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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第三章【迷宮都市編】
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第94話 繋がってゆく線は終局へ導かれて

 昨日はギルドに辿り着いた時にはすでに夕方だった事もあり、俺達は地上で寝泊まりする事となった。

 幸いな事に、フランシスが便宜を図ってくたお陰で、結構良いホテルの大部屋で寝泊まりする事ができたため、グッスリ眠れた。

 本当は個室を四つにするつもりだったんだが、受付でユスティとセラが大部屋を選んでしまい、変えるのも面倒だったので大部屋にしたのだ。

 それに、その分金が浮く。

 俺は朝六時くらいから久々の日課として、錬成による戦闘訓練を裏庭を借りて行い、一時間が経過して部屋へと戻ってきた。


「ふぅ」


 高級ホテル仕様であり、風呂や個室トイレを完備していたためもあり、朝から一人、誰かが鼻歌混じりに風呂を使っているのが見えた。

 俺が訓練してる間に、誰か入ったようだ。

 覗いたりしたら殺されかねないので、風呂は諦めて水を操って汗や汚れを洗い落とした。


(ユスティか……)


 綺麗好きなようで、シルエットからユスティであるのは一目で分かった。

 この一ヶ月で大分生活に慣れてきたようだ。

 名目上は主人と奴隷ではあるのだが、基本的には彼女の自由にさせている。

 その方が俺としても好都合だ。


「さて、まだ不確定要素も多いし……情報とか集めに行くかな」


 まだセラも寝てる。

 って、ベッドが隣にあるのに何でこっちのベッドに入ってくるんだろうか?

 服も乱れており、嬉しそうな表情で眠っていた。


「レイ〜? 何処行くのぉ?」


 着替えが済んだところで、セラが目を覚ました。

 一人で出掛けようとしたところで起きるとは、これも権能の力なのだろう。

 常時発動型の権能、特に龍神族としての彼女の潜在能力(ポテンシャル)が凄まじすぎるから、もし四つ全てが解放されたらどうなるのか、大して興味は湧かないが、恐らく、俺の錬成なら彼女の封印の枷を外せるかもしれない。

 が、それをする義理は今のところ無い。

 それに困ってなさそうだし、俺の錬成はまだ不完全だと昨日思い知った。


「昨日、噂について聞いたろ? まだ引っ掛かってる事があるから、飯食ったら市場に出向いて情報集めに行くつもりなんだ。お前も行くか?」

「う〜ん……行く」


 眠たげな表情で起き上がってきた。

 龍神族という種族の生態的な事は今一つ分からないが、セラに関しては朝が弱いらしく、寝惚け眼を擦って欠伸を噛み殺していた。

 まだ脳が覚醒していないのだろう、とても眠そうだ。

 俺が朝起きたのは七時で、一時間の早朝訓練を終えたところで今は八時である。

 大体、いつもセラはこの時間帯に起きてくるのだが、権能が反応を示せば危機的状況を回避するために飛び起きたりするのだろう。

 龍神族ってやっぱ、不思議な種族だ。


「寝てて良いぞ?」

「行くぅ!!」

「お、おい――」


 ベッドから飛び出して俺の腹へと抱き着いてくる。

 寝惚けているのだろうが、酒でも飲んだのかと思うくらいの酔いっぷり……いや、寝ぼけっぷりか。

 そして力強く押し倒されてしまい、背中を打った。

 しかしながら、これが悪巫山戯であるのに即座に気付いたため、彼女に聞いた。


「セラ……もう目ぇ覚めてるだろ?」

「エヘヘ、バレちゃった」


 舌を出して可愛らしく惚けていた。

 腹に七十キロもの重さが跨ってるので、退いてほしい。


「早く退いた方が良いぞ」


 後ろを見れば分かる。


「嫌よ。もう少しだけこのまま――」

「セラさん?」


 六百年近く生きてきた龍神族さえも怯えさせる程の威圧感が放たれている。

 その正体は言わずもがな、まぁ分かってはいた。

 セラが背後を振り返ると、そこには龍よりも恐ろしい殺気を出す魔狼族の少女が一人……俺でも警戒するくらいの殺気が発せられている。


「ヒッ……ゆ、ユスティ……」

「抜け駆けですか?」

「い、いや、ごめんなさい!!」


 サッと立ち上がって退いてくれたセラはともかく、抜け駆けって何の話だ?

 まぁ、良いか。

 セラが退いてくれたので、俺も起き上がる。


「ご主人様、避けようと思えば避けられたのでは?」

「え、あ、まぁそうだな」

「何故避けなかったのですか?」

「いや――」

「何故、避けなかったのです?」


 ズイッと顔を近付けてくるユスティ、顔は今まで見た事無いくらいの笑顔……なのだが、その双眸に光は宿らず、不思議な怖さが見えた。

 これが女の嫉妬、というやつか。


(ラメが入ったようにキラキラしてんな……)


 人工的な瞳ではあるのだが、今は少しずつ彼女の細胞となって変わってきている。

 後二、三ヶ月もすれば彼女の瞳は完全に人工なものから完全なる瞳へと変わるだろうが、もし次に目を潰されても失明する事は無い。

 そう創ってあるからだ。

 嫉妬渦巻く彼女の瞳は、それでも人間としての美しさと醜さを兼ね備えており、自然と言葉が紡がれていた。


「綺麗な瞳だ」

「ふぇっ!?」


 また声が出てたか。

 俺の甘言を聞いて彼女の顔は一気に赤く染まり、予想通りの反応を示した。

 嬉しそうな、そして恥ずかしそうに身体をくねらせながら破顔する。

 ま、別嬪なのは間違いないし、彼女のような美しさを持つ人間は前世でもそう見なかったなと思いながら、彼女を見据える。

 両の瞳に浮かぶ小さな星々は煌めいていて、吸い込まれるようだ。


「言葉一つでここまで骨抜きにするなんて、流石レイね。この、女誑し」

「痛っ……」


 罵られた上に頬まで抓られてしまった。

 酷い言われ様だ。


「それよりご主人様、何処かへ行かれるのですか?」

「あぁ、まだフラバルド内を回ってなかったからな、情報集めを兼ねて、散策し――」

「行きます!」

「まだ聞いてすらいないのに即答とは……じゃあ、先に下で席取って飯食ってるから、準備済ませたら降りてこい」


 片方はパジャマで、もう片方は髪がまだ濡れている。

 俺は廊下へと出て、二人が準備を終えるのを待たずに先に下へと向かっていく。


「ノア殿? そんなところで何してるのだ?」


 階段の先から見えたのは、青髪を揺らしながら嬉しそうに登ってくるリノだった。

 ベッドが蛻の殻だったので、何処行ったのかと思った。

 どうやら先に朝食を済ませてきたようだが、このホテルではビュッフェ形式となっているので、値は張るが自由に食べれて良い。

 金はすでに払ってあるため、何でも食える。


「リノ、お前こそ何してんの?」

「朝食を先に頂いたのだ。ノア殿も食べに行くと良い、昨日の夕食と同じように、美味しいぞ」


 屈託無く笑い、部屋へと戻ろうとする。


「なぁ、朝食後に市場に出ようかと思ってるんだ。リノはどうする?」

「それなら我も同行しよう。ノア殿の事だ、どうせ噂が正しいのかを確かめるのだろ?」


 二ヶ月半余りも一緒に旅してれば少しは互いの事が分かるようになる。

 俺もリノを、リノも俺を、互いを少しは理解している。

 協力関係にあるから、俺達は互いに互いを利用しているのだ。

 とは言っても、今は一方的に俺が利用しているにすぎないのだが、それでも彼女の魔力回路を治したし、未来予知の手助けはしてきた。

 俺達はそれぞれのために繋がっている。

 彼女は精霊剣となった母を戻すために精霊界へ行けるように俺そのものを、その見返りとして俺は彼女の未来予知を利用する。


「我も行こう、楽しそうだ」

「別に大して楽しくはないと思うんだが……」


 リノも二ヶ月半前より図太くなったような気がする。

 これって俺のせい、なのか?

 何はともあれ、全員で市場に出掛ける事になったが、果たして噂について何か分かると良いんだが、無かったとしても退屈凌ぎにはなるだろう。


「では、我は出掛ける準備をしてから再び下へと赴こう」

「分かった」


 どうやらリノの精神状態は正常そのものらしいな。

 前までは故郷の事についてショックを受けていたと思うんだが、今では気持ちの整理が付いたみたいな様子で、彼女の魔力にムラは無い。

 魔力操作は達人の域に達すると、感情で微細に反応したりしないが、リノはまだ俺から魔力操作を教わり始めて日が浅いため、魔力を見れば彼女の精神状態を見れる。

 あまり触れない方が良いだろう。

 故郷が滅んだ事についてショックではあるが、世界の犯罪組織『魔天楼』と戦うには実力が足りない。


「……」


 階段を登っていく背中から視線を切って、俺は食堂へと向かっていった。





 フラバルドでは、ダンジョンと違って普通の暮らし振りが見られた。

 活気に満ち溢れており、誰も行方不明になった者達の事を気に掛けていない。

 この光景はハッキリ言って異常、自分達さえ死ななければ冒険者なんて幾らでもいるのだから、別に何の問題無いだろうと思っているのだ。


「何で、こんなに活気に満ちてるのかしら?」

「狙われてるのが冒険者だけだって皆分かってるのさ」

「あ、成る程」


 セラの質問に軽く答えて、俺は屋台通りで色々と情報を仕入れていた。

 だがしかし、皆がナイラ犯人説を信じており、噂に流されていた。

 そして、その出処は分からず……


「手掛かりゼロなようだな、ノア殿」

「そっちは?」

「一つだけ見つけた」


 これ以上の発展は無いと思ってたが、時には無駄な事もしてみるもんだな。


「数日前に、誰かがこれをばら撒いていたらしい」

「あ? 何だこれ?」


 この世界で紙は、前に召喚された勇者によって技術が広まり、普通に発展している。

 リノが持ってきた紙を受け取り、黙読する。

 そこには、ナイラが犯人であるという内容が書き記されていた。


『冒険者に睡眠薬を飲ませたのはギルドの受付嬢であるナイラだ。彼女は冒険者に薬を飲ませて眠らせてから、その場で冒険者の首を縄で絞め殺し、そして首を吊らせて無惨に晒したのだ。そして同じように、冒険者達を攫ったのは彼女である』


 そう文面には綴られていたのだが、俺の頭の中では犯行当時の映像が流れているような感覚があった。

 この文を見て、事件当日に何があったのかが大体分かったと思う。

 そして何故首吊りに見せ掛けたのか、どうして冒険者を殺す事になったのか、今まで謎だった疑問が幾つも解へと導かれていった。


「リノ、何処でこれを?」

「殆どがギルドによって回収、処分されたそうだが、未来予知で持ってる者を探し当てたのだ。それを譲ってもらったのだよ」


 だから見つけられたのか。

 これで一つの問題が自己解決したと言っても良いが、だがまだ謎が残っている事がある。


何で冒険者は自ら(・・・・・・・・)睡眠薬を飲んだんだ(・・・・・・・・・)?)


 それだけが謎のままであり、その問題が解決しない限りは、そこで何が起こっていたのかを知る事はできないだろうと考えた。

 が、これは地下で起こっている事とは何等関係無いものだと判断し、リノに確認を取る。


「この紙、貰っても良いか?」

「ん? あぁ、構わんぞ。元より、そのつもりで譲ってもらったものだからな」


 それは有り難い。

 この紙を四つ折りにして、アイテムポーチへと仕舞っておいた。


「ご主人様、証言を貰ってきましたよ」

「証言?」

「はい。夜中に紙を至る所に貼っていたのを目撃した人がいたんです」

「顔とかは?」

「それは分からなかったそうですけど、背丈とか歩き方とかから考えて女の人だそうです」


 これは有益な情報だな、相変わらず異能や職業的な力ってのは素晴らしい。

 職業は職業を以って制す、だな。

 犯人は運が悪い。

 何故ならここには、少なくとも三人、凄まじい力を内包する娘達がいるからだ。


「これで……俺の推論は確信へと変わった。お手柄だな、お前等」


 喜びや快楽といった正の感情は全て消えてしまったため、彼女達に笑顔を向ける事はできない。


(まぁ、仕方ないか)


 脳が合理的に考え、すぐに諦めへと向かう。

 右目を開眼した事で、精神が一度消えた。

 しかし、一度切りの再構築が暗黒龍の精神体によって行われ、感情の回復が見られたかに見えたが、実際には完全なる再構築には程遠く、矛盾した言動が多くなっているようだ。

 ウォルニスという優しい人格が、俺の矛盾した行動の起源だろう。

 互いに持っていない物を欲し、ノアウォルニスの二つの人格が混ざり合っているからこそ、彼の性格も色濃く言動に現れている。

 感謝や礼を必要とせず、金銭的価値を持つ物を求めるところも、多分そこにある。

 過去の貧しい自分からの脱却、だから金を欲しているのだと脳が思考し、そして言葉として示す。

 ノアが考えていなくとも、ウォルニスとして生きた十七年の月日が根源となって無意識領域を支配する。


(二重人格って、皆こうなんだろうか?)


 グラットポートで出会ったエルフ、オズウェルも二重人格だった。

 その人格の定義が難しいところではあるのだが、俺は二重人格ではないはずだ。

 ただ、境遇がそうしただけ。

 感情が零れ落ちていく……

 喜びも、悲しみも、怒りも、何処かへと行ってしまう。

 まだ少し怒りとかは残されているが、それも徐々に消えるだろう。

 それでも構わない。

 消えても、怖くはない。


(……こんな事考えてる場合じゃないな。時間の無駄だ)


 それよりも、俺はもう一つ不思議に感じていた事へと意識を転換する。

 自分については放置だ。

 そんな事よりも、今は重要な事へと思考を使う方がよっぽど有意義だ。


(フランシスは何で紙について言わなかったんだ? ギルドが回収したはずだが……)


 いや、知っていて敢えて言わなかったのか。

 処分してしまったから、教えても意味が無いと判断でもしたのかもしれない。

 彼女は出処が分からないと、そう言ったから。

 確かに、これでは誰がばら撒いたのかは不明だが、それでも手掛かりはここにあった。


「それより、これからどうするの?」


 頭を回転させて、まだ解明されていない謎を解こうとしているのだが、セラの質問へと意識が割かれる。

 今問題となっているのは、誰が階層喰い(フロアイーター)を操っているのか、そして犯人は誰なのか、それから犯人の目的は何なのか、その三つか。

 冒険者が自らの意思で薬を飲んだのだろう事は、さっきの文から予測できたから、後で良いだろう。


「明日の午後一時、つまり掃討作戦の前日には顔合わせが行われる。それに参加する」

「我等も、か?」

「当たり前だろ。お前等の能力はハッキリ言って強い、リノは未来予知で相手の動向が先んじて分かるし、ユスティの幸運能力や狩猟神の実力や獣人としての力は有効打になるし、セラの超人的な第六感、それから支援や反支援ができるポイントが敵に回したくないと思わせるとこだ。今回の作戦は俺よりお前等の方が動きやすいだろうし、犯人を追い詰める事ができるだろう」


 ある意味、言葉巧みに操るための布石にしか聞こえないのだが、それでも彼女達の実力は俺が誰よりも知ってるし、それをダンジョンで幾度となく確認してきた。

 リノとユスティには、それぞれの持つ能力に伸び代があり、今も成長し続けている。

 セラは自分の実力を知っているが故の強さを持ち、そして他者から学ぶ事で成長し続けている。


(才能、か……)


 嫉妬は無いのだが、もしも昔の俺ならば嫉妬に身を焦がされていた事であろう。

 俺には何の才能も無い。

 凡人が天才達に喰らいつくためには、並ならぬ永劫の努力が必要となるが、俺は自らそれを手放して、彼女達の成長の行く末を見守ると決めた。


「お前等には天賦の才が眠っている。安心しろ、お前等が危機に瀕したら俺が守ってやるよ。それが凡人の役目だ」


 それが俺の役目、彼女達は何処までも成長していくだろうが、その成長の果てを見た時、俺という存在は不必要となろう。

 だが、それで良い。

 そのために、俺はここにいるのだか――


「ご主人様」

「ぇ……」


 再び歩き出そうとしたところで、ユスティが言葉を発していた。

 ただ名前を呼ばれただけのはず……

 しかし、その声には怒りが含まれていた。

 何に対して怒っているのかが分からず、意図せずに困惑したような小さな声が漏れ出てしまった。


「本気で言ってます?」


 彼女から怒気が感じられる。

 普段優しい奴が一番怖いとは、この世の摂理だとは思っていたが、彼女の怒りは凄まじく、同時に俺を慮ってのものだというのは理解できた。

 しかし何に対して怒っているのかが分からないので、怒られている理由を考えても、俺の脳裏に浮かばない。


「何に対して怒るってんだよ?」

「ご自分を卑下なさっている事に、です」

「……どういう事だ?」


 卑下ではなく事実を述べたはずなのだが、どうやら彼女的には俺が自分を蔑む事を許容できないらしい。

 忠誠心故か、或いは主人想い故か、それとも……


「ご主人様は私に新たな眼をくださいました。ご主人様に才能が無いなんて嘘です。私が、私こそが貴方の、貴方の持つ才能の証明です。だから――」


 その言葉が、その気持ちが、俺の心を少しだけ埋めたような気がした。

 だから遅れてくる頬の痛みに、全く気付けなかった。

 景気の良い音が鳴り、俺は叩かれたのだと初めて脳が理解した。

 ユスティに頬を平手打ちされたのだが、超回復で治っていくはずの痛みが、ずっと脳裏に焼き付いて離れる事は無かった。


「その痛みと共に、私の言葉を忘れないでください」


 厳しい言葉だ。

 きっと彼女の言葉と頬にある鈍い痛みは、一生涯忘れる事はないだろう。

 俺に才能が無いというのは本当であり、自分を卑下するという事も、俺の過去や俺の全てを知ればきっと何も言えなくなる。

 ずっと虐げられて生きてきた。

 ずっと孤独を強いられてきた。

 だから俺は……


「……分かった、二度と自分を凡人だとは言わない。約束する」


 そう、二度と凡人とは(・・・・)言わない。

 彼女との約束は絶対に守ろう、俺には一定の才能があったのだと。

 だが、俺の場合は才能ではない。

 錬金術師という力、暗黒龍の力、その二つが偶然にも手に入ったからこその能力だ。


(才能が無いなんて嘘です、か……)


 全てを手に入れた者(ユーステティア)と、何も持たざる者(ウォルニス)、彼女と俺は似ているものだと、環境は違えども同じ人種なのだと、ずっと考えてきた。

 だが、それは違った。

 彼女は俺と何一つとして同じな事はなく、似て非なるものであると理解した。


「ね、ねぇ……」


 恐る恐る、セラが俺達の会話に入る。

 入り辛いのは分かるが、よく今まで黙ってられたな。


「ゆ、ユスティ……アンタ、何とも無いの?」

「はい?」

「主人であるノア殿に攻撃したのだぞ? 奴隷紋が働くのではないのか?」


 二人はユスティが俺を引っ叩いた時から、奴隷紋が働いてないという事に気付いていた。

 彼女の奴隷紋が働いていない事に、遅れてユスティも知ってしまった。


「ご主人様、一体どういう事でしょうか?」

「……」


 クルッと振り向いた彼女は再び笑顔となっていた。

 先程の怒りを内に収めた彼女は、一歩分空いていた距離を詰める。


「どういう事でしょうか?」


 言葉が強めに聞こえてきたので、事情を説明する。

 説明するつもりは無かったのだが、彼女の覚悟に免じて奴隷紋の制約を殆ど解除しているという事について、簡単に答えた。

 俺に対する攻撃、それは状況によっては致命的な隙となる可能性があるからこその制約解除なのだ。


「これも成長なのか、それとも元からの本質なのか……」


 とは言っても、大した驚きは無い。

 いずれ話すつもりだったし、気付かれる可能性もあったからな。


「ご主人様……何故、ほぼ(・・)解除を?」

「全解除はできない。それが、奴隷紋を結んだ俺達の予め決められた制約なんだ」


 それを覆す事は俺にはできない。

 錬成を使えば自由に書き換える事が容易にできるのだろうが、それをしたところで俺は彼女を信じる事ができないであろう。

 ほぼ解除した理由は二つ、致命的な隙を減らすため、そして彼女の言動、特に成長を妨げないようにするためだ。


「だから、俺を攻撃しても奴隷紋は発動しない」

「そ、そうだったのですね……」


 彼女に攻撃されたところで俺は死ねない、それに攻撃される前に気付ける。

 だが、冒険者試験の時や魔神戦では、三日から五日間眠り続けていた。

 その間、俺は無防備だった。

 つまり、ユスティが俺を殺して逃げるという可能性を考慮しているのだ。


「まぁ、そっちには何もできないから考えるだけ無駄だ。それより、もう少しだけ情報を集めたら飯にしよう。情報も得たし、後は準備するだけだからな」

「準備って?」

「まぁ、色々だ」


 時間は幾らあっても足りないが、その足りない時間は今後次第で伸び縮みするだろうから、今はじっくりと、ただ静かに機を窺うのみ。

 この事件の半分はすでに俺の中で解決した。

 事件は残り半分、その半分の疑問を探し出して解決に導けば、この事件は終局(フィナーレ)だ。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

『面白い!』『この小説良いな!』等と思って頂けましたら、下にある評価、ブックマーク、感想をよろしくお願い致します。


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