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ブレーカー探し

ビルメンテナンスとありますが、その活動は多種多様です。

その中でも大変な事が多いシーズンや比較的楽な事が多いシーズンもあります。

ちなみに冬は大変です。

札幌の冬はみんな口をそろえて「除雪地獄」と呼んでいます。

 人は死の恐怖に直面した時、 様々な感情が浮かぶ。

 私の場合は小さな驚きと、大きな恐怖だった。

 「あの奥にあります」

 周りの景色は、厚い雲に埋め尽くされた空、積雪の地面。

 そして道路を挟んで向こう側へ見える雑居ビルの「屋上」だった。


 北海道―――札幌。

 その市内にある北の最大の歓楽街ーーーススキノ。

 最近は、行政が観光客誘致に本腰を入れ、都市開発が進み、市内のあちこちで建物の取り壊しや建設の様子が見られる。

 往来する重機や専門業者も年を追う毎に増え、町はこれまでにない変化を遂げていた。

 

 壁に亀裂が入り、外壁がポロポロと落ちている雑居ビルの隣に築一年以内のピカピカのアミューズメントビルがたつというアンバランスな光景も珍しくない。

 

 さらに積雪のある冬となれば、市内は元よりススキノも混雑の度合いは増す。

 雪や氷が積み重ねられた市道を酒や食品を配達するトラックに混じって、除雪用のダンプやホイールローダーが行き来する。

 そこで働くことを生業としている人々にとっては頭を悩ませるのが毎年の常だ。

 その光景を眼下に、本当に眼下に納めながら、私は豪雪の積もったビルの塔屋の上―――通称ペントハウスの上―――で佇んでいた。

 事の起こりは一週間前に遡る。


 大学を卒業してから私はとあるビル管理会社に勤めることになった。

 その入社二年目の冬。

 

勤務しているビル管理会社の社長、冨田からのお達しでビルの配電盤を探すことになったのだ。

 ビル管理会社と言えば聞こえはいいかもしれないが、実質ビル管理に携わる人間は、私と社長の二人だけ。

 もともとこの会社はビル管理と駐車場、二つの部門に別れており人員も売り上げも有人駐車場の業務が主となっている。


 そのため管理業務は、規模が小さく、同じススキノにあるビル二棟と市内の白石区にあるアパートの計三棟だけだった。

 どれも築三十年を優に越え、あちこち設備にガタがきている。

 また、ススキノにある方も自社ビルではなく、それぞれ別々のオーナーから管理委託されていた。


 その管理物件の一つ、駅前通り七号ビルの飲食店スタッフから連絡があったのが一週間前。


 内容は、外壁に取り付けた看板が点灯していないという。

 それも一つでなく複数ありライトアップされる看板の1/3に及んでいた。

 大手の管理であれば、すぐ構造図やら配線図やらを見てブレーカーの場所を把握し原因を調査するが、うちの様な中小はそうもいかない。

 

 そもそも、前任の管理会社から引き継ぎらしい事はほとんどせず、ビルの管理を請け負うことになったと社長からは聞いている。


 当然、そういった設備の図面は元より、法律で必要な書類だって用意があるか怪しい。

 また社長の冨田だって、ビル管理の経験はないのだ。少ない、のではなく、ない。

 

 とにかく私は配線図がなく、もとの管理会社とも連絡が取れない以上、(社長だって、把握してない)自分がビルの中を歩き回り配電盤を見つけるしかない。

ただ、これは非常に厄介なことだった。

 

 この駅通り七号ビルは、電気設備の増設を繰り返し、外にある看板やネオンに繋がったブレーカーは外部の至るところへ小分けされ設置されていた。


 それも第三者から不用意に触られることがないよう、隠されるように。

 

 産廃置き場となっている非常階段(消防法違反)の中に設置されているのはまだ可愛いもので、脚立を使ってギリギリ届くような外壁の上部や看板の裏などに設置されている。

 

 しかも、今の季節は冬。

不幸にも私がブレーカーの捜索に取りかかってからは天候が崩れ、吹雪が続いていた。

 そんな中、外で脚立を使えば段に雪がつもり滑りやすくなる。

 また、手は悴む、トイレは近くなる、着ているダウンコートは濡れると悪条件が揃っていた。

 契約している電気業者もいるが、個人経営であり他にも現場を抱えているため、すぐに来てくれるわけではない。

 

 しかも社長の方針で、まずはこちらでできる範囲の調査を行い、原因がはっきりしてから呼ぶと言われている。

 録な説明も、管理のノウハウなど全くないまま、私はブレーカーの捜索を行うことになったのである。

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