第33話 波乱の船旅
造船所に入るにはチケット販売所で購入してから、改札でチケットを見せ、そして入場できる仕組みとなっているのだが、中には塀を飛び越えようとしたりする者もいるようで……
「あびゃっ!?」
誰かが塀から落ちていたのが見えた。
変な声が俺とダイガルトの並んでいるところまで聞こえてきたので、そちらへと視線を向けたのだが、虫がひっくり返ったような体勢で固まっていた。
何してるんだろうか?
「麻痺魔法の結界だ。そういった魔導具があるから、無闇に忍び込もうとしても見つかるんだ」
「成る程」
一年前、つまり俺が魔境へと辿り着いた後すぐにに魔導具革命が起こったのだそうで、多くの便利な魔導具が色んな人から生まれたのだと。
国を守るためのアイテムが多いように思える。
実際に目にしたが、俺なら壁を錬成して穴を開けてから中へと忍び込む事ができそうだ。
「ほれ、前空いたぜ」
ダイガルトに顎で示されて、俺は前へと進む。
この場には色んな人がいるのだが、全員が全員同じ船に乗る訳ではないし、個室も決まっているものだから廊下ですれ違ったりはする程度だ。
食堂とかでは飯が食えるのだが、残念ながら別料金が発生する。
「チケットをお見せください」
ラナから貰っていたチケットを見せ、判が押され、中へと通される。
(おぉ……)
大きな魔導船が幾つも海に浮かんでいるのが見える。
大海原を越えていく頑丈な魔導船が幾つも並んでいる中で、四番船が何処なのか探していると、地面に書かれた数字で分かった。
「ここ、か」
四番乗り場に辿り着いた。
すでに乗客が乗り込んでいるのが見えたので乗り込もうかと考えたが、リノとの待ち合わせがあるため、俺は周囲を見渡して彼女を探す。
いや、目で探しても分からないな、これ。
なので魔力を連続的に放射し続けて、何処にいるのかを探してみる。
レーダーやエコー、ソナーといった音波探知機等をイメージの参考としており、同心円状に魔力の波を流し続ける事で周囲の動きも鮮明に見えてくる。
「……見つけた」
使い手次第では武器にもなり、探知の道具にもなり、または暗殺のための暗器にもなり、身体を強化する活性剤にもなる、それが魔力だ。
俺の場合、攻撃には武器に魔力を纏わせるというだけの補助的道具として普段使っている。
魔力は千差万別、俺の戦い方に合わせるのならば武器よりも探知や隠密に適していると判断し、一年で魔力糸や探知術、隠形等の方向に力を集中させてきた。
つまりは攻撃以外に力を向けたのだ。
探知には少しばかりの自信があり、受動的探知によって彼女に俺の居場所を伝えた。
「ここにいたのか、ノア殿……」
彼女は俺の探知に気付いたようで、キョロキョロとして俺の方向へと小走りで来た。
不思議そうな顔をしている。
まぁ、相手の魔力が伝わってくる感覚は少しばかり違和感を感じるため、言いたい事は分かる。
「今のは?」
「魔力による波動探知だ。波を特定方向に集中させると相手に自分の居場所を伝えられる」
「面白い使い方だな」
魔力操作が苦手だと言うリノにもできる技が幾つかあるので、これからの旅で合間を縫って教えられたら良いだろう。
正直なところ、彼女には胡散臭いと言う言葉は言い過ぎだが、信用できない部分が幾つかある。
まず、差別するつもりは無いが彼女は人とは違う血を少なからず二つは持っている、それによって何かしらの過去があるはずだ。
聞きはしないが、差別されていた事も容易に想像できるし、俺を信用してないところもあると思う。
「精霊界に行くんだったら、魔力操作は必須だ。だから今日から魔力操作の特訓をしようと思う」
「わ、我は不器用だぞ?」
「それは見りゃ分かる。お前の戦い方に合わせてメニューは考えてあるから安心しろ」
彼女の戦闘スタイルは精霊剣を使っての戦い方だが、協会の時のように剣が使えない場合も考えて、攻撃と防御に集中させるのが良い。
探知は予知能力があるから不要と判断して、せめて身体強化くらいはできるようにしたい。
それに彼女の体内には精霊回路があるから、精霊術も使える。
今は精霊剣の補助無しでは使えないようだが……
「おいおい、おっちゃん置いてくなよな〜」
「ダイト殿か、商会の依頼を受けたと聞いたが」
「あぁ、受けたぜ〜。まぁ、常にキースの護衛しなきゃならんから面倒だけどなぁ」
後ろからダイガルトが現れた。
もしも予知能力が無かったら、この男に師事してもらうのが最適なのだが、探知術は必要無いだろう。
「んで、二人で何を話してたんだよ?」
「ノア殿が魔力操作を伝授してくれると言ってたのでな、その事についてだ」
魔力は不思議な生体エネルギーであり、前世には無かったものだ。
しかし師匠のお陰で魔力の概要は掴んでるし、教える事自体は可能なのだが、彼女の魔力制御術に関しては俺が教えても良いかは悩ましいところだ。
免許皆伝した訳でもないので、他人に教えても支障無いかが判断し辛い。
「魔力操作か。確かに冒険者には必須の能力だが、俺ちゃんも魔力操作は苦手でねぇ」
「なら何故Sランクにまで登り詰めたのだ?」
「特攻探索師の持つ魔法だな。探査魔法っていう魔法で、広範囲に使えるからこそ探索が非常に楽なのさ」
魔法の概念は大まかに把握しているのだが、俺は普通の属性魔法は使えない。
『適性』と呼ばれる情報体が魔力に備わっており、その適性と合う魔法しか使う事ができないというのが常識となっている。
俺には適性が無いため、固有魔法の影魔法以外は一切使えない。
生活魔法は適性を除外した、謂わば魔法以下の魔法というものであるため、俺でも普通に使う事はできるのだが、攻撃力とかは備わってないので戦闘に使えない。
「魔法は専門外だ。俺が教えられるのは魔力操作のみ、俺は適性持ってないからな」
「無属性なのか?」
「あぁ、小さい頃に適性検査を受けたが、無属性だって出たよ」
だが、そのお陰で魔力譲渡が可能となっている。
逆に相手から魔力を吸い取る事もできるのだが、人に試した事が無いので効率は悪いだろう。
「珍しいどころのレベルじゃないぜ。無属性なんて初めて見たぜ」
「残念だが俺は魔法が使えないからリノに教えられん、知りたきゃ魔法使いにでも教えてもらえ」
もしも仲間に魔法を使える者がいれば、ソイツから教わりたいものだ。
魔法の勉強はしてきたが、魔法を使えないと分かった時点で俺は即座に諦め、自分の道を模索した。
固有魔法を持ってるのだが、これは普通の魔法とは逸脱した力であるため、教えるためのプロセスの幾つかは破綻してしまっている。
(結局は自分を苦しめるだけだったが……)
模索した道中で手に入れたもののお陰で、俺は一人でも生きていける。
その代わり、色んなものを落としてきたし、二度と元には戻れぬところまで歩いてきたという自覚があるから、俺は今を必死に生きている。
「ともかく、魔力操作だけなら俺が効率良く教えられる。俺の魔力には情報体が無いから、魔力譲渡によって回復も可能だ」
「そりゃスゲェな。だが、それって大丈夫なのか?」
至極当然の疑問だが、俺の魔力は自然とほぼ同じなので譲渡しても相手にリスクは無い。
暗黒龍から力を授かったし魔力総量も圧倒的に増えたが、魔法は一才使えなかったために情報体が無いのは本当だ。
普通の人間が相手に魔力を送れない理由は情報体が関係しており、自身の情報体と相手の情報体が反発し合って適合しないため、魔力を送ると身体に激痛が走り続ける事になる。
しかし俺ならば相手に魔力を渡しても相手が激痛を引き起こしたりしないので、効率良く魔力操作を教えられるのである。
「問題無い。コイツが魔力を使い果たしても即座に補填可能だ」
「へぇ、マジかよ」
魔力を際限無く生成できる事は言わない方が良いだろう。
知られたらきっと、利用されて捨てられるに決まってるからだ。
「取り敢えず船に乗ろうぜ〜。こんなとこで駄弁ってたら乗り遅れちまうからなぁ」
「まぁ、そうだな」
確かに、そんな事になったら洒落にならない。
ダイガルトとリノの二人が船へと向かっていくため、俺も船に乗るために二人の後を付いていく。
船旅というのは久し振りだ。
この世界では船で旅した事は無かったが、このチケットが次の道へと繋げてくれる。
(行ってきます、ラナさん)
心の中で師匠へと別れを告げ、俺は新天地への一歩を踏み出した。
船には多くの人間が乗っていた。
恐らくと言うか、普通に考えてグラットポートに行く人達がこの四番乗り場に停泊していた船に乗ったのだと分かるが……
「テメェ! ワザとぶつかっただろ!?」
「あぁん!? 巫山戯てんじゃねぇぞ!」
と、冒険者同士が喧嘩しているのを甲板で見られたが、周囲に野次馬が発生していた。
どっちが勝つのかと応援していたりする目の前の光景、それは俺には理解し難いものであり、同時に下らないものだと思っていた。
「ノア、俺と賭けをしようぜ?」
「断る。分かりきった勝負なんてする気にはならない」
甲板へと出るドア付近の壁に背を付けて、俺とダイガルトは喧嘩を静かに見守っていた。
この船に乗り始めて一時間が経過したが、もうすでにガルクブールが見えなくなっていたので海をボーッと眺めていたところ、ダイガルトが話し掛けてきたので暇潰しに他愛の無い話をした。
そしたら喧嘩が始まり、少し離れた場所で眺める事になったのだ。
因みにだが、リノは一時間もしないうちに船酔いになったので、部屋のベッドで休んでいる。
「へぇ、ならどっちが勝つのか分かってるって事か?」
「あぁ」
喧嘩してるのは二人、片方はスキンヘッドの大きな身体を持つ男、髭を生やして背中には大斧が背負われているところを見ると、職業は斧戦士、或いは木こりかな。
もう片方は小柄な体格にバンダナがトレードマークの小人族、背中に弓が背負われているのと、腰には短剣が二振り鞘に収まっているため、恐らくは狩人だろう。
「恐らく小人族の方が勝つだろうな」
身体が小さい、それは不利に思うかもしれないが、この世界には魔力という概念があるため、筋力差なんて簡単に覆る。
そこから考えると、バンダナをした小人族の方が圧倒的に強いのが分かる。
しかもいちゃもん付けられた方だからな、正当防衛が認められれば、大男をボコボコにできる。
「茶番だな」
「冷めてるなぁ、お前……」
答えが分かってんのに、あれこれ考えて結果を導き出そうとしてるようなものだ。
だが、こんなところで暴れられると俺達乗客にまで被害が及ぶため、そこまで考えての行動なのかといったところが問題だ。
ただ、甲板に穴を開けないでくれ、と願う。
「止めないと最悪、船が沈むぞ」
「な〜んで俺ちゃんの方を向くのかな〜?」
「アンタS級だろ。俺はF級、喧嘩を止めるのは無理だからな」
「白々しいなぁ。俺より強い癖に、そりゃ屁理屈って言うんだぜ?」
影魔法を使えば空さえも飛べるから、沈んだところで俺には不利益が生じない。
いや、チケット代が勿体無いな。
それに魔法を使うための魔力、それから労力が無駄だと思ってしまった。
「ダイトのおっさん、三秒以内にしゃがまないと首飛ぶぜ」
「へ――うぎゃっ!?」
俺は少しだけ首を横に傾けて、ダイガルトはしゃがむのだが、その情けない声は何だよ……
大きな斧が回転しながら、ダイガルトの頭スレスレのところ、数ミリ上に突き刺さったが、しゃがまなかったら綺麗な赤い噴水が見れただろう。
俺も斧の柄が擦りそうだったので首を傾けたのだが、柄の部分が減り込んだので首を戻す。
「危ねぇなクソ餓鬼共!!」
大人気ないな、Sランクだろうに……
「んだよジジイ? 誰か知んないけど俺っちの邪魔すんなら、アンタもハゲと同じようにしてやろうか?」
スキンヘッドの大男は、泡を吹いて地面に倒れてしまっている。
涎垂らして汚いな。
チビの方は随分と舐めた態度だが、強いのは見れば分かるし、ダイガルトでも少しは手こずるだろうな、きっと。
まぁどうせ、勝つのはダイガルトの方だ。
レベルはダイガルトの方がよっぽど上だから、実力差がかなり開いてる。
そんな事を考えている間に、第二ラウンドが勝手に開催されていた。
(アホ共め……)
互いに短剣同士の戦いが行われる中で、俺は二人の戦いを観察する。
「死ねジジイ!!」
「俺はまだ三十代だよクソ餓鬼!!」
金色の髪を靡かせて短剣を首へと届かせようとしている少年、特徴としては中立的な顔立ちに小柄な体格、狩人のような格好をしており、ローブを身に纏っているせいで暗器を隠し持ってるように見える。
しかし、しなやかな動きとかを見ていると、何だか違和感を感じる。
(ダイトのおっさん、明らかに手加減してんなぁ)
左腕しか使ってない。
右手にも短剣を持ってはいるが、そっちの短剣は攻撃にも防御にも使っておらず、ただ握ってるだけ。
流石に船を壊すのは駄目だと判断したか、あのおっさんなら数分もすれば無力化できるだろう、油断しなければの話だが……
「貰った!」
チビが回し蹴りを放った事でダイガルトが少し後ろへと下がり、その隙を見逃さずに崩れた体勢の中でチビが矢を番えて、弦を放した。
しかし、距離があったせいでダイガルトに矢をはじかれてしまう。
惜しいな、もう少し早く射出できてれば左腕に命中したかもしれないのに。
いや、さっきの回し蹴りも横腹に当たる瞬間、肘でガードすると同時に斜め後ろに下がっていたため、度肝を抜かれる程の反射神経だと称賛する。
「おいおい、他の客に当たっちまうぜ?」
「うるさい! 俺っちの邪魔するってんなら打ちのめすまでだ!」
猪突猛進、その言葉がお似合いの猛進撃を繰り広げる小人族のチビだが、ダイガルトは余裕の表情であしらっているので一方的な試合運びを見せている、本当につまらない勝負だ。
結果が見えている、そんな勝負は好きではない。
連続で跳躍しながら短剣を振り回す様はまるで狩る側の人間に見えるが、外側から俯瞰してみると分かる、どっちが狩る側で、どっちが狩られる側なのか。
(流石はSランク、あしらい方も心得てるようだ)
油断せず、相手も殺さず、それでいて勝つ事を考えている人間とは末恐ろしい。
並列的な思考をしているのか、はたまた考えずに天性の戦闘センスだけで手加減してるのか、もしも後者ならば俺よりも化け物だ。
「……」
中々決着が着かない。
理由はダイガルトが手加減しているだけでなく、相手の力量も測っているからだ。
敢えて隙を見せて攻撃させ、その攻撃を避けるか受けるかしてから反撃に転じている、だからこんなにも手間取っている。
「後二十七手、か」
チビが前へと出て短剣で横薙ぎ、その勢いで回転して踵で足を引っ掛けて転がす。
尻餅着くダイガルトへと持っていた短剣を投げ、それを打ち払った体勢を狙って顔面へとパンチ三発、それすらも避けられて鳩尾に蹴りを入れられる。
これで七手が終了、残り二十手。
「避けるなジジイ!!」
「いやいや、避けなきゃ死んじゃうでしょ」
間髪入れずに再び前へと出たチビが、今度はもう片方の短剣で斬り込んでいく。
一撃、二撃、三撃、全てダイガルトが左手に持つ短剣で弾かれる。
それを見越していたのか、そんなの関係無しとばかりに飛び込んで鍔迫り合いへと持ち込もうとしたが、それを読んでいたかのように半歩ズレて足を出して転がした。
転んでいる間にも、その進行方向に投げていた短剣を拾って二刀を構える。
(俺みたいな戦闘スタイルだな……)
短剣二本というところだけ似ているのだが、戦い方として動きが一本よりも鈍い。
魔力強化できていないせいで、小人族という種族の筋肉量の少なさが、手に持つ短剣二本の重さとバランスが取れておらず、重心が傾いている。
これでは、種族的優位に立てる敏捷性を自らが削いでいる状態となる。
(戦い方は素人、と)
残り十六手、二本の短剣で飛び掛かって斬り付けていくのに対し、一本で防ぎ続ける。
その時、大きく船が揺れ出して何人かが海へと落っこちていったのが見えた。
「うわぁぁぁ!!」
「クラーケンだ!」
「逃げろぉぉぉ!」
おいおい……何でこんな時にクラーケンが出てくるんだよ、可笑しいでしょ?
なんて考えたところで事態が好転する訳でもなく、デッカいイカモンスターによって甲板は混乱状態となっているので、ただモンスターを観察する。
一般人が逃げるのは分かるが冒険者も逃げようとするとは、腰抜け共め。
クラーケンと呼ばれていたモンスター、巨大なイカであるのだが、紫色に加えて触手に棘が生えているため、普通の巨大イカではない。
「ダイトのおっさん、仕事だぞ」
「あぁ? んだよ面倒臭ぇ」
そっちへ視線を向けると、ダイガルトがチビの背中を踏みつけて地面へと抑えつけていた。
餓鬼相手にムキになりすぎだ、あれが大人とは絵面的に児童虐待だな。
「何でこんなとこに『アビスクラーケン』がいんだ?」
「俺に聞くな。それより、チビ放してサッサと退治してくれよ、揺れが鬱陶しい」
「だったら自分でしやがれ!」
文句を言われてしまったか、護衛依頼受けてる奴の責任だろう。
注意深く観察してみると、脳……ん?
コイツの脳って何処にあるんだ?
いや、まぁ良いか、頭の出っ張ってる場所かな、そこに使役魔法が使われているのが見えたので、またナトラ商会の調教師の仕業だろう。
それより問題なのが、船の下にクラーケン以外のモンスターが何十匹もいるという事だ。
「ダイトのおっさん、ヤベェ」
「どした?」
「船の下、モンスターが少なくとも十五匹、目の前のイカレベルなのが沢山いる」
「「はぁ!?」」
チビまで驚いている。
まぁ、軽く抑えているだけなので、話は聞ける。
そんな事はどうだって良い、今は海の中に大量のモンスターがいるのと同時に、モンスターが全てこちらを狙っている事を問題視すべきだ。
(おいおい……こんなに強いモンスターを全て調教? どんな化け物調教師だよ?)
最初はCランク程度のクギバチドリだけかと思ったのだが、記憶消去に使ったリーテール、そして今度はアビスクラーケンというAランクモンスター、他にも強いモンスターがいる。
ここには乗客もいるが、それなのに形振り構わないという訳か。
まぁ、乗客が死のうがどうでも良いんだが、このままだと全滅するし、未来予知能力を持つリノも死ぬ可能性がある。
蘇生させられるが、倒した方が楽だと判断した。
不本意だが……やるか。
「なぁおっさん、アンタ……口は堅い方か?」
「ん? あぁ、まぁな。Sランクにもなると秘密が沢山あるもんだ」
「そうか、なら良い。チビ、お前は船内に戻ってろ、戦闘の邪魔だ」
「なっ!? お、お前何様のつ――」
首筋へと強烈な手刀を繰り出し、気絶させておいた。
流石に邪魔すぎる。
信用する信用しない以前の問題なので、気絶させたチビに関しては扉の向こうへと放り投げた。
「ノア、何するつもりだ?」
「今から近海にいるモンスターを一掃する。おっさんはキースのとこに戻ってやれ」
そもそもダイガルトが仕事してるようには見えないため、仕事しろという意味も込めて言った。
「いや、俺が作った護符を渡してある。危険が迫ったら一時的に守ってくれるようにしてあんだよ」
「そう、なのか……便利だな」
それも特攻探索師という職業によるものなのかもしれないな。
そんな能力を使ってるから、キースに危険が迫れば対処可能という事か。
しかし、常に護衛しなきゃならんから面倒だと言ってたはずなのに、ここで俺なんかに構ってても良いのだろうか?
「んで何で準備運動?」
「潜る」
「は? おまっ――ば、馬鹿か!? 自分から死にに行く奴があるかよ!?」
自殺志願者じゃないんだ、そんな事はしない。
勝算があるからこそ、こうして準備運動して飛び込もうとしているのであって、邪魔するという事は船を沈めるという意味を持つ。
「ならお前が退治するか?」
「うっ……いや、流石に無理だ」
強烈な殺気によって、ダイガルトを牽制する。
「……できるんだな?」
「そりゃ、愚問ってやつだ」
準備運動を終えたので、俺は甲板の縁を飛び越えて海へとダイブした。
このままでは俺まで餌になってしまうからな、飛び立つのも逃げてるようで何故か嫌だと思ってしまう、これは戦うしかあるまい。
「あ、おい待――」
俺の邪魔をしようとするならば、誰であろうと何であろうと対処するのみ。
障害を排除するため、揺れる大海原へと身を投じた。
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