第37話 気紛れなお節介
スラムというのは、治安の悪い国の隅っこで発生したりする、掃き溜めのような場所だ。
かつては俺もそこにいた。
実際には孤児院は幾つか転々としたが、その最中にスラム街にいた。
金を乞い、命を乞い、その日を生きれるかすら怪しかったものだが、今ではこんなにも贅沢ができている、ただ運が良かっただけだ。
「放せよ!!」
「……」
さっきから、掏りの少年がずっと俺の腕を引っ掻いたりして逃げようとしている。
コイツは俺よりも恵まれている。
生まれつき魔力も無く、見た目も悪魔の象徴、そんな俺とは違って魔力もあって金髪だ、どん底にいた者からすれば俺より恵まれている。
「お、俺には多くの仲間がいる……お前なんかすぐにボコボコにし――」
途中で言葉を止めた。
どうやら俺の殺気に気付いたらしい、怯えた表情をしていた。
子供にまで化け物のように見られるとは、覚悟していた事だが俺はまだ人でいたい。
しかし、俺の邪魔をするなら修羅にだって龍にだってなってやる、その覚悟は最初っから持っていた事であり、そのために俺は殺気を放っている。
「おい餓鬼、これ以上囀ると喉を潰す、抵抗すると両手両足をへし折るぞ」
「ひっ……」
鬱陶しい餓鬼がようやく黙ってくれた。
静かなのは良い事だが、恐怖による支配というのは俺もあまり好きではない。
それに、コイツは昔の自分と重なって見えてしまう。
「答えろ。お前、名前は?」
「……リヒト」
リヒト、か……
確かドイツ語で光、希望って意味だったな。
「良い名前だな」
親から貰った名前なのかは確かめようも無いが、自分の名前を偽らないというのは羨ましい。
俺は自分を捨ててしまったから、もう二度と名乗るつもりは無い。
「……アンタは?」
「ノア、そう呼べ」
今はノア、それが俺だ。
「何で掏りなんてしてんだよ?」
「……生きるため」
そうぶっきら棒に言った言葉は、即座に嘘であるのが分かった。
魔眼で確かめるよりも前に、すでに嘘を吐いてるのだと分かってしまった。
「嘘だな」
魔眼を使わなくとも分かる。
そもそも自分が生きるためなら、五、六万も持ち合わせているはずが無いからな。
金を使う場所によっては食費が大分浮いたりするため、これは生きるためと言うよりも、何等かの理由によって貯めているように思えるのだ。
そして金を貯めなければならない理由は幾つも考えられるのだが、この都市ならではの金の使い方があるため、少し探りを入れてみる。
「オークションのため、か?」
「な、何でそれを!?」
驚いてる様子を見るに、どうやら本当らしい。
ドンピシャで当たってしまった。
何を競り落としたいのかは知らんが、これだけの金では何も競り落とせないだろうな。
「ここはグラットポート、考えりゃ分かる」
餓鬼が娼館なんか行かなねぇだろうし、金の使い道と言ったら次に浮かぶのはオークションだった。
まぁ、違っていたとしても少し探りを入れるだけで、深く聞いたりしない。
コイツに興味無いからだ。
俺はただ怠惰で適当に生きてるような人間なので、誰かの事情を聞いて背負い込んだりはしたくないのだ、それがノアという人間の本性であり、切実な願望でもある。
しかし俺の想いとは裏腹に、人生運には恵まれなかったらしい。
「なぁ、ノアもスラム出身だったのか?」
衛兵のいる詰所に向かっている途中、リヒトは引き摺られながらも質問を飛ばしてくる。
「……何故そう思った?」
「だって、さっき俺から財布掏りやがった。しかも黒い鼠が出てくるまで気付かなかったんだ。どう見ても、あの技術は本業だろ?」
成る程、子供なりに考えた結果という訳か。
もしも掏りの常習犯ならば、もっと上手く掏りを働けただろうが、生憎と俺は冒険者であるので本業呼ばわりされるのは不本意だ。
しかし、本業を超えるくらいの力を持ち合わせていると自負している。
影魔法を使えば一発だからな。
「別に本業って訳じゃない。俺の住んでた国では治安が悪かったからな、そういった世渡り術を覚えざるを得なかったってだけだ」
「だったら分かるだろ! 俺達は明日を生きれるかすら怪しいんだ!」
「俺達、ねぇ……」
五、六万あれば、一ヶ月は余裕で過ごせるだろう。
明日を生きれるか分からないなんて、そんなのは嘘っぱちであろう。
しかし、どの口が『嘘』を語るのか。
嘘だらけの俺に言われたかないだろうし、人には必ず何か事情を持ってるはずだ。
(コイツ、他にも一緒に掏りしてる奴がいるな……)
俺達は、と言った。
つまり他にも仲間がいるという事であり、何か理由があるのだろう。
「「リヒトを放せ!!」」
「エリック! ハンナ!」
建物の屋根から二人の子供が飛び降りてきた。
同じ金髪の餓鬼が二人増えたようで、男の餓鬼の方は手にナイフを持っているのが分かるが、俺は卑怯な大人だからこそ子供を盾にする。
「放してやるよ」
「ぇ!?」
俺は右手に持ってたリヒトをエリックに投げ飛ばした。
手に持っていたナイフで突き刺してしまうと考えたらしいエリックは、リヒトに当たらないように背中へと隠していた。
だが、リヒトの身体とぶつかって体勢を崩した。
なので好機と見て、飛び降りてきた薄汚れた餓鬼を錬成した鎖で拘束した。
「痛っ!?」
「クソッ……な、何だこれ!? と、取れない!?」
鎖を解こうとしているが、まだ職業すら授かってない餓鬼二人程度、縛るなんざ造作もない事だ。
しかし急に襲い掛かってくるとは、ナイフ持ったエリックとやらの方は武装してる分、より危険だ。
迷いが無かったしな。
子供がそこまでするとは、グラットポートの治安は一体どうなってんだ?
「い、いきなり投げるなよ……」
「そりゃ悪かったな。んでコイツ等、お前の何?」
「僕はこの二人の兄だ! 僕が命令してアンタの財布を狙わせた! だから裁くんなら僕だけにしてくれ! この二人には手を出すな!」
鎖に縛られながらも、リヒトの兄エリックが俺へと交渉を持ち掛けてくる。
対価は自分の命、よくもまぁ即座に考えたものだ。
全員が青色の目を持っており、全員の顔立ちが似ているため、兄妹というのは本当らしい。
しかし兄妹揃って犯罪に手を染める程に切羽詰まってるとは、見てられないな。
前世よりも酷い場所というのは分かる。
それは覚悟していた事だろうし、俺も一定の理解を持って生きているのだが、それでも子供が犯罪に手を染めてしまうとは……
(やるせないな)
同じ環境にいたからこそ気持ちは理解できる。
こんな世界に生きているのだ、俺が手を差し伸べたところで何かが変わる事は無い。
俺達は一定のルールの中で生きている。
スラムの餓鬼はスラムで、裕福な人間は上の世界で、生まれた時から運命が決まっている、ずっとそう思って生きてきた。
その運命を根底から崩すのが『職業選別の儀式』だ。
(だが、コイツ等はまだ選別を受けられない)
十五歳までは無力な餓鬼だ。
そして俺は、神には選ばれなかった。
錬金術師という職業は揶揄されてきたものだが、俺が十七になるまでは何もできなかった。
魔力も無い、職業も使えない、黒髪黒目で忌み子として生きてきたから、俺は神に見捨てられたのだとずっと思ってきた。
そして魔境に飛ばされてから、俺は変わった。
「……」
彼等がどう生きてきたのかは知らない。
当然だ、さっき会ったばかりなのだから。
同情したところで彼等がスラムから這い上がる事なんてできない。
俺には何もできないのだ。
「餓鬼共、もしも変わりたいのなら、今の生活から抜け出したいなら付いてこい。金も返してやる」
「ど、何処に行くんだ?」
「知り合いんとこ」
ギルドカードを取り出して、一人の男へと連絡を取る。
まるで電話のようだなと思いながら、俺は連絡に出てきた男へとこう言った。
「奴に会いたい。繋いでくれるか?」
餓鬼共を連れて、俺は一人の男の元へと向かっていた。
コイツ等に同情した訳ではないが、少し考えを改めてみようという気紛れから、コイツ等を連れていく事にしたのだ。
(まだ俺にこんな感情があるのか)
虐げられ、人に裏切られて、それでもまだ俺は人に縋っているらしい。
馬鹿馬鹿しいと一蹴する理性とは裏腹に、俺は矛盾する行動を取り続けているため、自分でも感情のコントロールが利かない部分がある。
まるで正しさを求めているかのように、本能で動いてしまう時がある。
それは、孤児やスラムの餓鬼達が関わった時か。
まだ人でありたいとは思うが、この優しさは時として人を傷付けるから、早めに決断しなければならないような気がするのだ。
取り返しの付かなくなる前に……
「ところで、お前等はオークションで何を競り落としたいんだ?」
「二日目に出る万能薬だ」
答えたのは兄エリック、一番のしっかり者なのだが、劣悪環境での弊害か、丁寧語とかは使えないらしい。
「そりゃまた、何で?」
「院長先生が……不治の病だから、です」
ハンナが泣きそうになりながら答えてくれた。
事情を聞くと、孤児院で生活していたものの資金難に陥った上に、まるで追い討ちを掛けるように院長が不治の病になってしまったとの事。
その病気が何なのか分からない以上、俺でも治せるかは不明瞭である。
だから、ぬか喜びさせるような事は言えない。
「万能薬、飲んだ者の傷や病を即座に癒す秘薬だな」
部位の欠損を癒し、再生させ、不死身の身体を得ると言われるくらいの妙薬ではあるのだが、当然ながら数万円で買える程に安くは無いだろう。
当たり前だが、貴族の中には収集家がいるから、持ってる者もいると思うが、そういった輩に関しては下々の者に分け与えたりしない。
残念だが、院長の不治の病を治す方法としては、現実味の薄い作戦だ。
(最低落札価格二億、この餓鬼達には無理だ)
まぁ、病気の種類によっては別の方法があるし、教会に掛け合って治療して貰えば良いだろう。
「掏りで手に入れた金使って落札できたとしても、院長は喜ばないんじゃないか?」
「……そんなの分かってる」
「けど治したい、と?」
「当たり前だ! 院長は俺達の命の恩人だ! 金も無いのに養ってくれてるんだ……そんな人を死なせたくない」
手を握り締めて、微かに震えていた。
先生に恩義を感じているからこそ、こうして犯罪までして金を手に入れようとしていた、それがどれだけ悲しい事かを彼等は理解してない。
院長がそんな事で喜びはしないってのは、俺にだって想像できる。
「お前等がそう思ってても、院長にとっては真っ当に生きて欲しいだろうさ」
「万能薬が物凄く高いのは知ってますけど……何も無い私達にはこれしかできません。けど、院長先生が苦しむのはもっと見たくないんです!」
ハンナの言う事にも一理あるだろうし、誰だって苦しみたくないのだ。
しかし彼女の言葉が院長を労る言葉ではなく、院長の苦しむ姿を見て自分が傷付きたくない、と言ってるように聞こえてしまった。
それは単なる現実逃避にすぎない。
「なら見なければ良い。方法は三つある」
「三つ、も?」
「一つ目、お前等が院長を助ける」
今行ってるのは、まさにそれだ。
方法としては犯罪ではあるが、その助けたいという気持ちが行動に現れてしまっているだけ。
「二つ目、孤児院を出て行く」
「そ、そんな……」
三人が孤児院を出て行けば、少なくとも治療費を貯める事ができるだろうし、食費が浮いたり、金銭面で余裕が出てくるのは間違いない。
それが本当に正しいのかは分からないが。
「最後、院長を殺す」
「……は?」
理解できないと言うような表情をしていた三人だが、現実は非情だ。
突然死がやって来る事もあれば、不幸が舞い降りる事だってあるのだから。
「簡単だ。エリック、お前が手に持ってるナイフを院長の心臓部に突き刺せば殺せる」
「な、何でそんな考えが出てくんだよ……絶対可笑しいだろ!?」
大声を荒げてリヒトが俺の服を引っ張ってくる。
大通り故に視線を集めてしまうのだが、こればっかりは認められないらしい。
「別に可笑しくないさ。何故自殺する人間が後を絶たないと思う?」
「そ、それは――」
「死ぬ事で楽になりたいからだ。苦しみから助けるって意味なら、殺してやるのが一番楽かもしれないな。院長も、お前等も」
何故なら、ただ心臓へと刃を突き立てれば良いだけなのだから。
だが、人間である以上は殺人には抵抗あるだろう。
ましてや子供が大好きな人間を平気で殺せるなんてのは訓練されてても不可能に近い。
だから三番目の選択肢は最終手段だ。
それに、今言った三つ以外にも恐らく方法はあるだろうが、単に俺が見つけられてないだけ、第四の選択肢を選び取れるかは彼等の行動による。
「正直、お前等はまだ幼い。今ならまだ間に合うさ」
「……そんな事言われても――」
「さ、着いたぞ」
少し大きな建物へとやってきた俺は、そのまま中へと入っていく。
その後ろを餓鬼が三人付いてくる。
詰所ではないので安心してもらいたいものだが、今までの事に対して悪いと思っているからこそ、周囲をしっかり警戒して、いつでも逃げられるようにしている。
これも生きるため、か……
「ここはユグランド商会だ」
「商会?」
「そうだ。これからキースっていう太った奴に会う。お前等は何も心配するな」
その前にキースの護衛をしている男に会うつもりでいるのだが、その男が見当たらない。
代わりに商会の中では色んな人がキビキビ動いているだけで、受付でアポイント取らなきゃ駄目なのだろうかと思ってどうしようか悩む。
「う〜ん、キースは……」
何処にいるのだろう、そう思って周囲を見渡していると一人の男から声を掛けられた。
「ノア、待ってたぜ〜」
「ダイトのおっさん。キースは?」
「仕事を一時中断して部屋で待ってるぜ。俺が案内するんだが一つだけ注意しろよ」
注意?
「護衛の冒険者達、俺よりは少し弱いが連携が厄介だ……ハッキリ言って危険だ」
ダイガルトがそこまで言わしめる程の実力を有しているという事か。
つまり、妙な事はするなという事だろう。
俺は静かに頷いて、ダイガルトに案内してもらって二階へと進んでいく。
「お前から用事が来たから何だと思ったが、この餓鬼共は何なんだ?」
「掏りの常習犯達」
「はぁ!? おまっ――一体何しようってんだ?」
「貸し一つ、返してもらおうかと思ってな」
「あぁ、成る程な」
船を襲った奴等を倒した事に関して、ダイガルトが本当の事を伝えたらしく、それによって彼には大きな貸しがあるのだ。
だからこそ、俺は今回限り何かしてやろうと思った。
単なる気紛れとして、助ける事でどうなるかを少し観察しようと考えた。
「入れ」
「あぁ。餓鬼共、付いてこい」
ダイガルトが扉を開けて、俺達は中へと通される。
その部屋は客室の一つらしく、俺のように約束を取り付けて通される時に使ったりするらしい。
部屋の中央にはキースがソファに座っており、そして部屋の四隅には四人の冒険者が立っていた。
「ノアさん、ようこそいらっしゃいました」
立ち上がってキースが深々とお辞儀をする。
それに大して、俺は椅子に座らずに会話を始めた。
「前置きは無しだ。コイツ等をここで働かせてやってはくれないか?」
「この子達……ですかな?」
「あぁ、左からエリック、リヒト、そしてハンナだ。エリックは交渉センス、リヒトは戦闘センス、ハンナは商業センス、それぞれあると思う」
俺が言ってるのは先行投資に近い。
大して話したりはしていないのだが、魔眼を通して人柄や能力、思考力とかも色々と見ていった過程で、それぞれのセンスを見抜いた。
魔眼は便利だが、それだけではない。
俺の中にある暗黒龍の知識も含まれているため、もしも知識が無ければ見抜けなかっただろう。
「確証は?」
「無い。強いて言うなら、リヒトは独学で魔力強化できてた。エリックは交渉が上手いと思う。ハンナに関しては俺の勘だが、頭は良いのは知ってる」
これは三人と話していて思った事だった。
人の特徴なんて言動に一番表れるものだから、俺はそれを鑑みて、こうして商会へとやってきたのである。
「コイツ等は孤児院の院長が不治の病で倒れたから、オークション二日目に出る万能薬を競り落とすために掏りをしてた」
「それは……」
「言いたい事は分かってる。だが、コイツ等は根は優しい奴等だし、リヒトに関しては鍛えてやればダイトのおっさん以上の強さを得られるはずだ」
「ほぅ。状況は大体理解しました」
しかし理解したからと言って、彼等を引き受けてもらえるとは限らない。
「貸し一つで一人分です」
「なら、残りの二人を雇ってもらうには、一体どうすりゃ良い?」
「簡単です。代わりに私の依頼を無償で引き受けてもらいたいのですよ、他ならぬノアさんに」
そう来たか。
まぁ、それで構わないが、こっちとしても二つも依頼を受けれる程に暇人でもない。
いや、グラットポートにいる期間だけならばオークションまでは暇なので、依頼は受けられるはずだ。
「いえ、一つだけで結構ですよ」
「はぁ……分かった。それで雇ってくれるんなら、こっちも願ったり叶ったりだ。だが、その前に聞いておかなきゃならん事が一つある」
俺はポカンと呆けている三人の餓鬼へと視線を向けた。
そう、これは彼等に相談もせずに決めてしまった一方的なものである。
この餓鬼達が『嫌だ! 働きたくない!』って言ったら俺の依頼も無かった事になるし、貸し一つも継続する事になる。
「俺は一つの選択肢を示した。後はお前達次第だ」
そう、これは商業に関わる事にも繋がり、同時に万能薬の情報も入手しやすくなるというメリットがある。
ただし、孤児院は出なければならないだろうが。
「ここで真っ当に働いて院長の治療費を稼ぐか、それとも一生他人の財布を掠め取る惨めな人生を送るか、お前等自身で選べ」
「……何で?」
「ぁ?」
「何で、ここまでしてくれるんですか?」
ハンナからの至極当然の疑問が飛んでくる。
単なる気紛れ、そう言っても良かったのだが、これからの未来を掴み取っていく子供達のために、俺は一言だけ言っておいた。
「一期一会ってやつだ」
「いちご……いちえ?」
「もっと大人になれば分かるようになるさ」
出会ったのも何かの縁、そう思ったからこそ助けようと思った。
それに彼等が昔の俺と重なって見えたからだ。
(或いは俺とは違う道を……正しい道を歩ませてやりたいって思ったのかもな)
ハンナの頭を優しく撫でてやり、俺は再度キースへと向き直った。
「ってな訳でこの三人の事、頼んだぜキース」
「お任せください。ですが、その代わりに依頼はしっかり受けてもらいますよ?」
「俺にできる依頼にしてくれると助かるんだが……」
依頼を受けるのは良いが、極秘での依頼となる訳だ。
どんな依頼でも構わないのだが、できれば楽な仕事にしてほしい。
「で、依頼って?」
「流石に我々も後手に回っている訳にも参りません。ですので、ノアさんにはナトラ商会について情報を集めてきてもらいたいのです」
「曖昧だな。どんな情報でも良いのか?」
「えぇ」
「期限は?」
「二週間、つまりオークションが始まるまででどうでしょうか?」
「……分かった」
今回の報酬は無し、この餓鬼達のために依頼を受けるのだから仕方ない。
お節介を焼いてしまうのは、もうこれっきりにしたい。
苦しみたくないから、自分のために生きていたいから、そのために俺は今回限りのお節介を焼く。
「リヒト」
「え――うわっ!?」
「約束通り、財布は返しておく。それを使うも持ち主に返すも自由にしろ。掏られる方が悪い」
俺はリヒトから奪った財布を返した。
情けは人の為ならずとは言うが、この行動が、この選択が果たして正しいのかは数年後、下手すれば十年以上先になるかもしれないな。
キースは状況を即座に理解してたし、ともかく依頼を受諾した。
用意された書類を読み込んで、そこへ自分の名前をサインし、俺は部屋を出て行く。
「の、ノア!」
「ん?」
リヒトに呼び止められて、振り返った。
「ありがと!」
三人がお辞儀していた。
どうして俺がお節介を焼いたのか分かった、彼等が純粋だからだ。
『善』がまだ残っていたからこそ、こうしてここに連れてこられた。
子供は純粋で羨ましい。
そう思って、三人のお辞儀を背中に受けながら俺は商会の階段を降りていった。
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