第103話 迷宮の朝
迷宮に閉じ込められてから二日目の朝がやってきた。
目を覚ますと、俺の部屋に侵入してきた奴等が二名、両サイドから俺の腕を枕にして眠っている。
「またか……ユスティもセラも、何で毎回毎回一緒に寝ようとするんだか」
腕を離してくれないようで、このまま二度寝しようかと考えたのだが、流石に朝食の準備がある。
一応当番制にしたのだが、料理できる奴が俺を含めて六人しかいなかった。
俺、プルミット、ユーミット、オリーヴ、フレーナ、そしてユスティだ。
男一人とは、嘆かわしい事だな。
とは言っても、ミューレスとヴァンクスは怪我によって意識が回復しておらず、更にはエンジュとかダイガルトとかは料理が壊滅的だとキッパリ言い、フレーナは投獄中となっている。
「さて、そろそろ作りに行くか」
食糧は昨日見つけておいたので、腐らないように冷凍庫へと保管してある。
偶然にも、レストランみたいな建物があったので、そこから冷蔵庫を頂戴して有効活用させてもらっているという訳なのだが、食糧が腐るのは意外にも早いため、食糧配分を考えたとしても一週間も保たない。
残念な事に、モンスターを狩っても肉がドロップする事はあまり無い。
(食糧は十四人分必要となるから、少なくとも三日か四日は保つ。逆に言うと、四日しか保たないって事だ)
殺し合いみたいな事になったら、それはそれで面白そうだが、恐らく後二日で全てが終わるだろう。
いや、二日以内に犯人が行動を起こすのだと、俺は予想している。
リノの未来予知で犯人の顔が分かるかなと思ったのだが、何故か見えないらしい。
案内人の未来予知原理論は、自身の魔力に加えて周囲の魔力場に作用されるそうだが、それは未来の指定された場面を見るに当たって、指定空間領域の魔力場が安定している事が絶対条件だそうだ。
俺は、テレビみたいだなと思った。
電波によって見えたり見えなかったり……
不安定となっている中で未来を見るのは難しいらしい。
しかし、大穴の近くで一度未来予知を頼んだのだが、あの時は俺の未来が見えた。
(そういや、何で見えたんだ?)
ハッキリ言って、このダンジョンは何処か可笑しい。
魔力が異常な程に流れているし、それに何故かダンジョン内の魔力が明らかに減っている。
だから転移ポータルが使えないのだ。
魔力にノイズが走るのは魔力場が安定しないからだが、大穴近くではリノは未来が普通に見えていた。
(霊王眼で見た限り、大穴近くでは魔力の流れは普通に安定してた。だから見えると思ったんだが……よくよく考えてみると変だな)
俺は迷宮に関する知識を殆ど持ち合わせていない。
理由としては、勇者パーティーとして活動するに当たって必要の無い知識だったからだ。
当時の俺はそこまで記憶力が良くなかった……どっちかと言うと悪い方の部類に入ったんじゃ無かろうかと思うくらい、記憶力が乏しかったな。
錬成によって、記憶力を改善した。
脳を弄って、自分の記憶力や反射神経、色々と底上げしたのだ。
(俺はダンジョンの性質を深く理解してないのかもしれないな)
ダンジョンを魔力が流れているのだが、その流れには規則性があるように見える。
まるで生きているみたいに、魔力の流れが人体で言うところの血管、魔力は血液だな。
(不思議なものだが、あんま事件に関係無いようにも思えるんだよなぁ)
正直、リノ対策をしているとしたら分かるのだが、それだと最初っからリノが下層へと来る事が分かっていたみたいな……
あれ、だとしたらまさかアレにはそんな効果も含まれているのか?
「……」
後でリノにお願いしてみよう。
「ご主人様、おはようございます」
「ん? あぁ、おはよう、ユスティ」
どうやら起こしてしまったみたいだが、寝るのが早かったので当然か。
いや、寝ていたが途中で起きてたな。
昨日のエレンとの会話を盗み聞きしていた二人の犯人のうち一人がユスティだ。
「あ、あの……いえ、何でもないです」
「そうか」
聞いてこないところを見るに、俺の過去に踏み入ろうとしているが、入って良いものかと躊躇しているようだ。
こちらとしては好都合、聞かれない方が俺としても話さなくて良いし、彼女達へと敵意を向ける必要も無い。
「俺は朝食を作りに行く。今日は確かプルミットと二人だったか」
「私もお手伝いしますよ?」
「当番制にしたから、なら食堂のテーブルのセッティングを頼もうか」
それくらいの雑用をさせなければ、彼女は俺が言ってもいないのに働こうとする。
仕事中毒、だったか。
恐ろしいものだ。
ヤル気ありますよと、そんな朝っぱらから清々しい表情を浮かべているところ悪いのだが、俺的にはユスティが働く必要は無いと思っている。
理由は簡単、彼女の仕事は俺の護衛なのだから。
「ふぁ……あれ、レイにユスティ……おはよ〜」
「おはようございます、セラさん」
眠たそうに欠伸を漏らしながら、彼女はボーッと俺達の方を見ていた。
レイ、そう言ったが、昨日の会話を聞かれていた。
昨日の盗み聞きしてた二人目の犯人、それがセラだ。
今は寝惚けてるが、いつ俺をウォルニスと呼ぶのか気が気でない。
「眠そうだな、お前」
「そうねぇ……まだ朝の五時じゃない……龍神族はみ〜んなお寝坊さんなのよ〜」
フラフラとして、再び枕へと顔を埋めた。
ボフッと音がして小さな寝息が聞こえてきたところを見るに、二度寝してしまったらしい。
これでは怒るに怒れないな。
怒る気力も無いのだが、どっちみち何も言わなければ俺から何かを言う事も無い。
「じゃあ、着替えて下に行くか」
「はい」
俺達の朝は早い。
いつも、こうして朝早くに起きたりするのだが、宿暮らしでは俺は朝の五時か六時起きが基本、ユスティは七時起きで、セラは八時から九時くらいに起きてくる。
生活サイクルの違いだが、それは種族的違いが原因の一つでもあり、特に龍神族はエネルギー消費が激しいので、無駄なエネルギー消費を防ぐ為に長時間睡眠を取る事もあるそうだ。
(コイツの場合、単に寝てるだけだろうが)
典型的な朝に弱いタイプの人間だな。
寝惚け、二度寝し、そして次に起きたら朝の十時か十一時だった、なんてところか。
これはしばらく起こさない方が良いかもしれないな。
俺は彼女を横目に着替えを手早く済ませて、先に下へと降りていく。
「おはよう、レイ君」
階段を降りようとしたところで、後ろから声が聞こえてきた。
その声から誰が後ろにいるのか分かった。
「おはよう、エルフ妹はどうした?」
「ユーミットならまだ寝てるわ。あの子、朝に弱いから」
セラと同じ部類の人間だったか。
だが、今日はユーミットは当番ではない。
当番制にしているとは言っても、誰かが毒を盛る可能性を考慮して、姉妹一緒に料理できないように当番を割り振ってある。
同じように俺とユスティも一緒にならないようにしてしまったので、彼女には不満を言われた。
「それで、何で私と一緒に料理するように当番を割り振ったのか聞いても良いかしら?」
「……鋭いな」
「あら、ありがとう」
嫌味のつもりで言ったんだが、どうやら皮肉には聞こえなかったらしい。
俺達は早速、朝食を作るために一階の厨房へと入った。
静かな空間、磨かれた調理器具、大きな冷蔵庫、メニューは無難なものを作って全員に出す事に決めた。
(食糧にも制限あるし、凝ったものは作れないな)
食パンなら大量に備蓄されてたし、それをメインに作るとしよう。
本当は一人でも良かったんだが、事件とは関係無い事でプルミットにはどうしても聞いときたい事があったため、こうして二人きりになれる時間帯を作った。
それに気付かれてしまうとは思ってなかったが、気付かれても支障は無い。
毒を盛られる可能性があるから、互いに監視し合う事ができるのだと、そう大義名分があるからな。
「それで、先程の質問には答えてくれるのかしら?」
「答えるよ。ただ、答えると言うよりは、質問したいのは俺の方だって事だ」
腹の探り合い、向こうは何を知っていて、俺が何を聞くのか、この会話はもしかすると新たな厄介事への扉を開く事になるかもしれない。
だが、それでも不安の芽は摘んでおく。
これから、犯人と戦わなければならないから、後悔しないように先に聞いておく。
「一つ聞いておきたい事があった」
「今なら特別に何でも答えてあげる」
「そりゃ良かった。なら、質問させてもらおう」
そう聞けたので、俺は遠慮無く質問する。
「お姉様って誰だ?」
俺の発言により、食材を洗っていたプルミットの手が止まった。
まさかこんな質問をされるとは思ってなかっただろう。
昨日、事件について聞いていたのに、急に事件とは無関係な事を聞いたのだ。
「お前は俺と会った時言ったな、『お姉様の探してた人だ』って。そりゃ、どういう意味だ?」
「……」
彼女は言葉を失くしてしまったかのように、無言を貫いていた。
沈黙は是なり、だが、それはyesかnoの質問がされた時のみ、今回は沈黙を貫かれたら答えが分からない。
こちらとしてはエルフの内政事情を知らないし、彼女達が俺をどう思ってるのかも知らない。
ただ分かるのは、彼女達エルフにとって俺達人族は忌むべき存在である、という事くらいだろう。
「それは私が聞きたいわよ」
「は?」
「お姉様というのは、エルシードで最も尊い存在、私達の憧れのハイエルフ……いえ、神の血を引いたゴッドエルフよ。最も美しく、最も気高く、そして最も自由な方、それが私達のお姉様なの」
俺の知り合いは男だし、ユスティの知り合いはライトエルフだったな。
そう言やダンジョンでセラが言ってたな。
自分にはゴッドエルフの友人がいるのだと。
神より遣わされし森の民、生命に活力を与え、命の鼓動を感じ、自然の恵みと深く繋がっている、それが『ゴッドエルフ』という種族だと文献で読んだ。
確か名前は……
「フェスティ、だったか」
「な、何でお姉様の名前を!?」
つい口に出てしまっていた。
セラとの会話で知っただけなのだが、まさかこんな繋がりがあるとは思いもしなかった。
プルミットが驚きを露わにしている。
それもそうか、俺が彼女を知っているはずがないと向こうは思っていたのだから。
「セラ……セルヴィーネが彼女の友人だって言ってたんだ。その人物の名前が『フェスティ』、本名なのか愛称なのかは知らないがな」
俺もヴィルと略されて言われていたので、その名前も略された名前なのかもしれないと考えた。
それにしても、こんな偶然ってあるもんなんだな。
仕組まれているようにも思えるが、そのフェスティとやらが俺を探していたという事に関して、もう少し聞いておきたいと思った。
俺は食パンの表面を炙りながら、プルミットへと質問を繰り返す。
「で、さっきのどういう意味だよ? アンタにもフェスティとやらが何考えてるのか分からないのか?」
「え、えぇ……お姉様は私達に言ったわ、『数百年後に一人の錬金術師が現れるから、彼を探してほしい』って」
どういう事だ?
すでに話に付いていけないのだが……
(俺を知ってたってのはセラとの会話で分かってたんだが、何故だ?)
彼女は予知能力者……いや、セラが言うには生物学者だったはずだ。
ならば何で知っていたのか、頭の片隅に置いていた懸念が一気に脳裏を支配する。
「そして本当に現れた。錬金術師、黒い髪に青い瞳、そして底知れない力、すぐに私はお姉様が探してるのが貴方だって気付いたわ」
「だが、何故俺が現れると知ってたんだ?」
「さぁ、それは知らないわ」
つまり、鍵はフェスティとやらが握っているらしい。
それは俺がこの世界に来た意味を知っているような、そんな気がした。
「フェスティってのが本名なのか?」
「いえ、本名はフェスティーニ=グリーエルテ=シュトローゼム、許された人のみが『フェスティ』という愛称で呼べるのよ。お姉様は気にしてないのにって言ってたんだけど、これも仕方ない事なのよ」
「へぇ……グリーエルテって事は、神様なのか?」
「いえ、正確には神に近しき聖なるエルフってところかしらね。世界でも最強レベルの力を持ってたわ」
生物学者という職業は物凄く強いらしい。
どのような戦い方をして、どのような人物なのか、少し会ってみたいなと思った。
しかしエルフの中間名は国を表す象徴だったはずで、それが神の名を冠しているところを考えると、特別な地位にいるようだ。
ハイエルフだから、恐らくは不老不死並みの生命力を持ち合わせているに違いない。
「強く気高く美しく、三拍子揃った国の憧れなの。けど、男に一切の興味を示さなかったわ」
「そ、そうなのか」
「えぇ、国一番の美形エルフがお姉様に告白した事があるんだけど、興味無いって突っ撥ねてたわ。そしてこうも言ってた。『ボクには待ってる人がいるから、その気持ちには応えられない』って」
待ってる人がいるから、か。
不思議なエルフだな。
聞けば聞く程、フェスティーニとやらの人柄が分からなくなってきた。
「『君にはボクより相応しい人がいると思うよ』とも言ってたわね」
ボクッ娘エルフとは、中々なキャラだな。
会いに行くつもりも予定も今のところ無いのだが、もしもエルシード聖樹国に行ったら会ってみたい。
いや、確か今は閉鎖中だったな。
「国の改革に一番携わっていたんだけど、あの方はよく旅をしたりして……二百年前くらいかしら、突然帰ってきたと思ったら『大樹の庵』に籠ってしまったわ」
「その、大樹の庵ってのは何だ?」
「お姉様の住居ね。国外れにあって、大樹の中に棲み処があって凄い暮らしやすい場所だったわ」
調理中、話が止まらなくなってプルミットからマシンガントークの如く、沢山の話が聞けた。
その彼女の性格、人族から国を守った英雄的行動、彼女の職業としての強さ、傷を負った人々を癒す慈愛に満ちた姿、優雅に茶を飲む姿、色々と教えてくれた。
その中で一つ、プルミットが気になる事を言っていた。
「毎日欠かさず、神様にお祈りしてるわ。敬虔深い……んだけど、その神様の名前を聞いても私には分からなかった」
「その神の名前は?」
「確かえっと、創造神ゼルディノスだったはずよ」
創造神なんていたか?
いや、数多の神々がいるのは知ってるが、創造神なんて存在しただろうか。
聞いた事が無い。
俺の勉強不足ならそれまでなんだが、どうもそんな感じじゃない。
創造神ゼルディノス、聞いた事が無いはずなのに、何処か懐かしいような……
「ガッ――」
急に激痛が頭に走った。
何かを思い出せそうな気がしたが、何も思い出せずに痛みは治まった。
「ハァ…ハァ……」
今のは何だったのか、急に激痛が走った。
何者かによって記憶にプロテクトが掛けられているのは分かっていたが、一体誰が何のために俺にこんな事をしたのだろうかと疑問が増えていく。
転生した事と何かしら関係しているのかもしれない。
とすれば、創造神に祈りを捧げているフェスティーニとやらについて、会わなければならない理由ができてしまった。
「なぁ、エルシードの国外れにいるんだよな?」
「え、えぇ」
「国に入らずとも会えるのか?」
「それは無理よ。国境の中だもの、幾らお姉様の探してる人物が貴方だったとしても、流石に族長達や国王様が入国を禁じるでしょうね」
それは残念だな。
なら、フェスティーニとやらと会うのを後回しにして、先に別の地方へと向かうのが賢い選択だろう。
俺について何か知ってそうだったが、聞けないんじゃ仕方ない。
「俺が錬金術師って分かってたんなら、俺の名前とかも聞いてるんじゃないのか?」
仮にフェスティーニから名前を聞いてれば、職業選別の儀式について、錬金術師という職を授かったのがウォルニスだと知っているはずだ。
だから、彼女も俺の事をウォルニスだと言われないように釘を刺そうとしたが、意外な答えが返ってきた。
「聞いてるわ。確か……『ノア』だったわね」
どういう事だ?
ノアと名乗ったのは一年前から、つまり錬金術師として活動していたにも関わらず、ウォルニスという名前を知らなかった事になる。
それは矛盾した答えだ。
それとも、矛盾を掻い潜る解法でもあるのか。
「何で俺の名前を知ってるんだ……」
奴とは会った事すら無いし、ギルドでは精霊術師だと偽って登録しているので、錬金術師だと知る者は少ない。
しかも俺がノアである事を知ったところで、魔神騒動で俺が使ったのは錬金術ではなく絶影魔法だ。
錬金術師=ノアという方程式はそもそも成り立たない。
何故だ、フェスティーニは何を知っている?
(いや、もしもノアを探せ、そう言ったなら俺がレイグルスと名乗った時に、何故彼女は気付いたんだ?)
幾ら精霊紋が刻まれていようとも、幾ら特徴が似ていようとも、名前が違うんだから俺がノアだと気付く訳が無いだろう。
だったらプルミットはどうして看破したのか、意味が分からなくなってきた。
どうして?
何で?
そんな感情が心の中で溢れていくのだが、上手く言葉を紡げない。
「何故、俺がノアだって思った?」
「それは……何となく?」
「勘かよ」
聞いて損したような気がするが、まぁ良い。
とにかくフェスティーニというエルフを覚えておこうと思った。
「それで、見つけたんなら俺をどうする?」
「できれば国に来て欲しいんだけど、今は人族との戦争のせいで国が閉鎖したから、来たら矢の雨が降るわね」
「矢の雨……」
確かグローリアも言ってたな、大量の矢が降るって。
それだけエルフは人族を忌み嫌っており、本来ならこうして会話する事もできなかったはずだ。
敵視敵対、彼女達にそういった感情が無い事もないが、それでも他のエルフよりは希薄そうだと思った。
「エルフの知り合いがいるのよね?」
「あぁ、旅の途中で知り合った奴だ」
「そのエルフもエルシードの住民なのよね?」
「まぁな、だからエルフの歌も知ってた」
ユーミットの奏でる音楽はケルト音楽に似ていたが、何処か心地良くて癒されるエルフの歌、『グリーエルテの彩り』は民謡音楽だったそうだ。
最初は小さく、次第に大きくなっていく曲で、自然の彩りを願った曲なのだとか。
「国の代表曲、エルシード、リングレア、ブレスヴァン、三国のそれぞれの神名を冠する歌の一つを、俺は知り合いから聞いた」
知り合いから聞いた歌はムッチャ下手くそだったが、ユーミットの奏でたハープのリズムで大体は歌える。
だが、これを人族である俺が歌う事はしない。
何故なら、それをする事で歌が穢れてしまうと思ったからだ。
「他にもエルフ固有の文化とか、民族衣装についてとか、郷土料理とか、色んな事を教わった」
だから、もしも行き先が無くなったら一度訪れてみるのも良いかもしれないと考えていた。
だが、相手側も俺を探していたようで、そこには幾つかの不自然な点が眠っているではないか。
好奇心が働く。
だが、それはこの牢獄を出てからの話だ。
「ねぇ、次は何処に向かうの? ここから出られたら、別のところに行くんでしょ?」
流石はエルフ、相変わらず鋭い感性をお持ちのようだ。
セラと会話してるみたいだが、少し違うのはセラ程に第六感を持ち合わせてはいないというところだ。
「何故そう思う?」
「何となくだけど、近いうちに出て行く気がしたの」
まぁ、後一ヶ月くらいはフラバルドにいるつもりだが、七月を迎えるくらいにサンディオット諸島には行きたいと思っていた。
新たな旅立ちのために、立つ鳥跡を濁さず、この事件とはキッチリ片を付けておきたい。
「逆に聞くが、アンタはどうすんだ?」
「へ?」
「このダンジョンに潜ってる理由は知んないけど、俺を見つけた事で目的のうち一つはクリアした訳だ。次に向かう土地について聞いてきた理由は、お姉様に俺の行き先でも伝えるためか?」
「……」
別に彼女達の行動には興味無いのだ。
だが、もしも俺の居場所を伝えようとするならば、止めてもらいたい。
今のところは彼女は俺の行き先を知らないらしいので、リノやユスティ、セラ、それからダイガルトに聞かれたら不味い。
このまま知らぬ存ぜぬを貫き通すか、それとも白状してしまうかは後回しにして、今は取り敢えず質問する。
「伝えてどうする? 国は閉鎖中、しかもエルフの神子なら尚更外には出れないはずだ。ならば俺の行き先なんざ伝えても意味無いだろ」
「それは……」
「ソイツが何考えてるかは分からんが、聞くのは時間の無駄でしかないぜ」
サンディオットに行く、そうリノ達には言ってあるのだが、もしかしたら行けないかもしれない。
可能性の話だ。
ギルド総本山に出頭しろ、みたいな事を言われてた気がするんだが、それについては置いといて、もしかしたら行き先を急に変更するかもしれない。
人生何があるかなんて、誰にも分からないのだから。
「さて、できたっと……」
スープの調理を終えて、皿へと盛り付けていく。
十四人全員分の配膳だ。
メイルガストに関しては完全に腐敗を止めて凍らせてあるので、三日後までには蘇生させられれば問題無いし、後はフレーナとヴァンクス、それからミューレスだな。
「後は配膳するだけだな」
皿に盛り付けられた朝食を俺達二人が運ぶが、全員に起きてもらわねばなるまい。
朝食は一日の資本、だからな。
そのため、俺は扉の方へと目を向けて叫ぶ。
「ユスティ! 盗み聞きしてるんだったら、全員起こしてこい!」
『うひゃぁ!? わ、わわわ分かりましたぁぁぁ!!』
扉の向こう側からドタッと音がして、それからバタバタと食堂を出て行く音が聞こえてきた。
やはり盗み聞きしてたか。
テーブルのセッティングを頼んでたし、すぐにやる事が無くなるのは分かってた。
まぁ、こちらが頑なに過去を話そうとしないのが悪いのだが、そこは理解してほしい。
「き、聞かれてるなんて思ってなかった」
「まぁ、獣人だからな、それくらいは造作ないだろ」
「それもそうだけど、貴方が一切驚かずに彼女に指示したところが凄いと思ったわね」
何だそりゃ……
ま、盗み聞きしてくれて構わないし、そこは止めたりはしない。
彼女の好きにさせておく。
過去を知って欲しくないのだが、不満を募らせていくと後々に響くから、こうして止めずに彼女の好きにさせておくのである。
「それより配膳手伝え」
「わ、分かったわ」
朝食後は昼食までやる事は大して無いので、暇なうちにギルドに報告しておこうと思いながら、俺は配膳台に朝食を乗せて、台車を押して厨房を後にする。
さて、後二日の辛抱だし、もう少しだけ頑張るとしよう。
そして全てが一件落着したら、そこでダイガルト達ともお別れだ。
「よし、頑張るか」
意気込みを手に、俺は朝食をテーブルに並べていき、降りてきた奴等と挨拶を交わした。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
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