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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第四章【南国諸島編】
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第171話 事件解決のために

 陽光龍ジア、それは太陽を象徴とする日輪島の守護龍、暗闇を象徴とする暗黒龍ゼアンとは対を成す存在で、その巨体が目を覚まさない。

 擬似太陽のような力が、熱量を内包しきれずに一定時間で吸収と放出が繰り返されている。

 現在は放出の時間帯、森女達の身体を焼き尽くさんとするが、それを飄々として観察するフェスティーニは、妹の周囲をグルグルと歩き回る。


「もしも全部に陽光龍が関係してるとしたら、天候が悪い理由は陽光龍が眠ってるから? いや、寝てるだけでこうはならないはず……なら、犯人のせい? だったら催眠術を掛けられて天候を弄ってるのかな?」


 頭も素早く回転させて、その球体をより深く観察、解析していく。


「犯人が催眠術師なら、陽光龍を操って天候を自在に操れるはず……なら、治安を悪化させて攫うのも容易になる。けど攫った目的は? やっぱり内臓が必要だった? 密航船との関係性は?」

「姉さん」

「ウルグラセンが攫われたのも、多分これを見たから。だとしたら三ヶ月前に攫われた日、何があった? 分からない、分からない……」

「……姉さん」

「いやでも、もし陽光龍を操ってるとしたら深海龍が暴れてるのも同じ理由のはずだけど、なら生命龍は? 操られてないとも限らないし、三神龍を操るなら『登竜門の儀』を強制的に発動させようとしてる? あ、星夜島の集団昏睡事件は生命力を吸収して起こってるはず。なら陽光龍は何を吸ってるんだろ?」


 考え事が全部早口として外へと漏れ出ているが、それに気付かないフェスティーニは、フィオレニーデの周囲を何十回も回っていた。

 可能性を模索して、不可能を排除して、そして一本の筋道ができようとしていた。


『ぁ…ぁあ……』


 二人の背後より小さな呻き声が届いた。

 振り向くと、扉前より内臓を抜かれた死骸の数々が押し寄せて入ってきていた。

 見覚えのある顔が何個かある。

 それはチラッと見ただけだが、明らかに祠前でフィオレニーデが倒した屍人達だった。

 その数は十や二十にあらず、百体を超える死屍累々の群れに、二人は即座に臨戦態勢を整えて、武器をそれぞれ具現化させる。


「『変幻自在な花弁(キングスプロテア)』」

「『霊魂ノ刃(アストラル・リア)』」


 フェスティーニは花弁で形成した刃を腕に生やし、フィオレニーデは霊魂を半透明の二刀の短剣に変換していた。

 そこに含まれる魔力は膨大でありながら、綺麗に圧縮されている。

 そこに二人の力量が窺えた。

 唯一の観客は陽光龍だが、現在は居眠り中である。


「死霊術師?」

「いや、多分違うね。今までの情報を纏めると、催眠術師か、魔物使いか、それとも調教師か、そのどれかじゃないかな〜?」


 つまりは候補は三つ、催眠術師か調教師ならば誰か判明せず、魔物使いならユーグストンが犯人となる……かもしれない。

 全ては可能性に満ちている。

 だから、まだ特定はできない。


「自律してるのかな?」

「不明……なら、確かめる」


 韋駄天の如く駆け出した彼女は、二刀を手に死骸達を再度殺していく。

 実験と称して、腕や足首、胴体を切断したりして反応を確かめる。

 自律しているのか、それとも遠隔操作されているのか、その反応次第では対応も変化するが、屍人達は一斉にフェスティーニ達を取り囲む。

 取り囲んだら、単調な攻撃を繰り出した。

 それを斬り伏せながらも慎重に攻撃し、フェスティーニは様子を探りながら、花弁刃で身体を的確に斬り裂いては確認する。


(腕は駄目……次は足……これも駄目、まだ動く。やっぱり首……も、まだ動いてる)


 ゴトリと重たい首が地面に落ち、充血した目がフェスティーニ達を捉え、斬首は死骸には無意味となるのを実証を以って理解した。

 ならば弱点は何処か?

 それを探るのも、生物学者の能力の一端に相当する。


「『ディアグノシス』」


 身体的診断をするための魔法を発動させ、どういう構造をしているのか解析し始めた。

 内部は至って異常、内臓を刳り抜かれている。

 表面は縫合がしっかりとされており、しかし長時間強制労働の影響によって縫合痕の解れが生じ、内部からドロッと血液や体液、腐敗物が排出されていた。

 漏れ出た、という表現の方が正しい。

 ともかく二人以上の犯人が存在するのは間違いない。

 主犯格の催眠術師が、その共犯者を操っている可能性を考慮に入れればの話だが、彼女は違和感を覚える。


(抜かれてる内臓は主に心臓、肺、肝臓、腎臓の四つ、全部の死骸が同じ状態……犯人は何のために抜いたのか? ただ密輸するためだけなら、船乗りさんがワザワザ麻薬について調べようとはしなかっただろうし……)


 だとするなら、臓器を麻薬精製のために使った、と見るべきか。

 それならば幾何か辻褄が合うというもの。

 その四つ全ての臓器を材料にした麻薬は存在しないが、心臓のみならば幾つかあり、最近出回っているのと照らし合わせると自ずと答えは導かれる。


(『天の霧(ヘブンズパウダー)』かな)


 幾通りかある精製方法(レシピ)を全部脳裏に取り出し、そのうちの一つを手繰り寄せた。

 心の臓を材料にする悍ましい方法が採用されている。

 その精製方法のための施設が何処かに存在、麻薬精製施設がサンディオット諸島の何処かにあるのか、という思考へと至った。

 だとするなら予想できるのは、地下か、或いは――


(離島、かもしれない)


 セルヴィーネの権能が深く反応した。

 ならばこそ、そこに何かがある。

 密航船か、誘拐された捕虜の牢獄か、医療施設か、それとも存在するのは麻薬精製施設か、想像が風船のように膨らんでいく。


(施設があったとして、働いてるのは屍人なのか、操られた人なのか……)


 それとも組織なのか。

 その答えも離島にあるはずだと、フェスティーニは迫り来る大剣持った敵と対峙した。

 振り下ろされる兜割りの攻撃を左に一歩ズレて躱し、身を回転させながら花弁の刃で斬首を遂行した。


(中で生命力が巡ってる。これで延命してたのか、何て酷い事するんだ)


 体内を循環する黄緑色をした線が、屍人達を最低限動かしている。

 催眠によって死を誤魔化し、その上で生命力を電池のように使っているのを看破した。

 だから生命龍も催眠に掛けられていると判断できた。


「大量に湧いてくるね」

「ん、邪魔」


 妹渾身の一撃、手にしていた短剣を振るい、躊躇無く首を飛ばしていた。

 感情を宿さない少女の奇行は、ここでは正当となり、その正当たる攻撃力は抜群、霊魂で創られた鋭利な刃が蒼白い残光を携える。

 死骸達は武器を手にしている。

 剣や槍、弓、魔法を使う者もいる。

 だが、一人たりとも職業を使ってこないため、目に宿した六芒星の魔法が原因を解析した。


(あぁ、そうか、霊魂が消滅してるせいで使えないのか)


 職業は身体に一つしか入らないが、実際に霊魂と結び付くものであるため、霊魂が無ければ職業もその身に存在しない事になる。

 すでに死した者達は職業を使えないため、素手か、武器を手にして地下への入り口を守っていた。

 武器を手にしていない者も侮れない。

 生命龍からの恩寵を受けているせいもあるが、何より死んでいるせいで脳のリミッターが完全に外れている。


(って、いつまで戦えば良いのかな?)


 何度も斬り伏せ、百体以上いる敵を攻撃しているにも関わらず、気付けば数があまり減っていないように思えた。

 十匹、二十匹、三十匹、と攻撃の手を加えていく間にも、五分、十分、十五分、と時間も同時に経過していき、戦闘開始より三十分が経過した頃、フィオレニーデが一つの事実に気付いた。


「姉さん、あれ」

「へ?」


 妹に指摘された場所へと目を向けると、予想外な光景が見られた。

 闇人によって斬り落とされた首と胴体が一つずつ、それぞれの断面から生命力が垂れ流しにされ、生命力の紐同士が結合する。

 その後は想像通り、首が繋がって致命傷だった断面の細胞が再生していた。


「嘘でしょ、再生してるんだけど」

「ん、キリがない」


 人間の常識を遥かに凌駕した光景だが、それは日常茶飯事であるため、二人の思考にはすでに対処法を思い浮かべようとしていた。

 しかしよく見ると、首のうち何体かは再生しない。

 その違いは何なのか、研究を続行する。

 そこに落ちていた首は頭部の損傷が酷く、すでに生命力が空だった。


(もしかして……)


 近くにいた一匹の死骸を頭部より股まで、縦に真っ二つに斬ってみせた。

 すると、両断された一体の死体から生命力が抜けるのを瞳が映した。


(脳を潰されれば動かなくなるようだけど、これって催眠術が繋ぎの役割を果たしてたって事かな?)


 戦い、仕組みを理解し、仮説を立て、実証する。

 そして実証=戦いとなり、一連の行動は原因究明が済むまでループする。

 一体だけでは不明確だった事象は、二体、三体、とただの骸が増える度に信憑性を増していった。


「脳を潰せば良いんだろうけど、乙女にこんな事させるなんて鬼畜だなぁ……」


 周囲が悲惨な状況と化している。

 ここに船乗りの人達を呼べば、即座に餌食にされていたかもしれない。

 結果論ではあるが、呼ばないのは正解だった。

 単純で直線的な動きばかりしている、威力は強いが当たらなければ致命傷には成り得ない、その二つから犯人が近場にいないのは明確となった。

 遠隔操作されている、それか予め動作を入力インプットされている、のどちらか。

 ここは本来見られてはならない場所、船乗りの中に裏切り者がいるなら今後次第では上手く釣り出せるかもしれない、そう彼女は予想図を思い描く。


「姉さん」

「ん? 何だい、フィオちゃん?」

「死骸の、服装」


 服装、そう言われて視線が釣られる。

 向けられた先には屍人達が蠢いており、その彼等の服装に注目する。


「あ、アロハシャツだね……けど、それが?」

「諸島の人、あんなの、着る、とか」

「それってつまり、島民がこの死骸の群れに紛れてるって言いたいのかな?」

「ん、そう」


 初めは、単に死んだ人間が使われているだけだと思っていた。

 中には鎧や兜、武器を装備する者が殆どだから。

 ならば冒険者等が何処かから運ばれてきたのか、と思っていた彼女だが、フィオレニーデの指摘によって諸島民の服装をした人間が何人か見えた。

 これでハッキリした。

 攫われた島民が混じっている、と。

 しかし腑に落ちない点がある。

 攫われた人数が合わない。


「攫われた島の人達が扱き使われてるとは……難儀なものだね」

「どう、する?」

「そうだね〜、単調な攻撃ばかりだから避けやすいし、近くに術者はいないはず。なら、状態をできる限り保存しておこうか。その方が後々楽だし」


 ならば、一番手っ取り早い方法は一つ。


「フィオちゃん、あの職業の使用を許可(・・・・・・・・・・)するよ(・・・)。僕がお膳立てしてあげる」

「……ん、了解」


 少しばかり口角が上がったのを自身でも知覚できた闇人の少女は、姉に場のセッティングを任せた。

 動く者達が押し寄せてきて、隙を作るために一つの植物を生成した。


「『暴嵐の笹団扇(シュトルフィラム)』」


 団扇のような形をした黄緑色の葉っぱを掲げ、それを一気に真下へ振り下ろし、空気を扇ぐ。


「えいっ!!」


 その一動作のみで、室内は荒れに荒れる。

 空気が渦巻き、室内で巻き起こった暴風が妹と一緒に死骸を上空へと舞い上げ、風の力を失った骸の山々が重力に従い、雨のように降った。

 団扇は空気を狂わせ、全方位の敵を薙ぎ払い、地面へと叩き付けた。

 ただし一人の少女だけは天井に着地して、両手を屍人達へと向けた。


「『生命略奪バイタリティストック』」


 フェスティーニと陽光龍を除く全ての生命体から、生命力を奪い取った。

 生命力が束となって、彼女の掌に収束する。

 大量の生命力が一点に集中し、それを自身の心臓部へと押し当てると身体へと吸収されていき、生命力を強奪したフィオレニーデは、その力を糧とした。

 同時に先程まで内包していた力を吸い取られた動くゾンビ達は、本物の骸となって崩れ落ち、動く気配を失った。

 まるで糸の切れた人形のように、精神支配からも解き放たれたのだ。

 天井に立っていた少女は、その能力を解除してクルクルと回転しながら落ちてきて、フェスティーニの隣に華麗に降り立った。


「ん、倒した」

「フィオちゃん流石だね〜、その職業を久し振りに使った感想は?」

「……問題、皆無。身体も、ちゃんと動く」


 動作確認して、何処にも異常が無いのを報告した。

 それを聞いて一安心した彼女は、倒れている遺体へとしゃがみ込んで縫合痕へ手を伸ばす。


「綺麗に縫ってあるけど、どうやら動いてるうちに解けたようだね〜。誰がこんな縫合をしたのやら」

「ん、誰か、操られてる?」

「どうだろう、協力関係にあるかもしれないし、そうでないかもしれない。今のところは決め付けたりしない方が良さそうだね」


 中身が多少出ているものの、それには触れず、遺体全部を精霊術で凍らせておく。

 崩れる前に完全に凍った骸達は、放置できない貴重な情報資源となるため、それを仕舞うために保管もできる妹の能力に縋った。


「うん、一先ずはこれで良しっと。フィオちゃん、仕舞っといてくれる?」

「ん、任せて」


 そこには百体以上も動かぬリアル人形が事切れて氷の中だが、それを全部収納するのは普通なら至難の業、しかし妹を一番理解している姉は、信頼しきっていた。

 それに応えるべく、持ち手が小さな王冠の形をした一つの鍵を取り出し、その空間に突き刺した。


「『不可侵の宝庫(パッカヴォルト)収納バンク』」


 鍵を半回転させると、一瞬で百体以上あった死骸が全部消え去った。


「その鍵の能力だけでも脅威なのに、フィオちゃんは三つも職業持ってるんだもんね〜」


 器に対して存在する職業を三つ内包している事実は、世界に対する摂理の湾曲であり、その禁忌こそが少女の強みであるが、フィオレニーデ自身が望んで得た力ではない。

 だから脅威という言葉が、胸に深く突き刺さる。

 急遽姉に突き放されたような気がした。


姉さんが(・・・・)創った(・・・)、のに……」


 小さく呟かれた声は、姉の耳に届いた。


「脅威っていうのは客観的判断だよ。ボクにとっては心強い味方さ。だから落ち込まないで」


 消極的な表情でさえも姉であるからこそ機敏に反応し、新しく言葉を紡ぎ出す。

 いつでも妹だけは信じている、と。

 その言葉は、長年で構築されてきた信頼関係の証でもあった。


「ん、分かった」


 だから信じられる。

 たとえ自分が化け物だったとしても、姉だけはきっと自分をただの人間として見てくれる。

 それが、怪物たる少女の唯一の拠り所だった。

 だが客観的判断から脅威であると見られているのも事実だと、そうフェスティーニは遠回しに言っているため、力ある者の責任としても、自身の持つ三種類の職業の使い方は注意しなければならない。

 それがフィオレニーデと呼ばれた、一つの存在の責務である。


「さて……後はあの扉だけだね〜。帰る前に少し確認だけしとこっか」

「ん」


 転移鍵で移動する前にもう一枚の扉が残されているため、それを確認しようとした時、部屋内に満ちる威圧感が少しばかり増した。

 ゾクッと背筋を震わせる威厳は、鎖に縛られた唯一の個体から発せられているのは自明の理、本物の怪物が明滅を繰り返しながら脈動している。

 まるで心臓のように、鼓動音が一定のリズムを刻む。

 淡く包み込む光は、その輝きを周囲に波動の如く解き放っている。

 彼女達は次の瞬間には、嗄れた老人のような声を耳にする事となった。


『だ……れ、だ?』


 それが陽光龍ジアから発せられている、と秒を要さずに理解させられた。

 それも直接的な声ではなく、脳裏を介しての精神での強制介入のようなものだったから。

 不快感を逆撫でされた気分となった二人。

 より一層の警戒心と戦闘態勢を露わにする。


『わ、が……名は……ジ…ア………太陽を…つか、さど………る、神、なり……』

「陽光龍ジア……ボク達に何か用でも?」

『よ、よう……じ、ん………せ…よ………や、くさ………い、は………ち、ちか……づ、づいて………い、る…』

「厄災?」


 言葉が途切れ途切れで、厄災という現象が訪れようとする未来を、彼女達へと伝えるが、急にそのような未来を言われたとて飲み込むのも精一杯。

 聞きたい内容が山程あるが、それには陽光龍の意識が途切れかけているため、難しい。


『き…を……つ、けろ…………て、きは……す…ぐ…そ……ば、に…………い……………』


 陽光龍ジアの念話は停止してしまい、これ以上の会話は見込めなかった。

 後は自分達で探せ、そう言っているようにも聞こえた。

 聞き返すも、その後の会話は成立せず、陽光龍ジアの意識は気配すらも無くなってしまった。


「姉さん……」

「うん、そうだね、厄災が近付いてるというのは、犯人が何かをしようとしてるって意味だろうけど、それが何かまでは謎のままだ」


 真正面に手掛かりがあるのに、それが起動すらしないせいで得られず、彼女達には何もできない。

 残りは三つに絞られる。

 謎の光、ウルグラセンの日誌、そして離島。

 ここでできるのは日誌の内容を確認するのみだけ、残りは謎の光を追い掛けるか、それとも離島を渡るか、その二択に迫られる。


「これから……どうする、の?」

「さてさて、本当にどうしよっかな〜」


 どうするのが正解なのか、どうすれば正解へと導かれるのか、状況は好転と退転の重なり合いである以上、今後の方針は明確にしておかねばならない。

 それに加え、厄災が近付いているためにも、その対策も同時並行して行わねばなるまい。

 だが、それ等の事実は要すれば、犯人へと確実に接近しているという意味の裏返しにもなる。


(ノア君に会えるのも、そう遠くない未来かもしれないね)


 ならば、自分はただ本流に呑まれながらも必要な情報を入手するだけ、その魂胆を持ちつつ彼女は眠る陽光龍を見上げる。

 昏睡状態なのは、星夜島と似通っている。

 星夜島では集団昏睡が発生している。

 が、根本的な部分で違うのだろう。

 星夜島の島民達は生命龍の生命力吸収による昏倒、しかし陽光龍は直接催眠術師に操られての昏睡、これを解く方法は一つのみとなった。


「犯人を見つける。そのためには、まずウルグラセンの日誌からだね〜」

「……手伝う」

「ありがとフィオちゃん。けど、取り敢えず、もう一つの謎を解明しようか」


 そう、まだ一つだけ謎が残されている。

 それは向かい側にある一枚の扉、それが何処に繋がっているのか、そこだけは確かめねばならない。


「あの扉、一体奥には何があるんだろうね〜」

「お宝?」

「だと良いんだけど、それは無いんじゃないかな?」

「ん、なら……何処かの、通路?」

「また通路? もう地下空洞で散々体験したし、それは嫌だな〜」


 考えても仕方ない、ならば開けて確かめる。

 二人はその扉前にやってきて、フェスティーニが開けようとドアノブに手を掛ける。

 息を呑み、ノブを捻った。

 金属の擦れる音が聞こえ、ガチャリという音と共にドアを引っ張って、暗闇の奥深くへと視線を飛ばした。

 だが、そこには通路も無ければ誰かが死んでいるという訳でもなく、ただ小さな小部屋があっただけ、しかしその小部屋が意図的に爆破でもされたのか、粉々となって入る事さえ叶わなかった。


「何かの、施設?」

「部屋の大きさからして、多分小部屋だろうけど……爆破した理由は何だったんだろう? ま、そもそも爆破したのが黒幕とも限らないし、あまり気にしなくても良いんじゃないかな?」


 だが、それでも何故爆破しなければならなかったのか、この施設は何なのか、気になる事柄が多すぎる。


(けど、この施設は前からあったようだし、この小部屋について知ってるのは恐らく……)

「姉さん」


 何度も思考が現実へと引っ張られてしまうため、落ち着き整理するための時間を欲する。

 だが、妹を無碍にもできない。

 そのため、愛する妹へと耳を傾けた。


「集まる時間、大幅に、過ぎてる」

「うっ……そ、そろそろ船着き場に行った方が良さそうかもね〜、アハハ〜」


 勝手な行動をしてしまったため、他の皆から怒られてしまうだろうとは覚悟の上だったが、流石に時間を大幅に過ぎると自分達を待たずして森への捜索が始まる。

 早く皆に知らせねば、と行動に出る前にはもう転移鍵の能力で地上への転移門が築かれていた。


「これで、外、出れる」

「うん、ありがと」


 言い訳を考える暇さえ与えてはくれず、この時ばかりは少しだけ優秀な妹を恨んだ。

 表情には出さず、その門を通って祠前へと出る。

 大雨警報も仰天の豪雨っぷりが、空より降ってくる。

 顔や髪が濡れるのをフードを被って防ぎ、周囲へと目線を落としてみるのだが、やはり先程の死骸の群れは祠前で倒れていた死骸達だったようで、転がっているはずの死骸は全て消えていた。

 それも当然、動き出して階段を降り、二人に倒されてしまったのだから。


「この祠、入れないようにした方が良いかな〜?」

「ん、フィオも、そう思う」

「うん、そうだね……なら!!」


 両手を合わせ、一つの種を発芽させる。

 地下への入り口前に生えた新芽が雨によって一気に成長し、次第に大きな黒い棘の蔦を形成していく。

 その蔦が地下への入り口を建物ごと絡まって塞ぎ、入るのは難しくなっていた。


「『縛る鉄線蔦(ブラックヘデラ)』で何処まで耐えれるかな……転移能力者が向こうにいれば意味無いし、ま、気休め程度にはなると良いな〜」


 そうでなければ意味が無い。

 ともかくこれで、森の調査は完了したとも言える。

 後は船着き場の基地で作戦会議するなり、日誌を読んで手掛かりを得るなり、謎の光を待つなり、色々とできる。


(いや、他にも森に何かあるのかな?)


 そこは実際に超感覚の権能持ちに任せる。

 だが、森の中心地にある祠と地下への入り口、これが堂々と建っている時点で、フーシーとグノーの二人が気付いていても可笑しくないはず。

 何故二人は申告しなかったのか。

 そもそも気付いていたのだろうか。

 少しばかり喉に魚の骨が刺さったような感覚に陥り、その小骨を抜くために、中心地にある祠から後ろ歩きで一歩、二歩と後退りしていく。


「姉さん?」

「フィオちゃんはそこにいて! ちょっと確かめたいんだ!」


 距離は次第に離れていき、約十メートル程度離れたところで何かの膜を通った感触があった。


「結界?」


 色は無色透明で、その結界に手を触れると別の方向へと向かわねば、という使命的衝動に駆られた。

 認識を変換させられている、と気付き、咄嗟に歯を食い縛って堪える。

 認識阻害の結界が張られている。

 そこを通ろうとすれば、別の方向へと進むように魔法が編まれているようで、その結界の中にフィオレニーデは入れていた。

 だとするなら、転移鍵を使って入ったに違いない。

 それから、結界で守らねばならないくらいの重要な施設でもある。


(結界の媒体になるのは祠の陽光龍の像くらいだけど、あれには神力以外の力は感じなかったし……)


 結界を形成する上で現在結界を構成しているのは魔力、つまり神力の宿る像が触媒になってはいない、という結果が導き出せる。

 しかし、ならば何が媒体となっているのか。

 それを探るためにフェスティーニは生物学者の力で身体を弄り、結界を通り抜ける。


(よし、職業の力を使えば何とか通れるね)


 身体の制御権を自身で担い、方向感覚に耐え得る制御で内部に侵入できた。

 侵入さえできれば、後は妹の待つ祠へと向かうだけ。

 距離からして半径十メートルと少し、だが、そのドーム状に覆われた結界が祠と地下施設の隠蔽を目的とするなら、そこに入れたであろうウルグラセンという人間が、より歪と化す。


「姉さん、これ……見つけた」

「ん?」


 置かれていたのは小さな竜の木像、神像の裏に隠されるようにして置かれていた。


「これ、結界の媒体だね。でも何で木彫りの竜?」

「この島、龍に関連ある、から?」

「犯人の拘り的な?」

「「……」」


 結論は出ず、それを壊そうとも壊さずとも大した変化は無いように感じられた。

 外に持ち出そうとすると、反発を受ける。

 壊そうとしても、その像自体にも結界が張られているために壊せない。

 ならば、すべきなのは一つ。


「うん、見なかった事にしよ〜っと」


 神像の裏に置き直して、見て見ぬフリをした。


「良い、の?」

「どうせここには陽光龍ジアの身体があるだけだし、ボク等の能力なら結界を擦り抜けて普通に入れるから、置いといても特に問題は無いでしょ」

「……分かった。なら、帰る?」

「そうだね、一先ず帰ろっか。フィオちゃん、お願い」


 鍵で時空を開く。


「『開く異界の扉(アナザーゲート)』」


 異次元の先には、窓から明かりが漏れ出ている秘密基地が見えた。

 まだ全員が揃った状態。

 ならば丁度、ここで起こった出来事の説明から密航船を捕まえる作戦会議もできそうだと、彼女達はそのゲートを潜っていく。

 一時的に陽光龍に別れを告げ、忠告を胸に、いよいよ領域侵犯の密航船拿捕に本腰を入れる。


「さぁ、もうひと頑張りしよっか〜」

「ん、フィオも、お手伝い、する」


 そして仲間のいる船着き場へ続く門は閉じられ、辺りには静寂だけが置き去りに、二人は船乗り達と仲間の待つ基地で出迎えられる。

 新たな情報、という手土産を携えて。

 帰りを待っていたセルヴィーネ達と共に互いの手土産を開け、密航船を捕らえるため、森の民二人は作戦会議の席に座った。






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