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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
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第97話 顔合わせ 中編

 互いにギスギスした状態で、会議がスタートした。

 ワザと相手の挑発に乗って、こちらから相手を怒らせるような真似をした事が原因なのだが、それで相手の様子を探ったけど誰も尻尾を出さない。

 ま、当たり前か。

 向こうから喧嘩吹っかけてきたので試したのだが、実力的にはSランクはエルフ二人と焔姫、それから月光だけだろう。

 男より女の方が強いとは、世も末だな。

 しかし強い人間がいなければ、モンスターを倒す事ができない。


「それでは、これより階層喰い(フロアイーター)掃討作戦対策会議を始める」


 この場の指揮権は俺には無い。

 指揮権があるのは『魔帝』なのだが、反対してる人が何人かいた。

 ってか、ダイガルトとエレンの二人が来てない。

 あの二人も参加するって聞いたんだが……


「まずは互いに名前と職業を教えてもらいたい」


 ナイスな判断だ。

 これで俺から言い出さずとも嘘かどうかを見極められるというものだ。

 もしも嘘を吐いていたら死霊術師、犯人である可能性が高くなり、逆に全員が本当の事を言っていた場合は犯人が別の場所にいるという事になろう。

 ならば、俺がやる事はメイルガストを程良く操って情報を引き出させる事だ。


「僕はメイルガスト=ファン=フィンガー、賢者の職業を持ってる。そして、こっちが僕の姉の……」

「はいは〜い! フレーナで〜す! 職業は炎舞師、踊り子だよ〜!」


 踊り子なのに魔剣を持っているようだが、どんな戦い方をするのかは大体想像付く。

 人族で中間名(ミドルネーム)があるという事は、彼等は貴族という事になる。

 冒険者活動なんざする必要無いと思った。


「姉弟だったのか」

「弟がごめんね〜、この子、性格は悪いんだけど根は優しいから仲良くしてあげてね〜」

「余計な事言うなよ!」


 すぐに話から脱線してしまう。

 時間は明日まであるので、少し脱線したところで支障は無いのだが、餓鬼のお守りで付いてきたらしいな。

 顔は似ているが、髪の色は正反対だし、性格もまるで別だった。


(似てねぇな)


 いや逆なのか、魔帝が焔姫のお守りをしているような気がする。


「ミューレス、武器屋」


 そう素っ気無く答え、ずっと武器の手入れをしているのは月兎族、『月光ミューレス』だ。

 数多くの武器を隠し持っており、話し掛けてくるなとばかりに殺気を漏らしている。

 武器屋という職業は知らない。

 未知なる職業の一つなのだろうが、武器屋という事は大量の武器を生み出したりできるはずだ。


「私はエルシード聖樹国発祥、プルミット=エルシード=ナフォルジア、裁縫師を生業としている者よ」

「私もエルシード聖樹国発祥、ユーミット=エルシード=ナフォルジア、私は音楽師だよ」


 瓜二つの姉妹であるのだが、目の色が違う。

 姉が蒼の瞳、妹が緑の瞳、ユスティを半分に分けたような色合いがある。

 エルフは水や木々の瞳を愛する。

 逆に赤い瞳や黒に近しい暗い瞳は敬遠されるとか。

 不思議な種族であるのは確かだが、それだけ森を愛しているという意味だ。


『自分はルンデック、喉を焼かれてしまい、このような形で話をする事、謝罪する』


 エルフ達の隣に座っていた髑髏の仮面を被った奴が、杖を手に魔法文字を空中へと書いていく。

 喋れないからこその筆談か。

 意思疎通さえできれば別に何の問題も無いが、素顔だけは見ておきたいと思った。


『自分は闇魔導師、召喚術や降霊術、そういったものが得意である』


 魔導師の中でも希少な闇属性に特化した魔導師だが、パーティーの中で一人いるとかなり有り難い存在だと俺は思っている。

 忌避されがちなのだが、能力としては申し分無い。

 嘘も吐いてないし、今のところ全員白だろうか。


「次だぞ、犬っころ」

「その呼び方止めろや!」


 席順的に、次は『獣王の館』メンバーの二人だ。

 本当は三人参加するそうで、一昨日ユスティを勧誘していたオリーヴも掃討作戦に入るそうなのだが、何故か見当たらない。


「ったく……俺様はヴァンクス=イーガー、双剣王だ」

「はーい、エンジュでーす。エンジュは発掘家なのですよー」


 これで獣人は四人も参加する事になった訳だが、砂漠地帯の犬や極寒地帯の狼が掃討作戦に参加しているというのは何だか不思議だ。

 本来出会うはずもない種族達が出会っている。

 これも何かの縁、なのかもしれない。


「次は我か。我はリィズノイン、案内人だ」

「案内人……未来予知者か」

「まぁ、未来を予知できるが、最近まで魔力回路に異常があってな、あまり期待しないでもらおう」


 リノの魔力回路は、小さい頃に父親と一緒にモンスター退治に出掛けた際に暴発、それにより父親が彼女の魔力回路を矯正した。

 それを矯正し直したため、今では前よりも未来予知の精度は増している。

 しかし、このダンジョンの中では見にくいそうで、彼女も四苦八苦している。


「アタシはセルヴィーネ=エルガー=ラスティヴェイド、魔法付与師よ」

「その精度は?」


 魔帝がセラの能力に関心を示したようで、その能力の精度について聞いていた。


「参加人数って十五人なんでしょ? だったら大丈夫よ、全員に付与できるわ。基本的に十分で効果は切れるけど、持続回復とか反魔法支援(デバフ)とかも可能よ」


 側で説明を聞いているのだが、聞けば聞く程に敵に回したくない能力だと思わされ、セラの能力もまだまだ未知数に思える。

 ナフォルジア姉妹の職業も戦闘向きではないだろうけど、それでもかなりの強さを持っているようだ。


「私はユーステティアと申します。えっと、職業は狩猟師です」


 変に目立たないようにと、彼女は嘘を吐いた。

 職業の種類は合っているが、クラスが違う。

 彼女は『神』クラス、ヴァンクスの双剣王よりも上の職業であるのだ。

 しかし、職業の強さはクラスによって決まるものではなく、それは単なる才能の違いでしかない。


「もう始まってたか。悪りぃ悪りぃ、寝てたら時間になってたぜ」

「だから言っただろう、昼寝は止めておけ、と」


 階段から降りてきたのは、『迷宮王(ダイガルト)』と『鳴雷(エレン)』の二名、片方は眠たそうに欠伸を漏らしながら、もう片方は愚痴を零しながら俺達のいるテーブル前に堂々と立った。


「参加メンバーは、これで全員か?」

「後一人来てねぇよ、迷宮王」

「おぉ、ヴァンクスじゃねぇか! 久し振りだなぁ!」


 相変わらず空気も読まずに、ヴァンクスの肩を叩いて楽しそうにニコニコしている。


「で、もう作戦会議終わっちまったか?」

「自己紹介中だ。名前と職業を言えってよ」

「へぇ……俺ちゃんはダイガルト=コナー、特攻探索師って職業だ、よろしくな!」


 遅れてきた事を悪びれずに、ニコやかな笑顔で自己紹介を勝手に行う。


「遅れて済まない。エレン=スプライト、職業は剣神だ、よろしく頼む」

「んで、これで全員自己紹介したって事で良いのか?」

「後は俺と『獣王の館』のサブリーダーのみらしい」


 魔力探知で何処にいるのか探ってみるが、この宿にはいないらしい。

 調香師という職業を持っていたから、調合のために部屋にいたりするのかと思ったが、ここにはいないという事はもしかして参加する気が無い、とか?


「なぁ、アンタ等の副団長来ないが、良いのか?」

「俺様が話を聞いときゃ問題無い」

「そうか……」


 クランの問題だから、俺が何を言ったところで取り合ってはくれないだろう。

 今も敵意を向けられている。

 それだけならまだしも、睨み付けられているのだ。


「で、テメェの職業は何だよ?」


 そう聞かれたので、ここから幾つかの準備を始めようと思って、テーブルの下にある手から、この空間にいる奴等へと気付かれないよう干渉する。


(『因果錬成(モディファイド)』)


 因果を操り、時間差で一つの能力が発動するように仕組んだ。

 これで一つ、準備が完了した。


「あぁ、そうだな。俺はレイグルス=クラウディア、錬金術師だ」


 俺が職業を言うと、全員の顔が曇ってしまった。

 俺が錬金術師だからだろうが、やはり全員の認識としては錬金術師=外れ職業、ってところだろう。

 職業の力を引き出すのは個人の能力だが、幾ら才能が無くとも俺以外の誰かが錬金術師という職業を授かって実力を発揮してたりするはずだ。

 しかし、実際には現在俺以外に生きてる錬金術師について聞いた事無いし、錬金術師は存在していないのだろうか?


(ウルックは前に殺したとか言ってたけど……)


 魔神騒動の時に戦った魔族が錬金術師について言ってたのだが、それ以外の情報は無い。

 少し前に殺したらしいが、魔族の少しが人間で言うところの数十年という可能性が高い。

 もしかして錬金術師って、一人しか――


「何で錬金術師如きが掃討作戦に参加してんだよ?」

「フランシスに頼まれたからな」

「ハッ、ションベン臭ぇ餓鬼にクズ職持ちとは、本当に作戦を成功させる気あんのかねぇ?」


 明らかに殆どの人間を敵に回す発言だが、それだけ自分の職業に自信と誇りを持っているようだ。

 だが、それは命取りとなる。

 自信持って調子に乗ってる奴から死んでいくのだ。


「お前が参加するよりはマシだな」


 ここで罵っておく事が一番効率的だな。

 それが次には効果が現れる。


「はぁ!? クズ職が舐めてんじゃねぇぞ! 一体テメェに何ができる!!」


 何ができるか……

 低級ポーションしか作れないと思っているようなので、ここでハッキリと伝え、いるかもしれない犯人に俺の能力(・・・・)が欲しいと(・・・・・)思うよう(・・・・)説明をする。


「ハッキリ言って色々ある。まず、錬成によって物質の形状変化が可能だ……『錬成アルター』」


 腕輪を錬成し、一振りの短剣へと変えた。

 それに驚きを示す者が殆どの中、冷静に判断して意見したのはナフォルジア姉妹の姉だった。


「それは……魔剣を腕輪の形にして、戻しただけじゃないの?」

「なら、見てみろ」


 それには魔法的なものは一切付与されていないし、魔剣とかのような特殊な力が入ってる訳でもない。

 青い目が淡く光を灯して、短剣の性質を見極める。

 しかし、数秒後には何の効力も持ってないと分かり、俺へと短剣を返す。


「どうやら本当のようね」

「魔法で誤魔化しただけだろ、クソが」


 悪態吐くヴァンクスを無視して、腕輪へと戻してから次の能力説明へと移行する。


「物質を分解、再構築、人体を弄って身体機能を変化させる事で俺の能力は――」

「どういう事なの?」


 と、話を理解できなかったのか、ユーミットが話に割り込んできた。

 まだ途中なんだが……

 いや、実演してみるのも有りか。


「『獣人変化(メタモルビースト)』」


 身体に手を当てて、一気に自分の存在を人族から獣人族へと変化させた。


「このように、人間の身体構成を組み換えたりもできるんだよ。五感の発達、感覚の鋭敏化、肉体性能、そして第六感、全てにおいて上昇している」

「すっご〜い……それ自前?」


 何気に興味を持っているのは犯人よりもフレーナだ。

 目を輝かせて、子供のように俺の狼耳を触りたそうに手をワキワキと動かしているのだ。

 触らせないぞ……

 身体の構造を元に戻して次の説明に移ろうとするが、その前にユーミットが質問する。


「ねぇ、身体の構造を変えられるんなら、傷とかも治せたりする?」

「可能だ。それに加えて回復薬は普通の薬師よりもずっと強いのも保証しておこう。後は……そうだな、能力に弱点があるから教えておこう。これはテメェ等を信用して(・・・・・・・・・)話すんだ(・・・・)、絶対に他人に漏らすなよ」


 隣に座っている三人が有り得ないというような表情をしている、そう思ったのだが、俺の意図を理解してくれているようで、全員無関心を装っていた。

 リノは何気に気が回るし、ユスティは俺の本質を見抜いている。

 一番驚きなのはセラ、彼女が俺の目的を瞬時に理解して目を瞑っているのは意外だった。


「俺の能力には幾つか制限がある。まず一つはこの手で触れないと発動しない事だ。だから遠くにいる奴等には効果は無い」

「それって、手が離れた瞬間に効果が無くなるって事で良いの?」

「あぁ、そう捉えてくれて構わないぜ、『魔帝』」


 実際には手で触れていなくとも、設置点、触れている箇所があれば問題無く能力が発動できる。

 そしてまず一つ、俺の能力は触れている物体にも影響を与えるため、例えば何重にも重なった鎖の先が遥か遠い敵に当たったとして、俺の能力は発動する。

 つまり、俺の身体に触れている物も俺の身体の一部と認識される。

 まずここで嘘を吐いたのは、俺が近距離でしか戦えないと思わせるため、要するに俺自身を囮として使うための布石にした。


「ハッ、使えねぇな。役立たずじゃねぇか」

「口喧嘩で負けたからってー、リーダーキレてません?」

「う、ウルセェぞエンジュ!」


 馬鹿がいてくれて助かった。

 こういった馬鹿が簡単に信じてくれるからこそ、俺は楽に操る事ができる。

 こっちとしても、ただ相手が何を考えているか、よりも相手を怒らせて反感を持たせた上で何を考えているかを探る方がよっぽど楽だ。

 因みに、さっき述べた能力の数々は別にバレたところで大した問題にはならない。

 バレると不味いのは、蘇生や人体爆発、洗脳といった能力ばかりだ。


「錬金術師の能力は、対象に触れるだけで相手を破壊する事ができる。だが、弱点はまだある」


 一つ目の弱点は対象の距離だった。

 次は……


「この能力、一つ使うと他が使えなくなるって事だ」

「じゃあ、さっきみたいに獣人化したら他が使えなくなるって事よね?」

「そうだ」


 これは真っ赤な嘘だ。

 幾つ同時進行で使おうとも、全てが同じ精度で使えるのだから便利だと思うが、それを相手が知る必要は無い。

 ワザと弱点を教えてやってるのだから。


「三つ目だが、俺の能力は鍵言ワードが必要になる」

「わーど? それって魔法を唱えるのと同じようなものって事だよね?」


 ヴァンクスと違って、メイルガストはすぐに順応する。

 馬鹿にはされていたし実質俺も馬鹿にしたのだが、すぐに自分の認識を改めるところは美点だろう。


「あぁ、喉を潰されたらお終いだ。魔法のように無詠唱ができないんだよ」

「成る程、不便だね〜」


 気楽に言うが、フレーナの目には俺がどう映っているのだろうか。

 不敵な笑みを浮かべている。

 もしかして俺の能力に気付いている?


「四つ目、これ等の能力の制限が付いた理由は、俺の蘇生能力にある」

「そ、蘇生!?」

「あぁ、これが最も制限の多いものだが、第一まず使えば俺が死ぬ。第二に、この能力を使えば他者が完全に生き返るが対象は一人のみ、第三に蘇生能力は死んでから一時間以内しか効力は無い」

「待って! つ、使った事はあるの?」


 即座にそこに気付くとは十四歳、流石だ。


「いや、職業選別の儀式で授かった時に、能力や弱点について全て知った」


 使った事は無い、そうアピールしておく。

 俺は暗黒龍ゼアンの使徒として、魂の契約を勝手にされてしまった。

 よって、超回復によって死ねなくなってしまった。

 だが、それ等を伝える事はせずに、犯人自身が仮に死んでしまったとしても保険があるんだよ、と暗示する。

 階層喰い(フロアイーター)は職業能力を使える、それは犯人が一番理解している事でもあり、俺を取り込んだ場合におけるリスクよりもリターンを考えるだろう。

 最悪、自分が死んでもモンスターを犠牲にするだけで生き返るのだから。


「そして五つ目だ」

「まだあるんすかー?」


 棒読みで聞かれると、面倒だからもう話さなくて良いんじゃ無いっすか、的な事を言われてる気がする。

 彼女の本心が何処にあるのか、まぁ今は置いとこう。


「あぁ、これが最も重要な事だ」


 最後の弱点として俺は一つ全員に伝えておく。


「錬金術師って職業は、能力を相手に伝える事が一番の弱点に成り得るのさ」

「……どういう事なの?」

「さっぱり分かんないね」


 プルミットとユーミットの二人が顔を見合わせて首を傾げていた。

 ナフォルジア姉妹、そこはもう少し考えてくれよと思うが、もしかしたら彼女達が犯人の可能性も有り得るため、彼女達の意見に乗っかる。


「さっき俺の能力は直接手で触れないと駄目だって言っただろ?」

「そうね」

「要するに、だ。もしもこの中に犯人がいれば、俺の弱点を知ってるから遠距離で攻撃してくる可能性があるって事なのさ」

「だったら何でワザワザ弱点を晒したの?」


 俺の欲しかった質問が来てくれた。

 ありがとうユーミット、お前のお陰で全ての布石は位置について完成する。


「まず前提として、教会の連中が錬金術師という職業の能力を偽って流布しているためだ」

「それが弱点を晒す事と関係あるのかしら?」

「それが大有りなんだ。この掃討作戦において、他人の職業の詳しい事が分からなければ、攻略法は立てられない。そうだな、魔帝?」

「一々こっちに振らないでよ……」


 そりゃ、悪かった。


「俺が最初に錬金術師だって言った時、テメェ等はどう思った?」

「そ、それは……」

「役に立たないって思ったわ。ヴァンクスと一緒の思考なんてガッカリね」

「っざけんな! 殺すぞエルフ!!」

「やってみなさい、子犬さん」

「話、続けるぞ?」

「待てやクソど――」

「良いわ」


 ヴァンクスはただ喧しいだけだが、今はそんな事よりもしっかりとした説明が必要だ。

 俺の能力の全貌を、事実と嘘を混ぜて語り続ける。

 話したところで、結局は意味が無いのだから……


「つまり、俺の能力は戦闘に役に立たないって思われちまってるんだ。それを解消するために能力を話した」

「それは分かったわ。けど、弱点を晒す必要は無かったんじゃない? ここに犯人がいるかもしれ……ちょっと待ちなさい、犯人は階層喰い(フロアイーター)なんじゃないの?」


 ここで彼等に緊迫とした動揺が走ったのを、俺は見逃さなかった。

 今まで分からなかった事実、裏で糸を引いている黒幕がいるのだとワザと俺が伝えた。

 全員が驚いているように思えるのだが、ルンデックだけは表情が読み取りにくい。

 ってか、仮面のせいで分からん。

 とは言っても、杖を握っている握力が強くなっているところを見るに、驚いているようだ。

 そんな感情も見える。


「これは俺の推測だが、階層喰い(フロアイーター)はすでに死んでいて、誰かが操ってるんじゃないかって思ってるんだ。これを見ろ」


 ポーチから、今朝方貰ってきた封書を取り出す。

 フランシスに用意してもらった、犯人を生け捕りにした場合の報酬上乗せの確約書だ。


「どうして犯人がいると?」

「理由は幾つかあるんだが、確信が持てたのはエレンが仲間から固定付与された追跡魔法について、反応が消えてたからだ」


 俺は全員に分かるように伝える。

 半年前仲間が死に際に追跡魔法を付与した事、その魔法効果は『生存者』の位置を特定できるという事、そして途中で反応が消えたために死んだのだという事、そして死んだにも関わらず動いているため、死霊術師が裏で操っているのではないかと思った事、全てだ。


「成る程、ね。それだけの情報でそこまで……」

「それで、今は何処にいるか分からないんだよね?」

「済まないな、私に付与されたものはすでに解けてしまっているんだ」


 居場所が分からないという事は、つまり現在近くにいる可能性だってあるという事だ。


「じゃあ、この中に犯人が?」


 全員が互いを見合うが、俺はそれを否定する。


「いや、俺はそうは思わない。正直、この中に犯人はいないと思ってる」

「はぁ? さっきと真逆の意見ね……どういう事?」


 『どういう事?』という表現に嘘の色が見えたので、恐らくは理解しているのだろう。

 だから俺はリノの意見を参考にして、もう少し手を加えて説明する事にした。


「そもそも犯人が掃討作戦に参加する理由は無いんだ。それに参加してワザワザ自分の操ってるモンスターを倒す奴はいないだろう」

「でも、それって可能性でしょ?」

「あぁ。だが、もしも操ってんなら作戦会議に参加する危険を冒すよりは、盗聴して別のところで俯瞰してる方が効率的だろうし、俺ならそうする。モニターがあるのは恐らくここだけ、ここを会議室として使用するのは予想しやすいしな」


 嘘で塗り固められた発言にも、一つ理由がある。

 相手が嘘発見の能力を持っている可能性、或いは俺の能力に関して何処かで見ていた可能性があれば、行動に矛盾が生じ、それに気付けるはずだ。

 蘇生能力がバレるのは不味いのだが、ここで口止めしておく事は一つの脅しとなる。

 ワザと教えた意味を理解できなければ犯人はそれだけの人物だった、逆に理解できたならそれだけ怜悧な犯人であるという事だ。


(ま、ヴァンクスやフレーナ辺りは、あんま深く理解してなさそうだが……)


 他人に触れ回ったところで、聞いた者は錬金術師という職業にそのような力があるとは思わない。

 それが、長年に渡って培われた偏見である。

 今回はそれが助けとなるのだが、普段は邪魔な弊害でしかない。

 蘇生能力、もしも本当ならば魅力的なものだ。

 現実世界はゲームのようにボタンを押してリセットしたりはできない、だから蘇生能力という巨大な餌を水面下に垂らして獲物が引っ掛かるのを静かに待つ。


『一つ聞きたい』


 ここで新たに質問するのは、ルンデック。


「何だ?」

『怪我の回復の精度はどれくらいだ? 蘇生までできるのだとすると、それだけ回復能力に長けていると考える』

「まぁ、当然の疑問だな」


 どうすれば良いか……

 腕を斬り落として修復する事もできるのだが、痛いし、面倒だし、斬り落とすのは無しだな。


「見せられなくて悪いが、腕や足、部位欠損や失明、簡単な病気から不治の病まで、そういったものは全て修復可能だ。そこにいるユスティの両目も人工の魔眼だ」

「そ、そうなの!?」

「はい。一度目を焼かれたのを、ご主人様に治して貰いました」


 彼女が俺の才能の証、彼女の二つの瞳は魔眼となっているのだ。

 食い付いたのはフレーナ、ユスティの目を凝視する。

 真っ赤な瞳が双眸を射抜く。


「他には何か質問はあるか?」

「精霊術は使える?」


 プルミットの指摘は正しい。

 しかし、ここでどう答えるのが正しいのだろうか。

 もしも使えると答えれば、階層喰い(フロアイーター)と戦っていた事について俯瞰していたのかという確認が取れず、逆に使えないと答えれば戦ったという事について何かしらの反応があるように思える。

 しかしその場合、相手はより警戒する。

 何故嘘吐いてるか、疑問に思うからだ。

 面倒臭い、こんな事する性分ではないと自分でも分かっているだろう、ノア……


「使えない訳じゃないが、階層喰い(フロアイーター)戦において有効打にはならない。人族には本来、精霊術は使えないからな」


 俺は精霊ステラと契約したから偶然にも精霊回路をゲットできたのだが、雷の精霊術でさえ再生しようとしていたのだ。

 だから毒物を大量に作ったのだ。

 それが、俺の二つの薬草鞄に入っている。


「俺の攻撃方法は調合毒による武器錬成だ。世界三大猛毒より強力なものを作った。中には武器にできる毒もある」

「成る程……」

「他に簡易手榴弾や灯油とかも作った。燃やしたり、爆破したり、色々とできる」


 俺には多彩な秘匿技術がある。

 全てバレたところで、ただ狙われるだけで俺としては強力な職業能力をフル稼働させられるので、バレてもバレずともデメリットは少ない。

 どうせ最後にはバレるだろうし、最終的に彼等は全てを忘れるだろうしな。


「さて、まだ俺が錬金術師という事に文句でも?」

「「「……」」」


 全員押し黙る。

 これで誰もが俺という存在を認めた、という事で良いのだろうか?

 他の職業には不遇優遇の高低差はあれども全て使える職業だったが、俺は不遇職、つまり最初に全員に伝える事から始めなければならない。

 信じるかどうかは彼等に任せて、宝となる情報を与えていく。

 その中に毒を混ぜ、彼等を侵蝕する。


(さて、これでどう動くか……)


 もしかしたら、階層喰い(フロアイーター)を操って何かしら攻撃してくるかもしれない。

 それに蘇生能力というのは、希少すぎる。

 必ず釣れるだろうと思い、俺は言葉の薬毒を同時に撒いたのだ。


「……レイ、貴方が指揮官を務める方が良いのではないかしら?」

「私も姉さんに賛成するよ」


 ナフォルジア姉妹が俺を擁立するが、別に必要無い。

 メイルガストという適任者がいるのだ、俺がリーダーとなったら動きにくくなるだろうから、俺は絶対になりたくないのだ。


「ちびっ子よりも戦闘経験豊富そうだね」

「服の上からでも分かるわ。数え切れない程の戦いを強いられてきたはず……」


 プルミットの目が淡く光っているので、透過能力か、或いは解析能力でも持ち合わせているのだろう。

 ユーミットも緑の瞳に光が宿っている。

 同じ魔眼なのか?


「蘇生能力や治療能力に特化しちまったから、正直戦闘ではあまり役に立たない。だから俺は俺で独自に動くつもりだ。誰かの指示に従うよりも臨機応変に対応した方が良いと考えてる」

「そう……残念ね」


 残念そうには見えないな、エルフの考えている事はやはりよく分からん。

 今のところエルフの知り合いは三人だが、その三人も個性は違えども何を考えているのか、表情からは読み取りにくかった。

 いや、グローリアは読みやすかったな。

 他人の感情を読み取るのは結構得意なのだが、彼女達からはほぼ読み取れない。


(霊王眼があって良かった)


 この魔眼には何度も助けられてきた。

 暗黒龍ゼアンから貰ったというのは少し癪だが、それでも俺の精神に安寧を齎す。


(蘇生について口にした事は覚悟していたから仕方ないが、これで釣れなければ間違いなく大損だな)


 魚を上手に釣る方法は、釣り針に仕込んだ餌を美味しそうに見せる事だ。

 垂らした餌に食い付くか、或いは様子見か、犯人のお手並み拝見だ。






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