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モテる男(雄)は大変だ 3

何とか一週間ぶりの投稿ができました。

ススキノのドンキホーテには本当に高価な時計が売っていますが、私は当然見るだけです。

モテる男性は何かと気苦労が多いと聞いた。

私には関係ない。


しかし、モテることを商売にしている男性には切実な悩みだろう。実際、その様子を見たことがあるので断言できる。


所変わって、札幌ススキノにある駅前通七号ビル。

いつも私が掃除をしに来ているビルだ。


そのホストクラブはビルの九階にあった。

店名を『chevex』という。フランス語で髪を意味するらしいが、その名に相応しく、実に様々な髪型で自身を主張するホスト達が在籍していた。

煌びやかな世界のイメージとは裏腹に、泥酔し歩けない者、非常階段の隅に座り込んで嗚咽しながらどこかへ電話をしている者、更には急性アルコール中毒で搬送される者までいたのを覚えている。


「ああ、ちゃんとわかってるって」


その日も廊下を掃除していた私は、階段のところで電話しているホストを見つけた。

高そうな紺色のスーツをビシッと着込み、キラキラ光る装飾具を着けた様は完全にやり手のホスト、そのものである。


「とにかく見つけたら連絡くれよ。酔っぱらって寝てた俺も悪いけどさ」

とにかく頼むわ、そういって彼はスマホを切った。


傍らの缶コーヒーを飲もうとして、私を見つけると彼は足早に近づいてくる。


「ちょうどよかった。お兄さん、掃除の人でしょ? この辺に時計って落ちてなかった?」


私は黙って首を振る。

「まじかー。参ったなぁ、ナンバーワンになったのを記念して買った時計なんだわ」


聞けば、ホストのシャンス氏(源氏名、フランス語で幸運の意)はこの建物で時計を落としたという。


もし見つけたらお店に連絡しますよ、と私。

「頼むよ、お礼はするから」

彼は項垂れたまま、非常階段を下りていく。

どうせ、見つからないと思っていた。

この時は。


実物を見たのは、それから三日後だった。

その日は朝から雨が降っており、私は傘をさしたまま路上にホウキをかけて掃除していた時だ。


カァカァと聞き慣れた鳴き声に私は振り替える。


雨の日にカラスが鳴くなんて珍しいと思ったが


「あれ?」


そこには濡れそぼった一羽のカラスがいた。

私が驚いたのは、それが黒江君だったからではない。

彼の脇には派手な装飾の、見るからに高そうな腕時計が落ちていたからだ。

私がゆっくり近づいていくも、カラスは逃げない。


間違いなく黒江君だ。


彼は、早く拾え、と言わんばかりにくちばしで時計を咥え、また地面に落とす。

手が届く距離まで近づいた時、

「カァッ」


そういって、彼はトントンと数歩はねると、そのまま豊川稲荷の方へ飛び去ってしまった。


残された時計を手に取る。

見事な時計だった。

狸小路にあるドンキホーテ(私が高級時計を見るとすればここしかない)にあれば、軽く十万を越えるようなゴツくてキラキラしたアナログ時計だった。

なぜ彼がこんなものを置いていったのか。


ハムのお礼とすれば、あまりにも高すぎる。

黒江君の姿はもう見えなかった。


その日の午後。

「まじでぇ? うわぁ、めっちゃ嬉しい!」

館内を掃除していた私がシャンス氏を見つけ、時計を見せたところ、彼は歓喜の悲鳴をあげた。

端整な顔立ちを少年のように歪ませながら彼は言う。

「ねぇ、これさぁどこにあったの?」

まさかカラスが持ってきたという訳にもいかず、無難にお客様が届けてくれました、といった。


ほんと、助かったわと私の肩をポンポン叩き嬉しそうに話す。

お兄さん、ありがとなといって、彼はスーツの懐に手をやる。

なんだろう思ったら、ワニ革の黒い財布をだした。

「はい、お礼ね!」

流れるような手付きで財布の中から四万円を抜き取ると私に渡してきた。

「いえ、こう言ったものは」

「いいって。お礼だってば」


数秒の押し問答の末、私はしぶしぶ紙幣を受けとる。


シャンス氏の腕につけた時計は蛍光灯からの灯りで光沢を放っていた。

不思議なことに、時計には傷が目立たない。

贈り物を傷つけない様に黒江君が丁寧に扱ってくれたのだろうか?

まさかな。


数時間後。

私は仕事を終えてテクテクと帰路についていた。

夕刻を過ぎた駅前通をすすきの駅方向に向かって歩く。

すすきのラフィラ(当時)やビルニッカ大看板の周囲はいつもの様に大勢の人で溢れ帰っている。


そんな中、私は定期入れに入れた四枚の紙幣を考えた。

さすがにこのお金を飲食や遊興費にしようとは思えなかった。

さりとて、私の貯金にするのも気がひける。


酒も煙草もやらない私。

友達も少ないのでそういった出費はほとんどない。


「おっと」


ふいに、私の足へ子供がぶつかってきた。五~六歳くらいでアジア系の彼は、私にぶつかったことなど気づきもせず他の友達とはしゃいでいる。


「スイマセン」

片言の日本語で、申し訳なさそうに子供の父親と思われる男性が私に謝ってきた。

みると彼はもう一人子供を抱っこひもで抱き抱え、長旅の疲れからかずいぶん疲れた顔をしている。

私は苦笑いと片手をあげて、気にしないでのジェスチャーを送る。

それをみて相手も安心したように歩いていった。


彼の周りには三人の子供がおり、おそらく彼の娘や息子達だろう。隣には勝ち気そうな若い女性と祖父母と思われる年配の男女もいる。


普段ならありふれた光景であるが、自分と同じ年頃の彼をみて何故だか目が離せなかった。

それは自分の将来を考えたのもあるし、何より定期入れに入った紙幣のきっかけを作った黒江君を考えたからかもしれない。


私はエスカレーターですすきの駅に降りる。

地下へ行くと、あのたい焼きの甘い香りが漂ってきた。その香りを潜りながら先ほど頭に浮かんだ事を行うべく私はスマホを取り出す。

ネットで『札幌・カラス・保護』と検索した。

いくつか表示されたサイトをスクロールしながらいくと面白そうなサイトが見つかる。


札幌で何十年もカラスの保護活動を行っている団体がある。

そこへこの四万円は寄付させてもらおう。

私はATMの前に立つ。

すすきの駅にあるATMはいつも人が並んでおり使うまで数分かかることもあるが本日は幸運にも人はいない。

パネルを操作し、現金をいれる。

バババッと機械音がしてOK?の文字が出た。


私はそのままOKを押す。


さて、帰って夕食を食べよう。





読んでいただきありがとうございました。


次回はまた少し趣向を変えたお話を書こうと思います。


皆様、熱中症にはお気をつけください!

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