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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第一章【冒険者編】
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第3話 星の下の契約

 遠い遠い、遥か遠くの懐かしい夢を見たような、単なる学生の人生を覗いたような感覚だった。

 普通の学生として生活し、普通に誰かと遊び、普通に勉強して、そして……俺は死んだ。

 学生として生活していたはずで、所謂オタクな感じのスクールカースト底辺の人間だったような気がするが、記憶が曖昧なせいで微妙に覚えてない部分、欠けている記憶もある。

 いや、欠けている記憶の方が大半と言える。

 そしてこの記憶が何かを理解した。

 前世、そう呼べる記憶だ。

 自分とは別の自分、不思議な存在を俯瞰するような、それでいて懐かしいような、不思議な存在。

 これは俺の前世の記憶みたいだが、それを理解すると共に俺の死の原因を考えてみたところ、何かにロックされているように頭に鈍い痛みが走って思考が停止する。

 これ以上は見れない、見てはならない記憶のようで、そこで思考は立ち往生する。


「ったぁ……」


 まるで微睡みから目覚めたかのような感覚に、俺は酷く冷静となっていた。

 頭が痛いのは確かで、それを引き起こした張本人は何処行ったのかとキョロキョロと辺りは視線を彷徨わせたところ、何処にも姿形が見えない。

 穴の空いた翼で飛び立ったのは本当だったのか、よくあんなボロボロの翼で飛べたもんだと感心はするが、理屈としては有り得ない。

 ここが異世界だから、という理由で纏めるのも癪だが、理屈を突き詰めても無意味だろう。

 やはり異世界、何でもアリだ、そう考える。


「あのやろ――うおっ!?」


 立ち上がって歩き出そうとしたところで、足が絡れて転んでしまった。

 今日は転んでばかりだなと思い、再び立ち上がろうとして地面に手を着いたところで肉体に違和感を孕み、自分の身体が何処か可笑しな様子に気付いた。

 まず、影に縛られていた時に骨をバキバキと壊されたはずであり、しかしそれが治っている上に何故か成長して高身長に加えて、程良く筋肉が引き締まっている、これはまさか、進化した……とか?


(どういうこった? 成長ってレベルじゃねぇな……異様に身体が軽い)


 自分の体躯が大きく逞しく肉付いて、それに体内の魔力も圧倒的に増えているせいか、まるで暗黒龍みたいではないかと驚きを露わにする。

 表情はそこまで変化してないような……

 服もサイズが合ってないせいで、臍や脛が見えており、かなりダサくなってしまった。

 動きにくいし。

 自分の肉体にどういう突然変異が生じて何故急成長を果たしたのか理解不能で、それに前世の記憶を思い出せたのには喜びたいのだが、素直に喜べない。

 混乱の方が心を支配してるからだろう。

 自身から漲る力に恐れと似たような感情を抱いてしまった、この感性は忘れてはいけないと誰かが囁いてくるような気がして、更に頭痛が酷くなっていく。


「……あぁぁ……」


 脳裏に錬金術師の全てが刻み込まれて、錬金術師が何故こうも外れ職業、不遇職だなんて揶揄されてるのかが分かってしまった。

 そもそも錬金術師が外れ、不遇だと言われている根本的な原因としては、錬金術師という職業が殆ど認知されていないからだ。

 では何故知られていないのかと言うと、錬金術師の真髄は霊魂の錬成という禁術さえ使えてしまう、極めて危険な職業であり、危険だと判断した教会の人達が情報を秘匿したからだと思われる。

 こんな知識、暗黒龍がくれたのだろうかと疑問に思ったところで答えてくれる本人がいないのだから、今はとにかく受け入れるしかない。

 何とか受諾、咀嚼して状況を飲み込んだ。


「……はぁ……はぁ……」


 この力は危険だ、教会に知られたら消される可能性も孕んでいる。

 ならばこそ、ここは前世で培った柔道や空手等の武道、そして錬金術師ではなく薬学師とか偽ってでも目立たないようにした方が安全にスローライフを送れそうだ。

 スローライフを送るかは、後で決めよう。

 今は何をすべきか方針を決めねばならない。


「ふぅ、まず衣食住をどうにかしなきゃな」


 頭はまだ鈍い痛みを残しているが、今はやるべき事をしなければならない。

 そうしないと野垂れ死ぬ。

 状況の整理については後に回し、今は衣服、それから食い物、居住が欲しい。

 意識を失ってからどれだけの時間が経過したのだろう、バックパックに入っていた懐中時計を取り出して、蓋を開け、時刻を確認した。

 現在は午後九時半、昼と同じくらいの明るさだったので昼かと感じていたが、懐中時計が壊れたのか、それとも俺の目が可笑しくなってしまったか……


「鏡が無いから分からんな」


 もしも魔眼の類いだったら今頃目は淡い光を纏っているはずなんだが、鏡が無いのでどうなってるかが不明瞭。

 と、良い事を思い付いた。

 コップを取り出してそこに生活魔法の『ピュアウォーター』を使い、魔力を水へと変換して注いでいき、水面に映った自分の姿を確認してみた。

 黒かった瞳は綺麗な青に、身体の急成長のせいなのか前髪が白く脱色していた。


(って、随分と美男子顔になったな。ホントに俺か?)


 信じられずに、自分の頬を抓ったり突ついたりして確認するが、どうやら本物らしい。

 身体の変化、顔の変化、魔力量の変化、昔の弱かった自分とはまるで別人となっているから、小さな鏡に映る自分の姿が本当に俺なのか、と疑惑が脳裏に浮上する。

 両目は少し濃い色で完全な魔眼となっており、後々能力を確かめていく方向で行こう。

 魔眼の中には大変危険な魔眼も存在しているので、危険な魔眼でない事を祈ろう。


(まぁ良い、先に飯にするか)


 日本人としての記憶が戻り、干し肉ではなく米が食いたい衝動に駆られるも、こんなところに稲は無い。

 まぁ当たり前なんだが……

 干し肉の硬さは冒険者時代によく食べた非常食なので、味とかも慣れてしまった。

 相変わらずあまり美味しくないな、この干し肉。

 硬いし噛み切れないだろうと思って、思いっきし歯を食い縛ると簡単に噛み切れてしまった。

 素の身体能力や五感、肉体の急成長に伴って全ての能力が著しく上昇したらしく、顎の力までもが強靭となってるようだが、元が一般人の肉体だから、成長しても高が知れている。

 だが、錬金術師の能力が一気に解放され、使えるようになった。


「『錬成アルター』」


 地面へと手を着き、錬成を開始する。

 地面を錬成して即興で椅子とテーブルを用意してみると、想像通りの形になった。

 魔力を使わない、一番初歩的な能力らしいが、この能力が凄い手に馴染むようで、まるで昔から使っていたような感覚すらある。

 不思議な能力だが、ポーション以外の能力を駆使したのに喜ぼう。

 一気に色々な事が生じ、混乱した脳を休めるためにもコップの水を飲みながら少しゆっくりしていると、視界端に虹色に輝く蝶々がフワフワ飛んでいるのを発見した。


「まさか……『幻夢蝶』か!?」


 その蝶々は希少性ランクS以上とされている、見れば幸せが訪れるとまで言われている蝶々であり、俺はそれを自然と追い掛けていた。

 何故追い掛ける必要があったのか、分からずとも何かしらの恩寵に与れないかと、そう思った。

 だから、ただ一心不乱に後追いする。


「ま、待ってくれ!!」


 まだ慣れてない身体で動くのは難しく、覚束ない足取りで木々に衝突しながらも、その一匹の可憐な蝶々を追い掛けていく。

 導かれているような気がしたから、俺は必死になりながら走っている。

 何故走ってるのだろう、こんなに必死になって、俺は何を追い求めているのだろう、頭と身体、思考と動きが合致していない。

 言動がチグハグしている、とうとう頭が可笑しくなってしまったらしい。


「はぁ、はぁ……ゲホッ」


 肺が酸素を上手く取り入れられずに咽せてしまい、木に手を着いて息を整える。

 苦しい、辛い、そんな身体の様子も気にせず俺は蝶に導かれるままに後を追い続けた。

 走っているとどんどんと自分の大きくなった身体に慣れていき、走る時のフォームも安定して素早く動けるようになってきたところで、その蝶々が目指した目的地へと辿り着く事ができたようだ。

 そして目を見張る、その光景に。


「こ、ここは……」


 息を整えながら、俺は蝶々の大量発生している場所へと辿り着いた。

 そこは、一面花畑となっている綺麗な場所だった。

 咲いている花は赤、青、黄色、緑、白、ピンク、紫、水色、それぞれの色を持っている。

 種類の違う花が入り乱れて咲き誇っており、月の光によって淡い輝きが燐光として風に揺れている。


「綺麗だ……日本には無かった景色だな」


 本物の花が月光に反応して自ら発光している光景は異世界ならではのもの、風が吹き続けているために綺麗な光の粒子が揺れ動いている。

 この美しい景色の先には一本の大きな大木があり、そこに向かって一匹の蝶が飛んでいく。

 導かれるままに、俺もそこへと花を踏み越えていく。


『ねぇ、こっちに来て』


 また念話が脳内へと直接聞こえてきたのだが、今度のは爺さんのような暗黒龍の声ではなく、幼くて何処か可愛げのある声だった。

 その声の聞こえる方へと歩いていき、幻の夢を魅せる蝶の前で立ち止まると、その蝶が緑色の淡い光へと変化して、小さな身体がシルエットとして輪郭を帯びた。


『遊びましょ?』

「……精霊、しかも中高位の精霊か?」


 光が大きくなって、咄嗟に目を閉じた。

 精霊が周囲にいるのは分かるが、こんなにも大量の精霊を見たのは初めてかもしれない。

 周囲に漂う光の粒子全てが幻想的な景色を作り上げており、風に流れながら微精霊達が踊っていて、まるで祝福されているみたいだった。

 双眸に揺らめく光が収まると、そこには緑色の髪と蝶のような翅を生やしている美少女が浮いていた。

 精霊にも階級が存在しており、微精霊、低位、中位、上位と分類されており、高位精霊ならば思考能力は遥かに高いはずだが、目の前の精霊については高位精霊のようだが言動が少し稚拙な気がする。

 つまり、目の前の精霊は中位精霊かもしれない。


『あなたは誰?』

「俺は……『ノア』、そう呼んでくれ」


 ノア、前世での俺の名前『乃亜』をそのまま使っただけなのだが、こっちの方が俺らしいし、ウォルニスという名前は使わないようにしよう。

 もし勇者達の耳にでも入れば、必ず面倒な事になるからだと、そう思ったから。

 その名前を、俺は名乗った。


『ノア……ノア!!』


 嬉しそうに飛び回る精霊だが、あまり彼女と意思疎通が取れてるようには見えない。

 単に名前が気に入っただけなのか、それとも俺の名前に何か理由があるのか、何度も俺の名前を連呼して周囲を飛び回っていく。


「お前の名前は?」

『名前? 付けて付けて〜!!』


 精霊に名前を付けるというのはつまり、精霊と契約するという事なのだが、精霊の契約は非常に重要なものだと俺は知っている。

 精霊と契約すれば、人間は精霊術と呼ばれる自然の力を扱えるようになるが、対価として人間は精霊に魔力を分け与える必要がある。

 まぁ、ここまでは普通だが契約すると起こる弊害が一つ、契約の反故は人間側にしかできないという内容で、それは精霊達にとっては極めて重大な案件だ。

 もしも俺が悪者で精霊を傷付けるような真似をして、精霊の方から契約を切りたいと言ったきたところで俺に契約の全権があるのだから、精霊側から契約を反故にするなんて芸当ができないのだ。


「俺が名付けても良いのか?」

『付けて〜!』


 俺の頭上に腰を下ろした精霊の子、色からして風の精霊だろうが、名前のセンスが俺には無い。

 適当で良いのならば『風子フーコ』とかにするが、流石に可哀想すぎる。

 淡く輝く精霊の子の特徴から考えてみるか。

 まず、掌サイズに収まるくらいの小ささで、翡翠色の髪を編んで下ろしている。

 目はパッチリしてるし、可愛い子供のようだ。

 うん、何も思い付かない。

 こればかりは閃きか、まぁとにかく可愛らしい名前を付けてあげたいと思って、必死に脳をフル回転させる。

 しかしながら思い付かず溜め息を零していると、精霊達が空へと舞い上がって、綺麗な星夜を彩る美しい星々のように見えた。

 その光景は脳裏に焼き付いて離れず、視界の中央には彼女が蝶の鱗粉を纏いながら幻想的な踊りを、たった一人の観客に見せてくれている。


「....…『ステラ』、ステラなんてどうだ?」


 その名前を呼んだ瞬間、俺の魔力がゴッソリと減っていった。

 魔力の八割近く奪われたところで、眩ゆい光が彼女を中心に発せられる。

 約五分くらい白く輝かしい発光体になったかと思えば、その光の中から身体の成長した大人サイズの精霊がフヨフヨとやってきて、右手の甲へ手が触れて、そのまま手の甲の中へと吸い込まれていった。


「熱っ!?」


 右手の甲には星のような不思議な紋章が現れて、その紋章が精霊との契約であると認識できた。

 これが精霊契約。

 彼女と結んだ一つの証となる。

 そして呼び出そうと考えた瞬間に精霊紋が発光して、目の前にステラが顕現した。


「ステラ、俺の世界では星を意味する言葉だ。気に入ってくれると嬉しいんだが……」


 センスがあるかなんて他人の感性でしか測れないため、もしも気に入らなかったら別の名前を考えようと意識していたのだが、彼女はクスッと笑みを浮かべていた。

 何処か変だっただろうか、精霊の考えている心が俺に分かるはずもないので、ただ彼女をジッと凝視していた。


『ノア、素敵な名前をありがとう』

「あ、あぁ。随分と雰囲気とか喋り方が変わった気がするが、気のせいか?」

『身も心も成長したから。契約者の魔力を貰ったから、それに応じて成長して、高位精霊になる事ができたの』


 成る程、よく分からん。

 魔力を媒体に身体を成長させて、精霊体のサイズが変化したというのは、まぁ納得できる。

 だがしかし、頭脳的な成長も果たして有り得るのかは不明瞭だ。

 何処から知識が湧いたのだろうかという論点が出てきてしまうし、契約者の頭脳をスキャンして知識をコピー&ペーストしたのだろうか。

 不思議なものだが、それは今や関係無い、目の前の彼女と契約しただけ。

 その結果が何より大事であり、重要であり、尊重されるべきものである。


『星の精霊ステラ、契約者ノアと共に何処までも付き添いましょう』


 先程との喋り方とは違って慇懃な様子だったため、少しドキッと心音が跳ねた。

 手を差し出してきたので反射的に手を乗せると、体内に魔力とは違う別の何かが入ってきた。

 肉体が熱く燃え上がり、数秒後には精霊から下賜された贈り物を、俺は直感で理解した。

 精霊力という、精霊術を操る上で必要となる力だ。

 それは魔力と似ているが、魔力回路とは別の精霊回路が体内に形成されて、これで俺もエルフのように精霊術を行使可能となったようだ。


(案外あっさりしてるんだな……)


 気が付けば精霊契約が終わっていて、身体に残る仄かな熱は夜風に吹かれて冷めていく。

 しかし精霊契約は単に精霊を使役するだけのものだが、この精霊力譲渡は明らかに過剰契約となってしまう、それだけ気に入られたとも取れるが、どうしてそこまで気に入ってくれたのかと不思議に思えた。


「それで、ステラは今、高位精霊なのか?」

『うん。精霊界に戻って精霊王様に祝福してもらって、高位精霊に昇格させてもらったんだよ。凄いでしょ?』

「あぁ、そうだな」


 精霊王へと謁見したのは多分、白く発光していた五分間の時だろう。

 光から出てきたのが大人サイズだったし、五分間と言っても精霊界と人間界では時間の流れが違うので、こっちの五分間が向こうの一時間という可能性もあり、彼女は精霊王へと謁見して祝福を授かったようだ。

 力も強くなってるみたいで、俺も授かった精霊術とやらを使ってみようと思い、右手を大木とは逆の方、花畑へと翳してみる。


「ステラ、精霊術を試してみたい。風を起こせるか?」

『えぇ、勿論。魔法と同じ、風の刃をイメージしながら精霊力を掌へと集めて……』


 ステラの指示に従って、脳裏で風刃をイメージして精霊力を掌へ……


『そして一気に精霊力を解放する!』

「フッ!!」


 前方に押し出すようなイメージをして精霊力を風の刃にしたのだが、最初は刃を維持していたが空気抵抗によって刃が霧散してしまった。

 イメージしきれてなかったか、もう一度風の刃をイメージして放ってみるが、結果は同じだった。

 これでは戦闘でも使い物にならない、もっとイメージを固めた方が良いのか、或いは違う方法で風の刃を出した方が良いのか……

 風の刃を掌から出すというのが無理ならば、腕に精霊力を纏わせて、それを振るえば――


『わわっ、凄い!!』

「できた……」


 原理は剣士のアーツ『スラッシュ』を横薙ぎにしたものだが、何とか上手くいったようだ。

 遠くにあった多くの木にぶつかって、その木々が倒れてしまったため、それだけ風の精霊術が強力であるのだなと再度認識して、使い方を気を配ろうと決めた。


『因みに、ステラは風の力しか使えないけど、ノアなら精霊術で火や水とかも使えると思うよ』

「そう、なのか?」

『精霊回路が身体に巡ってるから、精霊力を媒体にすれば自然操作が可能なの』


 結構便利な能力らしいのだが、後に受けた補足説明では風の精霊であるステラには負けてしまうらしい。

 ま、彼女は風のエキスパートだし、アマチュアの俺よりも強力な風を操れるのは分かってたけど、もっと修練しないと戦闘において使い物にならないし、それに余分な精霊力を浪費してしまうからな。

 風に関しては、しばらくステラの力を借りる方が良いと判断した。


『それで、気になってたんだけど……』

「ん?」

『その格好、ど、どうにかならないの?』


 チラチラとこっちを見てきたが、替えの服装も今の服と同じサイズなので絶対に合わないだろう。

 繊維を自然入手する方法も無くはないが、今はもう夜なので休みたい。

 さっきまで地べたで寝てたから眠たくないのだが、身体痛いし、とにかく住む場所を決めないと今後の対策も行えないので、錬金術を使って家でも建てようか。


「さて、家建てるのは良いんだが、この花畑は何か傷付けたくないな……」

『なら、良い場所知ってるよ。こっち』


 そう言って彼女は風を纏って飛び上がったが、空を飛ぶなんて俺にはできない。

 しかし俺の様子を気にせずに勝手に飛んで行こうとするので、全速力で彼女を追躡し、辿り着いた場所はコップやテーブル、椅子とかがあった場所だった。

 つまりさっきの場所に戻ってきた訳だ。

 何故、と疑問に思う前にステラが振り返る。


『ゼアンがね、後は好きにしろって言ってたから、その洞穴使わせてもらいましょうよ』

「そ、そうだな」


 素の身体能力で追い掛けても普通に追い付けたので、やはり暗黒龍に何かされたはずだが、他に何か言ってなかったかと視線で問い掛けてみる。


『何よ? このステラちゃんに惚れちゃった?』

「いや、別に」


 綺麗なのは確かだが、惚れると聞かれたら首を横に振るだろう。

 今はゼアンが何をステラに伝えたのか、知りたいのはそれだけだ。


『ゼアンが飛び立つ前よ。まぁ、ステラ自身自我が殆ど無かったから、話せなかったけど……』

「じゃあ、何て言ってたか分かるか?」

『うん。面白い人間がいる、ソイツと魂の契約をしたから後は頼む、洞穴は自由に使ってくれ、だそうよ?』


 暗黒龍の真似でもしてるのか、少し渋い顔をして声も低くして教えてくれた。

 風の精霊術を使って空気操作したようで、聞こえてきた声が暗黒龍みたいだったので、風にこんな使い方があると参考になった。

 後で練習してみよう。


「いやちょっと待て、『魂の契約』って何だよ?」

『何って言われても……ごめんね、ステラにも何の事だか分かんない』


 手を合わせて謝ってきたので、彼女の頭を撫でて契約について考える。

 暗黒龍と『魂の契約』をしたと言われたが、その契約がどんな条件で、どんな制約があって、どういった効果があるのかが謎だ。

 だが、契約したからこそ、痩躯が急成長したのだと納得はできた。


「あの野郎、勝手に契約しやがって……」


 しかも契約の方法が強引だったな。

 神の眷属と言われている神龍と契約する事になるとは思わなかったが、ソイツ等と一体でも契約すると強大な力を手に入れられるのを体感している。

 暗黒龍と契約したなら、もしかして暗闇の力でも授かったのだろうか。


『でも、魔力もゼアンのに似てるし、良かったね』

「うん、いや、良かった……のか?」


 首を傾げて考え込んだ。

 暗闇の力が使えるのならば今後の戦闘の幅は広がっていくと思うが、暗黒龍は自身の影を俺の影と繋いで操っていたのだから、契約した時点で自分の影を操れるのではないかと予測して手を翳す。

 影を起動させてみるが、動く気配が全く無かったので溜め息を零した。


「やっぱ無理だったか」

『魔力を流してみたら?』

「成る程、やってみよう」


 地面に、いや影に魔力を流していくと非常に多くの魔力が奪われていく。

 残り二割くらいの魔力がどんどんと吸収されていき、次第に身体に力が入らなくなってきたが、影が形を保ち始めて一振りの刀が現れた。

 刀身も、鍔も、柄も、その刀の全てが黒光りする、まるで暗黒龍の鱗のような黒塗りで、禍々しい妖刀の気配を感じ取った。


『抜いてみたら?』

「あ、あぁ」


 彼女に言われて手を伸ばし抜刀したが、月の光に反射して斬れ味は良さそうで、非常に美しい。

 試し斬りしたいという考えがリンクしたのか、ステラが後ろから丸太を投げてきた。


『えい!』


 風圧で持ち上げた大きな木を飛ばしてきたので、振り向き様に刀を振り抜いた。

 失敗したのかと錯覚するくらいの斬った感触の無さだったが、逆に真っ二つに落ちた大木を見て、断面に歪みとかが無かったので斬れ味が鋭すぎると実感した。


『凄い斬れ味ね。それ、『影魔法』なんじゃない?』

「影魔法か。聞いた事はあるが、確か固有魔法の類いだったはずだ」


 暗黒龍が固有魔法を持ってたとは、今まで一度でも聞いた事があったか、いや無い。

 まぁ、洞穴に引き籠もってニート化してたんだから、百年以上も昔の話が正確に伝わってる可能性なんて殆ど無いに等しいだろう。

 影の刀を自身の影の中へと仕舞っていくが、恐らく影の中にアイテム等を仕舞い込める『ブラックストレージ』という魔法だろう。


『便利な魔法ね』

「あぁ。保有魔力が少なかったせいで今までは魔法を使えなかったが……ステラの言う通り、確かに便利だ」


 他にも使える魔法が脳裏に刻まれているため、それも検証していく必要があるな。

 過剰な力だが、これをモノにして世界を旅するのも良いだろう。


「ステラ、俺と一緒に来てくれるか?」

『当たり前でしょ。契約したんだし、これからはずっと一緒よ。よろしくノア!!』

「あぁ、よろしく、ステラ」


 ステラが差し出してきた手を握り、俺達は互いに笑い合った。

 この繋がりが俺を何処かへと導いていく、そんな予感と共に彼女の手の温もりを感じ取った。

 これが俺の冒険の始まり、ここからが俺達の新たな第一歩となろう、と星空の下で俺はそう思ったのだ。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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