第32話 新たな旅立ちへ
カーテンの隙間を縫い、太陽の光が顔に当たる。
意識が覚醒して瞼を開け、身体をゆったりと起こしてベッドから這い出た。
「……今日は晴れ、か」
四月一日、今日はグラットポートへと向かうために、直接造船所へと行く事となっている。
ラナさんからチケットを貰ってるので、心配は無い。
『う〜ん……もう食べられにゃい……』
枕の上でスヤスヤ眠っているのは、小さな身体が淡く光っている精霊の子、ステラだ。
掌サイズで眠っているのだが、精霊も夢を見るとは驚きだな。
寝言なんて初めて聞いたし、魔力の塊のはずだろう、夢なんて見るのだろうかと疑問に思うのだが、気にしても大した意味が無いと判断した。
(着替えよ)
今の俺の格好はラフな半袖長ズボン、このまま外へと冒険に行こう、なんてしたら奇怪な目で見られるのは間違い無い。
影から衣類を取り出して、それに着替える。
白のワイシャツに黒のズボン、そしてフード付きのパーカーを身に纏う。
これ等の服は全てモンスター素材をベースにした特殊繊維を編んだものだ。
なので耐火性や耐水性とかには優れている。
剣で斬られたりすると普通に斬れてしまうのだが、魔力を纏わせれば鋼鉄以上の強靭性をも持つようになるため、重宝しているのだ。
まぁ、残念ながら猫女との戦いでは、そんな余裕すら無かったし忘れてた訳で、腕を斬り落とされたりして焦ったものだ。
『お兄ちゃ〜ん、朝だよ〜』
木漏れ日亭の看板娘が起こしに来てくれたらしい。
ドアの外からノック二回、朝餉の通告が一回あった。
このまま無視する訳にもいかないので、着替えを済ませて扉を開けた。
「おはよう、お兄ちゃん! 朝ご飯の時間だよ!」
「すぐ行くよ」
嬉しそうにはにかむ十歳の少女は、踵を返してステップ踏みながら下へと降りていく。
時間通りに行かないと、折角用意してくれた飯が冷めてしまうため、ステラを置いて部屋を後にした。
(今日はシチューか……良い匂いだ)
芳ばしい香りが宿全体に漂っているようで、朝から腹の虫が鳴り止まない。
この身体となってからは胃袋も随分と大きくなったようで、沢山食べれるようになったのは良いのだが、そのエネルギー変換の効率が良すぎるのが難点だ。
すぐに腹が減ってしまう。
暗黒龍に力を授かってからは身体を鍛える事に集中していたので、あまり気にしてなかった。
しかし冒険を初めて一ヶ月、朝から沢山食べておかないと昼にはダウンしそうだ。
「おはようさん、今日も起きてたかい」
「あぁ、基本、大抵同じ時間に起きられるように規則正しい生活を心掛けてるからな」
女将の目の前、カウンター席に座った。
ここが俺のポジションなのだが、別に何処に座っても自由となっている。
この宿に知り合いはいないので必然的に一人になってしまうが、女将と話すようになってからはこうしてカウンター席に座って食べている。
「今日出発なんだろ?」
「あぁ、朝十時には出発する事になってるよ」
船に乗った事が無かったのだが、一応酔い止めの秘薬や頭痛薬、他にも船酔い対策を練って用意はしてある。
ま、この身体は恐らく三半規管や脳さえも強くなっているだろうから酔う事は無いと思うのだが、それでも絶対じゃない。
乗り物酔いには正式名称があったはずだ。
動揺病、これは乗り物の揺れ、不規則的な加減速の反復といった内耳情報、視覚的情報、それから身体に受ける振動情報等が情報伝達として脳へと送られる事で、脳が混乱を引き起こし、それで自律神経系にも影響を及ぼし、最終的に酔う。
このメカニズムを知ってるだけでも、対策はできる。
しかし、この世界の住人達にはそのような医学的知識は持ち合わせていないため、別の方法で問題を解決しようとする。
それが魔法、或いは魔法薬だ。
魔法に関しては、回復魔法よりも精神魔法の方が気を落ち着かせるために適応し、魔法薬は俺が作った酔い止めもそうだが、もっと根本的なものだと、回復ポーションとかでも効果はある。
(だが、ポーションは一時的なものだし、酔い止めに使うのは金が勿体無いからなぁ)
その方法だとコストが問題になってくる。
上流貴族ならば大した苦労もせずに手に入るだろうが、回復ポーション自体、流通してない。
理由は簡単、錬金術師という職業が外れ職業だと揶揄されている一端だ。
錬金術師は回復ポーションを低級しか作れない、なんて思われているところだ。
「完成だ。今日は特製チキンチーズトーストさね。熱いうちに食いな!」
「あぁ、頂こう」
俺は手を合わせて食べ始める。
ふむ、トロトロのチーズがチキンと食パンと絡み合っている。
更にゴツゴツとした分厚いチキンを噛む度に肉汁が溢れ出てくるため、本当に美味しいものだが普通なら胃もたれするだろうな。
こんな朝早くに食わせるべき飯じゃない。
「流石は女将だ。美味いな」
「ハハ、そりゃ良かったよ。アンタに教えてもらった方法のお陰で、柔らかいのを提供できるさね」
この世界には色んなパンが存在している。
それも勇者召喚が以前、何度か行われた結果なのだが、その異世界の勇者達から齎された異世界の技術はこのクラフティアにも影響を与えた。
今では普通のパンのみならず、クロワッサンや食パン、コッペパンにフランスパンとかもあったはずだ。
パンの材料は小麦粉、その中に含まれるデンプンとグルテンによって美味しいパンができあがるのだが、パンは時間経過と共に水分が抜けて固くなっていく。
それを防ぐ、と言うよりも柔らかさを復活させる方法を幾つか教えただけである。
俺からは別に秘匿するような事でも無かったので、女将が『知り合い達に教えたい』と言ってからは、ガルクブールの半分近くの宿で実践されてる方法となっていたので、女将の情報網に驚いた。
(チーズにセロリも混ぜたのか……これはこれで中々美味いな)
ビョーンと伸びるチーズ、そのチーズに隠れるようにしてセロリも料理に含まれていたらしい。
その原型が口の中で噛み砕かれる。
セロリは水分が豊富なので、それと一緒にパンをビニール袋に入れておけば、セロリの水分をパンが吸収してフワフワのパンへと戻るらしいのだ。
前に実践してみたが、中々にフワッフワのパンができがったので便利だ、なんて思ったのだが、錬金術師である俺ならば、水とパンを上手く結合させればフワフワのパンに元通りに戻せる。
こんな知恵は前世の記憶にあったものだ。
意外と主婦達には役立つ情報だと、母が言っていたような気もする。
(この力は前世の記憶よりも遥かに役立つが……)
その分、危険もある。
錬金術師は低級ポーションしか作れない、それは大きな間違いである。
この職業には武技が無いせいで、大半は自覚できていないだけだが、錬金術師の扱う力は最早異能と呼べる代物であり、使い方次第では如何様にも変容してしまう大変恐ろしいものだ。
ポーションだって、レシピさえ分かれば中級、上級、最上級、と上位のものが作れる。
しかも、ただの回復ポーション以外でも、体力や魔力、精神回復のポーションだってあるし、霊薬とまで言われる秘薬、万能薬だって創れてしまう。
それには素材が必要になるが、作ろうと思えば作れる、つまり外れ職業ではないというのが俺の見解だが、これはおいそれと広めて良い類いの情報でもないので、俺は錬金術師という職業を隠して日々を過ごしている。
(大抵は精霊術師って言っときゃ、簡単に騙されてくれるもんなぁ)
「アンタ、百面相してどうしたんだい?」
感情は変化してないはずだが、これが母親という力なのか、常に子供であるミリアを見ているからこそ、感情には機敏に反応できる。
表情を変えないよう、気を付けよう。
「ふぅ、ご馳走様でした」
作ってくれた者達、この食ができあがるまでに携わってきた人達に感謝の念を込めて、手を合わせて合掌した。
席を立ち、部屋へと戻ろうとすると、不意に女将に声を掛けられる。
「もう行くのかい?」
「あぁ、少し荷物点検したら出てくよ」
「そうかい。なら、宿を出る時になったら私に声を掛けてね」
「分かった」
少し寂しそうな表情をしていたのだが、一ヶ月間ここで生活していたため、俺としても名残惜しい気持ちもあるっちゃある。
だが、俺は冒険者として次なる都市へと向かっていく、冒険心が疼くから。
階段を登り、部屋へと帰ってきたところで精霊娘はまだ眠っていたようで、気持ち良さそうに涎を枕に垂らしてゴロゴロしてた。
「……まぁ、後でいっか」
今、彼女を叩き起こしたところで結局は何もする事が無いだろう。
なので、荷物点検をしている間は寝かしておこうと思って影から荷物を取り出して点検を始めた。
時間は七時半、八時半くらいに宿を出れば充分間に合うはずだ。
十分前行動を目安にしろ、そう前世でよく母に言われてきたものだが、もう会えないのは分かっているし、この思いだけは忘れないようにしよう。
日も昇り、キラキラと埃が舞い上がっている。
チンダル現象だったか、部屋に入ってくる斜めの光の線が見えている。
宿を出払うので、その光の場所に置かれている荷物を簡単に纏めて、それを背負う。
薬草類やポーションの類い、必要なアイテムを纏めて入れた大きなショルダーバッグに関しては、影へと仕舞っておく。
「よし、行くか」
『お〜!』
頭の上にちょこんと乗った精霊娘と共に、部屋を出て階段を降りていく。
(まだ朝の八時半か……)
ならば歩いていく道すがら、屋台で買い物したりできそうだ。
他にも何か面白い物とかがあれば、買い物していくのも良いかもしれない。
とか考えて、遅刻するパターンだな、これ……
「ステラは何処か寄りたい場所はあるか?」
『う〜ん……あ、串焼きおじさんのとこ!』
一ヶ月前、それから約二週間前に串焼きのおっさんのとこで串焼きを買ったが、どうやら気に入ったらしい。
どうせしばらくの間、ガルクブールには来ないだろうから大量に買い込んでおこうか。
それかレシピを教えてもらうという手もあるだろうが、流石にレシピを教えてもらうというのは商売人にとっては致命的な事だ。
十中八九、教えてくれないだろう。
「あ、ごめん無理だ」
『え〜何で〜?』
「いや、だっておっさんのとこ、俺達が向かう場所と正反対じゃん」
地理的に考えて不可能だ。
少し戻らねばならないので、時間的に微妙な中では串焼き店へと行くのを断念せざるを得なかった。
「ほれ、前に買った奴があるから、これで我慢してくれ」
『ちぇ』
不貞腐れているのだが、ちゃっかりと影から取り出した串焼きを美味しそうに食べている。
元々食おうとしていたものだったのだが、食う機会が無いままとなっていたので、時間が止まったままだった事もあり、熱々のままの串焼きを二人で食べる。
『ねぇ、ノア』
「ん〜?」
『グラット何たらってとこに行くんでしょ? どんなとこなの?』
ガルクブールの時もそうだったが、国の名前を覚えるのが苦手らしい。
地理が苦手なのか、それとも単に長い名前を覚えられないのか、どっちでも良いが、取り敢えず簡単な概要から説明するとしよう。
「グラットポートってのは、別名『財宝都市』って言われてるくらい有名な都市なんだ。陸海空、そのどれもが流通ルートとして国に集まって、様々な交流が成されてる場所なんだ」
『ふ〜ん』
つまり物々交換だったり、値札市だったり、オークションだったり、闇市だったり、色んな市場が揃っていると言っても過言ではないくらいの場所だ。
だから、よく金が動く満腹の街、なんて言われ方もしているのだとか。
「だから色んな物や、色んな種族がいるらしい」
『へぇ』
「ってお前……興味無いだろ?」
『そ、そんな事無いわよ』
返事が適当なので、そう疑うのが普通だろう。
この精霊とは一年以上の付き合いだが、未だによく分からない部分が多い。
今だって本心で語ってるのか、それとも噓吐いてるのかは魔眼からではなんとも言えないグレー状態だ。
半分興味あって、半分興味無い、という感じか。
「グラットポートには精霊族もいるかもな」
『ホント?』
「さぁ」
精霊族は希少種族の一つなのだが、基本的な違いは見当たらない。
あるとすれば背中に蝶のような羽根、それから尖った耳が特徴なのだが、数十年前から精霊族は姿を見せていないそうで、精霊界に還ったのではないか、なんて噂も真しやかに騒がれていた。
それでも人の噂は七十五日、三ヶ月もしないうちに噂は消えてしまったそうだ。
「ってか、四分の一だが精霊族いるだろ、身近に」
『リノの事?』
「あぁ」
青い髪に綺麗なワインレッドの瞳を持つ案内人、彼女も精霊の血が混ざってるため、一応は精霊族の部類にも入るはずだ。
彼女は混血であるため、何処にも居場所が無かった。
しかし、現在は精霊界に行くために俺さえも利用しようとしているため、俺は俺で彼女に使い道があるという、互いに利用する関係で仲間になった。
少なくとも精霊界へと行くまで、或いは俺以外に精霊界へと繋がる者が現れるまでは安全だ。
「確か魔族の血も混ざってたんだったよな」
『うん。お父さんが半魔だったんだって』
「あぁ、そうだったな」
ギルドの試験中に二人で話してたのを聞いていた。
狸寝入りするつもりじゃなかったのだが、ステラが余計な事を話さないか気が気でなかった。
俺が勇者パーティーの元一員だった事については一応口止めしてるので、後はどれだけ守ってくれるかだ。
(最悪、記憶を奪えば良いし、今は放置しても問題は無さそうだな)
場合によっては記憶領域に干渉して消すつもりだが、そんな事をするのは本意ではない。
『おーしょん、だったっけ?』
「……オークションの事か?」
『そう、それ! 何か買うんでしょ?』
買うって言い方には少し語弊があるのだが、まぁ似たようなものだ。
相手と競い合って金を提示し、その上で一番高く提示した金額の持ち主が競り落とせるという、何というシンプルなルールだろうか。
いや、シンプルだが意外と奥が深い。
もしリノの未来予知能力が無ければ、心理戦にも成り得るはず。
相手の所持金によっては、手が届かない場所にまで金額が吊り上げられるのだが、無駄な吊り上げは無駄な分だけ浪費するため、見極めが必要だ。
その分、俺はリノの予知能力があるため、物凄く有利だろう。
(いや、貴族の中にお抱え未来師でもいたら、こっちが負けるか……)
どうなのだろう。
未来予知能力の精度にもよるが、ある程度見えているのならば、俺がどれだけ金を持っているのか、なんてすぐに気付くはずだ。
ここは異世界、普通のオークションな訳がない。
職業的能力、それが運命を左右するだろう、どれだかの金額で競り落とせるかが鍵となろう。
『何買うの?』
「奴隷だな」
『他には?』
「いや、特に目ぼしいものは……」
無いはずだが、その時の気分次第ではもしかしたら何かを競り落とすかもしれない。
それにキースに馬車に乗せてもらった恩義があるし、カタログとかも見せてもらったりしたし、彼と敵対するナトラ商会に嫌がらせしたりもするかもしれない。
リノにナトラ商会限定で予知させておけば、どれだけ金を持ってるかは分かるし、上手く金額を吊り上げてやれば欲しい物を高額で購入させる事は可能だ。
『ノア、悪い顔してる〜』
「まぁ、実際にナトラ商会ってとこは良い噂を聞かないしな」
暇な時に調べてみたのだが、ナトラ商会というところは何やら黒い噂が絶えなかったのだ。
人身売買、非合法な薬品の流通、他の商会への過剰な攻撃といったものばかりだ。
二週間前にも、ナトラ商会に襲撃紛いの嫌がらせがあったし、一ヶ月前にもモンスターを使役してワザと襲わせたりしてたし……
「何者だ?」
『ノア、何か言った?』
「いや何も」
ついボソッと呟いたのが聞こえてしまったらしい。
反射的に返事をしたのだが、お抱え調教師は一体誰なのだろうか。
記憶を消す『リーテール』というモンスターも持ってるので注意が必要だ。
「何を悩んでんのかは知らないけど、俺ちゃんみたいに気楽に生きようぜ〜!」
「それは無理だ。楽観的になんて――」
一瞬幻聴のような気がしたが、そのまま後ろを振り向くとダンディーなおっさんが立っていた。
黒い髪に真っ赤な瞳を持つSランク冒険者、ついこの間まで片腕無かったのを俺が治した、迷宮王ことダイガルト=コナーがいた。
通常ダイトのおっさんだ。
いっつもニコニコしてるのだが、それは女の子だから許される事であって、おっさんがニコニコしてても気持ち悪いだけだ。
「ダイトのおっさん……キースの護衛じゃなかったか?」
「船に乗ってからだがな。そんで、お前さんを探してたって訳よ」
大きな荷物を背負っているところは同じ、この男も冒険者という事だ。
しかし俺を探してたとは、どういった用件だろう。
「まだ九時だし、友人と朝の散歩をしたくてな」
ダイガルトの周囲には黒い靄のようなものが掛かっていたので、嘘を吐いてる、つまり本心でない事が分かる。
魔眼というのは基本片目だけなので虹彩異色症になるのだが、俺の両目の魔眼はそれぞれが蒼色ではあるものの、右目に関しては発動時のみ別の色に変わる仕様なので、誰も俺が魔眼を持ってるとは気付かない。
「建前は良い。用件だけ言え」
「んもぅ、連れないわね〜」
気持ち悪い笑顔に加えて口調や仕草も近所に住むおばちゃんのような、まるで悍ましいものに変わったので、即座に退治しなければ汚染される。
俺は睨みつけて選択肢を与える。
「今すぐ用件を伝えるか、金的食らわせて身体まで女にしてやろうか?」
「いや、あの、はいすみません! だから蹴り入れようとしないでください!?」
俺が本気だと悟ったようで、急所を押さえて後退りしていた。
「フラバルドにいる知り合いからパーティー組もうって話が来てな、まだパーティーの件で返事貰ってなかったから聞きに来たんだ」
「……フラバルドか」
リノも行きたいと言ってたな。
フラバルドへの行き方はどうするのか聞いてみたが、ラガロット湿地帯を進むそうで、湿地帯を越えるための乗り物モンスターが貸し出されるらしいのだ。
小さな飛竜なのだが長距離は飛べないのだとかで、乗り物に使われている。
「どうだ?」
「決まるのは多分オークション後になると思う。それからでも構わんか?」
「あぁ、良いぜ」
なら良かった。
とは言ったが、俺としてはソロ冒険者であるはずの迷宮王が知り合いとパーティー組むって何だか想像できない。
もしかして誰かに騙されてるのかもしれないが、相手が男か女かは知らないので、何とも言えない。
「パーティーの相手って誰だよ?」
「同じSランク冒険者、『鳴雷』って異名を持つ女だ」
一度だけ見た事がある。
勇者パーティー時代、とある国の任務でモンスター退治に行った時、ソロ冒険者の中でも異彩を放っていた、孤高の剣神、名前は『エレン=スプライト』、礼儀正しくて常に一人で行動していた女だ。
勇者アルバートがエロい目でチラチラ見てたのが滑稽だったな。
「ソイツが俺と組みたいから、一ヶ月以内に来いって昨日通信が来た」
「へぇ、そんな魔導具あるんだな」
「魔導具? 何言ってんだ、お前さんも持ってるだろ」
俺、そんな魔導具持ってないのだが、どういう事なのかと思っていると、ポケットから一枚のカードを取り出して見せてきた。
それは金色に輝きを放っているカード、ギルドカードだった。
「ギルドカードを使えば、いつでも何処でも通信できる」
「それ、講習で言ってなかったじゃん」
「あれ、そうだっけ?」
やはり一発蹴ってやるか。
「使い方は簡単、ギルドカードを出して魔力を流す」
「うん」
「そんで、投影されたモニターの項目に、連絡の部分があらから、そこを押して通信を起動させる。そんだけだ」
こんなハイテクになってるなんて知らねぇよ。
少なくとも一年前はそんなの無かったし、産業革命でも起こったのか……
「登録の仕方は、相手カードの発行番号を入力すれば登録される」
試しに登録してみると、本当に登録できた。
しかも、冒険者として登録された名前が出てきて、ダイガルトと書かれている。
これで、ダイガルトとはいつでも連絡できるようだ。
黒いギルドカードを仕舞って、先へと進む。
コイツのせいで時間を無駄にしたからな、サッサと造船所に向かおう。
「少し走るぞ、おっさん」
「お、おぉ」
重たい荷物を持ってないかのようなスピードで俺達は群衆を駆けていくが、時には屋根に乗り、時には跳躍し、そして時には屋台で買い食いする。
俺達のいた場所は中央地区付近なので、歩いてても普通に間に合うが、新たな旅立ちが目の前にあると思うと走りたくもなる。
「取り敢えず、俺はオークションが終わったらフラバルドに行こうと考えてる」
「そりゃ良かったぜ」
「ダイトのおっさんは、オークション三日目までいるんだろ?」
「あぁ、キースの護衛依頼が十七日までになってるからな、その日までは滞在してるはずだ」
少し曖昧な表現だが、彼等の事は彼等に任せておくのが最適だ。
俺が口出しするような事じゃない。
これから向かう先、グラットポートで何が起ころうとも俺はきっと関与しないだろう。
そもそもダイガルトがいれば大抵は何とかなると思っているため、俺は何もしない。
(何も起きなきゃ良いが……)
ナトラ商会がユグランド商会を襲った事もそうだが、巻き込まれないよう気を付けよう。
そう考えながら屋根を飛び越え、俺達は造船所へと一直線に進んだ。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
『面白い!』『この小説良いな!』等と思って頂けましたら、下にある評価、ブックマーク、感想をよろしくお願い致します。
感想を下さった方、評価を下さった方、ブックマーク登録して下さった方、本当にありがとうございます、大変励みになります!




