第120話 三通の手紙 後編
残り二通の手紙、師匠からの贈り物と、ギルド最高峰からの贈り物、どっちも手紙なのだが片方だけ異物感半端無いな。
俺、グランドマスターと知り合いでも何でもないし。
それよりも、何でグランドマスターが俺の居場所を知っているのか、それと何故俺に手紙を宛てたのだろうか?
(ま、手紙に書いてあるだろうし、後で考えよ)
それよりも先に師匠の手紙を読もう。
読もうとしたところで邪魔が入ったのだ、やっと彼女の手紙を読める。
中身を取り出してみると、便箋が何枚か入っていた。
それを最初から読んでいく。
『お元気ですか? 貴方の愛する師匠、ラナ=ジルフリードです』
最初の文章から誤解されそうな文言を使ってきたな、あの人……
愛するってどれだけ自信過剰なんだよ、とは手紙には書かないでおこう。
『貴方が生きていた事、この手紙を書いている今でも信じられないくらい嬉しいです』
愛弟子が生きていた、その事に喜びを感じない師匠が何処にいようか。
あの時は俺も久方振りに会えて嬉しい気持ちだった。
師匠と別れてから、もう三ヶ月だ。
その間に色々な事があり、それを手紙で伝えるには便箋が何枚あれば足りるだろう。
『ギルドの情報管理室で貴方の名前を見つけ、師匠としては嬉しくもあり心配もありました。魔神と戦うなんて無茶しすぎです』
そう言われても、俺としては成り行きでそうなってしまったのだから仕方ないだろ、と弁明したい。
後で手紙に書いておこう。
『この手紙は星都ミルシュヴァーナから出したものです。私は現在、ギルド本部から星都に呼ばれて、そこで活動しています。呼ばれた理由は星都周辺で国際指定災害魔獣が三体も出現したからなのですが、中々に倒せません』
倒せなくとも、彼女なら逃げたりして生存してそうだ。
いや、あの人は負けず嫌いだから、勝つためなら何でも犠牲にして戦いそうだ。
彼女の力ならば、時間を掛けてでも倒す事はできるだろうが、彼女でも手こずる相手が三体も星都周辺に存在しているらしい。
その三体の存在がどれ程のものなのかは手紙からでは伝わりにくい。
『正直、貴方を呼びたいところなのですが、愛弟子の進む道を邪魔したくありませんので、貴方は気にせずに自由に旅を続けてください』
これはまさか……フリか?
気にするなというのは建前で、本心では来てくれと願っているのだろうか。
『あ、でも確かアレクが貴方について気にしていました。と言うよりは知り合いのような……まぁ、良いでしょう、この事は忘れてください』
待て待て、アレクって誰だよ?
それに情報を中途半端に開示してから忘れろ、とは無理がある。
なら書くな、と言いたかった。
しかし彼女らしい文だ。
『最近では何処もかしこもきな臭くなってきてますし、もしもサンディオット諸島に行くなら用心してください。あそこでは最近、『集団昏睡事件』があるそうなので』
またもや物騒なワードが出てきたな。
昏睡と書いてあるのだから、ずっと眠り続けているのかもしれない。
その後も彼女の手紙を読んでいくと、何故事件が発生したのか、どういう経緯があったのか、解決策はあるのか、等と事細かに書かれていた。
要約すると、事件発生は約半年前、突然三つの島々でそれぞれ昏睡事件が発生、原因は不明、経緯も分からず、ただ何故か島に住む人間達が倒れて未だに眠り続けているそうなのだ。
事件に次いでまた事件、俺はトラブルを呼び寄せる体質なのだろうかと最近では思い始めている。
「……」
もしそうだとしても、俺が解決する必要のないものであるだろうし、彼女も俺に解決してくれ、と依頼してる訳でもない。
だから見て見ぬフリをしておく。
身体が弱ってるうちに事件に首を突っ込むとか、何処の自殺志願者だろうか。
『他にも色々と問題が起こってるそうですし、貴方の身体についてもフランシスから聞きました。どうか無茶だけはしないように』
「師匠……」
『それから、一つ気になる情報があったので貴方に伝えておきます』
気になる情報?
『サンディオット諸島では、年々孤児が減っているのだとかで、ギルドが調査依頼を受けたのだそうです』
孤児が減ってる事自体に特段と不思議さを感じはしないのだが、彼女が気になっている部分というのは恐らく、ギルドへと依頼が持ち込まれた事だろう。
孤児が逃げ出したりする、なんてのはザラだ。
院長がクズだった場合、脱獄だとかで逃げ出したりする子もいる。
(だが、ギルドが調査せざるを得ない程の行方不明者が続出してんなら、確かに不思議だな)
昏睡事件の陰で誘拐事件でも勃発したか。
まるで迷宮で起こった事件と類似しているのは気のせいだろうか?
俺がフランシスから聞いたのは、潮流についての依頼だけだっだ。
そして手紙には孤児の行方不明についての情報が……
(デマの可能性も否定できないな)
一つ気になる情報と、その程度の認識で俺へと送ってきたという事は、彼女も当然ながら考え付くはずだ。
もしかすると噂に尾鰭が付いていたのかもしれない。
だがしかし、もしも彼女の手紙に書いてある事が事実であるならば今回と同じような行方不明事件、つまり犯人が少なからず冒険者連続失踪事件と関係している人物、例の麻薬売買人が関与している可能性を示唆している。
『今年の龍栄祭は中止となるかもしれませんが、もしもサンディオット諸島に赴くのであれば、気を付けなさい。そこには三体の龍が……いえ、貴方なら知っているかもしれませんね』
サンディオット諸島は九神龍のうちの三体の像が祀られており、『神器』と呼ばれる代物を奉納するのが龍栄祭の趣旨となっている。
深海龍リクド、生命龍スクレッド、そして陽光龍ジアの三体が島の象徴となっており、太陽の国を象徴とする諸島が三つあるのも彼等が島を創ったから、と言われている。
だから今も島内では神龍の加護が覆われており、そのためにも師匠の手紙の内容を疑った。
(集団昏睡事件、それに孤児誘拐事件、更に漁獲量低下の原因となる大きな潮流、他にも麻薬取引も行われてるだろうし……一体、島で何が起こってんだ?)
そんなにも多くの事件が起こっているのに、未だに一つも解決していない。
逆に今回よりも酷い有り様だ。
どれだけの被害が起こっているのかは分からないし計り知れないものだが、前回と同じ、俺の行く道を邪魔するならば誰であろうと排除する。
『そして貴方は……忌みされし運命の子、神龍と精霊に導かれた存在、きっとこれからも困難や試練の数々が襲ってくる事でしょう。しかし貴方なら、今の貴方ならきっと乗り越えていけると信じて、この手紙を贈ります』
忌み子として十八年生きてきたからこそ、俺は世界を憎んだ。
子供の時に、すでに世界の厳しさを知っていた。
それ等全てが運命だったのならば、その十八年にも何かしらの意味があったのだと思えよう。
『もう一つ言っておかなければならない事があったのを忘れていたので、ここに書き記しておきます』
まだあるのかと思って続きを見ていく。
その先に書かれていた言葉に、俺は錯覚かと思うような事が書かれていた。
『勇者パーティーが魔族十二将星の一角、『幻惑』のビーレットに敗北しました』
「……は?」
つい言葉が漏れ出てしまったが、高が十二将星程度の相手に負けたのか?
(有り得ない。勇者の力は本来なら無限の強さを持つはずで、世界の希望となる職業のはずだ。それが十二将星に負けたってのか? 何かの冗談だろ)
あのクズ共が負けた、そこはどうでも良い。
勇者が負けてしまった、それはつまり、魔王を倒せない事を意味している。
最近、どんどんと世界情勢が歪と化してきていて、少しずつ世界の歯車が狂い始めてきている、そんな気がしてならない。
「……」
彼女の手紙の殆どはサンディオット諸島に関する事が書かれていたのだが、そんな事よりも勇者が敗北した事について情報が欲しい。
何故か胸騒ぎがするのだ。
奴等が死んだところで俺に影響しないが、その被害を被るのは流石に看過できない。
「勇者が死ねば次の勇者が現れるが……」
魔王は勇者にしか討てないらしい。
それは、職業の問題だ。
職業の中には因果や運命に縛られたものもある。
勇者が選ばれるのも運命、魔王を討つために選ばれる世界の希望、しかしながら魔王と戦う前に魔族十二将星に負けてしまったようで、勇者の弱さが露呈してしまったも同義だった。
だがしかし一回負けただけだ、二回目勝てば良い、なんて考えている事だろう。
勇者というのは正確には職業ではない。
実際には、職業に勇者の力が宿っているものであり、だからこそ勇者が剣を使ったり、魔法を使ったり、或いは別の能力を使ったりできる。
勇者というのは謂わば、職業の強化素材だ。
だから例えば、俺が勇者となった場合、錬金術師という職業にプラスして勇者の力が備わる。
(まだ魔族に負けたと知ってる奴は少ないのか……何処から情報を仕入れてきたんだよ師匠?)
あの人には本当に頭が上がらないし、逆らう事なんて絶対に無理だ。
勇者パーティーが負けた事については少ししか書かれていなかったのだが、負けた事と、それから負けた事を知ってる奴は俺と師匠とグランドマスター、それからデルストリム王国国王の娘ただ一人だけだとか。
「……変だな」
可笑しい、新しい人間をパーティーに入れたはずだが、何故やられてるのだ?
いや、気にしても仕方ない。
もう関わりを断った身、何もする気にはならないが、何故だか胸がムカムカする。
(まだ俺の中に蟠りでも残ってたのか? まぁ良い、師匠の手紙の続きを読むとしよう)
後何行か残っていたので、彼女の手紙の続きを読んでいく事にした。
『さて、最後に……ギルド職員としてグラットポートとフラバルドでの活躍、お疲れ様でしたと感謝の気持ちをこの言葉に込めます。そしてごめんなさい、貴方に負担を掛けさせてしまって』
悪いのは貴方ではない、そう言葉が出そうになった。
そこに彼女がいるかのような気分となったが、もしかしたら本当に気持ちが籠っているのか、何処となく近くにいるような気がした。
俺が自分で勝手にした事で、本来なら師匠が気にする必要は無いのだ。
『まぁ、師匠としては鼻が高いです、えっへん!』
威張っている姿が目に浮かぶようだ。
彼女らしい手紙だが、それに対してどう返事しようか考えを巡らせていた。
『情報は早く出回ります。ウォルニス、ノア、そしてレイグルス、その三つの名前を使えば即座に身バレする可能性があります』
確かに彼女の言ってる事は正しいし実際に偽名を変える事も珍しい事ではないのだが、何で毎回毎回名前が世間にバレてしまうのか、それは事件に介入して解決していたからだ。
いや、ノアという名前に関してはガルクブールとグラットポートで使っていた名前だった。
レイグルスは迷宮都市限定であろう。
どうしようかと迷っていると、その先に書かれていた内容が目に入った。
『『クルーディオ=ユッド=ラ=ディーセリュット』、もしも貴方さえ宜しければ、その名前を使ってください。知っている人は今や私以外はいませんので』
クルーディオ、それに似た名前を前に師匠から聞いたような気がするのだが、あまり覚えてないな。
ユッドは中間名だが、ラは精霊印字と呼ばれる特殊な文字であり、精霊の祝福によって得られる一文字を表す。
今となっては名乗る人も少ないが、かつてはエルフの国の伝承だったそうだ。
『それは私の祖父の唯一の親友の名前『クルーディア』を捩った名前です。才気に溢れ、素晴らしい戦闘能力を持っていた、と聞かされました』
そうか、思い出した。
前に師匠の家族について聞いた時に話してくれた事だ、何で忘れてたんだろうか?
『両親を鍛えた事もあったそうです。まぁ、私が生まれる前にお亡くなりになってしまったそうですが……』
それだけの人物が何故亡くなったのか、どうして彼女が知っているのか、クルーディアという者が何者なのか、それ等を知る事は今の俺には無理だ。
それに、知る必要は無い。
知っていても、俺には何もできないからだ。
『ユッド、そしてディーセリュット、その二つは私からの贈り物と捉えてください。その二つは私の家名だったものです。私は元々は貴族の出でしたが、小さい頃に家族が全員死んでから、私はジルフリード家に引き取られました。ですから、貴方さえ良ければ……』
そんな話は聞いた事が無かった。
実際に彼女に師事されていた時間はそこまで多くはなかったからだ。
それに彼女も俺と同じように殆ど自分の事を話さない。
俺がウォルニスで、忌み子である事は話したが、今までの十数年の生き様についてはあまり話してない。
(クルーディオ=ユッド=ラ=ディーセリュット、か。使わせてもらうよ、師匠)
名前、長いけどな。
『また会える日を楽しみにしてますよ、ヴィル』
その言葉の横に可愛らしく彼女の笑顔がイラストされていたのだが、ヴィルと呼ばないでほしいものだ。
手紙を閉じようとしたのだが、その前に最後の文字が目に入った。
『追伸、早く手紙寄こしなさい』
どうやら痺れを切らしていたらしいな、少し文字が荒々しい。
殆どの文字は丸っこくて可愛らしいのだが、残念な事に最後の一文だけが怖い。
「また後で書くか。先にグランドマスターからのだな」
これで師匠からの手紙は終わり、次は残された一つの手紙を読むだけだ。
手紙を取り出して、中に入っていた便箋を読む。
便箋の内容はたったの一枚分だけだった。
「……」
静かに読んでいくのだが、次第に書かれている内容に対して、久方振りに数少ない怒りという感情が心の中に湧いてきた。
ここに書かれている内容が本当なら、俺は奴に会わなければならない。
嘘、を吐くとしたら他の方法があるだろうが、この文章を見る限りでは恐らくは本当の事だ。
「コイツ……何で知ってやがる?」
殺気が部屋に充満する。
窓がギシギシと音を立て、壁や床に亀裂が入る。
手紙をクシャクシャにしてしまったのだが、もうそんな事はどうでも良い。
今はこの手紙について、早急に対処しなければならないだろう。
(グランドマスターに会いに行くか……いや、今は止めとくか)
何だか誘導されてるみたいで、嫌だと思った。
強制ではないし、促されている訳でもないので今はまだ行かないでおく。
この手紙をワザワザ送ってきて危険を冒す行為をグランドマスターが選ぶはずもない。
早急に対処する必要はあれども、コイツの手紙には俺の噂を広めるつもりが無いと言ってるような文章が書かれていたのだ。
(落ち着け俺、今怒ってもどうにもならないのは自分が一番分かってるじゃねぇか)
沸々と湧いていた怒りを収め、二通の手紙を仕舞う。
一通の手紙は普通に良かったが、二つ目の手紙は流石に心を抑え付ける事ができなかった。
それだけ、心を揺さぶるものが書かれていた。
俺の正体について、俺の出自について手紙に書かれていたのだ。
(何でだ……)
俺が忌み子である事も、俺が捨てられた事も、そして俺の本当の両親についても、コイツは知っていた。
そこに俺の出自が大まかに書かれている。
具体的には書かれていないため、それは会って実際に俺を確かめて話すか決める、というところか。
「チッ」
椅子からベッドへとダイブして、考え事を停止させて眠りに着こうとしたができなかった。
今日は特に予定は無いので昼寝へと洒落込むつもりだったのだが、寝ようとすると更に考えが頭の中で湧いてきて、しかし考えたところで解決策は何も浮かばないし何も分かりやしない。
気苦労は増えるばかりだ。
だが、少なくとも俺が何者なのか、という手掛かりがミルシュヴァーナにあるのは分かった。
(なら、サンディオット諸島で休養してからミルシュヴァーナへと向かうとするか)
どんどんと悩みの種が増えていき、俺一人では抱えきれなくなってきていた。
だが、他人に背負わせるという事はしない。
何故なら、他人を信じる事で俺が馬鹿を見るのだと分かっているからだ。
考えても埒が明かないので、ベッドから再び起き上がった俺は、手紙を送るために予め買っておいたものを取り出して机へと向かい、師匠への手紙を書き始める。
(これ以上先延ばしにすると、師匠怒るからなぁ……)
謎、疑問、そういったものは沢山あるのだが、それはいずれ解決していくものだ。
手紙へと集中する。
時候の挨拶は入れず、友人や知人相手へと送るような文章にする。
「ご主人様、只今戻りました」
「レイ〜、何してんの〜?」
机に向かって十数分が経過したところで、二人が帰ってきた。
大きな荷物を抱えており、それだけショッピングを楽しんできたように見えた。
背後から覗き込んでくる二人に質問の答えを返す。
「手紙だ」
「「手紙?」」
不思議そうな表情を晒していた二人だったが、次第にユスティがプルプルと震え始めた。
「ま、まさか相手の人って……女の方ですか!?」
「いや、違――」
「アンタ誰に送んの!? 教えなさいよ!!」
違うと説得しようと……いや違わないが、それでも言葉を加えようと思っているとセラが早とちりして、俺の首を絞めてくる。
毎度毎度、そう早とちりする性格はどうにかしてほしいと思う。
両手を首から離してもらい、一度咳払いしてから手紙の相手について教える事にした。
「俺の師匠だ。生きるために魔力操作や武術とかを師事してもらったんだよ」
「そ、そうだったのね、良かった」
何が良かったのやら、首を絞められたために謝ってもらいたい。
いや、そんな事よりも手紙の続きだ。
「ねぇレイ、この部屋で何かあったの?」
「ッ……何故そう思った?」
勘の鋭い龍女の突然の質問に、俺は息を整えてから自然と聞き返してみる。
「だって、床に亀裂入ってるんだもん」
よくよく見てみると、周囲に罅割れた部分が露見しているではないか。
しまった、手紙に気を取られすぎて忘れてた。
しかし実際、その傷とかは一人でいる時に付けたものであるため、誤魔化そうと思えば誤魔化せる。
「ちょっとな」
「ちょっとって何よ?」
悩みの種が多すぎて誤魔化すのすら面倒臭くなっていたので、適当に返したのだが、食い下がられる。
「何でも良いだろ……それよりも買い物はどうだったんだ?」
「色々買えましたよ。それから皆さんと食事をしてきたんです!」
嬉しそうに語る彼女の笑顔は無邪気そのもので、ショッピングに食事、同年代の友人達との休日に心躍らせていたのだろう。
そう言えば、朝から何も食べてなかった。
この後用事もあるし、一人で外食に出掛けようかと考えながら手紙を書き進めた。
「ねぇ、アンタの師匠ってミルシュヴァーナにいるの?」
「あぁ、そうらしい」
文面から予想したようだ。
星都周辺に現れた事について返答していたために、彼女にも伝わったのか。
「ネームドが現れたって事で、星都のギルド本部に呼び戻されたんだと」
「ねーむど?」
「ユスティ、もしかして知らない?」
「は、はい。無知ですみません……」
知らない事に対してセラが追い討ちを掛けるが、知らない人もいるため、一から説明しておく。
「国際指定災害魔獣、通称ネームド、世界的に有名な超危険なモンスターを総称して言うんだ」
「世界的に有名で超危険……」
「たった一体で大国を滅ぼせる程の力を持ってる。超高火力なブレス攻撃、超巨大な図体による進撃、脅威的な身体能力、周囲の環境を変質させてしまう存在、人々の記憶を喰らう怪物、色々いる」
特に危険なのは人に化けるモンスターや、食べた存在の特徴を身体に顕すモンスター、そして星を喰らう化け物もいるな。
それ等には固有名が付く。
だから戦う場合、他のモンスターとは一線を画する熾烈な戦闘となるのは間違いないだろう。
「名前が付くのですか?」
「そうだ。国際指定される訳だが、実際にはギルドが命名して対策を講じるんだ」
そういった仕事は七帝が行なっていると聞くが、一気に三体もの国際指定災害魔獣が現れるというのは少し妙だと思った。
単なる俺の勘、しかし無碍にもできない。
「国は何もしない、いや、正確に言うなら何もできないが正しいのか。精々ギルドに依頼を出して報酬を用意するくらいだな」
幾らミルシュヴァーナが冒険者の国と言えども、三匹の災害魔獣を倒すとなると物理的にも比喩的にも相当骨が折れるだろう。
君子危うきに近寄らず、という言葉があるが、向こうから来る分には戦うしか国が生き残る術は残されていない。
「ミルシュヴァーナに三匹現れたらしくて、師匠も戦ってるって手紙が来たんだ」
「じゃあ、その戦いに参戦なさるのですか?」
「いや、今は流石にミルシュヴァーナには行かない。先にサンディオット諸島に行く」
俺が戦いに混じっても戦闘の邪魔となるだけ、この身体では格好の的だ。
いや、的ではなく餌、或いは小蝿か。
ネームド達からしたら、俺達人間なんて小っぽけな蟻んこに過ぎない。
「師匠は俺より強い。心配は無用だ」
書き終えた便箋数枚を小洒落た横型封筒へと入れ、宛名を書いて封蝋をしておく。
どうしようかと思ったが、どうせならと考えて腕輪の形をシーリングスタンプへと変え、用意していたシーリングワックスを垂らして封をしたら、スタンプで印を押す。
それを取ると、その固まった蝋には一つのマークが描かれていた。
「これって……」
「暗黒龍の、よね?」
そのスタンプの印は、暗黒龍が円の中に収まっているものだった。
身を丸め、翼を広げた形をしており、この封蝋を見れば誰が送ってきたのかが分かるだろう。
「さて、後はこれを出すだけだな。お前等はどうする?」
「あ、私もご一緒します」
「ならアタシも行く〜」
結局は満場一致で外出する事に決まった。
「そう言やリノはどうした?」
「あの子、帰り道の途中で見つけた鍛冶屋に行ったわ。だからアタシ達は先に帰ってきたの」
きっと罅の入った精霊剣を直す手掛かりを、一人でずっと探していたのだろう。
今はそっとしておこう。
俺達ではどうする事もできないのは知ってるため、俺は彼女の事を考えるのを止め、一通の手紙を持って郵便局へと向かったのだった。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
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