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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第四章【南国諸島編】
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第148話 地質調査4

 ユスティ達と別れてから数時間が経過、すでに夕方を過ぎていて森全体が真っ暗で視界も悪く、とてもではないが動くのは危険を伴う。

 何度かモンスターとの戦闘が行われて、かなり進行速度が遅いため、こうして数時間も経過してしまっている。

 その数時間の行動はか弱き女子には辛いようで、ジュリアは足が棒のようになったと駄々を捏ね、現在何故か俺のバックパックに乗っている。

 巫山戯るなと言いたいのだが、俺の戦闘に関する情報を聞かない代わりに乗せてくれ、との譲歩だったので仕方なく乗せた。


「はぁ……毎日こんな風に誰かに運ばれたいなぁ」

「自堕落だな、それでも貴族かよ。疲れが取れたんなら、もう降りろ」

「絶対ヤダ!!」


 気に入ったから絶対に降りないぞ、と意思を示されて困っている。

 振り落とすのも簡単だが、何よりまずは合流を急がねばならないので、彼女に構ってはいられない。

 俺達は隊列を組み直して、先行するのはユーグストン、その後ろにダイアナ、そして俺とジュリアの一列となって先頭にいる彼がカンテラで道を照らしている。


「でも凄い怪力だよねー、黒いお兄さん。私とリュックを一緒に背負ってるのに息一つ乱してないんだから」

「体力には自信があるからな」

「でも、もう五時間だよ?」


 午後六時を回っていたが、休憩無しで進んでいた。

 途中、ユスティから何度か通信があったのだが、彼女達はモンスターに二度襲われたそうで、全員で走って次の目的地へと向かっていた。

 しかし夜の時間帯に突入したため、動くのは危険だと誰かが判断したのだろう、彼等は仲良くテントの準備をしているそうだ。

 少し夜風も吹いてきていた。

 涼しげな風が髪を撫でて、森の中へと消えてゆく。


「夏なのに涼しいね。ずっと、このままだったら良いのにねー」

「それはつまり、事件なんて解決しなくても良いだろ、って意味か?」

「……すみません」


 冒険者らしからぬ発言だが、島民が聞いたら暴動が起きかねない。


「Sランクなら、もう少し言動には注意した方が良いぞ」

「うっ……な、なら、お兄さんの冒険者のランクは?」

「俺はEだ。ランクに興味が無いもんでね」


 俺の強さは昼頃に行われた戦闘や、それ以降に襲い掛かってきたモンスター撃退で見ているはずだ。

 その戦闘では錬成銃は使わなかった。

 得体の知れない武器を使うよりかは、精霊術と毒物での戦いをすべきだと考えたからだ。


「じゃあさじゃあさ、一緒に来てた白髪の子とはどういう関係なの? もしかして恋人だったり!?」

「何でそれをお前に話さなくちゃならんのだ?」

「えー、良いじゃん。だって私の周りに恋バナできる人がいないんだもん」

「姉と話せば良いだろうが」

「カレンお姉ちゃんは駄目だよ。だってお姉ちゃん、とっても固いんだもん」


 自分を『小生』なんて言ってる時点で、カレンのガードが固いのは予想できていたし、ジュリアの言いたい気持ちも理解できよう。

 だからと言って俺に振られても困る。

 恋愛に興味が無い訳ではないが、それでも昔に終わってしまったし、今更穿り返すのも癪だしな。


「じゃあお前にはいないのか?」

「へ?」

「貴族様なんだろ? だったら許嫁の一人や二人、いても可笑しくないと思ってな」


 なのに冒険者として生計を立てているため、それが不思議で堪らなかった。

 しかし他人に対して興味が希薄であるため聞く気は無い。

 それに冒険者には訳ありなのが多くいるし、俺もその一人であるから、彼女の気持ちも何となく察しはしていた。


「お姉ちゃんと違って、私には別に一人も……」

「そうか」


 言いたくなさそうにしていたので、俺は事情を聞かずに道無き道を突き進んでいくユーグストン達を追躡した。

 道は合っているはずで、魔力探知でも居場所はかなり近くなってきているため、このまま進んでいけば広場に出られるはずだと思っていた。


「って、何で私の出自知ってるの?」

「『青薔薇』は有名だからな」


 知ってる人は知っているし、それだけ強いのも周知の事実である。

 しかし彼女を詳しく知っているのは、俺が勇者パーティーに所属していたからだが、今のところは彼女に悟られていないので大丈夫なはずだ。

 あの頃は色々あったし、こうして生きてられるのも奇跡のような……いや、奇跡なのか?


(自分が何でこの世界に来たのか分かんないし、奇跡って言葉で片付けられそうもないな)


 それはこれが解決したら少しは進展するだろう。

 生命龍スクレッド、奴と会話ができるだろうから。

 それにミルシュヴァーナに行けば、グランドマスターが俺の情報を教えてくれるそうだし、このまま何事も無く終わってほしいと切に願う。

 いや、もう面倒だし、犯人が自ら名乗りを挙げてくれないだろうか。


「私だけ素性を知られてるのって不公平じゃない?」


 突然思考に介入してきた言葉に、俺は何を言っているのだろうかと懐疑的な目を向けた。

 いや、背負ったバックパックに乗ってるので見えない。


「……何が言いたい?」

「お兄さんの事も教えてほしいなぁってね」


 詮索するなとは言ったが、それは俺の力についてのみだった。

 つまり、出自の詮索は禁じていない。

 しかし答えるつもりもない。

 そう思っていたのだが、彼女が上から何かを垂らしてきて眼前に見せてきた。


「これ、大切な物なんでしょ?」


 それは俺が常に首から下げている、師匠から貰ったスターバレットの涙、ペンダントだった。

 銀色の輝きを持った『銀星玉』という名のレアドロップクリスタルだが、それを彼女が手にしていたために俺は右手を胸元へと持っていきペンダントが盗まれているのを知って、目の前に垂らされてるクリスタルが俺の私物であると理解する。


「返せ、クソ餓鬼」

「じゃあお兄さんの事、教えて?」


 どうやら彼女は俺を舐めてるようだ。

 その態度や言動から判断して、彼女の伸びていた手首を掴んで地面へと投げ落とし、仰向けとなった少女へと殺意を飛ばした。


「二度は言わんぞ、サッサと返せ」

「うっ」


 威圧、殺気、圧倒的な実力差を見せつけて彼女へと警告する。

 ギロッと彼女を睨み付け、蛙となってしまったジュリアから宝物を奪い返した。


「自分の足で歩きやがれ、クソ餓鬼」


 背負ったバックパックが軽くなったため、やはりお荷物は置いていくに限る。

 お荷物というよりは、危険人物だな。

 他人の考えなんて普通は読めないし、読めたところで腹黒い事実しか分かりやしないため、俺は自分を含めた人間が大嫌いだ。

 空間魔導師が嘘だとしても、物質転送能力を持っているのは先程で分かった。

 俺のペンダントを気付かれずに奪えるのだ、彼女に対する警戒レベルを引き上げておくとしよう。


(それにしても……この森、やはり妙だな)


 普通の森には鳥や動物、精霊の類いがいるのが常識なのだが、この森にはそういったものが一切いない。

 代わりにいるのがダンジョンモンスターである。

 しかし、これが爺さんの見た影だったのかと考えると、そうでもないような気がしている。


「あ、あの……」


 魔境はダンジョンではなかったが、この星夜島の森はダンジョンと化している。

 この違いは何なのか、それは暗黒龍と生命龍の存在であろう。

 片や勇者に与えられた傷を治すために養生していただけの暗黒龍、片や催眠術師に強制的に契約を結ばされてダンジョンへと生命力を流しているであろう生命龍、この差は森と何処まで繋がっているか。

 詳しくは生命龍の元へと向かえば深く認知できるが、今回はそれが目的ではない。


「ね、ねぇ、お兄さん?」


 いや、生命龍を助けて得られるメリットは俺にも大きく関わってくるため、目的ではないにしろ、そこへと向かうべきだ。

 しかし、仮に固有空間に閉じ籠もってしまえば俺達が幾ら探そうとも見つかりはしない。


「ねぇったら……」


 固有空間に入った状態で生命力が吸えるとは思えないので、これは半分予想でしかないが、島の何処かにいるのは確実だろう。

 だが何処にいるのかが生命龍自身分かっていないため、俺達の向かうべき道から外れてる生命力の流れを追い掛ければ見つかるはずだ。

 生命龍はこの島全体から生命力を吸っているため、島の作物や花が枯れている。


(……ん?)


 だとしたら変な事実がある。


(この森……何で枯れてないんだ?)


 緑の生い茂る大森林、全然枯れてはいない。

 生命力が吸われているのは左目が確認しているが、それでも半年も吸われ続ければ枯れてしまうだろうと分かっていたはずなのに、何故か枯れていない。

 この森の元から備わっていた性質なのか、ダンジョン化したために変化したのか、それとも俺達の視認している景色そのものが偽りの映像なのか、どれにしても生命龍の言葉とは矛盾する。


「無視しないでぇ……」


 生命龍は、この島全体の生命力を吸い取ってるのだと言っていた。

 作物が枯れているのが、その証拠だ。

 土壌や作物、植物全体にも影響していなければ辻褄が合わないのだが、この森は何故だか繁茂しているため、生命龍が言った事実と異なる。

 ならば、この森は何なのか。

 地質調査以外でも樹木やモンスターの生態調査、サンプルは多く手に入れておくべきだ。


(森全体が枯れてない理由、モンスターが暴走状態だったのと探知網から突如現れた方法、それから俺だけが狙われた理由も考えないとな)


 幾つかの予想と仮説、考察はできる。

 まず『森全体が枯れてない理由』、先程述べた三つの予想を筆頭に挙げて仮説を纏めていく。

 まず一つ目、この森の元来の機能だった場合。

 この森が生命力を吸われても平気なのが森の機能だったとするなら、無限に湧き出る生命力を少しずつ吸収している事となり、その無限供給は『光合成』が関係しているかもしれない。

 光合成に必要なのは水と二酸化炭素、そして光エネルギーの三つであり、そこから出来上がるのは養分と酸素の二つである。

 その養分を生み出すのと吸う過程が同量かエネルギー生成の方が多かったとしたら森が枯れていないのも頷けるが、日中光合成している訳ではないのと、この森の下には太陽光が殆ど当たらないにもお構い無しに草木が生い茂ってるため、この仮説は微妙なところだ。


(んで二つ目はダンジョン化によって変化した場合、か)


 ダンジョンの性質はフラバルドで体感している。

 ダンジョンには修復機能が備わっており、このフィールドの設定が『森』ならば生命力や魔力が森全体で循環していても不思議ではない。

 しかし霊王眼で確かめた結果、循環している要素は何処にも見当たらず、中央へと生命力が向かっていった後は何処かに消えている。

 つまりダンジョン化したための森林維持は不自然となる。

 だから、この仮説は立てられない。

 しかしダンジョン化しているために、立てられはしないが別のアプローチに必要となるだろうから、この仮説も一応は覚えておく。


(そして三つ目、この見てる景色全てが偽物でできた幻影の可能性だな)


 何が言いたいのかと言うと、この景色を見せているであろう催眠術師による誤認催眠を脳に掛けられている、という意味だ。

 要するに森の樹木全てが偽物、実体でなく触れられない映像でしかない。

 催眠術によって森が繁茂しているように見せられているだけ、そのように認識プロセスが無意識のうちに改変されている可能性がある。

 しかし、それならば聖女が転んだ時にジャンプして飛び乗った枝も偽物という事になり、幻影という仮説と矛盾が生じてしまう。

 試しに側にあった樹木に触れてみたが、手にゴツゴツとした感触があるため、これは幻影ではない。


(これも『触った』という感触を催眠術で創り出しているに過ぎないのか?)


 だとするなら、俺達は完全に催眠術師の術中に嵌まってしまっている訳だ。

 視覚も、聴覚も、嗅覚も、味覚も、そして触覚も、その五感全てが催眠術の領域下に支配されてしまったなら、俺達が感じているこの世界が虚像だとしても、それを絶対に認識できない。

 森に入った時点で詰んでいる。

 だが、覚醒者でも常時催眠術を発動させられるだろうかと思い、この仮説も定かではないとの結論に至る。

 しかし、もしもこの仮説が正しかったとしたら、何故犯人はワザワザそんな大掛かりな仕掛けを施したのだろう、そこが新たな種の芽生えだ。


「三つとも微妙だな」

「へ?」


 次に考えるのは『ハングリーベアが暴走していた理由+探知網に突然現れた理由』だ。


(先にハングリーベアが暴走してた理由から考えるか)


 あの化け物が暴走していたのは、明らかに大量の魔力を内包していたためのエネルギー暴発だ。

 高濃度魔力素が身体を覆っていたから、あの状態では殆ど錯乱していたはずで、しかし何故か俺だけを敵と見做して襲ってきていた。

 暴走していた原因、つまり大量の魔力を手にするに至った理由を追求するべきだ。


(立てられる予想として三つ、モンスター発生時のバグ、他のモンスターを喰らう『共喰い』、催眠術師が無理矢理注入したための暴走、かな)


 一番考えにくいのがバグだ。

 ダンジョンでモンスターが生まれる過程としては、ダンジョン内を流れる魔力が集まった魔力溜まりで周囲の魔力が一点に凝縮され、それが魔石となり、その魔石にダンジョンが情報を設定し、モンスターが発生する。

 これがダンジョンで生まれる化け物の生成過程だ。

 だから死ぬと情報が死んだと判断して、自ら自壊して灰になるらしい。

 その過程で何等かのバグが発生して、そのモンスターに大量の魔力を内包するに至ってしまった、と仮定する。

 突拍子もない考え、これは却下だな。


(一番考えられるのは『共喰い』だな)


 魔石を喰らい、その魔石の情報を自身の核へと刻み込んで経験値を得て、力を得ていく強化種がダンジョンの中に稀に存在する。

 階層喰い(フロアイーター)も、その共喰いをした結果として化け物となった。

 あれはモンスターや人間を喰って力を付ける存在だ。

 より多くの人間を喰らい、より多くの経験値を得て、強くなっていく存在だ。

 この可能性が正しいとは思うが、それは次の仮説の範囲内に入ってしまうかもしれない。


(それが催眠術師の強制操作か)


 催眠によって『他のモンスターを食べろ』と命じれば食べて、そして力を付ける、その過程も予測できてしまう。


「ねぇ、三つともって何なのさ? 微妙ってのは? ねぇ、無視しないで教えてよぉ!」


 そして二つの目の可能性よりももっと前、生命龍そのものに命じて生命力をモンスター一匹に与えたとしたら、それはそれは強力な個体が出来上がる。

 つまりだ、この二つ目と三つ目の仮説を合わせたものの総合が、あのハングリーベアだったのかもしれない。


(もしそうなら、それだけの力を俺が感じないはずがないのに、突然魔力探知の中から現れた。それは何故だ?)


 突然現れたのだとしたら、そこにも何が理由があるはずだと思考を更に深める。

 もっと思考の海の奥底深くへと潜ろう。


(考えろ、俺ならできる)


 歩きながら、俺は突然現れたモンスターの原因に仮説を立てていく。


(仮説一、ジュリアのような転移能力を催眠術師が持っている可能性だな)


 転移能力なら探知内部に突然感じられたのも分かるが、それには催眠術師が転移能力を持っている、という絶対条件が必須となる。

 だから、これは少し保留とする。


(仮説二、突然モンスターが生まれた)


 モンスターが生まれたのだとしたら、何故俺を即座に感知して突撃してきたのかが分からなくなるため、これは却下とする。


(仮説三、地中に潜っていた)


 いや、それは絶対に有り得ない。

 突然内部に現れた場所は地上で、地中から出てきたなら魔力で探知できていたはずだ。

 これも確率的に無いと判断して除外する。


(仮説四、ジュリア犯人説)


 これは彼女が直接的な犯人ではなく、例えば催眠術師が事前に催眠を掛けておいて俺達が探索している途中で突如催眠発動の条件が満たされた、という間接的に利用されたという説が浮かぶ。

 これは仮説一の応用みたいなものだ。

 しかしながら、彼女の能力が遠く離れた場所にまで及ぶのかという制限と、仮に呼べるのだとしたら何故俺達の眼前に転移させなかったのか、という疑問がそれぞれ残る。


(仮説五、催眠術師が俺達の脳を弄って『モンスターの探知に気付かない』と催眠を掛けてた可能性だが……)


 それも違うような気がする。

 だって、それなら途中で探知できたのは催眠が解けてしまったから、と結論付いてしまう。

 その時、俺はユスティ、シオン、そしてルミナの三人と行動を共にしていたため、この仮説には不透明な点が浮き彫りとなってしまう。

 だが、もしもこの仮説を立証できるなら、犯人がルミナやシオンではないと証明する事になり、犯人の可能性が残りの八人に絞られる。


「いや、この五つも場合によっちゃ、全て無理か」

「五つって? ねぇねぇ聞いてる?」

「後考えなくちゃならないのは……」


 俺だけが狙われた理由だ。

 これは先程の仮説と併用して考えねばならないから、より複雑になっているが、一つずつ紐解いてみよう。


(まず、これの仮説を立てるか。狙われる理由は分からないが、もしニア婆さんやポプラ、ギルド職員が犯人だったなら俺が本物のノアだって分かってるはずだし、邪魔に思うのも有り得る)


 俺がノアだとバレていたら、それは狙われる理由になるのでは無かろうか。

 自意識過剰だとかの考えは一旦排除して、俺なら厄介な奴は先んじて排除していきたい。

 他の奴等はどうとでもなると考えるからだ。


(仮定として俺の正体が犯人に露呈している場合、俺を狙うようにモンスターに命令を出せる。つまりモンスター暴走の仮説二と三が成立する)


 俺を殺すよう命じ、強制的に生み出した駒を俺にぶつけてきた。

 仮説同士が繋がりを見せた。

 しかし、それが合っているのかは総合的な判断が必要となるので、まだ確実性が足りない。


(そして正体が判明しているのと、ギルドに侵入した人物が催眠術師の場合、婆さん達から俺の情報を聞き出せたはずだ。毎度捕まえられないのは催眠によって逃げられるからだと推測できる。だから婆さん達が犯人ではないとの立証も可能……なのか?)


 しかし、妙にしっくり来ない。

 本当に侵入した犯人が催眠術師だったのか?

 妙に辻褄が合わない気がして、何かを見落としているような感覚に囚われる。


「……」


 急いては事を仕損じる、それは重々承知の上だ。

 まだ解決のためのピースが不足している。

 催眠術は脳に間接的な影響を与えるが、それは精神的な部分に依存するため、俺の霊王眼では見極めにくい部分もあるのだ。


「うぅ……」

「ジュリア様、大丈夫ですよ、このダイアナがいつでも話し相手になりましょう」


 極限的に集中すると、その分消耗してしまう。

 一旦意識を外部に切り替えると、何故か女性二人が抱き合っていた。


「何してんだ、テメェ等?」

「ジュリア様を慰めているのでございます。誰か様がジュリア様を無視し続けたせいで」

「そうなのか、随分と酷い奴がいたもんだな」


 その言葉に二人が絶句する。


「ユーグストン、無視してやるなよ」

「いや、お前だろ。さっきから何度も話し掛けてたのに一向に無視してたの、ディオだぞ?」


 俺、話し掛けられていたのか?

 全く気付きもしなかった。

 自身の内在領域での思考判断は、集中力を極限まで高めて外部からの声や色、認識情報を全て遮断する。

 だから基本話し掛けられても無視してしまう。


「で、俺に何か用だったのか?」

「もう良いもん……」

「あぁ、ジュリア様、おいたわしや……」


 何なんだ、コイツ等?

 マジで意味不明なのだが、まぁ今は放置しておいても良いか。

 直接的に命を狙われても対処は簡単だろうからな。

 それよりも仮説を一部肯定するか否定するかのため、俺はジュリアへと目を向ける。


「おいチビ、一つ質問に答えろ」

「ち、チビじゃ無いもん!!」

「そうか分かったよクソ餓鬼、お前の能力に関して一つ質問をする。正直に答えろ」


 彼女の物質転送能力についての質問だ。

 明らかにしておきたい事象なので、こればかりは外せない。


「空間魔導師なら当然、転移能力や物質転送能力を持ってるはずだ。お前の転移転送能力の上限は何キロ、或いは何トンまでだ?」

「えっと……正確に測った訳じゃないから分かんないけど、多分大人十人分は一度に運べると思う」


 成人男性の平均体重を仮に六十キロとした場合、六百キロも一度に運べてしまう計算となる。

 一人当たり五十キロでも、五百キロもの重量を運べてしまうため、ハングリーベア一匹程度ならギリギリ運べるではないか。

 四メートルの個体で推定体重は五百キロ前後、彼女なら運べてしまう。

 成る程、これでより複雑になったな。

 私ならハングリーベアを転送できるぞと、そう彼女自身証明してしまった。

 状況を細分化できるが、可能性の幅が広まった。

 俺の他にルミナが探知内部の反応を検知しているため、状況にもよるがもしも一触即発となったら対立してしまうかもしれない。

 いや、状況次第では俺が有利に進められる。

 ならば、いざその時が来たら俺の掌の上で踊ってもらうとしよう。


「それがどうしたの?」

「いや、ちょっと気になっただけだ」


 彼女は一切嘘を吐いてない。

 そこが少し展開をズラす要因となる。

 正確に測った事は無いそうで、それは彼女が間違いを信じているという可能性も浮上してしまう。

 謎が謎を呼ぶ、フラバルドの時と似たような状況だ。

 今回も気合いを入れなければ死人がゴロゴロと出かねないだろう。

 ただ、彼女は何の疑問も無く素直に答えたため、彼女が意図的に運んだ、とは思えない。

 犯人なら即座に気付いて嘘を吐くはずだから。


「お、少し遠いが明かりが見えたな」


 歩き続けてきて、ようやくユスティ達のいるベースキャンプを目視で捉えられるくらい近付けた。

 所々にギャップと呼ばれる局所的に木の生えてない地帯が存在するが、そこをキャンプ地にして、同時に検査対象としている。

 木の生えてない場所の土壌は木の生えてる箇所と違い、木の影響を受けないため極端に地質の性質が見れる。


「ねぇねぇ! 私の能力について喋ったんだからさ、お兄さんも教えてよね?」

「さっきペンダント盗んだから、今のでチャラだな」

「えぇ!? やっぱり黒いお兄さんってケチんぼだよね」

「悪かったな、ケチで。ってかバックパックに乗るな、降りろ」

「だって大きいから人一人分乗れるんだもん。良いじゃん、私軽いし」

「いや、メッチャ重たいからマジ降りてください。もうお前が乗ってから肩が痛くて痛くて大変なんだ。体重七十キロ以上はあるんじゃ――」

「そんなに無いよ! 七十キロもあったら今頃お兄さん潰れてるんじゃないの?」


 いつもセラが乗ってるから平気だが、それよりも軽いのは間違いない。

 セラの場合は、龍の尻尾が重いだけだ。

 攻撃に特化した龍神族の特徴として、尻尾での攻撃もあるからこそ、重量級となっている。

 セラに言ったら怒られそうだが、彼女は隣の島にいる。


「因みにお前の体重についてだが、正確に数字として割り出せるが言った方が良いか?」

「へ?」

「お前の体重は五十――」

「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 いきなり暴れ出したので、歩きにくい。

 セラもだが、人のバックパックの上で暴れないでもらいたい。

 そう思っていると、その小さな願いが叶った。


「ようやく降りたか」

「人の体重を計るなんてデリカシーの欠片も無いお兄さんだね、全く……」

「じゃあ、二度と乗るな」


 荷物が軽くなって良かった。

 彼女に反省の色が見えないのは少し残念だが、いつまでも気にしてはいられない。


「おい、無駄話は終わりにしろ。着いたぞ」


 いつの間にやら先頭を歩いていたユーグストンが、その先の道を照らす。

 森が途切れて、俺達はようやく探索本隊へと合流する事ができた。

 やっと一段落着ける。

 そう思って、俺は焚き火を囲っている者達のところへと歩みを進めた。






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