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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第四章【南国諸島編】
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第138話 風雲急は告げられて

 突如として勃発した戦闘は一つの幕を下ろし、ギルドで昼食を頂いてから、現在はギルドを出て再び三人で歩いているところである。

 置いていかれたセルヴィーネ、戦いに興じたフェスティーニ、そして戦闘を眺めていたフィオレニーデの三人は、現在とある場所へと向かっていた。


「で、何処に向かってんのよ?」

「船着き場だね」

「孤児院に行くんじゃなかったの?」

「船着き場が先だよ、今孤児院に行ったって追い返されるだけだろうしね〜」


 現在フェスティーニが先導して向かっているのは、バンレックス達船乗りが秘密基地にしている、船着き場にある倉庫だった。

 そこに用事があったため、彼女は先にそちらへと赴く。

 その後ろを付いてくる二人は彼女の考えが読めず、何をするのだろうと予測しながら後を付いていく。


「で、そこに何があんのよ?」

「う〜ん、正確には『ある』って言うよりは『いる』って言った方が正しいかもね〜」


 どういう意味だと問い質そうとしたが、運良くなのか運悪くなのか、目的地へと辿り着いた。

 大きな倉庫が立ち並ぶ中、そのうちの一つの扉へと向かっていき、ドアを三回ノックする。


「誰だ?」


 扉に付いていた小窓が開かれ、目元だけが彼女達を覗いていた。

 扉の前にいるのはエルフとダークエルフの少女二人、バンレックスから説明のあった者達だと分かったが、信用できるかは自身の目が判別する。

 そう思った一人の男は、ジッと二人を観察する。


「バンレックスさんから聞いてるはずだけど……あぁ、ボクはフェスティーニ、こっちはフィオちゃん」

「ん」


 いきなり名前を名乗る犯人はいない。

 嘘を吐いている様子が無いと判断したため、男は扉を開けて倉庫内への入室を認めた。


「……入れ」


 敵意を向ければ即座に反撃されるであろうと事前説明されているため、彼は見知らぬ彼女達を中へと招き入れる。

 そのゴミ屋敷と化した倉庫内には三人いる。

 一人はフェスティーニ達を招き入れたボサボサ髪の男、そして樽をテーブル代わりにしてパンフレットの地図を用いて話し合いに興じているのは双子のような茶髪の少女達だった。

 二人の人間が地図等を睨んで会話に花を咲かせている状況で、客人が来た事にさえ気付かずに議論が連続して行われていく。

 彼女達は誰が入ってきたとしても気付かない、いや、気付くつもりが無いのだ。


「ギオハ、シャルへミス、客人が来た。コイツ等をもてなしてやれ」


 しかし声には反応している。

 それによって初めて客人の存在が浮き彫りとなって、二人のうち一人が顔を上げた。

 鋭い目つきの少女だった。

 サイドテールを前に垂らす茶髪と焦茶色の双眸が特徴の少女シャルへミス、彼女は嫌悪感丸出しでヴェルゲイと対話する。


「そんなのヴェルゲイがやれば良いんじゃないの? こっちは五日後の密航船を捕まえるために忙しいんだから、客人に構ってる暇は――」

「ボクも混ぜてもらって良い?」


 樽の上に置かれている地図に書き込みをしようとしていたシャルへミスは、気配を感じさせなかったエルフの言葉に顔を彼女へと向ける。

 高身長のフェスティーニを見上げる形で、少女は警戒しながら返事する。


「貴方、役に立つの?」


 最初に問い掛けたのは、その質問だった。

 現状では人手が足りていないため、何としてでも信頼できる人員が必要だった。

 戦闘技術のみにあらず、諜報、探索、思考力、あらゆる場面での汎用性を問われていた。


「ボクは千年を生きたエルフ、知識量は他の人に負けるつもりは無いよ。それにフィオちゃんは転移能力があるし、セラちゃんは第六感が異常な程に働くから、物凄い役に立ってくれる。どうかな?」

「……分かった、なら手伝って」

「手伝うのは構わないんだけど、まずはお互いに自己紹介しない? 『おい!』とか『お前!』とか、ちょっと他人行儀すぎるしね〜」


 コミュニケーションを取るにあたって、彼女は相手の名前を一番最初に聞く。

 それは一期一会の出会いではなく、しっかりと記憶に刻むためだった。

 だから彼女は恐れずに相手に話し掛ける。


「ボクはフェスティーニ、よろしくね〜」


 笑顔を見せる彼女だが、シャルへミスは警戒を解かなかった。

 何故なら、眼前にいるのはエルフだから(・・・・・・)だ。


「……ウチはシャルへミス、こっちは姉のギオハ」

「はろー」


 気の抜けた挨拶をするのは、盗賊のような露出の高い服装とトレードマークのバンダナを装備した姉ギオハ、ウェーブの茶髪に焦茶色の双眼はヤル気無さげ、気怠げだと言わんばかりの挨拶を送る。

 その雰囲気と態度を見て、フェスティーニはナマケモノを連想させた。


「それで、何を話してたの?」

「密航船が五日後に現れるはずだから、過去四回のルートを見て作戦を練ってたのよ」


 幾つもの作戦が紙に書かれてテーブルに置かれているのだが、彼女達はどうしようかと悩んでいる様子だった。

 前回同様、捕まえられなければ一ヶ月を棒に振るう事になるからだ。

 だから今回は慎重に挑まなければならない。

 それに今回が最後の可能性もあるからだとシャルへミス達は考えていた。


「今回も現れるって保証は無いじゃない」

「密航船で運んでる物、何か分かる?」

「さぁ……」


 問題なのは密航船ではなく、その中身だとセルヴィーネへと伝えた上で、シャルへミスは予想を言葉にして表した。


「人、ウチはそう考えてる」

「人って……あ、誘拐された子供?」

「そう。島全体を探しても、隔離された痕跡すら見つけられなかった。だから人なのかは定かじゃないけど、それでも最悪な可能性を考えておくべきと思った」


 だから対策を練っている、捕まえなければまた悲しむ人が出てくる。

 船乗りとしての矜持が彼女を突き動かしていた。

 それを一目で看破したフェスティーニはとある地点へと指差して、その消えない想いを持ったシャルへミスへと情報を提供する。


「ここは……無人島?」

「そ、セラちゃんの権能が教えてくれたんだ〜」


 彼女が指し示すはセルヴィーネが感じ取った一つの無人島であり、そこには何かがあるのだとセルヴィーネだけ感じ取っていた。

 事実、船乗り達には理解できない場所だった。

 雷のように尖った黄髪を揺らして後ろから歩いてきたヴェルゲイが、置かれていたペンで海へと矢印の線を書き込んでいった。


「それは?」

「海流、日輪島の……」


 姉の疑問に逸早く答えたのは、隣でボーッと眺めていたフィオレニーデだった。

 彼女には全てが見えている。

 海流を全て書き終えたところで、重要な追加説明を開始する。


「ダークエルフの言う通りだ。ここら辺はかなり入り組んでてな、普通の方法じゃ辿り着けないようにできてるんだ。これが今の海流の動きだ」

「今の?」

「あぁ、ここは『嘶きの海流』、海に落ちれば助からないスポットで、密航船でも近付くのは困難だろうぜ。何せ波が非常に荒いから沈没する可能性も高いんだ。俺は長く日輪島にいるから、あそこの海流の動きくらい簡単に見極められる。だからアンタ等の示したところは調べる価値はあるだろうが、そう簡単には調べられない」


 他にも海流図と海流の終着点である渦目へと印を付けていく。

 三つの大きな島の中央、暦の祭壇へと緩やかに時計回りに回転しながら海流が流れ込んでいる。

 そう書き込んだ。

 全ての海流を掌握しているヴェルゲイの書いた海流図は、日輪島と星夜島周辺がかなり入り組んでいて、それを覚えているヴェルゲイに関心を寄せるフェスティーニは、それを凝視して脳裏へと刻んでいった。

 しかしながら一方で、ヴェルゲイはシャルへミスとギオハの二人に睨まれてしまう。


「な、何故睨む?」

「パンフレットに関係無いの書かないでよ」

「あぁ、そういう事か、悪い。それでも日輪島周辺の地理くらいは知っていてもらわなけりゃ、足手纏いにしかならんぞ?」


 地図には海流図が事細かに書かれている。

 日輪島周辺の海流、特に南東に位置する無人島エリアの海流は、一つの島には絶対に行き着かないような流れとなっていた。

 それがセルヴィーネの示した島、絶対に船では近付けないであろう島だ。

 だが密航船でも行けないならば、今回は関係無いなと思考の片隅へと追いやった。


「うん、もう覚えたから良いや〜」

「は?」

「それよりさ、君達は五日後の密航船を追ってるんでしょ? どうするの?」

「そんなの捕まえるに決まってるでしょ。ウチ等は三ヶ月前から追い掛けてるんだから」


 三ヶ月前、それは丁度船乗りの仲間が家に閉じ籠もってしまった時期と被る。


「ねぇ、閉じ籠もりっきりの船乗りの人も三ヶ月前だったよね?」

「ん? あぁ、そうだ。あの男は心が壊れちまったからもう俺達ではどうしようもないんだ。だから三ヶ月もの間、ずっと放置してる」

「壊れた?」

「催眠術師のせいだよー。あの人は何かに気付いて壊されたんだよ、きっとー」


 それはどういう意味だ、と聞こうとした。

 しかし部外者が立ち入って良い領域なのかと一瞬躊躇ったフェスティーニは、その偽善を振り払って情報集めに専念する。


「教えてもらって良いかな?」

「良いよー。私達が密航船を捕まえようって思った理由はねー、その閉じ籠もった仲間がねー、壊れる前に密航船について調べてたからなんだー」


 誘拐されたと騒ぎ出した五ヶ月前、それから完全に閉じ籠もった三ヶ月前、その間の二ヶ月で彼が何かに気付いたのかと思う。

 その空白の二ヶ月間で、その仲間は何かを知ってしまったから壊された、とギオハは考えを胸に秘めている。


「仲間も行方不明だしー、もう手掛かりは密航船しか無いんだよねー」

「そうなんだ……じゃあ孤児院に行った後、もう一度船乗りの人の家に行かない?」


 今まで全員避けてきたが、これは良い機会だとフェスティーニは彼等に思わせる。

 いつまでも放ったらかしにはできないだろうと踏んでの提案だった。


「うん、そうだねー。エルフさんに従ってみるよー。シャルちゃんもそれで良いー?」

「えぇ、ウチもお姉ちゃんに従うわよ」

「ヴェルゲイはー?」

「俺も構わないが、団長には伝えとくぜ?」

「よろしくー」


 これで少しは状況が改善するだろうと希望を抱く。

 しかしながら希望を抱いたところで、それは何も手にしていないのと同義だと彼女だけは知っていた。

 まだ、何も手掛かりは得られていないのだとフェスティーニは理解している。

 考えを一纏めに整理していると、倉庫の上にある窓がコツンコツンと音を立てているのに全員が気付き、その窓へと目線を送った。

 腕を上げてギオハは口笛を吹く。


「ピューピュピュ、ピューィ」

「な、何を――」


 いきなりの奇行を始めたギオハに、懐疑的な目を向けたフェスティーニは刹那に生命の息吹を感知し、窓の格子の隙間を擦り抜けて一匹の鳥が静かに入ってきた。

 その鳥は口笛の合図でギオハの腕へと留まる。

 身を小刻みに震わせて、水気を払う。


「その鳥は?」

「仲間の伝書鳩だよー」


 細い右足に括り付けられていた小さな筒の蓋を開き、その中に入れられていた手紙を取り出した。


「何だかスパイ映画っぽいね〜」

「で、その手紙は何なのよ?」

「仲間からの報告書ー、シャルちゃんどうぞー」

「ありがと、お姉ちゃん」


 全員が手紙へと注目する。

 四つ折りにされて丸められていた便箋を広げて、シャルへミスが代読して内容を理解する。


「えっと……他の島からのようね。どうやら星夜島でも異変が起こってるらしいわ」


 島を経由して、伝書鳩がやってきた。

 それが仲間のものであるのを理解するが、その鳥が無傷である事実が異様に映る。


「雷に打たれなかったの?」


 セルヴィーネ自身、実際に飛翔して島へとやってきた。

 だから伝書鳩が空を経由して日輪島に手紙を届けられる事実を不思議に感じた。

 しかし、それは普通の鳥の話である。


「この伝書鳩は時空を渡る鳥『ホープニス』、空間を跳躍して飛んでくる鳥なのよ。伝書鳩とは言うけど、種類としては鳩じゃないから」

「へぇ、そんな種類の鳥もいるのね……って事は、誰か調教師とかの職業持ちなのかしら? 仲間の鳥って言ってたから、ソイツが調教師?」

「仲間のってところは合ってるが、職業が違ぇ。それは『魔物使い』って職業の力でな、仲間の内一人が日輪島以外で活動してんだ。たった一人でだけどな」


 だから変人なのだと、ヴェルゲイは吐き捨てるように言葉にした。

 まさにその通り、その人物は変人である。

 単独行動大好き、他人と連むのが大嫌い、自己中心的な存在である、そんな人物なのだと船乗り達は全員知っているために手を焼いている。

 なまじ強いせいで手が付けられないのだ。


「で、星夜島での異変って?」

「簡単に説明すると集団昏睡事件が深刻化しているのだけれど、他にもう一つあって……島全体が崩壊しそうだって書いてある」


 島の崩壊、その事実にその場の全員が固まった。

 この子は何を言ってるのだ、と言わんばかりに。

 しかし手紙を受け取ったヴェルゲイも内容を読み、それが事実であると脳裏が理解してしまった。

 その内容はそれだけ真実味のあるものだと教えている。


「何てこった……」

「おー、どうやら本当のようですなー」


 手紙に書かれている内容を読み取り、船乗り三人が悩ましげに固い表情を繕って思案する。

 事実上、彼等は他島の様子を気に掛ける必要性は皆無だ。

 しかし今回は特例であり、他の島が日輪島とリンクして崩壊する可能性も無きにしも非ず、そう感じ取った仲間の一人が事件発生当初に島を渡ってしまい、そのまま星夜島に滞在している。


「ボク達も見て良いかい?」

「ん? あぁ、そうだな」


 ヴェルゲイから手紙を受け取ったフェスティーニ達は、その手紙を最初から読んでいく。




・近況報告

 こちら『ユーグストン』、地質学者と名乗る男の集めた冒険者数名と同行して、現在は島の地質について調査するため、星夜島の奥地へと赴いている。

 それ以前に一人で調査していたが、火山地帯での異常な熱気、地殻変動やモンスターの活性化がよく見られた。

 まだ詳しい事は分かってないのだが、そのホープニスと視覚を同調させ、時間軸を渡って未来を見てきたのだが、結論から言うと星夜島だけでなく日輪島・月海島も完全に崩壊していた。

 だから今は止める術を探しているところだ。

 知ってると思うが、ホープニスでの時間渡航には幾つか制限があって、俺の身体にも相当な負荷を齎すから、少なくとも数日は使えないと思っておいてくれ。

 そちらの情報については、手筈通りに頼む。




 それがユーグストンという残りの船乗りが掴んだ情報であり、彼が単独で行動した結果、島全体が崩壊するかもしれないと知ってしまった。

 詳しい事情が書かれていないため、歯痒い思いを味わうフェスティーニは、仲間へと視線を送る。


「ねぇ、このユーグストンって人、一人でずっと調べてたんだよね?」

「そうだ。ユーグは基本単独行動で諜報活動に勤しんでる変わり者だが、実力は船乗りの中でも相当なものだ。船長よりも強いって噂だぜ」

「ふ〜ん……」


 この手紙を読んで、彼女は星夜島で何が起こっているのかと興味が湧き、同じく胸がザワッと騒ぎ出す嫌な気配も感じていた。

 この手紙が本当ならば、いずれこの日輪島も崩壊してしまうだろう、それを止めるための術が何処にあるのかも不明である以上は、対策しようがない。

 そもそもの原因がハッキリしていないのだから。

 そして考えなければならない事柄がもう一つ、地質学者と同行しているという点だ。


(地質学者なんて本来なら必要無いはずだけど……地質的な観点から問題が見つかったのかな?)


 集団昏睡事件の調査に普通、地質的問題は存在しないはずだが、それでも学者が調査のために来た。

 つまりそこには、地質を調査する必要があると思わせる何かがあったという繋がりが存在するため、この日輪島でも地質的な問題があるかもしれないと、星夜島と日輪島を比較する。

 しかし、そこまで実行できない状況が、この雷雨だ。

 日輪島ではできない調査方法で何かが分かれば御の字、しかし分からなかった場合は手詰まりかと即判断する。


(仮に地質に異常があったとして、それが何に関係しているのかは謎、ボク達には何もできないかな)


 謎が謎を呼ぶ。

 一つの問題に掘り下げると、複数の問題に分裂して捕らえられない。

 地質調査が何を齎すのか、こればかりは次の近況報告に頼るしかない。


「次はいつ報告が来るの?」

「基本十日に一度と決めてある。ユーグが勝手に決めちまって、こうして一ヶ月に三回の近況報告が届くようになったんだ」

「それはいつから?」

「いつからって……一月からだな」


 これで五ヶ月間十五回の連絡が行われた。


「この時間渡航って、最長でいつまで跳べる?」

「ホープニス自体、そこまで強いモンスターじゃないってユーグから聞いてたし……多分、跳べるのは最長二十から三十日だと思うわよ。それがどうしたの?」

「それだと一ヶ月以内に島が滅んじゃうって事でしょ? 不味くない?」

「そんなの言われずとも分かってる。だが、現状では俺達にはどうしようもない。この島でできんのは、精々密航船を捕まえるってだけだ」


 ヴェルゲイ達の目標は島の調査ではなく、その島付近を泳ぐ登録の無い密航船である。


「ねぇフェスティ、もう一枚重なってるわよ」

「へ? あ、ホントだ。湿気で貼り付いてたのかな……」


 ユーグが出した手紙は二枚、全員が目を通したのは一枚目だけだった。

 一枚目の紙を二枚目の紙と入れ替えて、その二枚目の紙を読んでいった。




・追伸

 一つ報告しなくちゃならない事があったため、こうして書いておく。

 同行する冒険者と地質学者についてだ。

 俺の予想では、恐らくこの中に犯人がいる。

 地質学者も怪しいし、領主の推薦で参加するって冒険者二人も怪しいし、他にも怪しい奴が沢山だ。

 犯人を捕まえられればサンディオット諸島の崩壊を止められるかもしれない。

 だから、もしも俺に何かあった時はよろしく頼む。

 以上、報告終了とする。




 これが、二枚目に書かれていた手紙だった。

 犯人、それが何を意味しているのかと、疑問符だけが増え続けていく。


「分かんない事だらけね、フェスティ。どうする?」

「どうするって言われても、こればかりはボクもどうしようもないね〜。他の島に渡る必要が出てきたけど、今はリンダさんのために働くとしようか」


 当初の目的を思い出して、手紙をシャルヘミスへと渡して聞いた。


「ねぇ、ロディ君が何処にいるか知らない?」


 孤児院に行くために必要な駒としてロディを探しに来たフェスティーニだったが、残念ながら今日はこの倉庫内にはいなかった。

 だから三人へと質問を繰り出したが、全員が顔を見合わせて知らないと言った。


「ロデ坊は今日見てないよねー」

「そうだな」

「何なら昨日の夜から見てないわよ」


 昨日の夜から今日の昼過ぎに掛けて、誰も見ていない。

 そして行方すら知らない。


「もしかして攫われちゃったりしてね〜、なんて……」


 その冗談めかした言葉は、ここでは真実にしか映りはしない、本当に攫われた可能性もあるため、フェスティーニの余計な発言によって倉庫内では静まり返るという変な空気となってしまう。

 その空気に耐え切れず、再び質問を出した。


「か、彼は今日ここに来る日だったのかい?」

「あぁ。アイツ、孤児院の仲間攫われてから実際毎日ここに来てるよ。大体昼過ぎだけどな」


 しかし今日は来ていない。


「攫われた可能性もあるっちゃあるが……昨日は謎の光を見てないしな」


 今までには謎の光が海を横切った翌日に行方不明が発覚していたが、今回は謎の光を見なかった条件が付いてきてしまい、誘拐されたのかが半信半疑であった。

 だが、来ていない事実は、もしかしたらを考えさせる。

 最悪な場合、すでにこの世から去っているかもしれないと全員脳裏に想像してしまう。


「って、誘拐犯の目的が分かんない以上、こっちとしてはロディを探すしか道は無いんだけど……あの子に何か用事でもあったの?」

「うん、孤児院に行って話を聞きたいんだけど、そのために彼を借りようかって思ってね〜」


 孤児院へと行くためには、ロディという少年が必要であった。

 それは警戒されないため。

 少年が孤児院にいる子供達と知り合いだった事実を鑑みれば、少なくとも門前払いされたりはしないはず、そう判断しての行動だったが、ロディ本人が何処にもいないために無駄足だったと落胆してしまう。

 ただ、それは内面だけ。

 面に出さないよう、笑顔を繕う。


「成る程な。アイツ、孤児院の奴等とも仲良かったしな。ただ今回はアイツがいないから、孤児院に行くんだったらギオハを連れていけ。コイツも孤児院出身だからな。お前も良いだろ?」

「良いよー」


 と、意外な提案が船乗りの間で勝手に進行し、ギオハが同行するという結論に至る。


「アンタ等も良いか?」

「うん、そっちが良いならボク達は全然構わないよ」


 結果オーライとなったが、事態はむしろ後退している。

 ギオハは状況報告を簡潔に書き記して、それをホープニスに括り付けられた筒へと入れて、再び笛を吹く。


「ピュッピューィ」


 綺麗な口笛が倉庫内に広がっていき、合図を聞いたホープニスが空へと羽撃いて外へと向かう。

 そして格子を潜って、雨の世界へと飛び立った。

 ヒラヒラと抜けた羽が床へと落ちる。

 白い綺麗な羽を拾ったフェスティーニは、格子へと目を向けた。


(島が崩壊……ノア君、君は大丈夫だよね?)


 愛しの青年が事件に巻き込まれていないかと彼女は一抹の不安を覚えるが、自分の心配もしなければならないため、遠くにいるであろう青年へと想いを馳せながらも雑念を振り払った。

 羽を捨てて、ギオハと共に孤児院へと移動する。


「じゃあ行こっかー」


 倉庫の扉を開いて、ギオハは外の世界へと躍り出た。

 後に続こうとして、扉から突風が吹き込んできた。

 その先に何が待ち受けていたとしても、彼女は自分の意思のままに歩んでいく。

 それが、青年と再会するための道だから。

 こうして彼女達は五日後の密航船に備えて、できる事を探して仲間と共に突き進み始めた。





 そして星夜島では、風が強く吹いていた。

 黒髪を揺らし、青年は崖の上から荒れた海の向こう側を眺めていた。

 波の音が心地良く、休憩時間に一人精神を落ち着かせて瞑想する。


「ご主人様、そろそろ出発するそうですよ」

「……あぁ、すぐ行く」


 獣人の少女が青年へと声を掛ける。

 出発するのだと教えられ、青年は瞑想をそこそこに装備を整えて立ち上がった。

 荒れた海、揺れる大地、眠りに着く人々、星夜島で起こっている数々の不可解な出来事を調査するために参加した地質調査で、彼は何を見つけるのか。

 空は憎たらしい程の快晴であり、風は森へと道を示す。

 髪を靡かせた青年は、地質調査で森へと向かう集団と行動を共にするために、足を動かし始めた。


「さて、行くか」


 日輪島の事件と同様、遠くで違う物語が生まれている。

 島の崩壊に最も近しい場所に立っている青年は皆のところへと戻っていき、そこにいる仲間達と森へと入っていったのだった。






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