第115話 世界は茜色に染まってゆく
宴の時間までまだ間があるために俺は銃火器、特に拳銃の製作へと入るのだが、そこで一つ問題ががあった。
それが銃弾だ。
俺が製作するのは、錬成弾、絶影弾、精霊弾の三種類の弾丸を使い分けれるようにする自動式拳銃なのだが、残念ながら脳裏に詰め切れてない。
(う〜ん、どう造ろうか)
設計図を紙に書き上げてみたので、後は設計図通りに組み立てるのみとなってはいるが……
しかし肝心の銃弾を変えるための機工、それから弾倉、ライフリングの外側に仕込むための電磁加速回路、他にも普通の自動式拳銃には無いギミックを仕込む。
代わりに普通の拳銃に必要なギミックを取り外していき、外見が普通のオートマチックに似ているものを錬成で組み立てていく。
(だが、これだけだと魔力弾のみしか撃てないな)
空薬莢とかは出ないので、そういった機工も取り付けていない。
かなりシンプルな拳銃となった。
そこから改良に改良を重ねていく。
どうすべきなのか考える必要はあるが、瞬間錬成を付与できれば……
(セラに頼んでみるか?)
いや、職業の能力を付与できる奴なんていないだろう。
俺の場合、この錬成は基本的なものだが付与する事ができないため、どうするべきなのかと思っていると一つの考えが浮かんだ。
「『因果錬成』」
弾倉部分では基本的な魔力の自動弾丸形成を行い、常にフルセット状態にするように錬成、更に磁力も常に含ませておくよう因果に付与する。
応用のせいでかなり変則的なものだが、何とかなった。
つまり常備しているだけでも、勝手に魔力が減っていくようになった上、魔力弾に磁力を帯びるようになっていたのだ。
ある程度は威力が出る。
これはこれで良いが、それだと他の弾丸を作れない。
いや、魔力弾に精霊術や影を混ぜ込んでやれば使えるだろうと考えた。
(魔力弾に因果錬成の能力を組み込めば……)
撃ちたいところだが、射撃訓練場とか無いからこそ先にホルスターを創る。
革となる素材はどうしようか。
影の中にある適当な素材でもと思って探ってみると、魔境に捨て……いや、置いてあった一つの素材を見つけた。
「あぁ、暗黒龍の鱗か。これ使うか」
鍛冶師のように鎚を打つ必要は無いため、イメージ通りに錬成を加えていく。
「『錬成』」
拳銃に合うようにホルスターを作り、それをアイテムポーチのベルトに付けて装着してみる。
位置はベルトのバックルを弄れば調節可能なので、後は銃が作動するかだが、試し撃ちする訳にはいかない。
下手すれば、昨日のうちに借りていた宿の個室が大破、木っ端微塵になってしまうかもしれない。
試し撃ちはまたダンジョンに潜ってから、と思ったのだが先に試し撃ちしとかないと俺が困るし、どうするかと考えた結果、壁に影魔法を張り巡らせて的とする。
「さて、どうなるか……」
引き金を引き、一発の弾丸を撃ってみる。
蒼白い弾丸が目で追えない程のスピードで壁に着弾、影が波紋を広げ、威力は魔力を込めた分だけ強くなるのだと即座に理解し、次は弾倉一番上の一発に大量に注入してみた。
もし魔法が使えていたら、そこに魔法を付与できたのだろうが、俺は影魔法以外の魔法が使えない。
だから作れるのは絶影弾ただ一つのみ、遠隔操作のために遠くへと撃ったりならできそうだ。
(威力は問題無し、弾速も、それから射撃精度も申し分無いな。後は……)
身体から電撃を生み出していき、それを拳銃へと流す。
電撃を流し込んでいき、内部でコイルガンのように電磁力を発生させて、帯びた磁力と反発させて弾速を上昇させていく。
弾丸に磁力を仕込んだ理由はこれだ。
そして電磁加速回路が働いている事を確認した俺は、影に向かって撃ち込むと影が完全に消滅する程の威力が出たために、その威力と弾速、射出精度に満足した。
(よし、これで動かずとも戦える)
完成品の銃をホルスターへと仕舞う。
魔法銃ならぬ『錬成銃』だが、この武器は世界で一つしかないものだ。
これで戦闘の幅が広がった。
後もう一丁制作しようと意気込んだところで、集中の糸が途切れた。
『ご主人様〜、入りますよ〜?』
ドアのノックによって、俺は意識を外へと向けた。
窓の外を見ると、青かったはずの空が綺麗な茜色に染まっており、雲が明るい色に塗り尽くされていた。
「ご主人様、そろそ――何をされてたのです?」
「魔導具製作をちょっとな」
テーブルに散らばった工具類やネジ等の部品、作りかけの電磁加速回路、錬成銃の設計図、全てを一つの箱に纏めて影へと仕舞う。
一つの事に没頭すると、何時間も同じ作業をしてしまう。
俺の悪い癖、それを矯正しようにもできないからこそ困ってしまう。
「それより、何か用か?」
「何か用って……ご主人様、宴の事忘れてませんか?」
「……あ、やっべ」
魔導具造りに没頭してたせいだ、そのせいで集合時間六時前となっていた事に気付かなかった。
ユスティが呼びに来なければ、俺はずっと部屋に閉じ籠っていたであろう、ユスティ以外の二人が見当たらないために彼女へと目を向けると笑顔で教えてくれた。
「お二人は先にギルドホームに行きましたよ。特にセラさんがご飯だお酒だと言ってワクワクしてましたね」
「そ、そうか……」
宴の飯や酒に釣られたか。
「分かった。じゃあ、行くか」
「はい」
荷物は全て影に入れてあるため、後は外に出てギルドへと向かう。
宴をする事になるとは思ってなかったし、グラットポートでは宴なんてものをする前に次の都市フラバルドへと来てしまった。
だから実際には事件後の祝い、みたいなのは今回が初めてかもしれない。
(改めて振り返ると、今まで国の祭りとかには殆ど参加した事が無かったな)
つまらない人生を送ってきたために、祭りに関する出店についてとか、楽しみ方とか、そういったものは何一つ分からない。
宴も俺は参加せずに一人で過ごす事が多かった。
一歩でも、少しずつでも仲間のためになるならと、そう思って勉学に励んできたものだが、騙されていたのだから結局は無駄となった。
「楽しみですね、ご主人様!」
「……そうなのか?」
ユスティ済まん、俺的には何が楽しみなのか全く分からない。
今回はただ飯食って酒飲むだけだよな?
前は、トランプで賭け事したり、酔っ払いが騒いで腕相撲大会になったり、或いは喧嘩に発展したり、そんな宴を外から見ていた事しか無かったな。
(思い出すのは止めよう)
自分が惨めになるだけだ。
それに今は身体の呪詛解析を並列で行なっているので、宴会どころではない。
身体の外側に呪詛があればまだ抽出で治せたのだが、身体の内部にまで侵蝕している呪詛に関しては取り除く事はできない。
しかも、心臓部にまで到達してる。
これは流石に除去できないし、聖水を使っても焼け石に水だったのは、ぶっ掛けたところで内部まで浸透しないからだ。
(俺が目を覚ます前に使ったようだしなぁ……)
聖水を飲んだところで、大して変わらない。
しかし身体に振り掛けるよりは効果は保証される。
「ご主人様」
「あぁ、分かってるよ」
誰かに尾行されているが、俺達は気取られないように歩き続ける。
向こうに声は聞こえてないだろうが、極力話はしない方が良いだろうな。
『ユスティ、聞こえるか?』
『ご主人様!? こ、これは……』
『精神通信、念話の一種だな。俺達は奴隷紋で繋がれてるから可能とは思ってたが、ぶっつけ本番で何とかできたようだ』
右手の甲には精霊紋があるのに対して奴隷紋に対を成す主人の紋章とかは無いが、それは俺の血液と魔力が媒体となっているため、俺の身体そのものが紋章の効果を発揮しているからである。
つまり俺の身体と彼女の奴隷紋を繋ぐ魔力を感じて念を送ればと思い、試してみたら何とかできた。
まぁ、ステラを介して話す事もできるが、なるべく手の内は見せないようにする。
『それで、尾行してる人は誰なのですか?』
『多分、ギルド職員だろうな』
すっかり忘れてたが病室の上で待っていた男、ソイツが追い掛けてきている。
しかも気配を消している。
だが、俺の使っている『衛星探査』は基本は電波を探知するのだが、魔力や熱源、空気の流れ、生体反応、といった人間の発する様々なものを感知できる。
『ギルド職員が、ですか……ご主人様、一体何やらかしたのですか?』
『いや別に俺が何かした訳じゃないんだが』
ユスティは俺をどう思ってるのやら。
治療院を後にした時から追い掛けてきているのだが、他にも三人隠れて追ってきている。
つまり計四人、ギルド職員ではないようだが、この反応からすると、一人は腕を治してもらおうと俺を追い掛けてるようだ。
後の三人のうち二人は、一緒に行動している。
その二人が一番静かに移動しているし、気配も周囲に溶け込ませている。
(エルフか……こんな街中でも人に気配を感知させないとは流石だな)
俺には無意味だが、探知能力に関しては伝えてないので俺に気付かれずに尾行できてると思ってるのだろう。
いや、俺の蘇生能力も知らないはずだ。
顔合わせの時、俺は自分の能力を説明する前に因果錬成で記憶に干渉して数日で忘れるようにしたから、顔合わせの時にいた奴等は全員、俺の能力を忘れている。
バレたところで、錬金術師という能力が揶揄されている現在なら、どうせ広まらない。
『ギルド職員の他に三人いる。一人は獣人、残りの二人はエルフだ。しかも顔合わせの時にいた三人だ』
『それって……プルミットさんとユーミットさんですか?』
『あぁ、後はオリーヴだろう。ヴァンクスが片腕失ったから治してもらおうと思ってんじゃないのか?』
どうしてそう思ったのかは知らないが、蘇生能力を持っている事自体は広まってるだろう。
向こうが忘れてるのは蘇生能力の条件だ。
蘇生に関してはメイルガストを蘇生した事で広まってしまったので、俺の能力は殆ど広まってないはず。
それとドルネを追い詰める時、地上の犯人に連絡できないように因果錬成で通信を遮断したのだが、念の為の妨害措置も結局は無駄、犯人同士で協力し合ってると思っていたが、違った。
ドルネを殺すつもりでタルトルテは呪詛を付与していたのだから、仲間に通信すると思って妨害した俺の考えは外れた訳だ。
(もう一度因果錬成で忘れてもらうか?)
催眠術師に似た事はできるが、俺が麻薬売買人と思われたら面倒だしな。
ってか、麻薬をフランシスに渡すの忘れてた。
『どうなさいますか?』
『別に……放っておけ。もし攻撃的な反応が見られたら反撃を許可する』
『畏まりました』
まぁ、敵意は感じられないので相手が襲ってくる事は無いだろうが、用心するに越した事はない。
それに少し離れているために、この距離なら魔法以外で攻撃される事は無いはずだ。
弓でも距離があるお陰で、不意の一撃にはならない。
このままギルドまで行っても良いが、できるならギルド職員の方は対処……いや、排除したい。
俺達は路地裏へと歩いていき、屋根を見上げた。
「おい! そこにいんのは分かってんだ! 出てこいルドルフの使者よ!!」
見ているのは分かっているため、呼び出した。
そして仮面を被ってローブを身に纏っている男が目の前に現れた。
「何故お気付きに?」
それに素直に答えるつもりは無かったので、その質問を無視してこっちから質問する。
「俺に何の用だ?」
「そんなに敵意を剥き出しにされても困りますが……前に仲間が貴方にお渡しした封書をお読みになりましたか?」
前に渡された封書と言うと、多分ディファーナで窓から入ってきた奴から受け取ったものだな。
読んだと言えば読んだ、だが興味無くて影に捨てた。
今も持ってはいるが証拠品としてであり、もしミルシュヴァーナに行った時に何かしら役立つと考えた。
「読んだが、それがどうした?」
「召集命令が掛かっていたはずですが、どうして従わなかったのでしょうか?」
コイツは何を言ってるのだろうか。
従う必要は無いはずであり、嘘で従わせようとしていたのだから従わないのは当然というものだが、本当は従うのが面倒だったのが一番の理由だ。
しかし、それを伝えるつもりは無い。
「逆に聞くが、何でルドルフに従う必要があるんだ?」
「そ、それは……」
「ギルドの強制召集は七帝に権限は無かったはずだ。それに金で俺を操ろうとする奴を信用する訳ないだろ? もう少し頭使って考えてくれよ」
少し怒りの感情が見られたが、自分を律して感情を整えて話を続ける。
「ならば、どうすれば従ってくださいますか? こちらで用意できるものは何でも用意致しましょう」
「何でも? 例えば?」
食い付いたフリをして、用意してもらえるものを聞いてみた。
ユスティには精神通信で本意を伝えてあるので、驚いた様子は無かった。
「富も、名声も、爵位や領地、女や奴隷だって――」
瞬間、路地裏に殺気が溢れて、ギルド職員の男が口を止めてしまった。
刺すような殺気がユスティから出ている。
何に対して怒っているのかは知らないが、話が進まないから殺気を解いてほしい。
「その腰に巻いた杖のようなものは魔導具ですか……もし私達に従えば最高級の魔導具もご用意しますよ?」
杖とは恐らく錬成銃の事だろうが、この世界に銃火器のような構造を持つものは無い。
魔法の方が便利だからな、普通は。
しかし俺の錬成銃は使い方次第で、より多くの事ができるだろう。
「別に欲しい魔導具は無い。自分で創れる」
「ほう、では貴方は魔工学師ですか?」
魔工学師は俺の本職ではない。
機械仕掛けの武器や防具、道具類を作れる職業だが、魔法の力を組み込んだ特殊な武器故に世界にはその職業の強者も存在しているのだとか。
「アンタ等が俺の欲しい物を用意できるとは思えないな」
「いえいえ、仰ってくださればご用意致しますよ?」
「何でも?」
「えぇ、何でも」
ならば、一つ試してみよう。
「じゃあ、ルドルフの首を俺の元に持ってこいよ」
俺はルドルフのような奴等は嫌いだ。
金をやるから来い、そんな第一印象最悪の相手に従う訳がない。
そもそも奴自らが来るのではなく、使者を寄越してきたため、信用以前の問題だ。
「何でも用意してくれんだろ? ルドルフ程度の首一つで俺が従ってやろうってんだ。簡単だよな、ただ剣で首を撥ねるだけだもんなぁ」
ギロチンや拷問道具、魔法でも簡単に吹き飛ばせる。
だが、それを実行する人間が脆弱ならば不可能であるのは俺も分かっている。
それにルドルフの首を狩ったら、そもそもの話が破綻するので絶対に用意できない。
「それとも……さっきテメェの口から出た言葉は嘘だったのか?」
「ッ!?」
つまり何を意味するのかと言うと、死ぬか身を引くか二択を選べ、という事だ。
それを理解したからこそ、相手がワナワナと震え上がっていた。
『ご主人様、流石に相手の方が可哀想ですよ』
『俺を利用しようとしてる奴等だ。構わんだろう』
『そ、そうですか』
だが何故か俺へと攻撃してこない。
つまり警戒しているという事であり、俺を少なからず知っているようだと認識を改める。
何処まで知ってるのやら、捕縛して記憶を読み取るべきなのだが、約束の六時までは後十分を切った。
『このギルド職員を言い訳にして、宴会ばっくれるか?』
『駄目ですよ』
ワチャワチャ騒ぐよりも、何処かで星を眺めている方が気楽だ。
だがしかし、ユスティからは逃れられないようだ。
今も俺の袖を摘んでいるし、笑顔に少し陰りが見えているので止めてもらいたい、夢に出てきそうだから。
「まぁ今のは冗談だが……残念ながら俺には物欲が殆ど無くてね、仮にあったとしても欲しい物は自分の力で手に入れられるんだ」
「でしたら、どうすれば従ってくれるのでしょうか?」
どうすればと言われても従うつもりは無いのだが、向こうは俺に何かしらの利益があれば従ってくれるものだと思い込んでいるらしい。
大抵の人間には、そういった欲求があるが俺は違う。
俺は自由が欲しいだけ。
その自由を奪うなら、ギルド職員であろうが七帝であろうが関係無く首を……
「謝礼の品で満足していただけないのならば、もう取れる手は一つしかありませんよ?」
十人以上の人間が探知範囲内に現れた。
それは悪手だぞ、とは言わずに俺は聞き返す。
「それは警告のつもりか?」
「いえいえ、滅相もない。ただ、一つしか取れる手段は無いと仰っただけです」
そして男は指を鳴らす。
魔力で音を増幅させた事で、路地裏全体にパチンッと音が響き渡った。
そして十五人の人間、それもローブと仮面で容姿を隠した物騒なギルド職員の仲間が降りてきて、俺達を取り囲んでいた。
これはどういうつもりか、なんて聞きはしない。
すでに俺達は理解している。
「かなり強引な手段に出たようだな」
「えぇ、貴方がルドルフ様に重傷を負わせた張本人だと知った時から、こうするつもりでしたから」
成る程、あのギルド職員に仕込んだ爆弾が作動して重傷を負った訳か。
喋ったんだな、予想してたけど。
自爆覚悟で話そうとしたのだろうが、それだと辻褄が合わない。
(話そうとした瞬間に爆発するように電気信号を整えたはずだが……)
だとしたらどうやって俺の事を知ったのか、ここで一つの結論が出た。
あの野郎、やっぱり情報流してやがったか。
最初っから可能性の一つとして捉えていた事が、今ようやく明らかになった。
「ダンジョンで、奴から俺の能力について聞いたのか?」
「……どうやら見くびっていたようですね」
鎌を掛けただけのつもりだったのだが、本当らしい。
面倒だが、相手を殺すしか道は残されていないようで、俺はお試しとして錬成銃を使ってみようと考えた。
「で、その人数で俺に勝てると?」
「私達を舐めないでもらいたい」
敵意を剥き出しにして、威嚇してくる。
遠くから三人が俺達の戦闘を覗いているのだが、そちらに関しては無視しておこう。
あまり手の内を見せるつもりは無いのだが、飛んで跳ねての戦闘は今はあまり好まない。
「そうか。じゃあ、遠慮は不必要だな」
「ソイツを捕らえろ!!」
仮面の男の合図で一斉に俺の元へと向かってくる。
それに対して、俺はただ狙いを定めて引き金を引くだけである。
電撃を流し込み、銃口から一つの弾丸が肉眼では追えない程のスピードで射出され、一番近かった男の身体へと着弾する。
そして、その男の身体に巨大な穴を空けて地面へと倒れてしまった。
「……は?」
威力が高いのは分かったが、これは使い方を改める必要があるな。
魔力を込めすぎたようだ。
だが、まぁ相手も死んだので躊躇してくれたらしい。
「引き下がるなら、これ以上は攻撃しない事を約束してやるよ。だが、もし次に一人でも攻撃してくるなら……全員排除する」
「グッ……撤退だ!!」
正面からでは無理だと悟ったらしい男が、撤退を宣言して全員が帰ろうとする。
そして死体へと近付いていた男に銃口を向けて威嚇射撃に一発ぶち込んだ。
「な、何を――」
「その死体は置いてけ」
生き返らせて情報を有りったけ引き出してやる。
そうでなければ一人殺した意味も無くなってしまう。
さっきの威力に恐れを成した男は死体の回収を諦めて、そのまま何処かへと姿を消した。
「ご主人様、逃がして良かったのですか?」
「大丈夫だ。その死骸がある」
男を凍らせてから影へと仕舞い、後で解凍、修復、そして記憶抽出を行う。
そのための素材なのだ。
それに俺を殺そうと漏らしていた殺気から、死ぬ覚悟や拷問を受ける覚悟くらいはしているだろうし、実験材料にもできる。
(死骸が手に入ったな……嬉しい誤算だ)
銃の威力確認もできたし、これで奴等がどう動くか見ものだ。
それに他の奴等の牽制になったりルドルフ勢に対して有利に立てるかもしれないが、まぁ後で、死骸をそのまま丸っと生かし送り返そう。
勿論、爆弾付きでだ。
「さて……三人共良い加減出てきたらどうだ〜?」
入れ違いに屋根の上から現れたのは、俺の予想した三人だった。
エルフのプルミットとユーミット、そして金狐族のオリーヴ、三人の要件が何かは分からないが、敵意を感じられないために呼んだ。
「何故分かったのかしら?」
「それより要件を聞こう。何のために俺を尾けた?」
「尾行の方法を教えてくれたら答えてあげるわ」
無視しようとしたが、一瞬で切り返してきた。
どうやら俺が無視するのだと分かっていたらしい。
「視線で分かったんだよ。そういうのには敏感なんだ」
無表情を貼り付けたまま、俺は嘘ではないギリギリの真実を伝える。
視線に敏感なのは本当だ。
だが今回は感じた視線、それから錬金術としての能力を駆使した。
「で、俺を尾けてた理由は?」
「わ、ワタクシから宜しいかしら?」
誰からでも良かったが、エルフの二人よりも先に聞いといた方が良いと判断して頷いた。
理由は彼女のお願いが俺の予想した通りだと思ったからである。
そしてエルフ達については俺に関する謎がある。
フェスティーニとか言うゴッドエルフが錬金術師の現れる時期を予知していたために、それが気になっているためにメインディッシュは最後に取っておく。
と、急に彼女が土下座を始めた。
「お願いしますわ!! ヴァンクスの……ワタクシ達の団長の腕を治していただけませんか!?」
「えっと……どういう事だ?」
「ダイガルトさんは失った腕が元通りになっていました。それは貴方が治したのでしょう? 蘇生能力があるなら修復能力があると考えたんですの」
理屈としては正しいかもしれないが、多分ヴァンクスのプライドが許さないと思う。
「それ、ヴァンクスに言ったのか?」
「い、いえ……」
なら駄目じゃないだろうか。
それに腕の治療ではヴァンクス自身に金額を提示するつもりなので、彼女に頼まれてもどうこう言えないのだ。
「確かに俺の能力なら腕を生やす事も可能だが、後はヴァンクス次第だ。因みにダイガルトからは二千万貰って腕を生やしてやった」
「「「に、二千万……」」」
三人が愕然とした顔で俺を見てくる。
「ダイガルトは自分で価値を決めたが、ヴァンクスにも同じ事をしてもらう」
「つまり……どういう事なの?」
「自分の腕の値段をヴァンクスに付けさせる。俺は値段を決めない。それでダイガルトは自分の右腕に二千万の価値を付けたんだよ」
これは自分で自分の値段を付けさせるもの、それは自分で価値を決めてしまうというものだ。
ある意味残酷ではあるが、別に一円でも数億でも金額は自由だ。
自分で値段を付けるのが面倒なので、この方式を取っているのだが、まさかダイガルトが二千万を出すとは最初は思ってなかった。
今回は幾ら払うのか、それとも払わないのかはヴァンクスに任せる。
「で、エルフ二人は?」
「貴方の次の行き先を教えなさい」
「……何で?」
「何でもよ」
何の用なのかと思ったら、次の行き先について聞かれてしまった。
だが、それはどうしてなのかが分からずに首を傾げてしまう。
「何、付いてくる気なのか?」
「いえ、私達は宴会が終わったらエルシードに帰るわ。その前に聞いておこうと思ったのよ」
何のために聞いてくるのだろうか。
知りたい、それだけのために聞いてくるものではないだろう。
何か意図しての事だ。
だが、何のために行き先を聞いてくるのか、疑わしすぎるだろ。
「サンディオット諸島ですよ」
「ちょっ――」
「へぇ……」
思わぬところでユスティからの暴露があって、行き先がバレた。
まぁ、口止めとかもしてないし別に言った事を咎めるつもりは無いのだが、目的を聞いておかなければ、敵になるのかならないのか、こちらに害が及ぶのかが確認できない。
「何のために聞いてきたんだ、お前等?」
「言えな――」
「お姉様がもし君に会ったら行き先聞いてきてねって言ってたからだよ」
こ、コイツ等、口が軽すぎやしないか……
いやいや、それよりも何で俺の旅先を教えてくれ、と言うのだろうか?
ユーミットの言葉にした『お姉様』ってフェスティーニとやらだろうが、何故彼女が俺の事を知りたがっているのかが謎として胸に燻る。
何が目的なのかを知れたら良いのだが、教えてはくれないだろうな。
「まぁ良いか、いつまでもこんなとこにいられないし、お前等もギルマスに呼ばれてんだろ?」
「え、えぇ……」
「目的もハッキリしたし、これ以上の会話は無駄だろう、このくらいでお開きにするか」
これ以上聞いても意味は無さそうだ。
これは俺の直感であり、セラがここにいたらもう少しスムーズに事を運べただろう。
無い物強請りは止めて、サッサと路地裏を出る。
今回の事を頭の片隅にでも置いておき、今抱えている問題については後にしようと決める。
(もう時間だしな)
残りの十分を使い果たしたようで、六時を過ぎていた。
そのため、少し小走りになった。
夕焼けの世界を俺達は駆け抜ける。
さて、サッサと宴会場に行って美味い飯でも食わせてもらおう。
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