第35話 雨上がりの空へ願いを込めて
船旅二日目、今日は雨が降っている。
海は荒れに荒れて、豪雨が大きな船へと降り注いでいるのが窓の外から見える。
(雨、か……)
ザーザー降りの雨は、大きな波を生み出して、この船を大きく揺らしている。
水面近くの個室であるが故に、稀に水面の下が見える。
昨日の夜に雲が空を覆っていたのだが、もしかしたらと思っていると朝になったら雨が降り始めた。
現在は俺のいる個室で、一人椅子に座って本を読んでいる最中だ。
「うぷぅ……の、ノア殿……」
「あぁ、はいはい」
何で俺がリノの世話を焼いているのだろうか、俺はコイツの母親じゃないんだが。
酔い止めを飲ませようとしても、すぐに吐いてしまうので効果があまり無いのだが、これならば錠剤ではなく液体の方を作っておくべきだったか。
「お、お腹が空いたのだ……」
「あ、そう」
昨日からずっとリノは何も食えてないのだが、理由は船酔いのせいで脳がバグってるからだろう。
食った矢先に吐き出すから、消化して手に入るはずのエネルギーを摂取できてないのだ、当然腹も空いてくる訳なのだが、後一日で船は目的地に着く。
「な、何でこんなに揺れて……うっ……」
まさかこんなにも船酔いするとは、今までどうやって馬車に乗ってきたのだろうか。
それにこれからも馬車に乗ったりするため、船酔いはどうにかしなければならないと思って、対策を脳内で練り始める。
リラックスできるようにお香を焚いて、彼女の身体を横に寝かせる。
「とにかく、少し寝てろ」
「……あぁ」
雨の中では外に出る事さえ適わない。
影には傘があるし、雨除けのための道具を使えば外へと出れるが、出る気にはならないな。
砂漠とかで降るなら恵みの雨となるだろうが、ここは海上、降水量と海流の影響が諸に出ているので、恵みではなく、ただの厄介な雨だ。
(陰鬱だな)
絵本や小説とかで、天気によって主人公や登場人物の心情を表している文章があるが、この比喩表現には色々とあるものだ。
例えば『空が晴れる』という表現は、心の闇が取っ払われたり、蟠りや心の悩みが完全にスッキリした様子を表したりする。
逆に雨の場合、人の心の『鬱』『闇』『影』の部分を表現しているものだ。
まさに俺の気持ちも雨模様、外を眺めていると昔の情景を思い出す。
(久し振りに雨を見たな)
魔境は立地環境によって雨が降らないため、一年以上雨を見てなかった。
俺は雨が嫌いだ。
記憶の中にある雨の世界、過去の弱かった自分を映しているようであり、窓に反射するのは過去の自分の顔に見えてしまった。
(父さん、母さん……アンタ等は今の俺をどう見る?)
外見も、内面も、全て変わってしまった。
忌み子として生きてきた十八年間は、本当に地獄と変わらなかっただろう。
虐げられ、罵倒され、毎日は地獄と同じだったと思うくらいだ。
唯一、一人だけ俺の身を案じてくれた子がいたのだが、彼女は何処かに買われてしまったので、もう俺の事は覚えてないだろう。
(懐かしい記憶を思い出したもんだ……)
その子は俺よりも圧倒的な才能に恵まれていたが、優しくて、慈愛に満ちていて、忌み子として疎まれていた俺にさえ手を差し伸べてくれた。
他にも孤児院出身の奴等がいたが、ソイツ等が今何処で何をしているのかは俺も知らない。
知ってたとしても、不吉の象徴と言われていた俺と会いたいと思う奴はいない。
リノの事情は知ってるが、彼女は俺の事情を知らない。
(伝えてないしな)
伝える気も無い。
それに、俺が忌み子だと言っても伝わらないだろう。
俺の瞳は漆黒色から少し濃い青、綺麗な色であるために気に入ってるのだが、忌み子の象徴である黒髪黒目が消えている。
暗黒龍の力を受け継いだ事で、半分以上は悪魔のような能力を手にしてしまった。
影魔法然り、絶影魔法然り、神影魔法然り、その更に先があるらしいのだが、それは残念ながら文献とかには詳しく載ってなかったので俺も知らない。
「影魔法、起動……」
影を操ってみせる。
掌に影が集まっていき、一つの小さな球体が形成されていた。
これを自在に動かす事もできれば、遠隔操作で物質化させる事も可能、これを死骸に埋め込めば操ったりもできる不思議な魔法だ。
詠唱は必要とせず、影魔法は簡単な物質形成や影操作が基本主体だ。
絶影魔法だと、そこに意識を取り入れて操ったり、複雑な魔力操作を必要とする代わりに汎用性も高まる。
そして神影魔法は、自身の命を犠牲にしたり何かの対価を払って扱う事ができるが、反動で死ぬ可能性のある魔法があったり禁忌の類いが多い。
「『錬成』」
影に錬金術師の能力を扱ってみる。
影を物質として操れるかを試してみると、ウネウネと動き出して影が短剣へと変化する。
しかし腕輪の錬成の方が効率が良く、組み合わせにも効率を考えるべきだ。
「はぁ……駄目だな」
地面にある影へと落とすと、途端に形状が崩れた。
やはり半端な魔力では形状すら保てない。
前に刀を生み出したが、その時は二割の魔力で何とか形状記憶できたが、今回は殆ど魔力を使ってない。
「う〜ん、どうしよ」
もっと効率化させたいものだが、それが中々上手くいかない。
魔天楼の他にも強敵が現れるかもしれないし、そのためにも更に力を付けなければならないと思って最近はずっと影魔法の練習をしている。
それに加えて精霊術、或いは錬成で組み合わせも検討し続けており、やはりもう一年魔境で籠ってた方が良かったかとも思ってしまう。
だが、『一年』で出てきた理由は、そこでの成長に限界を感じたからである。
「……ぅぁ…ち、父上……母上……」
と、考え事をしながら外を見ていると、リノが魘されてるのに気付いた。
両親の夢でも見ているのだろうが、そのまま放置する。
悪夢は誰だって見るし、俺も稀に幻影のように見てしまうため、精神的苦痛も少々ある。
ただ、ストレスには幾つもの対処法がある。
(リノ、悪夢は自分で何とかするしかない……残念ながら俺は手伝えないぞ)
悪夢は事故や精神的な傷、そういった切っ掛けによって生み出される障害の一種であり、悪夢はそう簡単に解消できるものでもない。
それを俺は知っている。
俺だって、まだ過去の蟠りに囚われているし、それを現状理解して受け入れようとしている。
だが、受け入れられない。
人の心には理性と本能の二つがあるが、そのうちの理性では納得できていても、本能では従えない、受け入れられないのだ。
『ノア、いるか〜?』
外からダイトの声が聞こえてきて、俺は外へと意識を飛ばす。
魔力探知によって部屋の前にまで来ているのは分かったが、何用だ?
「何だ?」
「一緒に飯行かねぇかって誘いにな〜。すでにエルフ二人はレストランに向かったぜ」
別に誰かと食べたいなんて思ってないし、何でこんなにも執着してくるのかが分からない。
それに俺の場合は、影に飯が入ってる状態なので昼食はここで取れば良い。
「リノの嬢ちゃんには悪いが、このままの方が良い。早く行こうぜ!」
「……はぁ、分かったよ」
回復能力は酔いには効かない。
薬を飲ませて寝かせたので、万が一を考えて絶影魔法を使っておく。
「『九つの神龍像』」
「うおっ!? 何だそりゃ!?」
魔法は使い手次第でどのようにも成長する、だからこそ影を広げて九つの神龍を象った像と、その足場となる柱を生み出した。
一種の結界術に似ているが、俺の魔力とリンクしているので何かがあれば即座に助けられる。
ってか、コイツにこの魔法を使うとは思わなかったが、コイツの魔力消費は発動時、それから使用時のみに限定される面白いものだ。
なので、ただ普通に存在させているだけなら、魔力は一切消費しない。
(精度がまだ浅いか……チッ)
九神龍の影像には、それぞれ役割がある。
面白い魔法を編み出したが、今回はただ守るために使わせてもらう。
これで安心度は高まった。
「行くぞ」
「え、あ、おい――その魔法についてちゃんと説明してくれよ!?」
彼の言葉を無視して、俺は彼女の部屋を後にする。
神龍像の目は俺の魔眼とリンクさせてあるため、誰かが忍び込もうならば即座に気付けるという仕組みだ。
うるさい男の言葉を無視して、俺はレストランへと向かっていった。
揺れる船内で、上手く飯を食うのはかなり難しいと思い知らされた。
まず、コップに入ってる水がすぐに零れそうになる。
料理の入った食器はグラグラと揺れ動き、食べ難いったらありゃしない。
「……」
今も、皿をテーブルと結合しても意味無いように、飯だけが飛んでいこうとする。
(パンだけにしときゃ良かった……)
まぁ、メニューにパンだけってのは無いし、こんな荒波で飯食おうとしてる奴は俺達以外にいないだろう。
「船旅って雨だとやる事無いからつまんないんだよね〜。あ、唐揚げ頂き〜」
「あ、てめ――グローリア、俺から唐揚げ盗んな!」
「なら吾輩も頂くのである」
「巫山戯んなテメェ等!」
「代わりに私のカツあげるよ」
「なら吾輩は漬け物を――」
「いらねぇよ! テメェで食え!」
二人から両バサミで食べ物が盗られていき、更に二人の苦手なものが俺の更に乗っていく。
エルフは肉が食えないという説があるが、それは宗教上の理由からであるらしく、決してベジタリアンという訳ではないそうなのだとか。
しかし、彼女からロースカツが送られてきた。
何で肉入ってる料理頼んだんだコイツ?
「ったく……エルフってお前等みたいな変人ばっかなのかよ?」
「失礼だね。オズウェルはともかく、私は常識人だと思うけど?」
何処が?
「エルフって野菜が好物だったり、肉が食えないだったり、みたいな認識があるんだが……これって本当なのか?」
「う〜ん、少し違うかな。肉はあまり食べないってだけで、苦手とかじゃないよ。それが普通かな?」
「野菜が好きってのは?」
「私は別にベジタリアンじゃないんだけど……まぁ、野菜好きな人は結構多いよね」
「む? そうであるか?」
エルフの中には変人がいるのは分かるが、こうも変人が二人もいるとは、こっちが参ってしまう。
ってか、何故か馴れ馴れしい。
まだ出会って一日しか経過していないのに、もう友達感覚だ。
これが演技ならば大したものだが、そうでないのならば俺の事をもう少し疑った方が良い。
(クソッ……漬け物、美味ぇし)
オズウェルから押し付――貰った漬け物を食ってみるのだが、意外に美味かった。
「なぁ、オズウェル。お前、二重人格なんだろ?」
どうせ暇なのだし、軽くなら聞いても構わんだろう。
そう思って、根底へと少しずつ踏み込んでいく。
「む? 話したのか、コイツに?」
「うん、君の事を知ってもらおうかと、ね」
「はぁ……余計な事を」
オズウェルの言う通り、余計な事ってのは合ってるな。
その余計な事に首を突っ込もうとしてるのが俺なんだけど、単なる気紛れと興味本位なので、聞くつもりは本来無いのだ。
時間を潰すためのもの、雨の中ではやる事も殆ど無いし暇すぎてつまらない。
「吾輩は昔、親友を手に掛けた、それは聞いたか?」
「あぁ」
「親友の名はレーゼライド、いや、吾輩がレーゼライドと言うべきか?」
「……ん?」
よく分からん。
だが、今の言葉は恐らく、主人格がレーゼライドという副人格を作り出したのだろう。
心の穴を埋めるために、その人格を形成した。
その間にあった苦悩は俺には理解する事ができない、それを理解できるのは悲しい事に自分か、或いは同じ痛みを知っている者同士のみ。
俺には助言も何もできない。
「つまり、お前は副人格って事か?」
「そうだ。主人格はずっと殻の中に閉じ籠った状態のままであり、吾輩は話し掛ける事すらできん」
「ふ〜ん」
二つの人格が形成されているが、イメージとしては二つの鳥籠の中にそれぞれ一人ずつ入っており、片方は常に開放状態、もう片方はケージの出口を閉ざした状態なのだろう。
それは俺の勝手な想像だ。
中身がどうなってんのかは知らないが、グローリアが気難しい性格だと言ったのも頷ける。
長寿であるエルフとしては、長い年月を掛けて心の傷を癒す事ができるのだろうが、年月が長ければ良いというものでもない。
エルフと人族の寿命の違いにより、考え方もズレているのだ。
「時間が経てば辛さも忘れる、と?」
「……そうなる事を願っている」
辛さを忘れても、それが自分のためにはならないのだと俺は知っている。
「願っちゃ駄目だろう」
「ふむ……それは何故?」
「忘れるって事は、自分のした事を無かった事にするって意味だろ。テメェの友達忘れんじゃね〜よ。痛みは飲み込んで受け入れるもんだ、時間で解決させようとすんな、エルフ共」
俺はエルフ達の考え方が嫌いだ。
マイペースなのは悪い事だとは言わないが、それが必ずしも美徳になるとは限らない。
「それはいつまでも逃げてるって事だ。高が十八年しか生きてねぇクソ餓鬼から言わせてもらうが、自分に甘えてんじゃね〜よ」
十八年のガキに説教なんてされてんじゃねぇよ、馬鹿エルフ共め。
痛みを忘れるなんて俺がさせない。
痛みは心の苦しみ、それは成長するためのプロセスの一つなのだから取っ払うような真似はさせないし、親友を手に掛けた苦しみに関しては逃げたら親友を裏切る行為に相当する、そう俺は考えた。
「詳しい事情は知んないし、どうこう口出しする権利が俺に無いのは分かってる。だがな、大切な人の命奪った責任から逃げる奴が、親友なんて言葉を使うな」
何故、俺はこんなにも腹が立っているのだろう。
何故、俺は彼等に説教紛いな事を言ってるんだろう。
何故、俺は苛立ちを心の中に孕んでいるのだろう。
(分からない)
だが、彼等を見ていると妙に胸が騒めく。
まるで昔、何処かで経験した事のような……
「ぐぁ……」
「ノア!?」
『何か』を思い出そうとしたが、脳に強烈な痛みが炸裂した。
鈍い痛みというレベルを遥かに逸脱した痛み、記憶領域にロックが掛かっているみたいな感覚があり、その思い出を蘇らせようとして椅子から転げ落ちる。
頭を抱えて蹲る俺を介抱しようとグローリアが近寄ってくるが、俺は手で制する。
「も、問題…無い……」
「でも――」
「俺の事は……気にしなくて良い」
「そうだぜ。男ってもんは、一人で立ち上がるもんだ」
ダイガルトの言う通り、俺は一人で立ち上がれるから誰の手も借りない。
それよりも、ダイガルトが食事中殆ど無言だったのには驚いた。
意外だ。
「いや、あんま立ち入って良い話じゃなかったもんでな、少し様子見てたわ」
「……アンタも、空気読めたんだな」
「お前さん、俺の事何だと思ってんだよ?」
「……」
記憶に関する事に思考を割いているせいで、もうダイガルトの話を聞いちゃいなかった。
誰が俺の記憶領域にプロテクトを掛けたのか、いつ掛けられたのか、鈍い感覚が全体へと浸透していくような気持ち悪さがある。
まるで底無し沼に嵌ったかのようだ。
「すまん……俺はもう部屋に戻る」
「大丈夫?」
「あぁ、じゃあな」
食事は終わってたので、このまま食器を全て返して部屋へと戻ろうかと考えた。
部屋にはリノがいたな、何処か一人になれる場所を探そう。
一人になれる場所を探していたのだが、結局は雨の降っている甲板しか場所は無く、しばらくの間、何をするでもなく手摺りに身体を預けながら海を眺めていた。
雨が降り頻る中を俺は傘も差さずにピチャピチャと雨音を聞きながら、身体を濡らしていく。
(冷たい雨だ)
身体は冷え、泥沼な思考が洗い流されていくようであるが、雨粒が顔に当たる度に昔を思い出す。
地面に倒れ、泥に塗れ、雨に打たれた自分を思い出す、その苦痛を今も背負っている。
「……」
小さい頃、正確には孤児院にいた頃は毎日のように殴られたり蹴られたりしていた。
ボロ雑巾のようになって、泥塗れになって、ゴミのように何度も何度も痛め付けられた。
それでも自分が歪まなかったのは、一人の少女が俺を暗闇の中から引き摺り上げてくれたから、そのお陰であると思っている。
(名前……何だっけ?)
遠い過去、彼女が施設から出て行ってもう十年も前になるのか、月日が経つのは早いものだ。
彼女の顔はハッキリと覚えているが、何故か名前だけ思い出す事ができず、何だかモヤモヤと霧掛かったような感覚だ。
「ま、向こうも俺の事なんざ忘れてるよな」
小さくて、弱くて、情けなかった『僕』の事なんざ覚えてないだろう。
そもそも十年前って俺八歳だな、身長体重顔付き、外見も性格も変わってしまったものだからこそ、俺の事を見つけるのは不可能に近い。
手掛かりである名前も、今では変わってしまっているのだから、もう関わる事も無い。
「ここで、何してるの?」
「……グローリアか」
気が付けば、背後に彼女が立っていた。
自分に差していた傘を俺の頭上へと持っていき、彼女が濡れてしまっている。
「少し頭を冷やしてたんだ」
「頭を? 何で?」
「何でも良いだろ。人には、ただ雨に打たれてたい時があるもんなんだよ。傘はいらん」
そうやって頭を冷やす事で、俺は自分を律していた。
頭の中がグチャグチャだ。
前世の記憶、現世での過去の思い出、そして先程の記憶領域のモヤモヤ、そういったもの全てを洗い流してスッキリさせたかった。
「フフッ」
俺の言葉に笑ったのか、雨に打たれながらも小さく笑みを浮かべる姿は、何処となく綺麗だった。
しかし笑われるとは、何処か変だったか。
「あ、突然笑っちゃってごめん。けど、知り合いに、君と凄く似た考えの人がいるの」
「俺と似たエルフ?」
「うん。外見も、性格も、性別も違うんだけど、その人も『エルフには、ただ雨に打たれてたい時があるんだよ』って、同じ言葉を言ってたね」
そんな面白いエルフがいるとは、中々に光栄だな。
「変人ではあったけど、彼女は国中の憧れなの」
「へぇ、会ってみたいな」
「アハハ……それは無理じゃないかな。今、エルシードは閉鎖中だし」
聞き捨てならない事が聞こえた気がしたのだが、エルシードが閉鎖してる、つまり鎖国状態という事か。
何でまた、そんな事になってるんだろうか?
「人族の君がエルシードに行ったら、確実に今みたいな雨のように大量の矢が降るだろうね」
「それは恐ろしいな」
「全然、そうは見えないけど……」
そんな事言われても、別に単なる矢の雨だろ?
大した事でもないだろう。
影魔法を使わなくても錬金術か、或いは精霊術、魔力操作だけでも防げるだろうな。
「まぁでも、君は良い人そうだし私は歓迎するよ。国王様達が許してくれるかは知らないけど」
「そりゃ、どうも」
なんて会話していると、俺は一つ引っ掛かりを覚えていた。
現在、鎖国状態なのだろう、閉鎖って言ってたし。
なら、何でその事を知っていて、そして何故こんな場所にいるのだろうか?
「国が閉鎖してんのに、こんなとこにいても良いのか?」
「うん。私達が外へと出た後になっちゃったから、帰ろうにも帰れないんだよねぇ」
色々と大変なんだな、エルフも。
だが、どうやって鎖国になったのを知っ――
「あ、空が……」
彼女の呟きに意識を割かれてしまったが、空を見上げてみると豪雨の空から一筋の光が舞い降りて、黄金色の線が海へと落ちていた。
その光が広がっていき、雨模様だった空が水色の世界を取り戻していく。
(雨が……止んだ)
俺の身体も暖かな温もりで包み込まれた。
雨は止んだが、まだ船は大きく揺れながら目的地へと進み続けている。
濡れた髪を精霊術で乾かして、服も水滴を取っ払う。
「へっくしゅ!!」
身体が冷えた事によってクシャミが出てきたが、風邪を引いたか?
超回復があるので、すぐに身体が回復するだろうが、魔境では風邪とかは引かなかったので、どうなるかは分からない。
もしかしたら風邪を引いたかもしれない。
風邪になったらなったで風邪薬も常備してあるため、それを飲めば安心だろう。
(寒い……)
雨に当たっていたせいだな。
本当に寒くて、身体が少し震えている。
だから、掌に青白い炎を出して身体を温める。
「精霊術、それに右手に精霊紋だね。君はエルフ?」
「耳と髪を見てみろ、何処にこんな黒いエルフがいるんだよ?」
どっちかっつ〜と、ダークエルフの方だと思う。
まぁ、ダークエルフは褐色の肌に黒や銀色の髪、長い耳を持ってるので、俺は色白なので違う。
それにエルフは『森人族』という種族だから、森の命とも言える緑色の髪、そして長い耳が特徴、ライトエルフという種族に分類される。
俺の耳は尖ってないし、恐らくだが俺の種族は半龍人だな、分類上は。
「ねぇ……綺麗だねぇ、あれ」
「……あぁ」
彼女の指差す方を見ると、七色のアーチが空一面を覆っており、雨が光を反射させて幻想的な虹を作り出していたため、感嘆の声が漏れる。
こうハッキリと虹を見たのは久し振りだが、こうして偶然見られるのは嬉しいものだ。
考え事をしている自分がちっぽけに思えてくる。
これから新たな土地を踏んでいくのだ、今は旅を楽しむ事だけを考えるとしよう。
(良い事がありますように……)
船の進む音と波の音だけが響き渡り、もうすぐで新たな土地に着くのだなと期待が胸に宿る。
欲望を満たす都市、グラットポート、どんなところなのか楽しみだ。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
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