第36話 財宝都市グラットポート
穏やかな海が目の前に広がっている。
昨日とは打って変わって、ゆったりとした波が船を揺らしている。
まだ朝日は昇っておらず、その朝日を見るためだけに風を感じながら待っている。
早起きは三文の徳、だからな。
「ノア、おはようなのである」
「オズウェル、か……随分と早起きだな」
「うむ、吾輩はいつも、この時間帯に起きているのでな。ノアの方こそ随分と早いではないか」
早起きする事自体は苦ではないので、稀に朝日を見るためだけに起きたりしているものなのだが、今日は単にふと目が覚めただけだ。
因みに、精霊ステラちゃんは部屋で熟睡中、最近ベッドの寝心地にご執心らしい。
精霊だが女でもあるステラだが、女心というのよく分からん。
「グローリアはどうしたんだ?」
「彼女は恐らく、到着時刻ギリギリまで起きんだろう」
「怠惰な生活だな」
「全くなのである」
ギリギリになって起きて、支度とかできるのかと心配になったが、俺が心配してもどうもならないなと考え直し、オズウェルから海へと視線を向ける。
渡り鳥が大空を飛んでいるのが見え、そちらへと視線を向ける。
「む、あの鳥は何というのだろうな?」
「白と青の羽毛、それから黄色い嘴と緋色の目、この温暖な場所での渡り鳥だったら『オラシオン・ループスカイ』ってモンスターだな」
瞳の色まで分かるくらい、視力が上がっている。
常人でない身体能力のお陰だな。
「ふむ、そんなモンスターがいるのか?」
「あぁ、結構珍しいモンスターだな。確か魂を運ぶって言い伝えがある鳥だったはずだ」
オラシオンは祈りを意味する言葉、白と青い羽毛は霊魂を表し、黄色い嘴は光を、そして緋色の瞳は血を意味していると言われている。
そして空を駆ける翼は、霊魂の導きを担っているという言い伝えがある。
緋色の瞳が血を表している理由は、死んだ者が次なる生へと、つまりは肉体へと宿る時に、良い家族に恵まれますようにという血縁に関する祈りも表してるそうだ。
だから、その鳥を見た者は幸せな生涯を終えた後、幸せな輪廻転生ができるのだと。
「ふむ、縁起の良い鳥なのだな、納得したぞ」
そう、幸せの青い鳥だ。
大空を駆ける鳥の長い尾がヒラヒラと動いており、その鳥の飛ぶ姿はまるで霊魂が彷徨っているかのように見えたため、きっと誰かを運んでいるに違いない。
美しい鳥であるが故に、確か殺したらバチが当たるとか何とか。
「殺しては駄目なのか?」
「無用な殺生は止めとけ。こっちから仕掛けない限り、あの鳥に危険は無い」
言い換えると、俺達が攻撃を仕掛けた時点で危険度MAXとなる訳だ。
そのモンスターは穏やかな性格をしているのだが、一度攻撃してしまうと厄介な事に、特殊な歌を奏でて幻覚を見せたりする。
そして二度と戻ってこれないって実例がある。
その者は幻覚の中に捕らわれて生涯を終えたらしく、そんな事例とかもあった事から、ギルドでも注意喚起されてたりする事もある。
だが、馬鹿な冒険者達が襲ったりするから被害は抑えられない。
「耐性無いとホントに死ぬぞ?」
「ならば止めておこう」
コイツ、本気で狙うつもりだったな。
ってかオズウェルの職業って何だろうか、特段武器の類いを所持していないから、何の職業なのか皆目見当が付かない。
もしかしたら魔法使いの類い……と言いたいとこだが、杖持ってないし魔法使いらしからぬ格好だ。
ま、俺も魔法使い的ポジションでも充分通用するだろうから、似たようなもんだが。
「吾輩の職業は情報屋なのである」
「ん? それって職業なのか?」
そんな職業があるとは思ってもみなかった。
いや、コイツが嘘吐いてる可能性も……魔眼を通して見たのだが、嘘吐いてなかった。
本当の事らしいが、それが『職業選別の儀式』で手に入れた職業とは限らない。
「儀式で手に入れた職業なのである」
「……そうか。どういった効果なんだ?」
「うむ。常に脳裏に情景や情報が浮かんだり、相手の情報を見たりできるのだ」
「へぇ、不思議な職業だな」
「そう、不思議なのである」
そもそも、そんな職業があるなんて知らなかったし、情報屋というのは、バーとかで端っこの方に座ってたり、バーテンダーだったり、そんなイメージがあった。
しかし、目の前に情報屋という職業の持ち主がいる。
職業の可能性は無限大なのは分かるが、そんな職業まであるのは意外だったな。
「俺の情報とかも最初っから知ってたって訳か?」
「いや、君の情報は吾輩のレベルでは見られなかった。つまり、吾輩よりも遥か高次元の存在という訳である」
どういう事だ?
「見ようとすると、視界が真っ黒に染まるのだ。こんなのは初めてである」
「ふ〜ん……」
要するに、俺の情報は自動的に暗黒龍によって封じられているという訳か。
だが、何故そんな事になってるのだろうか。
職業の力でさえも、俺の事を見られないというのは少し可笑しいと思う。
ただ力を授かっただけで俺の情報が伏せられるというのには何だか引っ掛かりを覚えるし、何者かに手を加えられているようにも思える。
杞憂で終わってくれると嬉しいが……
(誰が俺に干渉してんだ?)
考えられるのは、俺に力を授けてどっか飛んでった暗黒龍だが、アイツがそんな事をするメリットを感じられない。
それに、アイツがこの事を予知して対処するってのも何だか違う気がする。
だとするならばゼアンを創り出した者、つまり創造神ではないかと予想する。
その神様との面識は一度も無いので、それが合ってるのか間違ってるのか、今の段階では答えが見つかるなんて事は無いだろう。
「あれ、オメェ等、こんなとこで何してんだ?」
「……チビメイスか」
「だからエルメイス!」
「お前こそ、こんなとこで何してんだよ?」
「ち、ちょっち早起きしたからリフレッシュにと思って。オークションでは何が何でも成功させなきゃだからな」
そりゃそうか。
彼にとっては妹の命が掛かっているのだから、助けなければならないという使命感に駆られるのは分かるし、肉親が売られる状況は見過ごせないのだろう。
だが、気を張るのは些か早すぎると思う。
オークション三日目は丁度二週間後、二週間毎日気張ってるってのは精神的にかなり厳しい。
「少し落ち着いたらどうだ?」
「落ち着く? 巫山戯んな!」
バッとこっちを見たアトルディアの表情は、今にも泣きそうな顔をしていた。
何故そんなにも苦しそうなのか、理解しようと思えばできるのだが、俺には兄弟姉妹も肉親も親戚もいないので、コイツが怒ってる理由に関しては分からない。
「妹は寂しがり屋なんだ……俺っちがいなくてどんなに心細いか……そんなの落ち着いてられるかよ!」
妹が今頃どうなってるのかを知る術は持ち合わせていないからこそ、彼の内心には不安が燻ってる。
今何処にいるのかさえ分からないため、次に会えるのはオークション会場で、だろう。
「もしもノアに大切な人がいて、その人がオークションで奴隷として売られてるのを知ったら、どうする?」
「まぁ、取れる選択肢は二つだな」
「ふ、二つ?」
「一つは正々堂々と買う」
幾ら金額を積んだとしても助けるだろう。
本当に妹がいるのならばって話だが、どの道、俺にできるのは一つしかない。
「そして、もう一つの選択肢は……会場、それから妹を奴隷にした奴を潰す」
「潰す?」
「あぁ。二度とオークションできないようにして、妹を奴隷にした奴は四肢を捥いで、内臓を取り出して、脳を弄って、人としての尊厳を弄んでから殺す」
つまりは拷問だな。
それか、脳を弄って俺の手駒にしてから、全てを奪い尽くすだろう。
ソイツの大切な家族、親族、仲間、富も、名声も、栄誉さえ、コイツの目の前で奪って奪って奪い尽くして、そして全てが終わった後で洗脳を解き、絶望の表情を見た後、殺してやる。
残虐非道と罵られても仕方ない事だが、俺の大切なものに手を出したらどうなるかを知らしめるのだ。
「それくらいの覚悟を持てって話だ。潰すなんて並の人間にはできないし、お前には無理だな」
「うっ……」
「お前はダイトにすら勝てなかった。それが結果だ」
コイツのポテンシャルは高い方なのだろうが、それは小人族の中での話だ。
パワーは人族に劣るし、虚を突かなければスピードも宝の持ち腐れとなってしまうため、悲しい事にアトルディアは荒事に向いてない。
(三億でどれだけ粘れるか、見ものだな)
アトルディアのオークションでの所持金は三億、その三億で足りるのか、それとも足りないのか、どうなるのか面白そうだ。
ここにはエルフと小人族がいる。
先に競売に掛けられるのはエルフの方で、小人族は六番目だったはずだ。
卑怯な方法を使ってまで助けたいのならば、奴隷堕ちしたエルフを誰か貴族にでも買ってもらい、余ったエルフ達の七億を自分の物にするって手もある。
エルフは見目麗しき種族だ。
しかも女奴隷であるため、その商品価値は他の奴隷達よりも一枚も二枚も上となる。
(人間の本性が見られそうだな)
オークション、楽しみだ。
「む、朝日が出てきたぞ」
オズウェルの言葉に、俺達三人は朝日の方へと視線を向けた。
地平線の向こう側から覗く黄金色の太陽は、金猫族の女を思い出させるが、やはり自然的な日の出というのは素晴らしいものだ。
空が黄色くなっていく。
太陽が昇り、綺麗な朝焼けの世界が視界一面に広がっていき、水面が光を乱反射してキラキラと煌びやかな憩いの一時を生み出していく。
(綺麗な朝日だが……)
俺、何で男二人と一緒に見ているのだろうか?
こんなにも綺麗なシチュエーションなのに、俺の相手が男二人の板挟みとは、何というか悲しいものだ。
一生独身なんだろうなぁ、なんて思いながら手摺りに肘を乗せて溜め息を吐いた。
「はぁ……」
朝日が昇る。
太陽の放つ暖かな光によって、朝がやって来たのだなと実感した。
「眩しいな。二人はこんなのを見に来たのかよ?」
「……お前って風情無いよな、おチビ」
「う、うるさい!」
「こういった自然のエネルギーを浴びれるのは素晴らしいものであるぞ。アトルディアも、この風を全身に感じてみるのである」
朝日と共に風が立ち始めた。
その風と太陽の輝きを身に浴びて、オズウェルはゆっくりと深呼吸する。
俺もエルフに倣ってみよう。
肺に目一杯空気を取り込んで、それをゆっくりと吐き出していくと、何だか気分がスッキリした。
「お前もやってみろよ、おチビ」
「俺っちはチビじゃない! ったく……」
そう言いながらもゆっくりと息を吸い込んでいく。
両手を空へと上げて、肺に溜め込んだ酸素を二酸化炭素として吐き出していく。
深呼吸には、幾つもの効果が確認されている。
ストレスコントロールや怪我や疲労回復、安眠効果に血圧の安定化、集中力の向上や精神的リラックスもできるため、俺はよく深呼吸して気持ちを切り替えたりして、日々の生活を送っている。
「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」
一定のリズムで三人が深呼吸を繰り返す。
五回深呼吸が終わり、全身に太陽の光を浴びる。
「どうだ? 気持ちの良い朝であろう?」
「まぁ、確かにな」
「……うん、少し落ち着いた」
自身を落ち着かせて、自律神経を整え、細胞を活性化させる。
アトルディアも気持ちが落ち着いたようで、少し気恥ずかしそうに外方を向いていた。
「エルフの朝はこうして始まるのである」
「へぇ、じゃあエルフって皆早起きなのか?」
「いや、一部の者だけである」
「何だそりゃ……」
グローリアが早起きしてこないところを見ると、確かに一部のエルフ達だけが早起きしてる様子が目に浮かぶようだ。
突風が船を揺らし、遠くへと逃げていく。
もうじきで目的地が見える。
後二、三時間で到着するだろうから、下船の準備をするために一度部屋へと戻るとしよう。
「じゃあな」
しばらくはグラットポートにいるのだ、どっかで会えるだろう。
ダイガルトは昨日の夕方からキースの近くで護衛する事になってるようで、恐らくはキースと荷物を下ろす仕事も担ってるはずだ。
ダイガルトに関しては放置で構わんだろう。
グラットポートに到着した後の事を考えながら、俺は部屋へと戻った。
船に橋が掛けられる。
その橋を渡り、第一歩目を踏み締めた。
「ふぅ、やっと到着だな」
船旅も良いが、やはり自分の足で歩いていくのが一番良いものだ。
狭っ苦しい場所でジッとするのは性分に合わない。
港を一望するが、多くの魔導船が停泊しているため、色んな場所から人が集まってきている。
その中にユグランド商会の敵、ナトラ商会が……
「あぁ、やっと着いてくれた……もう吐かなくて済む」
疲れ切った様子を見せるリノ、この二日間の旅で彼女は殆ど飯を食えてない。
なので、少し痩せているように見える。
目の下に隈、髪も少し乱れているようで、美人が台無しだな。
「宿はどうする? 俺はある程度グレード高い宿にするつもりだが……」
「わ、我も同じ宿にしよう……うぷっ」
吐きそうだが、これは平衡感覚の訓練とかさせなきゃ駄目だな。
俺は酔いとかは全く無い。
元気そのものだ。
昔っから酔いとかは無かったから、耐性は持っていたらしいが、それが暗黒龍による強化で更に感覚が鋭くなり、今ではどれだけ傾いてるのかとかも細かく知る事ができてしまう。
「とにかく、宿探すか」
荷物を置きたいし、コイツの場合はまだベッドで休んでいた方が良いような気もする。
宿の情報は持ってないので、ギルドにでも行って聞いてみるのも一つの手であろう。
「ギルドに行くか、適当に探すか、どっちかだな」
こんな事なら、先に師匠に聞いときゃ良かったなと後悔するが、宿探しも旅の醍醐味と思う事とし、気にせずに港の出口へと進む。
リノはまだ少し酔ってるが、しばらくすれば酔いも治るだろう。
少し歩いた方が良い。
が、港から出るためには改札で荷物検査があるため、その順番を待たなければならない。
入国するためには監査が厳しいものの、そうする事で都市の中に危険物を持ち込まないためだ。
(意味無い気がするけど……)
前世においては銃刀法による法律があったが、この世界では武器の所持に関しては別に違反とはならないため、何が危険物なのかと疑問に思う。
しかし、この世界には使い方次第では核爆弾以上の物質もあったりするため、そういった危険物を精査するために荷物検査は必要だろうな。
最たる例は、魔力の詰まった魔石だ。
爆弾以上の威力を持つため、使い方を誤ると国が滅びてしまう。
「チケットをお見せください。荷物はこちらに」
受付でチケットを見せ、同時に荷物は魔法陣の仕掛けられている場所へと置くだけで、内部探知して危険物を判断してくれるのだ。
俺はポーチとバックパックを魔法陣のところへと置いて探知してもらい、受付に許可を得てゲートを通った。
「ここが財宝都市、グラットポートか」
ゲートを潜ると、その先には多くの人達が賑わっていたのだが、やはりガルクブールよりも人が多い。
種族も、年齢も、何も関係無い。
そんな都市の名物が、目の前の市場だ。
アクセサリーや衣類、置き物や武器の類いまで、色んなのが売られているではないか。
「ふぅ、ようやく船酔いが治ったぞ。苦労を掛けたな、ノア殿」
「そうだな、本当に苦労した」
「そこは否定して欲しいのだが……まぁ良い。幾つか宿の候補があるのだが、我が案内するか?」
それなら彼女に任せてみるのも良いかもしれない。
寝床としては清潔でなくとも環境を整える事ができるため、鍵付きならばそれで充分すぎる。
いや、鍵無くても錬成で鍵作っちまえば良っか。
鍵の構造なら知識として知ってるので、今の俺ならば錬成すれば堅固な部屋を形成可能。
「なら、頼む」
「うむ、付いてきてくれ」
彼女が自分のリュックから地図らしきものを取り出して案内がスタートした。
後ろから覗いてみると、地図に幾つか丸印が付けられていたので、そこが宿だと理解して全てを瞬間記憶した。
もう場所は分かった。
「全て覚えた」
「は?」
「宿の場所と現在位置、地図の見た場所は大体分かった」
ついでにオークション会場も場所が分かった。
大きなオークション会場は街の中心地にあり、そこで年四回の三日間続くオークションが行われる。
脳裏に地図を思い浮かべながら歩いていると、誰かとぶつかった。
「おっと、ごめんよ兄ちゃん」
金髪でボロボロの格好をした少年、十歳くらいの餓鬼にぶつかってしまった。
そして、そのまま逃げるように走り去っていってしまったため、俺は溜め息を吐きながら手に持った小さな袋を揺らす。
注意散漫だな。
俺もまだまだって訳だ。
「ノア殿、その手に持ってるのは何だ?」
「財布」
何の皮か、薄汚れていて所々に縫い跡が見受けられる袋を手にしていた。
そこには金が入っており、銅貨や銀貨ばかりが入っているだけで、大体五万か六万くらいだ。
「ほぅ、餓鬼にしちゃ、結構持ってんじゃん」
「お、おい……それってまさか――」
「あぁ、さっきぶつかってきた餓鬼の財布を掏った」
ぶつかった瞬間、その金髪の餓鬼から財布を盗んでやったのだが、やはり財宝都市、金が絡むとこういった治安の悪さも露見する。
恐らくスラムの餓鬼だろう、孤児院にも無限に子供を保護できる訳ではないのだ。
「は、犯罪だぞ!?」
「向こうが先だ。餓鬼が俺の財布掏ったからな、掏り返した」
正直、俺はお上りさんみたいな格好をしてるから、スラムの餓鬼達には狙いやすい獲物だったのだろう。
だが、残念。
勇者パーティー時代の頃に何度も財布を盗まれそうになった事があったので、こういった掏りの技術も上がっていった。
雑魚相手になら気付かれずに、音さえ立てずに、空気も叩かずに、一瞬で掏れる。
「まぁ安心しろ、他人から盗んだもんを使うつもりはないからな」
「そ、それなら良いが……」
「それに、すぐ来るさ」
すぐ気付くように細工してあるからこそ、俺は能力を発動させる。
「戻ってこい」
「何を……」
その瞬間、自分の所へと一匹の黒い小さな鼠が戻ってきた。
小さな鼠が軽快な動きでズボンを掴んで登ってきて、手の中に収まった。
「ね、鼠?」
「あぁ、ちょっとした魔法だ。そういや、お前には言ってなかったな」
コイツは黒龍協会ではないため、教えても構わないだろうと思ったので、少しだけネタバラシしておく。
これから共に行動していくのに、隠し通すのも流石に無理があるだろうからこそ、この影鼠を操って手足を動かしていく。
尻尾は短く、種類としてはスナネズミが一番形が似ているだろう、前世で見た事があったからイメージとして使った。
「おい! 財布返せ!」
「ほらな」
白昼堂々と財布を盗む奴が『返せ』とは、何を馬鹿な事を言ってるのだろうか、とは思うが、返すつもりだったので金は使わない。
中身は見たが、一文も盗んでない。
しかし、返す代わりに条件がある。
「俺の財布返せ。そしたら返してやる」
「なっ……」
予想通り、捨てたのは感覚を共有して見ていたので知っている。
そして、捨てられた財布は影に沈めて今は鼠の腹中にある。
「何だ、捨てたのかよ」
「一ノルドも入ってなかったじゃん!!」
「あぁ、盗まれる前に抜いた」
いや、元々入ってなかった。
あれは影魔法を人前で使う時に、開けっ広げに見せないため、影から金を出すのを誰にも見られないようにするためのものだ。
それを盗まれてしまった。
「餓鬼、掏りなんて止めろ」
「う、うるせぇ! 何も知らねぇ癖に余計なんだよ!」
瞬間、餓鬼の体内魔力が高まっていき、身体強化しているのが目に見えた。
独学だろう、循環が荒い。
脚力を以ってして、こんな人通りの多い中で殴り掛かってきた。
だから少しズレて組み伏せ、地面へと縫い付けてから背中へと座った。
「餓鬼、相手の力量を見誤るな。お前程度の魔力操作くらい、俺にだってできる」
「クソッ、退けよ!」
「……」
これからどうしようか。
別に掏りが悪いとは言わないが、俺に掏りを働くのは見過ごせない。
「まぁ良い。とにかく衛兵に突き出すか……リノ、お前は先に宿舎を探しといてくれ。それから見つかったら後でギルドカードで伝えてくれ」
「わ、分かった」
彼女を先に行かせる。
一応警察のような場所、詰所があるのでそこへと向かうため、餓鬼の首根っこを掴んで引っ張る。
「放せ!!」
「大人しくしろ」
俺よりも酷い。
伸び代は感じられるが、それを帳消しにする環境が自分自身で貶めている。
可哀想だが、俺が手を出す事でもない。
衛兵へと突き出すために俺は脳裏に思い浮かべた地図を頼りに、歩き始めていった。
最初の二行に矛盾が見られましたので、少し変えさせて頂きます。
『変更前』
穏やかな波が目の前に広がっている。
昨日とは打って変わって、本当に凪一つ無い静かな朝である。
『変更後』
穏やかな海が目の前に広がっている。
昨日とは打って変わって、ゆったりとした波が船を揺らしている。
この度は矛盾を指摘してくださいました読者様には大変感謝しております。まだまだ駆け出し者にございます故、このような失敗も多くあるかと思いますが、感想欄にご指摘を頂ければと思います。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
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