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星々煌めく異世界で  作者: 二月ノ三日月
第一章【冒険者編】
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第1話 プロローグ

 魔王、それは世界を滅ぼすために生まれた人類の敵であり、その魔王に対抗する形で、勇者と呼ばれる人々の希望が生まれた。

 この世界『クラフティア』では、長い歴史の中で何度も勇者と魔王の大戦が起こっており、何度も歴史が繰り返されているのだが、今回までにも大勢の人が死に、大量の血と涙が零れ落ちた。

 数々の歴史の中で色んな人が勇者となった。

 例えば、正義感に溢れる清き正しい青年。

 例えば、復讐のためだけに強くなった少女。

 例えば、不思議な力を持っていた異世界人。

 色んな種族の人間が、勇者として活躍してきたのを子供の頃から絵本や童話で知っている。

 そして今代の勇者アルバート、彼はとある王国にて勅命を受けて魔族退治、そして人類のために日々仲間達と戦って旅をしている。


「お〜いデューク、こんなとこで寝てると風邪引いちゃうよ?」


 ギルドと併設している酒場にて、デュークと呼ばれる赤い鎧甲冑を纏った勇者パーティーの重戦士が、酒に酔ったため眠ってしまっていた。

 赤面した頬は真っ赤で、寝息が豪快だった。

 気持ち良さげに眠り、何か彼にとって幸運でもあったのかと素直な感想が出てきた。

 そして、彼を起こそうと巨躯を揺さぶってるのが、今代の勇者であるアルバートだ。

 金髪に碧眼の美少年、まさに御伽噺に出てくるような聖なる勇者とそっくりであり、しかも聖剣に選ばれるくらいの逸材と言われている。


「放っときなさいよ〜。そこの脳筋が風邪なんて引く訳ないじゃない」


 そう言って自身の身の丈程ある魔法杖を磨いてるのは、勇者パーティー最大の火力持ち、魔導師シーラだ。

 数千もの魔法を操り、敵を殲滅する力を持っている彼女は勇者パーティーの要でもある。


「ですが明日は魔族の潜んでいる洞窟に潜るのでしょう? ならば重戦士である彼が必要不可欠、シーラの魔法は発動が遅いですから」


 落ち着いた様子で分析していたのは、回復を一手に担うパーティーの僧侶ケイティ。

 神官の服装を身に纏いながら上の階から降りてくる彼女だったが、スリットから覗かせた生足をチラッと見ていたアルバートの、その視線の動きを俺は見逃さなかった。

 アルバートの悪癖だ、もう慣れた。

 英雄色を好む、という言葉があったけど、それと同じだろうか。

 そんな考えを他所に、シーラに文句を言うケイティの言葉に彼女が激昂する。


「はぁ!? あたしの魔法にケチ付ける訳!?」

「いえ、重戦士がいるといないとでは戦略が大分変わりますから、もしデュークがいない場合、誰が魔導師を守るのですか?」

「うっ……そ、それは……」


 シーラへと言葉を重ねていくケイティだが、確かに彼女の言う通りだと俺も思った。

 まず、魔術師や魔導師の使う『魔法』というのには詠唱が必要となり、威力が大きい魔法程、長い文章での詠唱が必要となるのだそうだ。

 重戦士であるデュークが一手に相手の攻撃を受け止めているからこそシーラは詠唱して魔法を正確に命中させられているし、デュークが怪我をした場合はケイティが治療すれば良いので、体力と回復に使う魔力が残存する限り、その鉄壁の砦は簡単には突破できない。

 その重戦士は今も爆睡中な訳だが、酒癖の悪い彼らしいからメンバー達は半分放置状態だ。


「じゃあレット! あたしを守ってよ!」

「それは無理っすね。何せオイラ、狩人なもんで」


 と、今度肉壁役として白羽の矢が突き刺さったのは、バンダナがトレードマークと化した男レット、うちのパーティーでは狩人を生業としている。

 基本となる近接戦闘と弓術師並みの弓の精度を持っており、罠感知や罠作成といったトラップに関連する職業の持ち主だ。

 なのでシーラの無茶振りは紙装甲のレットには無理難題で、デューク並みの体力と防御力も無しに肉壁となれば瞬殺間違いなしだ。

 肉壁ではなく、即座に肉塊へと成り下がる。


「ならヴィル! あんたが守りなさいよ!」

「無茶言うなよ……」


 最後にシーラが俺へと視線を向けてくるのだが、俺は残念ながら非戦闘職、味方のサポートや周囲の探索、斥候やマッピング、旅での荷物持ちとかを担っている。

 なので彼女を守れるような能力を俺は一切持ち合わせていないし、仮に彼女を守れたところで一度限りの肉壁だ、次は守護できない。

 この世界の住民達の持つ『職業』というのは、『職業選別の儀式』と呼ばれるものを十五歳になったら教会で行い、神様から職業を与えてもらうのだ。

 残念ながら自分は、神様から授かったのは戦闘では全くの役立たずと揶揄されている『錬金術師』であり、低級レベルのポーションしか作れない。

 また、錬金術師に関する技能はそれだけ、更に言えば初歩的な生活魔法しか使えないので、無能である自分が戦闘に入った瞬間、死んでしまう。

 職業を手に入れた時に、本当なら同じく職業による技能を授かるのだが、俺が授かったのは錬金術に関するものでありながら、下級ポーションという薬剤師系統の職業と重複する、いや、劣化品しか作れないので、戦闘に使用できる能力を俺は持ち合わせていない。

 あれば何かと役に立てたはずだ。


「役に立たないわね〜」

「アハハ、すまん……」


 作り笑いを浮かべるのとは逆に、ギュッと握り拳を作って仲間からの罵倒を耐える俺だったのだが、俺だって欲を言うのなら戦闘職が良かった。

 戦闘職では、その職業の者だけが使える武技があり、それを『アーツ』と呼んでいる。

 だが非戦闘職である俺に、その武技アーツとやらは存在していない。

 例えば、普通の剣士ならば最初に覚えるのは『スラッシュ』と呼ばれる、魔力を剣に纏って放つ袈裟斬り攻撃で、魔力を纏わせる程威力や斬れ味が上がる。

 同じように錬金術師にも何かある、と思いながら二年間色々と頑張ったが、結局は無意味に撃沈。


(俺も戦闘職が良かったなぁ……)


 なんて考えても無駄なのだと理解している。

 職業は神様から授かった物、つまり返品はできないとされている。

 自分の納得いかない職業を授かった者の中に、神殿にて神を罵倒した者がいたらしいのだが、その者は神の天罰によって雷に撃たれて死んだ、とか。

 他にも二つ目の職業を貰おうと考えていた者は、二つ目の職業を手に入れた瞬間、身体が四散してしまったと聞いた事がある。

 全部噂程度だ。

 教会が流してるので真偽は不明だが、本当にあった史実なのだろう。

 これは世間一般での解釈だが、職業を入れるための器である肉体に入るのは一つ、つまり器のサイズは本来職業一つ分でしかないために、容量超過キャパオーバーしてしまったのではないかと考えられる。

 職業は使い方次第でどのようにも化けるからこそ、自分の授かった錬金術師という職業にも可能性があるのではないかと信じたくなる。

 だが、この職業は分かってない事も多いそうで、外れ職業とも言われているくらいだ。

 劣等職、不遇職、そんな揶揄表現が世間一般の常識と化している。

 こんな弱い俺を受け入れてくれたパーティーには感謝してるし、役に立とうと頑張りたい気持ちもあるので、日頃から情報収集や武器防具、アイテムの値段交渉とかでパーティーの役に立ってきた。

 この街では、すでに情報収集は済んでいる。

 明日はいよいよ魔族の潜んでいる洞窟へと入っていく、そのために早めに寝ようと決めた。


「俺、そろそろ寝るよ」

「分かった。また明日ね、ヴィル」

「あぁ、また明日」


 アルバートへと挨拶して、俺はギルドで借りている部屋へと戻っていった。









 翌朝になって、鳥の囀りと共に俺は目を覚ました。

 小鳥達の奏でる話し声は麗しく、目覚ましにピッタリと言える。

 いつものように同じ時刻に目を覚まして、そして同じように装備を整えて、そして同じようにパーティーメンバー全員を起こしに回ろうと部屋を出る。

 いつも寝坊助な彼等を起こすのが日課だ。

 現在、俺は勇者様の寝室前にいる。

 何度か扉を叩いて、偉大なる勇者様を起こそうとしているのだが、一向に起きて来ない。


「お〜い、アルバート〜?」


 ドアを叩いても返事が無いのは日常ではあるのだが、それでも数回叩けば出てくるはずなのに何故か反応が一向に帰って来ない。

 自分には魔力の素養が無いので、探知とかは不可能。

 できないため、断りを入れて入ろうと極める。

 部屋の中にいるのかなと思って、ドアノブを捻ってみると鍵は開いてたようで、簡単に入れた。


「あれ?」


 しかし何故かベッドは蛻の空だったので、珍しく早起きしてくれたのだなと思っていると、背後にはいつの間にかアルバートとデュークの二人が立っていた。

 突然気配を感じられた。

 その二人が起きてる事実が一番恐ろしい。


「ヴィル、何してんの? もう全員、支度出来てるよ?」

「ぇ……う、うん」


 勇者様に急かされて、急いで荷物を取りに戻ってから、俺はアルバート達と合流した。

 全員がフル装備であり、シーラに至っては意気揚々としているように見えたのだが、今日に限って早起きした事に対して妙な違和感を覚えた。

 胸騒ぎ、とまでは行かないけど、何だか妙な感覚が胸の中に残る。


「何してんのよあんた、早く行くわよ〜」


 考え事をして立ち止まってしまった俺に声を掛けてきたのはシーラだった。

 溜め息を零しながら先を歩いていく彼女を追い掛けて、小走りでパーティーの最後尾に着いた。

 いつものポジションなのだが、非戦闘職である以上、戦いに参加すれば確実に死ぬのは決定事項なため、情けないが女の子の背中に守られるしかない。

 本当に自分が情けない。

 もう十七歳、しかし自分が無能である事実は覆らない。


「それでアルバート、魔族がいた場合だが、作戦はどうする?」

「う〜ん、いつも通りで大丈夫だと思うけど、万が一もあるから、その時はシーラの転移魔法を使うって形で撤退しよう」


 勇者らしからぬ発言だが、逃げるという選択肢を取れるのは流石だと思う。

 勇者が逃げ帰ってきた、その言葉の重みは想像以上に伸し掛かってくるだろうが、それを気にも留めず戦略的撤退という選択肢を取れるのは、本当に素晴らしいものだ。

 彼は戦闘に関して一度も逃げ出したりしなかったため、万が一を考えたところで逃げたりする場面も無い。

 それ故に、今代の勇者パーティーは歴代よりも強いと思われているそうで、そのパーティーに恥じないように俺も日々研鑽を続けていた。

 時にはパーティーのために装備を整えたり、時には御者を手配したり、時には宿屋チェックや物価交渉、色々と経験してきた自負がある。

 この国の近くにある森には洞窟があり、その中に魔族がいるとの情報があったそうなので、その対処のために勇者パーティーが駆り出された。

 魔族とは肌が青くて、角と翼、それから悪魔の尻尾が生えた種族を指すのだそうだが、体内にある魔力量は人間の数倍はあるようで、勇者一人では全ての魔族を殲滅できないからこそパーティーとして戦っている。

 国を出てからは馬車を利用して、一時間程で洞窟へと辿り着いた。


「ここからは僕が先頭を進んでいく。陣形は乱さないように」


 彼の言葉で全員の気が引き締まったのか、武器を手に持って洞窟へと入っていく。

 緊張感が高まっていく。

 最後尾を任されている俺は、背後から迫り来るモンスターを警戒して、常に周囲に気を配らなければならない。


「全員戦闘準備!!」


 洞窟の奥へと進んでいるとゴブリンが合計四体現れ、それぞれが攻撃してきた。

 緑色の肌をした小鬼、半裸の彼等は涎を垂らし、醜い形相で急襲を仕掛けてきた。

 手に持っているのは紫色の液体の塗られた短剣で、盾を構えるデュークを通り過ぎたゴブリンが僧侶であるケイティを狙っていて、アルバートが持ち前の剣でゴブリンを一刀両断した。


 ガキンッ!!


 その音は、アルバートの振り回した剣と洞窟内の岩が当たった事で発生したのだと理解した。

 火花が僅かに散っていた。

 洞窟では長物よりも、短剣や短槍、振り回しやすい武器を装備するのが鉄則だが、アルバートは基本的な聖剣を用いて戦っている。

 やはり長物の剣では、閉鎖環境という場において分が悪いようだ。

 その勇者の背後に一匹のゴブリンが襲い掛かっていたところに、狩人であるレットが二つの短剣をクロスさせてゴブリンの胸部へと刃を振るった。


「『ポイズンエッジ』!!」


 毒の塗られた短剣は何もゴブリンだけが持っている訳ではなく、その毒が体内へと侵入した直後、一体の小鬼は泡を吹いて絶命した。

 レットの得意な毒攻撃だ。

 それを横目に、詠唱の終わったシーラの魔法が波状で炸裂する。


「『アクアバースト』」


 水の塊が炸裂して、残り二体のゴブリンは高圧の水に押されて、通路の奥へと飛ばされていった。

 あれで少しは時間稼ぎにはなるだろうと思って、全員が周囲の警戒をしながら前へと進んでいく。


「助かったよ、シーラ」

「ふふんっ、当然でしょ!」


 誇らしげに小さな……いや訂正、無い胸を張って、彼女がアルバートへと抱き着いていた。

 二人が恋仲にあると分かってはいたが、こんな暗闇に支配された洞窟でイチャつくとは、本当に緊張感の欠片も無い奴等だ。

 それだけ強者の余裕があるのか、圧倒的弱者である俺には分からない。


「さて、先に進もう」


 そう言って彼に続いて俺達は更に奥地へと進んでいくのだが、いつもならば俺が斥候として前に出るのに、今日は何故だか前に行く必要は無さそうで、まるでアルバートには道順が分かっているかのようなルート選択に、ますます違和感が強くなっていく。

 燻っている違和感の正体、それは彼等のいつもと違う複数の行動にあるのだが、それが何故こんなにも心の中で騒めいているのか、このまま付いてっても良いのか、咄嗟の判断に迷ってしまう。

 それでも俺の居場所はここにしか無いのだから、付いていく選択肢以外は選び取れない。

 俺は、忌み嫌われた存在だから。


「ここが、最深部か」


 アルバートの呟きが反響して、通路が一気に広くなったのだと理解した。

 魔導のランタンをリュックから取り出して、それを点灯させて周囲を見渡してみるものの、何処にも敵らしい敵が見当たらなかった。


(ヤケに静かだな……)


 それに先程奥へと吹っ飛ばされたはずのゴブリン二匹も何処かに消えてしまったようで、光を翳しても見つからなかった。

 最深部へと簡単に辿り着けたが、魔族の姿は片鱗すら拝めず、代わりに置かれていたのはダンジョンの核となる、光った魔石だった。

 これがダンジョンコアなのだが、何故こんな何も無い場所がダンジョンとなっているのかと疑問を感じたが、そんな空間に似つかわしくない声が響き渡る。


「キヒヒ……おいおい、随分と弱っちい客だなぁオイ!」


 粘ついた、気持ち悪い声。

 全員の向けた視界の先には、いつの間に出現したのか、二本の角を生やした青白い肌を持つ、一体の魔族が醜悪な笑みを繕っていた。

 限界にまで吊り上げた口角から、牙が覗く。

 鋭い爪に魔力を纏わせており、俺でも認識できるくらい濃密な魔力の塊だが、色は青ではなく赤、まさに悪魔を象徴とするような禍々しい色だった。


「き、貴様は何者だ!?」

「ギャハハハハ! 声が震えてるぜぇ、勇者様よぉ!」

「ぐっ……」


 咄嗟に剣を構えたアルバートの反射神経は常人を逸脱しているにも関わらず、それを追い越すくらいの勢いで爪撃を繰り出した魔族の方が強い、そう全員が肌で感じた。

 だからなのだろう、シーラが転移魔法を使おうとしているのを見た。

 転移魔法は古代の魔法らしく、使うには膨大な詠唱を必要とするため、時間稼ぎが必要だった。

 他のメンバーもシーラの戦略的撤退を理解していた。

 だからか、アルバートとの剣戟の中へと、一人の重戦士が突っ込んでいく。


「これでも喰らえ!!」


 デュークがアルバート達の鍔迫り合いへと飛び込んで、眩く輝きを放つ巨盾を構えながら突進を繰り出したデュークだったが、それが魔族へと直撃したかと思えば、しかし軽々と避けられた。

 そして華麗な着地を見せる。

 重力を感じさせない動きに、勇者達は翻弄されている。


「うおっと……ふぅ、危ねぇ危ねぇ。まさか『シールドバッシュ』を勇者に向けて放ってくるとは、もしかして仲が悪かっ――」

「『ポイズンアロー』!!」

「おいおい、不意打ち仕掛けてくるたぁ、勇者の名が廃るってもんだろうがよぉ」

「気配を消してたはずなのに、よ、避けられた……」


 毒矢を魔族の死角から放っていたが、それすらも気付いて簡単に掴んで阻止していた。

 大抵は不意打ちで決まるものだが、その魔族には最初から全ての攻撃パターンを見透かし、それからも怒涛の攻撃の数々を見切って避け、そして反撃、カウンターを繰り出していた。

 だから、数分もすれば勇者達の装備や服装はボロボロとなっていた。

 手加減されている、と素人目からも理解できた。

 勝てない、敗北、そんな文字が脳裏を過る。

 悔しいが、今の勇者達では幾ら奇襲作戦を講じようとも勝てはしないだろう。


「何だよ、折角勇者とバトれるって楽しみにしてたのによぉ、正直ガッカリだぜ」

「何だと!?」

「まぁでも、魔王様にゃあ良い手土産になりそうだし、テメェ等の生首持ってきゃいっかぁ!!」


 ゾワっとした。

 背中に悪寒が走ったが、ここまで死への恐怖を感じたのは今日が初めてかもしれない。

 冷や汗は背筋を滑り落ち、殺されてしまうと直感した直後だった。


「ガッ!?」


 俺は背後から誰かに電撃を浴びせられた。

 理解に及ばない。

 突然の奇襲攻撃に、他に魔族の仲間でも潜んでいたのかと思って、冷たい地面へと倒れたところで、誰が電撃魔法を放ったのかが見えた。

 いや、見えてしまった、と言うべきか。


「し、シーラ……?」

「アル! 準備できたわよ!!」

「分かった!!」


 アルバートはシーラの呼び掛けに応じて、魔族へと剣技を放った後、こちらへとダッシュで駆け寄ってくる。

 しかし俺が倒れていても何も言わず、ただゴミを見るような目で見下してきた。

 それは仲間に向けるような目ではなく、まるで主人と奴隷という立場を認識させられたかのような、そんな侮蔑を含んだ目だった。

 仲間だと思っていた、何かの間違いだと。

 しかし電撃で舌が痺れてしまい、呂律が回らない。


「ぁ……ぅぁ……」


 麻痺の魔法の効果で声も荒げられず、俺は彼等へと視線を上げるしか、行動を取れなかった。


「『フラッシュ』!!」

「ぎゃっ!?」

「なっ――」


 いきなり閃光の魔法を使われて、俺と魔族は直視してしまったので、視界も潰された。

 目が非常に痛い。

 魔族が悲鳴のような薄気味悪い声を上げていたので、恐らくはフラッシュをまともに見てしまったのだと、耳だけで判断した。


「『バインド』!」

「おいおいマジかよ!? 魔公爵である俺様がこんなちゃちな魔法に掛かるとは……っそ、んだこれ取れねぇ!?」


 今度は相手を拘束するための魔法を使ったらしく、魔族が暴れているらしい。

 地団駄を踏み、暴れている。

 洞窟内だからこそ、その音が反響して聞こえてくる。

 そんな魔族の行動なんて今はどうだって良い、それより何で電撃魔法を味方に撃ったのか、何故俺をゴミを見るような目で見てくるのか、だ。

 いや、分かっている。

 本当は……全部分かっていた。

 彼等だけは違うのだと、心の何処かで思っていただけ、しかし一緒に過ごした時間が嘘だったとは、到底信じられはしなかった。


「何故こんな事をするんだ〜、って思ってるでしょ?」


 まるで俺の心を読んでいたかのように、彼女が片膝着いて声を掛けてくる。

 フラッシュの影響か、まだ視界不良なので音だけを頼りに彼女の方を向いて耳を澄ませた。

 その答えを知りたかったから。


「ずっと邪魔だったのよねぇ、あんた」

「…ぇ……」


 彼女の口から出てきたのかと、思考がショートしてしまったかのような衝撃を受けた。

 俺が邪魔だったと彼女は言葉にした。

 その言葉に対して、誰も何も言わなかった。

 それは、全員が最初から俺を見捨てるつもりだったという事実が露見したと同義なのだ。

 誰も口を挟まない。

 いや、むしろ便乗する声まで届く。


「まぁ、こんな何の役にも立たないクズ、オイラ達に使われて幸せだったっしょ」

「それもそうだな。いつかは捨てるつもりだったしな」


 レットとデュークから出てきた言葉は、あまりにも残酷で非情なものだった。

 いつも気に掛けてくれた重戦士のデューク、俺にマッピングや罠について色々と指導してくれたレット、今まで仲良くしてきたのは……全部偽りだった?


「ここで勇者パーティーの犠牲になれるのです。これは平民には幸せな事でしょう」

「そーそー、だからここで使い捨てるの。あたし達は荷物が減ってラッキー、あんたはアルの役に立てるから幸せ、お互いウィンウィンな関係でしょ? キャハハ」


 つまりコイツ等は最初から、俺を仲間とも何とも思ってなかったのだ。

 むしろ俺を邪魔者、厄介者として扱っていたにも関わらず、それを心の中に隠していた。

 俺の中で何かが壊れていくような気がした。

 勇者パーティーとは所詮、醜い人間でしかなかった。

 それに気付かずに彼等を仲間だと思い込んでいた俺が馬鹿みたいではないか。


(クソッ……)


 これが夢であったならば、どんなに嬉しいだろうか。

 嘘だと言って欲しかった、今のはドッキリだよと、言って欲しかった。

 こんな奴等に騙されて使い捨てにされるのは、全然納得いかなかった。

 当たり前だ、これから俺は死ぬかもしれないのだから。


「じゃあね〜」

「待っ――」


 シーラの最後の言葉によって、彼等が転移するのだと思っていたが違った。

 転移させられるのは俺の方、つまりゴミをランダム転移によって何処かに処分しようとしているのが直前になって判明し、俺は麻痺している肢体を必死に動かそうと藻搔いたが、無駄だった。

 意味なんて無かった。

 何処かに飛ばされる、そう思った瞬間、俺は死の恐怖に支配された。

 やがて白い光に包まれて、魔族の男と共に俺は、ランダム転移によって異国の地へと飛ばされた。






本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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― 新着の感想 ―
勇者パーティーの言動は酷いと思いますがアーツの有無だけで体を鍛えることが出来ないわけでもなく戦闘中何か工夫してサポートするわけでもなく職を言い訳にして努力を怠ってるのであまり主人公に同情は出来ないかも…
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