第101話 地下深くで迎えた夜
香炉を四つ設置し終えたところで、俺は部屋を全員に割り振ってから、プルミットとオリーヴの二人を一階の食堂へと呼び寄せた。
もう夜の十時過ぎだと言うのに、こんな事をしているのには理由があった。
「こんなところに呼び出して何ですの? ユスティさんはいらっしゃらないのかしら?」
「お前そればっかだな……」
オリーヴがキョロキョロと見回しているが、この食堂には彼女はいない。
ユスティはすでに寝ている。
リノも、セラも、すでに眠りについているので、起こすのも忍びないと思って現在は他の奴等には何も言わず、二人を呼び出した。
「それで、私達に聞きたい事って?」
話を切り出したのはプルミットからだった。
とは言っても先に聞きたいのはオリーヴの方なので、そちらを向いた。
「まず、オリーヴに聞きたい。何があった?」
その質問をされるのが分かっていたようで、彼女は佇まいを正して椅子に座った。
「……率直に申し上げますと、ドアを開けた瞬間に襲われてしまいましたわ」
「足音で気付いてたんだろ?」
「えぇ……誰のかは分かりかねますが、扉を開けた瞬間にワタクシの頭に向かって何かが振り下ろされたのは確かですわ」
それは、セラの意見と食い違っている。
後ろから殴られたと言ってたのだが、セラが嘘を吐くとも思えないので余計に分からなくなってしまった。
「龍神族の方に聞かれましたので同じ答えを返しましたわ。けど、その顔を見る限り、理解してなかったようですわね」
彼女の言う通り、オリーヴ自身が殴られたという事とセラの言った殴られたという事には、言葉の違いが見られたようだ。
が、セラは何を勘違いしたんだ?
「扉を開けて殴られそうになったのを防いだのですが、右腕を折られ、蹌踉けたところを背後から殴られて気絶させられたのですわ」
「そういう事か。それにしてはギプスとかしてないが?」
「勿論、薬剤師から買ったポーションを飲んだのですわ」
この異世界には、ポーションなる摩訶不思議な薬品があるため、高級ポーションならすぐに治る。
俺も作れるがレシピは秘匿されるのが普通だ。
だから多分だが、俺とは違う製法で作られたのだろう。
霊王眼を駆使して透過、腕の内部を見てみるのだが骨に罅が少し残っている。
(完全には治ってないようだな)
俺が治してやる義理もないので、見て見ぬフリをする。
そして話を堰き止めてたので、サッサと次の話へと移る事にする。
「で、犯人の顔なり、特徴なり見たか?」
「いえ……見てないですわ」
「なら、獣人としての耳があるなら足音や歩き方の特徴、癖とかが聞こえたはずだが、何か気になる事はあるか?」
「それも分かりませんわ、申し訳ありません」
残念ながら、手掛かりとなる情報は無かったらしい。
とすると、彼女が襲われた理由について深掘りする方が得策か。
「何故襲われたのか、理由は分かるか?」
「それも分かりません。ワタクシが聞きたいくらいですわ」
まぁ、それもそうか。
襲ったのには理由があるが、それが必ずしも分かっているとは限らないし、何の目的で彼女を気絶させただけに留めたのか、それは犯人独自の思考であるので聞かなければ俺達に理解できようはずもない。
前日に何かあったのかと思ったのだが、その時俺は地上にいたため、彼女の口からでしか聞けないというのが非常に歯痒い。
「深夜に突然襲われたので。寝惚けてたのもあると思いますが、ワタクシとしてはそのような事態になってる事すら後で知りましたわ」
「……」
嘘ではないようだが、どうも引っ掛かりがある。
犯人が人目を避けて殴った、そこまでは分かるのだが、何故彼女を襲ったのだろうか、という事だ。
だがしかし……
何とも言えない状況下に置かれている中、この緊急事態は犯人にとって好都合となっている。
(幸いなのは通信機能が生きてるって事だが、それもいつまで続くか分かんねぇし、この巨大な自然の密室で捕まえなきゃ不味い)
それだけは確実に分かっているが、それでも犯人の特定のための証拠集めに奔走しなければならない。
だから、次はプルミットへと質問する。
「プルミット、アンタに幾つか質問する。答えれるのは全て答えろ。黙秘も別に構わん」
「それは良いけど……何を聞くのかしら?」
余裕の表れ、彼女は足を組み換えながら妖艶に俺の質問を待つ。
エルフって本当に何考えてるか分からんな。
まぁ良いか、取り敢えずはプルミットとの間にある疑問を全て解消するとしよう。
「一つ、お前の武器が盗まれたりした事はあるか?」
「えぇ、二日前に三本のうち一本を盗まれたわね。それが凶器になったのでしょうね」
「それが発覚したのは?」
「今日の朝方ね。武器の点検のために巨大針を磨いてたところで盗まれてるのが分かったのよ」
つまり、二日前からすでに考えられていた計画だったという事なのか?
だが、顔合わせの時に階層喰いが襲ってきたのは突発的な行動だったはずで、二日前から盗むという行動には矛盾がある。
だとしたら何故、犯人は針を盗む事になったのだろう。
考えろ、考えろ、考えろ……
俺には錬金術師としての能力と、影、精霊術、そしてこの頭脳、その四つしか無いのだから。
(犯人の気持ちになって考えてみよう。仮に俺が犯人だとして、プルミットからデメリットを抱えてまで針を盗むメリットは何だ?)
自分の用意した凶器を使わないのは犯人としてプルミットに濡れ衣を着せるため、そして凶器が普通の剣とかにしなかったのは目立つから、それか凶器として細くなければならなかったから。
或いは隠すために、ワザワザそれを使った?
いや、隠すならアイスピックとかの方が余程使い回しができて便利だし、魔法文明の発達した諍いであるならば、氷魔法とかで凶器を即座に作り出せたりする。
仮に俺がプルミットの武器を使ったとしても、それは多分彼女に濡れ衣を着せるために使用しただろう。
(もしかして、誰か特定の人物を殺すために巨大針を用意したのか?)
それが真実なら、俺を狙った理由は何だ?
いや、その仮説が正しいなら、そもそも俺達に階層喰いを襲わせたりなんかしないだろう。
行動の矛盾だらけで、犯人はプルミットの針を盗んで何がしたかったのか、それが気になる。
もしも顔合わせ直前に盗んだなら、そう考えるが、顔合わせ直後に襲ってきているので前提が間違っていると捉えるしかできない。
もしも盗んで特定の人物を殺す、という計画だったならば顔合わせ直後に襲わせたりはしない。
(突発的な計画で間違いないんだろうけど、俺とメイルガストの二名を殺そうとした理由はそれぞれ、俺が蘇生能力を持ってるから、そして彼が封印魔法を持っていて邪魔だから、だろうな)
まぁ、基本そんな考えの元で実行されてたのだろうが、二日前にプルミットから針を盗み、更に一日前にオリーヴを襲った、そこが犯人の行動を矛盾だらけにさせるものなのだ。
一つ、ストーリーを作ってみよう。
まず二日前にプルミットから針を盗んだ。
これで誰かを殺す予定だ。
次にオリーヴを殴って気絶させた。
考えられる可能性としては、幾つかあるのだが敢えてスルーして顔合わせに備える。
そして顔合わせの時に俺の能力が予想以上に魅力に聞こえたから襲わせ、その最中にプルミットを犯人に仕立て上げようと針を凶器に使った……
そして現在、犯人は誰かを殺すために未だに針を持っているのだとしたら?
「一つ、良いかしら?」
「ん? どうした?」
考えを堰き止めるように、プルミットが手を挙げる。
考え事を少し止めて、そちらに意識を向けた。
「何で犯人は私に濡れ衣を着せようとしたのかしら? あの宿には多くの冒険者がいたわよね?」
「それは恐らくだが、今回の掃討作戦の参加する奴等の中から選んだんだと思う」
犯人としては、俺達の中に犯人がいないと目を向けさせた上で、真犯人が紛れ込んでいたのだという一つの心理誘導を含ませたかったのだろう。
もしも俺が犯人がこの中にいないと言わなければ、自分から言ったはずだ。
人は、真実を目の前にすると、それに縋ろうとする。
つまりは『楽』したいのだ。
「愚かね」
プルミットはそう吐き捨てた。
外部犯だと思っていたのが、まさかの内部犯で、しかも今まで潜んでいた意外な奴だった、という台本が勝手に浮かび上がって彼女を犯人だと誤認する。
プルミットが選ばれたのは掃討作戦に参加するメンバーだったのは勿論、本来は人嫌いであるはずのエルフという種族面、殺傷能力の高い武器の中で特に目立つ針というものを扱っていた装備面、その三つが関係して選ばれたのだと思う。
犯人はそこまで考えてないかもしれないが、エルフという種族である以上、人を、そして冒険者を殺すという事は一つの動機になってしまう。
「嘆かわしい事に、フレーナはお前が犯人だと疑う事すらしなかったろ?」
「え、えぇ、確かに……」
「つまり、そういう事だ」
俺達人族が撒いた種、エルフという種族の誘拐や陵辱、隷属化といった非人道的な事をしていた皺寄せが、よりにもよって自分達に返ってくる。
恨み、そして恨まれ、戦争の歴史を刻んできた彼等エルフにとっては痛ましい事だ。
殺られたら殺り返す精神が当たり前の世の中となっているから、人族を恨むエルフによって弟が殺されてしまったのだ、という一つの光景がフレーナには見えてしまったのだろうな。
そして視界が狭まった彼女はプルミットを犯人だと決め付けた。
(プルミットが犯人だったとして、オリーヴを殴り倒す必要性があったのかどうか……)
逆に針を使う方が、『私がこの事件の犯人よ!』と明言してるみたいであり、もしも俺が犯人だった場合は自分の武器を使わない。
いや、錬金術師は武器を自在に創れてしまうので、盗んだりせずに針を錬成して攻撃したりする。
そして盗まれていないのに、針で攻撃できた事に対する疑問と、プルミットが犯人という解答へと導く鍵を残していくに違いない。
(もしかしてオリーヴが本来針で刺される立場だった? いや、それは無いな。だったら殴られるんじゃなくて刺されてるはずだし)
可能性を一つずつ確実に潰していくが、犯人の目的、動機が分からないのは大変だ。
(だったら口封じに殺されかけた? なら何を知った? 犯人の顔を見た? いや、宿に沢山いたし、顔を見てないとハッキリ言ってるから違うだろう。それなら何か手掛かりを知らないうちに持って――)
「二日前、ですの?」
またもや思考が一瞬、停止する。
「何かあったのか?」
「あ、いえ、プルミットさんの部屋から出てきた人を見たんですわ」
「マジか、顔は? 顔は見たのか?」
「え、えぇ、遠くからでしたが、赤髪の男でしたわ。右目に傷を持ってたのですが、知り合いかと思いまして……」
成る程、顔を見られたから殴られて気絶させられたという訳か。
だとしたら何故殺さなかったのかが気になるとこだが、そこは多分、調香師という職業だったから。
その時は奴には階層喰いという切り札が手元にあった状態、つまり欲しい職業ではなかったから取り込みはしなかったのだと考えられる。
だとすると、階層喰いが持つ職業には貯蓄問題が少なく、一度に使うには精々五つか六つが限界だった、という結論に至る。
取り込んで有能な職業を減らすよりかは取り込まずに放置しといた方が良いだろうしな。
(だが、しっくり来ないな)
もしもフラッタが犯人だったとしたら、何故俺を襲ったのかが説明できなくなる。
掃討作戦に参加してなかったのだから、俺の職業能力を魅力に思ったりしても聞いてすらいないなら、俺を狙う理由が分からない。
しかし奴は俺を『英雄』だと言った。
それはつまり、奴は俺の本名を『ノア』だと知って言ったのだ。
この迷宮に入ってから、俺は英雄らしい事は何一つしていない。
(魔神騒動の事を知ってて言った台詞だろうな)
だったら、いつ俺がノアだと分かったのか。
考えられるのは、あの時しかないだろう。
それが正しければ、奴の能力の中に幽体離脱のような能力も含まれているかもしれない。
(誰かに身体を乗っ取られた?)
考えれば考えるだけ、ど壺に嵌っていく。
仮に俺の考える人物が犯人なら一応の辻褄合わせが可能だろうけど、まだ謎のまま残っている事がある。
だから俺は考えを止めない、思考停止は迷宮では『死』を意味するのだから。
(右目に傷を持っていた男、つまりドルネとかいう死霊術師だな。だが、フラッタとやらには右目に傷なんて持ってなかった。逆にフレアレオやモンスターの事を言ってたから主犯……にしては、あからさますぎる)
変身モノクルという古代異物で変身してたとして、急に出てきたのにも理由があるはずだ。
あそこで捕まったのが陽動だったら?
犯人はその間に何か別の事をしていた?
別の事をしていたとしたら何だ?
今までを思い出して考えてみろ……
「幾つか聞きたい。まずオリーヴが気絶から目覚めた時間、それから辺りを探索した時間だ」
「ワタクシが目を覚ましたのは顔合わせより三時間後ですわね」
「私達が探索したのは彼女が起きてからよ」
顔合わせが三時、そして目覚めたのが六時、そして俺が目覚めたのは九時過ぎ、か。
そして九時過ぎとなってエンジュが花を摘み取られたのを確認した。
「その時、『魔を嫌う聖なる花』は咲いてたか?」
「え、えぇ、その時はまだ……」
陽動の間に花が摘み取られていたという可能性があったのだが、それが完全に否定された。
だとしたら陽動目的は何だ?
そもそも本当に陽動だったのか?
(考えるだけ、思考の渦に巻き込まれる)
目を閉じ、背凭れに背中を預け、思考を働かせる。
顔合わせ時、メイルガストが名前と職業を全員に聞く提案をして全員が答えたが、その中に嘘を吐いてる奴は一人もいなかった。
そして俺の職業能力を餌に釣り上げようとして釣りには成功し、階層喰いによって四十九階層を暴れ回って俺達は反撃に転じた。
そして俺が奴の攻撃を受けて回復している間は、他の奴等は殆ど見えなかったから、その間にフラッタとやらが捕まってしまった。
つまり、そこで何かがあったはずだ。
名前が偽名であるのを霊王眼が感知しているが、魔物学者やってるって職業にも反応しなかった事が気に掛かる。
『職業は?』
『あぁ、僕、魔物学者やってます』
あ、そうか。
(あの野郎……授かった職業じゃなくて、活動してる職業を答えやがったのか)
つまり、魔物学者ではない何かを授かり、しかしその職業ではない違う職業、今回では魔物学者を名乗って活動の資本としていたのか。
だから感知に引っ掛からなかった。
もし聞くとしたら、『お前が授かった職業は何か?』と、そう言わなければならなかった。
(認識の違い、か……)
だから例えばユスティに『職業は何だ?』と聞いたとしても、狩猟神の職業を授かった彼女が『冒険者やってます』と言っても霊王眼の嘘検知には引っ掛かりはしない、という事でもある。
こんな穴があったのか……
一年以上も使っていて初歩的な事にも気付かないとは、間抜けすぎる。
(俺、馬鹿だな)
過ぎた事はどうしようもないので思考を切り替えて、これからを考えるとしよう。
だが、それなら顔合わせの時に、全員が本当の職業を言ってた件についても考え直す必要がある。
それに加えて、俺が嘘発見の能力を持っている事も何処で知ったのか、それも詳しく知る必要が浮上してきた。
「なぁ、封印魔法が一度途切れたろ? その後の状況を教えてくれないか?」
「えぇ、貴方の方へと飛んでいったところで、再び封印魔法の準備が行われたわ。けど、その後でまたこっちに攻撃が来たから反撃してたんだけど、途中でブレスのせいで全員バラバラになって、それで怪物が貴方の方へと向かっていったから私はメイル君のところへと向かっていたの。魔法名が聞こえて、その直後に魔法が破壊されて、そしてフレーナさんの叫び声が聞こえて、辿り着いた時には彼が死んでたのよ」
途中でバラバラになった、というところで何かあったのだろう。
しかし何があったのか、どういった経緯で今に至るのかと考えても、結果は見えないので手掛かりを得る必要があるのは確か。
犯人が動くとしたら夜であるため、どうすれば犯人を捕らえられるのか……
「オリーヴの方で何か盗られたものとかはあるか?」
「いえ、特には何も」
盗られた物は無いか。
今のところ聞きたい事は全て聞けたため、後は現場に行って情報を集めよう。
「……とにかく分かった。質問は以上だ、二人は部屋で休んでくれ」
「貴方はどうされますの?」
「俺は辺りの散策、それから香炉の様子確認、それと一つ問題を解決しとかなきゃならん事があるからな。二人はもう寝ろ」
椅子から立ち上がって、俺は食堂の扉を開いた。
「じゃ、また明日」
もう夜遅いので、誰かをお供に付けたりする必要も意味も無い。
情報集めのために寄宿舎を後にして、最初に香炉の確認から始めた。
最初に香炉を確認したのだが、どれも正常に働いており、特に問題は見当たらなかった。
煙を噴いて、周囲へと放たれていた。
(これでしばらくは安全のはず……)
そのため、今度は花が摘み取られたという場所へと赴いてみたのだが、そこには一輪も咲いていない野原が広がっているだけだった。
全て抜き取られている。
(花屋でも開くつもりか?)
荒唐無稽な発想であるために適当に流すのだが、しゃがんで確認してみると、無造作に抜かれたように見える。
それか焼け焦げて灰になってしまったところもある。
焼け残ったのを全て抜いたのか。
(モンスターに人を襲わせるため、って事なのかな)
正直、花を抜こうが抜くまいが、今の俺達には香炉があるのでモンスターに近付かれる事は無いだろう。
花のある場所の近くには、四十八階層へと続く階段があるはずなのだが、その通路そのものが無くなってしまっているため、壁の方へと向かう。
(あれを使うか)
俺には錬金術がある。
しかも構造を見極めるための能力も備わっているため、今回はそれを使う。
壁に手を当てて、一つの力を発揮する。
「『構造把握』」
対象範囲は四十九階層のみとすると、頭の中に階層マップが展開されていく。
目を閉じると脳裏にマップが完璧に刻まれた。
その中で、階段が存在しなかったため、不思議に思って再度調べてみる。
(今度は……)
別の探知を使おう。
意識を壁へと向けて、能力を発動させた。
「『地質探知』」
広範囲における探知方法で、掌から魔力音波を流し込んで全てを把握していくものだ。
構造の掌握よりも広く浅く、モンスターが何処にいるのかとか、何処に宝箱があるのかとか、色々と分かるのだが欠点は構造把握よりも大雑把なところだ。
この二つを駆使して情報統合すれば、ある程度は見えてくる。
(階段が無くなってるな。四十九階層が独立しちまってるから、救助も難しいだろうな)
錬成すれば上層にも下層にも行けるだろうが、犯人が捕まるまでは閉じたままでいよう。
(食糧問題も、俺の影から出すんじゃなくて何処か建物を物色して見つける必要があるな)
ここは小さな街だった。
だから瓦礫の下とかを探してみれば、案外見つかるかもしれないと思った。
けど、そういった作業は明日からだな。
今日はもう夜の十時過ぎ、もうすぐで十一時になる。
(まだフラバルドに来てから一ヶ月経ってないんだよなぁ)
月日が経つのは早いが、それ以上に迷宮では色々あったものだ。
『黄昏の光』や『風魔』、色んな奴等との出会いがあって、別れがあって、冒険があった。
こんな生き方に憧れていた。
自由に何でもできるのだ。
だから、職業の力をフル活用している現在がどんどんと自由から遠ざかっていくように思えるのだが、それでも俺は後悔していない。
「さて、後は……」
やる事はまだ残っている。
今のところ俺がやるべき仕事は、ギルドへの報告、それから現状の把握と対策、そしてエレンとの対話だな。
部屋割り後に、ダイガルトに頼まれてしまった事でもあるため、解決する必要がある。
「そろそろ戻――」
悪意が背後から発生したように思えて、俺は咄嗟に前へと転がった。
直後、先程俺のいた場所に剣が振り下ろされる。
体勢を立て直して後ろを振り向いたところで、俺は意外なものを見た。
「まさか……死霊モンスターか?」
目が黒ずんでおり、すでに死んでいるような腐敗臭が漂っている。
ブレイドリザードマン、という種類のモンスターだな。
特徴としては、青色の鱗に包まれた蜥蜴の姿をした二足歩行のモンスターだ。
薄暗くて夜は見にくいモンスターではあるのだが、霊王眼があれば暗視モードに切り替えられ、今も暗視状態となっているために動きが見える。
二刀を使うまでもないと思い、俺は振り下ろされる剣を必要最低限の動きのみで躱し、胸元へと手を着く。
「『分子解体』」
『グギャッ――』
気味の悪い断末魔を上げ、そのまま腐った肉から血を噴き出して、崩れ落ちた。
その場に魔石も落ちるが、やはり赤黒く怪しい光を持っている。
急に襲ってきたか。
もう、形振り構ってられないらしい。
遠隔操作もお手の物だとアピールしてるのか、それとも俺に対して忠告してるのか、兎にも角にも一度建物へと戻って今後の方針を練るとしよう。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
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