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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
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第99話 四十九階層の戦い

 大物が四十九階層へとやってきた。

 突然の事に、全員が驚く中で騒動へと発展し、人を押し退けて逃げようとする奴等ばかりだったので、俺は自身を身体強化して屋根の上へと跳び上がった。


(俺の提示した弱点は計五つ、遠距離錬成不可、併用錬成不可、錬成時無詠唱不可、蘇生能力による弱体化、そして全員に話したという事実……)


 信用して弱点を晒したと言ったが、それは違う。

 誰も信用していないからこその能力説明、殆どが真っ赤な嘘で塗り固められたものだ。

 肩に掛けてある薬草鞄の第二の方へと手を伸ばし、三つの小瓶を取り出した。


(銀焼油、試してみるか)


 建物を破壊しながら俺の方へと向かってきているようなのだが、恐らくは視覚共有か何かで俺の存在を知っているのだろう。

 それか単に操られているのか。

 何にせよ、近付いてくるとは好都合だ。


「フッ!!」


 魔力を限界まで注ぎ込んで即座に敵へと投擲し、風の精霊術で飛ばす。

 実験もしたかったのだが、そうも言ってられなくなったので、ぶっつけ本番でモンスター目掛けて簡易手榴弾を投げ飛ばした。

 それに気付いた階層喰い(フロアイーター)が触手で掴んで防御した。

 次の瞬間、奴が閃光に包まれて激しく燃え爆ぜた光景が目に映った。


『ぁああぁあぁぁあぁ!!?』


 かなり有効に見えるが、残念ながら有効打には程遠いものだった。

 理由は明快、再生がすでに始まっているからだ。

 そして一つ分かった事がある。


(気のせいか……顔が減ってる?)


 再生した目がこちらを標的だと、いや違う、明確な強敵なのだと認識したようだ。

 そして、その化け物が俺を見た瞬間に、地面へと触手を突き立てて草原にある草木を操ったり植物を生やし始め、それがウネウネとしていたはずが急に鞭のようにしなり、建物を全て薙ぎ倒す。


(おっ、と)


 俺の立っている建物へと蔓鞭の攻撃が迫り来る。

 それを跳躍して避ける。

 植物操作なんて能力まであるのか、行方不明者リストの中に植物魔法を使うエルフがいたが、恐らくはソイツの能力のせいだろう。

 面倒な……


「『錬成アルター』」


 次は二刀から、鎖付きの一刀へ変化する。

 遠距離の手段は精霊術と影魔法、その二つなのだが、精霊術を駆使したとしても果たして倒せるかどうか……

 直接触れられたら良いんだが、俺は遠距離錬成不可能、その弱点を公言してしまったので、大っぴらに錬金術も使う事はできない。

 だから俺は、自前の脚力に精霊術で底上げした筋力強化のみで戦いを強いられる。


(こういった縛りプレイ、懐かしいな)


 魔境に飛ばされてから、二ヶ月くらいは自分の力を意のままに操る事ができずに苦労させられたが、それ以降は自分の限界を見極めるために、この能力だけを使ってモンスターを倒そう、みたいな事を考えて戦ったりした。

 一番キツかったのは、遠距離主体のモンスター相手に、手で触れて分解バラすという縛りで、今回の状況と類似してるように思える。

 超回復も上手く機能しなかった最初の頃は、多くの傷を身体に受けたものだ。


「『纏威電(マトイヅチ)』」


 屋根上から一気に突貫する。

 一刀に電撃を流して、捕らえようと迫ってくる蔓草を神速の剣で斬り払った。

 しかし、残念ながら体内電力が切れてしまった。


(貯蓄してた分が無くなったか)


 ここで電力が無くなるとは思ってなかったのだが、読みが外れたか。

 俺の電力貯蓄は肉体改造によって『電蓄袋』という新しい不可視の器官を形成し、そこに貯める事ができるようにしてあるのだが、これには時間が掛かる。

 それに、俺の錬成はイメージによって形成変化できるのだが、そのイメージは前世の記憶がメインとなっており、俺の身体は元来『人』である。

 だから、人から外れすぎた錬成は上手く作用しない。

 『獣人変化メタモルビースト』に関しては、側に実物ユスティがいたからできた事であり、魔境にいた頃では使えなかったものの一つだ。

 電気ウナギのように発電細胞に作り換えてみようと考えたが、人とウナギの身体構造上の違いにより、人の身体は有機物であり絶縁物質ではないため、どうしても感電してしまうためなのと、俺の身体では充分に発電する事ができないであろう。

 それに免疫系によって、移植等は身体の防衛反応によって異物と判断して適応しないだろうし、仮に移植に成功したとしても構造上の問題で、大した威力にはならない。

 だから精霊力を電力に変えた上で、貯蓄する方法を思い付いた。

 精霊術の電気は自在に操れるので感電しないよう調整できるのだが、操作に失敗すると暴発して感電する可能性も孕んでいる。


(魔境で何ヶ月も訓練して手に入れたから、もう感電なんざしないが……)


 電力を作り出す事もできるのだが時間掛かるし、階層喰い(フロアイーター)との最初の戦いで大半を失ったので、貯蓄分で纏うだけならと思っていた。

 が、今ので電力が全て無くなってしまったらしい。

 また溜めないと駄目だと思うが、もっと早く溜めれるように修練する必要はある。


(なら、今度は光の精霊術を使ってみよう)


 まだ殆ど使った事の無い光の精霊力、これは危険すぎるものであるために封印してきたが、使わないと殺されてしまうだろう。

 精霊力を光エネルギーに変え、収斂させていく。

 飛び出してからここまでで約二秒程の思考ロス、それを補うために意識を限界まで引き伸ばしていき、次にどう動くのか、どう攻撃を加えていくか、考える。


「『極光夜(オーロリア)・閃』」


 そして、超圧縮した光剣の一撃が階層喰い(フロアイーター)の身体を抉っていく。

 剣に光を纏わせるが普通はフラッシュのような使い方をしたり、或いは光線攻撃が主体となるが、これは光そのものを収束させているため、超高エネルギー圧縮の物質による斬撃は、よく斬れるのだ。

 しかし再生するところを見るに、いつまでも倒す事はできないかもしれない。


「チッ……」


 太陽光があれば、錬金術で収束させてもっと強い一撃を放つ事ができるのに、今は地下にいるため無理だ。


『あぁぁぁああぁあぁぁあああ!!!』


 怒りの感情が伝わってくる。

 今の一撃によって植物攻撃が来るかと思ったんだが、そんな兆候は無く、それとは別に俺は何かに強打されたかのような一撃を貰い、思いっきり後ろへと飛ばされた。


「な、何だ……」


 建物に突っ込んでいき、連続して瓦礫を生み出していくのだが、魔族と戦った時に状況は似ている。

 違うのは敵と、その持つ能力か。

 念力のような能力はまだ解けておらず、瓦礫に埋まっていたかと思ったら、急に空へと投げ飛ばされてしまった。


「うおっ!?」


 身体が反転し、頭に血が昇っていく。

 そして地面へと俺の身体は落とされて、普通なら首の骨折って死ぬくらいの力が、地面へと響き渡った。

 身体が頑丈で良かった。

 ただ、痛いものは痛いので、超回復があれども何度も受ける気は無い。


「いってぇな……」

「『癒しの音色(ハープウェーブ)』」


 綺麗な音色を奏でて、少し離れた建物から支援が来た。

 ユーミットの能力は音楽、つまり音を奏でる事で色んな効果を得られるというものだ。

 ハープだけではないようだが、腰にはフルートが装備されているし、まだ本気じゃなさそうだ。


「加勢する!!」

「俺様に任せやがれ不遇職!!」


 俺が立ち上がったと同時に前衛を任せていたエレンとヴァンクスの二人がそれぞれ剣を抜いて、駆け出していた。


「相手は念力を使う!! 気を付けろ!!」

「ハッ! 誰にもの言ってんだオラァ!!」


 ヴァンクスが双剣を手に、一気に駆けていく。

 反対側からはエレンが、そして左右を挟んでミューレスとプルミットの二人が、つまり前後左右からの同時攻撃が行われようとしていた。


「『秘剣・飛燕雷(ツバメガエシ)』」

「『双大蛇(デュアルヴァイパー)』」


 居合い、抜刀、二人のそれぞれの武技アーツが発動してモンスターを大きく斬り裂いた。

 しかし身体は頑丈なようで、化け物の身体が再生しようとしていた。


「『灼炎縫い』」

「『月光刃(ウォー・クレセント)』」


 赤い糸を具現させた上で地面に身体を縫い付けるプルミットと、反対側から跳躍して頭を狙って黄金の刃を三日月のように薙ぎ払って攻撃するミューレス。

 さながら暗殺者のように二人は攻撃し……

 そして赤い糸が燃え始めた。


『あぁぁああぁあぁぁぁ!!?』


 糸を具現化する時、魔法属性を付与しているのか……

 面白い使い方だな。

 しかも裁縫師という事で、属性付与は自分の魔法属性とは関係無しに選べるそうだ。

 だから、彼女の場合は色に従った糸を具現化できるらしいのだ。


(面白いな……)

「レイ君退いて〜!!」


 俺は咄嗟に横に飛び退いて、フレーナとモンスターを結ぶ直前から逃れて、彼女が異能を発動させる。

 周囲には鬼火のようなものが浮かんでいる。

 あれが彼女の異能か、凄そうだ。


「『焔舞曲(フランワルツ)・第一戯/ヴァーミリオン』」


 鬼火がどんどんと頭の上へと集まっていき、それが踊りと連動して大きな龍を形成する。

 それが彼女の第一の踊り、踊りによって炎を操る事ができる不思議な能力ではあるが、それが巨大な炎龍を模して一気に迫っていく。

 だから俺は銀の油を取り出し、それを投擲して燃焼剤として着火、爆破させた。


(やっぱ、封印魔法の準備が必要か)


 いや、もしかしたら絶影魔法の剣、『悪喰の剣(ソウル・グラトニア)』を使えば霊魂をこっちの剣に吸収して解き放つ事ができるはずだが……

 今は絶影魔法を使うのは個人的な理由で憚られる。

 身体に刻まれた呪詛のせいで傷の治りが少し遅延化しているのだが、微々たるものだ。

 しかし、もし続けて影を使えば呪詛に全身蝕まれてしまうだろう。


「『範囲付与(エリア・エンチャント)・ヒール』!!」


 巨大な魔法陣が戦闘区域を包み込んでいく。

 彼女の魔法は併用できるが、それは付与の種類によるために、彼女の範囲付与は一つしか使えないらしい。


「ッ!? 周囲に分裂するぞ!! 全員気を付けろ!!」


 リノの未来予知によって全員が退避する。

 彼女の予知が当たったようで、ボコボコと膨れ上がったかと思ったら爆発して分裂、更に悪い事に瘴気が溢れて飛び散り、化け物の周りをゆっくりと回り始めた。

 それだけではない。

 分裂した小個体は、強酸能力によって地面が溶けたりしていた。


「ステラ!!」

『えいっ!!』


 俺目掛けて飛んできた小個体を、精霊ステラに頼んで風の膜を張って防御する。


『ノア〜、これからどうするの?』

「さぁて、どうしよ――」

 

 ゾワッと、背筋が凍るような気配がした。

 俺の第六感はセラより劣るのだが、彼女よりも危機感知には敏感であるため、何か嫌な予感がしていた。

 しかし今は戦う事を余儀なくされ、俺もどうするべきなのかと考え中だった。

 そんな最中、俺の背後から小さな飛竜が多数飛んできて瘴気の中へと入り、モンスターへと噛み付いた。


(ルンデックの召喚術か?)


 何匹ものワイバーンを向かわせて、階層喰い(フロアイーター)へと飛び付かせ、動きを封じようとしていた。

 だが、そんな思惑は呆気なく潰える。

 そのモンスター達を取り込んでしまったのだ。

 化け物が更にモンスターの特徴を取り込んで、骨だらけの翼に膜ができてしまい、飛び上がろうと翼を羽ばたかせようとしていた。


「プルミット、もっと強く縫い付けれるか?」

「可能だけど……近付くと攻撃されるから、足止めが必要ね」


 瘴気はセラのガードスキンによって守られているため、吸い込みさえしなければ瘴気に充てられる事もなく、普通に戦える。

 しかしワイバーンには付与されていないため、瘴気によって次第に力を失っていき、モンスターの餌食となる。


「『抜刀・霊風斬』!!」

「『スパイラルショット』!!」


 中距離からリノが、遠距離からユスティが、それぞれモンスターへと攻撃する。

 その攻撃が当たって更に顔を減らしていくのだが、それでも四十人以上の顔が浮かび上がって、まるで助けを求めているような感じだ。

 瘴気のせいで怪物の姿は見にくいが、何かしようとしているのだけは何となく分かった。


(しかし……)


 透明化能力を使ってこないが、何故だ?

 俺の予想が正しければ能力の貯蔵問題ストックについて、何かあったのかもしれない。

 そう思ったのだが、念力によって周囲に落ちていた瓦礫を浮かび上がらせて、それを投げ飛ばしているので、それ等を避けて再び攻撃に転じる。

 全員がそれぞれの役割を果たして、前衛が強力な技を繰り出して、中距離の奴等は職業による支援(バフ・デバフ)を掛けたりしている。

 正直有り難い。

 が、ダイガルトとエンジュの二人の姿が見当たらない。

 今はリノの予知、セラとユーミットの補助で戦闘サポートが行われている。


(何処行ったんだ、アイツ等?)


 しかし、ここまでで一分くらいしか経過してない事に自分でも少し意外だと思っていた。

 簡単に倒せる相手ではないのは理解しているが、このままだとジリ貧となろう。


「動くぞ!!」


 リノの声に俺達は中央を見据え、瘴気のドームを突き破って空へと躍り出た階層喰い(フロアイーター)は、俺目掛けて突っ込んでくる。

 こっちも相討ち覚悟で――


「やべっ」


 駄目だ、分解しようとしても分裂能力があるから、俺が攻撃しても全てを破壊する事ができないかもしれない。

 だから避けるしかできなかった。

 瘴気が霧散していく中で、何故縫い付けてあったにも関わらず出てこれたのか、それは分裂によって余分な箇所を捨てたからだと分かった。


『あぁぁあ!!』


 煩わしい咆哮を上げて、今度は口から炎が飛び出てきたため、精霊術で相殺した。

 火の粉が周囲へと飛んで草木や建物に引火し、激しく燃え盛っている。

 一部の火先なんかは、天井に届きそうなくらいだ。


「ワイバーンの能力か」


 人間からは職業を、モンスターからは特徴を手に入れるようだ。

 俺は薬草鞄から一つの小瓶を取り出して、それを空中に撒き散らす。


「『錬成アルター』」


 ここで倒さなければ次は何処へ逃げるか分からない。

 更に強くなったら面倒だ。

 ここで倒しておきたいがために、俺は自然と駆け出していた。


「レイ!!」

「セラ……行くぞ」


 彼女が手を組んで、丹田辺りに掌を上へと向けて構えていた。

 そこへと飛び込んでいく。

 彼女の手に足を乗せて、一気に空へ。


「はぁぁぁぁ!!!」


 セラが思いっきり俺を持ち上げ、俺は空高く跳躍してモンスターを軽々と超えた。

 蠱刃毒を手に、階層喰い(フロアイーター)の頭上から刃を振り下ろし、身体を斬り裂いていく。

 表面が毒に侵されたのを見たが、危険と判断したのか即座に切り離して毒部分を捨て、尻尾で俺を薙ぎ払い、俺はさっきいた場所へと着弾した。

 他の奴等は周囲に燃え盛る炎で見えない。

 場所は分かるが、ここは死角となってるらしい。


「クソッ……封印魔法を待つしか無いのか?」


 メイルガストの魔力がどんどんと大きくなっていく。

 それに気付いた奴がそちらへと飛んで行こうとしていたので、俺は錬成で鎖を作り出して足を絡ませた。

 それを引っ張るが、かなり強い力だ。


「行かせねぇよ、大人しくしてろ」


 身体は人族のものよりも強靭であるが故に、力が拮抗している。

 このまま抑えていれば、少しは時間を……

 いや、分裂すれば逃げられるか。

 そう思った矢先、突如として背後から誰かが現れ、俺の心臓を突き刺した。


「なっ――だ、誰だテメェ!?」


 針のような細い何かで刺され、途端に力が抜けていく。

 背後からの容赦ない一突きによって、血が口から溢れてきた。

 振り返ろうとしたが、俺はモンスターに引っ張られる形で建物へと身体をぶつけていった。


(今のは……)


 姿は分からなかったし、顔も見えなかった。

 分かったのは、針での攻撃だけ。

 プルミットは大きな針を使っていたが、彼女が犯人だったのか?


「それより今は……」


 鎖を解いて、腕輪へと戻す。

 封印されると分かったから、メイルガストの方へと向かっていき、封印魔法を止めようと思ったのだろう。

 そっちに意識を集中してなければ、後ろから犯人に刺される事も無かった。

 探知を怠った結果だ。

 次からは周囲の警戒を優先するか。


「……」


 だが、これで犯人が前衛でないのは立証されただろう。

 背後から刺された、つまり中衛か後衛に位置する奴等の中の誰かによって襲われた、となる。

 多分、犯人は俺が超回復なんて能力を持ってないから殺せるだろう、と考えたのだろう。


「服に穴が空いちまったな」


 これで俺が生きてたら、どうして生きてたのかと疑問が湧くはずだ。

 いや待て、前衛が有り得ないと何故決めつける……

 何かの能力でこちらを刺したかもしれないではないか。


「血も出てるし……ユスティに怒られそうだな」


 もっと自分を大事にしろ、とか言われそうだ。

 それよりもフレーナ達が守るようにしてメイルガストのアシストをしているので、俺もそちらへと向かおうかと考えた。

 市街地がメチャクチャとなっている今、俺達が何とかするしかない。

 倒さないと更に被害が――


「誰かぁぁぁ!!!」


 と、学者のような白衣を着た男が触手に捕まっており、助けを求めているようだった。

 金色の髪に右目にモノクルをした、白衣を着た学者男。

 こちらへと手を伸ばしていたが、そのまま喰われてしまった。

 他にも三人の逃げ遅れた奴等が一緒に取り込まれ、三体の顔が浮かび上がってきた。


「まだ食べる気かよ……」


 食べて強くなるとか、チートだな。

 他人の能力を使うに当たり、今は重力操作と飛翔、ブレス攻撃に分裂を使っているが、さっきの植物攻撃を使ってこないところから見ると、地上でしか発動できないものだろう。

 が、透明化しない理由は不明だ。

 それから瘴気を纏ってないし、身体は完全に再生しているようだ。

 体内で瘴気を蓄積してるのか……


『ぁぁあぁ』


 透明化しない理由はさて置き、大きな身体がメイルガスト達へと向かっていき、余儀なく魔法発動がキャンセルされてしまう。

 全員が避けるが、集中力が切れたらしい。

 そして封印魔法のキャンセル後、突然こちらを向いた。

 建物の壁によって向こうからは見えないはずなのだが、何故か俺の位置を特定したという事は、探知系能力も使えるのか。


「うおっ!?」


 突如として襲い掛かってくる。

 骨爪が揺らいでいたが、それを後ろへ躱した。


「なっ――」


 避けたはずが、左腕に食い込んで吹き飛ばした。

 宙へと舞い上がり、腕が回転しながら落ちていく。

 血が滴り落ち、何が起こったのかを理解できないまま第二撃を避ける。

 だが、今度は胸を裂かれて大量に血が飛び散った。


(幻影系、或いは空間系能力か……幻影系はプロフィールに無かったな、だとすると空間系? いや、空間魔法使いもいなかったはず……)


 これまた厄介だ。

 もしかすると、目の前にいる階層喰い(フロアイーター)も偽物なのかもしれない。

 だとしたら何処に――


「ガッ!?」


 背中を裂かれ、またもや傷から血が出てきて、身体も服もボロボロとなってしまった。

 前からも後ろからも斬り裂かれ、肉が抉れていく。

 何処にいるのかが分からないが、俺は腕を引き寄せてくっ付ける。


「『修復リジェネレイト』」


 痛みよりも戸惑いの方が強い。

 目の前にいるはずなのに、攻撃を避けたはずなのに、何故か俺は胸と背中を斬り裂かれた。

 回復するとは言っても、何度も喰らう訳にはいかない。

 能力の中に猛毒や石化、状態異常を持つ者もいるので、極力喰らわないよう攻撃を躱すのだが、目の前の敵の攻撃は幻影や空間によるもの、攻撃回避にも限界がある。

 対策を考えねば――


「『秘剣・千神電(チヨノカミ)』」


 階層喰い(フロアイーター)の後ろから翼を強力な電力が斬り落としていった。

 回復するために、俺は地面を錬成して棘攻撃を仕掛ける。

 だが、それを避けて後ろへと下がった。

 そして他の奴等が攻撃へと転じていたので、その間に回復させてもらおう。


「無事か!?」

「エレン……」


 意外だ、彼女が助けに入るとは。

 前は助けようとしても邪魔だと言われたし、ポーションも受け取りはしなかった。


「か、身体がズタボロじゃないか!? は、早くポーションを――」


 手が震えており、相当勇気を出して攻撃したらしい。

 ポーチから回復薬を取り出すも、施しを受けるつもりは無い。


(前とは真逆だな)


 何が彼女をそうさせてしまったのか、それは分からないのだが、俺はフラフラとしながらも立ち上がる。

 身体の自己治癒機能を活性化させ、回復速度をどんどんと高めていく。


「傷が……治っていく……」

「懐かしいな」

「……ぇ?」

「前は渡そうとしたポーションを拒まれたが、今回は全くの逆とは、つくづく運命ってのは悪戯好きなようだ」


 彼女と再会して何かが変わるのかと思ったけど、結局は何も変わりはしない。

 ただ、今こうして一緒にいる。


「き、君は――」


 傷も回復したし、そろそろ行こう。

 他の奴等も戦っているようだし、頼みの綱はメイルガストである。

 アイツを死守しなければ、負けはしないが勝つ事もできない。


「行くぞ」


 活性化しても、やはり回復速度が遅くなってる。

 魔境にいた頃より随分と遅くなってるが、身体に刻まれた呪詛が原因か。

 魔神戦で影を使いすぎた。

 疲労感も蓄積されていく。

 俺の身体が影魔法と適応しきれてない事が原因の一端であろうが、そんな事はどうだって良い。

 身体が壊れようとも、俺の何を失おうとも、使えれば構わないのだから。


(時間が経過する毎に奴の能力が変化してやがる。あのモンスター何なんだ?)


 倒し方は不明、唯一の方法はメイルガストの封印だが、それも途中で気付かれる……


「『錬成アルター』」


 武器を新たに錬成する。

 翼を斬られて飛べなくなったらしく、今も地上に降りて戦っている。


「ま、まだ戦うのか?」

「当たり前だろ。戦わなきゃ死ぬんだ、半年前もそうだったんじゃないのか?」


 彼女は仲間を殆ど失った。

 生き残ったダイガルトでさえ必死こいて戦っている。

 剣神という職業を持っている彼女なら、きっと倒せるだろうが、恐怖を拭いきれずに踏み切れていない。

 俺のような平凡な人間とは違うエリートだろう、戦ってもらわねば勝てる戦いも勝てない。


「怖く……ないのか?」

「馬鹿か、怖くて冒険者が務まるかよ」


 死を恐れた者から死んでいくのが迷宮だ。


「死ぬ事は怖くない、俺には恐怖は残ってないからな。それより来るぞ!!」

「うっ!?」


 俺達は階層喰い(フロアイーター)の攻撃を跳躍して躱し、まだ残ってる建物の上へと逃げた。

 植物攻撃が来るかと身構えるも、次に来たのは光線攻撃だった。

 その攻撃を避けようとしたのだが、避けきれないと判断したので右手で受け止め、光線を粒子へと分解したが、変わりに腕全体が焼け焦げた。


「ぐっ……」


 魔力で腕を覆っても、それだけの衝撃を受けた。

 ボロボロとなって腕が崩れていく。

 再生が追いつかないまま、跳び上がってきた化け物が俺を喰らおうと顎門あぎとを開く。


(ここなら誰も見てない……)


 丁度良い、ならば能力を大っぴらに使っても誰にもバレやしないだろう。

 錬成で短剣に鎖を付け、それを伸ばす。


「『分子解体セパレート』」


 化け物の身体を分子レベルで分解し、壊した。

 だがしかし再生能力のせいなのか、再び集まって元の大きさへと戻ろうとしていた。


「ご主人様!!」

「レイ!!」


 と、俺の元へと颯爽と現れたのはユスティとセラ、俺へと飛び掛かってくる。


「お、お前等なぁ」

「服がボロボロじゃないですか! しかも大量に血が出てますし!」

「アンタ人族なんだから、気を付けなさいよね」


 どうやら俺が負けそうになってると思ったのか、こちらへと速攻で駆け寄ってくるのだ。

 過保護すぎる……


「封印魔法はどうなってる?」

「一からやり直しよ。モンスターがそっち行ってくれたお陰で新しく詠唱し直してるわよ。ただ、プルミットとヴァンクス、それからミューレスの三人が深傷を負ったわ」

「そうか」


 それより、今は目の前で集まろうとしている化け物だ。

 確かに魔石が無いので倒す事ができない。


「さて、どうす――」


 その時、分解されたモンスターの中から、一人の男が出てきた。

 さっき捕まってた金髪の学者男か。

 全身ベットベトで、粘液塗れとなっている。


「いやぁ、助かりましたよ、本当にありがとうございました、レイさん」


 満面の笑顔で笑っている男、怪しすぎる。

 いや、そもそも何で俺の名前を知ってるのだろうか。


「アンタは?」

「あぁ、僕はフラッタです、よろしく〜」


 フラッタ、か。


「何で俺を知ってる?」

「え、だって君、英雄なんでしょ?」

「あぁ、そうらしいな」


 成る程、つまりはそういう事か。

 だが、どうしても確認が必要であるため、更に聞きたい事を幾つも聞いていく。


「職業は?」

「あぁ、僕、魔物学者やってます」

「魔物学者?」

「えぇ、ここの調査のために、ってフランシスさんにお願いされたんですよ〜」


 嘘は……吐いてない。

 しかし、何だか怪しくて気味が悪い。


「お前が犯人か?」

「は、犯人? 何の事です?」


 これも嘘ではないようだ。

 しかしながら少し気掛かりな事があるので、コイツをもう少し確かめてみようと思って質問しようとしたが、その前にセラに肩を叩かれる。


「レイ、下がって」

「は?」

「コイツから、嫌な気配がするわ」


 その瞬間、奴はモノクルを取って地面へと捨てた。

 何をと思っていると、彼はモノクルを踏み付けて破壊、顔が変化して髪の色も赤く染まっていった。


「変身モノクル、迷宮の古代遺物(アーティファクト)ね」

「ピンポーン、正解だよ、龍神族のお嬢さん」


 ヘラヘラしているが……

 まさかコイツ――


「フッ!!」


 気付けば、セラがフラッタとやらの顔面を一瞬で殴り飛ばしていた。

 しかしながら、血が出ない。

 しかも、クツクツと他人を嘲るような嗤い声が辺りに響き渡った。


「まさか躊躇せず殴るとは……精々僕を捕まえてみなよ、愚図共、アハハハハハハ!!」


 嫌味を残して、そのまま後ろで再生の終わった階層喰い(フロアイーター)に食い千切られた。


『ああぁあぁぁあぁぁぁあぁあぁ!!!』


 咆哮が耳を劈き、奴は逃げようとする。

 しかしその瞬間、増大した魔力が大きな魔法陣を形成して地面へと描かれる。


(これは……メイルガストの封印魔法か)

「行くよ!! 『エネミーシーゲル』!!」


 巨大な魔法陣が発動し、逃げようとしていた階層喰い(フロアイーター)が謎の手によって引き摺り込まれていく。

 何だ、この光景……


「凄い光景ですね、ご主人様」

「あぁ……だが、嫌な予感が――」


 瞬間、魔法陣が消えた。


「メイ君!!」


 少し遠い場所から声が聞こえてきた。

 フレーナの声だが、メイ君とは恐らくメイルガストの事だな。

 何かあったかと考える前に、モンスターが奴等を食うために飛んでいこうとしたので、仕方なく右目を駆使する。


(使い方はもう分かってる。この目も弄ったし、二度目の発動ならば出力を抑えて解放すれば……)


 瞳が赤く染まっていき、眼球全体が黒ずんでいくが、完全には龍の目にはなっていない。

 俺が錬金術を駆使して弄ったからだ。


「『悪喰の剣(ソウル・グラトニア)』」


 影から一振りの刀を取り出す。

 禍々しい影で創り出された剣が、凄まじい魔力を放っている。

 これを創り出すためには、右目の開眼が必須。

 だが、普通に開眼すれば死ぬのは分かっていたため、錬成を駆使して死なないように調整できるようにしてあるのだが……


「ガッ――クソッ、身体が……」


 熱い!?

 焼けるような熱さが内側から発せられているような感覚があり、死よりも辛いと思えるような拷問に近しき激痛に苛まれた。


「ご、ご主人様!?」

「だ、大丈夫だ。前回みたいに……全開で使ってる訳じゃないから、死んだりは……しない、はず」


 意識が朦朧としてきた。

 早めに倒さなければ、あの化け物が全てを喰らい尽くすであろう。


「『錬成アルター』」


 刀を槍へと変化させる。

 穂先が鋭くなっており、俺はそれを投擲する構えを取って力を溜める。


「レイ、何を?」

「これで……終わりだ」


 思いっきり槍を投げて、凄まじい勢いのまま階層喰い(フロアイーター)の身体を易々と突き刺して、吸収していた霊魂を槍が喰らっていく。

 魔神戦を参考にした戦い方だが、右目の開眼に関しては慣れない、な……


「ご主人様!?」

「レイ!!」


 二人の声が聞こえてくる。

 どうやら俺は倒れたらしく、二人の声が徐々に聞こえなくなっていく。

 あぁ、寒い……

 さっきまで熱かったのに……


(右目も開発途中だったし……仕方ない、か)


 右目に関しては発動したら死ぬと分かっていたが、それでも死なないように発動するにはどうしたら良いのかを、今までずっと考えていた。

 それで、全開で発動しなければ良いと考えた訳だ。

 そして因果錬成(モディファイド)によって、事象を少し書き換えた。

 だが現実はどうだ、少しの発動だけでこんな有り様を晒している。

 一度使っただけで倒れるとは、燃費の悪い魔眼だ。


(眠いな……)


 微睡みが訪れて、二人の顔も霞んでいく。

 どうせ少しの間、眠るだけだ……

 だから俺は、次第に閉じていく景色を見ながら、暗い夢の世界へと旅立っていった。






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