第98話 顔合わせ 後編
欲しい……そう思ったのは、奴が能力を説明して四つ目の弱点を晒した時だった。
「四つ目、これ等の能力の制限が付いた理由は、俺の蘇生能力にある」
「そ、蘇生!?」
誰かが叫んでいるが、私も驚いている。
人間としての限界をも超える力を、錬金術師という職業が有しているのだ。
驚かない方が可笑しいだろう。
「あぁ、これが最も制限の多いものだが、第一まず使えば俺が死ぬ。第二に、この能力を使えば他者が完全に生き返るが対象は一人のみ、第三に蘇生能力は死んでから一時間以内しか効力は無い」
「待って! つ、使った事はあるの?」
それを聞いておきたかったが、使った事があれば恐らくは死んでいるため、今ここにいる事を考えると一度も使った事は無いはずだ。
そして予想通りの返答が奴の口から出てきた。
「いや、職業選別の儀式で授かった時に、能力や弱点について全て知った」
職業とは、弛まぬ努力と研鑽の果てに得られるものだと私は理解している。
だから、そのために私は更に階層喰いに餌を食わせ続けて、この職業の力の深淵へと手を伸ばしていく。
誰が死のうが所詮は赤の他人、自分さえ生き残ってさえいれば良い。
「そして五つ目だ」
「まだあるんすかー?」
「あぁ、これが最も重要な事だ」
奴の弱点は、遠距離錬成できないという事、能力を並列できないという事、魔法のように唱えなければ発動しないという事、そして今言った蘇生能力によって元から弱体化していたという事……
申し分無い力だ。
もし、奴を取り込んだ場合、私の階層喰いなら、触手を伸ばして一瞬で人間をバラせるだろう。
(その力、私のためにあるものだ……)
私の目から見ても、奴はまだまだ何かを隠しているように見える。
彼はダイヤモンドの原石、今まで喰ってきた奴等の誰よりも価値があり、私の研究の更なる成長に大きく貢献してくれるだろう。
あぁ、何でこんなにも美味そうな職業なのだろうか。
もしも私が死んだ場合、一度だけモンスターを犠牲に蘇生でき……いや、再生能力を持っているのだから、もしかしたら連続で使えるのではないか?
(試したいな)
私の相手を傀儡化する能力と合わせて使えば、私はもっと強くなれる。
強く、もっと強く……
「錬金術師って職業は、能力を相手に伝える事が一番の弱点に成り得るのさ」
「……どういう事なの?」
「さっぱり分かんないね」
本当にさっぱり分からない。
それが弱点になるのか?
いや、確かに能力的に考えれば、遠距離からの攻撃がベストなのだ。
「さっき俺の能力は直接手で触れないと駄目だって言っただろ?」
「そうね」
「要するに、だ。もしもこの中に犯人がいれば、俺の弱点を知ってるから遠距離で攻撃してくる可能性があるって事なのさ」
コイツ、私の存在に気付いているのか?
いや、もしもと奴は言ったから、私の存在に気付いていても私の正体が誰なのかは分からないはずだ。
「だったら何でワザワザ弱点を晒したの?」
「まず前提として、教会の連中が錬金術師という職業の能力を偽って流布しているためだ」
成る程、そういう事、か……
「それが弱点を晒す事と関係あるのかしら?」
「それが大有りなんだ。この掃討作戦において、他人の職業の詳しい事が分からなければ、攻略法は立てられない」
私達は錬金術師という職業について何も知らない状態である。
そんな中で指揮を執るのは難しい。
情報は武器となる。
しかし大前提として、教会が錬金術師の能力について偽っているからこそ、私達は誤った知識に踊らされた。
「俺が最初に錬金術師だって言った時、テメェ等はどう思った?」
低級ポーションしか作れない不遇職、そう思った。
奴の能力が本当に多種多様ならば、戦い方次第で物凄い力を発揮するだろう。
だが奴が人であるために、職業の本来の能力を十全に発揮できていない。
「つまり、俺の能力は戦闘に役に立たないって思われちまってるんだ。それを解消するために能力を話した」
「それは分かったわ。けど、弱点を晒す必要は無かったんじゃない? ここに犯人がいるかもしれ……ちょっと待ちなさい、犯人は階層喰いなんじゃないの?」
この場の誰もが犯人が階層喰いだと思っている。
私以外は、だが……
いや、奴も犯人がいる事に気付いていた。
(危険だな)
警戒心を引き上げておいた方が良いのかもしれない。
そう思わされる。
だが、どうして気付けたのだろうか、私に不手際は無かったはずだ。
「これは俺の推測だが、階層喰いはすでに死んでいて、誰かが操ってるんじゃないかって思ってるんだ。これを見ろ」
「どうして犯人がいると?」
そうだ、どうして犯人がいると分かったのか?
「理由は幾つかあるんだが、確信が持てたのはエレンが仲間から固定付与された追跡魔法について、反応が消えてたからだ」
彼の説明を全て聞き、そんな事が起こっているとは考えもしなかった。
まさか、私がモンスターと出会う前から魔法が仕込まれていたとは思いもしなかった。
追跡魔法とは、迂闊だったな。
「成る程、ね。それだけの情報でそこまで……」
「それで、今は何処にいるか分からないんだよね?」
「済まないな、私に付与されたものはすでに解けてしまっているんだ」
それだけは僥倖だったか。
もしも今も追跡魔法が作用しているのなら、あの女を殺す必要があった。
私の研究はもうすぐで集大成を迎えるのだ、邪魔なんてさせない。
「じゃあ、この中に犯人が?」
「いや、俺はそうは思わない。正直、この中に犯人はいないと思ってる」
犯人はいるけど、その犯人はこの掃討作戦には参加していない、と。
少し考えが甘いな。
ここに犯人はいるぞ、そう内心叫んでみせるが、聞こえるはずもない。
「そもそも犯人が掃討作戦に参加する理由は無いんだ。それに参加してワザワザ自分の操ってるモンスターを倒す奴はいないだろう」
「でも、それって可能性でしょ?」
「あぁ。だが、もしも操ってんなら作戦会議に参加する危険を冒すよりは、盗聴して別のところで俯瞰してる方が効率的だろうし、俺ならそうする。モニターがあるのは恐らくここだけ、ここを会議室として使用するのは予想しやすいしな」
コイツ、何処まで未来を見ているのだろうか。
まるで未来に行って答えを見てきたかのような推論に、冷や汗が出てくる。
見つかるのも時間の問題か。
何としてでもコイツだけは殺さねばならないと思い、決断する。
『一つ聞きたい』
「何だ?」
ルンデックが空中に魔法文字を書いていく。
『怪我の回復の精度はどれくらいだ? 蘇生までできるのだとすると、それだけ回復能力に長けていると考える』
「まぁ、当然の疑問だな」
蘇生能力は回復の延長上にあるものだ。
だからこそ気になっていたのだが、医療的な能力は世界でも数少ないのは周知の事実だ。
「見せられなくて悪いが、腕や足、部位欠損や失明、簡単な病気から不治の病まで、そういったものは全て修復可能だ。そこにいるユスティの両目も人工の魔眼だ」
「そ、そうなの!?」
「はい。一度目を焼かれたのを、ご主人様に治して貰いました」
盲目者の治療が可能な職業は幾つかあるが、それを人工的に魔眼にしてしまうなんて能力は聞いた事が無い。
左右非対称な色合いの瞳を持っている白狼の少女、盲目だったのが今や普通以上に見えているらしく、未知なる職業の力だなと理解できた。
魅力的すぎる職業、私は手を伸ばそうとしていた自分を諌めて、誰にも気付かれないように深呼吸して、気持ちを整えた。
そして一つ気になる事がある。
一昨日、奴は『鳴雷』と一緒にいたはずだが、何故彼女の右目は眼帯のままなのだろうか?
(もしや制限でもある、のか?)
治せるのなら治していたであろう。
しかし、そうではなく、彼女は片方の目が潰れたままとなっている。
「他には何か質問はあるか?」
「精霊術は使える?」
四十八階層での戦闘を見ていたが、あの雷の力は凄まじかったと言わざるを得ない。
私はずっと見ていたが、あれだけの力をどうやって手に入れようかと、それだけしか頭に無かった。
だから、敢えて聞くつもりでいた。
「使えない訳じゃないが、階層喰い戦において有効打にはならない。人族には本来、精霊術は使えないからな」
有効打にならない、だと?
あれだけの雷を使っておきながら、何故嘘なんか吐くのだろうか……まぁ良い、私は奴を喰らうだけだ。
「俺の攻撃方法は調合毒による武器錬成だ。世界三大猛毒より強力なものを作った。中には武器にできる毒もある」
「成る程……」
「他に簡易手榴弾や灯油とかも作った。燃やしたり、爆破したり、色々とできる」
毒も魅力的だ。
もし能力を手に入れられたら、体内で毒を調合して攻撃手段に使えるかもしれない。
奴を殺したら戦闘の幅が更に増えるし、より簡単に餌を調達できる。
しかし、しゅりゅーだん、とは何だ?
「さて、まだ俺が錬金術師という事に文句でも?」
「「「……」」」
ある訳がない、むしろ最高の餌だ。
これ程までに自分の職業以外の力を羨ましく思ったのは意外だったが、奴の職業は隠すべき、そう教会の奴等が思うのも無理ない話だろう。
特に蘇生……
聖なる力を持っていないのにも関わらず、蘇生能力という聖女の顔丸潰れな力を持っている錬金術師、隠したくなる気持ちも分からなくはない。
だが、これを利用しない手は無いだろう。
「……レイ、貴方が指揮官を務める方が良いのではないかしら?」
「私も姉さんに賛成するよ……ちびっ子よりも戦闘経験豊富そうだね」
「服の上からでも分かるわ。数え切れない程の戦いを強いられてきたはず……」
度重なる修練の果てに得た力を横から掻っ攫うのは、何と気持ちの良いものだろうか。
「蘇生能力や治療能力に特化しちまったから、正直戦闘ではあまり役に立たない。だから俺は俺で独自に動くつもりだ。誰かの指示に従うよりも臨機応変に対応した方が良いと考えてる」
「そう……残念ね」
そう思ったが、逆にこれは好機なのではないか?
戦闘では役に立たず、独自で動くという事はサポートに徹するという事でもあり、奴が前線には出てくる事は無いだろう。
もしも触られて能力でも使われていたら、幾ら階層喰いでも殺られていたであろう。
毒耐性を持っていないのだが、すでに死んでいるために毒は効かないはずだ。
(腐蝕液のようなもの以外は大丈夫なはず……)
そう思うが、確認した事は無い。
毒使いなんて今まで現れなかったから、喰う機会も確かめる機会も無かった。
「さて、俺からの説明は以上だ、サッサと本題に入ろう。頼むぜ、『魔帝』」
「……分かった」
そして、ここに犯人がいるとも知らずに、本題となる階層喰い掃討作戦が開始された。
もうすぐで、全てが終わりを迎えるだろう。
だが、もう我慢できそうにない。
だから早くここに来い、すぐにコイツを喰わしてやる、レイグルス=クラウディアという最高の餌をな……
俺の錬金術師における説明が終わり、メイルガストへとバトンタッチして、会議の本題へと突入する。
俺はそれを聞いて臨機応変に対応するだけだ。
そう思っていた時、底知れぬ悪意が何処かから発せられたのを感知した。
(やはり犯人が紛れ込んでやがるか……)
俺は先程、『犯人はこの中にいない』と言った。
しかし、それは俺を喰らうために犯人が動くかどうかを見極めるために吐いた嘘。
何処から湧いてくるのか分からず、俺は表情を崩さずに冷静を装った。
幸いな事に、他の奴等は小さな悪意には気付いていなかった。
(俺の能力が欲しいんだろ? だったら遠慮せず掛かってこいよ、犯人……悉くを返り討ちにしてやる)
悪意は悪意で、嘘は嘘で、職業は職業で返礼する。
霊魂を取り込んで職業を扱えるという変異な化け物を飼い慣らしている犯人が、誰に化けているのかはまだ分からないが、必ずボロを出すはずだ。
「さて、まず奴の能力について全員で共有しようと思う。作戦はその後だね」
メイルガストの意見に反対する者は誰もいなかった。
確かに、互いに知っている情報を伝えるべきなのだと俺は思うのだが、発言は最後にしよう。
「まず僕から、僕は会った事無いから知らないんだけど、噂とかから推測すると、透明化になる能力、或いは空間転移能力があると思っている」
確かに、冒険者が急に消えたと噂が広まっているため、そのどちらかであるのはまず間違いない。
そして、その推測は合っている。
「俺ちゃん達は四十八階層で遭ったぜ」
「ホントか?」
「何だよヴァンクス〜、俺ちゃんに先越されて悔しがってるのか?」
「うっせ! それより早く言えよ馬鹿」
「ハハッ、変わってねぇなぁ!」
嬉しそうに肩を叩くダイガルトだったのだが、こちらに目配せしてきたので、代わりに俺が言うべきだと言ってるように思えた。
ここで発言しなければ、ダイガルトが何を言うか分かったもんじゃない。
最後に発言しようと思ったのに……
俺は、仕方なく溜め息混じりに答える事にした。
「俺達はダイトのおっさんと共に封印されてた場所に赴いて確かめようとした。そこで俺達を襲うために壁の向こう側からやってきたんだが、穴を掘る能力、それから大量の顔が浮かんでたから捕食能力も持ってると分かった」
俺は炭素を固めたものと一枚の紙を用意して、錬成を発動させる。
「『錬成』」
バチバチと紙と炭素が融合して、そこには階層喰いの姿が絵として浮かんでいた。
これは単なる応用だが、意外と重宝している。
「へぇ、そんな使い方もできるんだ〜……ねぇねぇ! 私の絵も作ってよ!」
「これは俺達が見た時の姿だ。襲うために透明になってたから、『魔帝』の言ってた推測も当たっている。それから攻撃しても再生するから、普通には倒せない」
「無視しないでよ〜!」
鬱陶しい。
「こんな姿をしてたんだ……じゃあ、自殺した冒険者が言ってた『二本の角のシルエット』って、この事だったの?」
「そうらしい。それから、もう一つの『あ〜あ〜唸ってた』ってのは、喰われて表面に浮かび上がってきた冒険者の顔から発せられてたよ」
気持ち悪い印象を簡単に伝える。
まるで助けて〜と言ってるようにずっと唸っているから気持ち悪い。
恐らくは冒険者達を喰らった時、職業だけでなく、記憶とかも取り込んでしまったために、あんな事になっているようだ。
そうでなければ顔が浮かび上がる事は無い。
それにサイズが元よりも小さいのだ。
だから、記憶を読み取る力とかも持ってるはずだ。
「他に誰か能力について知ってる、或いは推測でも良い、何か無いか?」
他は分裂能力や瘴気を発生させる能力、後は重力操作もあるだろう。
「私も結構前に見たけど、その時は何かを吐き出して冒険者達を眠らせてたね」
ユーミットが語ったのは、強制昏倒能力があるという事実だった。
彼女も見た事があると言ったが、何処で……
「五十六階層でね、姉さんと二人で戦ってた時、少し遠くで休憩中の冒険者達が眠らされてたのを見たの」
「そうね。その後冒険者が忽然と消えて、私達が隠れてやり過ごした後、その場を調査したんだけど荷物だけが残ってたわ」
隠れてやり過ごした後で、残されていた冒険者達の装備や荷物の中にはギルドカードも入ってただろう。
「因みに五十六階層ってどんなところなんだ?」
「火山地帯だったわ。溶岩があって、それが明かりの代わりをしてたから、周囲が薄暗くて気付かれなかったのかもしれないわ」
成る程……だとすると、どうして化け物は冒険者達を見つけられたのだろうか。
いや、もう答えは分かってるはずだ。
そんな事より、喰らう喰らわないの基準がここで分かったように思える。
(裁縫師であるプルミット、それから音楽師であるユーミットの二人、階層喰いが喰ったとしても使い道が無い、からだろうか)
確かに俺としても、喰わないな。
プルミットの裁縫師は、魔力で糸を創り出し、その魔力を縫い針で色々と縫っていく。
縫うのなら、透明化した状態で食べに行った方が良いように思える。
音楽師も、隠密とは程遠い能力だ。
もしかして喰らう喰らわないの基準は、予め決められているのか?
(だったら、俺は喰われない……いや、さっきの悪意は俺に向けられたものだ。心配する必要は無いか)
それでも博打の要素が入っている以上、想定外の事態に陥る可能性もある。
「何かを吐き出してたって言ってたけど、それって?」
「さぁ。自分の身体を分裂させて攻撃したんじゃないかしらね?」
身体を分裂させられる利点の一つか。
だったら、何故俺達と戦った時は眠らせようとしなかったのだろうか、プルミットが嘘を吐いている?
いや、魔眼を通して見ても何も違和感は無い。
だとしたら可能性としては三つ、単に使わなかったか、或いは能力の貯蔵に問題があったか、それか俺達に強制睡眠が効かないと思ったか、だ。
(三つ目は有り得ないか)
俺達が即座に戦闘態勢に入ったから、撃てるタイミングが無かったのだろう。
「他には何か無いか?」
全員を見渡して、メイルガストは一旦話を区切って次の議題へと移る。
「なら、基本的な陣形に移ろう。十五人のうち、まずは前衛、中衛、後衛に分ける」
協議の結果、前衛はエレン、ヴァンクス、フレーナ、ミューレス、プルミットの五人が務める事になった。
中衛はダイガルト、エンジュ、ユーミット、リノ、セラの五人。
そして後衛はメイルガスト、ルンデック、オリーヴ、ユスティ、俺……
(まぁ、妥当な判断か)
正直、何処に現れるか分からない以上は先んじて罠を仕掛ける事もできないし、『真実を移す宝玉』で居場所が分かっても、結局は逃げられる可能性だってある。
正直、この中に犯人がいると分かっているので、モニター越しに伝えるという行為も危険だ。
(徒労に終わりそうだな)
どの階層に現れるか分からないし、そもそも襲われていない今が不思議だ。
全員、ここが襲われないであろうと高を括っている。
それも『魔を嫌う聖なる花』があるからだろう。
「前衛が近接攻撃を、中衛が前衛のサポート、後衛は遠距離攻撃、各々の判断で行ってもらう」
「透明化したらどうするの?」
「それは……」
フレーナが最も問題とする部分へと触れる。
透明化した場合、どうやって見分ければ良いのか弟へと聞いている。
「レイの魔眼があるじゃねぇか」
ダイガルトめ……せっかく黙っていたのに、もう少しは空気を読んでもらいたい。
全員から視線を向けられる。
「はぁ……透明化とかの能力は一切効かないんだ。だから俺なら見える」
「じゃあ、透明化したら居場所を常に知らせる、それで良いかい?」
「……分かったよ」
ここで断った場合、俺が犯人なのかと疑われる。
それに、洗脳とかの能力がバレないようにしなければならない。
本当に犯人にされかねないからな。
「再生についてはどうするの? 魔石、無いんでしょ?」
「……もう一度封印するしか無いかな。封印については僕に任せて欲しい」
魔法で何とかするとか。
方法は数分間の詠唱らしいが、言葉がブレたり失敗するとキャンセルされ、最初からやり直しだと。
まぁ、当然だな。
「なら封印の準備が整うまで、彼にモンスターを近付けさせなければ良いのね?」
プルミットの意見は概ね正しい。
しかし知恵を付けたモンスター程厄介なものはないだろうし、封印の準備が整うまでの時間、相手が攻めてこないとも限らない。
それなら、現れる場所に待機して封印の準備をしてた方が何倍もマシだ。
(問題は……)
犯人がここにいるという事だ。
何かしらの妨害工作はしてくるだろうと踏んでいるが、これからどうなるのかは会話次第。
モンスターであり、瘴気を放ってる以上、花によって守られている街へと入る事はできないはずだ。
『作戦は分かった。だが、どうにかして先手を打つ事はできないのか?』
ルンデックの質問には俺も同意見だ。
どうにかして先手を打ちたい気持ちはあるのだが、居場所が分からないため、不可能だろう。
それとも、コイツが犯人で確認のために質問したのだとしたら……
可能性は無限に等しい。
職業能力や異能の類いを組み合わせる事で別種の能力が発揮されたり、能力の新しい使い方が見つかったり、色々あるのだ。
「それは……方法は無くはない。けど、現実的じゃないんだよ」
『それはどういう?』
「方法は幾つかあるんだけど、問題は階層喰いが動き続けてる可能性が高い事にある」
『成る程、そういう事か』
探知や索敵に連なる魔法は持続する度に、どんどんと魔力を消耗していく。
つまり連続使用できない。
しかも相手が動き続けているため、魔法の種類は厳選されてしまう上、探知能力の範囲外だと捉える事ができないだろう。
いや、方法はあるな。
「この中で探知や探索、索敵の魔法を使える奴はいるか?」
「そんな事聞いてどうするつもり?」
「俺の魔力は無属性だから情報体は存在しない。つまり他人に譲渡したところで相手側に激痛が走る事無く供給可能って事だ。魔力に関しては魔力回復薬があるから魔力切れの心配は無い」
そもそも使う必要すら無いかもしれない。
「それなら私が使えます」
と、ここで意外なところでユスティが手を挙げる。
彼女の属性は、光、氷、そして狩猟魔法のはずだが、その中で使えそうなのがあるとは思えなかった。
「狩猟魔法の中には、特定の人物やモンスター、探し物が何処にあるのかを見られるものがあります」
「分かった、なら試してみよう。手を」
「し、失礼します……」
隣に座っていたユスティの手を握り、俺は彼女に必要な分の魔力を注ぎ込んでいく。
逆に彼女の鼓動が早まるのを感じた。
しかし即座に自分を律し、目を閉じ、深呼吸し、そして彼女は魔法に集中する。
「『万物が消え失せる その時まで ただ一つの獲物追い求めし我は 生粋の狩人なり エンドレスシーカー』」
彼女がイメージするのは階層喰い、それだけを追い求め、そして知覚する。
「ッ!?」
彼女の手がピクリと反応して、強く握り締めてくる。
冷や汗を掻いて、彼女は天井を見上げた。
「上から猛スピードでこちらに向かってきてます!!」
一瞬で緊迫した状況へと陥った。
まさか、巨大な穴から落ちてきているのかと思い、俺は外へと外へと出た。
それに続いて他の奴等も出てくる。
『ああぁぁあぁあぁあああぁあぁ!!!』
異形な姿の化け物が降ってきた。
身体を何個にも分裂させて、その物体は遥か高い場所から俺達のいる街目掛けて落ちてきたのだ。
咆哮と共に何かが雨のように落ちてきて、周囲の建物へと打ち当たる。
「建物が溶けてやがる……強酸能力か」
後十秒もしないうちに戦闘が始まってしまう。
やはり作戦が決行される前に全員を始末しようと考えたのかもしれない。
二刀を錬成して、自然と構えていた。
「セラ!」
「『固定付与・ガードスキン』!」
即座に互いに判断し合い、俺がセラへ、セラが俺の意を汲んで皆へ、付与が行われる。
十分という枷が解かれたのは良いが、時間経過と共にセラの魔力が減り続ける。
「ボサッとしてんな! 戦闘準備!!」
瘴気が先日会敵した時とは比にならないくらい増えているため、恐らく更に喰らったのだろう。
他の奴等が、急にここに来た階層喰いの異常すぎる光景を見て、棒立ちとなっていたので叱責した。
しかし、封印するためには時間稼ぎが必要となろうが、多くの冒険者達が逃げ惑うせいで統率も取れず、俺の声も聞こえていないようだった。
(クソッ、やはり先手取られたか……だが、これで犯人がこの中にいるのは確実になったな)
この中の誰かが犯人、しかし確認する前に階層喰いとの戦いに身を投じなければならない状況は、こちらとしては予想の範疇だが……
子供のメイルガストにとっては、考えもしなかった事らしい。
慌てふためいているせいで、指揮どころではない。
ここら辺はあまり経験無いようだが、よくこれで上級冒険者になれたもんだ。
「お前は魔法に集中しろ。俺は後衛だが臨機応変、自由に動かさせても――」
「ま、待ってくれ!」
先に前へと出て行こうとしたところを止められて、俺は振り返る。
何かを言いたそうにしているが、時間は無い。
戦う戦わないと言ってる暇が無いので、俺も戦闘には参加するつもりだが……
「悔しいけど、僕より貴方の方が指揮に向いてる、と思うんだ」
「俺に指揮を執れ、と?」
「僕達は犯人がいると思ってなかったし、貴方の能力、思考力、判断力、恐らく全てにおいて僕より貴方が適任だと、そう思ってしまった」
悔しそうに歯噛みする。
「俺は指揮するタイプじゃないんだがなぁ」
もう、階層喰いが目前まで迫ってきているのだが……
こんな事をしている場合ではない。
だが、封印魔法を使うために詠唱や魔法陣設置、方法はともかく彼には役割があり、自由にできる俺の方が最適なのかもしれない。
しかし、周囲を見てみると全員こっち見てくるので、俺がやるしかなさそうだ。
「良いだろう。なら、個人が狙われないように散開して前衛、中衛、後衛を担当、それぞれ動き続け、敵に攻撃しろ。止まれば触手の餌食だ。後は好きにしろ、必要な時だけ指示する」
「それだけ?」
「それだけだ。俺は俺で動くっつったろ、ホントは指揮なんてガラじゃないからな」
説明が終わった瞬間、奴は地へ降り立ち、俺と目が合った。
狙いは俺、か。
悪意が俺の全身を震わせて、一気に戦闘欲が高まっていった。
「それじゃ、戦闘開始だ」
今、俺は笑っているのだろうか。
だが、短剣を握る手は汗塗れで、身体が僅かに震えて戦いたいと願う。
武者振るいし、笑みが零れ落ちる……気がする。
汗が頬を伝わり、重力に従って地面へと落ちた瞬間、俺は自分の意のままにスタートダッシュし、獲物目掛けて駆け出した。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
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