第4話 旅立ち
それはいつもの日常、退屈が消える日の最初の光景の一端だとは、誰も思わないだろう。
朝日が昇り、洞穴へと光が入ってくる。
差し込んだ光は、その洞穴内を照らして、暖かな陽光が明るく部屋を彩った。
この洞穴の前で暗黒龍と出会ったのだが、目を閉じれば昨日の出来事のように思い出せる、もう一年前の話で、あれから毎日が森での活動だった。
強いモンスターと戦って、自分の錬金術師の能力を何処まで使えるかを試して、強くなるために鍛え上げて、俺は何度も何度も奥地へと挑み続けた。
ここは普通じゃない。
異常の森、そう呼べると思う。
何故か、普通の魔虫でさえ巨大化して気色悪いフォルムが飛んでくるからだ。
その森での生活も、早一年が経過しようとしていた。
太陽光が洞穴内への侵入に成功し、それが寝ていた自分の顔に当たったので、意識は夢の中から浮上して、途端に夢の内容を忘れてしまった。
「ふぁ……」
生理現象が出てくるが、こればかりは仕方ない。
無理に抑える方が身体に害だ。
目尻に涙を溜め、それを拭ったところで視界の真ん中に、可愛らしい妖精が浮いていた。
一年前に契約を果たした精霊、ステラだ。
『眠そうね』
欠伸を漏らしていると、精霊紋から出てきていたステラが周囲をフワフワと飛んでいた。
鱗粉を撒き散らして、嚔も出そうだ。
通常サイズではなく掌サイズで出てきたのだが、これは通常よりも消費する魔力を抑えているのだそうで、現世に顕現するためには俺の魔力を借りている状態なのだとか、減った感覚が無いので回復速度の方が、間借りする魔力量より早く回復するようだ。
契約する前は自然界の魔力を吸収してたそうだが、今は俺が契約者なので俺の魔力で顕現できている。
精霊の生態はよく分からん。
彼女が出てきているというのは、実は俺が召喚している状態になってるそうで、だから勝手に俺の魔力を使って顕現しているが、それを俺は咎めたりしない。
咎めても無駄だと分かってるから。
「……あの日から丁度一年だな」
『そうね。そろそろ良いんじゃない?』
「そうだな。ここではもう成長限界を感じてたとこだし、外に出るのにも丁度良い機会かもな」
ここに飛ばされてから丁度一年経過したため、鍛えるのはもう充分だろう。
最近では職業能力にも成長限界を感じていた。
自分の能力把握も終了しているし、能力を扱うための時間も多く取ったつもりなので、そろそろ森から出て旅でもしようかと思っていた。
世界情勢とかは基本入ってきてないので、勇者達がどうなってるとかの現状は知らないし、もしかしたら魔王も倒されてるかもしれないので、楽に旅ができそうだ。
『ねぇ、本当に復讐しないの?』
「しないって何度も言ってるだろ」
ステラには俺の話を親身に聞いてくれて、そして泣いて怒ってくれたからこそ多少気持ちも楽にはなったし、本当に感謝しているのだ。
しかしながら、今では彼女に話したのは間違いだったのではないかと思っている、毎日復讐復讐言って何故か唆してくるからだ。
催眠暗示に掛けるつもりなのか。
それとも適当に言ってるだけなのか。
やはりステラの考えは、俺には理解できない埒外にあるようだ。
「俺のために言ってくれてるのは嬉しいが、別に関わるつもりは無いぞ」
『……そう』
シュンとして俯いてしまったのだが、本当に素直で俺の身を案じ、思案を巡らせてくれているのだと、彼女の様子から大体は察せる。
俺の左目に持つ魔眼、片方は相手の感情や性質、そういったものを見抜く能力を持っているのだが、名前は一切分からないので勝手に『心晶眼』と呼んでいる。
なので、彼女の感情が綺麗に蒼色の魔眼に映し出されているのだ。
もしも俺を殺そうとするのならば魔眼で分かるし、容赦せずに相手の命を奪う腹積もりでいる。
勇者を殺す覚悟くらいできている。
「ありがとな」
『うん』
彼女の頭を撫でながら今日の予定をどうするか、方針を練っていく。
ここのモンスターの種類からして、自分がランダム転移させられたのは『魔境』という、超危険な森なのだと推測しているので、魔境周辺のマップを脳内に広げて何処に行くべきかを考えた。
北に行けば大きな都市が、南に行けば海が、東方面には小さな街が、西には確か大きな山脈があったはずだ。
「話は変わるんだが、ステラは何処か行きたい場所とかってあるか?」
『ステラの直感で良いなら、都市に行きたい!!』
魔境より北にある大きな都市の名前は確か『ガルクブール』、北東に行けばガルクブールへと行ける街道に出ると思うので、そこへと出るのが一番安全なはずだ。
魔境とガルクブールの間には大きな運河があるので通るならば街道だが、橋を通るためには身分証明書が必要となるだろう。
それが無かった場合、銀貨一枚支払う必要性が出てくる。
この世界の通貨単位は『ノルド』、銀貨一枚で一万ノルドとなり、日本換算で一万円くらいだ。
都市を通る度に一万円を損失していくのは、勿体無い。
だから当面の目的としては、身分証明書を取得する方向で行く、というのも有りだ。
『ノアは何処か行きたいとこ、あるの?』
「行きたい場所か……あ、俺、米食いたい」
『こめ?』
一年間米を食わずに肉や魚、野菜だけを食ってると無性に米が食いたくなってしまう。
元日本人として絶対に異世界で米を食ってやると決めているので、旅の目的に選んでも良さそうなくらいだ。
有り余る力を授かったので今まで行けなかった場所にも行けるだろうし、戦闘になったところで相手に負ける要素は何処にも無い。
錬金術師の能力は非常に便利だ。
神様に授かった、というのは俄かには信じ難いが、きっと本当なのだろう。
ただ、ウォルニスの人格ならともかく、俺自身神様を信仰してないので、この能力を自由に使わせてもらう。
「米は『メレーノ獣王国』で食えるらしいが、そこに行くまでは危険だな。まぁ、俺なら簡単だろうけど」
『自信満々ね』
「とは言っても、油断一つで死んじまうからこそ、信頼できる仲間が必要だ」
自分の魔眼があれば信頼できる仲間を作るのは容易いのだが、そんな事せずとも一番簡単な方法で仲間を増やす方法があるのだ。
それが、奴隷売買だ。
自分の強さを誇示するつもりは無いので、隠れ蓑的な意味合いで戦闘奴隷が最低でも一人は欲しいところだ。
奴隷には幾つか種類があるそうなのだが、勇者パーティー時代では奴隷には関心も無かったし勉強もしてなかったので、どんなのが良いのかは魔眼次第となる。
しかしながら、奴隷制度は前世には無かった。
当たり前だ、過去に廃止された奴隷制度が現代で横行していたら、それこそ一大事となる。
だが、この世界では普通に奴隷制度があるらしい。
『仲間? どんなの?』
「望むんなら前衛が欲しいな。ある程度の強さを持ってるのが良いんだが、身体能力の高い獣人、或いは亜人種を買うつもりだ」
人族を買ったところで身体能力は他の種族に比べると、低いのは見るまでもない。
獣人ならば発達した五感に鋭い勘、獣の身体能力があるために一番は獣人種が優良物件となっているが、他の種族の奴隷でも構わない。
戦闘さえできれば、基本何でも。
他にも使い道もあるし。
「それに、錬金術の実験台にもなってくれそうだしな。まだまだ錬金術師って職業には謎も多いからな。自分がどれだけできるのかを調べるためにも奴隷は必須だ」
『結局それなのね……』
「あぁ、流石に魔境のモンスターや自分を実験台にしてきたが、限界も近いしな」
『まぁ、ステラも近くで見てきたけど、一年の間に随分と身体も傷だらけになっちゃってるし、それには普通に賛成だけどさぁ……』
「何を言いたいのかは分かる。そこまで非人道的な実験はしねぇよ」
ステラの言動は時々チグハグしていて、俺も彼女がたまに何考えてるか分からない時がある。
俺に復讐しないのかと聞いてくるのに、他人には非人道的な事をしないでほしいと言ったりしているので、本当に精霊というのは不思議な生き物だ。
そもそも身体が魔力で形成されているから食事も必要無いし、睡眠も本来は必要無いとの事で、俺が寝ている間はずっと精霊紋の中で半睡眠状態だと教えてくれた。
『さ、とにかく朝食食べて、準備して、早く都市に行きましょうよ!!』
「分かった分かった」
目を輝かせてるステラに髪を引っ張られ、背中を押されて、顔を洗いに外へと出た。
今は洞穴を錬金術で改築して住みやすいようにしたのだが、元々は暗黒龍が休息のために使用していた場所だったようで、色んな物品も置かれていた。
結構乱雑に放置されている。
龍の本能なのか、宝石類やら何やらを貯めたりしているのは本当だったし、それを残していったというのはもしかして俺に託してくれたのか?
なんて思ったりして、有り難く使わせてもらおうと、現在は全部影に仕舞ってある。
服に関してはサイズが合わなかったので、魔導具類となる衣服やローブ、靴、着れる衣類を身に纏って、逆に昔の服は全て燃やして処分してある。
外へと出た俺は朝日を全身に浴びて、深呼吸してから精霊術で水を生み出して顔を洗っていく。
「ふぅ」
温かなお湯よりも冷水の方が脳を覚醒させるのが一番なので、これも毎日の日課となってしまった。
冷たい水が、顔や髪を濡らしていく。
次第に朦朧としていた意識も覚醒し、ようやく朝の空気に慣れた。
昔よりも多くの魔力と精霊力があるので風呂を作ったり家を建てたりも簡単だったが、この力の使い所は気を付ける必要がある。
一年の間に錬金術、魔力操作、精霊術、その三つを中心にして鍛え続けてきたので、もう誰も近付こうとしない魔境のモンスターでさえ簡単に屠れてしまう。
影の中には大量の討伐部位があり、それを売れば一生分の金を稼げると思うので、自分のために使う素材以外は全てガルクブールの冒険者ギルドへと売るのも有りだ。
そんな計画を考えている間にも、ステラは空を泳ぎながら退屈そうにしてたので、せっかちな彼女のためにすぐに身支度を整える。
朝食は走りながら取れば良いので、先に準備を済ませれば後は森を出ていくだけだ。
今日で森を去る、そう思うと何だか名残惜しい。
住めば都、とはよく言ったものだ。
最初は訳も分からず生きるか死ぬかのサバイバルだったのだが、次第に状況を飲み込めてきて、錬成能力が飛躍的に上昇したから、外での活動も前回よりは大分マシになったと言える。
それに、両目が黒から蒼色に変わったのが、一番の変化だと思う。
『それ、まだ使うの?』
「あぁ、親父が苦労して買ってくれたもんだからな」
ボロボロとなっているバックパックを掴んだところで、彼女が顔を近付けてきて、彼女の言葉によって俺は暫し追憶に浸った。
手を動かしながら、昔を懐かしむ。
勇者パーティーに入れてもらう前だったか、旅に出ると言った俺を止めずに親父が貯めていた金をはたいて買ってくれたものだ。
謂わば思い出の品なのだが、このツギハギだらけのバックパックは多くの荷物を入れられるような大きな作りではないので、あんまり入れられない。
それでもそこにポーションや着替え等の必要な物を入れておき、必要の無い物や入らないのは影に任せて、それを背負って洞穴の外へと出た。
出迎えたのは、燦然と輝く太陽の灯火。
まるで俺達の旅立ちの門出を祝福してくれている、そんな気さえしていた。
「……っはぁ、今日は冒険日和だな」
『うん!』
身体を伸ばし空を見上げてみると、鳥の軍勢が自由に大空を羽ばたいて、その鳥の群れが何処かへと旅立っていくのを目にした。
風に乗って何処へでも向かって行ける鳥達は、綺麗に列を成して自由の翼を広げて、水色に塗り潰した空の下を悠々と翔けてゆく。
『綺麗な鳥だったね』
「だな」
高く飛んでいるせいで、何の品種の鳥かは流石の俺でもよく見えなかったのだが、あの鳥のように俺達も外の世界へと羽撃いていくとしよう。
自由を求めて、翼を広げる時が訪れた。
洞穴を錬成して出入り口を閉じておき、完全に出口が塞がったところで、憂いを断ち、出発する。
「じゃ、行くか」
『うん!!』
一人と一匹の大冒険の幕が上がる。
それは言うなれば、高揚。
遠足を楽しみにする子供が、前日の夜に中々眠れずにいるような心境が、俺と、同じくステラの二人には確かに存在していた。
心音が高鳴っていく。
きっと、この一歩が運命を変えていく。
ステラは小さくなって、俺の頭上へと降り立った。
この位置が好きなようなので、特に文句も言わず、俺達は二人揃って森の出口へと動き始めた。
魔境には多くのモンスターが存在している。
特に多いのは獣系統、例えば狼だったり、虎だったり、熊だったり、とにかく獰猛なモンスター達が森の何処かで生息しており、数多くのSランク冒険者達を屠ってきた禍々しき森である。
普通の動物とかだったら驚きはしないだろう、しかし驚愕な生態系がここにはあった。
ドシンドシンと、普通の動物が発する音ではない。
何かが前方より接近してくる。
木々を薙ぎ倒し、出口へと行かせまいと、その音が次第に大きく震動する。
『ノア!!』
「あぁ、分かってる」
前方より数十メートル先から大きな音が聞こえてきて、そちらへと目を向けると、身の丈四メートルくらいある巨大な熊が暴れていた。
体毛は赤黒く、目も血走っており、強靭な腕で大木を圧し折って天空へと雄叫びを上げていた。
魔境には高濃度の魔力が漂っているためなのか、大抵のモンスターがデカい。
膂力、敏捷、防御力に、中には動体視力や魔力操作を覚えているモンスターが存在し、一筋縄では行かない敵ばかりが蔓延っている。
こっちに向かってきてるのは『ハングリーベア』という種類の、熊モンスターだったと思う。
常に腹を空かせていて、見境い無く襲ってくる大変危険な品種だと何かの本に書いてあった気がするが、肝心なのは空腹が限界に達した時に家族だろうと喰ってしまう獰猛性があるところだ。
(Sランク冒険者が何人も喰われたって前に国が騒いでたな)
勇者パーティーの中で旅をしていた時に、国の近くに出没したという情報を掴んで戦いに行った経験があるのだが、その時の熊より二回りくらい体格は大きい。
その内包した皮下脂肪は、頑丈さを兼ね備えている。
きっと魔境の魔力によって、肉体が異常的に成長した結果だろう。
『グルルルル……』
目が血走ってる時は苛立って周囲が見えてないサインなので、近付けば即死も有り得る。
緊張感が漂う。
一瞬の油断が隙を生む、それを肌感覚で掴んでいる俺達は決して油断しない。
しかし、興奮状態でのパンチが突如顔面に来て、それを咄嗟に両腕で受け止めたのだが、踏ん張りが利かずに後方へと吹き飛ばされた。
巨体からの薙ぎ払い、熊のパンチの威力は勿論、その敏捷速度が桁違いに速い。
『ノア!?』
注意してたのだが、やはり魔境のモンスターは他よりも強いし巨体の癖してとにかく素速く、まるで瞬間移動並みのスピードでの豪腕だった。
デュークでも耐えられないんじゃ無かろうか。
大木に背中を強打し、両腕にも痛覚が生じていた。
両腕が折れてしまったが、ものの数秒で骨折が元通りに治ってしまった。
相変わらず不思議な超回復能力だが、これも暗黒龍の能力の一つなのかもしれない。
しかし痛いものは痛い。
なまじ痛覚がある分、余計にタチが悪い。
「いってぇ……」
気絶しなくて良かったが、逆に気絶しなかったので痛みを体感している。
まぁだが、気絶していたら、即座に胴体は熊公の胃袋の中に収納されていたであろうから、気絶しなかったのは運が良かったのか。
木々を何本も薙ぎ倒しており、背中にも腕同様に激痛が走って痺れてしまう。
地に降り立つ頃には、両腕と背骨が逝っていた。
かなりの激痛が押し寄せるが、立ち止まるのはステラが許さない。
『早く立って!!』
『グルァァァァァァァ!!!』
無茶を言ってくるステラは安全圏から応援するだけで、何故か戦ってくれない。
契約者を守るのは精霊の責務なのでは?
精霊様がいれば戦況を有利にできるが、彼女は戦闘があまり好きではないらしい。
「クソッ!!」
俺を獲物と見定めたようで、ハングリーベアが咆哮を上げながら連続して巨大な腕をフルスイングしてきて、回避を余儀なくされる。
巨腕を振り下ろし、涎垂らして接近してくる光景は、非常に恐怖心を煽る一枚。
目を血走らせる。
これだけで、小さな子供は泣いてしまうだろう。
ハングリーベアは希少なので、魔境に飛ばされてから今回で二回目の戦闘となる。
しかし前回よりも強くてすばしっこく、こちらよ魔力で身体強化して応戦しているのだが、中々に倒せない。
それだけ『魔境』という特殊な環境が、ハングリーベアに異常的な能力を身に付けさせたと言える。
「ステラ!! お前も力を貸せ!!」
『え〜、やだ!!』
どうせ見てるだけなら力を貸してくれても良いのではないかと思うのだが、億劫だと言わんばかりの表情をしていたので、死ぬかもしれない状況で一人、戦わされる。
連続で振るわれる風切る腕を、紙一重の神回避を成し遂げて、死角に移動する。
だが、鼻が良いのか、また接近される。
それの繰り返し、チャンスが到来しない。
目に魔力を纏わせて動体視力を上げ、熊の攻撃を連続して避けながら懐へと入るが、紙一重で爪が頬を斬り裂いて吹き飛ばされそうになる。
その頬も煙が噴き出て回復する。
得意な足捌きで敵を翻弄し、何とか隙を作り出すのに成功した俺は、敵を屠るために心臓へと手を伸ばす。
「ったく……そろそろ大人しくなれ」
一撃死に追い込むために、俺は掌を心臓部へと当ててギュッと肉を掴み、体内魔力を掌へと収斂させてから、衝撃波として解き放った。
「ハァッ!!」
魔力を使った発勁により、心臓を破壊する。
熊公の口から血が吹き出して、その巨体が地面へと仰向けに倒れる。
ピクピクと動いていたので辛うじて存命だが、逃すとより強力となるかもしれないと危惧したため、ここで俺が始末しておく。
もう一撃、心臓目掛けて発勁を撃ち込んだ。
その瞬間、ガフッと血反吐を吐いた大熊は目から生気を失い、熊は完全に死に至った。
その瞳は、暗闇を見据えていた。
『お疲れ〜』
「お前なぁ……少しは手伝ってくれよ」
『嫌よ。それにステラ、繊細な風操作できないし、そのモンスターの素材を傷付けないようにしたんでしょ?』
「あぁ、前回は素材を取れなかったからな」
腰に備えていた解体用の短剣を駆使して、殺したハングリーベアの解体をササッと済ませていく。
前回はステラの力を借りて倒したのだが、その時は風の刃を縦横無尽に放った事で素材が細切れとなってしまったので、今回はできるだけ外皮とかを傷付けないように倒そうと考えた訳だ。
まぁ、ステラが手伝ってくれたら、素材を取る取らない云々を考えずに、一撃で殺してたが……
普通に倒すだけなら影の剣で首を狙えば良いし、毒物を使えば時間経過で必ず殺せるのだが、毒物を使えば肉や皮の素材状態が悪化してしまうので、結構縛りプレイをしていた自覚はある。
それに首を先に斬り飛ばしてしまうと、適切に血抜きができない。
「これはオークションとかで売れたら売るつもりだったしな、結構な値が付いてくれる」
『嬉しそうね』
「あぁ、金は幾らあっても足りないからな」
より贅沢するためには、金を貯めておくのが一番賢明な判断だ。
それに万が一何かしらのトラブルに巻き込まれた場合の事も考えて、稼げる時に稼いでおくのだ。
内臓、肉、骨、血、皮、そして魔石と呼ばれるモンスターの核をそれぞれ分けて、血だけは捨てて残りは水洗いして影に収納しておく。
「よし。待たせたな、ステラ」
『えぇそうね。誰かさんのせいで無駄な時間食っちゃったわね〜』
それは別に俺のせいじゃないだろう。
まぁしかし、解体に数十分、無駄に時間を使ってしまったのは本当なので、早めに外へと出るべきだと考えた俺はステラを頭に乗せて小走りを開始した。
体力はあるので、このまま進んでいけば昼過ぎくらいには森の外へと出られるはずだ。
『早く都市に行きましょ!! いざ、美味しい食べ物を探して!!』
「……」
張り切ってワクワクしてるようなので、彼女の小言に対して文句を言うつもりは無かった。
実際に俺も、魔境の外へと出て大冒険へと出られると思うと心臓が高鳴っていくようで、だからこそ彼女の小言も受け流した。
次にモンスターが出てきたら一撃で首を狩るとしよう、そう決めた俺は、出口まで休まず走り続けた。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
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