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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第四章【南国諸島編】
179/276

第170話 パズルピースを組み合わせ

 暗い建物の階段を螺旋状に降りていく。

 奏でられるのは足音のみ、地下空洞と同じような静けさのみが場を支配する。

 階段を降りながら彼女は幾つもの手掛かりをパズルのように組み合わせていき、同時に自問自答を繰り返していった。


(この島で発生した事件は大まかに三つ、誘拐、それから密航船の領域侵犯、そして天候不良。半年間も天候が荒れてるのは何でだろ? 他は誰かによって行われてるとして、それだけがずっと謎なんだよね〜)


 日輪島で得られた証拠だけでは、天候が荒れている原因の究明が困難を極めている。


(まず初めに、ボクが得た情報の発端は船乗りの人達からだった)


 発端となるのは、屋敷で停電になったためにユグランド商会へと部品の調達に行った帰り、船乗り達と出会ったところからだった。

 船乗り達はエルフが犯人だという情報を元に、自分が狙われる羽目になり、それを撃退し、協力を要請された。

 それを快諾し、事情を聞いた。

 知ったのは半年前に事件が始まったというところから。

 船長バンレックス曰く、突然の大雨によって漁業に出れなくなり、嵐の中で船を出した者達が帰らぬ人となった、という。


(確かバンレックスさんが、夜中に船の修理してて、休憩に出たところで『謎の光』を見たんだったよね)


 荒波に対して、西街から東の領主館に向かって水平方向に移動する光を見たとの証言が手に入った。

 荒波なのに水平方向にゆったりと進む光が変であると理解すると共に、その海は霧掛かっていた事実がある。


(そして謎の光を見た翌日には誘拐事件発生、と)


 何度か空振りだったとバンレックスは言った。

 謎の光と誘拐事件、何の因果関係があるのかは未だ分からずだが、情報を先に整理する。


(この時、ボクは誘拐犯と間違われてたから、それについて聞いたんだった)


 誘拐犯がエルフだったのだと、船乗りの一員であるロディの証言から、自分は間違われた。

 ロディは犯人を見た。

 それは背後から長耳が見えたのと、そこには小さなイヤリングをしていた、という事実からであり、それによって間違われてしまった。

 だが、自身の強さを証明し、ある意味では犯人には成り得ないと一定の信頼を得た。

 しかしエルフが犯人である以上、種族間問題に発展するかもしれず、それに対してゴッドエルフであるフェスティーニは巫女として、この事件解決に乗り出した。

 ロディを問い詰めても情報は出てこず、単にイヤリングをしたエルフ、という数少ない手掛かりに保留とした。


(イヤリングに関しても雨のせいで見えなかったらしいし、そこでボクは孤児院の子供が攫われた状況を知るために、孤児院に行くのを考えた)


 孤児院に行けば、何かしらの手掛かりを得られるだろうとの考慮に、犯人の方が一枚上手だったと納得せざるを得ない事態となった。

 何故なら、ロディが攫われたから。


(まだ何も分かんない状態だから考えるのは後かな。それよりも事件の整理が先だ)


 孤児院に行くのをバンレックスは止めた。

 何故なら、誘拐したのはフェスティーニと同じエルフであり、エルフが犯人だと知っているのは孤児院の人間達、それから船乗りのみ。

 それをバンレックス自身が話した。

 エルフ誘拐説、これは日輪島領主によって箝口令が敷かれているため、広がってはいない。

 だが噂は一人歩きするのが世の常、人の口に戸は立てられないもの、こればかりは彼女にも分からない。

 種族間の関係性は案外脆い、それを危惧して現在地下へと挑んでいる。


(仮にエルフが本当に犯人だった場合、これはエルフの国への侵攻の口実になっちゃうし、かなり危ない綱渡りになりそうだ)


 外交問題に関わるつもりは一切無いため、もしここで犯人を捕らえられなければ確実に面倒事が爆速してくる。

 そればかりは嫌である。

 束縛され、愛する人(ノア)と会う時間が減るのは御免なのだ。

 三ヶ月前より家に閉じ籠もってしまった船乗りが一人、その人が誘拐だと騒いで、翌日には何故か何事も無かったように過ごしていた。

 そして次第に部屋に閉じ籠もり、外に出てるところを誰も見ていない。

 ギオハ曰く、催眠術師に操られて壊されてしまった、との事らしく、情報が錯綜しているのは目に見えて明らかだった。

 しかしそれがウルグラセンである、という情報ピースが組み合わさる。


(鍵は空白の二ヶ月間)


 ここで、ギルドでの検索履歴等で出た結論、もしかして犯人と接触していたかも、という情報と組み合わさる。

 五ヶ月前から三ヶ月前までの僅か二ヶ月、そこで犯人と接触していた可能性に危機感を持ちながら、慎重に脳裏を整理していく。


(ギルドに催眠術師に関する情報があったんだっけ。もしかしたら、リンダさんが船乗りに催眠術師の仕業だって説明したのかな?)


 こればかりは憶測になるが、今回の事件が催眠術師の仕業かもしれない、それを船乗り達は理解していた。


(その情報は確か、サンディオット諸島で麻薬の取引が行われてる、だったね)


 もしかすると、その麻薬に犯されたのかもしれない。

 ウルグラセンはもう助からない、その可能性が強まっていた。

 しかし催眠術師が行った、その部分が腑に落ちず、話を聞こうとしてお使いの最中だったため、その時は一旦整理するためにも屋敷に戻った。


(その日に集まって解決すべきと思った情報は、『謎の光』と『孤児の失踪』、それから『船乗りの籠城』の三つだった)


 手掛かりに繋がるのは、その三つ。

 事実として挙げられたのは、犯人=小さなイヤリングをしたエルフ、だ。


(君に会うだけのはずが、その時になって協力し始めたんだよ、ノア君)


 セルヴィーネがこの場所に来ている事実は、ノアがこの諸島の何処かにいる証左であり、彼はグラットポートで事件解決に貢献しているため、もしかすると事件介入しているかもしれない、そう考えた。

 しかしエルフが誘拐事件に関与しているなら、ノアに手伝ってもらう訳にはいくまい。


(自国民が解決しなきゃだもんね)


 セルヴィーネが、犯人がエルフでない可能性の証拠を入手したが、それはまだ彼女は知らない。


(ボクは巫女だし、少なくとも変な行動は取れない。ボクの行動次第ではエルシードの行動とも取れちゃうし、位の高い人ってのは何でこうも動き辛いんだろ?)


 自由に行きたい彼女からしたら、こればかりは面倒でしかない。


(ま、今は良いや)


 それよりもその段階では誰が犯人か、と言うよりは何が起こっているのか、という疑問が頭を敷き詰めていたのを覚えている。

 事件介入より三日、情報はかなり集まったが、犯人の手掛かりは未だ掴めず状態。

 どうしようもない憤りが胸を圧迫する。

 事件解決ができなければ、当初の目的も達成不可。

 状況を少しずつ手に入れては壁に突き当たり、それを乗り越えるため、日進月歩で徐々に犯人へと距離を縮め、この祠にまで辿り着けた。


(エルフ犯人説についても考えなきゃ)


 証言一つでは決まらない。

 それにその証人も攫われたのか、姿を眩ましてしまったので探す必要があるが、実は彼女達もロディ捜索を多少忘れていたのも事実。

 フーシーも能力で探そうともしないのは、相次ぐ事件捜査で頭から抜けていたからだったりする。


(ごめんよ、ロディ君。後で探してもらうから……)


 心の中で謝罪し、その少年の証言を考察する。

 証言一つで決まらない理由は、まず情報として不足しているから。

 背後から見た場合、見えたのはエルフ耳とイヤリングのみであり、もし前から見た場合は顔とかも見えていたかもしれない。

 そこから考えて、やはり背後からと断定。

 その背後から見えた光景により、犯人は全身を隠していたという情報を想像するが、犯人が長い耳というだけでエルフだとは断定し辛い。

 変装の魔導具の類いもあるからだ。

 それに職業なら可能性は無数に膨らむ。

 自分でセルヴィーネへと言った言葉を思い出し、ロディ犯人説も組み込んだ。


(状況がまだ不確かだから何とも言えないけど……やっぱり考えられるのは三つ、いや四つかな)


 一つ、ロディが犯人。

 二つ、ロディが犯人の共犯者。

 三つ、ロディは犯人ではなく、犯人とは無関係。

 四つ、ロディは犯人ではなく、犯人と関係あり、しかし事件には関与していない。

 エルフに扮装する理由は不確かなれど、ロディが見た目の年齢でなかったら、それは彼も職業保持者であり、職業によっては一気に犯人に近付く。

 だが、これも憶測の延長線上だ。

 そのせいで憶測という領域より外へと出られない。


(そう言えば、セラちゃんがフラバルドの事件と似てるって言ってたっけ)


 可能性は無限大、これをプラスに取るべきか、それともマイナスに取るべきか。

 薄暗い螺旋階段に、溜まった疲弊の吐息が出た。

 まだ凄惨な何かを見た訳ではない。

 希望的観測を持って整理を続けた。


(セラちゃんとの会話で、ボクは候補を三つに絞った。孤児院、ウルグラセンの家、そして謎の光、その順番で行こうって決めたんだ)


 孤児院に行くためには、警戒を解いてもらわねば犯人扱いされ、逆襲を受けてしまう。

 そう思ったからロディという孤児院出身の少年を連れてくために、船乗りの秘密基地に立ち寄った。

 しかし、その彼が行方不明となったため、代わりに船乗りギオハが同伴するに至った。


(犯人の動機は不明、孤児を誘拐したのもまだ何故かは分かってない。奴隷として売り捌くのか、それとも臓器売買なのか……さっきの死骸を見れば後者だって思うけど、子供の臓器を売り飛ばすとか、正気の沙汰じゃないね)


 これはもう非人道的な域を超過している。

 人を殺す、それは前世でも現世でも行ってはならない行為であり、人の尊厳を奪うのと同義である。

 文字通り内臓を奪われているが、その者達の人生までも奪って良い理由が果たしてあるのか、否、それは絶対に無いだろう。

 だから子供を誘拐する犯人が誰か、絶対に探し当てると決意している。

 子供から内臓を抜き取るとするなら、これはもう頭のネジが吹き飛んだ怪物の仕業だ。


(それに誘拐に対して外部では行方不明事件って事になってるし、エルフ犯人説が正しいのか判明するまでは、ボクも迂闊な行動はできないしな〜)


 だが、この先を探る上で、証拠を誰かに消される前に入れて良かったとは頭の片隅で思っていた。

 と、その時、少し大きな地響きが発生した。

 足場が揺れて少しばかり踏ん張りを利かせて転びはしなかったが、それでも今までで発生していた中でも結構な衝撃だった。

 雷震の影響が、陽光龍との加護が切れたせいだとセルヴィーネと会話した記憶があるが、実際のところ、その原因も分かっていない。

 領主が、神器に問題があるかもしれない、と言っていたのをフェスティーニは思い出し、まだ他にも手掛かりが残っているではないかと脳裏に思い起こす。


(暦の祭壇にも行ってみなきゃだけど、『三神龍の加護の儀』では神器が、『登竜門の儀』では宝具が、これも結構謎なんだよね〜)


 その区分も今一ピンと来ていない。

 神器と宝具、その二つが存在しているなら、童話に関して何が正解か不正解か、判断に困る。

 それに加えて儀式における役割も謎。

 神器を用いた儀式が毎年行われているにも関わらず、突然加護が切れたのにも理由がありそうだが、その情報はまだフェスティーニは持ってない。


(龍栄祭は七月七日開始、今日含めても後十一日しかない。準備期間も設けたとしても、十日か九日か、一週間くらいしか猶予は無さそうだ)


 順序立てて調査を開始したフェスティーニ、初めはギルドに行き、次に孤児院、船乗りの家、倉庫より地下に入ってコンテナへ、そして今日はギルドと現在祠のある森の中心地での調査。

 二日三日でかなりの情報が集まった。

 それを組み合わせるべく、彼女は前日の様子の記憶を引き出した。


(ギルドでは様々な情報が手に入った。一月六日から事件が始まったって言ってたけど、セラちゃんの権能が反応してたようだし……)


 リンダの話では一月六日より雨が降り始め、そこから事件が始まったという共通認識を持っていたが、セルヴィーネだけは一月七日ではないのか、と質問した。

 たとえ、それが本当だったとて、何か事件と関係あるのかと疑問だけが取り残される。

 ギルドでも情報不足は否めず、最初に誘拐事件だと騒ぎ出したウルグラセンが引き籠もりになったため、強引な手段に出ようと画策したところでフェスティーニ達が偶然にもギルドを訪れた。

 バンレックスが依頼を出しに来たのも気掛かりとなる。

 ギルドマスターと自警団船長が繋がりを持っているのは明白である。


(誘拐事件の発生は五ヶ月前、丁度ウルグラセンがギルドの管理室と同期させた端末で調べ物してた時期と被る)


 密航船を追っていたのもそうだが、もしかすると彼は誘拐事件と密航船が繋がっている、そう思ったのでは?

 そんな推論は誰しもが浮かぶ。


(密航船と言えばコンテナにあった密航船ルート、あれも確か北西方面から無人島方面に向かってたはず。日輪島より北側を通ってたのを灯台が目撃してるし、これを担当した冒険者の人も行方不明に……ん?)


 行方不明、それはもしかしたら誘拐されてしまったのかもしれない。

 それは一度考えた。

 だが、それだと犯人側がこう言っているように思えた。

 その冒険者は何かに気付いてしまったから、已む無く攫ったのだ、と。


(いや、ギルドも情報を特に開示しなかったし、多分知らぬ間に攫われたのかな?)


 ならば、これは考えても仕方ない。

 どうせ事件が終わるまで分かりやしないのだから。


(密航船は月末に発見されるけど、それを毎度捕らえられずにいる。その正体も不明だけど、その密航船のルートに関してはウルグラセンが調べ上げてた)


 そして行方不明となった。


(『謎の光』と、それから『灯台から見た光』は恐らく別物で、謎の光は南、灯台からの光は北だし、北の光は密航船のものでまず間違いないはず。だったら謎の光って何が光ったものなんだろ?)


 そこはまだ見ていないので、答えは空欄のまま。

 夜中限定で見る水平に飛ぶ光を追い掛けるのは、至難の業に他ならない。

 領主館でも見られる以上は、今日も夜には屋敷に戻らねばなるまい。


(ニーベルさんにお願いしとくんだった)


 だとするなら、徹夜作業もできたものを。

 しかし寝ずの作業は効率が格段に落ちるため、夜更かしはしない。

 他にも考えねばならない事象は残っている。

 例えば孤児院に行く前の基地で、一匹の鳥が星夜島より手紙を運んできて、彼女達は未来の行く末の一端を知ってしまった。

 サンディオット諸島全体が完全に崩壊していた、という事実が淡々と書き綴られ、他島で活動している船乗りについても謎が深まる。

 このまま何もしなければ、近いうちに全てが壊れる。

 それが儀式と何かしら結び付いていると予想し、彼女は更に思考を深めるため、内在へと潜っていく。


(島全体が崩壊してた、その事実を書き換える唯一の手立ては犯人を捕まえるという条件のみ……その船乗りが星夜島で活動してるなら、そっちに犯人がいるのかな?)


 その人物ユーグストンが『魔物使い』だと船乗りヴェルゲイから聞いたフェスティーニだが、未来渡航の能力を持っている時点で一つの仮説が浮かんだ。

 それは、魔物の能力について自身を対象に行使し、自身の身体を未来、或いは過去に飛ばせるのではないか、というものだ。

 時間を渡り、解決策を探しに行く方法もある。

 しかし見つかっていない時点で、犯人はその能力を知っている事になる。

 だが制限があると手紙にもあったように、その条件次第では一気に核心へ近付く。


(ウルグラセン、ユーグストン、その二人にも何か繋がりがある、とか?)


 だったらコンテナで見た『サヨナラ、ウルグさん』という電子文字も、彼が送ったのか。

 送られたのは六月二十三日。

 地質学者主催の調査は現段階で、混沌と化しているのをフェスティーニは知らない。

 地質的調査が必要、しかし日輪島では豪雨により続行不可能、よって仮説に仮説を重ねる段階で、日輪島と星夜島が同じと予想して思考を広げていく。

 その思考樹形図は、より分岐して、しかしピースが嵌まって分岐線は何個か合流する。


(確かユーグストンの手紙には、地質調査隊に犯人が潜んでるって書いてあったけど……)


 それが単独なのか、複数なのか、明確化されていないせいで余計な思考回路が稼働する。

 だが、少なくとも一人はいる。

 その一人さえ分かれば、残りの犯人は芋蔓式で判明するだろう。


(孤児院には、グノー君、フーシーちゃん、そしてアスラちゃんの三人……それぞれ、騎士系統の職業、料理人、それから……あれ?)


 オルファスラのみ職業を知らず、首を傾げる。

 しかし職業が分からずとも、そこに関しては犯人ではないと感じていた。

 まず、孤児院に結界が張られていたが、あれは恐らくグノーの騎士の能力か、もしかすると聖騎士に該当するのかもしれない。

 だからグノーが犯人という可能性は低い。

 次にフーシーだが、彼女は料理人であり、犯人が催眠術師ならば彼女は違う。

 最後にオルファスラ、彼女の職業を聞いてないため知らないが、セルヴィーネが一緒に行動していて権能にも反応を示していないならば、信頼できる。

 よって、ユーグストンの手紙の件も多少なりとも信憑性を帯びてきた。


(セラちゃんの墓参りの件、それにコンテナにあった『登竜門の儀』、それから伝承の一説、全てが繋がってる気がするけど……まぁ、また後で聞いてみよっと)


 穴だらけのパズルを組み合わせるためには、重要な鍵を握る一人の龍神族の情報が必要。

 孤児院はグノー、フーシーの二人によって守られ、それ以降は攫われた人はいないが、それまでに大人も子供も沢山攫われたとフーシーは語っていた。

 そして外にある大量の内臓を抜かれた死骸。

 ここから犯人の目的はやはり、大人子供を攫ってでも内臓が必要だった訳で、そして同じく医療系統の能力を持った犯人が共犯者としているかもしれない、という可能性を生み出した。

 或いは操られているか、だ。


(こればかりは離島に行かなきゃ分かんないし……)


 だが、離島行きチケットは他事を全部片付けてからでないと駄目だと決める。

 フーシーの持っていた情報は、大半がフェスティーニ達の得ていた情報と合致し、二つの気になる事情をそこで入手する。

 一つは、森にウルグラセンの装飾品である竜骨が落ちていた件について。

 彼を見掛けたのは三ヶ月前、閉じ籠もる前日との事。

 そして気になってグノー、フーシーの二人は調査に入り、竜骨を発見。

 もう一つ、それはフーシーの能力によって偶然見つかった情報源、積荷集積所(コンテナヤード)にある反応だ。


(それが船乗りの家の倉庫から繋がってるとは思わなかったけど、その分時間に余裕ができたのは事実だし、有効に使わなくちゃね)


 コンテナは本来なら衣類や家具等のみのはずが、食料マップに反応を示した。

 その時は『食糧に擦り替えられていた』とオルファスラが発言していたが、実際にはウルグラセンの秘密基地のような場所で、そこには大量の情報が揃っていた。

 ウルグラセンの家では、一つの『巻き物』、それから冷蔵庫の魔石と、ギルドで修繕された情報機器、その三つが手に入った。


(かなり複雑になってきたね〜)


 頭がパンクしないようにと思って始めた整理だったが、余計にバラバラと情報が脳内を駆け巡る。


(ウルグラセンは密航船を追い掛けていた。それから誘拐事件にも関わり始めて、恐らく犯人と接触していた。そこで何かがあって、それから三ヶ月前まで彼は何かをしていた。そして行方不明になって、その調査はユーグストンという人に引き継がれたとしたら……)


 全ての手掛かりは、コンテナにあった『日誌』に収束されているのでは?


(ここ一ヶ月で雷震の規模も大きくなってるってフーシーちゃん言ってたし、ルド何ちゃらの部下の人達が教えてくれた件も考えなくちゃ)


 島の状況がより悪化する中、離島の一つ『雄叫びの無人島』に龍が住み着いていると住民達の間で噂になっているらしく、その唸り声も事件に関わっているらしい。

 そして、その左斜め上の島、そこにも何かがあると獣人の勘が告げていると教えられた。


(それにコンテナと船乗りの家を爆破したのが誰かも気になるところだし、情報の真偽を見極めないと)


 ウルグラセンの家は、扉の鍵が開いていた。

 埃が積もっていたため、ウルグラセンは数ヶ月間自宅に帰っていない。

 どう行動したのかを記憶内で追走する。

 ウルグラセンの行動ルートは、あの地下空洞で間違いないだろう。

 それは通路にあった泥の足跡が証明しており、一方通行だったところから、コンテナを出た後に森へと赴いて、そのまま何か事件に巻き込まれた、と推測する。

 コンテナにあった複数台の端末を何処で用意したのかは不明だが、これに関しては一つの仮説が正しいかもと思った。


(多分、魔導具師の人が設計図をコピーするなりして、それを複数台量産したってとこかな? まぁ、魔導具師ってよりも魔工技師の方かもしれないけど)


 それなら心当たりがある。

 ギルドの管理室と同期させて情報を得ていたウルグラセンは、密航船を追い続け、ルートも割り出していた。

 童話等、日誌、諸島全土の地図、他島の事件考察、『登竜門の儀』の手順、暦の祭壇の成り立ち、三人の戦士の家系図、麻薬の密輸ルート、密航船の渡航ルート、そのコンテナから出てきた情報全てが一つに繋がっているはず。

 もしユーグストンに宛てられた情報なら、それ全てが星夜島の彼へと渡っているはず。


(密輸ルートは北側だから繋がりを見せた。そのルートが離島に向かってるのも怪しいし、この地下を調べたら日誌と離島、そして謎の光の三つだけかな)


 まだ手を付けてないのに限ると、その三つだけとなる。

 その三つのうち一つは、夜中限定なために実質残り二つだけだったりする。

 日誌は手元に、そして離島は準備期間を設けても一日が限度だろう。

 現在午後で、ここから日誌を夜に調べ、それから翌日は一日を準備作戦期間に充て、そして離島へと渡航する。


(うん、それが妥当かな)


 ここで現時点での全情報が出揃ったので、ピース同士を組み合わせていく。

 事件を振り返る。

 事件の発端は一月六日、雨が最初に降り始めた日にちである。

 唯一セルヴィーネのみ一月七日ではないか、との意見だが、一先ず置いておく。

 一月六日に雨が降り、雷震も発生するようになり、その日より一ヶ月近く先に誘拐事件が発生、その日の当日夜中の三時頃には『謎の光』をバンレックスは見た。

 同じくウルグラセンも見ていたはずで、彼は誘拐事件だと騒ぎ立てた。

 しかし翌日には何事も無かったかのように振る舞っていたとの事。

 一月三十日、灯台が北西方面に密航船を発見。

 それにより、ウルグラセンはギルドの管理室と同期させていた端末を用いて、コンテナで情報を集めると共に密航船を追い始める。

 それが今より五ヶ月前の話。

 それはギルドの検索履歴とコンテナで見た履歴と一致し、最古のもので五ヶ月前だったからだ。

 それから空白の二ヶ月間がやって来る。

 その間に犯人についても調べて、犯人の目的へと迫っていたと思われる。

 その証拠に、伝承や童話を調べていたから。

 つまり犯人の目的の一つは仮定でしかないが、三龍神から授かる『新しい職業』だと思われる。


(三つの島それぞれで分かれてたけど、どれも三神龍から職業を授かってた。なら犯人はそれが目的なのかな? それか、それすらも過程でしかないのかな?)


 その動機の部分は不明だが、そう取れるのは事実。

 ウルグラセンが三ヶ月前に森に入るのをフーシーが見つけ、その翌日よりウルグラセンの姿を見た者は一人もおらず、唯一その森には彼の持っていた竜骨のペンダントのみが落ちていた。

 空白の二ヶ月間で、犯人と接触していた可能性も示唆されていたが、それは推測でしかない。


(ウルグラセンとユーグストンが繋がっている場合、一月の時点で異変に気付いて、彼を星夜島に送ったのかな。つまり犯人と接触したのは一月から二月に掛けての時間帯しかないはず)


 そして六月二十三日、ウルグラセンが死んだと判断したユーグストンが、コンテナへと一通のメールを送る。

 サヨナラ、と。

 根拠は『ウルグさん』という呼び方、それは船乗りの間柄ならではだと思われる。

 空白の二ヶ月間を終えた三ヶ月前よりウルグラセンは籠城したと思われたが、実際には家にはおらず、痕跡も何者かに爆破されてしまった。

 つまり、最低でも黒幕と共犯者が一人いる。

 そして現在、自分達は情報を集めながら犯人へと徐々に迫っている。

 残されたのは、謎の光、日誌、離島、そして森の祠より地下空間、その四つとなった。


(そして螺旋階段を降りて、ボク達はこうして探ってる状況なんだけど……)


 それは犯人が船乗りの中にいるかもしれない、と思ったからだ。

 明確な根拠は無い。

 だが、船乗りが何人か行方不明となっていて、フーシーとグノーの二人ならウルグラセンが誘拐された可能性へと至る根拠、証拠を手にしていた。

 それなのに、ウルグラセンの家を調べようともしなかったのが気に掛かり、だから裏切り者がいるのではないかと危惧していた。

 黒幕が催眠術師なら、気付かずに利用されていても不思議ではない。

 だから、彼女は集合せずに森にやって来た。

 半ば強引だったが、それでも好機は逃さない。


「姉さん、前」

「へ? ガッ――い、痛った〜!?」


 考え事をしながら階段を降りていたせいで、辿り着いた扉に額を打ち付けるという失態を犯す。

 ゴチンッ、と擬音が螺旋階段の先の通路に響く。

 そこを意図せずに歩いていたフェスティーニは、いつの間にか目的地に到着していた。

 眼前には堅牢な扉が一枚、鍵穴が一つ開いている。

 横にスライドさせようと取っ手を引っ張るが、ビクともしなかった。


「う〜ん、やっぱり開かないね〜」

「フィオに、任せて」

「あぁ、そっか。フィオちゃんの鍵の能力があったんだったね。じゃあよろしく〜」

「ん」


 鍵束が虚空より出現し、フィオレニーデは鍵の一つを切り離して、大きくした。


「『緊急時用合鍵コード・ブルー変形オン』」


 鍵穴に一つの鍵を翳して、内部の情報を検知させて、その鍵穴に合った鍵を形作っていき、数秒後には荘厳な扉に対応する鍵ができあがった。

 それを鍵穴に差し込んで、反時計回りに回転させると、ガチャリと音を弾いて、扉は開いた。

 音を立てずにスライドしていく扉を横目に、漏れた光の先へと二人の森人は足を踏み入れた。


「うわぁ……まさかこんなものが待ち構えてるなんて、ビックリだ」

「ん、ビックリ、した」


 二人が入った部屋は天井高く、ただ広いだけの殆ど何も無い空間、反対側にも扉があり、その先はまだ未知数。

 いや、それよりも二人が注目したのは中央に位置している一つの球体である。

 光り輝く球体は無数の鎖によって、天井、壁、床と繋がれている。

 宙に浮いている球体の中、彼女達が驚愕に心揺さぶられているのは、そこに存在している一つの生命体のせいであり、その真下に向かってただ茫然と歩いて二人は下から見上げてみた。

 神々しい光に包まれた鱗、神秘的な巨躯、ゴツゴツとした真っ白な天翼、長太い尻尾、尖った二本の角、その存在は圧倒的威厳を放っている。

 ついつい空笑いが零れ、笑みが引き攣ってしまう。

 それもそのはず、全くの予想外の光景が二人を出迎えたのだから。


「は、ハハ……天候が悪い理由も、島から加護が消えた理由も、ウルグラセンって人が攫われた理由も……全部、全部関係してたんだ」

「……凄い」

「なんて、こった……」


 その存在は日輪島を象徴とする龍、天空と太陽を創ったとされる九匹のうちの一匹。

 そこにいたのは、一体の伝説上の生き物。

 鎖が淡く輝きを放ち、生命のエネルギーがその球体へと吸収されて膨張し続けている。

 冷や汗が止まらない。

 身体の芯から震えている。

 この魂が、直感が、危機感知が、警鐘を激しく打ち鳴らしている。


「これは流石のボクでも予想できなかった……セラちゃんの権能が示してたのはコレか……」


 森の中心、それを権能が指し示していた。

 つまり危険か、或いは事件の鍵となる予感か、ともかく啓示されていたのは爆弾だった。

 内包されたエネルギー量からして、サンディオット諸島全土に影響を与えるだけの熱量を放っているため、肌がチリチリと焼ける感覚に抵抗感がある。


「肌、少し、焼けてる……」

「うん、そうだね。言うなれば擬似太陽みたいなものだろうね〜」


 太陽光と同じ成分を放っているように感じられた。

 ただ、強靭な肉体と、その肉体に耐えるだけの職業を得ているため、二人には少し肌が熱い程度の影響しかない。


「太陽の守護龍、日輪島の象徴たる陽光龍、ジア」


 フィオレニーデの声が耳朶を打ち、自覚する。

 やはりそうだ、幻覚や催眠術等ではない。

 フェスティーニ達の頭上にある巨大な球体の中では、瞳を閉じた状態で、陽光龍ジアが(・・・・・・)眠り続けていた(・・・・・・・)






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