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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第一章【冒険者編】
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第10話 ギルド試験1

 一週間という時間は、意外にも満喫でき、ついに試験当日がやって来た。

 この一週間は勉強に勤しんだり、精霊ステラと一緒に観光して娯楽に興じたり、美味しい物を満腹になるまで食い尽くしたり、そして情報収集も中心に行ってきた。

 幾つもの情報が手に入ったが、やはり勇者パーティーは次の目的地へ進んでいたようで、最近は勇者達の会話で持ち切りだったから、容易に仕入れられた。

 試験会場は勿論ギルドホーム、講習場が併設されているので、そちらで一次試験を行うらしい。

 講習場はギルドの廊下奥にある扉から入って、そのまま別館みたいな場所まで歩いていくのだが、相変わらずギルドの講習場も広く造られている。


(敷地内に訓練場まであるのか……)


 一度たりとも使った試しは無いのだが、その広い訓練場で何人かの新人冒険者が、一人の男へと向かって果敢に飛び掛かっていた。

 新人冒険者はへっぴり腰で、持った剣も握り方が甘い。

 何度も奇襲する新人冒険者に対し、相手の熟練冒険者らしき男は、攻撃を避けるに留めている。

 何度も攻撃させ、しかし全部当たらない。

 回避し、受け流し、実力の一割も見せていない。

 最後に男は、新人冒険者に対して持っていた木剣を横一文字に振るって大風を巻き起こして、怯んだ冒険者の足を引っ掛けて転ばせ、叱咤激励を行っていた。


「もっと踏み込んでこい!!」


 そんな怒号を聞きながら、俺は会場らしき講習場へと入っていき、一つの教室のような場所に到着した。


(ここで良いんだよな?)


 案内とかされなかったので、取り敢えずは看板の矢印に従ってきたのだが、意を決して教室の扉をスライドさせて中へと入ると、すでに二、三十人くらいの受験生がお喋りしたり勉強したりしていた。

 しかし俺が入った途端、全員から品定めするような視線が突き刺さる。

 対して俺も周囲を魔力で見ると、この中で伸び代あるのは二人か三人くらいか。

 何処に座ろうかと考えていると、座席が一つ空いていたのでそこへと座って試験を待つ。


「あ、あの……」

「ん?」


 一番奥の席へと座ってボーッと外を眺めていたのだが、その窓とは反対側、つまり俺の隣に座っている女性から恐る恐る声が掛かる。

 そこには、不思議な魔力を持つ女が座っていた。

 青に近い水色の綺麗な髪を結んで前に垂らし、パッチリした目は葡萄酒色(ワインレッド)の色を宿している。

 勇者パーティーにいたシーラやケイティよりも断然可愛らしい、いや美しく少し大人っぽい感じだ。

 実年齢は幾つかと聞きたいところだが、女性に年齢を聞くのは流石に失礼なので聞きはしない。

 正直、会話も持たない気がしていた。


「わ、我はリィズノイン、親しい者は皆我を『リノ』と呼ぶ。貴殿は何者だ?」


 何だか無理して話し掛けてきてるように思ったので、少し戸惑ってしまった。

 俺が何歳に見えるのかは相手にしか分からないが、年下っぽい女に固い騎士のような口調というのは、何だか不思議な気分になってしまう。

 似合わない訳じゃない。

 凛とした佇まい、慇懃とした態度、姿勢も綺麗で座り方は何処かの貴族を彷彿とさせる。


「……ノア」

「ノア殿か、良い名だ。よ、よろしく頼む!!」


 無理して握手しようと手を差し出してきたが、ここに知人がいないから、せめて一人だけでも友達を作ろうかと考えているように見えた。

 何処か必死そうな様相だ。

 自分の名前を無理して褒める、彼女のその裏が全く以って読めない。

 そもそも冒険者登録に関しては集団で受けるとは聞いたのだが、ペアを組んだりするとは聞いてないし、仲良くする必要性を感じられない。

 何故話し掛けてくるのかはさて置き、そろそろ時間となるはずなのだが、未だに担当の試験監督官が入ってこないので、待たされてしまう。

 なので、少し気になった事を聞いてみる。


「で、何で俺に話し掛けてきたんだ?」

「え、いや……こ、今回の試験はチームを組んで行うと聞いたのでな、試験を受かるために交流をと」

「は?」

「え?」


 待て待て、いきなり俺の考えと矛盾した。

 何故にペアで試験を受けなければならないのだ、一蓮托生とかは御免被りたい。

 相手の実力次第で足を引っ張られる可能性もある。

 その危惧を考慮してなかった結果、このような状況となってしまった。

 他の席にいる奴等も、仲良さそうな者同士で組んだりしているのだが、まさか席場所で試験の間ずっとペアを組まされるとは予想を超えていた。

 そもそもライオットの説明では、集団での試験と聞いただけで、合否の半分を他者に握られている状況下では、選択し直すべきだ。


「つまり、今の席でペアが決まるのか?」

「そうだが、まさか貴殿、知らなかったのか?」

「あ、あぁ……」


 それは知らなかった。

 いや、今までの試験ではチームや二人組で行ってなかったが、今回だけペア選別となるとは、ギルドは何を考えているのかと疑問が浮かんでくる。

 ここで、もう一つ可笑しな事に気付いた。


(あれ、そういや何でAランク冒険者のナフィが、新人冒険者希望の登録受付なんてしてたんだ?)


 一週間前の冒険者登録の際、何故だかAランク冒険者が登録の窓口にいた。

 特に気にしてなかった。

 しかし、よくよく考えると変だ。

 インパクトの強い性格と喋り方、それから話術だったので失念していたが、関係者でないにも関わらず、何故あそこで眠っていたのか。

 今回の担当はナフィが取り仕切る惨劇になるのではと考えて即座に周囲を探知してみるが、何故だか魔力反応に引っ掛からない。

 つまり、現在はギルドにはいないという証左であり、階段を登ってきている一人の人間が教室前に辿り着いたのを、広げた魔力で確認した。


「どうしたのだ?」

「いや、何でも……」


 確認できた、いや、確認してしまったと言うべきか、その人物の魔力が誰なのかを理解した。

 以前、勇者パーティーにいた頃にお世話になった人、確か別の大陸の小さな都市でギルドマスターをしてたはずなのだが、何故こんな南大陸の都市にいるのだろう。

 彼女は東大陸上方にいたはず。

 だが、旅が始まって一週間程度で会えるとは、運命も変に仕事をしたようだ。

 そして入室した筋骨隆々な厳つい男に、俺はかつての記憶を思い出してしまった。


(やっぱり、ラナさんか……)


 幻影系統の職業持ちで、魔力制御の使い手、殆どの人間には今映っている姿こそが本物だと思っているだろうが、実際には中身が全然違う。

 男の格好、いや男の幻影体を纏ってはいるものの、中身はまごう事なき幼女の肉体で、しかし頭脳は大人、本当に謎の多い人物だったと印象に強く残っている。

 懐かしい人物との一方的な再会だが、多分彼女も俺が死んだという情報を掴んでるはずだ。

 今から試験なので、もし今回の試験が終わったら彼女に会いに行くのも手だ。

 彼女と違って、俺は中身も外観もかなり変化してしまったから、は彼女は俺が分かるだろうか。

 もしかしたら、忘れてるかもしれない。

 しかしそれでも彼女から教わった魔力制御術は、今でも生存率に大きく貢献し、役立っている。

 そして彼女の幻影体は音声すらも変幻自在で、彼女は全員の前に立ち、最初の挨拶を述べる。


「私は、ラナン=ジルフリアと言う者だ。今回の冒険者登録では、現時点で座っている席の隣同士、二人組での合否とさせてもらう。皆、心して掛かるように」

「「「はい!!」」」


 俺を除く全員が頷き、ラナが手に持っていた用紙、それから異空間に収納できる魔導具から人数分の問題冊子が配られていく。

 答案用紙を配られるとは高校生に戻ったかのようで何だか複雑な気分となってしまうのだが、チラッとラナの方を視線を上げてみると、彼も、いや彼女も俺の方へと視線を向けていた。

 だから俺達の視線が衝突し、即座に脱線してしまった。

 それが不思議で、しかし彼女は彷徨った視線を全体へと向け直していた。

 


「「……」」


 互いに話し掛けるでもなく、ただ視線を合わせたのみ、試験開始前なのだから当然だ。

 会話を切り出すには場所が悪い。

 しかし俺から彼女を見るならまだしも、彼女が俺に視線を送った。

 その意図は何だ?

 まさか俺がウォルニスだって気付いたのか、それとも何か別の理由で俺を観察対象としたのか、真意は不明だが俺を自身の洞察眼に通している。

 それだけは間違いない。

 警戒心の強い彼女は、俺を危険人物と見做しているのか、それとも……


「これより二時間掛けて一次試験を行ってもらう!! それでは、試験開始!!」


 思考が纏まらない中で、試験の開始合図が耳朶を打つ。

 一次試験がある、それはつまり二次三次と、他の試験も存在しているという証拠。

 それに加えてギルドマスターの考えはいつも気紛れであり、ギルドの長である彼女が試験を執り仕切るというのは、何か悪巧みでもしているのだろう。

 やはり一、二年経過しようが変わっていない。

 年相応の落ち着きと、悪戯心を兼ね備えた彼女だから、今回の試験にどう介入してくるか、楽しみではある。


(相変わらずだな)


 彼女については後々考えるとしよう。

 小さく笑みを零して、手元の問題へと集中する。

 一般的な常識問題から、モンスターの生態的なもの、他にも職業関連での事柄に、地理的要因、色んな問題がごちゃ混ぜになって基本四択〜八択の解答が用意された試験となっていた。

 試験は合計して百問近くあり、ちゃっちゃと答えなければ時間に間に合わない。

 これ等の問題を連続して解いていると、この問題全体の傾向が明らかになっていく。


(全部、冒険者として必要な、それも最低限の知識が乗ってやがる……)


 例えば『マンドラゴラの特徴』が四択で載っており、それぞれ少し違った対処法が記載、その中で一つだけが正解であり、他三つが間違いだった。

 マンドラゴラ、別名マンドレイクという錬金素材の一つである。

 根には強力な複数の神経毒が含まれており、使い方次第では媚薬にも睡眠薬にも自白剤にも、更には不老不死薬の材料にさえなる。

 葉っぱには光合成に必要なエネルギーがギッシリ詰まっているので、全身が錬金素材となる、錬金術師にとっては最高の素材の一つなのだ。


(答えは四番だな……)


 中には面白い問題が幾つも載っていたので、読んで解いていくのは普通に楽しい。

 特に魔生物学という分野においては、魔境というモンスターの宝庫とも呼べる場所に一年間ずっといたので、色々と知っている。

 これ程までに面白い分野は他に無いだろう。


――クイーンマグマバイソンの魔角の摂氏温度


――ボクサースノーラビットのパンチの威力


――シロガネオオクワガタの目の色の変化理由


――コスモオウルの仲間との意思疎通方法


 魔境にはいなかったが、かなりマニアックな生物学的問題があった。

 本で読んだりして全ての問題に答えられる。

 順番に、摂氏千五百度、推定二百キロ、摂取する樹液の違いから、電脳通信、にチェックを付ける。

 普通ならば問題数が二時間で解けるような量では無いので、問題をどんどんと流し読みして正答数を稼いでいくが、ここでふと違和感が発生した。

 もしかして二人組でチームを結成するというのは、隣にいる彼女の点数と合計して平均化し、それで合否を反映するのかと、嫌な思考が働いた。

 だとしたら、リノという少女の実力も分からないのに、こうしてチーム結成してしまったのは非常に不味い。


(コイツ、頭良いんだろうか?)


 隣を一瞥してみると何だか唸ってるような苦悶の表情をしていたので、何点取れるかが心配になる。

 こういった問題とかは得意なので冒険者的問題ならば難無く答えられそうだが、中には俺の知らない知識も二、三問あったので、こればかりは勘で答えるしかない。

 しかし、冒険者ギルドという組織は、よくこんな問題を作るだけの知識があったものだ。

 ギルド総本部に雇われている上級冒険者が何十人といるためなのか、世界中から集めた情報が冒険者ギルドの中で逐一共有されているのだろう。

 そうした組織が、問題を作成しているはずだ。

 ギルドマスターや職員達が作ったとは思えない、それが問題傾向に現れている。

 この周辺にいないモンスターの方が圧倒的に多い。

 しかし、この森で採れる素材の知識や冒険者に必要とされる最低限の部分はしっかり押さえてある。


(時間が余ってしまった……)


 全て解き終わったのだが、意外にも時間が少しだけ余ってしまい、試験の見直しも済ませた。

 全問正解だろう。

 しかし魔境で過ごした時間が濃すぎて、少々物足りなさを感じている。

 試験問題の中には、魔境に棲息するモンスターも何種類か出題され、一般とは違く尺度の力を携えた強個体が魔境にいたから、一般常識的回答を間違えそうになった。

 スピード、パワー、思考判断、魔獣の持つ固有能力、それが魔境の外とは比べ物にならないくらいの能力だったため、慣れが恐ろしいと改めて実感した。

 どうせ着席した状態から動けないので、残り時間を外でも眺めていようと思い、横切り空を羽撃いていた鳥の数を数えながら、一次試験が終了するのを静かに待った。









 退屈な時間を過ごしていると、試験終了の合図と共に答案用紙が宙へと浮かんで、フワフワとラナの方へと向かっていった。

 魔法のようだが、仕組み原理は知らない。

 職業の可能性もあるが、そこは気にせずに彼女の話に耳を澄ませた。


「これで一次試験は終了とする。二次試験は三時間後、北西にある森の前で開始するが、少しでも開始時刻に遅刻した者は連帯責任で二名共々不合格とするため、遅れないよう注意しろ。では、解散!!」


 簡単な注意事項を述べて、そのまま教室を退室したラナだが、彼女には生前大変お世話になったので、是非とも挨拶にだけでも行きたかった。

 まぁ、別に死んでないけど。

 しかし現在は試験中の身であるが故、彼女とのお茶会は遠慮しておこう。

 会っても多分彼女は俺に気付かない。

 魔力の質も変わってしまったし、性格や考え方、外見が一番の変化だから、三時間後の二次試験のために備えようと席から腰を浮かした途端に、真横にいた少女から今後についての提案をされた。


「我はこれから必要物資や寝具を買いに行くのだが、ノア殿はどうする?」

「じゃあ俺も必要物資を……寝具?」

「ノア殿、受付で説明を聞かなかったのか?」


 受付での説明なんて一切聞いてない。

 そもそも説明された経緯も無かったし、Aランク冒険者の『剛腕』ナフィが担当していたせいだろう、あの女絶対に説明忘れていた。

 寝惚けながら受付を担当していた。

 だからだろう、俺は一切の説明も無しに受験していたという訳だ。

 情報収集したはずなのに、不足していたか。

 まぁ、ギルド以外で情報を集めてたので、試験に関する情報を怠っていた責任の一端はあるが、流石に説明無しは酷すぎる。

 これで試験落ちたら、一生恨もう。


「受付の担当は誰だったのだ?」

「ん? 自称Aランク冒険者の『剛腕』だったぞ」


 俺の魔力測定で笑ってたので、絶対に忘れてたなと理解して改めて説明を聞く。


「で、二次試験は何するんだ?」

「今回は北西にあるウーゼ森林で、三日間のサバイバル訓練を行うらしい」


 ウーゼ森林、魔境とは違って初心者には簡単な森で有名らしいのだが、魔王復活によってモンスターが活発化しているせいもあって、夜は凶暴な性格へと変貌してしまう、つまり初心者には厳しい試練となるだろう。

 だからペアを組んで試験するに至ったのかと理解はするが、寝首を掻かれる可能性もある。

 だが、一人で野宿するのはモンスターに襲われる確率も高く、寝てる間に殺される、なんて場合も想定される。

 面倒極まれり、だな。


「ウーゼ森林を選ぶとは、ギルドも人数を絞るらしい」

「何でだよ? 簡単だろ?」

「受験生を見ただろう。殆どは職業を授かったばかりの新参者ばかり、ウーゼ森林には『森の主』もいるらしいからな、下手すれば死人が出る」


 そこまでして若者を減らす理由が分からない。

 ギルドの上層部達は一体何を考えているのやら、そこまで戦力を減らしても意味は無いだろうに。

 それとも職業を開花させるため、敢えて厳しめに設定している、とか?

 ほぼほぼ無茶だ、開花させる前に吹っ飛ばされる。


「サバイバルは三日間だったか」

「そうだ。だから我は三日分の物資調達に行くのだ。ここに来る前にテントを壊してしまったからな」

「そ、そうか」


 何したらテントを壊すのか、三時間で調達するのは結構厳しいような気もするが、とにかく今は移動した方が時間浪費も削減できる。

 俺達は教室を出て買い物に向かう。

 だが、俺の場合は宿屋に荷物を置いてきており、それを取りに行けば良いだけの話なので、何が必要なのかを彼女を参考にしようと思って付き添っていく。


「で、買うのは寝具と食糧だけなのか?」

「いや、回復薬の類いや魔導具を買うつもりだ」

「魔導具? 何の魔導具を買うんだよ?」

「モンスター避けの魔導具だ」

「それなら魔物避けの薬品を何個か所持してるから、それを使えば良い」


 一時的にペアを組むだけなので、俺がしっかりしてれば問題は多分起きないだろう。

 彼女の所持金額は知らないが、できるなら頑丈なテントにすべきだ。

 

「今更だが、ノア殿の職業は何なのだ?」

「錬金術師」

「……は?」


 事実を口にしてみたら、驚愕を顔面に貼り付けていたので、即座に訂正した。


「冗談だ。俺の職業は精霊術師、自然を操れるものだ」


 披露するように掌に蒼白い火種を生成するが、驚いたような顔をズイッと火種へと近付けて、まるで初めて目にしたかのような表情で、この火種を触ろうとする。

 急なる異常行為に、逆に驚かされる。

 火を触ろうとする奴は初めてだ。

 彼女が火に耐性のある職業なら、まぁ百歩譲って理解もできようが、普通の人間なら触ろうとすらしない。

 なので火傷させないう火種をフッと消して、手をポケットに突っ込んで前へと歩く。


「今の炎……」

「何だ?」

「今の蒼色の炎は何なのだ? 炎は普通赤色をしているはずだろう?」


 何なのだと言われても、単に空気操作で酸素を焚べて燃焼を加速させ、熱源を完全燃焼させているだけの、ただの蒼白い炎に過ぎない。

 この世界には科学の概念が少し低いせいなのか、それとも魔法や職業、異能や権能のような摩訶不思議な力があるせいか、蒼白い炎も何等かの力と思ってしまう。

 しかし、これは初歩的な科学だ。

 単なる燃焼、ガスコンロが蒼白い炎を出してるのと一緒の原理だが、色について大して気にはしない。


「そんな事より物資調達が先だ、とっとと行くぞ」

「あ、あぁ」


 時間はたったの三時間、必要な物資調達のために街中を駆けずり回って無駄にしたくない。

 ガルクブールには一週間くらいしか滞在してないので、何処に武器屋があるのか、何処で食糧を調達するのかとかは全然知らない。

 俺の場合、食糧は影に入ってるし武器は錬成した腕輪で戦えるので、武器屋にも寄らない。


(コイツ、武器は直剣か……にしては不思議な力を感じるな)


 腰に収めた武器、バスタードソードっぽいが、そこから妙な力を感じるのだ。

 まるで精霊のような、そんな高位の存在の力が込められているのが、魔眼を通して分かる。

 この左に宿る『心晶眼』は本来人に向けて行使するものだが、この魔眼は人のみに非ず、剣や物体に宿る性質さえも見抜けるようなので、それで観察すると不思議なオーラを纏って放出している。

 凄まじいオーラ、ではない。

 何処か弱々しく感じられるが、しかし懸命に生きようという意思を感じる。

 その一振りの直剣が気になるが、それよりも先に彼女への質問だ。


「俺は話したぞ、今度はお前の番だ。職業は何だ?」

「あぁ済まない……我は、案内人だ」


 そう言った彼女は、職業鑑定書を見せてくれる。

 そこには曲がりくねった道路と、その先を行く人間と手を引く何者かの二つのシルエットが描かれた、一つのエンブレムが提示された。

 確かに案内人のようだ。

 しかし、随分と珍しい職業を手にしている。

 案内人というのは『誰か』を導くための職業であり、常に世界の未来を見ていると言われている珍しい職業、戦闘ではあまり役に立たない。

 案内人の彼女が冒険者ギルドに登録しようとしているのは不思議なものだが、俺も人の事は言えないため、そういうものだと認識しておく。

 腰の剣があるので多分大丈夫だろうが、戦闘面での能力値を俺は知らない。


「その剣は?」

「こ、この剣は太古に伝わる精霊剣でな、認められて所有者として帯剣しているのだ」


 精霊剣というのは、精霊術師が精霊力で形成する魔法のような剣の総称であり、中には精霊術師の意思が宿っていると言われている。

 ただ、精霊剣は使い手を選ぶとも言われており、魔剣や聖剣のように選ばれし者以外には持てない。

 それに彼女の、太古より伝わる精霊剣、という言葉に心晶眼が反応していたが、聞くのは野暮だろう。

 誰にでも秘密はある。

 その秘密を暴くような真似は、危険が及ばない限りはしないであろう。

 他人の過去になんて、大して興味無いし。


「の、ノア殿は、驚かないのだな……」

「何にだよ?」

「我が案内人という事実に、だ」


 別に、誰がどんな職業を持っていたとしても、大して驚きはしない。

 そんなのは所詮、神だけが知るものだ。

 誰が何を授かったところで、それが彼女の役割でしかないのだ、

 そもそも俺が揶揄される錬金術師という職業を器に宿しているのだから、彼女がどんな職業だろうと、或いは職業を持っていなかろうと、どうでも良い。

 役に立とうが立つまいが、今回の試験で俺が戦えさえすれば、それで充分。


「……先程の冗談、本当なのか?」


 先程の、それは俺が錬金術師だと事実をサラッと述べた理由について、どうしてそういった質問が一言二言会話しただけで出てくるのかが謎だ。

 どういう意図があるのかと、そう考えた時には疑問を口にしていた。


「何故そう思った?」


 俺が錬金術師だとバレたところで、ただ馬鹿にされるだけだろう。

 結局は俺が強いか弱いか、他人の評価を一々気にしたりなんてしない。

 評価は基本他人がするもの。

 しかし異世界において、職業に関して言えば自己評価が確立してさえいれば、強くなれる。

 彼女が俺の職業を聞いた瞬間、驚いたような表情をした事実、それからすぐに俺へと冗談について聞き返したのが気掛かりだった。

 未来を見た、と言えば速攻解決なんだが、だとしても彼女の場合は未来が見えている時点で、俺に質問せずとも良いはずだ。

 現時点での思考を未来へ反映させるだけで、未来が情報を入手してくれるからだ。


「もし俺が錬金術師だった場合、お前は俺を蔑むのか?」

「い、いや――」

「なら何故、俺が錬金術師って言った時に驚いたような表情したんだよ? それに何でさっきのが冗談じゃないって思ったんだ?」


 これだけはハッキリしておきたい。

 一時的にでもパーティーを組む間柄ならば、こうした軋轢生みかねない状況を明確にしておきたい。

 別に怒ってるのではない。

 知られても勇者達とは袂を分かったから、俺が錬金術師と名乗ったところで不都合は起きない。

 が、少女の考えを知りたかった。


「不快にさせたのならば謝罪しよう。錬金術師が揶揄されてるのは知ってるだろうが、冒険者登録するためのチームとしては少々不安になってしまってな」

「正直だな……確かにそうだ。普通なら錬金術師は役に立たない職業だって認知されてる」


 それが今も変わらないのだと、彼女の口から説明してくれて良かった。

 このまま隠しておく方針だ。


「だが、俺には精霊契約した子がいるんだ。ステラ、出てきてくれないか?」

『んもぅ、仕方ないわねぇ』

「せ、精霊!?」


 驚くようなものでもない。

 だがしかし、高位精霊はそこまで大勢という訳でもないので、彼女が阿鼻叫喚とした表情を纏っているのは、一目見れば分かる。


『ステラはステラって言うの。よろし……ねぇ貴方、貴方はステラの仲間?』

「何を言ってるのだ、貴殿は?」


 いやホント、この精霊は何を言ってるんだろうか。

 俺には無い感性を持ってるのか、ステラの様子を放置して観察に入る。


『だって貴方、精霊でしょ?』

「な、何故それを!?」


 リノが精霊、そして彼女の表情から本当らしい。

 いやしかし普通に人間の肉体をしているのに精霊だ等とは、ステラが何を言い出したのかが理解不能であり、納得のいかない問題だ。

 コイツが精霊だとしたら職業を授かるなんて無いし、先程の会話からも嘘を吐いてないのも知ってる。


「ステラ、今のどういう意味だ?」

『うん、あのね、えっと……この子からステラと同じ感じがするんだよ?』

「首を傾げられても……」

『でもね、でもね、何だか可笑しな感じなの』


 ステラが変な発言で翻弄するのはいつも通りだが、彼女の直感は時には俺の危機すらも救ってくれるので、彼女が事実を述べていると信頼に値する。

 ただ、納得できるのと、理解できるのとでは意味が変わってくるので、彼女が何者なのか、ペアを組む者として知っておく必要がある。

 それにこの話題、もう半分地雷だろうし。


「リノ、本当なのか?」

「……」


 何故だか話したく無さそうだったので、俺は溜め息を吐いて、これ以上は聞かない方向に切り替える。

 彼女が精霊だろうと、人間だろうと、化け物だろうと、試験に合格さえすれば彼女の正体も興味を唆られない。


「まぁ良いや、それよりも質問に答えてくれ。すぐに俺の言葉が冗談ではないと思った理由を、まだ聞いてないからな」


 俺がした質問は二つ、俺が錬金術師だと言った時に驚いた理由について、それから俺の言葉が冗談でなかったと速攻で気付いた理由についてだ。

 驚いた理由は、単に俺が錬金術師ならばペアとして不安だったから、それか自分と似た境遇だったからだろう。

 そんなのは今や関係無い、俺が聞きたいのは言葉を看破した理由の方。


「我の職業は案内人、普通なら驚くところだが、ノア殿は驚かなかった。それは、ノア殿が常に驚かれる側の錬金術師だからではないか、そう即座に思えたからだ」

「はぁ……何でホントの事、お前に言っちまったんだろうなぁ」

『ノア、おっちょこちょいだね〜!!』


 ほぼ無意識のうちに真実を彼女へと伝えてしまったので、その言動が不思議でならない。

 自分の言動が多少変だったような気もするが、何故だか彼女には話しておかねばならない気がしたのかも、だから彼女へと嘘偽りを語らなかった。

 後で騙しはしたが。

 騙そうと思えるのならば騙せた。

 彼女が案内人という言葉を発した瞬間に全てを理解したからこそ、あそこで驚くべきだったのだが、それをすると自分で錬金術師という職を自嘲しているようで、何となく嫌だったのだ。

 それに相手に失礼だろうし。


「それが事実ならば、ノア殿はやはり錬金術師なのだな」

「あぁ。まぁ、精霊術師ってのも本当だし、戦闘に関しては気にするな。戦いの心得は身に付いてる」


 今はまだ、錬金術師が便利な能力を、いや強力すぎる能力を持っているのは伏せておこうと思う。

 錬金術師だとバレても能力を見せなければ、スローライフを送れるだろう。


「まぁとにかく、今は試験合格に向けて、食糧買いに行こうぜ、リノ」

「う、うむ」

『あ〜、待ってよノア〜!!』


 今はただ、ペアでの試験を無事終えて普通に合格するという目的が先決、最優先事項だから、移動する時間も計算に入れると二時間あるか無いかだ。

 立ち止まってる暇は作れない。

 試験に集中するためにも、一旦話を区切って、俺達は試験のために物資調達を開始した。






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