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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
112/276

第106話 答え合わせ1

 セラとダイガルトのいる場所までやってきた。

 そこには息絶え絶えのダイガルトと、同じく息切れを起こしているセラの二人が座り込んでいた。

 バジリスクの死骸はそのまま残されており、勝利したのは見れば分かる。


「大丈夫か?」

「あぁ……流石にバジリスクと戦うのは厳しかったが、何とか勝てたぜ」


 巨体が横たわっているのを見れば、どうやって倒したのかは分かるというものだ。

 セラの打撃攻撃は効かなかったらしく、ダイガルトの支援に徹したようだ。

 それだけ表皮が硬かった事を意味しているのだが、内部にまで攻撃を届かせれたらセラにも勝機はあっただろう、悔しそうにしている。


「セラ」

「な、何よ……」


 噛まれたりして毒を貰ったようだが、しっかり解毒できているため、こちらから治療を施す必要は無いようだ。


「いや、良くやった」


 頭を軽く撫でて、俺はバジリスクへと歩み寄る。

 その身体は鋭利な何かで斬り裂かれた跡が残されているのだが、ダイガルトの短剣に魔法を付与したらしい。

 俺はバジリスクの肉を見て、死後何日経過したのかを確認しておく。


(成る程、かなり前から使ってた駒か……すでに半年以上も腐敗してやがる)


 死霊術師の能力は、死霊を操った時点で腐敗速度は完全に停止するものであるため、かなり前から準備してたようだな。

 ダイガルトが犯人に『蒼月』との関係性を問うていたから、もしやと思ったのだが、やはり何か因縁があったのだろう。

 その死骸が溶けていく。

 動かなくなった骸が限界を超え、腐敗臭が周囲へと漂い始める。


(バジリスクを倒すとは、流石はSランクだな)


 強さだけは認めている。

 実力はあるのだが、裏切り者の可能性をまだ秘めているためにダイガルトを警戒する。


「それで、何でレイがここに?」

「テメェ等が密会紛いな事するから、陰で覗かせてもらったよ。だから――」

「おわっ!?」


 俺はダイガルトの胸倉を掴み、奴の赤い瞳を凝視し、威圧する。

 聞きたい事ができたから、こうしてやってきた。


「お前……時代の変革を見たい、そう言ってたな」

「……聞かれちゃってたのかぁ。あぁ、そうだ、俺ちゃんはお前さんが創る新しい時代を見たいのさ」


 その新しい時代というのが何を示すのかがまるで分からないため、俺は奴に直接聞く事にする。

 相手を覗くよりも、こっちの方がやりやすい。

 後、もしも相手に口を割らせるとしたら、尋問や拷問、そんなところか。

 拷問の方法なんざ幾らでもあるため、圧倒的有利な状況に立つ事はできるのだが、機材や自白材といった道具類を使う必要は無い。

 錬成さえあれば相手の身体を自在に変化させられるので、揃える必要は皆無なのだ。


(一応、薬草鞄の他に拷問用の鞄もあるにはあるが……)


 ダイガルトに対して使う気にはならない。

 コイツはまだグレーゾーンにいる、そんな奴を拷問したとギルドが知れば処罰は免れない。

 ま、バレても良いか。

 そんな事よりも大事なのが今後の奴の行動であり、それ次第では俺は鬼にでも悪魔にでもなる、俺の邪魔をするならばと、常に覚悟を決めている。


「俺に何させるつもりだ?」

「グッ――」


 もしもダイガルトが共犯だったとしたら、俺を誘い込んで犯人に俺の力を見せる事ができたろうし、彼の行動には幾つもの不審な点があるのだ。

 コイツが俺をどうこうできる立場ではないのは自分でも分かってはいる。

 しかしグラットポートでは教会にいた神官の女(メリッサ)、黒龍協会の一人が俺に対して異常な執着を見せていたので、もしかしたらと考えてしまう。


「いや、今はアンタより犯人の特定が先だな」

「はぁ……なら、俺ちゃんが教えてやろうか?」

「必要無い。犯人が誰なのかも、冒険者失踪事件の謎も、ほぼ全部解けた」


 後は俺の推測でしかないが、犯人が奴ならば凶器の隠し場所、それからアイテムポーチに関する謎も、一気に解決するだろう。

 まぁ、これ以上は推測の域を出ないものなので、推理のしようが無いが。


「相変わらずスゲェな、お前」


 そう称賛されるが、あまり嬉しくない。

 探偵役になるつもりなんて無かったのだから。

 いや、探偵ならもっと簡単に素早く解けたのだろうが、俺は一般人レベルの頭脳しかないので、探偵ではないな。


「もしも奴が犯人なら全てに一通りの説明が付くが、犯行に至った『動機』が謎のままだ。それで一つ確認しときたい事があったんだけど……おっさん、何で『蒼月』との関係性を指摘したんだ?」

「まぁそうだなぁ……最初に起こった集団失踪の被害者がソイツ等だったからなぁ」


 嘘は吐いてないが、何かを隠すような表情をしている。

 どうやら動機についてはある程度予測できているようなのだが、何故か俺に教えてはくれない。

 最初の被害者だから、という理由だけであの質問をするのは可笑しい。


「お前、何を知ってやがる?」

「さぁ、何を知ってんだろうなぁ?」


 はぐらかすとこを見ると、共犯者ではないにしても関係者ではありそうだ。

 これ以上は聞けない。

 どうせ黙秘するか誤魔化すかして、真面に話そうとはしないだろう。


「まぁ良いや、どうせアンタの事だ、煙に巻くだけだろうし論争しても意味無いのは今ので分かった」

「ハハッ、なら犯人当てゲームを終わらせよう」


 何がゲームだ、これはゲームのように生易しいものではない。

 これはリアル、現実で起こっている事だ。

 ガルクブールでも、グラットポートでも、そしてフラバルドでも多くの人が犠牲になった。

 ゲームのようにリセットはできない。

 俺達は時の流れに逆らう事ができないからこそ、先へと進むしかない。


「ねぇ、それより気になってたんだけど……」

「何かあったか?」

「いえ、何かあった訳じゃないんだけど、ね」


 こちらをチラチラと見てくるので、何か伝えたい事でもあるのかもしれないと思った。

 そしてセラが指差して質問を繰り出してくる。


「その耳と尻尾、どうしたのよ? 変身したのよね?」


 変身ではなく、変化なのだが……いや、言葉を変えたところで内容は一緒だな。

 意味なんて大して変わらない。


「触りたいなぁ……駄目?」

「駄目だ。触りたそうにするな」


 上目遣いで頼み込んでくるのだが、触らせたりしない。

 胸元に触れて、錬成を発動させて人族の姿へと戻った。

 ユスティとセラが明らかに落ち込んでいたのだが、見ない事にしよう。


「で、これからどうすんの?」


 ダイガルトがこちらを見てくるが、どうするのかは考えていない。

 いや、犯人を指名する。

 ただそれだけだが、もしも間違えていたとしたら?

 そう考えると俺は……


「とにかく戻ろう」


 いや、俺の仮説は合っているはずだ。

 そう信じるしかない。

 探偵になれないからと言っても、俺にはまだできる事がある、そう信じて次の旅へと進むのだ。

 建物へと戻ろうとしている時、不意に魔力反応を感じたので、ポケットからギルドカードを取り出して、通信機能をオンにした。


「フランシスか、どうした?」

『今ちょっと良いかい?』

「あぁ、問題無い」


 通話相手はギルドマスターのフランシスだった。

 彼女から通信が来たという事は、魔石についての解析が終わったという事だ。


「で、何か分かったのか?」

『お前さんの睨んだ通り、魔石に組み込まれてた呪術には幾つかの効果があったんだよ』


 ネロに魔石を渡してもらい、その後にギルドカードで通信していたのだ。

 解析が終わったら教えてくれ、と。


「で、その効果は?」

『フレアレオの魔石には、人を襲う命令、それから死んだ場合に即座に死霊術師と繋がれるようにパスが築かれてたのさね』

「つまりネロを襲って、もし死んだら死霊術師が操る、って事なのか?」

『いや、死霊術に関しては自動操作だったようだ。それから呪術を自在に操る力も持ってるようだったねぇ』


 呪術を自在に操る能力を持っていたとしたら、探知や肉体強化くらいできそうだ。

 それにネロのギルドカードに呪術が仕込まれているとしたら、彼女を追い掛ける事ができたはずだ。


『それからもう一つだけ、無理に呪詛を剥がすと爆発するようだよ。気を付けな』


 それについては、手を出すつもりは無いので無視しても良いか。

 対処法とかもまだ分かってなさそうだし。


「……」

『まだ救助に少し時間が掛かるが、大丈夫なのかい?』

「ん? あぁ、問題無い」


 取り敢えず邪魔されないように嘘を吐いておく。

 これから俺達はこの失踪事件に区切りを付けるのだ、邪魔されたら面倒だ。

 だから、俺は一つだけ伝えておく。


「まぁ、気長に待つとするさ。助かったよ、じゃな」

『あ、ちょっ、待っ――』


 これである程度は揃ったのではないかと思うが、それでも全部解決したという事でもない。

 だが、後は俺の好きにさせてもらおう。

 今日で七ヶ月間にも渡る冒険者連続失踪事件に、一つの決着がつくのだ。


「さて、やるとするか」


 今日、全てが一変するだろう。

 予測に予測を重ねた推論を犯人へとぶつけて、犯人を捕らえるだけだ。

 そして俺は後腐れ無くここを出て行く。

 だから俺は……犯人を吊し上げる。





 建物の中には、ヴァンクスとミューレスを除いた全員が集まっていた。

 二人は意識不明のままとなってる。

 いや、一度起きたのだが、傷が思ったよりも深かったために再度眠っているのだ。

 ヴァンクスの場合、片腕を失ったショックもある。

 奴は双剣王、両手で剣を振るう事で武技アーツを発動させられるのだが、片腕を失ってしまった事で奴には片腕でしか技を発動する事ができない。

 つまり今現在、奴の力は大幅に下がったのだ。

 片手で双剣王を名乗る事はできないからだ。


「お、生き返ったんだな、チビ助」

「……」


 ダイガルトの軽口に対しても何も言い返さないメイルガストを横目に、全員が集まっている事をしっかりと確認した俺は、心の中で『因果錬成モディファイド』を駆使してから、全員に向けて心にもない謝罪を口にする。


「さて、集まってもらって悪いな」


 さて、何から説明しようか。

 先に犯人を名指しすべきなのか、それとも筋道立てて説明してくべきなのか、どっちが良いのやら。


「本当ですわ。何を始めますの?」

「そうだな。ダンジョン内で起こってる冒険者失踪事件の犯人を特定しようと思う」


 その言葉に全員が驚きを示す。

 それもそうだろう。

 全員ではないのだが、ダイガルトとエレン、それから俺の説明を聞いていた娘三人以外の全員、犯人の特定を始めようとする俺に注目している。

 何故こんなところで、と思うかもしれないが、メイルガストの心臓も刺した犯人を突き止める必要がある。


「今回の連続失踪事件、さっき発生したモンスター大量発生の件、メイルガストと俺の心臓に針を突き立てたのも同じ犯人だ」


 ここからが正念場だ。


「犯人は……この中にいる!!」


 卑劣な犯人がこの顔合わせのメンバーの中にいるのだと、全員の脳裏へと突き付けた。

 一度言ってみたかった言葉でもあるが、巫山戯てる場合ではない。

 さっさと本題に進もう。


「さて、まずは順を追って事件の確認をしようか」


 事の発端は、階層喰い(フロアイーター)が十一月に封印されたところから始まる。

 ダイガルトとエレンを含むパーティーが遭遇、彼等は必死な想いでモンスターから生き延びて、殺せないからと封印措置を取る事にした。

 そこに誘い込んだ冒険者の死骸に関しては犯人が操っていたのか、それとも階層喰い(フロアイーター)の暴走なのかは知らないが、論点はそこではないので、その先の話へと移る。

 事件が発覚したのは、その二ヶ月後の一月上旬、『蒼月』が冒険者失踪事件の最初の被害者となった事件、ここから数々の誘拐事件が勃発する事になる。


「そ、そのような事があったんですの?」

「あぁ、何ならそこに突っ立ってるSランク冒険者二人にでも聞いてみろ」

「……彼の言ってる事は事実だよ。七ヶ月前、階層喰い(フロアイーター)の中に私達は誘い込まれたんだ。中には大量のイワキリトカゲの巣があってね、私は右目を、ダイトは左腕を奪われた」


 エレンが全員に向けて説明する。

 それは苦々しい記憶として刻み込まれているが、それは彼女の顔に書いてある。

 苦虫を噛み潰したような表情で彼女は語る。

 そして右目の眼帯を外して、彼女の溶けた右目を全員に見せる。


「ヒッ――」


 誰かが小さく悲鳴を上げる。

 それが誰のものなのかがハッキリしていたが、エレンはその事に触れず眼帯を掛け直す。

 ダイガルトも左腕を強く掴んでおり、苦しみを堪えるように歯を食い縛っていた。


「話を続けよう。犯人は封印後から事件勃発までの一ヶ月間、つまり十一月から十二月までの間に階層喰い(フロアイーター)を見つけ、そして死霊として操る事になった。顔合わせの時に襲ってきたのがその証拠だ」

「待ってくださいまし! 階層喰い(フロアイーター)はどうやって死んだんですの?」


 その事については推測があるのだが、それを今はまだ説明しないでおく。

 これは推測、彼女達を納得させる事ができない。

 それに今は正直、説明する必要の無い推論でもある。


「まぁ、最後まで話を聞け。基本的に犯人は階層喰い(フロアイーター)を操ってソロ冒険者を狙い喰らっていた。その理由の一つが、冒険者の職業を盗む事にある」

「ぬ、盗む事なんてできるの?」


 ユーミットが怪訝な目で見てくるが、事実だ。


「あぁ、地上でも行方不明者のプロフィールを一通り読んだし、実際に戦ってみて気付いたんだが、喰らった人間の職業には数的制限があった」

「制限?」

「そうだ。一度に使える職業数は五個から六個、多くても七個までが限界のはずだ。最初に会った時は透明化、捕食、掘削、再生、瘴気操作、重力操作、そして身体サイズ変換の能力を持ってたんだが、戦いを進めていくと途中から透明化は使わなくなっていた。何故か、それは透明化を持った冒険者の顔を、正確には霊魂を戦闘中に潰されたからだと俺は思ってる」


 それに、二度目の戦闘で急に植物操作してきたり、急に念力を使ったり、ブレス攻撃を吐いたり、閃光攻撃も使ってたな。

 他にも呪術とは別の特定探知能力や、幻影系か空間系かの能力も持ち合わせていた。


「フランシスに頼んで行方不明者のプロフィールを見せてもらったんだ。それ等の能力は全て、冒険者から奪った職業能力と一致した」


 それはつまり、多彩な能力を持ち合わせていたという事であり、死霊術師の力が本物ならば外に出すと超危険という事でもある。

 しかし、行方不明者リストの中に一枚だけ死霊術師のを紛れ込ませていた。

 それは多分、階層喰い(フロアイーター)が死霊術師を喰って能力を扱えている、と捉える事ができるよう仕向けた犯人の罠だろう。

 最初のダイガルト達の証言では、死んだ冒険者が操られて誘われたとあったため、その証言通りにしようと犯人がプロフィールに死霊術師を紛れ込ませていたのだと思う。

 それのもう一つの意味もあるが……


「各階層で階層喰い(フロアイーター)が暴れていたが、その範囲は四十一階層から五十九階層まで。つまり死霊を操れる範囲は、その階層域までって事さ」


 力を隠している事も考えられたのだが、階層喰い(フロアイーター)の持つ捕食能力で迷宮壁に穴を空けて、迷宮の外枠を移動しているので、実際には誰の目にも触れずに移動が可能となる。

 だから、今言った事には少し矛盾が生じている。

 最初は上層の奴等を喰らって、そこから少しずつ下へと向かっていったのだろう。

 そしてこの階層へと辿り着いて、ここを拠点としているのだ。


「事件が勃発してから五ヶ月過ぎようとしていた頃、俺達がこの階層にやってきた。同時に掃討作戦が決行される事になり、犯人は顔合わせに参加する事にしたんだろう。顔合わせの日が来て、十五人のメンバーが集まった」


 問題はここからとなる。


「まず、メイルガストが全員の名前、それから職業を聞いていた。その時俺はラッキーだと思った」

「それは……何故なの?」

「俺の左目は相手の嘘を見抜ける魔眼でね、そこで全員の名前と職業を見たが、残念ながら全員が正しい名前と職業を名乗っていた」


 ラッキーだと思っていたのに、それは実はアンラッキーだと思い知らされたのだ。


「犯人がこの中にいると思っていた俺は、自分の能力を暴露する上で犯人を釣ろうとした。そして効果はバッチリ表れて、階層喰い(フロアイーター)が大穴から降ってきたんだ」

「待ってくれ、少年。何故犯人がこの中にいると思ったんだい?」

「犯人がこの中にいると思った理由は、俺達の監視や情報収集のため、他には信頼を得ようとしたんじゃないかなって思ったからだ。この中に犯人がいないと思わせる方が今後動きやすいだろうし」


 それか、欲しい職業でも吟味してたのかもしれないな。

 俺の職業は本来狙っていた獲物を捨ててまでして、得たかったものらしい。

 だから突発的な行動だと思った訳だしな。


「信頼?」

「作戦に参加して、自分の手駒を一緒に倒す奴がいると思うか?」

「お、思わないね……成る程、私達の思考を逆手に取ったって訳か」


 まぁ、実際に参加していたのは別の人物だったのだと後程知ったのだが、まぁ後で説明しよう。


「俺達は階層喰い(フロアイーター)と戦った。奴はかなりの粘り強さと技の多彩さで俺達を返り討ちにしようとしてきた。そして逃げ遅れた奴等まで喰らって新しい能力も補填してた」


 その中にいたのが、フラッタと名乗る胡散臭い魔物学者である。

 俺が見聞きした事全てを簡単に伝えてから、フラッタについての説明を開始する。


「まず、俺が怪しいと思ったのは、フラッタという名前が偽名だった事だ。奴は偽名を答えた上で、俺の目を掻い潜るように職業を偽りやがった」

「ど、どうやって偽ったんですの?」

「認識の違いだな。職業って普通は授かったものを連想するだろうけど、フラッタは授かった職業じゃなくて、活動してる魔物学者って答えた。だから反応しなかった」


 そこで、俺は影からボロボロとなったアイテムポーチを取り出した。


「それは?」

「フラッタの付けていたポーチだ。中には、大量の麻薬と職業鑑定書が入っていた」


 それ等を全てテーブルへと置いた。

 赤色の大量の瓶に加えて鑑定書までが揃っていたが、俺はこれが罠なのではないかと睨んでいる。


「フラッタはセラの権能によって悪意を感知され、最後には階層喰い(フロアイーター)に上半身を喰われた。そして昨日、現場を調べていると偶然、この『天の霧(ヘブンズパウダー)』の粉末を発見して、それから瓦礫下でポーチを見つけたんだ」

「……この鑑定書を見ても良いか?」

「あぁ、好きにしろ」


 ダイガルトが鑑定書を手に取って、それを開いた。

 そこには死霊術師のエンブレムが書かれているもので、それを持っていた事がフラッタが犯人だったという何よりの証拠である、そう思った。


「つまり、フラッタって奴が犯人だったのか……いやでも変じゃないか? 俺ちゃん達の中に犯人がいるんだろ?」

「あぁ、いるとも」


 コイツ、知ってて俺にワザワザ聞いてくるとは、知らないていで行くようだな。

 まぁ、良いけど。


「少し話を戻すが、俺とメイルガストが心臓を狙われて、俺は死に掛け、実際にメイルガストは死んだ。お前、犯人の顔は見たか?」

「魔法に集中してたから、見てないよ」

「俺も見えなかった。使われた凶器は針、プルミットの持ってた三本の針の一つだ」


 そこでフレーナがプルミットを睨み付ける。


「だから彼女が犯人じゃないの?」

「私は犯人じゃないわよ」


 これでは再び水掛け論となってしまうため、俺は二人の会話に割って入る。


「そう、プルミットは犯人じゃない。実際に目撃証言があるからな、そうだろオリーヴ?」

「えぇ、顔合わせの二日前ですわね。プルミットさんのお部屋から赤髪に右目に傷がある男が出ていくのを見ましたわ。そして日を跨いだ翌日に、右腕と後頭部を殴られてしまい、気絶してたのですわ」

「オリーヴが来なかったのはそのせいで、襲ったソイツが犯人なんだ」


 彼女が襲われて殺されなかった理由は幾つか考えられるのだが、推測にしかならないので、ここでは説明しない。


「名前はドルネ、ソイツこそが死霊術師だ」

「じ、じゃあフラッタって人族は、何の職業なの?」


 そこがポイントとなる部分だ。

 事件の鍵を握っているものだが目撃証言もある事だし、ダイガルトにも出てもらおう。


「フラッタって名前は偽名だった。そして顔合わせの時に全員が嘘を吐いてなかった事を俺の目が証明した絡繰りはズバリ……この中にいる誰かとフラッタが入れ替わっていた可能性があるんだよ」


 変身モノクルなんて代物を付けていたのだ、古代の遺物(アーティファクト)は強力なものばかりだと皆が知っている事実でもある。

 だから、完璧に姿形を変えていた可能性もある。

 それならば何故、モノクルまで回収しなければならなかったのか?


「どういう事ですの?」

「あの現場には踏み潰されたはずのモノクルの破片すら残ってなかった。そのモノクルを調べられなかったから確かな事は言えないんだが、もしかすると変身可能なのは髪の色や目の色といった小さな部分だけだったのかもしれない」


 だから持ち去った。

 実際にフラッタが外した時、髪が金髪から赤く変化しただけだった。

 だから、ピンと来た。


「この中でモノクルの性能が低くても、誰にもバレずに入れ替わる事ができた人物はたったの一人だ」


 犯人を除く全員の視線が一人の人物へと注がれていく。

 モノクルの性能は低くても、全身をローブで覆っている上に仮面を被って素顔を見せず、更には空中に文字を投影させる方法で声すらも分からない人物。


「そうだよな……ルンデック?」

『……』


 全員がルンデックから後退る。


「で、でも何でこの人が犯人だって分かったのさ?」


 ユーミットがまだ分からないと言って、再度こちらへと視線を送ってくる。

 そのリクエストにお応えするために、俺は職業鑑定書を手に取った。


「順を追って説明しよう。まず顔合わせ時に、俺達は全員の職業を簡単に話しただろう? その時奴は『闇魔導師』って答えてたが、嘘検知には反応が無かった」

「だったら彼は犯人じゃないって事だよね?」

「いや、さっき俺は入れ替わっていたと言っただろう? 顔合わせの時、そこにいたのはフラッタだ」


 全員の顔に驚愕の二文字が刻み込まれた。

 更に驚きな事実が俺の口から飛び出ていく。


「つまりフラッタと名乗った奴が本物のルンデックで、奴が闇魔導師だったって訳だ」

「でも、いつ入れ替わったのよ?」

階層喰い(フロアイーター)がブレスを吐いた時、全員がバラバラになったんだろ? その時だよ」


 今思えばワイバーンで攻撃したのも、ブレス攻撃を仕込ませたのも、全て入れ替わるための算段だったのだ。

 そして奴は俺の背後に位置していた。

 だから隠し持っていた巨大針で攻撃する事ができたのである。


「そうだろ、ダイトのおっさん?」

「あ、あぁ……そうだな。俺ちゃんとしては一人敵から離れてく奴がいたから、ソイツを追っ掛けてったところ、偶然見つけちまったんだ。二人が入れ替わってるとこをな」


 だから、夜中に密会してたのだ。


「つまり筋書きはこうだ。顔合わせの時、犯人がルンデック本人を操って仮面を被らせ、全身を隠して参加した。そして同じ宿に泊まっていたであろう本物の死霊術師が五感共有のような能力で見聞きしてたんだろう。だから俺の職業を聞いた後、俺を襲った」

「なるほどー、欲張った結果っすねー」

「入れ替わるためには何かしら状況を作り出さなきゃならない。だからワイバーンに攻撃させると見せ掛けて、実際にはワイバーンの死骸(・・・・・・・・)を喰わせて特徴を取り込ませ、ブレス攻撃を指示して全員をバラけさせた」


 そして入れ替わって紅髑髏の中に入ったのが、今回の事件の元凶である犯人、ドルネだろう。


「事件を解いてくれたのが香炉だ」

「こーろ?」

「香炉な。セラに言われて中身を入れ替えなきゃなって思った時、もしかしたら犯人達も中身を入れ替えたのかって考えたんだ。そしたら顔合わせの時に俺の目が反応しなかったのも頷ける。何故なら、ルンデック本人が本当の事を言ってただけだからな」


 筆談なのは、入れ替わる時に声で自分の正体がバレるのを防ぐため、そして彼等が入れ替わりをした上で、フラッタの身体を喰わせたのは証拠を消すためだろう。


「俺にルンデックかどうかを調べられたくなかったんだろ。だから階層喰い(フロアイーター)に喰わせて、逆にアイテムポーチはワザと残した。二重の保険としてな」

「保険って、何故そんな事する必要があるんだい?」

「フラッタって名前が偽名であると露呈した場合に備えてたんだろう。自分の鑑定書を入れておけば、魔物学者という職業が偽物だった時、この鑑定書を持ってたから奴が死霊術師で今回の事件の犯人なんだ、みたいに思考をある程度誘導できる」


 だから残されていた。

 それに俺はまんまと引っ掛かってしまうところだったのだが、セラ達のお陰で入れ替わっていて、その上で奴を犯人に仕立て上げる算段も付けていたと分かった。

 他にもプルミット犯人説も同時並行して進んでいたのだろうな。


「針が盗まれたのは犯人にとって隠しやすかったから、それから凶器の持ち主がエルフだったからだろう。プルミットには説明したが、エルフと人間の溝は深い。それは歴史が物語っているものだ。だから人族である俺、それからメイルガストを突き刺した、なんて筋書きも生まれている。要は自分に白羽の矢が立たなければ何でも良かったんだろ?」

『……』

「でも、ちょっと待ってくれ」


 と、ここでエレンが疑問を口にする。


「凶器は何処にあるんだい?」


 問題となるのは凶器、寝てる間も誰の能力が働くか分からないし、捨てる現場を見られるリスクがあった。

 だとするなら持っていても可笑しくないと思った俺は霊王眼を働かせ、何処に凶器を隠し持ってるかに気付けた。


「今も肌身離さず持ってる。その杖の中だろう?」


 ビクッとルンデックが肩を震わせる。

 俺はルンデックの影を操って、後ろから影で俺のところまで突き飛ばして、飛んできたソレを手に取った。


『返せ!!』


 相変わらず喋らない男だ。

 喉を潰されてしまった、という事を自己紹介の時に聞いたのだが、あれは操っていた本人の言葉だったのだな。

 認識の違いでここまで嘘を見抜けないとは、俺も未熟者である。


「『分子解体セパレート』」


 杖本体に亀裂が生じていき、そして大きな杖が壊れたところで、中から一つの大きな針が出てきた。


「そ、それ……私の……」

「凶器を隠し持ってんのは犯人であるテメェだけだ!!」


 俺は針を思いっきりルンデックへと投げ飛ばした。

 そして、奴が華麗な身の熟しで針を避けて着地する。

 そこで紅髑髏の所以たる仮面が地面へと落ちて、犯人の素顔が見えた。

 赤い髪に、紫紺の瞳、右目には縦に斬撃痕があり、喉も焼かれたように潰されている。


『いつから気付いていた?』

「最初に疑問に思ったのは、ダイトのおっさんと四十七階層で戦った時だ。あの時、近くから不穏な視線を感じたから、おっさんの幽霊説を頭の片隅に入れておいた。そしてエレンとの会話で確信した。誰かが幽体離脱でもして、俺達の戦いを覗いてたってな」


 そしてフラッタの会話にあった、レイグルスという青年が英雄と呼ばれた事について。


「俺を英雄って呼ぶのは、俺が本当は『ノア』だって知ってる人物って事だ。地下深くに情報が回ってくるのは滅多に無い事だが、俺を知ってるってのは、二つの事実を教えてくれた」


 一つは幽体離脱によって俺達を監視していたという事なのだが、それをした理由も、もう一つの可能性を教えてくれた。


『もう一つの可能性だと?』

「あぁ、そうだ」


 それが今回の事件の紐を雁字搦めにしてしまうものだったのだ。


「お前、共犯者いるだろ?」


 その事実が、一つの空間を凍てつかせた。

 共犯者、それは犯人を手助けする二人目の犯人、それが全員この中にいると思い込んで周囲を見渡し、互いに目で牽制し合っていた。


「二人目の犯人、それは……地上のギルド職員の中(・・・・・・・・・・)にいる(・・・)


 全員の視線が俺一点へと集まった。

 ギルドに裏切り者がいる、それはギルドそのものを根底から揺らがせる大事件でもあった。


「どうしてって顔をしてるな、ルンデック。なら、何でそう思ったのか説明してやるよ」


 ここから更に、俺と犯人の勝負が加速していく。

 ギルド職員に扮装した二人目の犯人も吊し上げて、この事件を締め括ろう。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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