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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第四章【南国諸島編】
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第144話 新たな一日の始まり

 重たい瞼を持ち上げて、俺は目を覚ます。

 生命龍スクレッドに呼び出されて、ずっと意識の世界にいたからなのか、眠れた気がしなかった。


(まだ朝の六時か)


 懐中時計を開いて時間を確認すると、時計の短針は六時を示していた。

 昨日の夜、ユスティに揺さぶられながら気絶してしまったのだが、何故だかベッドに身体を沈ませていて、毛布を掛けてあった。

 昨日の生命龍との会話はかなり有益だった。

 島の現状や俺についての秘密を少し知れたのは運が良かったと思う。


(それより、ユスティは何処に――)


 彼女が隣のベッドにいなかったので何処に行ったのかと推測して、自分のベッドの毛布を捲り上げてみた。

 そこには涙を流した跡が目元に残っていた白い獣人の少女がスヤスヤと寝ていた。

 俺に身体を寄せている。

 まるで、離れないでくれと訴えているかのように。

 彼女の髪を撫でて、それを掻き上げる。


(何で泣いてたんだろうか?)


 その気持ちを理解できないが、それよりも先程の生命龍との会話の実証をしよう。

 腕輪へと触れて、一言呟いてみた。


「『錬成アルター』」


 バチバチと雷を迸らせて、一瞬で左手首にあった銀の腕輪は短剣へと変形した。

 しかしズキッとした痛みが身体を駆け抜けた。

 痛みが軽減されており、呪印の侵蝕も一時的ではあるのだが生命龍の力で抑えられているようだ。


(少し痺れが残るが……まぁ、これくらいなら戦闘に支障は無いな)


 一時的に抑えられている、それは裏を返せば多分、効力が切れた瞬間に蓄積された痛みが一瞬にて還元されてしまい、それが俺の『死』を意味する。

 それだけの苦痛、人間でなくとも耐えられない。

 軽くて精神破壊のみ、最悪の場合は霊魂消滅、それくらい危機が迫っている。

 この右目も、使えばきっと一気に死へと近付くだろう。

 精神的にも肉体的にも滅んでしまう。


(スクレッドから預かった力を使えば何とかなるか……いや、無理かな)


 生命を操る力というのも、俺にも力を使い熟すには修練が必要となる。

 生命力を操る力は、使おうとすると頭の中に使い方が記されたりしないので、自分で一つずつ確かめていかなければならない。

 そこまで便利で都合の良いものでもなかった。

 俺が入島した時、スクレッドから声を掛けられていたのだと先程分かった。

 しかし抗うのにも力を割いているせいで、その時は俺と会話できるまでには至らなかったのだろう。


(それにしても、まさか地質調査が始まる前に結果が分かっちまうとは、何だか一人だけカンニングしたみたいだ)


 この星夜島も一つの生命体として、スクレッドは溢れているはずの生命力を吸い取って、この島の地盤すらも枯渇させている。

 今も生命力が少しずつ動いているのを、龍の目のようになった霊王眼が捉える。

 リノの身体からも僅かに漏れ出ているため、あの根本的な原因を止めねばならない。


(リノから生命力が出てる原因は生命龍スクレッド、その生命龍を操っているのが麻薬売買人でもある催眠術師、だがソイツをどうやって見つけるかが問題なんだよなぁ……)


 この霊王眼を駆使すれば見つけられるかもしれないが、それでも絶対ではないのを肝に銘じておく。

 錬成し直して腕輪に戻し、ベッドへと身体を倒した。

 目を閉じて、先程の生命龍との会話を思い出す。


(『只人としていたいなら』、か)


 この右目を使う状況がやってくるかもしれない。

 どうせ予知夢でも勝てないと判断されているようだし、負けるのだから使う必要は無い。

 しかし、使うかもしれない。

 そして使えば俺は人ではいられなくなってしまうのか。

 俺は人として尊厳を守るのか、それとも自分を捨ててでも使うのだろうか、それはその時になってみないと判断が付かない。

 これは契約で手に入れた力。

 人間の器に合うように創られちゃいない。


(俺も時間無いし、今のうちにスクレッドから貰った力、試してみるか)


 生命を操る能力、それを授かったのだから早く扱えるように特訓しなければならない。

 残り十四日、一日でも早く使えるように、俺はベッドから出た。

 服を脱いで、上半身が窓ガラスに映った。

 黒い炎のような模様の呪印が左胸から右脇腹に掛けて侵蝕し、左肩と右腿にまで侵蝕が及んでいて、更には首筋にまで届いている。

 背中にも呪印の模様が刻まれていて、全身に痛みを与えてくる。


「まるで刺青だな」


 左目も昨日から変わりなく、より深い青となったまま。

 右目よりも濃く深く、よく見なければ色の違いは分からないだろうけど、それでも近くで見られたら一目で看破されてしまうだろう。

 ユスティにも一発で看破されたし、いずれ真っ赤な瞳になってしまうのかは知らないが、少しずつ魔眼が暗黒龍に近付いているのは間違いない。

 肉体的には超回復能力や人間離れした身体能力を備えているし、両目の魔眼は暗黒龍そのものだ。

 この右目は、俺が思ったよりも危険なものだと生命龍に警告されたのだが、この力があったからこそ魔神を倒すに至った。

 だから、この右目は使う時が来たら使うだろう、只人でなくなったとしてもだ。


「んにゅ……ごしゅじんしゃま?」


 服を着替え終わったところで、俺のベッドで熟睡していた少女が毛布から顔を出した。


「おはよう、ユスティ」

「ご、ご主人様!? だ、大丈夫なのですか!?」

「迷惑掛けたな」


 倒れてから俺は朝までずっと気絶していたようで、彼女に迷惑を掛けてしまった。

 ベッドから出ようとしていた彼女は、倒れた俺を心配して慌てており、シーツに足を引っ掛けて床に額をぶつけてしまった。

 ゴチンッ、と鈍い音がした。

 痛そうに額を摩っている彼女を見て、何故か一瞬聖女様を思い浮かべていた。

 ユスティが何処かシオンと似ていたから、俺の脳が勝手にそう思ったのかもしれない。


「イタタ……」

「そっちこそ大丈夫か?」

「は、はい、お気遣いありがとうございます。これくらい平気ですから」


 少し赤くなっていたので大丈夫ではないと思うんだが、彼女は我慢に慣れてしまっている。

 それは昔の環境から繋がっている。

 雪国育ちの彼女は他とは違う存在として生まれ、黒い魔狼族ではなく、白い魔狼族として周囲から羨望や嫉妬の眼差しを受けてきた。

 それを耐え続けてきたから、彼女は痛くても我慢しようとする。

 俺は薬草鞄を影から取り出して、その中にある液体瓶を手にして蓋を開けた。


「額、見せてみろ」

「大丈夫ですよ、そこまで痛くは――」

「見せろ」

「……はい」


 彼女の断ろうとする言葉を遮り、見せるよう命令した。

 少し傷付いてるため、軟膏を少し掬って彼女の額に塗り込んだ。


「ご、ご主人様、自分でできますよ」

「良いから、ジッとしてろ」


 世話の焼ける妹を持った兄の気分だが、俺に兄弟も姉妹もいないし前世でもいなかった。

 だから妹がどのようなものかは経験が無いので、どう表現すれば良いのかと悩んでしまう。


「えへへ」


 軟膏を塗り終わったところで、彼女はニマニマと嬉しそうな笑みを繕っていた。

 それが不思議だったため、口から質問が出てきていた。


「急に笑みを浮かべてどうしたんだ?」

「いえ、お兄ちゃんって、こんな感じなのかなぁと思いまして。私には兄弟も姉妹もいませんでしたから、何だかとても新鮮で」


 俺と同じように考えていたらしい。

 彼女も俺と同じ一人っ子だったのか。

 俺は孤児院生活が長かったし、他人と共同生活するのには慣れていたのだが、忌み子という関係もあって他人と殆ど接する機会は訪れなかった。

 だから彼女とは少し環境が異なっている。

 彼女には両親がいるが俺にはそれすらもいない、両親に捨てられたのだから。


「俺も兄弟姉妹がいなかったから分からん」

「あ、す、すみません……」


 昨日、彼女は俺が孤児院出身だと知った。

 同時に親に捨てられたのだろうという事実も伝えてしまったので、俺の琴線に触れてしまったかと思ったようで、俯いて謝っていた。

 俺は別に気にしちゃいないが、彼女は他人の傷を抉る発言だったと反省している様子だ。


「それよりも打ったとこ、痛みは引いたか?」

「あ、はい、お陰様で」

「なら良かったよ」


 この軟膏には薬草を薬研で擦り潰したものを混ぜてあるため、すぐに効く。

 即効性回復軟膏、誰にでも簡単に作れるから値段はかなり安い。

 因みに、これは自作したものだ。


「さて、俺はそろそろ新しい力を試しに行ってくる。それが終わったら、そのまま調査の集合地点に向かうが、お前はどうする?」

「あ、なら私もご主人様と一緒に行きます」


 彼女は風呂場に併設された小さな脱衣所へと向かい、そこで着替えを済ませて、数分もせずに出てきた。

 とは言っても今日は訓練よりも生命龍の力を使い熟せるかのテストをするのを優先させるから、実は場所取りする必要も無いし、何なら部屋でもできる。

 しかし、暴発する可能性もある。

 リノを巻き込んでしまうかもしれないため、今回は外で行う。

 大きなバックパックを背負い、準備は万端だ。


(生命龍の生命を操る力、何処で確かめようか……)


 森は朝十時から地質調査に入るから、海辺にいるであろう魚か、或いは枯れている作物にでも生命力の力を使ってみようかと考える。

 ユスティ相手に使ってみるのが一番早く最適だが、彼女は戦闘のサポートに必要となるため、何かあった時に対処できないのは困る。

 得体の知れない力を扱うには、それ相応の制限リスク反動リターンを背負わねばならない。


「それでご主人様、新しい力とは?」

「あぁ、そうだった。昨日倒れてから何があったのかの説明をしてなかったな。とにかく外に出よう、道すがら説明してやる」


 俺はユスティを引き連れて廊下へと出て、そのまま下へと向かった。





 海の見える噴水公園へと俺達はやってきた。

 空は茜色に染まり、遠くに見える火山より向こう側から太陽が顔を覗かせる。

 彼女に基本的な事情を説明したのだが、転生者に関する事情や俺の霊魂に元から仕込まれていた細工については話さなかった。

 それでも今回の星夜島については、彼女に一通り説明できた。


「成る程、そうだったんですね……ですが、どうやって催眠術師の人は催眠を掛けたんでしょうか?」

「それは奴が覚醒者だからで――」

「いえ、そうではなくて今回は三つの島それぞれに神龍がいたんですよね? 同時に催眠を掛けられたのかなと思いまして。それにですよ、仮に深海龍様が水を操っているのだとしたら近くで操作してたって事ですよね? そんなところまでどうやって行くんです?」


 確かにユスティの指摘は尤もだが、それには方法が存在する。


「例えば大きな鳥に催眠を掛けて従え、ソイツを船の代わりにして島を渡り、催眠を掛けたって可能性がある」

「ですけど、反撃されたりしなかったんでしょうか?」

「そこは分からないが、催眠術にも幾つか種類があるからこそ厄介なんだ」


 これも例を示せば幾通りもあるのだが、推測としては、他人の脳に作用して操ってしまうのが催眠術師、だとするならば俺達を操って『能力を解除させた』と誤認させれば能力は使えなくなる。

 そのため、反撃されなくなる。

 だが、それでもリスクは大きいだろう。

 距離的問題や暗示の方法、他にも問題があるのだから、どうやって奴等に催眠を掛けたのかも考えねばならない。

 何故なら、犯人が催眠を掛けて忘れさせたのだから。


「それで、ご主人様はこんなところで何をするんです?」

「あぁ、生命龍との交信で奴から力の一部を受け取ったんだよ。その力を早めに使い熟せないかと思ってな、少しでも使えるようにしときたいんだ」


 生命龍は九つの命を持つと言われている。

 その命のうちの一つを俺に譲渡して、俺は生命龍との繋がりを持った。

 だから生命龍の命を媒介として奴の力を扱える。

 しかし修練は必要だ。

 俺は凡夫なので、修練無しではきっと暴発させてしまうだろう、そう思って朝早くから時間を作って生命操作を覚えようとしている。


「ですが、ここには何も無いですよ?」

「いや、花壇がある」


 少しでも雰囲気や見栄えを良くするために、この噴水公園の周囲には花が咲いている。

 しかも品種改良でもしたのか、気温の高い場所でも咲けるような花となってるのだが、今回の事件のせいで生命力を吸い取られてしまって、枯れ木のように萎れている。


「ホントですね……これをどうするのですか?」

「もし俺が生命力操作を使えるなら、咲かせたりもできるんじゃないかって思ったんだ。だから、この霊王眼と併用して吸われてる生命力を断ち切れないかを試すのさ」


 もしも、それができればリノの身体から漏れ出ている生命力を断ち切って元に戻せたりもするかもしれないため、俺は枯れた一輪の花へと両手を伸ばして、そこに意識を集中させていく。

 俺ならできる、そう信じて流れている生命力を掴むイメージで念を送り続ける。


「あ」


 すると、地面へと流れていた生命力が少し歪んだ。

 僅かな変化を見逃さずに、そこを起点としてより捻じ曲げるのだとイメージを固めていく。

 少しずつ根の部分の生命力を捻じ曲げていき、根元にあった流れをプツリと断ち切った。


「ッハァ……ハァ……」


 息を止めて呼吸するのも忘れていたが、いきなり生命力を操るのには成功した。

 しかし肝心な花なのだが、生命力を切断した影響なのか生命力が回復する事は無く、そのまま朽ち果ててしまい、原形を保てずに崩れ去った。


「生命力操作一回でこのキツさか……かなりヤバいな」


 体力を著しく消耗したのか、身体に疲労感が訪れる。

 操作一回でこの疲れ様は予想の範疇を超えていて、しかし何故か納得できていた。

 これは俺がまだしっかり扱いきれていないからだが、使い方は何となく理解できた気がする。

 後はこれを反復練習すれば、扱える。


「ご主人様、何故お花が枯れてしまったんでしょうか?」

「俺の予想でしかないが、生命龍へと流れてるのは一個の生命力を伸ばした状態、それを無理矢理断ち切れば死滅するのは必至、つまり切断はできないってこったな」

「そうだったんですね」

「俺の予想だがな。それに裏を返せば、これは逆に不味い事態に陥ったかもしれん」

「どういう意味ですか?」


 この事実が広まってしまった場合、治療院で眠っている奴等が簡単に人質化してしまうからだ。

 それは要するに、その患者から生命力を断ち切ったら簡単に殺せる、という訳なのだ。


(リノをホテルに置いてきて正解だったかもな)


 治療院関係者に混じって犯人がいた場合、殺されてしまうかもしれないからだ。

 それも今回の花のようにボロボロと崩れ落ちる可能性だってあったのだから、気を付けねばなるまい。

 だから何度でも練習する。


「やっぱり綺麗な海ですね」

「そうだな」


 綺麗に輝く海ではあるが、遠くの月海島周辺の海がかなり荒れているのを視力の上がった龍眼が確認しているため、今回の事件は一筋縄ではいかないのを実感している。


「泳いでみたいです」

「唐突な願いだな。お前、泳げないんじゃなかったか?」

「はい、雪国では泳ごうものなら凍ってしまいますし、泳いだ経験はありません。だから多分、海に入った瞬間に溺れちゃいますね」


 いや、彼女の身体能力なら泳げるようになるまで、そこまで時間は掛からないだろう。

 俺は前世の記憶があるので泳げる。

 クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、そしてバタフライ、どれも泳げるのだが、最近は海に潜ったりも泳いだりもしていなかったので久し振りではある。

 今回は温泉に入るために来たようなものなので、泳ぐつもりは無いが、月海島のビーチではどうなってるのかと気になった。

 再び意識を集中させて、生命力を操るために力を注いでいくのだが、そんな様子を見ながら、彼女は手摺りへと肘を置いて海風を浴びる。


「気持ち良いなぁ……」


 枯れた花が揺れ動く。

 悲しげに、寂しげに、花弁が散っていく。

 生命力を吸い取られすぎて元通りにできない花が殆どだったのだが、幾つかは能力の実験に使えると思い、その全てに生命力操作で検証していった。

 生命龍の力が馴染んでいない。

 それは昨日今日で扱えないと意味しているが、二週間以内にコツを掴まねばならない。


(時間との勝負だな)


 このまま次の島には行けない。

 現状を鑑みても俺達にいつ牙を剥くかは不明だし、今元気だからと言っても今後どうなっているかも謎、リノの生命力の流出を止めねばならない上に彼女を遠くに離しすぎると生命力の糸が切れるかもしれない。

 八方塞がりの中での唯一の希望が、この生命力操作なのだから、俺は汗水垂らしてでも絶対に習得してみせる。

 リノはまだ俺に必要な存在なのだから、こんなところで倒れられても困る。


「クッ……」


 二つ、三つ、四つ、五つと花壇に枯れ咲いてる花へと時間を掛けて干渉していくが、そのどれもが塵一片も残さず崩れて消えてしまった。

 断ち切るのが駄目なら収束させる、それも駄目なら注ぎ込む、それでも駄目なら別の手を、と連続して次の手を考えてみたのだが結果はどれも同じだった。

 やはり、こんな横入りの方法では無理があったか。

 可能性として期待できたのは、俺の中にある生命龍の生命力を花へと注ぎ込む方法だ。

 一度咲き掛けたのだが、注ぐと同時に吸われているから上手くいかない。

 だから生命力を断ち切った瞬間、そこを塞いで、生命力を注げないかと考えて実践してみた。


(クソッ、やっぱ無理か)


 だがしかし漏れ出た部分を塞ぐ作業、生命力を注ぐ作業を同時並行して行うのには無理があった。

 俺には非凡なる才能なんて無いため、並列処理できなかった。

 一度枯れた部分が再生しそうになったのだが、結局はそのまま炭化してしまった。

 連続して能力を使っていると、倦怠感が蓄積される。

 寝不足+倦怠感蓄積、この最悪の状態で地質調査に行くのは止めておいた方が良いと思うが、そこで確かめるべき事柄があるので、参加はする。

 戦いになっても、これでは戦えないな。

 いや、そもそも戦う場面が訪れるのだろうか?


「ご主人様、お疲れのようですけど……」

「あぁ、心配するな。取り敢えず生命力を操れるのは分かったが、その速度は少し遅いし、そこまで使えるものでもないようだ」


 熟練度が低ければ、大抵はこれくらいだろう。

 身体から力が抜けて、背中より地面へと落ちた。


「はぁ……駄目だな、勝手が分からん」


 暗黒龍と契約した時は自然と使い方が分かったのだが、今回は随分と違うのだ。

 異物が入り込んだようだ。

 皆が歩いているのに、俺だけまだ赤ちゃんのハイハイができてない、そんな感覚、いきなり入り込んできた異物をどう対処すれば良いのかに悩んでしまう。

 一日二日でできないのは分かりきっていたが、これ二週間で使い熟せるかな……


「まぁ、とにかく職業の力が使えるから、取り敢えずは普段通りに生活してみるか」

「使っても大丈夫なんですか?」

「心配性だな。倒れたりはしないし、使えるのは確認済みだから安心してくれ」


 いつまで使えるかは知らないが、七月七日までは多分使えそうだ。


(温泉入ってゆっくりしたかったんだがなぁ……)


 リノが倒れてしまったのは仕方ないし、話を聞いて依頼までされてしまったのだから少しは事件に噛んでみたが、思ったより厄介だ。

 隣の島にいるセラもそうだが、生命龍の言っていた転生者の存在が気掛かりとなる。


(俺と同じ奴がいるんだろうか?)


 気になるが、島を渡るのは地質調査後だな。

 もしかしたら会えるかもしれない。

 しかし会ったところで知り合いでない可能性の方が圧倒的に高いだろうし、未来を予測するのは殆ど不可能に近いだろう。

 それを予知できてしまうリノの存在が大きいのだと、改めて感じてしまう。


「リノがいてくれれば楽なんだがなぁ」


 彼女がいればエクストラよりかはイージーとなる。

 案内人の力が如何に必要であるか、如何に貴重であるか。


「わ、私が付いてます!」


 俺が案内人の能力を欲しているのに、欲している時に彼女はいない。

 今いるのは俺とユスティの二人のみで、彼女は運命を引き寄せる体質をしている。

 だから彼女がリノの分まで頑張ろうとしている。


「私が付いてますから、あ、安心してください!!」

「……」


 だが、ここまでユスティが主張してくるようになって、少しずつ何かが変化している。

 良い方向に進んでいる。

 だからだろうか、理屈ではなく彼女に期待してしまう自分がいた。


「頼りにしてるぞ、ユスティ」

「はい!!」


 まだ時間があるのだから、ギリギリまで生命龍の力を扱えるように特訓してみようと思い、花へと手を翳す。

 これからの数日間でどのようにストーリーが分岐していくかは、自分の行動次第、そして頑張り次第で決まってしまうかもしれない。

 太陽が空へと昇り、また新しい一日が巡ってきた。

 枯れていく花だけが増え、時間はあっという間に過ぎ、気付けば地質調査の時間まで迫っていた。


「おっと、もうこんな時間か」

「行きましょう、ご主人様」

「あぁ」


 大丈夫、何も恐れる事はない。

 俺の隣には白い正義の女神がいるのだから、きっと勝利を引き寄せてくれるだろう。

 彼女の名前は正義を司る女神『ユーステティア』、きっと勝てるのだと信じて、俺達は調査の集合地点に向かう。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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