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冬の災難(下)

 元々、このビルにある配管は、個別の排水が通る“枝管”とそれらに繋がっている“本管”があるらしい。

 わかりにくければ、一本の木を想像してほしい。

 各階にあるホテルや飲食店の下水に繋がっているのが枝管で、無数にあるそれに繋がった一本の管が本管である。

 枝管が詰まれば、被害は限定的だが、本管が詰まれば状況はより深刻になる。

 「つまりの原因はなんですか?」

 私は一番知りたかった疑問を尋ねる。

 油です、と配管業者の方は言った。

 「このビルに入っている飲食店が洗い物をして下水に油が入ります。本来はグリストラップという器具があるんですが……」

 それが正常に機能するには定期的な清掃が必要となるらしい。しかし、それは店側の努力義務に左右されると話した。

 「この状態では、多分グリストラップの清掃はしていませんね」

 それで、本管に異物や油が流れ込む。

 そして冬の寒さで油が固くなり、どんどん配管を狭くしていった、と説明してくれた。

 さらに続ける。


 「こういうビルでは、グリストラップの他、本管にも洗浄をかけなくてはいけませんが、今はやっていないと思います。おそらく、ビルの管理者が変わったせいでしょう」

 

 私は口を一本線にして社長である冨田氏の方を見た。


 相変わらず、彼はバインダーを片手にどこかへ電話をしている。


 「主任、詰まりは取れたとのことです」

 「よし、確認するわ」

 

 そういって私に説明してくれた人はいってしまった。


 残された私は、ポツンとその場に立っている。

 

 後になって知ったが、ビル管理法という法律があり、一年に一回はこうした配管を洗浄しなければいけない決まりになっているらしい。

 しかしうちの社長にはそれをやっている様子はない。

 やるのなら、現場の私に何かしらの連絡があるはずなのだ。

 

 腹立たしいが何も言えない。

 

 この時の私は、ただのサラリーマンなのだ。現場の不備を指摘し、改善を求めたところでそれを実現してくれることは今までの経験上少ない。

 

 私はため息をつきながら、地上へと出た。

 気が付けば、朝。

 ススキノの景色は凍てついている。


 白い息を吐いた私の目前を初音ミクがプリントされた路面電車が走り抜けていった。

 いろんな意味でこの会社に入って仕事ができたのは、勉強になりました。

 まぁ、すべての会社やビルがそうだとは言いませんが、中にはこういう所もあります。

 

 同業者の方がいれば、回し蹴りをもらうかもしれません(大汗

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