第123話 新たなる冒険の始まり
身体がどんどんと沈んでいく。
冷たい感触が肌に纏わり付いて、自分は今、海の中へと沈んでいるのだと遅くながらに理解した。
(……あ、れ?)
力が入らず、水面が遠ざかっていく。
光り輝く世界が、どんどんと見えなくなっていく。
深い闇へと沈んでいき、俺の生命力が今まさに尽きようとしていた。
(か、ら…だが……)
動かないために息もできず、口元から気泡が出てきて昇っていく。
「ゴポッ……」
気泡に混じって、血の泡も上へと舞い上がっていく。
息苦しくて、辛くて、俺は何のために戦っていたのだろうかと、下らない事を考えてしまう。
服には自分の血で濡れており、身体にも大きな穴が幾つも空けられて血が海水に混じり、どんどんと身体が冷えていく感覚が顕著に現れた。
俺はもうすぐで死ぬのか……
(呪印に加えて、こんだけ右目を使ったんだ……死んでも可笑しくはないか)
身体が次第に崩れていくようで、自分が消えていくのを感じられた。
血が大量に噴き出て、人間から出てはいけない量が目に見えて空へと浮かんでいく。
これで死ぬのかと、そんな言葉しか思い付かない。
ただ死ぬだけだ、そう思った。
(なぁ、ゼアン……お前は何のために俺にこんな力を押し付けてきたんだ……)
死が近付いてきているせいか、走馬灯が脳裏を駆け巡っていく。
幾度となく死に掛けていたのだが、走馬灯を見るのはこれが初めてでは無かろうか?
産まれ、生き、転生する。
新たな生を受け、世間からの悪意を一手に向けられ、そして勇者達に裏切られ、暗黒龍と出会い、精霊と出会い、ガルクブール、グラットポート、そしてフラバルドと冒険してきた記憶が目紛しく駆け抜けていく。
身体が冷たくなってきた。
寒い、冷たい、暖かな世界に戻りたい、そんな気持ちだけが心に残る。
「……」
身体は海の底の暗闇へと吸い寄せられるかのように、沈んでいく。
水面の光は届かず、目に宿る生気も消えていく。
駄目だ、もう俺に力は残されていない。
血も、魔力も、生命力も、全てが荒々しい海の藻屑となって沈み消え行く運命にあるようで、次第に瞼が閉じられようとしている。
視界がどんどん狭まっていく。
無い力を振り絞って水面へと手を伸ばすが、掴むのは冷たい海水のみ。
(寒いなぁ……)
声はもう届かないだろう。
助けに来てくれる奴なんて誰一人としていないだろう、それが俺の末路だと理解していた。
だが、それでも俺は納得できなかった。
何で俺ばかりがこんな目に遭わなければならないのだろうか、と。
(俺が忌み子だから、なのか?)
ならば、これ程までに理不尽なものはないだろう、何のために生きてきたのか分からないではないか。
忌みされし運命の子、それが俺だ。
死ぬと分かっていても、俺は右目を全開で駆使した。
身体が壊れる事も厭わずに、後先すら考えずに、全てを出し切った結果こうして海の中へと沈み続けており、力も残されていない。
本当にそうか?
目に見えていないだけで、力は身体の奥底に眠っているはずだ。
(まだ……まだだ)
ボロボロの腕を必死に胸元へと持っていき、錬金術をこの限界の身体に注ぎ込む。
限界を引き伸ばす外法、まだ死ぬ訳にはいかないから。
俺は命を引き伸ばして、戦う術を無理矢理にこの身に顕現させる。
(霊魂ごと滅びるが、もう迷ってる暇は無い)
蘇生の更に上位互換である生命力を操る力、無くなってしまった生命力を生み出すという、無から有を創り出す禁術にも相当する。
実際には無から有、ではないが……
これを使えば数十分間は動けるが、その後は死滅する。
俺ではどうしようもないが、もうこの方法に賭ける以外に道は無い。
(『生命力装――)
たった数十分間の生命の延長、その後は身体も精神も霊魂さえもこの世から消え失せる。
それでも守りたいものができてしまったのだ。
そのためならば命は惜しまない、そう思った。
(クッ……)
しかし奥義を使おうとしたが、それができなかった。
体力も無いし魔力も残ってない、精神も削られていて、右目の反動によって錬金術が少しの間使えなくなってしまっていた。
能力発動に必要な集中力が練れない。
知識と経験に基づいた能力なため、一度も使った事の無い力を扱うのは無理があったらしい。
(駄目か……もう力が――)
『ノア君!!』
閉じ掛けた視界に映るのは一人の少女、彼女が俺へと手を伸ばしてきている。
力が入らない。
能力を駆使するだけの力が残っていないのだ。
懸命に俺も彼女へと手を伸ばす。
視界に映っている一人の少女について、俺は彼女を知っている。
伸ばしていた手と手が触れ合って引っ張り上げられる感覚が身体に表れたところで、俺の意識はブラックアウトした。
暗闇の中から、目が覚めた。
今のは記憶か、それともただの夢か、或いは未来か、長い永りから覚めたかのような、不思議と頭が冴えているような気分だった。
(ここは……)
鈍い頭痛と共に俺は自分の状況を確認しようと周囲を見回した。
少し豪華な個室に窓が備え付けられており、そこから外を覗いてみると雲が横切っていくのが見えた。
手紙を読んでから三日が経過してフラバルドを出発、四日掛けてサンディオット行きの飛行船が出ている港へと辿り着いて、現在は飛行船に乗って旅行中だ。
今日で一週間だ。
「俺は……寝てたのか」
今はまだ昼過ぎであり、少し小腹が空いてきたところなのだが、このまま休んだ方が良いだろうか。
呪印のせいで身体に痛みが生じたままだ。
身体機能が低下している今、動かずに養生しているべきだろう。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「ユスティ……」
ベッドの側で白髪の魔狼族である美少女が俺の様子を窺っており、奴隷として命令している訳ではないのだが、何故か俺の側に控えている。
ユーステティア、正義の名を冠する少女だ。
毎度思うが、俺の付けた名前のセンスは微妙だが、気に入ってくれている。
「大丈夫だ。それよりリノとセラは?」
「リノさんは飛行船酔いで個室へ、セラさんが付き添いで看病してます」
船旅でもリノは酔っていたな。
やはり体質に合わないのか、毎度毎度馬車や船、飛行船といった乗り物で酔っている。
乗り物酔いとはな。
未来予知で分かってただろうに、酔い止め飲ませとくべきだったか……
「俺は倒れたのか?」
「はい、部屋で倒れていたので取り敢えずはベッドに寝かせましたが、お疲れでしたら何なりと私にご命令ください。ご主人様のためなら、何でもしますよ」
部屋で倒れていた記憶が無いのだが、飛行船に乗ってからすぐに倒れたのだろう。
余程、フラバルドでの事件が応えたらしい。
常時痛みで頭が可笑しくなりそうなのに、何故だか冷静でいられる。
「いや、必要ない。俺は……一人で平気だ」
そうだ、いつかは裏切られるのならば、俺は一人でいるべきだ。
一人は気楽で良い。
ユスティに心配される程、落魄れちゃいない。
(空の旅始めに気絶とは、縁起の悪いこって)
どうせ何もする事が無いのだ、しばらくは寝て過ごすか、何かしらの遊びでもして時間でも潰すかだ。
影の中には色んな盤上遊戯がある。
オセロに将棋、チェスに囲碁、トランプ、色々ある。
「確か飛行船は二日間飛び続けるんだったか」
「はい、フランシスさんからチケット四人分貰えて良かったですね」
実際にサンディオット諸島に行く事を知られて、北にある港から飛行船が出ていると教えてもらい、そのチケットを特別に譲ってもらったのだ。
そして無料で四人分、俺達はこうして飛行船に乗って二日間掛けてサンディオット諸島へと向かう。
「俺はしばらく休む……お前は自由にしてろ」
「ですがご主人様、身体が――」
「気にするな」
呪印の事は彼女達に知られている。
呪詛よりも強力な呪いが身体に掛けられているが、これは最早『怨念』、死の呪いだ。
怨みの力が身体を蝕んでいる。
それが回復を阻害してる。
サンディオット諸島には活火山による温泉地帯があるのだが、魔力によって特殊な効能を持つ温泉が幾つかあると聞いた。
なので、もしかしたら呪詛呪印の力を浄化するものもあるかもしれない。
(教会にも行っとくか?)
いや、神に祈るのは俺の道理に反する。
神に祈ったところで、十八年の歳月は覆りはしないのだから。
さてさて、まずは龍栄祭について確認しよう。
龍栄祭の趣旨は、そもそも龍への感謝として神器を奉納するものであり、しかしながら今年はそれぞれの島で事件が起こっているために中止らしい。
正直、龍栄祭に参加するつもりいた。
俺が暗黒龍の使徒であり、龍の地であるサンディオット諸島に何かしらの手掛かりがあるかと考えたから。
(しかし、今回は中止だったか……)
俺はどうすべきなのだろうか。
麻薬売買人について、昏睡事件について、孤児行方不明事件について、そして潮流による漁獲量低下について、それ等の事件は関わるべきものではない。
そもそも俺Eランクだし。
しかし何だろうか、嫌な予感がするのは単なる気のせいだろうか。
「ん?」
いつの間にかユスティがいなくなっていた。
リノとセラの下へと行ったようで、個室に一人というのは何だか途轍もなく広く感じられ、静寂だけが取り残されていた。
しかも内装は無駄に豪華だ。
ここはVIPスイートルーム、ギルドマスター権限でチケットを取り寄せてくれたようなのだが、ある意味では余計なお世話だ。
上級冒険者はこういったものを使うが、Eランク程度の俺達が搭乗する事になろうとは予想外すぎる。
(かなり広そうだな、この飛行船)
どんな構造をしているのか、一定の興味はある。
飛行船技術は制作にかなりの資金が必要であり、数自体は少ないのだが、それでも大陸間を横断したりする場合に限っては飛行船が使われたりする。
窓から外を見れるが、開けられないらしい。
それもそうか、危ないしな。
かなりの高度で飛行しているようで、何処かガラス張りのところで地上を見てみたいものだ。
(本当に何もする事が無いな)
龍栄祭まではビーチで海水浴となるだろう。
そこは別に構わないし、俺も適度に休息を取れれば問題ないはずだ。
龍栄祭は毎年大勢の人間が集まる一大イベント、それが中止となるとは思ってなかったが、今では諸島全体で異変が起こっているのだから仕方ない。
そう何度も都合良く事件解決できるとも思えないし、今の身体ではまともに動けない。
「取り敢えず……空の探検と行くか」
この飛行船も魔導具の一種らしく、動力源として魔石の力で動いている。
無限動力である魔石を駆使しているようで、それを抜き取られれば魔導飛行船は墜落する。
しかし見てみたい気持ちがある。
残された好奇心が働いて、俺は部屋の扉を開いた。
「ひゃっ!?」
開けた途端、誰かの悲鳴が聞こえてきて咄嗟に抱き留めていた。
ユスティが悲鳴を上げたのかと思ったが、身体の感触や腕に伝わる体重、髪の色、大きな二本の角、龍神族の俺の仲間であるセルヴィーネ、通称セラちゃんだと理解した。
彼女が俺の部屋の前、いや俺の部屋のドアを開けようとしていたところで俺が中から開けたため、転びそうになったらしい。
「大丈夫か、セラ?」
「う、うん……」
何故か赤面して耳まで真っ赤となっている龍女の身体を起こして、熱を測るために手を額へと持っていく。
「な、何を――」
「顔真っ赤だぞ、熱でもあるんじゃねぇのか?」
「な、ななな無いわよ!!」
「おっ、と」
振り払われそうになったので、自ら額から手を離して避ける。
天真爛漫な性格、少し荒いところもあるが、そこも彼女の魅力という訳だ。
「で、何か用か?」
「リノが熱出しちゃったから、熱冷ましのための薬とか貰いに来たんだけど、大丈夫?」
「あぁ、俺は大丈夫だ。今行く」
風邪薬をと思ったのだが、一度しっかり診断してから薬の種類を決めるべきだ。
下手に薬の量を決めたりすると副作用が強かったり、逆に薬の効果が現れなかったりする。
それに薬草にも種類がある。
錬金術師として薬効の抽出と分離、圧縮を連続で行わなければならない。
(風邪薬ならあるけど、リノも難儀な体質だな)
こっちも無理に錬金術を使うのは控えたいとこだが、変な病気をどっかから貰ってきたら、解毒や治療は俺しかできない。
日数が経過する毎に身体を蝕む呪印の量が増えている。
つまり俺の命の刻限は日に日に減っていて、すぐそこまで迫ってきている。
(後半年か、もっと短い命か……何にせよ、呪印を何とかしないとだな)
自分の命が鷲掴みにされてるような感覚、死神が後ろに張り付いているかのような気がする。
右目の件もあるし、死にやすい体質だ。
暗黒龍との契約で魂が強化、そして魂に直結する職業も同じく強化解放された。
右目にリミッターを付ける事で、ギリギリ死なない程度まで力を抑えて使えるようにはしたが、それでも反動が大きすぎる。
それに、全開にしなければならない時が再び来るような気がする。
「入るぞ〜」
ドアをノックして、リノの部屋へと入る。
そこには看病に徹するユスティと寝ている者が一人、青髪の案内人の二人がいた。
片方は寝てるが辛そうだ。
名はリィズノイン、案内人としてここまで来たが毎度毎度乗り物酔いするし、今回に至っては酔うだけではないらしい。
額に冷たいタオルが置かれており、酔いとはまた別の症状が出ているのを左目が診た。
(これは……風邪じゃないな)
もっと詳しく診てみないと分からないが、少なくとも風邪と似ているけど風邪ではない。
異世界特有の病気か、これ?
「リノ、聞こえるか?」
「……」
意識は無いようで、呼び掛けても返事が返ってこない。
意識は低下していると見て間違いないが、身体の様子はどうかと思って服を捲ろうとしたところで、二人が慌てて止めに入ってきた。
「ちょっ――アンタ寝てる女の子に何すんのよ!?」
「だ、駄目ですよご主人様!!」
「馬鹿、違ぇよ。コイツの身体を探る上で邪魔な服を取っ払おうとしただけだ」
「いや、それが駄目なんだって」
何が駄目なのかさっぱり分からないが、見られたくないんなら俺は席を外そう。
「はぁ……なら、皮膚に発疹とかがあるかを見てくれ。俺は廊下に出てるから」
「わ、分かりました」
実際には俺が見た方が早いのだが、乙女の身体を知らぬ間に見られているというのは我慢ならないのだろう。
まだ左目も完璧に使いこなせてないので、今は服を透過させるという微細な力の調整ができない。
右目はリミッター設定なので全力を出しても精々ギリギリまでしか出せないようにしてあるが、左目には手を加えていない。
廊下へと出て少しの間だけ待つ事にする。
症状はほぼ風邪だったが、体内の生命力に異常が見られたのだ。
(前に一度、リノの裸体見てるから別に減るもんじゃないと思うんだが……)
やっぱ、女の考えてる事が分からん。
あぁそうか、俺がリノの魔力回路を矯正したって事を伝えてなかったな。
(ってそんな事より、この症状について考えよう。もしかしてサンディオット諸島で発生してる集団昏睡事件と何か関係があるのか?)
生命力が少しずつ吸われているように見えた。
ユスティとセラには異常が無かったのだが、何故かリノだけが生命力を吸われていた。
まだ微量の吸収速度だったのだが、何故だろうか?
その原因は分からないのだが、何かしらの原因はあるはずだ。
それに何処かへ吸われている。
その行き先が俺達の向かっているサンディオット諸島ってのは、果たして偶然だろうか?
(俺とユスティ、それからセラ、俺達三人とリノ、何が違うんだ?)
分からない、今考えてもピースが上手く嵌まらない。
それに生命力が抜かれていく現状では、手立ては殆ど見つからない。
霊薬でさえも不治の病や病気には効くが、生命力が何処かに吸われていく中では無駄だろう。
栓を抜いた状態で風呂にお湯を溜めるのと一緒だ。
排水口から流れ出ていくように生命力も諸島へと流れていくからこそ、彼女に薬を使ったところで無駄であろうと予想はしている。
だが、もしも他の病気の場合は俺が治せる。
(因果錬成も原因が分からない以上、組み換える事ができないしな)
原因の排除には明確なイメージ、つまり原因が分かっていないとできない。
単に『吸われている生命力』へと干渉しても、それは一時的なものとして認識され、結局は数時間後には同じ状態となっているだろう。
永続的に続く『何か』に直接干渉しなければリノの症状は回復しない。
(もっとデータがいるな)
もしもサンディオット諸島で同じ症状に見舞われた者がいるならば、ソイツ等を使って特効薬を見つけられるかもしれない。
不可解な事がいきなり発生しているため、どうするべきなのかと迷いが生じる。
確か諸島の端っこは未開拓地であり、そこには自然がそのまま残っているために、薬草類とかが採取できるはずだ。
希望的観測に過ぎないが、もしかしたら錬金術師の力で解決できるかもしれない。
「ご主人様、終わりました」
「あぁ、どうだった?」
「特に外傷はありませんでしたし、発疹とかも出ていませんでした」
外傷とかは無く、生命力だけが吸われている。
そんな症状は聞いた事が無い。
未知のウイルスとかだった場合はどうしようもないが、ウイルス感染していれば俺の左目が感知できる。
俺はリノの部屋に入って、彼女の前に立った。
「腹に傷があったのか、コイツ」
リノの腹には大きく穴が空けられたような感じの傷跡が残されていた。
生々しいもので、それを隠してきたのだろう。
外傷が無かった、というのはつまり、治って傷のみとなっているからカウントしなかったらしい。
「はい、今さっき知ったばかりなのですが、恐らくグラットポートで負った傷かと」
コイツ等ダンジョンで一緒に風呂に入っていたはずなのだが、タオルで身体を隠してたか。
彼女の腹に穴が空いたような傷があるのは、グラットポートで魔族に空けられたものらしく、それを霊鳥族である少女が癒していたと聞いた。
まさか傷跡が残っていたとは思わなかった。
「どうか治していただけませんか?」
「あぁ、それは構わんが……」
それはリノが起きてから、だな。
俺の身体にも無数の傷跡があるのだが、隠そうと思えば隠せるだろう。
しかしそれをしないのは、戒めとしてだ。
俺の心のケジメのために傷跡は残している。
腕や足、身体のあちこちに傷跡が刻まれているが、それ等は今まで体験してきた苦痛だ。
それを消したりしない。
「お前等は何ともないのか?」
「えぇ、特に身体が不調って訳でもないようだし、大丈夫みたいね」
「はい、私も問題ありません」
見て分かる通り、二人はピンピンしている。
俺も同じだ。
生命力は魔力と違って無くなれば死んでしまうだろう、それまでに何とかしなければならない。
一番簡単なのは諸島から離れる事だが、それでは根本的な解決にはならないだろうし、まだ諸島までの道のりが長いのにリノはすでに症状に罹っている。
つまり、根本的な原因の排除が先決となる。
海水浴や温泉での休養どころではない。
(旅先前で躓くとはな……ギルドなら何か知ってても可笑しくないだろうし、着いたら行ってみるか)
旅がスタートすると何故か最初に躓いてしまうのだが、どうにかならないものかと思案する。
「リノは大丈夫なの?」
「今のところは何とも言えない。だが、根本的な原因を排除しないとずっとこのままだろうな」
離れるという選択肢もあるが、離れて何かしらの制限を受けた場合、それこそ厄介な事態となる。
例えば一定距離離れた瞬間、生命力の糸が切れて本人が死ぬ、とかだ。
「しばらくは熱も引かないだろうし今はストック切らしてるから、一応熱を冷ます薬を諸島に着いたら探してみる。それまでは付きっきりで看病だな」
「なら交代制にする?」
「そうするか。最初は俺が見てるから、二人は自由にしててくれ」
どうせ何もする事が無かったのだし、状況次第では俺が一日ずっと付いてるのが一番だ。
「じゃあ、レイの影に入ってるぼーどげーむ、だったかしら、それ貸してよ」
「あぁ」
影からボードゲームを幾つか取り出して手渡した。
コンパクトに折り畳めるよう設計してあるため、そこまでの大きさではなく簡単に持ち運べる仕様となっている。
それを取り出した瞬間、セラがシュバッと音が出る程に素早く取っていき、そのままユスティと二人でテーブル越しに遊び始めてしまった。
自由奔放な奴等だが、静かに遊んでいる。
リノに配慮しているらしい。
(俺も気絶してたから何かしら変化あると思ったんだが、どうやら違うらしいし……)
俺の身体とリノの生命力について、その二つも考えなければならない。
考える事が多すぎて頭がパンクしそうだ。
本当に面倒臭い。
さっき見ていた夢のように……夢?
(あれ、何の夢見てたんだっけ?)
夢の内容を忘れてしまったらしい。
何かを見ていたのは分かるが、内容を思い出せない。
まぁ良い、どうせ忘れるくらいのものなのだ、大した夢ではなかったのだろう。
俺達はしばらくの間リノの看病に付き添って、交代で様子を見る事とした。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
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