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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
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第96話 顔合わせ 前編

 迷宮探索は一度中断する事になった。

 理由は掃討作戦に参加するからであり、フランシスから預かった書状を影に仕舞って、迷宮四十九階層へと戻ってきた。

 天井を見てみるが、修復機能はあまり作用しておらず、穴が空いたままだ。


「確か午後三時からなのよね?」

「あぁ。今は昼の二時、後一時間だ」


 宿に荷物を降ろして全員、部屋に集まっていた。

 何故かと言うと、顔合わせをする前に全員で一度話し合っておこうとなったからだ。

 発案者はリノ、未来予知がまたもや反応したか?


「場所は会議場、この建物の一階だ」


 本来は酒場となっているのだが、今日は生憎と作戦会議のために貸し切っていて、顔合わせのメンバー以外は部屋で大人しくしているか、或いは周辺の散策をしていろとのお達しだ。

 盗み聞きはできないようだ。

 これもギルドの命令であり、モニターは一階にあるから連絡も取りやすい。


「参加メンバーは知らんが、恐らくAやSランク冒険者の中でも猛者達が参加する。セラ、暴れるなよ?」

「わ、分かってるわよ」


 一番に地雷を踏みそうなセラを諫めて、俺はリノへと視線を向けた。


「で、何か見たのか、リノ?」

「いや、そうではないのだが……気になる事があったから聞いときたくてな」


 気になる事とは?


「ノア殿は犯人が参加メンバーにいると思っているのであろう?」

「まぁな」

「だとすると、階層喰い(フロアイーター)を一緒に倒すという事になる訳だが、果たして犯人がそんな事するだろうか?」


 要するにリノが言いたいのは、操ってるモンスターを倒すという作戦に参加して、犯人にメリットはあるのかと疑問に思っているらしい。

 メリットならある。

 少なくとも戦って一緒に倒す事で、犯人がそんな事するはずがないと思い込ませる事ができ、仲間意識も生まれたりする可能性も有り得る。


「それに、間近で観察する名目もあるだろうしな」

「どういう事?」

「犯人の目的が何にせよ、近くで自分の研究成果を見たいと思うのは極自然の事だろう。ま、俺の考えが間違ってるって可能性の方が高いだろうけど」


 俺の考えが間違っているかもしれないが、合っていようとも間違っていようとも、些細な問題でしかない。

 犯人がいて、俺達はそれを捕まえる。

 単純明快シンプル・イズ・ベストであるが、その過程には幾つもの障害が待ち受けている。


「こっちの方は大して犯人に繋がる手掛かりが無いから、頭の片隅にでも仕舞っといてくれ」


 時間はまだあるので、俺は先の戦いでの事を思い出しながら、影から七つ全ての薬草鞄を取り出した。


「レイ、何するの?」

「幾つか毒薬とか必要な液体物質を作ろうと思ってな。昨日のうちに必要な素材は買ったし、対階層喰い(フロアイーター)用に作っといて損は無いからな」


 こうも落ち着いて作れる機会はそうそう見つからないからこそ、今が好機チャンスだと判断する。

 皮膚感染する猛毒、毒霧として気化する猛毒、錬成で武器にできる固形毒、体内で細胞を分解する特殊猛毒、硫酸以上に物質を溶かす強酸毒、全て俺の錬金術以外では解毒不可能なものを作り出す。

 七つの鞄を開いて、必要なものを取り出して、それ等の蓋を開いた瞬間に干渉、抽出、分離、攪拌、融合、そして圧縮、全てを最適な手順で組み換え続ける。


「アンタ……それ、メッチャ危なくない?」

「あぁ、危ねぇな。世界三大猛毒を凌駕するものばかりだ。初めは作る必要性を感じなかったが、こうでもしなきゃ倒し切れない気がすると思った」


 今回は大っぴらに影を使わないと決めているので、こうして超強力な猛毒を作っている。

 劇薬である以上、俺でも誤って触ったりしてしまえば溶けたり再生が遅れたりするが、これから対峙するのは冒険者を六十人以上喰った化け物で、職業能力を駆使するために未知なる部分が多いのだ。

 だから、できる事は今のうちにしておきたい。

 猛毒耐性があったところで、俺の作る猛毒はそれを超えるだけの力がある。


「凄いな、この銀色に光るのが毒なのか?」

「いや、その銀色のは魔銀ミスリルを主体にした液体金属油だ。可燃性物質の油脂を大量に融合したから、火を近付けるんじゃないぞ」


 名付けるなら……『銀焼油』、かな。


「あの化け物を燃やすために作ったんだよ」


 ミスリルは魔力伝導率が非常に高い物質であるのだが、伝導率が高いだけで無限に魔力を内包できる訳ではなく、注ぎ続けて飽和状態となった魔力は熱エネルギーへと変換され、ミスリルそのものが熱を持つ。

 その熱が超引火性物質を瞬間的に温めて、数秒後には燃えて液体体積が一気に数千倍まで広がる仕組みになるよう錬成した。

 ギリギリまで魔力を注入してある銀焼油に、魔力を注いでから投げ付ければ大爆発を引き起こすはずだ。

 これは改良というよりは改悪だな。

 簡易版手榴弾という訳だが、投擲の実験もしておきたいと思ったので、魔力を注いだのを十個、注いでないのを五個作っておいた。

 霊王眼があるので、見分けはできる。


「こちらの真っ黒なのは毒なのでしょうか?」

「そっちは、加水分解すると発生する毒霧だ。水辺に垂らすと大量に霧が発生する。多分、水の精霊術でも発動すると思ったから、試しに作ってみた」


 水を加えない状態では中和されているのだが、水によって物質が化学反応を引き起こして分解、毒が気化して霧として対象物を襲うようにした。

 これは世界三大猛毒の一つ、星喰らいエルナスの死毒を参考に作ったものだ。

 その生き物は、今は月を巣にしているエルナスと呼ばれる宇宙のモンスターであり、ソイツが放つ毒霧は宇宙の全てを滅ぼすとまで言われた力を持つ。

 滅多に攻撃してこないし、月を食べようとしないが、数十年前に一度だけ地上へと落ちてきて十四ヶ国失われたと文献に載っていた。


「『星喰らう毒霧(エルナスタ)』とでも名付けるか」


 再生持ちなら、その再生を消す事もできよう。

 しかし、これ等二つだけでは懸念があり、更にこの毒霧は相手を閉じ込めた時にしか使えないだろう。

 閉鎖空間外では、毒霧が周囲へと漏れて全滅する。

 まぁ、何かの役に立つかもしれないと考えたので作ってみたのだ。

 場合によっては使えるかもしれない。


「ねぇ、この毒々しい小さな液体も毒?」

「ん? あぁ、それは武器錬成で必要な毒の一つだ。貸してみろ」

「え、えぇ」


 俺は小さな小瓶の蓋を開けて、それを空中へと撒き散らした。

 全員が猛毒を空中へと散布した事に対して異常な程の警戒心を露わにして後退りするが、空中に放り出しただけでは毒に侵されたりしない。

 手を伸ばし、錬成を行う。


「『錬成アルター』」


 毒へと干渉し、錬成が完了して紫色の短剣が一振り完成した。


「固形化させるとは、そんな毒もあるのだな」


 この錬成スピードでは、他の地質操作と同じくらいの速さであり、一瞬の隙を突かれれば終わりだな。


(新しく創るか……)


 口にしているのは、より明確にイメージするためであるので、武器錬成専用の言語設定を行えば、もっと速く錬成できるかもしれない。

 例えば人体を錬成する行為にも色々あり、用途に合った錬成ができれば、より速く自分の能力が活かせる。

 成長の余地、有りだな。

 だがしかし、今は錬成を一括りにして、特殊なもの以外は全て『アルター』と口にするか、心で唱えている。


(いずれ手詰まりになりそうだ)


 錬成した武器を小瓶へと戻す。

 量が少ないのだが、多くても意味は無い。

 この毒は量ではなく質なのだからこそ、小瓶で充分なのである。


「『蠱刃毒』だ。脳内にあるレシピに手を加えたものなんだが、体内に侵入すると細胞を破壊するものでな、斬れば斬る程、欠片が血中に入り込んで細胞を壊していく」


 つまり皮膚にさえ切り傷を入れる事ができれば、毒は発動する。

 どんな生き物でも細胞分裂して成長している。

 だから、それを阻害して破壊する。


「もうアタシ達いらないんじゃない?」

「そんな事はない。お前達は貴重な戦力だ」


 神経毒や強酸、腐蝕毒、俺が用意したのは十種類程の毒物である。


「こんなに必要なのでしょうか?」


 毒を光に翳しながら呟くユスティの気持ちも理解できないでもない。

 過剰防衛と思われるのも仕方あるまい。


「お前も見ただろう、俺の雷撃でさえ再生しようとしていたんだ。用意するに越した事はないんだよ」


 冒険者は命懸け、武器や防具、道具や回復アイテム、その全てが一つでも欠けていては致命的と成り得る。

 武器は腕輪、防具は俺には必要無い、道具やアイテム類は影に仕舞ってあるし、薬草鞄は常に肌身離さず持っていた方が良いだろう。

 毒薬の調合を終えたところで、いつも使っている薬草鞄と特殊薬ばかり入ってる二つ目の鞄を取り出して、第一薬草鞄と第二薬草鞄のショルダーベルトの位置を調節して準備は完了した。


「本来の錬金術師の戦い方は近接戦闘じゃなくて、こうした毒物による攻撃だったらしい」

「ヤル気満々ね」

「ん? あぁ……師匠が自殺しなかったのは、フランシスのお陰だって分かったし、借りを返すだけだ」


 影から懐中時計を取り出して、時間を見る。


「よし時間だ、行くか」


 気付けば時間まで十分を切っていたため、部屋を出て一階の集合地点へと向かった。





 集合時間に間に合うのは当然として、すでに七人の人間が集まっていた。

 椅子に座っている者、地図を見比べて唸ってる者、壁を背に目を閉じてる者、瞑想してる者、武器を手入れしてる者、持っているハープを奏でている者、本を読んでいる者、殆どが有名人だな。


「あん? んだテメェ等?」


 最初に反応したのは、壁を背にしてた犬耳獣人の男。

 明るい茶色い髪から察するに砂漠に生きる砂犬族で、そして彼の軽装と容姿から『覇王ヴァンクス』であるのは間違いない。


(コイツも『獣王の館』の一人だったはずだが……)


 つまり、最低四人は彼等メンバーから選出されているのだろう。


「あぁ、一昨日オリーヴの誘い断った奴か」

「貴方は?」

「チッ……これだから田舎の獣人は」


 俺を守るようにしてユスティが前に出る。

 敵意剥き出しにしてたら、確かに彼女が前に出るのは当然だが、こんなアホを参加させるとは『獣王の館』も底が知れる。

 まぁ、副団長(サブリーダー)が馬鹿だったし、そんなもんか。


「俺様はヴァンクス=イーガー、『覇王』だ、覚えとけや白狼」

「はぁ……ご主人様、この人馬鹿なんですか?」


 唐突に、彼女は暴言を吐き捨てた。

 俺も思った、コイツ等は馬鹿だと。


「なっ!? て、テメェ巫山――」

「巫山戯てるのはどっちですか? ここにいるという意味を理解してないのですか? 喧嘩は御法度、仮に貴方が無様に負けたとしても私にも厳罰が下ります」

「お、俺様がテメェ相手に無ざ――」

「第一、人の実力も測れないのに何でここにいるんです?」


 それが決め手となったのか、ヴァンクスは堪忍袋の尾が切れたようだ。

 沸点が低い男だな。


「後悔させてや――」


 る、と言い終わる前、彼女は腰の短剣を引き抜いて首筋へと沿わせていた。

 全部の言葉を途中で止められる。

 殺しかねない状況、ユスティの殺気に彼は戦慄した。

 何処の世界にも喧嘩吹っ掛けて何も言い返せない状況に追い込まれる奴がいるもんなんだな……情けない。


「ユスティ、殺気を解け」

「はい」


 冷や汗を掻いてユスティに化け物のような視線を向けるヴァンクス、これで実力の差が分かってくれただろう。


「アンタ双剣王だったな。死にたくなかったら、無闇に突っ掛かるの止めた方が良いぜ」

「て、テメェには関係無いだろ!!」

「どうやら、『獣王の館』も馬鹿しかいないらしい。人様に迷惑掛けてんじゃねぇよ、犬っころ」


 背中に背負った二刀の柄を握って引き抜こうとしていたので、俺は一言だけ伝えておく。


「それ、引き抜いたら敵対行動と見做して、アンタの首を刎ね飛ばすぞ」

「ッ!?」


 殺気を漏らすまでもない。

 ただ相手を静かに睨み付けるだけ、それだけで犬の危機感知を逆撫でする事が可能だった。


「懸命な判断だよ、『覇王』」

「チッ……」


 俺は空いていた椅子へと腰を下ろす。


「ニュフフ〜、ヴァンクス君相手に物怖じしないなんて驚きだよ〜」

「あ?」


 セラよりも濃い真っ赤な髪を持ち、柔和な笑みをずっと浮かべた女が俺の隣に座る。

 その馴れ馴れしさ、セラ以上かもしれない。


「アンタ、『焔姫』か」

「およ? ニュッフフ〜、私も有名になったもんだね〜」


 『焔姫フレーナ』とは彼女の事、火炎操作に関しては専門家(エキスパート)であるため、焔姫だなんて呼ばれているのだ。

 真っ赤なドレスを身に纏い、炎の魔剣も持っている。

 炎を生み出し、操るという力だけでなく、炎の概念によっては命を燃やしたりして力を得る事もできるらしい。


「ねぇ、君は?」

「は?」

「君は誰?」


 円な瞳で見られるのだが、手の内を晒さなければ大丈夫だと判断し、名前を述べる。


「レイグルス」

「それが君の名前?」

「あぁ」

「じゃあレイ君だね〜!」


 はぁ、苦手だな、こういった女……


「貴方達全員、掃討作戦の参加メンバーだよね?」

「え、えぇ……」

「皆強そうだなぁ……でも、君からは強さを感じないね」


 俺を見た彼女が品定めするように、こちらを見てくる。

 しかしながら、何も感じないというのは俺の魔力がほぼ完全に抑えられているからだろう。

 まぁ、何も感じないのなら別にそれで構わない。

 それだけだって事だ。


「けど……君からは得体の知れない何かを感じる気がするんだ〜」


 笑顔でとんでもない事を宣う彼女はジッと俺を見てくるのだが、俺から発せられる何かを感知した?

 そんな異能でも持っているのか、或いは彼女の長年の勘なのか。


「ちょっとうるさいよ、フレーナ」

「良いじゃん、新しい仲間だよ〜!?」


 小柄な少年が地図を見て唸っている。

 メイルガスト、魔帝と呼ばれた天才賢者であり、彼はまだ十四歳であるのだが、特例として国が冒険者の資格を与えたのだ。

 つまり、俺よりも四歳年下でありながら、俺よりも才能に溢れた餓鬼という訳だ。

 童顔に魔術師っぽい服装を身に纏う、退屈そうな表情をする小さな餓鬼だ。


「仲間? あぁ、フランシスおばさんが何か言ってたね。それで、お兄さんが……駄目だね、お兄さんは役に立ちそうにない。後ろの三人は強いのは分かるけど、貴方は無属性だし、装備からして大した戦闘能力は無さそうだ」


 ふむ、この少年、中々良い審美眼を持っている。

 俺の微細な魔力が見えているようだ。

 惜しむらくは、経験不足によって俺の実力を見極める事ができずにいる。

 しかし俺を馬鹿にされて、セラが一歩前に出ようとしていた。


「セラ、止めろ」

「でも――」

「良い。俺は気にしちゃいない。一々反応してたらキリ無いぞ?」


 手で制して、更に釘を打っておく。

 それよりも不味いのはユスティの方であり、我慢しているのだが、いつまで持つのか分からない。


「それより餓鬼、指揮官はテメェか?」

「餓鬼……口がなってないようだね、お兄さん。ギルドカードのランクは?」

「Fだ」

「それじゃあ話にならないよ」

「生憎だがクソ餓鬼、ギルドのランクは単なる指標だ。それだけで測ってるようじゃ、まだまだだな」

「言うじゃないか、お兄さん。口だけは達者なようだね」

「ハッ、オツムの弱い餓鬼にそう言われちゃ形無しだな」


 見上げる子供と見下げる大人、互いに睨み合うが眉間に皺を寄せているところを見るに、どうやら馬鹿にされるのに苛立ちを持っているようだ。

 しかし、自分の方が賢いのだと愉悦感に浸っているようにも見える。

 成る程、今まで天才だと周囲から囃し立てられてきたからこそ、有頂天になっているらしい。


「お前、そんな強いか?」


 魔力量は俺の十分の一以下、霊王眼で見れば非力な人間であるのは間違いない。

 少し魔力操作が上手いくらいだ。

 それで『魔帝』と呼ばれている理由は、彼が魔術大国で神童と言われているからだろう。

 天才と謳われた少年、一つ偉業を成したとかで、功績を与えられ、このように冒険者として活動している。


「クッ……僕は『魔帝』とまで言われた冒険者、君のような無能な人間がいるから、冒険者の品格を穢すんだ」

「それは違うな。お前のような無知で無力な餓鬼がいるせいだろう。周囲に天才と言われてもお前は所詮は餓鬼、経験不足だな」

「クソッ、戦えないくせに……」

「口喧嘩も弱い癖に、やっぱクソ餓鬼だな」

「く、口喧嘩しかできない奴が偉そうに!!」


 口喧嘩に負けてるが、実力は僕の方が上なのだと宣言しているようだ。

 精神的にも身体的にも幼い。

 これが魔帝とは……


「こんなんが指揮官とは、フランシスも目が曇ったか」

「い、言わせておけば!!」


 触媒となる杖を構えて俺へと魔法を放とうとする。

 だから俺は右手を後ろに、バレないよう魔法より速く能力を発動する。


「『ライトニングア――」

(『因果錬成(モディファイド)』)


 この一帯全てを魔法禁止領域に指定し、電撃魔法を完璧に封じた。

 魔法発動のための魔法陣が罅割れて、発動がキャンセルされてしまい、何故そうなったのか分からないとばかりに戸惑っていた。


「な、何で……」

「おいおい、魔法も使えないとは、ますますテメェの存在が不必要に思えるんだが?」

「き、貴様! 一体何をしたんだ!?」

「さぁ、天才君なら何か分かるんじゃないか?」


 餓鬼をあしらうには慣れている。

 そのために能力を使うのは少し無駄遣いのような気もするが、それより聞きたい事がある。


「そんな事はどうだって良い。それより、集まってるのはこれで全てか?」

「そんな事だと!? 何様のつ――」

「フレーナ、アンタは何か聞いちゃいないか?」

「え、いや〜、特には……」


 目を逸らしていたため、彼女は把握できてなさそうだ。

 他に聞くべき奴がいないだろうかと思って周囲を見渡してみるが、知ってそうな奴がいない。


「後三人来てないよー」

「お前は一昨日の……」

「幸鼠族のエンジュでーす。よろしくー」


 彼女は『金木犀』と同じギルドのメンバーの女だ。

 後ろから来たという事は、俺達より後に来た訳だが、何故彼女が知ってるのだろうか?


「あぁ、ギルマスに聞きましたー。そしたら十五人だって聞いたのでー」


 ここにいるのは、俺達四人+エンジュ+ここに集まった七人の人間、合計して十二人だ。

 後はダイガルト、エレン、そして残り一人の計三人。


「あれー、リーダー、こんなとこで何してんですかー?」

「別に……俺様も参加しようと考えたってだけだ」


 砂犬族のヴァンクスがリーダー……え、コイツがリーダーだったのか?

 だから馬鹿が多かったんだな。

 はぁ、本当に馬鹿達ばかりで大変だな。


「オリーヴの姉御、来てないですねー」

「は? テメェ等の副団長だろ?」

「いやー、エンジュはあの人のお守りではないのでー」


 つまり、オリーヴが最後の一人という訳か。

 ここには、ウサ耳持った紫に近い白い髪を持つミューレス、それから赤い髑髏の仮面を被って正体隠したルンデック、それから銀色の髪に青、緑の瞳をそれぞれ持った姉妹エルフがいる。

 ハープ奏でてるのと本読んでるのがエルフ姉妹、瞑想してるのがルンデックで、ルンデックはジッと動かずにいる。

 彼は顔に大火傷を負ってるから、喋れないと聞いた事がある。


「ダイガルトとエレンの二人は後で来るだろ。そっちの獣人に関しては知らんな。それで以上か……」

「旦那ー、一昨日は本当にすみませんでしたー」

「お、おぉ……謝ってるのは良いんだが、せめて棒読み止めろ」

「すいません。これがエンジュですのでー」


 反省してるのかしてないのか、微妙だな。


「それより旦那ー」

「その旦那ってのは――」

「ちびっ子が泣いてるけど大丈夫なんですかー?」


 指差した方向へと向くと、そこには魔法が使えずに涙を零しているメイルガストがいた。

 天才と言えども中身は子供、こうなる事を予測できただろうが、仮にも二つ名を持ってるのだから、もっと威厳を保って欲しい。


「さぁな。魔法が使えなくて泣いてんだろ」

「ご主人様、やり過ぎですよ」

「えげつないな」

「ちょっと引くわ」


 好き勝手言いやがって、コイツ等……


「まぁ良いか。それより、掃討作戦の指揮は誰がするんだ? もう時間だろ?」

「ぼ、僕だ……」


 マジか。

 この餓鬼が指揮するのか、不安でしかないのだが。


「く、この屈辱……覚えておけよ!」


 クールぶってたはずだが、フランシスが彼を推薦したという事は、実力は相当なのだろう。

 俺としては依存は無い。

 どうせ顔合わせするだけだったし、作戦には関わるつもりはなかった。


「俺様はコイツが指揮官ってのに反対だ」


 そこで待ったを掛けたのは、ヴァンクスだった。


「『覇王』……貴方よりも僕の方がよっぽど適任だと思いますが?」

「餓鬼に命預けろってのか? 俺様は御免だ。そこの男が言ってた通り、オツムの弱いクソ餓鬼が指揮できるとは思えん」

「何だと!?」


 ヴァンクスの挑発にも乗っている時点で、未熟すぎて話にならない。

 そうヴァンクスは思ってしまったらしい。

 彼はリーダーであるため、同じく掃討作戦に参加する仲間の命も他人に預ける事になる、それを認められないのだろう。


「俺様達冒険者は自由奔放、テメェ一人に全て背負い切れるのか?」

「自由奔放なんて言葉知ってたのか、犬っころ?」

「テメェ!! 馬鹿にしてんのか!?」

「あぁ」

「ご主人様……」


 隣で全部話を聞いていたユスティが呆れた表情をこちらへと向けてくるのだが、他人を弄って遊ぶのはここまでにしておこう。

 しかし、その怒りの矛先が再度メイルガストへと向かっていた。


「フランシスのババアも耄碌したもんだな!」

「貴方みたいな野蛮人に全員を束ねる事ができるとは思えません!」

「んだと!?」

「何ですか!」


 睨み合い、喧嘩となり、剣と杖を互いに構えて威嚇していた。

 すでに能力を解除してあるため、魔法は使える。

 しかし二人のそれぞれの武器は振われる事は無かった。


「『聖歌の竪琴(ハープセラピー)』」


 ハープを持っていたエルフの美女が、琴に魔力を流して音を奏でる。

 この音楽は……


「『グリーエルテの彩り』か」


 優しい音楽が心へと響かせていく。

 昔、エルフの知り合いから聞かせてもらった音楽、『グリーエルテ』はエルフの信仰する三神のうちの一柱で、エルシードを護っているとされている。


「へぇ、エルフの歌を知ってるんだ」

「あぁ、知り合いに聞いてな。グリーエルテはエルシード聖樹国を守護する、自然を彩る女神なんだろ?」


 エルフは人族や普通の種族とは違って、独自の神達を信仰している。

 馬鹿にされたり侮辱されるのは我慢ならない。


「正解、君は中々見所がありそうだね」


 笑みを浮かべて音を奏でる。

 癒しの聖歌はこの空間を支配して、彼等の怒りの感情が何処かへと消えていく。

 凄まじい能力、セラと同等の力を持っていると一瞬で分かった。


「私はユーミット=エルシード=ナフォルジア、隣は姉のプルミット、よろしくね」

「……レイグルスだ。好きに呼べ」


 エルフ姉妹のうち、姉が俺を凝視してくる。

 注意深く何かを見定めるかのように、彼女がこちらへと近付いてくる。

 一歩ずつ確実に距離を詰めてきて、間髪入れずに両手が俺の頬を掴む。


「へぶっ!?」


 顔が歪む。


「お姉様の探してた人だ……」

「はぁ?」


 お姉様?

 探してた人?

 何の事やら……


「おっと、ごめんなさい。貴方、精霊使いよね?」

「精霊が見えるのか?」

「右手を見れば分かるわ。精霊紋、それも高位精霊と契約してるわね」


 右手甲に浮かぶ精霊紋を見ただけで種類まで看破するとは、この女、何者だ?


「掃討作戦に参加するのよね? 私はプルミット、よろしくね」


 彼女が差し出した手を恐る恐る握り、握手を交わす。

 先程の言動に何の意味があるのか謎を残して、そのまま彼女は俺から離れた。

 何だったんだ?


(お姉様とやらが俺を探してた?)


 いや、今は掃討作戦について考えを纏める必要がある。

 何かを考えさせてくれる余裕が無い今が口惜しいが、フランシスの言伝もあるし、サッサと作戦会議でも何でも開始するとしよう。






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