トラブル続きのアパート(上)
小河さんが引っ越してから数か月がたった。
私は相変わらず、週二回スモール・ヒルへ通い、清掃や小修繕・業者の立ち合いなどをしている。
小河さん親子の様子を見ると、娘がこのアパートで暮らし、近所に住む母親が週に何度かアパートへ来る生活だった。
娘は何かしらの手助けが必要なんだろう。
私はそんな二人を見て、役に立てないかと奔走し、連絡があればサービス残業になろうが、休日だろうが対応に当たった。
そもそもスモール・ヒルは築年数が経過しており、トラブルのネタは尽きなかったからだ。
そんなある春の日だったと思う。
「水漏れですか?」
『あぁ、台所のシンクの部分から水を流すと漏れてくるそうだ』
唯一の上司であり、私の勤めている会社の社長でもある富田氏は疲れた様子でそういった。
アパートやビルの設備管理は、世間一般のイメージからすると比較的、気楽なイメージがあるらしい。
セカンドライフをのんびり過ごしたい人や悠々自適な生活を送りたい人向けの仕事という煽り文句は、求人情報をみるとよく見られる。
私もこの仕事をやる前はそれを想像していた。
しかし、実際の感想は真逆である。
嘘ではないらしいが、すべては現場によるのだ。
もし設備管理をこれから仕事にしようとする人は、お気をつけ願いたい。
掃除中だった私はススキノのビルより、愛車のリトルカブへ飛び乗ると白石区へ向かった。
36号線は夕方混んでいるので、一本脇道に入る。
そのまま、南七条・米里通や菊水・旭山公園通を抜けていった。
すすきのからスモール・ヒルまではリトルカブで四十分ほどの距離にある。
以前は社用車で来ていたが、近くのコイン駐車場にバックで止める際ぶつけてからは地下鉄となった。
その後、私がリトルカブを購入してからは、もっぱらそれを使うようになっている。
到着したころには、業務終了時刻も一時間も過ぎていた。
「遅れてすいません、管理会社の者です」
出迎えたのは、小河さん母。
「とりあえず、見てください、これ」
早々に部屋の中へ入ると台所のシンクを見てと言われる。
収納スペースの戸が開け放たれており米びつや調味料、調理器具が床に出されていた。
木製で作られた戸棚の中が遠目でもわかるくらいびっしょりと濡れているのがわかる。
「あらー、これは酷いですねぇ」
と私。
ヘッドライトをつけて、仰向けになると戸棚の中に潜り込むと原因はすぐにわかった。




