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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第四章【南国諸島編】
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第128話 異種族の三人

 セルヴィーネは、目の前の知人が何を言ってるのかを理解できなかった。

 ノアに逢いに来た、とフェスティーニは言った。

 千年間待ち続けていたのだと、その機会を待っていたと彼女は言葉にしたのだが、そもそも何で目の前の友人がレイを知っているのか、と猜疑心ばかりが心に芽生えては消えていく。


「な、何言ってるのよ……」

「言葉の通りだよ。ボクはね、千年間ずっとノア君を待ってたんだよ」


 セルヴィーネには何を言ってるのかを理解できず、その前に沢山の疑問が脳裏に浮かんだ。

 だから、言語化できていないのにも関わらず、言語化しようと言葉を発する。


「待ってたって……な、何で? いや、その前に、ど、どうしてレイを知ってたのよ? フェスティの職業は生物学者だったはずで、み、未来なんて……そ、それともそっちのフィオって子が――」

「違う」


 矛先が自分へと向いたのを感じたフィオレニーデは、即座に否定した。


「フィオちゃんの霊魂はちょっと特殊でね、残念ながら未来予知とかの力は持ってないんだ〜」

「ん」

「そ、そうなの」


 職業というものは摩訶不思議な力であり、仮に未来予知者の存在がいない場合、考えられるのは幾つかあるが最も考えられる現実的な可能性としては、知人に未来予知者がいたというものだ。

 だから、セルヴィーネは独自解釈によってそう思った。

 しかしながら権能で感知したフィオレニーデという少女に違和感を感じていた。


(特殊な霊魂……よく見えないけど、確かに普通の人とは違って見え――)

「それより、セラちゃん……何でここに?」


 凝視しようとしたところで、まるで見るなと言わんばかりに疑問が投げ掛けられる。


「あぁ、アタシは権能でアンタの気配を感じ取ったのよ」

「その権能、そんなに強かったっけ?」

「三つも封印されちゃったから、この一つだけを突き詰めて特訓したのよ」


 それが権能の強化に繋がるのだと、セルヴィーネは改めて説明した。

 感知系の権能だけとなって、彼女の力は偏在的に特化してしまったが、今ではそれが運命の出会いに繋がったのだと思っている。


「ならボクの権能で診察してみる?」

「……へ?」

「ボクも君と同じ、四つの権能がある。まぁ、ボクの場合は先天的と言っても神様から頂いたものだしね〜」


 秘密主義のフェスティーニが自分と同じだと言った。

 寝耳に水だと思うと同時に、希望が見えた気がしたセルヴィーネはお願いした。


「お、お願いします……」

「うん。じゃ、始めようか。まずは生命魔法から使わせてもらうね〜」


 右目に意識を集中させ、魔法を駆使する。


「『ディアグノシス』」


 生命魔法の中で、自己や他人の身体的診断をするための魔法である。

 その魔法によって見たものは、沢山身体に巣食っている黒い斑点だった。

 だから両手を合わせて、彼女は権能を発動させた。

 周囲に草木や花々が咲き始めて次第にセルヴィーネを包み始め、やがて一つの鳥籠が完成してセルヴィーネはさながら小鳥のように閉じ込められる。

 しかし身体に負担は無く、その神々しく淡く輝く鳥籠の外側で、常緑色の瞳が揺らめいていた。


「こ、これは?」


 花々のベッドが龍女を包み込み、寝台としての役割を果たす。

 初めて見た権能に、彼女は驚きを隠せないでいた。


「『祝福芽吹く花園フルブルーム・シードガーデン』っていう権能だよ。ボクの認識範囲に植物を咲かせるものなんだ〜」

「でも何で――」

「自然治癒効果のあるものだからね〜。見たところ身体に沢山の呪詛残滓が残ってたから、少し治させてもらおうかな〜っとね」


 治さなければ次第にセルヴィーネの身体が崩れ始める、それをフェスティーニは即座に理解した。

 だから自然治癒による長期回復のために鳥籠へと閉じ込めた。

 しかし、それだけで解決できる程、甘くない。

 呪詛の残滓であるセルヴィーネは問題ないが、先程の話にあった青年の療養について気になったために、もしかしてと考える。


「ねぇ、セラちゃんはノア君と一緒にサンディオット諸島に来たんだよね?」

「え、えぇ……」

「その呪詛について詳しく教えてくれないかな?」


 満面の笑みを浮かべてはいるが、その緑色の瞳だけ笑っていないのをセルヴィーネは察知した。

 本当にレイを大事にしているのだな、と感じた。

 そして言葉を間違えれば自分が殺されるかもしれないという気配を感知し、表情には出さずとも心臓の鼓動が高鳴っていた。

 冷や汗が止まらない。

 その殺意に、もしもノアの身体を見たらどうなるのかと不安が込み上げるも、正直に話す以外ない。

 生きてきた年数が違うのだ、小手先の嘘は見破られる。


「分かったわ。と言ってもフラバルドで起こった事件の最後、逆上した犯人に呪詛の細胞を埋め込まれて暴走したアタシを、レイの絶影魔法が喰らった、って聞いたのよ」

「そう、なんだ……」

「だからアタシにあった呪詛は全てレイが背負ったのよ。それで今も命を削ってる」


 限りある命の刻限が迫り来る事実にセルヴィーネは何もできずにいるが、フェスティーニなら命を引き伸ばせたりも可能かもしれない。

 それは彼女の権能が身を以って証明している。

 彼女の身体を蝕んでいた呪詛の残滓が霧となって表皮より出ていった。


「ボクの権能じゃ、呪詛と身体の不調を回復させるしかできなかった。流石にボクじゃその封印は解けないかな〜」


 チラッと自身の妹へと視線を向ける。

 そして視線を向けられた妹は、溜め息を吐きながら首を横に振るう。


「やだ」

「「……は?」」


 予想外な答えが返ってきて、思わず二人は惚けた表情を晒してしまう。


「ど、どうしてかな?」

「弱い人……嫌い」

「あ、アタシが弱いっての!?」

「そう、言ってる」


 二人の間でバチバチと火花の散る音が聞こえた気のしたフェスティーニは、どうすべきか迷ってしまう。

 喧嘩を吹っ掛けたのはフィオレニーデの方だが、その挑発に乗ってセルヴィーネが鳥籠の檻である蔦を掴んで捻じ曲げ、外へと出る。

 挑発されて逃げるのは龍神族としは恥でしかない。

 だから彼女は挑発を受け取り、それを投げ返す勢いで対峙する。


「良いわよ、なら戦って証明してあげる!!」

「……負け犬の遠吠え、うるさい」

「なっ――何処までもムカつくわね、表へ出なさい!!」

「ん」


 険悪なムードを作ったまま、二人は領主館の玄関ホールから外へと出た。

 雨風を凌ぐための屋敷を出て、荒れに荒れた庭へと二人は降り立った。

 睨み合い、武器か拳を構える。

 セルヴィーネは拳を、フィオレニーデは半透明の短剣を相手へと向けて、敵意をそれぞれが示して雷が戦闘開始の合図を奏でた。


「『多重付与マルチ・エンチャント・ブースト』!!」


 何重にも掛けた肉体強化の魔法によって、一瞬で間合いを詰めたセルヴィーネが、渾身のパンチをお見舞いする。

 しかし次の瞬間にはフィオレニーデの姿は、先程までセルヴィーネのいた場所に立っていたため、パンチは空振りに終わった。


「なっ――どうして……」

「『跪け』」


 困惑している間に、フィオレニーデが言霊に魔力を流して命令を下す。

 跪け、と命令する。

 たったそれだけで、セルヴィーネはその場に膝を着きそうになるが、気力だけで持ち堪える。


「か、身体が――」

「……その程度?」


 そして再び、音も無くセルヴィーネの横に立っていた褐色肌のエルフが、彼女を何の表情も貼り付けずにただ見下していた。

 更に挑発して相手を揺さぶり、龍女は怒りを原動力に変えて言霊を解除する。


「うぅ!!」

「んっ」


 振り回した腕の攻撃を跳び下がって、フィオレニーデは軽々と回避する。

 身のこなしは自身と同等レベル、しかし転移としか言えない移動法を暴かなければ勝てないだろうと考え、彼女は拳を握る。


(職業は言霊を使ったものだから多分『霊言師』のはず、けど言霊で自身を瞬間転移させたりできないし……何かの権能とか?)


 しかし考えるのは専門外であるため、彼女はただ突っ込んでいくのみである。

 連続で拳を振るうが、そのどれもが空振る。

 殴って蹴っての動作を全て見切っているようで、フィオレニーデは全ての動作を格闘による技のみで受け流していき、一切の能力を使わずに実力差を示した。


「なっ――」

「……まだ、足りない」

「うっ!?」


 鳩尾に蹴りを入れて、セルヴィーネへと連続して追撃を入れていく。

 何処かから取り出した半透明の武器を駆使して斬り込む。

 それを頑丈な肌でガードしているが、それでも少しずつ傷が増えていき、同時に倦怠感が襲ってきて、徐々に体力も減っているのを権能で感知した。

 あの武器が危険だと、そう思った。

 だから別の魔法を駆使する。


「『多重付与マルチ・エンチャント・ガードスキン』」


 身体へのダメージを防ぐために表皮を硬くし、武器によるダメージを最小限にする算段を付けたが、しかしフィオレニーデはその一歩先を行く。

 冷静に状況を見極めて、敵へと突っ込んでいく。

 短剣を捨てて、幾つもの鍵の付いたリングを手にする。

 その意匠の凝った鍵の一つを切り離して大きくし、セルヴィーネへと差し込んだ。


「『万能なる鍵杖(マスター・キー)施錠ロック』」

「そ、それは――」


 そしてセルヴィーネの身体は動かなくなった。

 心臓の音だけ、精神だけ、そういった概念次第で施錠できるものを変えられる、不思議な鍵の力に見覚えがあったため、言葉を口にする。


「あ、アンタの職業って、もしかして鍵屋?」

「半分違う」

「なら半分は当たってるって事かしら?」

「……」


 身体が動かせない状況でも、彼女には勝ち目はあった。


「『焦土の白炎(セイント・レイド)』!!」

「ッ!?」


 地面へと摂氏一万度をも超える炎を吐き、誘爆させて敵を遠避ける。


「イタタ……う、動く?」

「アハハ、相変わらず無茶するよね〜セラちゃんって」

「フェスティ、あの子何なのよ?」


 鍵師であるのはフィオレニーデが認め、しかしながら言霊によって自身の動きを封じた。

 だからこそ違和感を感じ取っていた。

 しかし戦闘ではまだまだ勝てないと理解してしまう。

 言霊、鍵、転移、他にも能力を隠しているだろうとセルヴィーネは無自覚に検知する。


「あの子の霊魂は特殊だって言ったでしょ〜」

「それは分かってるわよ……でも、あれは有り得ない」

「何でさ?」

「だって……いえ、何でもないわ」


 雨降る中、銀色の森人の姿が鮮明に見えた。

 紅い双眸は爛々と輝き、まだ戦い足りないとジェスチャーによって挑発する。

 掛かってこい、と。


「上等よ……無理に地上で戦うのが駄目なんだわ、アタシの領域で――」

「逃がさない」

「くっ!!」


 瞬きする間に背後に一振りの長剣を携えて、フィオレニーデは振り下ろそうとしていた。

 権能で辛うじて察知し、前転して空へと飛びあがろうとする。

 しかし、足を掴まれて叩き落とされた。


「グフッ!?」


 背中を強打し、セルヴィーネは肺に溜め込んでいた空気を全て吐き出した。

 鈍い痛みに悶絶する。

 真っ赤な輝きを放ち、爛々と妖しく揺れる瞳が龍女を見下ろした。


「……本気で、やってる?」

「何処までも挑発が好きなよう……ねっ!!」


 ブレイクダンスの要領でフィオレニーデの足を蹴り払い、彼女を転がした。

 自身は上空へと躍り出て彼女の腹へと一発打ち込む。

 それにより、腹へと重い打撃を喰らった彼女は血反吐を吐いた。


「ッ!?」

「あら……どうやら、アンタの血も真っ赤だったようね……ゲフッ」


 内臓を負傷したのか、血が口から垂れる。

 それぞれが人間離れした怪力で攻撃したため、両方の体内が少し傷付いていた。

 血反吐と吐瀉物を撒き散らし、二人はそれでも構えを取り続ける。


「……癪に障る」

「お互い様ね」


 雨風が吹き荒び、雷はより一層激しさを増していく。

 濡れ揺れる髪を後ろに引き、二人は接近戦を演じる。

 殴り、振るい、受け、避け、二人の演者は舞台の上で踊り狂う。

 その様をただジッと見つめるフェスティーニは、ふと空を見上げた。


(誰かに見られてる?)


 空に鳥はいない、それは鳥が空を飛べば落雷によって撃沈してしまうからだ。

 だから気のせいだと割り切ろうとしたが、何故だかそれができなかった。


「……」


 何かに見られている、そんな感覚を千年で培ったために理解した。

 粘ついた視線が彼女の身体を射抜く。

 しかし長時間見つめ合う意味を彼女は理解していたため、即座に視線を切った。


「『竜火砲(ドラグカノン)』!!」


 敵へと浴びせるために、レーザー砲を放ったセルヴィーネに対し、フィオレニーデは鍵の束から一つの鍵を取り出して宙へと放り投げる。

 そして鍵の代わりに大鏡が出現し、その鏡がレーザーを跳ね返す。


「『魔を反する鏡(リフレクシブル)』」

「嘘でし――うわっ!?」


 自身の攻撃を跳ね返されてしまい、権能によって咄嗟に避けられた。

 しかし、腕を掠った。

 ジュッと肉を焼かれる感覚が残り、そのレーザーは庭の木々を大量に焼き滅ぼしていった。


「あっちゃ〜、お爺ちゃん帰ってきたら怒られちゃうかな〜?」


 大きなクレーターを創り出して、濡れていた庭が蒸発して周囲に霧を出した。

 人の寄り付かない場所であるからこそ音も気にせず戦闘が行えるが、それでも領主館には何人も人がおり、それをひた隠すためにフェスティーニは花の結界を張っていた。

 しかし、徐々に能力の結界が崩れ始める。

 二人の暴れ様が周囲へと伝播していき、次第に結界に亀裂が入っていった。


(結界、貼り直そうか……)


 パチンッと両手を合わせて、庭全体に花が咲き誇る。

 雨に降られて可憐な色取り取りの花が雫に揺れる。


「『竜炎拳(ヒートバスター)』!!」


 拳に超高火炎を纏って低空飛行で殴り掛かるのだが、すでに次の鍵を用意していた。

 前に突き出して、それを捻る。

 ガチャリと効果音を出しながら、セルヴィーネは一瞬でフィオレニーデの背後へと移動して、回し蹴りを横脇へと当てられて吹き飛ばされた。

 辛うじて受け止めたが、不利な体勢によって更なる追撃を喰らいそうになる。


「クッ!!」


 装備した籠手ガントレットで二刀の直剣をガードして、反転した世界で彼女は地面へと拳を打ち付けて視界を元に戻した。

 体勢を立て直して、再び果敢に攻める。

 魔法を自身に付与するが、他人には付与しない。

 何故なら避けられてしまうからだった。

 手を前へと向けると、すぐに察知して射線外へと跳んで別方向から攻撃の手を加えてくるため、セルヴィーネにとっては戦いにくい相手であった。


(強いわね……)


 致命傷を加えようとしても転移で逃げ、神出鬼没の能力だけでも厄介なのに、他の鍵についても注意しなければならない。

 それに反射能力があるため、かなり危険だ。

 しかし言われっぱなしというのは自分の性に合わないと分かっているからこそ、彼女は一矢報いるために戦う。


「『絶海の蒼炎(アズール・レイド)』!!」

「『開く異界の扉(アナザーゲート)』」


 視界を塞ぐようにして蒼炎が壁となってフィオレニーデを阻む。

 しかし自分の姿も見えていないであろうと考え、そして彼女は転移用の扉を開いて、転移先をセルヴィーネの上へと設置し、扉を潜った。

 そして見えた先には、セルヴィーネ本人はいなかった。

 何処かと気配を探知しようとしたところで、後頭部を強打する程の衝撃を受けた。


「ッ!?」


 咄嗟に魔力でガードし、気絶を免れた。

 地面へと崩れ落ちて仰向けになったところで、何が起こったのかを理解した。


(……蹴られた)


 セルヴィーネが扉よりも高く飛んで、急降下からのキックをかました。

 超高温の炎壁によって視界を塞ぎ、そしてワザと転移させた。

 だからフィオレニーデは、立ち上がって自身の胸へと手を持っていき、胸元から淡い光が手元へと移り、それが剣を形作った。

 半透明の直剣が二振り、霊魂を武器へと変換し、彼女は静かにセルヴィーネへと近付いていく。


(ッ……何よ、この威圧感は!?)


 自分が強いのだと知っていたが、それ以上に殺気だけで気圧される事実に、恐怖心が芽生えた。

 とにかく動かなければならないと思った瞬間、フェスティーニが彼女の肩を叩いた。


「ふ、フェスティ……」

「大丈夫だよセラちゃん、ボクに任せて」


 一切動じていない彼女が静かに殺気を漏らす妹の前へと立ち塞がった。


「さっきとは真逆だね、フィオちゃん」

「……退いて」


 セルヴィーネを迎えに行った状況とは立場が百八十度真逆となった。

 そして先程フィオレニーデが述べた言霊と同じ言葉を紡いだ。


「『止まって』」


 その一言で、彼女の身体は身動き一つ取れなくなってしまった。

 動きを封じられた少女は無理矢理身体を動かそうとするが、それすらもできずにエルフの姉を睥睨する。


「動けない」

「そりゃ、ボクは生物学者だからね。そんなにボクを睨まないでよ〜」

「……」


 最早睨む事しかできず、もう何もできないと察した彼女は長剣から手を離す。

 すると剣が光となって霧散し、彼女の胸元へと戻っていった。


「頭、冷えた?」

「……ん」


 雨の冷たさによって冷静さを取り戻した少女に掛けられた枷を、手を叩いただけで解除した。


「さて、フィオちゃんも手加減しすぎだよ〜」

「ん、油断した」


 その事実に、セルヴィーネは戦慄する。

 かなり本気で戦ったが、戦闘の年季が違うのだと思い知らされてしまった。


「でも……強さは、認める」

「そうなんだ。じゃあ、セラちゃんの封印、解いてくれるかな〜?」

「やだ」

「はぁ、何なのよアンタ……」


 何故か拒否するフィオレニーデをセルヴィーネは不思議そうに見ていた。


「そもそも……封印、解け掛かってる」

「それホント!?」

「……ん」


 光明が差したような気がした。

 長い年月を経て何かしらの緩みがあったのだと説明を受けた龍女は、結局戦った意味が無いではないかと憤りを感じながらも、それでも嬉しさが込み上げてきていた。

 やっと全てが元に戻る、そう思った。

 権能の力で青年の役に立てる、そう考えた。


「けど、難しい」

「難しい?」

「何か、切っ掛けが必要」


 その切っ掛けが何なのかは誰にも分からないために難しいと言ったが、セルヴィーネとしては難しいのではなく、寧ろラッキーだと思っている。

 何故なら、切っ掛けさえあれば封印が解けるのだから。

 だが、その切っ掛けが見つからないし、心当たりも持ち合わせていない。


「まぁ取り敢えず……」

「「ん?」」


 フェスティーニが提案する。


「服、着替えよっか」

「「……あ」」


 三人全員が雨によってずぶ濡れとなっているため、このままでは全員風邪を引いてしまうだろう。

 そう思っての提案だった。

 戦いに夢中になって二人は気付かなかったが、改めて意識すると服が肌に張り付いて、同時に透けてしまっているため、着替えようと領主館の中へと戻る。


「……へクチュ…」


 小さくクシャミをして、フィオレニーデは一人自室へと戻っていった。


「セラちゃん、大丈夫?」

「え、えぇ……少し脇腹と内臓が痛いけど、しばらくしたら回復するわ」


 龍神族の身体の治癒力は凄まじいが治癒に一日掛かってしまう。

 それを見抜いたフェスティーニが、彼女の脇腹へと手を伸ばして治療する。

 回復させるための権能を部分的に解放して、掌に集めたエネルギーによって治癒を施していた。


「あ、ありがと」

「妹のせいで怪我しちゃったんだし、気にしないで。さ、服を着替えて、これからについて考えよっか」


 これからについて、それは今回ここで起こっているとされるサンディオット諸島の事件について、どう介入するかというものだ。

 冷えた身体を動かして、セルヴィーネは先程の部屋へと戻る。


「あぁそうだ、セラちゃんのための部屋を用意してもらわなきゃだね〜」

「部屋?」

「だって、ここに泊まるんでしょ?」


 考えていなかったセルヴィーネはどうしようかと目を逸らした。

 今は宿泊施設に泊まっており、そこを飛び出してきたために全くこのような状況となるとは思ってすらいなかったのだ。

 どうすべきかと悩んでいる彼女の背中を押して、エルフの少女は笑みを浮かべた。


「とにかく、少し休んだら話の続きをしようか。ボクもまだ知りたい事があるからね〜」

「ちょっ――押さないでってば〜!!」


 木霊する声を無視して、黄金のエルフは赤色の龍神族を押して部屋へと戻っていった。

 雷が咆哮を上げるように、島の何処かへと落ちる。

 フェスティーニには、その雨風が事件の困難さを表しているかのように見えた。






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