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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第四章【南国諸島編】
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第145話 地質調査1


 地質調査をするために、アルグレナーが冒険者に依頼して日時と集合場所を指定した。

 朝の十時、灯台の前へ。

 そこに辿り着いた俺とユスティが見たのは、集合に先に到着していた冒険者数名だった。

 そこにいたのは、青薔薇のブローチや髪飾り、服装を統一した三人組の女性達、フードを被って顔を隠している謎の男、大きな杖を持った知り合いの古代魔導師と背中に直剣を背負った灰髪の男、そして少し暗めの金髪に赤目をした柔和な顔の男がそれぞれ退屈そうに待っていた。

 大きな灯台を背に、俺達も彼等と同じように時間が来るまで黙って待つ。


(まだ時間じゃないが、もう何人か集まってんのか……)


 今回の地質調査では、俺とユスティを除けば十人参加するらしい。

 その中で俺が知っているのはアルグレナーという地質学者と聖女シオンの二名のみ、かと思ったが、若干二名知り合いがいる。

 いや、殆ど知らないのと同義だし、他八名も知らないがために全員を怪しむべきだろう。

 今回はデータが消されていたし、何か俺達の知らない裏で蠢いているようにも思える。

 そんな中で錬金術が使えるようになったのは嬉しい誤算だったが、地質調査での俺のすべき内容は主に三つ、聖女の護衛と生命龍の居場所特定、そして催眠術師の捕縛、或いは抹殺だ。


『ユスティ、聞こえるな?』

『はい、聞こえます』


 俺は最終確認としてユスティに精神通信を開始し、奴隷紋を媒介にして意識を同期させた。


『幾つか確認しておこう。まず俺達はすでに原因を知ってる訳だが、それを他人に教えようとするなよ?』

『何故ですか? その方がより明確に地質調査できると思うのですが……』

『逆だ、原因を知ってるのは基本的に犯人だけだ。俺は暗黒龍の使徒っていう特例だったから偶然知れただけで、本来なら有り得ない。だから俺の能力も、俺の情報も、基本開示しないつもりだ』


 それを開示してしまえば、俺が催眠術師だと思われかねないからこそ口を噤むのだ。

 それに、もしも信じてもらえたとしても、その中に潜む催眠術師に明確に敵対していると思われ、先手を打たれてしまう。

 それだけは阻止したい。

 向こうの手駒には、何処にいるかも不明な三体の神龍が控えているのだから。


『それに、ギルドに侵入した犯人についても気になるところがある』

『気になるところ、ですか?』

『そうだ。ギルドに侵入した犯人は何も盗んでいかなかったと婆さんが言ってたろ。だがギルドの地質調査に関するログが七日分消されてた。今の情報を統合すると自然と、侵入した犯人が情報だけを消し、この地質調査参加メンバーの中にその犯人がいる、と一応だが筋道を立てられる』


 しかし、催眠術師=侵入した犯人、とは限らない。

 もし催眠術師ならば記憶さえも封じたりもできるはずだが、犯人は何故か証拠を残していて、婆さんは犯人の存在を認識していた。

 度々侵入があったらしいので、もし犯人が催眠術師ならば婆さんが犯人を認識してるのは可笑しい。

 それか犯人が単に間抜け……いや、それは考え難い。


『だが、それには不可解な部分がある』

『不可解な部分ですか?』


 それは犯人の動機だ。

 俺の見立てでは、催眠術師以外の誰かが犯人だと思っている。

 何故ソイツはログを消さなければならなかったのか、その理由を考えてはいるのだが、俺のような平凡な脳味噌では考えても答えが出てきやしない。


『それから、今回の地質調査ではシオンの護衛を兼ねてるんだ。悟られるなよ?』

『ですが、口止めはされてませんよね?』

『されてはいないんだが、護衛を頼むってのはつまり、シオンの命が狙われている可能性があるって公言してるのと一緒なんだよ』

『命を? 誰にです?』

『そりゃ、他の聖女にじゃないか?』


 大聖女選定についての知識は俺達には無いので、憶測でしか言えないのだが、護衛の件を黙っているのにはもう一つ理由がある。

 それは、動きが制限されないようにするためだ。

 護衛だと公言すれば、彼女の元から離れてはならなくなってしまうが、それを言わなければ依頼だったとしても、ある程度は自由に行動できる。

 それに俺としては、シオンに護衛は必要無いとすら思っている。


『ご主人様、護衛する気無いんじゃ……』

『初対面の相手に護衛されても困るだけだろうし、言わぬが花とも言うからな』


 人生、知らない方が良いものの方が数多くある。


『それに、行動次第では釣れるかもしれない』

『釣れる……お魚さんでも釣るのですか?』

『釣るのは魚じゃなくて聖女を狙ってる連中だ。いるかどうかはまだ不明だがな』


 いないとも限らない、いや、十中八九狙ってる奴がいるのは間違いないだろう。

 大聖女選定は熾烈を極めるらしく、相手を蹴落とすために殺しまでする聖女もいるらしいから警戒しなければならないはずなのに、彼女は何故か一人で来た。


『他に気になるのは俺の偽物が誰なのか、それから何で俺の名前を騙ってるのか、かな』

『単に目立ちたいだけでは?』

『まぁ、そうかもしんないけど……警戒はするべきだな』


 ソイツがどれだけの実力を兼ね備えているかも気になるところだし、奴が催眠術師だったりするかもしれない。


『とにかく、俺はクルーディオとして活動する。お前も気を付けろよ』

『はい』


 人が集まってきたため、俺達は精神通信を切った。

 十二人全員が出揃ったかと思ったのだが、ここに集まったのは十人、まだ来てないのが二人いる。

 周囲を見渡すと、俺の知ってる奴が少なくとも二人か三人いた。


(あの二人も参加するのか……)


 紫髪の古代魔導師と、灰色髪の英雄の二人も地質調査に参加するようで、大きな荷物を手にしていた。

 チラッとルミナがこちらを見てきたが、興味を無くしたかのように別方向へと視線を送ったので、飛行船の時のように突っ掛かってきたりはしないようだ。

 しかし、この島の領主に呼ばれたとか聞いたが、この島の調査を手伝ってくれと頼まれたのか。


「ヒョッヒョッヒョッ、どうやらほぼ全員が揃っとるようじゃのぅ」


 十人の真ん中に突如として現れたのは、迷彩柄の探検服を身に纏う白髭の生やした元気そうな爺さんだった。

 腰を曲げているが、まだまだ元気そうな爺さんだ。

 この人物が有名な地質学者、アルグレナー=ルースガントだ。


(これで残り一人か)


 誰が来てないのかは明白、あの聖女シオンだ。

 彼女が来るのもアルグレナーは知っているが、俺とユスティの二人の顔を知らなかった彼がこちらに意識を向け、視線が交差する。


「見ない顔じゃが、地質調査の参加者でえぇのんか?」

「あぁ」

「そうかそうか、貴様等二人が婆さんの遣いじゃな。頼りにしておるよ、クルーディオ、ユーステティアとやら」


 爺さんは俺の肩を軽く叩いてボソッと呟き、笑いながら全員へと目をやった。

 俺達の名前を知っている。

 俺達はまだ名乗ってすらいないのに知っているというのは、考えずともニア婆さんが手を回したのだろう、だから名前を言えた。

 含みのある言い方をしているように聞こえたが、気のせいか……

 ニコニコと明るい陽気な雰囲気を醸し出す爺さんは俺など気にも留めず、咳払いして手を腰へと回した。


「さて、ここに集まってくれた諸君、我が輩はアルグレナー=ルースガント、今回の地質調査の責任者じゃ。よろしく頼むぞ」


 ヒラヒラと手を振り、彼は身軽そうな動きで全員の前に立って様子を眺める。

 俺達を値踏みして、彼は最初に一言こう言った。


「粒揃いじゃのぅ。若手が育っておって我が輩はとても嬉しい」


 急に俺達を褒めるが、それは単に俺達を褒めただけではなく、冒険者の先輩として後輩である俺達への一つの評価基準となる。

 ある意味試されてるようだ。

 有名な地質学者でる彼は、幾度となく修羅場を潜り抜けてきた猛者だ。

 そんな彼を寄越さなければならない程の案件なのだと大半の人間には理解できよう。


「じゃが、今回の調査は一人では無理なんじゃ。理由は二つ、一つは森が広いからじゃが、もう一つが問題でな、この奥地に凶暴なモンスターがおるんじゃよ」


 爺さんが言うくらいならば、それだけの危険が森の中を彷徨っている事になる。

 それを理解してなさそうな馬鹿が一人だけいるのを俺は知っている。

 一人静観している黒髪碧眼の男、多分黒い髪は染めたのだろうがソイツだけ自信満々そうな面をしているが、実力はそこまでではなく霊王眼で見通した限りでは一番弱い人間だったので、コイツが俺を騙る偽物ノアだろう。

 婆さんに見せてもらったプロフィールに載ってた顔写真とも一致するし、何より馬鹿そうだ。


「たかが地質調査だろ? こんだけ人数がいれば楽勝だろうし、何なら魔神すらも倒したこの英雄の俺様が全て倒してやるぜ?」

「ほぅ、頼もしいのぅ。確か貴様はノア、じゃったか?」


 あぁ成る程、爺さんもそう思ってるのか。

 背中にある一振りの剣は業物のようだが、実力が見合っていない。

 だが、俺の偽物がいるのは何だか不思議な気分だ。

 ふと隣へと視線を向けてみると、ユスティが汚物を見るような目で偽物を眺めていた。


『斬りかかるなよ?』

『わ、分かってますけど……』


 俺がこっそりと精神通信をすると彼女は肩を跳ねさせていたため、俺が静止の命令をしていなければ斬り伏せてしまいそうだ。

 二度深呼吸して、頭を冷やしたようだ。

 一瞬だったが腰の二刀の柄を握ってたので、止めなければ偽物が危なかった。


「あぁ、グラットポートの騒動を食い止めたのはこの俺、英雄ノア様だ!!」


 俺達は奴が偽物だと知ってるのだが、グラットポートにいなかった者達ならば本物か偽物かは判別が付きにくいところだ。

 俺も有名になってしまったものだが、こういった弊害があるとは予想してなかった。

 こっちとしては囮の役割を果たしてくれるので大助かりなのだが、その馬鹿よりもこの中にいるであろう催眠術師の特定を急ぎたい。


「俺様の武勇伝、聞きたいか?」

「いや、必要無い。それは後で分かる」


 時間の無駄と言わんばかりにアルグレナーは興味無さげに拒否した。

 偽物の語る武勇伝、それは聞いた話をそのまま口にするだけだろう、そして本物かどうかは後で分かると言ったため、凶暴なモンスターが蔓延った地点で行うのだと予想できる。


「さて、では今回の調査概要を掻い摘んで確認するか。最近になって作物が枯れる事件が発生しとるため、もしかしたら昏睡事件との繋がりがあるかもしれんとギルドマスター直々のお達しで集まってもらった訳じゃな」


 それがチームを組む経緯となった出来事。

 人だけが対象だったのが、抗うのも限界となって島全体へと目を向けた結果、こうして地質調査のメンバー集めが行われた。

 そして、その中に催眠術師がいるかもしれない。

 それを見つけるのが、今回の特殊な課題(ミッション)となる。


「今回は星夜島の地質、即ち土壌を幾つかの地点で見ていくから、数日間掛けての調査となる。そこまではえぇな?」


 全員が頷いて、続く話に耳を傾ける。


「地質調査では我が輩の能力が必要となるが、そのためには地点まで赴く必要がある。じゃから斥候職やモンスター退治のための戦闘能力が数人ずつ欲しかったところなんじゃよ」


 一週間以上前から爺さんは森の調査に赴いていたそうで、調査のためには縄張りを持つモンスターから逃げつつ調査しなければならないという欠点があった。

 だから冒険者がモンスターと戦っている間に、爺さんが地質の土壌を手に入れて、それを元に分析するそうだ。


(地質学者の能力……土壌解析のようなものだろうか)


 多分、土だけではないだろう。

 鉱石や溶岩といった地質の解析ができる特異な能力を有しているはずだ。

 だから爺さんが呼ばれた。


「基本二列で森を探索する。地質だけでなく、ちと気になる事もあるしのぅ……」


 後半ボソッと呟いたため、何を言ってるのかは聞こえなかったのだが、隊列を組むのは良い判断と言えるか微妙なところだ。

 フェンスの奥を見るが、鬱蒼とした森のようになっているのだ。

 足場の悪い場所で二列で行動するのは難しいだろうし、もし唐突に戦闘が始まってしまったら、ぶつかったりして邪魔となる。


「まずは斥候、金髪の貴様と全身ローブの貴様、二人に斥候を頼む。えぇか?」

「……」

「うん、任せてよ」


 フードの男は無言で従い、金髪の男は笑顔で了承する。

 二人の能力は不明だが、フードを被っている男が物凄く怪しいのは気のせいか。


「次に近接戦闘員として、灰髪と英雄の貴様に任せよう」

「……分かった」

「俺様が全て蹴散らしてやる」


 片方は英雄ノアでヤル気に満ち溢れているのだが、もう片方の灰髪の英雄ニック様は全く覇気を感じさせないため、ヤル気ゼロだなと離れた場所からでも見えた。

 相対する二人が並ぶところをみると、より一層ヤル気の無さが際立って見えるのは何故だろうか。


「んで、次は我が輩と……そうじゃの、カレン嬢ちゃん、周囲の警戒は任せた」

「承知した」


 アルグレナーに話し掛けられた女性は青髪で右サイドの一部が銀髪となっている、治療院で俺とぶつかったブローチの美女だ。

 名前がカレン、そして青薔薇を象徴とするブローチと細剣、加えて青色を基調とした服装、それ等の特徴で俺は、自分と同い年で史上最年少Sランクパーティーに上り詰めた『青薔薇』のリーダーだと今更気付いた。

 カレンは薔薇の一種で、彼女は薔薇貴族ローゼンティア家の長女だったはずだ。


(なら、その隣にいる茶髪の子は妹か)


 カレンと呼ばれた美女の隣にいたのは、薄茶色の髪をポニテにした、姉と同じ水色瞳の少女だ。

 確か名前は……


「次は『青薔薇』の二人にお願いしようかの?」

「オッケー、任せてよ!!」

「畏まりました」


 思い出した、妹の方がジュリアだ。

 彼女達は東大陸出身で、クズ勇者達の凱旋パーティーに参加してたはずだ。

 人が多かったのと、直接的な面識が無かったので今の今まで忘れていたが、何故こんなところにいるのかと疑問が出てきてしまう。

 俺を知らないはずだが、一応用心はしておこう。

 あの元気溌剌そうな妹は超人的な記憶力を持ってると有名だったし、何処かで俺がウォルニスだと露見する可能性も無くはないのだから。


「さて、後は三人じゃが……」


 残るは俺とユスティ、それからルミナだけだ。

 爺さんが誰かを指名しようとしたところで、一人遅れてやってきた。


「お、遅れまし――ふぎゃっ!?」


 遅れて現れたのは、白い修道服と真っ白で分厚そうなシスターベールを被った聖女様だった。

 しかし俺達の目の前まで走ってきたところで小石に躓いてしまい、白い服を汚してしまっていた。


「そうじゃ、貴様等に言うの忘れとったわい。今回は凶暴なモンスターが何匹もおるという訳で、念の為に聖女様も同行なされる」

「あ、せ、聖女シオンですの、よろしくお願いしますの」


 とても恥ずかしそうに立ち上がり、挨拶を済ませる。

 何故遅れたのかのだろうかと思っていると、こちらと目が合った。

 聖女シオン、昨日出会ったばかりの初対面ではあるが、俺の護衛対象でもある。


「じゃが聖女様よ、集合時間はとっくに過ぎとるぞ。何があったんじゃ?」

「す、すみませんでしたの……み、道に迷ってしまって」


 昨日知ったが、彼女はドが付く程の方向音痴だったな。

 灯台前に集合なはずで、灯台は島の何処からでも見える場所に立っているはずなのに、道に迷ってしまったというのは流石に同情すらできない。

 それはともかく、聖女を何処に入れるかが問題だ。

 彼女は回復職の聖女、真ん中に組み込むのをお勧めしたいところだが、後ろからでも多分彼女の能力は範囲内だ。


「丁度えぇわい。紫の嬢ちゃんと聖女様の二人、そして背後の警戒を貴様等に任せるとしよう」

「まぁ、仕方ないわね」

「はい、頑張ります」

「え、な、何の話ですの?」


 唯一、聖女様だけが状況を理解できずに困惑していたのだが、これで一通り全員のポジションが決定した。

 前衛は最初の男四人、中衛にアルグレナーと『青薔薇』の四人、そして後衛に聖女様率いる遠距離型のチームと、バランス良い組み合わせ配列となっている。

 偶然か、俺達後衛には遠距離攻撃を持つ者で揃ってる。

 俺は錬成銃や精霊術を、ユスティは弓矢の技術、そしてルミナは古代魔法の使い手、遠距離から支援する役割を担っている。

 しかし俺達はセラのような職業ではないので、支援は少し難しいだろう。


「俺もそれで構わんが……」

「何じゃ、不満か?」


 配置に関して熟考していると、爺さんが俺の様子に疑問を抱いたようだ。


「別に不満という訳ではないが、こんなにも人数が必要なのかと思ってな」


 フラバルドでの出来事も同じくらいの人数だったが、今回は十人もの人間が疑わしい。

 いや、ギルド職員も怪しいのだとするなら最低でも十二人が対象となる。

 開始早々嫌な予感がする。

 婆さんの言う通りだ、胸騒ぎどころではない。

 得体の知れない粘ついた殺意が微かに広がっていて、誰が誰を殺そうとしているのかがハッキリとしない中で、迂闊な行動はできない。

 仮に犯人にとって不利となる動きを見せれば、即座に標的にされる。


(まずは全員の職業の把握からだな)


 嘘発見の魔眼を持ち合わせているのは、犯人に知られないようにしなければならない。

 それも犯人に知られれば確実に狙われてしまう。

 返り討ちにするのは吝かではないが向こうは強制的に三神龍と契約を結んだ猛者、今はその強者の気配を全く感じられないのが気になるところだが、余計な戦闘で身を削るのは得策ではない。

 だから、どう動こうかと迷っている。

 しばらくは地質調査に身を任せるのが良策なのかもしれない。


「人数が少ないと、あの化け物達に即座に食われてしまうんじゃよ」

「化け物の種類は?」

「残念じゃが素早くて影しか見えんかった、我が輩も衰えたもんじゃよ」


 動体視力は加齢と共に徐々に低下していく。

 最高潮ピークが二十台前後であり、そこから徐々に低下、四十を過ぎた辺りから急激に低下し、その低下は現在も止まらず弱体化している。

 アルグレナー本人も現在進行形で、時を重ねていく毎に動体視力が衰え続けている。


「一瞬じゃったが、あれは……いや、憶測で話すのは止めておこう。変に先入観を植え付けるのは良くない。戦闘でもしもがあった時、臨機応変に対処できなかったら困るじゃろうしな」


 爺さんの言う通りだな。

 しかし、爺さんの説明に納得のいってない少女が俺の精神に割り込んできた。


『ですがご主人様、見たのが一瞬だったとは言え、知っておいた方が良いのではないでしょうか? 思考の幅が増えると思いますし……』

『いや、爺さんの言う通り、知らない方が良いと思う』


 何か不安を抱えているようだが、もしかして犯人でも見たのか、それとも別の何かを見てしまったのか、憶測を話して俺達が先入観に囚われないようよう慎重に考慮して取り計らってくれた。

 ユスティの言うように、彼の情報から敵を想像するのは悪くない。

 しかし、想像によるデメリットもある。

 それは、予想外の攻撃や出来事に即座に対応できなくなる可能性だ。

 例えばアルグレナーの見た影が『狐』だったとしよう。

 俺達は狐が出ると思い込み、その対策を立てる。

 そして奇襲を受けた時、狐だと思い込んでいたのが実は『大熊』だったら?

 パワーもスピードも狐とはパラメーターが違い、攻撃手段や習性なんかも異なってくる。

 狐と大熊を間違える奴なんてほぼ存在しないだろうが、あくまでもこれは一例でしかなく、しかし実際に見間違えによって誤情報を掴まされ、それが原因で死んでいく冒険者も結構いる。


『勝手に想像して違った場合、かなり危険だ。思い込みによって命を落とす冒険者も後を絶たないしな。それに曖昧な情報は信憑性に欠けるから、爺さんもそれが分かってて言わないのさ』

『な、成る程……冒険者って奥が深いんですね』

『そうだな。だから、アルグレナーが一流冒険者だってのも分かる』


 即座に判断して口を閉ざすのも冒険者として考えているからだろうな。

 信頼云々はこの際置いておくとして、同業者から見れば彼は超一流にまで届き得る力量と知識、思考力を持ち合わせている。


『だが、それがイコール爺さん信じるって考えには直結しない。俺からしたら爺さんもまだまだ怪しい』

『そ、そうなのですね……』


 アルグレナーという有名人であったとしても人は常に感情と隣り合わせ、人は無意識のうちに自分の感情を抑制しているし、人は嘘を吐く生き物だ。

 だからこそ信じない、怪しい奴は疑う。

 他人を信じて馬鹿を見るのはいつだって善人、ならばこそ俺は善人にはならない。

 爺さんを疑う、他人を疑う、それが一番楽な生き方であると俺は知っているから。


「ともかくじゃ、時間を無駄にせんようにサッサと行くかのぅ」


 だが、フェンスには鎖で閉められており、大きな南京錠で封じられている。

 霊王眼で見るとフェンスには幾つかの魔法が仕込まれており、特に電撃魔法が強力そうだ。

 鍵を持っていた爺さんが、南京錠を開けた。

 大きな音を立てて南京錠が開いたため、それ以外での侵入経路が無いかと周囲を見渡してみるが、どうやら無さそうだな。

 もしも犯人が森の奥に関係する何かを持ち運んでいたり、何かを操っていたりした場合、どうやって森に入ったのかと気になってしまった。

 入る方法はアルグレナーの南京錠の鍵のみ、このフェンスを超える方法がそれ以外だとしたら、犯人がどうやってフェンスを超えたのかと疑問が出る。

 いや、まず森に犯人が足を運んでるのかどうかから先に考えねばならないのか。


「ほれ、行くぞ坊主」


 一人熟考していると、いつの間にかアルグレナーの指示によって全員が隊列を組んでおり、出発の準備が完了していたため俺もユスティの横に並び、二列の状態でスタート地点を出発した。

 フェンスの門を潜り抜け、俺達は鬱屈とした星夜島の森へと足を踏み入れていく。

 星夜島の中央へと向かっていく生命力の流れを辿れば、自ずと生命龍が見つかるだろう。

 生命龍が何処にいるのか、そして催眠術師が誰なのか、これから直面するであろう問題を胸に、俺達の地質調査は始まった。






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