、これ程までに自分が無力だったんだな、ってな」


 魔法に関しては、魔導師よりも断然素人だし、知識としては知っていても経験が浅い。

 普通の魔法が使えないのは別に良いとして固有魔法についての見聞を広めたいが、そういった知り合いとかはいないので、これに関しては保留だな。

 小鼠をこちらへと歩かせて、掌へと収める。

 まるで意思を持っているかのような動きや仕草だが、これはイメージが反映した結果だ。


『ノアの魔法、便利だよ?』

「あぁ、だがなぁ……まだ、俺は完璧に扱い切れてない」


 前に見た文献にはこう書いてあった。


「『影を操りし魔法、それは全てを喰らい、全てを糧とするものであり、光さえも見えず、果ても無く、闇に包まれていく。深淵覗きし時、全てを超越する』ってな」

『ふ、ふ〜ん』

「分かってないな。まぁ、良い、つまり俺はまだまだって事だ」


 俺はまだ自分の力を百(パーセント)発揮できてないため、精進あるのみだ。

 しかし、人前ではなるべく影の魔法は使わないように気を付けねばならないので、面倒だ。

 変な宗教に捕まりかねない。


「さて、そろそろ行くか」

『うん!』


 小鼠を自律稼働させておき、嬉しそうに飛び回る彼女を連れて部屋を後にする。

 一匹の小鼠だけがその場に残る。

 リノを静かに見守る事となった黒い鼠だが、その白い瞳が見守る中でリノは心地良さそうな表情をして眠りに着いていた。


(しばらく寝かしとくか)


 共有していた感覚を切った俺はステラと二人、活気溢れる街中へ、物見遊山へと出掛けていった。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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