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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
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第117話 幸せを運ぶ青い鳥は空の彼方へ

 事件解決、つまり宴会から一週間が経過した。

 事件解決したのが昨日の事のようで、早いものだ。

 今日は冒険者が全員、ダンジョン前の中央広場に集まっているのだが、数百人といる冒険者達が真剣な表情で小声で会話しているためなのか、周囲が結構静かだ。

 普段うるさい奴や喧嘩っ早い奴、そういった奴等も今日は静かだった。


「よぅ、レイ」

「ダイトのおっさん……アンタ、よく俺の前に顔を出せたもんだな、え?」

「うっ……だから悪かったって」


 宴会翌日に俺はダイガルトを問い詰めた。

 何を問い詰めたのか、彼がギルド職員に二十四階層で俺の情報を売った事についてだ。

 そして問い詰めた結果、コイツがギルドと繋がっているのが明白となったのだ。

 そして、その日にボッコボコにした。

 顔が腫れていたが、ポーションを使っていたために遠慮せずに殴りまくる事ができたので、合計して五十発以上殴った気がする。

 殴る回数を数えるのが面倒だったので、数えてない。


「で、エレンはどうしたよ?」

「さぁ、どっかにいるんじゃねぇのか?」


 周囲に多くの人達がいるのだが、笑顔の奴は一人たりともいない。

 全員が黒い服装を身に纏っている。

 冒険者が着ているのは喪服、今日全員が集まったのは犠牲となった冒険者達の追悼式を行うためであり、そのセッティングが殆ど完了していた。

 俺も黒い服に身を包んでおり、全身黒尽くめだ。


「そっちこそ、嬢ちゃん達はどうしたんだ?」

「ギルマスと会話してたよ。何話してんのかは知らないけどな」


 今は会場となる広場の外にいる。

 一週間のうちに中央広場には無くなった人達の慰霊碑が建てられており、俺は段取りのほぼ最後に霊魂の解放が任命付けられているので、後で段取りの話し合いがある。

 まだ『悪喰の剣(ソウル・グラトニア)』の中には五十人以上の霊魂が吸収されたまま、解放されずにいる。

 実際には何人なのか確認していないので吸収された霊魂の数は分からないのだが、少なくとも六十人は吸収しただろうか。


「俺は花を台に添えてから、階層喰い(フロアイーター)から吸収した霊魂を解放する役目がある」


 そのためには右目を開眼しなければならないのだが、今以上に身体に負担を掛ける。

 だが、それ以上に霊魂を抱えている事の方が重大だ。

 このままだと、俺の霊魂を核として融合してしまいかねない。

 その前に縛っている霊魂を解放する。


「慰霊碑に飾ってある花って確か、アンタが迷宮内でモンスター手引きするために引き抜いてた『魔を嫌う聖なる花(メシア・フローレス)』だよな?」

「い、嫌な言い方するな、お前……そうだぜ。それからもう一つの花は『願う星花(ブルーディザイア)』っていう品種の花だ」


 星に願う花、それは希少な花であり、この追悼式にはピッタリのものだ。

 この世界特有の品種で、その花は淡い青色をした星型をしていて、白百合によく似た形の花なのだが、花言葉は『輪廻』『願い』『祈り』といった人の死の際に用いられる願いの花だ。

 輪廻転生、次の人生は今よりも良いものでありますように、と願って花を添えるのだとか。

 しかし希少故に、添えられる人間には限りがある。

 今回は花束となって五十人の手に行き渡り、それが台座に添えられるようだ。


「全部、終わったんだな……」


 感慨に耽るダイガルトを横目に、俺も冒険者達を俯瞰しながら振り返る。

 長い長い一ヶ月間の出来事、ダンジョンに潜って、発見があって、そして出会いと別れがあった。


(濃い一ヶ月間だったなぁ)


 思えば、グラットポートでリノから冒険者失踪事件について初めて聞いた時から、こうなる事が運命付けられていたのかもしれない。

 神の悪戯、か。

 充足感のある毎日を過ごせたが、それでも心に蟠りが残っている。


「それにしても一日で慰霊碑を作っちまうとは、お前の職業って本当に何でもできるんだな」

「まぁな」


 フランシスに頼まれて錬成を駆使、そして綺麗な半透明の慰霊碑が完成した。

 それが一週間前の宴会翌日に完成したものだ。

 当初は俺無しでの慰霊碑設立のはずだったために、本当なら追悼式は数ヶ月後となっていたはずなのだが、吸収した霊魂を解放するために協力したのだ。

 こちらも後腐れ無くフラバルドを出て行きたいからな。


「立派な慰霊碑だ……あれって何の素材でできてんだ?」

「墓石と同じ素材だ。霊界石は本来半透明だが、多重構造によって透明には見えないんだ。それを薄くしたから、あんな色になってんだよ」

「へぇ、博識だな」

「それくらい常識だ」


 青黒い綺麗な半透明の材質、東から南の空を通り抜けて西へと沈む太陽の光、それが慰霊碑を透過する事で綺麗な影を生み出す。

 太陽がちょうど真上に来た時、慰霊碑は一番の輝きを見せる。

 物質の屈折率はかなり高い。

 墓石のような塊ではなく、薄い板のような碑石となっているため、光を透過するのだ。


「全員の名前が刻まれてるが、あれは?」

「ギルドカードの名前を特別に開示してもらったんだ。幾つかは隠蔽プロテクト掛けられた状態だったし、冒険者の死亡によって機能しなくなったのが多かったからな」


 だからフランシスに見せてもらい、それを元に名前順で慰霊碑に刻み込んだのだ。

 本名ではないものや、適当に考えられた名前も幾つかあったが、それもそのまま刻んだ。


「冒険者連続失踪事件合計死者数八十七人……霊魂の数は合わないが、行方不明者記録の名前とギルドカードを照らし合わせて、それだけの人数が犠牲になってる事が分かったんだ」


 俺が吸収したのは六十人程度だが、それよりも多くの人が亡くなった。

 霊魂の感情が影を通して伝わってくる。

 だからこそ蟠りがあるのだと俺は知っている。


「だが名前の数、偶数だぞ?」


 慰霊碑に書かれているのは奇数人数ではなく偶数の人数だった、それはフランシスからのお願い、俺はそれを叶えただけ。

 だからこそ十人ずつ縦に綺麗に名前が並んでいる。

 九十人の人間の名前が刻まれており、あれを壊したり傷付けたりできないように錬成してある。


「あぁ、それは――」

「ご主人様」


 説明しようとしたところでユスティが背後から来た。

 ゆったりとした黒いドレスを身に纏い、白い髪がより目立っている。

 喪服も似合うのだが、この世界は黒髪が殆どいないから凄い違和感を感じている。


「どうした?」

「フランシスさんがお呼びです。行きましょう」


 フランシスが呼んでるという事は、段取りの最終確認をしようという思惑なのだろう。

 彼女が先へと行った。

 だから俺は、その後ろ姿を追い掛ける。


「また後でな、おっさん」

「お、おぉ……」


 ダイガルトに別れを告げて、フランシスのところへと向かう。

 主にギルド職員達が働いており、何十人かの冒険者が協力している。

 だからバタバタと忙しない。

 それ等を避けながらフランシスの元へと向かうのだが、途中で見知った顔があった。


「エレン、アンタここで何してんだ?」

「あぁ、レイ少年、君こそ何を?」


 質問を質問で返されてしまった。

 先に聞いたのに……


「フランシスに呼ばれたんだ。段取りの最後に霊魂を解放するから、そのための事だろ」

「成る程、私はギルマスの仕事の手伝いだよ。とは言っても剣しか取り柄の無い私に仕事を振って下さったから、その仕事に勤しんでいるんだよ」


 木箱を積み上げているが、そこには聖なる花が花束となって入っていた。

 ダイガルトが抜いてきたものだけではなく、他国から取り寄せたものもある。

 だが全員が花を運ぶ訳ではなく、一部の人達、特に行方不明とされていた者の知り合い達に限定して花を運んでもらい、そして最後の一人が花に火を点ける。

 だから台座も燃えないものを使用しており、こういった行事は異世界特有なのだとか。


(ま、普通は焼香を上げたりするもんだしな)


 それよりもフランシスがいない。

 一体何処に……


「あぁ、呼び出して済まないねぇ」


 積まれた木箱の裏側で何やら作業していたため、見えなかった。

 ヒョコッと顔を覗かせたフランシスは疲労が蓄積したような面をしていたため、ギルドマスターとしての仕事の多さが窺える。

 事件報告をするために総本山へと召集に応じていたし、今回の追悼式を手配し、冒険者達が本当に行方不明なのかを照合していた。

 眠れていないようだ。

 かなりの疲れが見られる。


「休んだ方が良いんじゃないか?」

「いんや……まだ、ギルマスとしてやる事があるのさね。これもアタイの責任さ」


 息を零すも、辛そうに見えた。

 スタミナポーションを飲んで再びヤル気を取り戻しているが、それは一時的な効果しか無い。


「アンタ、いつか身体壊すぞ?」

「余計なお世話だよ……」


 確かに彼女の言う通り、余計なお世話だったな。

 体調管理を他人に心配される程、耄碌している訳でもないようだ。

 だが、それでも仕事に支障を来たすくらいにまでは消耗しきっている。


(そんなにキツかったのか?)


 一週間、碌に寝てないのだとか。

 フラフラとした足取りで、設置された集会テントに置かれた椅子に座った。


「今日は五十人の参列者が『願う星花(ブルーディザイア)』を献花する。アンタは最後だからヘマすんじゃないよ?」

「しねぇよ」


 この異世界には仏教とかの法要は無く、異世界式となっているのでかなり勝手が違う。

 普通なら焼香上げたり経典読んだり色々するものなのだが、こちらでは霊魂が見えたりするし象徴や文化も違ってくるので、普通ではなく別の方法で追悼式が行われ、その中でも花は重要となる。

 今も台座周りには『魔を嫌う聖なる花(メシア・フローレス)』が大量に飾られており、最後にはあれも燃やさなければならない。

 慰霊碑を囲うように飾られているのだが、あれを燃やさなければならないとは、少し残念だ。


(少し勿体無い気もするが……)


 慰霊碑の周囲に飾られている色取り取りの花々は、とても綺麗だ。

 それを燃やすのだが、燃やすにも作法……いや、炎の種類が関係する。


「最後に蒼炎、だろ?」

「分かってるなら良いさね。丁度松明も――」

「あぁ、松明は必要無い。蒼炎なら俺が出せる」


 掌に蒼白い炎を生み出すと、その炎は風に揺られて火花を散らしていた。

 何故蒼炎で燃やさなければならないのか、そこにもしっかりと理由があるのだそうだ。

 蒼炎は霊魂の見立て、つまり死んだ人達の霊魂に見立てて炎は蒼白いものでなくてはならないらしく、その蒼炎をワザワザ『魔を嫌う聖なる花(メシア・フローレス)』へと焚べる理由は、魔を祓い、傷一つ無く輪廻転生を終えるようにと願ってのものだとか。

 それは、傷の無い清らかな霊魂(フローレス)

 何者にも傷付けられない聖なる花を象徴としているからこそ、追悼式や法要で使われる代表的な花らしい。


「アンタはまるで、霊魂の化身みたいな奴だねぇ」


 そんな風に言われるとは思ってなかった。

 霊魂の化身、俺が霊魂を自在に操れるからそう思われたのか、それとも蒼炎を出せるからなのか……


(清らかな霊魂、本当にそうだろうか?)


 真っさらにするという意味合いでの献花浄火なら正しいのかもしれない。

 事件の発端とも言える『蒼月』の名前もある訳だし、幾つかは俺の影剣に霊魂が吸収されてるし、間違ってはいないと思う。


「嬢ちゃんにも『願う星花(ブルーディザイア)』を献花してもらうからね」

「あ、はい、分かりました」

「え、何でユスティが献花するんだよ?」

「あぁ、ナイラと本人の希望でね、タルトルテを弔ってやりたいってさ」


 ユスティが自ら積極的に行動を起こすなんて、珍しいものだ。

 普段は俺に許可を取ってから行動していたのだが、これも成長と言えるのかもしれない。

 タルトルテとの接触する機会は殆ど無いに等しいものの、偽善者とまで言われた彼女には何か思う事があったらしいので、止めずに参加させる。


「す、済みません、ご主人様」

「いや、ちゃんと弔ってやれ」

「……はい!」


 五十人が花束を添えたところで、俺が蒼炎を花へと点けて燃やしていき、そしてその場で霊魂を解放する。

 最後に司会進行役の一言で、全員が黙祷を捧げる。

 異世界式の追悼では、お悔やみの言葉だとか、式辞は行われない。

 冥福を祈る上で誰かが話すというのは、輪廻転生を邪魔する事に相違無いからだそうだ。

 だから追悼式では基本、進行役以外全員が一言も会話せずに式が行われていく。


(物凄いシュールだが、これがこの世界での常識だもんなぁ……)


 前世では葬儀に参加した事は何回かあった。

 そのどれもが、一言も会話せずに行われる事なんて有り得なかったものだ。

 しかし、静かに進行するのは良い。

 それに進行役も殆ど話す事なんて無いし、聞こえてくるのは息遣いと火の粉が散る音、そして風の音だけだ。


「アタイ等は中央の通路を通って慰霊碑の前にある台座に花束を置いたら、静かに左右の群列の最前列に並ぶんだ。良いかい?」

「それって、どちらでも構わないんですか?」

「多分ユスティは最後から二番目だから、花束置いたら左に行けば良いさね」

「わ、分かりました」


 彼女は最後から二番目、つまり四十九人目であるため、左端に位置して右隣に一つ分だけ空きができる。

 そこには本来俺が入るはずだが、俺には最後の霊魂解放の儀があるため、そこには行かない。


「俺は台座の中央にいれば良いのか?」

「あぁ、ちゃんと炎のコントロールも頼んだよ、レイ」

「任せろ」


 この行事は全員参加が義務付けられているため、俺も参加している。

 それにドルネとタルトルテの二人を看取った人間でもあるため、参加は義務以前に当然なのだ。

 だから最後の役を買って出た。

 人間は嫌いだが、礼節は重んじるつもりだ。

 これはユスティが彼等を弔いたいと思っているからでもある訳で……


(まだ出会って二ヶ月足らずしか経過してないのに、不思議な子だ)


 優しいからこそ彼女の影響を受けているとも言える。

 彼女が俺の闇を祓ってくれるのか、それとも一緒に闇に堕ちるのか、見ものだな。


「それよりレイ、お前さんは良いのかい?」

「良いのか、って何が?」

「呪印だよ。聖水使っても殆ど消えなかったじゃないか。今も痛みが生じてるだろうし、霊魂を解放するなんてできんのかい?」

「できない事は言わねぇよ。俺の事は気にするな、仕事はちゃんとやる」


 フランシスと同じく俺も働き詰めだな。

 超回復があるとは言え、呪印の阻害によって普段よりも弱体化しているために休む必要も出てきたのだが、霊魂を解放するだけの体力はある。

 ただし、霊魂解放のためには右目を開眼する必要があるため、そこが少し気掛かりとなる。


「司会進行役ってフランシスなのか?」

「いんや、リューゼンが務めるさね」

「そうなのか……」


 冒険者達だけでなく、ギルドでも被害が大きかったと言えるために、ギルド職員が挙って参加している。

 まぁ、留守番の人間も配置してきたそうなのだが、まさかリューゼンが司会をするとは思わなかった。


「リューゼンは一応アタイの右腕だからねぇ」

「そうなのか?」

「あぁ、そうさね。役立ってくれてるよ」


 使いっ走りの間違いでは無かろうか?

 ともあれ、後は時間が来るのを待つのみとなった。

 俺達が添える『願う星花(ブルーディザイア)』は、追悼式開始前に手渡されるそうで、事前連絡は済んでいるらしい。

 そしてしばらくして、全員が花束を受け取っていた。

 他の参加者達は中央通路を空けて、左右に並んで立っていた。


「どうしたのよ、レイ?」

「セラ、それにリノか……お前等も献花に参加すんのか?」


 背後を振り向くと、普段目にしない二人の黒いシックなドレス姿が目に映った。

 リノも、セラも、黒いワンピースに黒い髪留めを使っており、何処か落ち着いた感じが滲み出ていた。

 リノは黒いシュシュで髪を結って前へ垂らし、ユスティはコサージュで髪を留め、そしてセラは普段の髪型を黒いリボンで纏めていた。

 これ等は特別にフランシスが支給してくれたものだ。


「えぇ、今回の事件解決の四人って事で、リノと一緒に参加するの」

「そういう事だ。レイ殿は最後の大役があるのだろう?」

「そうだ」


 二人も今回の被害者である。

 リノは殺されかけ、セラは彼女を庇った事で生命力を削った。

 それを自らの手で弔う、これも一つの決着の形だ。


(もう時間か……)


 今日は少し風の強い日であり、慰霊碑に飾られた花々も揺れている。

 しかし空は憎たらしい程に晴れやかで、雲も少ない。

 慰霊碑を見ていると、一羽の白と青の綺麗な鳥が羽休めをしているのか、毛繕いしながら休んでいるのが見え、その鳥と目が合った気がした。


「ご主人様、あの鳥、綺麗ですね」

「あぁ、『オラシオン・ループスカイ』って鳥だな。グラットポートへの道中でも見掛けたが、二度もお目に掛かれるとは運が良いようだ」


 死後の輪廻転生に幸を齎す存在が、静かに俺達を見下ろしていた。

 あれこそが霊魂の化身なのだと思う。

 そしてパタパタとこちらへと飛んできた。

 普段人に懐いたりしない鳥なのだが、何故か俺の頭の上へと留まり、丸くなって寝てしまった。


「「「か、可愛い……」」」


 三人がこちらを見て撫でたそうにしているが、その前に何で俺の頭の上で寝るんだろうか。


「珍しいねぇ、渡り鳥がこんなとこにいるなんて、不思議なもんだ。それに普通人に懐いたりしないんだがねぇ」

「それは俺も同感、理解不能だ」


 霊魂を運ぶ存在が俺の頭で休んでいるが、これをどうすれば良いんだろうか。

 オラシオンは祈りを意味し、白と青い羽毛は霊魂、黄色い嘴は光、緋色の瞳は血、空を駆ける翼は霊魂の導き、それぞれに意味のある強力なモンスターだ。


(Sランク級の強さだったよな、確か……)


 それに不滅の象徴たる不死鳥と同じく、輪廻の象徴たる霊鳥でもある。

 だから死んだとしても生き返る。

 まさに霊魂の化身、非常に綺麗な羽艶をしているし、威圧感というか何というか、物凄い魔力を保有しているのが感じ取れる。


「大量に霊魂を持ってるアンタに惹かれたんじゃないの?」

「まぁ、そうかもしれんが……」


 それでも人に懐くなんて事は事例が無い。

 追悼式に出るつもりなのだろうか、そのために現れた?

 いや、今はそんな事は後回しにしよう。

 流石に頭に乗せたままでは参加できないと思ったため、手を伸ばして退かそうとしたのだが、激しく抵抗してきて両手を思いっきり突つかれる。


「いでっ――ったく何なんだよ、お前……」

『クエッ』


 ここにいるぞ、と威圧してきている。


「このまま参加しなきゃ駄目なのか?」

「駄目だろうねぇ。その鳥は縁起と輪廻の象徴、そのまま連れてくのがベストだろうさね」


 マジか、これじゃあ俺は笑い者だぞ。

 まぁ良い、それよりもサッサと始めようじゃないか。


「そうだねぇ、始めるさね」


 そう言って彼女は椅子から立ち上がり、そのまま司会進行役であるリューゼンへと目配せして、全員の集合、参列を行った。

 そして俺達は並んでいる群衆より後ろで花束を持ってスタンバイする。


『これより、追悼式を行います』


 リューゼンの拡声魔法による発言によって、最初にフランシスが花束を持って中央の通路を歩いていく。

 俺達はその姿を見ながら、備える。

 一人目が花束を置くと、続いて二人目三人目とゆっくりと台の前まで歩いていき、少しずつ蒼白い花束が増えていった。


「……静かね」

「……そうだな」


 セラの呟きに静かに答え、俺達は四十六人の人間達が歩いていく背中を見守る。

 哀愁を漂わせながら、彼等は静かに歩みを進める。

 何も話さず、何も聞かず、この場にいる全員はただ風によって揺れる花々の擦れた音に耳を澄ませ、長い時間黙って見守っていた。


「では、行ってくる」


 そして四十七人目、リノが一歩ずつ通路となる中央の道を進む。

 ドレスの裾が風に靡く。

 そして長い通路を歩き終えた彼女は、そっと花束を置いて冥福を祈り、列に並んだ。


「……」


 そして今度はセラが無言でリノの通った道を歩いていった。

 彼女の尻尾は揺れず、静かに足音だけが木霊する。

 花束を添えて一度慰霊碑を見た彼女は何を思ったのか、憂いた表情を携えて、リノの隣に並んだ。


「では、行ってきます」


 残り二人、先に向かっていったのはユスティだった。

 一歩ずつ踏み締めて、亡くなった者達の痛みを感じながら花束を台座へと添えた。

 そして静かに列へと戻る直前、こちらと目が合い、悲しいような笑顔を浮かべていた。


(さて、行くか……)


 青い鳥が空へと羽ばたいて、俺の頭から離れた。

 そして俺の行く先の慰霊碑へと降り立った。

 ここまで来い、そう言っているような気がして、俺は自然と足が動いた。


(静かだ)


 その道なりには多くの犠牲があった。

 添えられる花束にはそれぞれの願い、そして冥福の想いが込められている。

 カツ、カツ、と足音だけが広がり、長い道を歩き終えて慰霊碑前へと辿り着いた。

 手に持った花束を台座へと置く。

 五十束ある花、そして周囲にある聖なる花を蒼白い炎で燃やしていく。


「『蒼白炎シリウスフレア』」


 俺の添えた花束へと点火すると、すぐに他の花々にも蒼炎が移っていく。

 燃える花の花粉なのか、金色の小さな粒子が熱による上昇気流に乗って空へと舞い上がっていく、とても綺麗な光景へとなった。

 蒼白い炎が慰霊碑を包み込んで一つの巨大な霊魂のような炎を形成している。


「竜煌眼……起動」


 一歩下がった俺は、霊魂解放のための手順を踏んだ。

 右目が紅く染まっていき、熱い感覚が右目に現れる。

 身体に激痛が走るのだが、こんなところで気絶する訳にもいかない。

 右手を前に出して、念じる。


「『悪喰の剣(ソウル・グラトニア)』」


 形を変えていなかったのか、禍々しい意匠や装飾の凝らされた黒い槍が影から出てきた。

 それを手に取ってクルッと上下反転させて、霊魂を解放するために念じながら石突を地面へと着いた。

 そして綺麗な音だけが辺りに響いて、槍が蒼白い輝きを放つ。


「フッ!!」


 その槍から大量の霊魂が螺旋を描きながら空へと放たれていき、青鳥がその周囲を飛んで舞い上がっていく。

 何をするのかと思ったのだが、その青い鳥が螺旋の中へと入っていき、大きく鳴いて翼をただ広げただけだった。

 その行為に何を意味するのかと思っていると、霊魂全てが輝いて分解されていき、その粒子が青い鳥に纏わり付いて遥か空の彼方へと飛んでいく。

 その綺麗な光景は人々を魅了して、その場の時間が止まったような気がした。


『ありがとう』


 時間が止まったような世界で、俺の耳には感謝の言葉が届いた。

 誰の声だったのか、複合的な声をしている。

 周囲を見ても誰もが空を仰いでいるため、俺の聞き間違いだったのかと思った。


『君のお陰で私達は救われた……これで、やっと……』


 幻聴、では無さそうだった。

 声しか聞こえないので誰が何処にいるのかは分からなかったが、恐らく解放された霊魂の意思が混ざり合って脳裏へと直接語り掛けてきているのだろう。

 私達と言っているのと、声が重複しているため、そう思った。

 そして俺が答える前に、その声は完全に聞こえなくなってしまった。


(心の蟠りが消えた……)


 やはり霊魂に込められた意識が俺の精神に作用していたらしく、霊魂を解放した事で靄掛かっていた心に迷いが無くなった。

 全てが抜け落ちていくような、そんな感覚だった。


『全員、黙祷!』


 リューゼンの言葉で意識が黙祷へと向かい、全員が目を閉じて顔を伏せ、冥福を祈った。

 死を悼み、生を慈しみ、俺達は蒼白い霊魂を前にして死んでいった者達へと願う。

 犠牲となった者達の名前は永遠に刻まれたまま、人々の心に残り続け、人は前を向いていく。


「……」


 黙祷開始より五分が経過した。

 黙祷の終わりを告げる合図がリューゼンの口から出たところで目を開ける。

 最初に入ってきたのは、三人の名前だった。

 最後に連ねられた三つの名前にはそれぞれ、ドルネ=ダウナー、シェルーカ=ダウナー、そしてタルトルテ=ダウナー、と刻まれている。

 本当はドルネの苗字も付けようかと思ったのだが、彼の経歴は平民で家名は無かったため、俺が付け足したのだ。

 これが八十七人の奇数人数の記載のはずが、偶数となっていた理由だ。


(安らかに眠れ……)


 幸せを運ぶ青い鳥によって霊魂は導かれた。

 星の空へと消えていく霊魂を追い掛けるように蒼白い炎は揺らめいて、火先が螺旋を駆け上がって登っていく。

 同じように、風が吹いて火の粉が空へ消えていく。

 天の世界に憧れた者達は再び輪廻を繰り返すのだろう、その運命を見届けながら、次第に消えゆく炎を俺達はただ、しばらく見詰めていたのだった。






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